――インタビュアーの遠藤諭です。

――大石和江です。

――本日は2024年6月4日です。ここから竹村譲さん、それから、武種敏正さんのオーラル・ヒストリーのインタビューをドワンゴ東銀座オフィスにて行います。

――DOS/Vというと、IBMだけの問題じゃなくて、日本のコンピュータマーケット全体の話になるわけですけど、そこで重要な役割を果たしたのが、OADGをつくったということなんですけど、このOADGがどういうふうにできたか。DOS/V全体の話は今いろいろ伺ったんですけど、どういうきっかけで、誰がどう言って、どういうロジックで、何年計画ぐらいで何を目指していたかとか。というのと、実際にOADGが動き出してからどんな活動をされたのかとか。各メーカー、それぞれがどんなやり取りをしたかみたいなのも聞きたいんですけど、最初はまずは、何をきっかけに、どんなふうにして成立したかぐらいから。

武種：それは、正直ベースのお話でやりますけども。まず、私がどうしてOADGに関わったかという話からしたほうがいいですね。

――そうですね。まず何をやられていたかですね。

武種：私は実は、そのOADGの事務局をつくるという仕事をやらされていたんです。実はその前は、大和の中でThinkPadのグループ、ハードウェア設計、実際に設計開発しているグループを束ねている取締役の補佐だったんですよね。補佐というのは比較的短い期間で終わりますので、終わって、ちょうど年末に終わりまして、これで来年、年が明けてからゆっくりできると思った。

――90年の年末ですかね。

竹村：そうです。で、あるソフトウェアのところにアサインされたんですけれども、そこへ行ったら、その部署の一番上の人から「今度、PC/ATをバーッと広げるような活動をするから、あなた、その事務局をつくって」と言われたんですよ。「え？何の話ですか、それ」という感じでした。正直言うと。それで、すったもんだやって、結局、3月にはなんと、設立総会を開いてしまったんですけど、その間はほんとに大変でした。
一番手続き的にややこしかったのが、法務的なところです。IBMという会社は非常に法務的なところを大事にする会社なもんですから、必ず弁護士さんが交渉に入ります。そことの交渉、やり取りが大きな仕事としてありましたし、それから、各社に対して提案書みたいなものを作って、それを送って、質問が来て、それを答える。しかも、書面で答えなければいけないんです。そういうのを全部、弁護士さんのレビューを経て返事を出すということをやりまして、国産の主なメーカーは全部。それから、いくつかのソフトウェアハウスとか、確か、アスキーの西さん（：西和彦）にも出した記憶があります。古川さん（：古川享）にも出した記憶があります。そういう感じで皆さんに出して、それぞれからたくさん質問が来るので、それに対して書面で答えるという形で皆さんにご案内していって、そして、最後に設立総会をやらなければいけないというので、設立総会の式次第から何から全部作りまして、弁護士さんと相談しながら。そして、第1回目のあれをやったというのが、まず、事務局としてのスターティングの状態でした。

――そのときに、声掛けするのはあれなんだけど、当然、DOSに絡むのでMicrosoftがありますし、そもそも、AT互換機を普及させるという言い方もかなりドキッとする言葉なんですけど、それは堀田さんがおっしゃったということなんですか？

武種：堀田さんもおっしゃったと思います。間違いなく。だけども、ここは一部、私の個人的な推測的な部分も入るかもしれませんけれども、私がどこかで聞いたんですけれども、当時、三井信雄さんという方、名前は多分、聞いたことがおありになるかもしれません。IBMの本社の副社長まで務めた人です。前職は、あの人は、NHKにいた方です。

――え、いい……。

竹村：三つの井戸。

武種：三井信雄さんという。

――ああ。

竹村：ご存じでしょう？

――名前は。はいはいはい。
武種：去年かおととしにお亡くなりになられましたよね。あの方が当時、NHKの番組のシステムでTOPICSというシステムの中心にいられた方で、IBMの開発だった人に見いだされて、アメリカのIBMに入った方です。その方は日本における全ての開発を完全に見ていて、製造もかなりの部分をおさえていました。これはあくまで間接的に聞いた話なんですけれども、この話を持ち出す前に、一度台湾へ行ったらしいんです。台湾には当時から互換機メーカー、要するにアセンブルするだけの互換機メーカーがあったんですね。そこへ行ったら、「どこのラベルにしますか？ IBMのラベルつけますか？」というオファーを受けたと聞きました。そのことに彼は非常にショックを受けて、世の中がここで変わるんじゃないかと思ったんじゃないでしょうか。そういう高いレベルのマネジメントの方が、それだけの影響を受けて、もう世界はそういうふうに動いているという認識をしっかり持っていらしたと思います。

――要するに、元々IBMのものだけれども、互換機がもうあふれていて、オーダーを受けて作るような会社が、エイサーみたいなのもあったかもしれないけども、台湾にはそういうOEMメーカーがいっぱい育っていたと。それを当然、IBMも本社で知っていたと。

武種：そうです。

――それはそうですよね。

武種：それに対して、当然、危機意識も持ったと思うんです。日本における開発組織だってあるわけですし。その前に、JXというPCjrの日本語版みたいなのがあったんですが、いまひとつうまくいかない。日本のPCマーケットはNECさんのPC-98で完全にがっちり固まっていると。これをブレークしなければいけないし、先ほど言いましたように、三井さんは基本的に世界の立場から見ている人で、これからの大きなコンピューティングシステムの流れを見たときに、世界での中心にあるアーキテクチャーをベースに全てが構築されなければいけないと考えたわけです。そこには一度失敗したJX、個人向けのパソコンに対するリターンマッチという思いもあって、何を中心に据えるかというと、これはAT互換、つまりATをベースにしたシステムを結ぶしかないということで決めたと思うんです。それを日本で「これが今の世界の趨勢です」とIBMだけが言って、果たしてそれが通るだろうか、NECの天下を覆せるのかという疑問もあったと思います。そのためには、日本で苦労されてきたNECさん、富士通さん、日立さんをはじめとする方々と力を合わせて、日本に新しい世界標準のアーキテクチャーの種を植え付けたいと思ったというのが正直なところだと思います。それが一番上のレベルのアイデアでした。
もちろん、末端のセールスの人からすれば、今月や今年のクォーターの話など細かい問題はあるわけです。でも、それを乗り越えてやらなければいけないという意思を固めたのは、おそらく三井さんであり、丸山さんもそうだったと思いますし、営業の立場では堀田さんもそうだったと思います。その辺で意思統一ができたと思うんです。いろんな軋轢はあったはずですが、やらなければダメだということで覚悟を決めたんだと思います。

――それが5535-Sという、ある意味中途半端とも言える日本語化マシンが出てから、OADGの発表までの間にそういう判断をされたと。

武種：したと思いますね。

竹村：それはそうですね。

――歴史的な、そういう会議が多分、IBMの社内であって。

武種：その辺は、三井さんというのはほんとにカリスマ的な人なんです。三井さんが一言言えば何でも動いちゃう。開発のほうは。そのぐらい強いカリスマ性と指導力のある人でした。先見の明もあったと思います。それと、竹村さんみたいな非常にフットワークのいい人が出てきて、そのアイデアが……。

竹村：マーケティングは、三井さんに該当する、佐伯さん（：佐伯達之。後にナスダック・ジャパン社長）っていたんですよ。副社長で。で、必ず両方でバチバチするわけですね。

武種：やってるんですよ。

竹村：グローバルに生き残ることを考えないといけない大和開発系と、マーケティングは基本的には海外には売れないので国内市場をどこかからとるしかない。それとのバランスになるわけです。でも、そのときに、5535という、中途半端に見えるけれども、マーケット側が欲しがっている3270を完全にメーカー、IBMとして保証できるマシンで、それはJ-3100とか98をエミュレーションする機械よりもはるかに信頼性があるわけです。責任をとるという意味において。

――マイクロチャネルと同じですよね。IBMのほかのコンピュータとの関係性が。

竹村：そうなんです。それは、ユーザーはみんなわかるわけです。そいつで解像度が低いけれど、今はデスクトップででっかいものをオフィスに置いて移動できないよりも、モビリティーのあるノートパソコン、ラップトップパソコンを置いて、あちこちで仕事ができるという便利さとどうよというところで、そいつをやっぱり選択せざるを得なかったのはマーケティングなんです。ただし、さっき遠藤さんに言ったみたいに、そいつを絶対反対する人もいるわけです。トータルレベニューとして、そいつが売れることによって従来売れた高い機種が売れない可能性はある。3270だけでいいという人もいっぱいいるわけですから。それを高解像度で使う必要性は特にないんです。

――そのノイズを吸収して、まとまった動きがそこで出てきたという。

武種：そうですね。

竹村：そうですね。それで発表しちゃおうと。で、確か11月1日か何かに決まって、やって。だから、さっき言ったみたいに、それ、玉音盤をもって逃げるパターンの。発表し終えないと、もう危ない。ほんとに、最後、僕たちのマーケティングの感覚では、つぶれるかもという感じだったんです。それがつぶれてたら、その後も全部なかったですよ。あれはもう、発表しちゃったという過去の記録が大事なのであって。当時、DOS/Vとか言ってなかったし、互換機で動くとも言ってないわけです。だから、台湾から買ってきた機械にフロッピーだけ入れる、ハードディスクだけ入れたら、ブートして漢字が出ちゃうということは、誰もまだ知らないわけです。でも、IBMは自社の互換機でそれをやってた。そこは一番大事で、それが公に事前にばれちゃうとまずい。多分、OADGは全くそれと、OADGの発表をする……。

――ある意味、逆ですよね。

竹村：ん？

――知れたらまずいが、いきなり、もうそれでおしていこうになるわけだから。

竹村：そうそう。だから、それは、その日から大勢変わるわけですよ。

――11月1日と今おっしゃったのは、そういうことが決まったということなんですか？

竹村：そうです。発表しちゃった日ですね。

――あ、発表したのは……。

武種：それは、DOS/Vの発表でしょ？違った？

竹村：5535……。

――5535、10月でしょ。

竹村：10月かな。同日発表した。というか、そいつがないと動かないですもん。5535というのはDOS/Vの4.07/Vがなかったら動かないので。

――なるほど。それより後に、そういういろんなぐにゃぐにゃがあったんだけど、先ほどの本社も含めたそういう方々が合意するあるタイミングがあったわけなんだ。

竹村：そうですね。だから、日本IBMとして見たら、それがDOS/Vかどうかは別にして、何か新しい機械が出てきて、OSが違う。そういうものが発表されるということを知っている人も少なかったし、発表されたらどんなことが起こるかというのを予想できた人もそんなにいなかったんです。ごく少数の中で行われたんですよ。でも、発表しちゃったという事実はすごく大事で、それをとにかくキープしないと、次につながらないんですね。当然、ThinkPadだって、当面はしばらくは出てこない可能性あると。それがもしこけちゃうと。全部そのDOSを前提にしているので。

武種：結局、OADGというやり方ですよね。ほかの人を集めてという。それは、多分、いわゆるオープン型の開発というんですか、そのやり方というものに対しての、世界がそっちに流れているなという思いもあったのかもしれませんね。

――やっぱりUNIX（：コンピュータOSの系統の一種）が。IBMもUNIXに相当、AIX（：IBM製のUNIX OS）に傾倒していくじゃないですか。時代的にもそういうタイミングだった。

武種：それがあったと思いますね。

竹村：それと後は、武種さんも言っている、PC/ATが元々オープンアーキテクチャーなんですね。ボードはIBMが指定したけども、その上に載っかるボードというのは、みんな好きなもの作っていいですよと。実際に。マザーボードはIBMが作るけど。そいつを、PS/2のときにマイクロチャネルで、広報として失敗したんですよ。要するに、マイクロチャネルは、どうもIBMからライセンスを取られそうだという理解をサードパーティーは全員したんですよ。僕たちはそんなの1回も言ったことないんですよ。要するに、マザーボードのそっくりさんは作っちゃダメですよと。ただし、上に載っかるカード類は好きなものを、ユニークなものを作ってどんどん売ってください。IBMだって、売るのに逆に協力しますと言って、ATのころとなんら変わらないのに。ただ、ATのころはマザーボードの互換機がいっぱい出てきちゃったと。

――でも、やりたいのはそっちなわけだから。メーカー的には。

竹村：そうです。

――マイクロチャネルに関して、IBMはちょっと偉いポジションから見ているという、特殊な話ですね。

竹村：遠藤さん、今、僕はマイクロチャネルとATのバスの話をしたいんじゃなくて、ハードウェアのオープンというところが、今度はDOS/Vになったら、ソフトウェアになりますよというのが僕たちのコメントだったんです。要は、FM用を作らなくても、DOS/V用を作れば全部の機械が動くんです。昔はハードが足かせになってたけど、今度は、ソフトは誰でも作ったら、そのまま使えます。あるいは、アメリカのゲームを輸入してきて、画面に出てくるテロップは英語から日本語に置き換えたら、そのままシミュレーションとかができて動くわけです。

――なるほど、理解しました。

――それで、ある意味180度というと変ですが、社内がそういう開発の部隊とマーケティング部門で見ている方向が違うという、いびつなものがあったんですが、OADGというものがそういったものを超えて、むしろ外側に向いていった。時代的にはオープンというものがあって、そもそもATがそうだと言われれば確かにそうなんですが、時代の変化も相当あったと思うんです。そのオープンという言葉を掲げることで、みんな来るんじゃないかというのもきっとあったと思います。それで、その3月までに、MSはどうだったんですか？メーカーは、先ほど竹村さんがおっしゃるように、三洋とかみんないいマシンを作っていた、ソニーなんかも結構いいマシンを作っていたわけですよね。メーカーはわかりやすい。Microsoftと組んで立ち上げるわけじゃないですか。Microsoftはどうなんですか？

武種：　Microsoftについては、あのとき、私はあまり記憶にないんです。

――変なんですよ、そのころのMicrosoftは。

武種：ただし、大和のソフトウェア開発グループとMicrosoftの間には、当然、一種のソースコードの交換関係があるんです。初めから。

――初めからあるんですか。

武種：元々そういうものです。PC DOS（：マイクロソフトが開発した、IBM PC用のOS）は。

――そうじゃなきゃ作れないからね。

武種：そうです。元々、PC DOSというのはそういうものなんです。だから、大和が作ったものは、向こうに渡るんです。

――なるほど。

武種：実は、OADGはどんどんやっていきましたが、初め、何に一番困ったかというと、いわゆるDOS/V、MS DOS/Vが出てこなかったことが一番困ったんです。申し上げますが、Microsoftさんがどうこうということを言いたいんじゃなくて、とにかく、いろいろ事情があったんだとは思うんですが、DOS/Vが出なくて、しょうがなく、PC DOS、いわゆるIBMロゴの入ったPC DOSをマイタックさんに卸したのを覚えています。

――要するに、DOS/Vの漢字を表示するドライバーは、当然、大和で作ったからあるけれども、本来はそれをセットにして、日本マイクロソフトから提供すべきパッケージがあるべきなんだけど、出てこなかった。

武種：出てこなかった。しばらく。それは非常に困りました。

――AX（：日本マイクロソフトとアスキーによるPC/AT互換日本語パソコン規格）という全く競合するものを当時やっていましたからね。

武種：そうでした。だから、そこがあったと。Microsoftさんも、そこを非常に悩まれたんだとは思います。正直言って。だから、やむを得ない面があったんでしょう。

竹村：相手がIBMで嫌だったんじゃないですか？

武種：いや、あのころはまだ、そんなバチバチにおかしい関係じゃなかったでしょ。

竹村：あ、本当？

武種：うん。と思います。

――本来はMicrosoftがやる仕事なんですよね。DOS/Vって。実は。

竹村：そうです。本来はそう。

――だから、AXの/Sが実はそれなんだけど、わずか数カ月遅れるんです。もう本当に戦国時代みたいな話で。でも、その3カ月、数カ月の間にOADGができて、ほぼ全てのメーカーがそっちに行っちゃっているからという。

竹村：今、AXの話をされてました？

――AXは、ハードの規格なので。

竹村：そうですね。内側の世界ですよね。

――/Sが遅れた理由は、多分、ハードを売りたいからという、大変いやらしい構造があったと思います。ある種、待ったんだと思うんです。その間にOADGが出てきたということだと思うんです。

竹村：僕もAXはOADG出る前から、ずっと三洋さんと三菱さんと回っていましたが、とにかく、AX DOSをやめてくれとずっと言っていました。IBMも出すからと。ずっと。別に脅かしではなくて。やめてくれと言って。彼らは考えていましたよ。真剣に。

――そうでしょうね。当時のMSがまさにアスキーから分かれてMSになって、空白期というとちょっと大げさですが、そこがちょっとわかりません。AXは、先ほど言いましたが、元々アスキーでやっていたOAXなので、ほとんどネットを検索しても出てこないんですが、Microsoft的には、団体はあるみたいな、ちょっと中途半端な状態だったのかもしれません。責任持つ人がいなかったんじゃないかという気がちょっとします。

竹村：意外とそれは、正しいよ。僕は基本、Microsoftは、僕がMicrosoftだったら、どうせWindowsになったらそうなるんだから、いいんじゃないのという感じはないですかね。

――そう。

竹村：DOS/Vって、あっても……。

武種：でもね、これが日本国内のそれこそ人間関係とかもあったような気がしますよ。

竹村：まあ、それもあるかな。

――人間関係。

武種：本当に。

竹村：でもね、Windowsが出てきて、■（01:50:05）があって、世界中のパソコンは同じカントリー、各国の言語を出せるようになるのはもう見えていたわけです。

――見えてたけど、日本はそれこそノートパソコンで……。

武種：そこまでいってないって。

竹村：ああ、そう。

武種：うん。

――Windowsの普及は結構、海外とずれてくるので、みんなが見ていたのはノートですから、そうはならないですよね。ただ、先ほどの堀田さんのインタビューは、Windowsという言葉は出てくるんです。どうせWindowsに行くからみたいなこと。

竹村：Windowsは、DOS/Vにとっては追い風だったのは、当然、高解像度でついていくと。

――ワールドワイドで見れば3.0でだいぶムードが変わって。

竹村：そうですね。3.1（Windows 3.1。1992～93年）で大きく変わって。

武種：しかし、ハードウェア的に、もう一つ、多分、日本のメーカーさん、どこもそうだろうし、考えたのは、PC/AT互換機を作るとして、完全に互換機を作るときにBIOSが必要だという点です。BIOSの問題というのは、ある意味で、著作権がらみの問題まで出てきかねない問題ですから、非常に神経質になったはずなんです。

――実際、捕まった会社もある。

武種：OADGでは、だから、それについて、IBMのほうからなんとかということはもちろんできないわけですけれども、BIOSのメーカーであるフェニックス（：米Phoenix Technologies社）に入ってもらいました。

竹村：OADGにね。
――フェニックスは入っているわけね。

武種：フェニックスに入ってもらいました。別にほかにも、フェニックス以外に、アメリカンメガトレンドとか何でもいいわけです。

――何社も。AMIであろうが何であろうが。

武種：来たら全員引き受けるようにしました。私も、フェニックスの社長さんか専務さんという方とお会いして、「ぜひOADGに入ってください。宣伝していただいて構いません」という形でお願いしました。

――いろいろ条件が……。確かに、自前BIOSで痛い目に遭った会社もあったり、BIOSメーカーが出てきて、その辺の環境も変わってきたタイミングなんですかね。それと、ハードは、Windowsはみんな注目しているけれども、まだDOSが微妙な切替期ですね。

武種：そうですね。結局、ちょうど、例えばメモリ一つとってみても、1979年に確か初めて64KビットのDRAMが製品化されて載った時期です。それも汎用機です。やっと256KビットのDRAMがかなりアベイラブルになったぐらいでした。

――出てくるたびにニュースになってたけど、ほぼ忘れちゃったんだけど。

武種：ええ。そんなものですね。私も覚えてなくて調べたんですけど、PC/AT、286で16ビットバスになったのは1984年なんですよね。

――そうですね。

武種：87年にPS/2でVGAでATバスモデルとマイクロチャネルバスモデルが出ました。その後に、普及版ということで、PS/1、VGA、ATバスというのがアメリカで出ているんです。そういう大きな流れの中で動いていて、一つは、半導体技術が急速に上がってきましたね。この間、286から386に行って、386から486、ものすごいスピードだったというのを記憶されていると思うんです。それから、Pentiumに行くまで、あっという間でしたね。94年ぐらいにはもうPentiumまでピューッと。

――自動設計がすごい進んだんですよね。

武種：すごい勢いです。しかも……。

――コンピュータでコンピュータを作るみたいな時代になってきた。

武種：本当にすごい時代になってきて。それで、スピードが倍倍倍倍倍倍と、バーッと上がってきましたね。それから、メモリもそれこそ倍倍倍倍。

竹村：懐かしい。マーフィーの法則（：「失敗する可能性のあるものは失敗する」というジョーク法則）ですよね。最近聞かないですね。

――違いますよ。ムーアの法則（：インテル創業者のゴードン・ムーアが提唱した、集積回路上のトランジスタ数は2年ごとに倍になるという経験則）ですよ。

竹村：マーフィーは遠藤さんですよ。やけに影響を受けてるの。遠藤さんに。ムーアのほうか。

武種：あれ、アスキーさん、出されましたよね。

――あれ、僕の企画なんですよ。

武種：あれ、面白かったです。私、買いました。覚えてます。

――それはいいんですけど。

武種：ちょっとそれは置いておきましょうね。

――後、RISC（：reduced instruction set computer。命令セットの複雑さを減らすべきという、プロセッサの設計思想）とかね。IBMはRISCやるんじゃないかみたいなうわさもありましたよね。

武種：実際、やりましたよね。RISCもね。

――RT PC、ありましたけど。

武種：6000という。RS/6000というシステムがありました。

――ああ、その後の、PowerPCのね。

武種：ええ。あれはRISCですから。

――そういう意味じゃ、今よりも小刻みに動いてるんだよね。ある意味。

武種：だけど、半導体に関して言うと、素晴らしく、ものすごい勢いで伸びましたね。あれがなかったら、はっきり言って、Windowsなんか絶対普及できなかったですよ。あれ、メモリ、最低でも１Mは絶対積んでないと動かなかったですね。3.1は。私の記憶では。

竹村：そうですね。遅いですよね。

武種：普通にいって、２Mは欲しかったという時代だったと思います。だから、半導体の急速な進歩というのにだいぶ助けられたんです。先ほどから出ている、要するに、グラフィックスで漢字を出そうというのが、あれじゃないですか。グラフィックスの時代になってきた。そこも大きなポイントでした。いずれにしても半導体技術、これが大きなポイントだったというのは、私、感じますね。それから、もう一つ、これ、多分、世界的な潮流だと思うんですけど、台湾の先ほど、OEMの話をしましたけど、それだけじゃなくて、多分、ほかでも同じようなことが起こってたという記憶があるんです。要するに、技術がどんどん拡散を始めたんだと思うんです。マイクロプロセッサーができてから。それがあって、安く作るという基盤が広がってきたと。で、先進国のほうは、その基盤を利用しよう。それが中国であれ、何であれ。という下地ができつつあった時代かなと。その辺もいろいろ、日本のメーカーとか自分のところのある限られたマーケットのためにだけ、結構高い開発コストをかけて作るというのは、もう、だんだん採算合わなくなるかなという思いが、きっとあったんじゃないかと思いますね。その辺もまた逆に、日本の国産メーカーの各社さんも自分の中で計算されて、見られて、決断されたんだろうという気はします。そういう大きな流れがあったと思いますね。

竹村：最終的に、OADGというのは何社ぐらいいたんでしたっけ？

――最初に手を挙げたの、どこなんですか？

武種：いや、もう、ほとんど同時に挙がってきましたよ。

――声掛けたら、みんな、ほいほい入ってきた。

武種：まず、様子うかがいです。

――有料ですよね。だって。

武種：違いますよ。

――無料なんだっけ。

武種：ごめんなさい。ある程度、会の活動を維持するために、ほとんど名目的な額だったと思いますけども、その程度はいただきました。実際、最終的にOADGの事務局周りの人数って、IBMから出した人間、10人以上いましたから。

――ああ、そうですか。

武種：10人ぐらいいたはずです。だから、そのぐらいいて、オフィススペースから何から全部用意したんです。はっきり言って……。

――持ち出しだった。

武種：完全に持ち出しです。そういう意味では。

竹村：広告もすごかったですよね。

武種：広告もやりました。

竹村：パソコン雑誌の裏表紙、表４、全部そうですからね。

武種：それから、もう一つやったのが、いろいろ分科会をつくるんです。ハードウェア分科会とか、それから、スタンダードの分科会とか、それから、そのマニュアル作る分科会とか、アプリケーションプログラムの分科会とか。それぞれのヘッドの方は、IBM以外の方に全員ついていただきました。会長も、IBM以外です。

――どなたでしたっけ？

武種：初代会長は三菱電機の小林凱さんです。確か、三菱エレベーター（：三菱電機ビルテクノサービス？）の、後に、社長さんだったかな、なられた方です。取締役だった小林凱さんにお願いいたしました。だから、IBMはそこでは、大和のほかの企画部門の人たちも含めて、全部、徹底的に、要するに、黒子に徹せよと。

――そのタイミングって、今、台湾の話がありましたが、日本メーカーというのは自前でPC作っていたんですか。DOS/Vの歴史を考えると、FMV（：富士通が販売するPC）がぐりぐりっと途中から出てきます。FMVは後から出てきたと思うんですけど、ばんばん売れて、NECにダメージを与えた。FMVは台湾製のマザーボードを使っていたと思うんです。それを知った上でやって成功したと思うんですよね。初期OADGができた段階では、各社、自分でみんな作っていたんですかね。細かいコンポーネントは買ってきていたとして。

武種：その辺は内情のことはよくわからないですけど。

――そのほんのちょっと前は、自前でBIOS作って訴えられる会社があったぐらいだから、自前でやっていたと思うんですけれども、FMVが出るころ、93、94年ごろには、台湾製マザーボードが成功の鍵になるような、その間に変わったという感じなんですかね。

武種：だと思いますね。

竹村：遠藤さんの言っているのは正しくて、FMVが一番の転換期なんですよ。僕たちは敵はNECという理解しかないのです。90％のシェアを持っていると。彼らに一番影響を与えられるのはIBMじゃなくて富士通なんです。

――そのチャネルというか、NECとは違うけれども、やはり客を持っている。

竹村　そうですね。ただし、丸山さんと話したことがありますが、富士通はなかなかのってこないというのが丸山さんの意見だったんです。やはりいろいろ話していると、FM TOWNS（：富士通によるCD-ROM搭載パソコン）が重しになっていると。自分たちはあれをすっきりさせない限り、DOS/Vにはいけないというのが大半の見方だったんです。多分、当たっていたと思います。なんとかFM TOWNSを、富士通がやめたんじゃなくて、うまくフェーズアウトしていくというイメージにしないといけないねというのは何度も話したんです。それは彼らがDOS/Vにすんなり入ってくるには障害になっているんです。明らかに。僕たちは最終的には富士通さんと話していますよね。エンジニア同士で。TOWNSカードをやったんですもんね。

武種：でしょうね。きっと。

――TOWNS。でも、マーケット的にはFMRなんじゃないですか？FMVの。

竹村：でも、上は全部一緒ですよね。

――いや、TOWNSはやはりホームPCなので、学校と文教系とホームしか狙っていないので、ここで僕と竹村さんの対談になってしまうと違ってくるのでやめますが、創業家の方が絡んでいたりとか、FM TOWNSは、いろいろありますね。

竹村：でも、結果的にはあれが解決してから、FMVが出てくるんです。
――まあ、そう。それはあるかもしれない。理由かどうかは議論の余地があるとしても、タイミング的に。

武種：一言、言えることは、富士通さんは非常に慎重に検討を重ねていました。私は何度メールのやり取りをしたかわかりません。それぐらいやり取りしました。長いこと。

――とはいえ、シェア第2位でしたからね。NECに次いでね。

武種：ええ。それがあって、決められて、その後は一気呵成に、本当によく協力していただきましたよ。さっと。ご存じの通り、富士通とIBMは長年のライバル関係だったわけですが、そんなことをみじんも感じさせないほど協力してくれましたよ。スカッと。

――なるほど、なるほど。

武種：私も何度も川崎のほうにお邪魔したりして説明もしましたし、富士通さんのいろんな質問等をいただき、それに対してきちんと答えを返したりやりましたけれども。本当にそこは、気持ちいいぐらい、スカッとやりましたよ。富士通さんは。

――ソニーとか、ほかのメーカーはどんな感じだったんですかね。

武種：ソニーさんは、あまり記憶にないぐらい、ご自分のほうでさっさと歩かれている感じでしたね。

竹村：ソニーさん、デスクトップを出したときに、何か話はしなかったんですか？COMDEX（：1979～2003年にラスベガスで行われていたコンピュータの展示会）に出てきましたよね。突然、COMDEXにソニーは、映像処理のデスクトップが突然出てきましたね。

武種：それは僕がやっているときでした。

――VAIOの最初の。

竹村：VAIOのデスクトップ（：1997年　バイオマイクロタワーPCV-T700MR）。

――後、701、501ですね。

竹村：はいはいはい。最初、デスクトップだったじゃないですか。でっかいタワーの。
――COMDEXが好きなんだよね。ソニーは。

武種：だから、多分、感じたのは、ソニーさんというのはもうご自分で動かれるだけのあれは持っていたと思いますね。だから、OADGなくても、さっさと動いたかもしれません。

竹村：彼らは互換機は作ってなかったですよね。

――いやいやいや。全然やっていましたよ。

竹村：やっていました？

――海外やっていたし、その前にQuarterLというね。

竹村：ああ、QuarterL、ありましたね。
――うん。海外は結構やっていますね。SMCという名前で、SMCほにゃららというIBM PC互換機を結構売っているんですよ。

竹村：だからか。

――で、今のちょっと話もありますけど、映像系とかそういうのをやりたいので、VAIOも途中でメモリスティックを売りたいとか、いろんなものが絡んできて、視点がちょっと違うところがあるんですよね。パソコンそのものじゃなくて。そうですか。後、OADGは、富士通が一番印象強いし、ソニーの印象も強いんだけど、そんな感じで。ほかはどんな感じなんですかね。それこそ、三菱なんかも坂本龍一を使って、結構、金を使って。

武種：ええ。やってくれましたし、特に大きな引っ掛かりはないというか、むしろ情勢を見ていたという感じかもしれないですね。

竹村：武種さんから聞いたときは、三洋、三菱、日立はわりとスススッと入ったけども、東芝さんが厄介だという話は聞きましたけど。

――日立はあれなんじゃないですか？AXを一生懸命やっていたから。

竹村：そうそうそう。でも早かったですよ。

武種：わりと早く変わりましたよ。

竹村：日立は早かった。

――そうですか。

竹村：東芝さんって、どうだったんですか？

――東芝、気になりますよね。

竹村：最後だったような気がするんですよ。OADGで、DOS/Vをやり出したのは。

――東芝は、世界で一番ノートを売っていたわけです。90年代はね。国内は、人気は一時期結構ノートはあるんだけど、実際はそんなにシェアいかないんだけど、コアユーザーを押さえていたみたいな会社ですよね。とはいえ、自社でAT互換機を先に出しているわけだから。

武種：東芝は、特に引っ掛かった記憶はないんですよ。

――というか、どこで切り替わったかすら覚えてないんだけど。

武種：みんな、どこかで思ってたんですよ。切り替えようとね。今にしたらそうとしか思えない。

竹村：マーケティング側は、イベントとかで見ると、東芝が最後までDOS/Vじゃなかったという印象はすごい強いんですよ。OADGには入ってるけど。

武種：東芝の人とよく話したけど、そんな引っ掛かったような感じはしなかったんですよね。

竹村：遠藤さんと全く一緒。いつDOS/Vになったのかわからない。

――92、93年はまだJ-3100、結構がんがんやってるんじゃないかと思いますよね。

竹村：そう。そうです。

武種：結局、Windows3.1のときかもしれないね。大きな切り替えになったのは。最終的に、もう最後のダメ押しになったのが。だから、DOSから一生懸命やってくれたのは、そういう意味じゃ、日立……。

――決定打は95でしょ。やっぱりでも。

武種：ええ。最後の決定打は。

――パソコン市場がそもそもガッと伸びるから。

竹村：NECさんがDOS/Vのを出したの、いつごろでしたっけ？

武種　あれ、何年ごろ？LAVIEになっていつ？

――PC98-NX（：1997年発売）ですね。
竹村：エプソンが先でしたもんね。

――エプソンは、もう互換機しんどいな、というか、Windowsを提供するのがしんどいなというのがあった。これ、実際、そうおっしゃったと思うんだけど、シアトルにNECはWindowsを作るために何百人も送り込んで作ってたんですよね。

竹村：そうですね。

――それがもう負担で、NECはいいんだけど、エプソンはもうついていけないという感じだったよね。

竹村　そうです。

――エプソンが先に動いていて、ある意味、一時期、成功もしているわけですよね。DOS/Vでもまあまあ売った時期がありますよね。それで、NECが変わったのは、PC98-NX、97年の９月。もう、そんな後なんだ。逆に言うと、そこまで引っ張れたのは、多分、95で売れたから。だから、シェアはどんどん落ちていくんだけど、市場は伸びてるから平気だったんだね。97年にさすがにもう耐えられないという感じがする。

竹村：そうですね。

――この間もちょっと事前の内側の打ち合わせでいろんな資料見ながら、メディアとか、それこそさっきの論文とか見てもあんまり出てこないんだけど、NECはすごい危機感を持っていたんですよ。

武種：だと思いますね。

――僕、実際、相談に来て、話をしているぐらいですからね。後、Macが売れた時期もすごい気にしてたんですよね。90年代前半、Macも売れるので。93、94年ぐらいね。危機感をすごい持っていて、でも、市場が伸びてるから売り続けていて、でも、さすがに限界で、97年で、逆に、自分たち、まだ売る力があるからいけると思ったのかもしれない。でも、やっぱり富士通が来たのがすごくNEC的にはあるかもしれないですね。

武種：そっちのほうが効いたでしょうね。

――市場が一緒だから。
武種：ええ。

――やっぱり、高倉健が偉いと僕は思いましたよ。実は、先ほど、森進一の話もありましたけど、僕的な見方としては、パソコンの宣伝が一番うまいのは富士通なんですよね。時代とともに、ほんとにがんがん変えて。

竹村：富士通は、大昔、タモリでしたっけ。

――その時代はちょっとわかんないんだけど、80年代後半以降というんですかね、TOWNSとかも含めてなんだけど、特にFMVに関しては、微妙な市場の変化に合わせてどんどん広告を変えていって。雑誌に広告くれないの。富士通はあんまりね。うちはもらってたけど。他誌はほとんどもらってなかったと思うんですけどね。

竹村：でも、今、見てると、92年に記事は出てますね。「98死すとも黙示録の騎士は死なず」とか。「キュウ（？）PCを生き延びる道を教えよ」とか、タイトルが。全部、本が。『さらば愛しの98』（：『さらば愛しのPC-98』大陸書房）とかが出てるのが92年ぐらい。

――DOS/Vユーザーとかは、もうそういう意識ですよ。

武種：各社が、いつそっちに完全に転換できたかというのは、まあ、いろいろ内部であったんでしょうね。

――エンドユーザーでとんがったやつが言ってるということは、メーカーも当然、頭はなってるんですよね。ビジネスとしていけるかどうかという判断ですよね。

武種：そこの判断があったんだと思う。だから、確か、アプリケーションのほうの分科会の……。ごめんなさい。普及か。アプリケーションカタログを作ろうという話があったんですよ。覚えてます？

竹村：ありましたね。

武種：カタログ分科会の座長さんは日立さんですよ。当時。記者会見開いてくれて、こうやって見せて、これだけありますと、98とほとんど遜色ありませんというのを広く言ってくれたのを覚えてますよ。
――それ、何年ぐらいですか？

武種：あれは多分、92、93年だと思います。そのぐらいの早い時期からそうやってました。

――それは、Windows対応を入れたからね。

武種：いや、違った。

――DOSだけでそんなになったんですか？

武種：あのときはDOSだったと思います。

――ほんとですか？

武種：いや、どのぐらいかき集めたかは別ですけれども、Windowsがそんなにまだない時期だったと思う。せいぜい、OADGがスタートして２、３年ぐらいですから、93年ぐらいまでですよ。だから、ほとんどまだDOSだったはずです。

――それは、先ほどのマイクロプロセッサーの話と同じで、開発環境も変わったんですね。

竹村：そうです、そうです。

――実は、Cのブームが来て、それで、そういうフレームワークまでまだいかないんだけれども、容易に移植できるようになったんですよね。

武種：そうですね。昔に比べれば、ずっと楽になりましたよね。

――そうなんですね。

武種：あのときは、とにかく、集中開発が大きい。

竹村：グラフィックボードがすごい向こうは進化して。そういう周辺をやっていたいろんな周辺機器メーカーが、どんどん、テストベッドが98からIBMのDOS/Vに替わってたんですよね。AT互換機に。IBMの機械とかかわらず。カノープスとかが典型ですよね。僕、初めてカノープス行ったときは、98しかなかった。何百台98あって。ボードの会社なので、裏向いてたんですね。ボードがいつでも出せるように。その３年後ぐらいにかくちゃんと行ったら、もう過半数が変わってたんですね。

――その時代の３年はでかいですよ。

竹村：ええ。だからやっぱりビデオボードが。僕は、さっき、遠藤さんにも言っていた、僕の上司が、変な人がいると言っていた、彼と一緒に、丸山さんに言われて、シリコンバレーに行って、とにかくビデオボードを見つけるまで帰ってくるなと言われて、２人でシリコンバレーのベイエリア、何周回ったか。で、見つけたのがダイアモンドだったんですよ。ダイアモンドコンピューター。

――S3（エスキューブド）。

竹村：そうです。あれをベンダーロゴをハードウェアにしましたよね。IBMの機械に積んで、その状態で出荷しましたから。だから、それがやっぱりグラフィック的にはめっちゃ速かった。

――あのタイミングは結構でかいですね。
竹村：それからずっとエヌビディアとかいまだにつながってきているんです。みんな。GPUになって変わってきている。よく似ていますよね、今の環境もある程度。

武種：そういう意味では、変な話ですが、ずっと話を戻すと、やっぱりドン・エストリッジのやったことは素晴らしいことですよね。

竹村：素晴らしいです。当時ね。

武種：本当に素晴らしいことだ。

竹村：苦肉の策だったと思いますが、全部、外注で任せてしまったというね。

――『ビッグブルース』（：ポール キャロル・著、近藤純夫・翻訳、1995）という本を読むとめちゃくちゃであることがわかりますよね。

竹村：わかりますね。

――こんなに投げやりな作り方でいいのか。

竹村：（笑）

武種：でも大変だったと思いますよ。社内の軋轢が。

竹村：それはそうですよね。

武種：ものすごかったと思います。

――アタリに依頼に行って、断られるんですよね。

竹村：でも、日本はJXがこけてなかったら、うまくいってないんですよ。あれは、かえってよかった。

武種：そうだね。JXがこけたからDOS/V作れた。間違いなく。

竹村：そうそう、そうそう。本当にそうです。社内ではそうですね。

――あのとき、なぜ選択が、ATじゃなくてジュニアなんですか？

竹村：それは私も聞きたいです。大和がなぜ選んだのか。私は出来上がったものしか見ていないから。ぐったりの極地でしたね。

――あれだけみんなが憧れたATになぜ行かないで。

竹村：値段をつけられなかったんです。きっと。遠藤さん。98に対抗するためにね。IBMはまず、フォーキャストを間違ったと思うんですよ。IBMのJXは、8801（：NEC PC-8800）にぶつけているんです。はっきりそれは社内の資料にあるんです。

――8088だからね。

竹村：そう。私はそれを見たんです。8801の……。

――88は、85年ぐらいで終わっているんですよ。市場的には。

竹村：そうそう。おまけに、値段帯は一段違うんです。JXは98より高いんです。なのに、98の対抗馬じゃなくて、88なんです。それは絶対おかしいでしょうというのが、外部から見た私たちの疑問なんです。何度も聞きましたよ。遠藤さんは知っているかわかりません。私はそのときに、JXはなぜ売れないかというのをパワーポイントで20ページぐらい作ったんです。Macintoshで作ったのね。マックペイントで。それで、大和に来いと言われて、オオタさん、エサキさんかな、誰かに。大和にもプレゼンに行きましたよ。PCをやっている部門もJXをやっている部門も別にありましたよね。IBMJなんとか販売、日本IBM販売かな。そこにも行って説明しましたが、マニアから見てというか、マニアというとすぐIBMの人は目をむくんだけど、マニアに売っているんじゃないとか言うんだけど、普通に見て、あのスピードは普通は買わないですよ。絶対に買わない。それを散々言ったんだけどわからなくて、ただ、大和の若いエンジニアとかSPBUの人とか、みんなは、「いや、もう、竹村さん、おっしゃる通りです」と、「私たちも買いませんでした」と、はっきりそう言っていた。やはり、ミスフォーキャストなんですよ。一番、初っぱなに。

――誰が、どう判断したんですか？それ。

竹村：それはメインフレームをやっていて、パソコンを知らなくて、ダム端をつないで動けばビジネスで売れると言って、コンシューマーに出した人ですよ。
――90年代にIBMさんがパソコンをやるのはわかるんですが、それこそ、3270と兼用みたいな、3270 PC的なのもわかるんだけど、その段階でそんなジュニアを出す必要が、JXを出す必要があったか。

竹村：それは、教育マーケット。大義名分は、きっと、教育マーケット。

――あ、教育マーケットなのか。

竹村：絶対。大義名分はね。でも、心は違いますよ。コンシューマーに売りたい。常にそれは一緒ですよ。

――なぜコンシューマーに売りたいんですか？IBMが。

竹村：アメリカでコンシューマー、やはり売らないといけないという。

――ああ、成功したからというのがあるのか。

竹村：うん。それは絶対あるわけですよ。

――アメリカはでも、タイプライターの代わりだからな。

竹村：でも、アメリカはIBMは同じモデルを、PS/1を出せばPS/2……。下のPCjrを出せば、何十万台か売れるんですよ。チャネルがあるから。そうですよね。日本の98も、思い切りダサいの作っても、NECのチャネルが……。

――ある程度は売れますからね。

竹村：100台売ったら、嫌でも何万になるわけですよ。それはチャネルの差ですよ。でも、日本IBMはチャネルがないんです。企業用しか。そこでそんなもの扱わないですよね。それが私がさっき言っている、NECのC&Cのチャネルとの実力差ですよね。
だから、私はその上新電機をやっているときに言われたのは、一生懸命やってくれたんです。DOS/Vを。「なぜそんなに一生懸命やってくれるんですか？」と言ったら、「JXでえらい損したから、取り返すのはIBMしかない」と言われた。なかなかいいこと言うなと思ったんです。事実、そうなんですよね。彼らはやはり、若い社員に聞いて、「どう？」って聞いて、みんなかなりポジティブだったと言っていましたよ。だからやはり、そこが違ったんですよ。ある面、一瞬、私も萩原もマニアックな目で見ていて良かったなと思うんですよね。あれ、同じような感覚でいっていたら、またこけていますよ。絶対に。それはもう、絶対そうですね。だからもう、遠藤さんも嫌というほど聞いた、堀田さんの社内人材募集がそうですよね。とにかく、パソコンがわかった人さえ来ればいいと。ビジネスは誰かが見ると。面倒は。だから、恥ずかしくない機械を作れというのが根底にあるわけです、まずは。だから、そこら辺がずっとThinkPadにも続いていくわけですね。感じとしては。

――なるほどね。

竹村：僕とかJXをやってたら、自分が作ったなんて恥ずかしくて言えないですよ。みんなから石投げられそうで。壮大な錯覚ですよね。

武種：羽鳥にしても、JXやってたけど。

竹村：そう。あいつも文句言ってました。

武種：そこで見て知ってたから、DOS/Vができるんですよ。なんとかしたいと思って。

竹村：羽鳥が担当者でしたからね。一担当者で。みんな、めちゃショックを受けた。そのころはやっぱり88、98って素晴らしく見えましたもんね。「これはすごいな、勝てるわけがない」という感じでしたよね。

武種：値段帯が違いすぎたしね。

竹村：そうなんですよね。やっぱり、今と一緒で、若い社員の言うことをみんなあまり聞かないというのが、当時も一緒やね。マネジメントが決めちゃう。

――だって、とっくにメインフレームからVAXとか出てきて、UNIXの世界で結構若い会社が出てきて、ワークステーションも出てきて、もうそういう目に遭っているのに、なんでそうなるかなみたいな、そういう感じですよね。
竹村：そうですね。それはもう、さっきも武種さんと言ってたんですけど、関係ない話だけど、やっぱりSuicaに執着する、同じような雰囲気ですよ。いずれVisaに変わるのに、どうするのという感じですよね。

――ThinkPadの話にしましょうか。OADG、まだないですかね。これは言っておくべきだみたいな。

武種：うーん、ほとんど……。

――意外にすんなりいったということなんですね。早い話が。

武種：そういう意味では、そうです。それで、皆さん、ほんとによく協力していただきました。各社の皆さんにはほんとに感謝申し上げますというのが正直なところです。

――みんな、やっぱりパソコンやりたかったんですかね。

武種：やりたかったと思いますよ。とにかく、各社とも、日本IBMもそうだったと思いますけれども、今のままのやり方じゃどうにもならないというところで、そこの1点だけはもうはっきりしていたんですよね。ここから先は用意ドンで競争して、頑張ったやつが勝つんだということに対する暗黙の了解があったと思います。ただ、残念ながら、日本IBMはその中から脱落してしまったわけですね。パソコンのそういうビジネスからは。
――なるほどね。だから、多分、日本のパソコンって、80年代にホームPCの夢を見たんだけど、実はホームPCってそんなにはなくて、でもDOSがちょっと話題になって、Windows3.1、95でオフィスとか、世の中のあらゆるところに入るだろうみたいな感じで、1回、ホームPC……。総合電気メーカーがみんなそうだから、1回、夢破れて、もう1回、夢を見ていたみたいなタイミングなのかもしれないですね。ThinkPadの話にしましょうか。いいですかね。

武種：はい。あんまり僕はThinkPadのこと、詳しくはない。多分、竹村さんのほうが詳しいでしょ。

――OADGがらみだと、各社で、OADGについてじゃないけども、そのころのPCの状況で象徴的なことって何かないですか？例えば、CD-ROMとか大ブームのころなんだけど、CD-ROM関係とか、何かあったとか、そういうのない。それこそ、そういう分科会で勝手にやっている感じなんですか？

竹村：ThinkPadと絡めて？

――いや、ThinkPadの話の前に、もう1回、念のため、各社の話を聞くとするとね。

武種：うーんと。

竹村：何かそんなの。

――いろんな動きのあるころですよね。ネットはLANも話題になってくるころだし、マルチメディアも話題になって。例えば、パナとかどうなんですか？パナの、パソコン。何だっけ。

竹村：レッツノート？

――違いますよ。もっと前の。何だっけ。「今ごろホームPCか」みたいなの出してきたじゃないですか。

竹村：あ、そうですか。

――えー。

竹村　ノートじゃなくて？デスクトップ？

――違いますよ。PD（：Phase-change Dual。松下電器産業が1995年に開発した光ディスク規格）とか積んじゃったやつですよ。PDって、変なドライブつけた。

竹村：はい、PDはわかります。

――パナ。テレビコマーシャル、散々やったじゃないですか。

竹村：あ、テレビパソコンとかそんな感じ？

――みたいなやつ。名前ももう忘れちゃったけど。

竹村：ああ。パナソニックって、元々5550を作ってもらってたんですよね。だからIBMは親しいですよ。僕なんか、ThinkPadと、パナソニックのレッツノートとかのレベルではよく話はしたりね。後、IBM、1回、マルチメディアパソコンで、香取慎吾を使ってコマーシャルをしたんですよ。

――ありましたね。
竹村：ヤマハのビデオボードが入って。あいつは、かなりパナソニックとやろうとしたんです。

――ああ、そうなんですか。

竹村：結果的には、チューブだけを使ったとか。いつも、うまくいきそうでうまくいかない。

――パナ、コンピュータ、長いわりには、ゲーム機も失敗するし。3DO（スリーディーオー）（：米3DO社が開発、松下電器産業などが製造・販売したゲーム機。日本では1994年発売）とか、名前すら、今のゲーマーも忘れつつあるぐらいだから。

竹村：そうですね。僕たちは、小さなやつを一緒にやろうとしてましたけど。

――え、何でしたっけ？

竹村：パンパイロット。あれ、向こうの携帯電話とくっつけようとしてたりね。
――パナとやろうとしたの？

竹村：そうそう。

――へえ、そうなんですか。

竹村：パナソニックとはいろんなことをやっているんですよ。過去。素晴らしい会社だし。ただ、とにかくミーティングに出てくる人数多いのよね。ぐったり疲れるんですよ。2人で行ってるのに20人ぐらい来たりね。名刺なくなっちゃったとかね。結構多いんですよ。PCのころからそうでしたよね。

――パナ、謎なんですよね。

竹村：でもね、製品はめちゃくちゃいいしね。真面目だし、クオリティー高いし。全然、非の打ち所は。何かIBMとは残念ながらちょっとずつすれ違ってて、うまくいってなかった。ノートパソコンはほんとにやりたかったんですね。パナソニックとThinkPadだったら、新幹線の中、ほとんど制覇できるんですよ。

――というか、ひと頃、レッツノートだけのことありましたよね。

竹村：そうそう。だから、この二つがくっついてやれば。でも、意外とうまくいかないものなんですね。トラックボールとトラックポイントの違いが大きかったというかね。やっぱりUIが大きく響くなという感じが、あのときはありましたけどね。さっきのThinkPadとOADGは。僕たちはもう、OADGを逆にスタートしてしまって動いてしまったら、武種さん言うように、もう真っすぐ進んでいて、分科会があっても、それほど僕たちには影響しない。僕たち、OADGの中で差別化してThinkPadがとにかく売れる仕組みだけを考えればマーケットは進むので。僕たちがいなくなったのは、OADGで日本語化をするというパターンは決まってしまって、なおかつ、大和でThinkPadはもう作る。で、アメリカが要望があって、こんなノートが欲しいと言っても、作るのは大和。

――あれ、なんでそうなったんですか？

竹村：それはもう大和が認められた。

武種：ワールドミッションをとったんです。

竹村：とったんですよ。

――どうやってとった？

竹村：ThinkPad 700（：1992年）以降のラインを見て、素晴らしい。

武種：出来がいい。

竹村：出来がいい。IBMとか、すっきりした会社ですから、いったん決めたら関係なく、そこに全部、投資からファンドから全部するので。だから、大和は5550が失った分は、ThinkPadでそれ以上、取り返したという感じですね。だから、それに至るまでの途中を、ブリッジを、何かノートがなければというのをPS/55 noteとか。

――ThinkPad、何年ですか？

竹村：35年ぐらいですかね。

――600は何年ですか？

竹村：600、2000年間際だと思います。

――600は、そんなに後じゃないでしょう。

竹村：いや、そうですよ。600、そうだと思いますよ。

――ThinkPad 600、もっと前でしょ。
竹村：いやいや。ThinkPad 600って種類が多すぎるんですよ。Eとかなんとかかんとか、めちゃくちゃ種類があるんですよ。

武種：ちょっと待って。私が会社辞める前に使ってたのは、Tモデルのいくつだっけな。

竹村：600って、パームのころですからね。パームパイロットとリンクしてたのが600が一番多いんですよ。遠藤さん、600、使ってましたよね。

――僕は、竹村さんからお借りして使ってたのよ。

竹村：あ、そうなの？
――うん、そうなの。

竹村：全然覚えてない。

――僕の印象は、VAIOの701と600というのが同じころなんですよね。大きさも似ててですね。

竹村：全然、ThinkPadはヘビーデューティーでしょ。もっと大がかりな感じでしょ。ライトウエイトじゃないと。

――なんだけど、大きさは同じぐらいだし、特徴があるんだよね。どっちもね。で、600いつ？ThinkPad 600。

――600ですか？

――600ってもう、歴史的なマシンですよ。

武種：600なんて覚えてないぞ、俺。

竹村：1998年。

――98年。

竹村：だから、これが先頭で……。

――98年なら、僕は納得します。2000年はないですよ。

竹村：うん。パームのころなんですよ。パームとつないでいるパンフレットとかよく作ってたんですよ。

――なるほど、なるほど。

竹村：1998年の5月12日。

――なるほどね。

竹村：600は、キーボードは、ダントツのリファレンスになりましたからね。どのタイミングでも。

――とはいえ、DOS/Vというものがあって、DOS/Vそのものが、多分、Windowsというものがあって、時代の変化とうまくのって、わりと特殊なのは富士通でみたいな図式があって、そこにThinkPad。最初は55シリーズで黒いの、一番最初、何でしたっけ？

竹村：PS/55 note。

――noteか。あれは何年ですか？

竹村：あれは1993年かな。

武種：えー？

――91年になってます。

武種：91年だ。

竹村：91年か。ごめんなさい。91年ですね。
――91年の3月になってます。

武種：持ってた。持って歩いてきた。

竹村：93は220ですね。91年。

――問題の220ね。そのころから怪しいマシンが増えていく。チップカードとかヒョウヨンにのっててかなりびっくりなんだけど。

竹村：どさくさ紛れに。

――うん。あの辺はどうなんですか？むちゃくちゃなマシンがいっぱい出てきたのはなんでなんですか？

竹村：あのね、やっぱりDOS/Vの幅の広さを見せないといけないというのが、当時の一つのミッションと、あとは、均等に売れることなんか絶対ないんですよ。あの手のモデルって。車も多分、そうかもわかんないですけど、特種に、アウトロー的なモデルがあってこそ、標準のやつが売れていく。というのはもう事実なんですね。ThinkPadってトータル勝負なので、それが全部ThinkPadになればいいということで。いずれThinkPadにブリッジするというのはPS/55 noteはミッションとして持ってたんですよ。ただし、そのときは、まずノートを出すことが先だったので、トラックポイントもついてなければ。まだトラックポイントは、当然、そのころ、研究段階ではありましたけどね。使うには追いつかないと。だから、トラックボールとか積んだりしたわけですよ。220とか。
それはもう、トラックポイントはそのとき、テッド・セルカー（：IBMの研究者）がやってて見えてたし、僕も現物見たことあるけれども、大和もまだピックアップしてないという前提でやって。ただし、極めて偏ったモデルをやったほうがいいというのと、あと世の中、当時、僕から見たらHP100LX（：ヒューレット・パッカードが1994年に発売したPC/XT互換機）が売れてたんですね。やっぱり。ああいう小さなやつで、ハンディーなやつが要ると。ノートパソコンなのに電池で動かないというのはおかしいだろうと。大きなACアダプターを持っていくのは。じゃあ、やっぱり、電池のやつを作ろうというので、当時、實川さんがライオス（：ライオス・システム。日本IBMとリコーの合弁会社。）にいたので、實川さんと相談して「何か軽いやつを作りましょうよ」というので。で、トライアル、どこまで小さくなるかというのをマツナガがやって、ビデオテープサイズのやつを作ってたので、横長でちょっと……。

――ウルトラマンPCではなくて。

竹村：の前ですね。あれの前で、モノリスという名前で作ってたんですよ。立つとまさに、あの『2001年宇宙の旅』（：スタンリー・キューブリック監督、アーサー・C・クラーク脚本による1968年公開の映画）……。

――何か見ましたね。どこかで。

竹村：あれはもうよく出してましたから。そいつをベースにして、それの倍にしたので、220で。だから、110と。110の倍が220の大きさなので。その辺のやつを出していこうというので。でも、あれは、正直な話、丸山さんからはみんな怒られたんですね。「こんなちっちゃいやつを出して、何考えてるんだ」という感じで。「売れると思ってるのか」とかいっぱい言われてですね。そのとき、当然、いろいろ言うわけです。「いやいや、売れなくても、これをみんな気に入って引っ張ると、一挙にIBMのノートパソコンというのがフォーカス当たる」と。「なんとかやりましょうよ」と、散々、僕とか萩原とかみんなが丸山さんに言って。でも、僕は、丸山さんと一緒に、19万8000円じゃないと絶対売れないと。どうしてこんなものに19万8000円の値段つけられるんだという感じで、散々言われたわけですよ。でもやっぱり、さすがに丸山さん、天才的な数字の扱い方のうまさで、「おい竹村、ファックスオーダーにしよう」と。「チャネルは売らない」と。「あいつらの費用がのっかっちゃうから。そしたら、29万8000円になる」と。「29万8000円でショップで売るのと、19万8000円で、ファックスでIBMがダイレクト販売するの、どっちがいい」と言われて、出すことが大事だから、「19万8000円でいきましょう」と。「その代わり、ファックスで受けます」と言って。ファックスで受けたんですよ。IBMのほうは、当時、なめてたので、PS/55 note出た後の220で、メディアの方には事前に見せて、すごい人気だったんですよ。売れるかなと思いながらも、直前になったら心配するのが、みんなそういう企画の人間の悪いところなんですね。でももう、萩原と相談して、「ファックスで3台ぐらいで受けるかな。それ、多いかな」とか言ってたら、ファックスがパンクしたんですよ。そのときわかったのは、遠藤さんには何度も言ってますけど、ああいう特殊なやつって、こんなふうに売れるんですよ。でも、パターン、落ちるんですよ。その後、全く売れない。というのになって、最後は値引きして、で……。

――T-ZONE（：80年代に大規模展開したパソコンショップチェーン）で安く売るみたいな。

竹村：T-ZONEに大量に買ってもらったり。でも、あれで一つのフラグは立つんですよね。

――堀田さんが竹村さんにだまされたと言われる理由はこれですね。

竹村：そう説明すると、丸山さんが本当にだまされたなとか言われましたけど。でもね、3回だまされたらだまされたと言えないですよ。だまされたほうが悪い。

――だから、220でしょ。チップカードでそのままPCじゃないですか。

竹村：そのまま、そうそう。基本的にはそうですね。

――これは、70、710かな。

竹村：701ね。

――いやいや、これ。この……。
竹村：バタフライ（：ThinkPad 701シリーズに搭載されたバタフライキーボード。スライドして展開する）ね。

――バタフライはどういう経緯でできたんですか？

竹村：バタフライは、向こうから提案があったんですよ。大和に来て、僕と何人か見にいったんです。ぶっ飛んだんですよ。あのころ、なぜあれが出たかというと、理由は簡単で、液晶って10.4インチ以上作れなかったんですよ。12インチとかべらぼうに高いか、歩留まりが悪くて出荷ができないぐらいしかなくて、IBMがチャネルで売るには心もとないと。10.4インチに合わせてキーボードを作ったら、こんなちっちゃくなるんですよ。でも、IBMのうるさい人は普通のノーマルサイズの19ミリピッチのキーボードを使いたいと言いだして困って。そのとき、ジョン・カリダスというおじさんで、ちょうど今ここにサインが出てきましたけど、プリンターのメカのエンジニアなんですね。メカって昔はハンマーでたたくので、今みたいなインクジェットでは全然なくて、すごいメカニカルに強いエンジニアで、彼があるとき思いついたんですね。
これって、みんなが誤解してるんですけど、残業してて夜中に彼は家に帰ったら、子供が積み木散らかして倒れて寝てたんですよね。お父さん、積み木をもとの箱に収めているときにひらめいたんですよ。キーボード、切っちゃえばいいと。こうずらしたら狭くなりますよね。でやったら大きくなる。というのを思いついて、すぐ会社へ行ったらしいんですよ。会社で自分のThinkPad 700をコピーとって、一晩中切ってたと言ってましたよ。それが製品になったんです。

――「デモ」（：Demonstration）が遅れたんだよね。

竹村：デモが。それは、Pentiumでトラブったんですよ。

――あ、Pentiumもそうだったんだ。

竹村：Pentium。何を積むかで。インテルの出荷が遅れたんですよ。

――それもT-ZONE行きになりましたよね。

竹村：そうそう。値段はいくらつけていいかわからないので、でも初めてのものだし史上初だからというので、「竹村、いくらだったらいい？」と言われて、僕、「79万8000円」とか言ったのかな。そのまま値段になってしまって。

――いい加減なんですよ。

竹村：あの辺のやつって、何台売れるとか計算してもね。これ、もちろんしますよ。コストからね。やっても、当たることなんかめったにないわけですよ。

――T-ZONEにみんなつめてたのは、あれはいつごろで、何だったんですか？後、Aptiva（IBMが1995年から販売したデスクトップPC。）か。

竹村：つめてたって、どういう意味ですか？

――いや、だって、T-ZONEの地下に堀田さんとか、みんないたじゃん。

竹村：あれは堀田さんの発想で、やっぱりコンシューマーに売るには身近に感じないといけないと。ついては、いつもIBMというのは常に帝国ホテルで発表したり、インタビューというとどこかの部屋をとってやったり、メインフレームからの歴史がそうなわけですよ。

――堀田さんって、また何度も名前が出てくる人が、お父さんはあんかを作った人なんだけど、自分はノートを作ったというね。ちょっとおかしいでしょ。格好が似てるという。そういう人がいるんです。

竹村：彼が、インタビューを受けるとしたら、メディアで受けるとしたら、メインフレームはホテルでもいいけど、俺は秋葉原がいいなと言い出して、突然、T-ZONEさんによくお世話になっていたので、T-ZONEの地下を使っていいよと言われたので、そこをオフィスに改造したんですよ。二つ意味があって、モバイルなのでThinkPadを持っていってそこで仕事するというのを、ビジビリティーを上げるために、そこで仕事しようと。例えば、日経の人が堀田さんにインタビューしたいと言ったら、秋葉原に来るしかないと。本社にいないから。そういうのを無理やりやって、ドラスティックに変えたんですね。ものの発表の仕方とか、見せ方というのを。そのときに、逆に僕たちは、いつも秋葉原で、悪く言うとさぼってたんですけど、堀田さんが来ちゃったので別に行こうというので、当時、隣にあったカレー屋さんを僕たちは占拠して、そこでWi-Fi入れてカレー屋さんをやってたんですよ。ずっと。それが、なんと、日本の、秋葉原の最初のWi-Fiの喫茶店ですよ。

――セガのマシンあたりぐらいで今日は終わりにしますかね。
竹村：はい。セガのマシンね。

――ダブル互換機作ったんですよ。セガとIBMが。

竹村：テラドライブ（：1991年発売）です。

――いかにもね……。

竹村：これも、もう、セガの人もいないし、いいかな。元々、IBMが5510というデスクトップを作ってたんですよ。ATバスの。当時はデスクトップはほとんどマイクロチャネルというやつで、5510ご存じでしょ。あれ、OADGのリファレンスマシンでしたよね。

武種：えー？したっけ？あれ。

竹村：そうですよ。あれと同じテストをすれば互換であると言える。

――IBMもそういうバスのものを作ってたわけだ。

竹村：そうそう。さっき、武種さんが言ったみたいに、PS/2もATバスとマイクロチャネルがあったんですよ。ローエンドは従来のボードを使えるということが一つのセリングトークだったので、それと同じものを日本IBMも作ったんですよ。ただ、外観のデザインは違う。それを5510というふうに言ってたんですよ。それは一番安い機械なので、OADGのリファレンスで置いたはずなんですよ。各社、それを買ったはずですよ。ソフト会社とかは。

武種：そうだったっけ、あれ。

竹村：うん。

武種：ちょっと待って。思い出せないな。そこ。

竹村：5510というのはそうだったんですよ。そいつを、実は、68000（：MC68000。モトローラのマイクロプロセッサ）を積んでる、当時、ゲーム機のメガドライブとマージするというプロダクトが突如、降って湧いたんですよ。

――どうして降って湧いたんですか？
竹村：どうして降って湧いたかというと、5510でDOS/Vが伸びてきていて、みんなが世の中DOS/V、DOS/Vと言っているから、誰かがセガさんを紹介してくれたんです。セガさんもメガドライブ以外のところに出ていきたい。

――メガドライブ（：セガが1988年に発売したゲーム機）がアメリカで結構売れて。

竹村：68000使ってるやつがね。

――スーパーファミコンをひっくり返すみたいな時期だった。

竹村：そうそう。遠藤さんもきっとご存じ、佐藤さんとかがみんないて、IBMとマージしたダブル互換機を作ろうという話に急遽なったんです。

――ちょっと待って。誰が言い出したの？

竹村：多分、セガさんが言い出して、IBMが…。

――セガが言ったんだ。

竹村：多分、三井さんとかがOKした。それも、キギョウ（？）（02:38:20）の話ですからね。多分、丸山さんとか三井さんが…。

武種：当時、確かにセガとのいろいろ関係あったもんね。

竹村：そうなんです。それが、ビジュアリティーがあるマシンを作ろうということで、メガドライブと5510がくっついて、テラドライブという名前だけが、まず先にできたんです。で、作り方は…。

――セガドライブ？

竹村：テラ。テラドライブ。

――テラドライブ。

竹村：メガからテラへという。

――そうでしたね。

竹村：それで作ったときに、68000と286（：Intel 80286）だったんです。昔のATを安くしたのが5510だったので、それをCPU同士、バスでつなぐというプランでやったんです。

――反対側のアプリを自動翻訳して動かすみたいな、すごい話でしたね。

竹村：そうです。グラフィックを出す68000とゲームのロジックだけを進めていく286がパラレルにコミュニケーションしながら動くというのをやったんですけど、事実的になかなかできなかったんです。結局、デュアル互換機みたいな感じになったんです。どっちも動く。値段もつかえないとか。あんまり言ってもいいのかな。僕たちは、実はかくちゃんが責任者で、一緒にやってて、フライトシミュレーターが68000と何かやって動きそうな、そういうすごいゲーム機が作れますよねという話でスタートしたのに、セガさんからは逆に、彼らはDOS/Vの勢いに乗って、一太郎が動きますよねとか聞かれたんです。本来ならIBMが聞くような質問がセガさんから来たりして、これはちょっと何か変じゃないかなと。うだうだしているうちに、やっぱりOADGの一つのリファレンスのモデルとして出ていっちゃったんですね。

武種：そこのところ、ちょっと記憶してない。ごめんなさい。

竹村：でも最初は売れたんです。

――売れた時期、あるんですか？

竹村：売れた。最初、初っぱなはやっぱり売れますよ。

――ああ、そうなんだ。

竹村：ああいうものを出した。そのときは、遠藤さんもわかると思う。DOS/Vという世界でIBMが次のモデルを出したら売れますよ。ある程度までは。でも、そこから先は止まっちゃうので。結局、T-ZONEさんのところや、あそこに、アブダビとかあっちのほうに持っていって、インターネットカフェに大量に入ったとかね。

――アブダビ（笑）。

竹村：とかいう、そういう。彼らは向こう側のチャネル、めちゃ強いので、そういうのが出てきて。

――1991年５月なんですね。

――意外に早いですね。でも、メガドライブだとそうなるか。

竹村：うん。5510もそのころですから。だから、ATのリファレンスモデルですよ。

――286ならそうですよね。

竹村：あいつで動けばソフトは大丈夫というお墨付きを一応ね。それは、僕たちが言ったわけじゃなくて、OADGの各社から言われたんです。リファレンスマシンがないとおかしいと言われて。チャネルのとか、CRコードがどうかとか、そういうのを検証したいと言われて。で、何かないかというので、マーケットのほうで、確か、オオハシ（？）さんか、エンジニアは当時。で、話して、5510にしたんです。

武種：そうか。その後に、今度はそれを文書にまとめたんだよね。

竹村：そうだと思います。マシンをやって。マルタク（？）（02:41:31）ATなので。あいつは。そういうのを繰り返して。でも、さっき言ったように、遠藤さんね、幅が増えることで、DOS/Vのバリエーションが大きく見えるんですよ。

――決して、竹村さんが遊ぶためにだましたわけじゃない。

竹村：いやいやいや。僕が遊ぶなら最後まで徹底的にやりますよ。

――だって、腕時計までやったじゃないですか。

竹村：ああ、WatchPad（：シチズンとIBMが開発したLinux搭載の腕時計型コンピュータ）？

――うん。

竹村：あれは今、ソラコムの玉川さん（：玉川憲代表取締役）ですね。あれは基礎研究所のコワーキングプロダクトなんです。他社とやる。IBMは当時から他社とやるというのをいろいろやってて、キヤノンさんとBJプリンターがくっついたやつとか、あれは御手洗さんがまだいたころに作ったりね。その中の一環で、どこかと時計をやろうと。あれは僕だけじゃなくて、山崎（：山崎和彦）の意見もたくさん入っているんです。山崎がこれから先は腕時計をして、ここで角度を変えたら何かが起こると。

――デザイナーの。

竹村：ThinkPadをデザインしたやつなんですけど。彼とかが入って、一緒にやって。当時、基礎研もそういうのを研究してたんです。やっぱり身に付けるもの、ウェアラブルをずっとやろうとしてたので、その中の一環として、ビジュアリティーのあるハードウェアを作ろうというのでやって、いくつか候補を挙げたんですね。なかなか、カシオさんとかも候補だったけど、カシオさんとかは堅いんです。

――IBM、なんであんなに…。僕なんか、１回、例の僕がマッチ売りの少女みたいになったときに…。

竹村：（笑）ニューヨークで。

――話長くなるのでやめますけど、ワトソン研究所にちょっと呼ばれて行ったときに、相当変な試作機いっぱい並んでて。ウェアラブル系が結構多いんですよね。

竹村：遠藤さん言ったように、ワトソン研は変な人が多くて。

――いや、わかりました。そのとき。

竹村：エンジニアが。

――すっごい研究をやってるんですよ。

竹村：もう変態ですよ。僕も、チップカードだけ持って説明にいきました。あそこへ。

――ああ、そうですか。ノーベル賞をいっぱいとった人がいる。

竹村：そうそう。いつまでたっても、遠ざかるような廊下の、曲がった廊下で。どこが終点かわからないような。

――とはいえ、大体ここで終わりにしようかなと思うんですけど、要はDOS/Vが出てきて、でも、IBMは意外に90年代、そういうことを結構いろいろやってたというのは、70年代、80年代までのIBMの印象からすると、結構違いますよね。

竹村：それは違いますね。さっき武種さんも言ってた、ドン・エストリッジの存在は大きいんですよ。あれだけめちゃくちゃなことをやって、あの短期間でIBM PCを作りあげたというのは、べらぼうですよ。当時のIBMの組織からは考えられないですよね。

武種：考えられない。

竹村：そうですよね。あいにく、航空機事故で亡くなっちゃいましたけど。

――そうなんですよね。

竹村：生きてたらどうなったかという感じですよね。すごいですよね。

――90年代のIBMって、さっき言ったように、ちょっとUNIXとかそっち系も。それまでのミニコン系の、トークンリングだとかいろいろあったものから、結構ガラッと変わっていくじゃないですか。あの辺はどうなんですか？

武種：それは、おそらく1993年のIBMの破綻の問題があったと思います。ご存じだと思いますけども、大変な赤字を出して。

――堀田さんも、前、その話をされていました。

武種：大変な赤字を出したんですよ。そこからやっぱり、またジョン・エイカーズという人がそのときのCEOでしたけど、替わってルー・ガースナーが来たわけですよ。ルー・ガースナーという人は、確かコンサルティング会社か投資会社だったかな。

竹村：ビスケット会社かな。

武種：うん、投資会社の人で。

竹村：ナビスコですよね。

武種：ナビスコ。要するに、技術の人じゃないわけですよ。

――ん？

武種：技術の人じゃない。

――ガースナー。うん、うん。

武種：要するに、会社を立て直すということがあって、そこでやっぱりもう一つ、新しいことをやらなきゃいけないんだという気風が入ったと思います、93年以降。おそらく90年代を通して、サム・パルミサーノに替わるまでの間に、そういうものが全部吹き込まれたという気がしますね。

――なるほど、なるほど。あのコンサルの会社を買ったのはいつごろなんですか？

武種：プライスウォーターハウス。

――そうそうそう。

武種：あれ、いつだったっけ。あれも90年代だと思います。

――あれも大きいですよね。

武種：会社が変わりましたよね。要するにハードウェアの会社から、ほんとにソリューションというか、そっちの会社に変わってきた。そこが大きかったと思います。それが新しいカルチャーを育てつつあったと思います。だからこそ、レッドハットを買ったり、いろんなことをしましたよね。やっぱり変わったんですよね。

――堀田さんは、この間、例の、初代IBM開封の儀というのを、僕は竹村さんにだまされてやったんですよ。

竹村：また言ってる。

――イベントをやったんですけど、堀田さんはそのときどう言ったかというと、まさにIBMがつぶれそうになったみたいな背景があって、日本はもうわりと自由だったみたいなことをおっしゃってましたよね。竹村さんとかが、チップカードとかいろいろ出てくるじゃない。あの辺の企画とかがなんで通ったんですかって、僕は堀田さんに聞いたら、「もう本社はそれどころではなかった」。

武種：それもあったでしょうね。

竹村：まあ、違いない。金額的に小さいもんな。

武種：ただね。

竹村：そうは言っても。何だかんだ言っても。日本のローカルマーケットだけで。

――勝手にやっててもらっても。でも、ThinkPadは世界に売るんだから、そんなことないじゃない。


竹村：ThinkPadじゃないですよ。ThinkPad前ですもん。

武種：前ですよ。それは。

竹村：220とかは。

――93年とかはね。

竹村：そうそう。

武種：まだまだ、そこまでいってない。

竹村：ThinkPadと言えるのは、700以降なんです。

――そうか、そのころは気にしてないけれどもということね。

竹村：そうそうそう。それに、ジャパンには……。

武種：結局、新しい収入源として、アメリカから見てもThinkPadがいいものに見えるわけですよ。

――それは、むしろその後の話だと。

竹村：うん。アメリカから見たら、ThinkPadは700から以降。

――逆にThinkPadとかなかったら、ほんとにハードの魅力はIBMにとってはなくなっていきますよね。

竹村：そうです、そうです。

武種：そうです。

竹村：それはThinkPadはすごかったという感じです。そういう意味では、いまだに続いててね。

――なるほどね。

竹村：遠藤さん、チップカード、チップカードと言うけど、遠藤さんの上司がOKしたんですよ。廣瀬さん（：廣瀬禎彦）がOKしたものだから。

――いやあ、そのぐらい、全然あり得るでしょ（笑）。

竹村：あり得るでしょ。廣瀬さんだったらあり得る。

――うん。堀田さんはでもうれしそうでしたよ。当時。

竹村：そうでしょうね。あのとき、怒られたんですよ。僕は。チップカードを発表して、記者会見で同時にやって、ThinkPadの記事が１行も載らなかったという。それは、佐伯さんがチップカード持って出てくるんですもん。それ、ダメですよね。やっちゃ。それは。

――うん。

竹村　後でひどい怒られましたよ。

――なるほどね。いや、いい感じですね。そうですね。その話が。でもう、どっちかというと、日本のこの情報子会社的なカルチャーとかね。IBMさんの影響とかでかいからね。というような感じですかね。やっぱり90年代のパソコンカルチャーというか、パソコン産業ですね、すごく大きく変えたものだと思いますけどね。以上でございましょうか。何かありますかね？どうですか？あまりにもいろいろあったから。

――そう。あまりにもいろいろあって。ほんとにあまりにもいろいろあって。

――パナのパソコン名が思い出せないだけが、俺が引っ掛かるけど。

――ちょっといろいろありすぎてみたいなことで、ちょっとすごい細かいですけどThinkPadって、液晶というか、あれはどこの。
竹村：自社です。

――さっき、東芝とか。

竹村：東芝と一緒につくった会社です。ディスプレイ・テクノロジーという。

――ところの、だったんですね。

竹村：DTIかな。

武種：姫路のほうに、確かあった会社です。

竹村：そうです。姫路のほうの会社。

――そこはそこで、また、進化を続けていて。

武種：いや、あそこは……。

竹村：あそこは売却したね。多分。

武種：もう解散した。

竹村：売却した。別に、外資系、みんなそうですけど、動き速いので。パッと売っちゃう。

武種：だって、今、あれでしょ。シャープさんも亀山でしたっけ、あそこも全部シャットダウンでしょ。

――あれはね、僕は非常に、あって。カラー液晶、日本の６、７社がほとんど独占してたんだけど、みんな、90年代にちょっと調子悪くなったときに、台湾とかに技術供与をものすごくするんですよ。誰も止めないので、全部渡っちゃった感じだね。僕の印象はね。実際、台湾の１枚目の液晶とか見せてもらったけど。当時。

武種：でも、技術ってそういうものですよね。
――まあ、日本もアメリカから来てみたいなのありますしね。

武種：そう。来てる。歴史が繰り返されている感じします。
――チーメイとか台湾のメーカーは、実は皆日本の技術なんです。台湾は国を挙げて、テクノロジーを推進していくというキャッチフレーズがあって、国が出資して技術を買っているような、非常に特殊な形態だったんですね。

――当時のDOS/Vが最強の98シリーズに勝つために結集したような状況を見て、今の日本を見ていて、こうしたらいいのにというような提案はありますか。もっと元気を出すために。

竹村：DOS/Vは、グローバルの標準のものを日本に持ち込むというところが一番の差なんです。遠藤さんにも言いましたが、言ったら怒られるかもしれませんが、今のFeliCaなどがまさにその例です。今、JRなど皆がSuicaで乗れますが、海外は全部Visaなんです。Visaタッチでピッと触れて。日本がJRなど皆がSuicaを採用したのは、スピードが速いからなんです。日本の有楽町のラッシュ時などに、何百人も流れる際の数秒間が重要なので、どんどん速いものになっていって、ジャパンユニークになったんです。使っているのはNFCで、普通のタッチで開く、Suicaやスマホについているものと同じですが、チップ自体やロジック、サポートするプログラムなど全部カスタマイズしているんです。だから、ソニーが提供しているものの、海外に出しているNFCと日本に入っているNFCは違います。そのため、海外から携帯電話が来て日本で売るときに、お財布携帯が付いていないものが多いでしょう。これはコストアップする理由の一つなんです。でも、それを付けないと日本のSuicaは使えない。これは私たちから見ると、98と全く同じです。速くするために、ハードをローカルで実装しているんです。実際、海外ではみんなVisaを使っていて、日本人が向こうへSuicaを持っていっても誰も使えません。「Suicaって何ですか？」と聞かれるだけです。「Visaで乗れますよ、地下鉄は」と言って、ニューヨークなどみんなVisaで乗っています。ヨーロッパも皆そうなんですね。
――そういう状況になってきたということですね、今。

竹村：なってきています、どんどん。

――香港は意外に日本と一緒なんですよ。

竹村：そうそう、香港とか一部は。

――香港の先のは日本より進んでいます。

竹村：日本のほうはそれに多額の投資をしているんですね。ここで読めて、Z駅で降りようとすると降りられないとかありますね。サーバーに行っていないから。各ローカルで閉じているんです。あるいは、少し上のレベルまでです。でも、Visaなら完全にネットワークへ行きます。その代わり遅いんです。今言っているのは分かりませんが、私もVisaタッチで東京だったと思いますが乗りましたが、全然遅いとは感じませんでした。ただ、厳密には遅いのかもしれません。Suicaのほうが速い。ピッ、ピッといってパッと開く。そのためだけに特別な実装をしてしまいましたが、グローバルの波には乗り遅れているという感じですね。世界中は、恐らくVisaになっていきます。確実に。

――確実に。

竹村：絶対に逃れられないですよ。そうすると、日本はどうするのという状況になります。

――もっと早く日本もVisaにという。

竹村：もう私鉄などは部分的になっていますからね。でも、相互乗り入れするために、Visaも使える、Suicaも使える、QRも使えるという状況になってきているんです。QRが遅いのは、きっと分かりますよね。Suicaが一番速いのも分かる。Visaは恐らく中間くらいのスピードですが、テクノロジーはどんどん進むので、昔、私が羽鳥にグラフィックが遅いと言って、必ず速くなりますと言われたのと同じことが起こっているんです。
絶対に速くなるんです。これ以上遅くなることはないわけです。どんどんVisaのほうが速くなってきたら、Suicaはどうするんですかという感じに、だんだん基盤がなくなってくるということですね。だから、きっと変わりますよ。

――難しい問題ですね。
竹村：でもね、絶対に変わりますよ。

――でも、例えばビデオだったら世界中に日本の規格が行ったわけなので、獲得できるかどうかという問題もあるから、グローバルになったものを後追いすればいいかというと、そうとも言えなくて。要は、難しすぎる質問ですよ、簡単に言うと。

武種：もう一つは、グローバルのインフラの上に、自分の独自のアプリケーションを作れる、世界に通じるものを作れるかどうか。

――作れるかどうか。そういうことがありますからね。

武種：そこが一番。

竹村：でも今、インバウンドで大勢来ている観光客が全員文句を言っているわけです。日本に来たらSuicaを買わないといけない。ネットで事前に買うとか。あり得ないんです。日本人がSuicaを持っていっても使えない。同じことが起こっているんです。98のアプリケーションが日本ではスムーズに動くのに、海外に持っていったら何を持ってきているのかと言われるのと同じでね。そういうのをまた繰り返ししているわけです。そういうことは、きっとたくさんあると思いますよ、実際には。

――ものすごい巨大な表を作って検証すると面白いと思います。恐らく、ジャンルとか環境によって、いろいろ違ってくるというか。

竹村：遠藤さん、九州のほうが、たくさんSuicaから脱落したでしょう（：九州産交バス、産交バス、熊本電気鉄道、熊本バス、熊本都市バスが2024年11月15日でSuica決済を廃止。2025年3月よりクレジットカードタッチ決済などを導入）。今回。あれは単純に、バージョンアップに非常にコストがかかるんです。全国ベースで使えるものは駄目ですが、自分のところだけで使うならOKなんです。それに、恐らくラッシュがないんでしょうね。別に構わないと。Visaでタッチでよいという感じになっているんです。でも、全国ベースになると、やはりパフォーマンスが影響されます。確かに、大手町で降りる全てのビジネスマンとビジネスウーマンの処理をしようとすると、Suicaでないと駄目かもしれません。ただ、技術が進歩するのは事実なので、今日より明日のほうが速くなるのは事実なんです。だから私もDOS/Vをやるときに、最初にスピードが出ないというのが一番気になりましたよ。ここにも入っているNECの比較では、DOS/Vは遅いという指摘ばかり出てくるんです。遅いから駄目なんです。そこに技術的に、この1年か2年でどれだけ速くなるかというコメントはどこにもないんです。でも、実際は追い抜かれてしまったというのが事実なんですね。

――時間が解決する問題が意外に多いということかもしれないね。

竹村：そうですね。

――その間に技術とか環境が変わってね。

竹村：そうです。

――DOSはだって、来年変わるわけじゃないからさ。何年か見て、計画立てられたと思うんですけど。事実、何年かたって市場が変わった。周りの環境も変わってるんだよね。それが後押ししたものもあるし、それによって変わったものもあるし。

竹村：関係ないですけど、僕、最近見てて、パソコン買って、うちの家内のパソコンとか、ThinkPadを買っても、4万9800円なんですよ。これ、タッチとか言わなければ十分使えると。こういうふうに、特別に軽いものとか買わなければ高くないんですよ。僕、この間、スマホ買って、GalaxyのS24買ったんですよ。22万円なんですよ。完全に逆転現象。

――僕、2万円代のスマホを使ってますよ。

竹村：スマホもパソコンと一緒で、昔はパソコンはそんな感じだったじゃないですか。でも、今はパソコンって、真ん中に集中してきているんですよ。そんなに幅ないんですよ。これから、AI系を使うやつは、また、なんとか理由をつけて高くする。

――20万円代のものを買うか、10万円以下のものを買うかみたいな。

竹村：そうですね。スマホももう、上のやつって、40万近くなってきているわけですよ。下って、9800円とか5000円とかであるわけですよ。メーカーはみんな安く別に売りたいわけじゃないので、これからAI使えるから高くするとかいっぱい出てくると思うんですよ。パソコンとかにしろ。スマホもそうですね。僕のも、なぜ高いかというと、サムスンに言わせると、AI使えるから、同時通訳できるからとか、そういう感じになってきているわけですよ。でもやっぱり、パソコンとの逆転現象はもう、多分、収まらないなと。

――ゲーミングPCとか十分高いじゃないですか。

竹村：ああ、だから、あれは特殊な世界ですよね。どう見ても。それはゲーミングスマホも高いじゃないですか。

――そうね。

竹村：僕もびっくりしたんですよ。今回。例えば、512Gのメインメモリ12Gで、21万か22万なんですよね。1Tになると、23、24万になる。確かに、使ってるとめっちゃ速いんですよ。戻れないというかね。LINEとか関係ないと言う人いるけど、LINEを立ち上げたときのスピード、全然違いますよね。1万円台の携帯だと、めっちゃ遅いですよ。

――コパイロットPCがどうなるかは、ちょっと。どうなんですか？

竹村：大体僕は、新しいキーをつくった瞬間に負けだと思いますよ。過去の感じからするとね。最初、Windowsを作ったときに、面白い話があって、母親にパソコンを買ったんですよ。ThinkPad。散々使わせて、やっとメールのやり取りができるようになってね。これでいけるなと思ったら、いつも悩むのが、終われないと。どこでThinkPad終わっていいかわからない。「電源ブチッと切っていいの？」って、「いや、絶対ダメ」とか言ってね。終わるってわからない。終わるって、ここの右側のメニューのスタートのところにあったの知ってます？スタートボタンを押すと上にピッと出てきて、終わるがここにあるんですよ。僕は散々怒られましたよ。それ、ThinkPadなのでね。僕、名前、ゆずるというんですけど、「ゆずる、あんた、こんなくさいパソコン作ってるから売れへんねん。大体、なんでスタートのところに終わりがあるねん。普通、スタートがここやったら終わるはこっちやろう」というのが大阪のおばちゃんの発想でね。なんでスタートにあると聞かれたとき、僕も答えようなかったです。

――いや、それはだって、ずっとそうじゃないですか。Lisaの時代から。
竹村：あり得ないと。ThinkPadのせいにされるわけですよ。ThinkPadがそうだと思われるから。Windowsとそんな区別なんかつかないので。そういう時代でね。でも、そう考えると、今のスマホって、めっちゃよくできてます。めちゃくちゃよくできてるよ。なんとなく、Windowsのああいうやつ、見てて、やばいところはわかってて、うまくGoogleが避けてるとかね。何かあると思いますよ。遠藤さん、思いません？Googleのやつって、よくできてると思いません？

――今、なんと、Googleのスマホが売れてる。久しぶりにアキバ回って、ショップの店員と、うちの若人と回ったんですよ。そしたら、全然、iPhoneだったやつがGoogleだと。理由は何ですかと言ったら、テレビコマーシャルしか考えられないという。日本はやっぱりテレビコマーシャル効くんですねみたいな。Google、テレビコマーシャル、やらない会社ということにアメリカではなってるんですね。日本だけ、マップやったときに初めてやったんですけども、実は、めちゃめちゃやってるじゃん。Googleの、Pixelのコマーシャル。

――やってますね。

――あれ、効いたらしいんですよ。

竹村：Pixelマジック、いいですもん。結構。

――いや、それ、ヨドバシの店員が言ってたんですけどね。今、Pixel。もちろん、iPhoneもProを買う人はごく一部だったりするんですけど、一つ前のやつとか、うまい売り方してるんですけど、Pixel売れてると言ってましたね。

竹村：あれもそうですね。下取りが高いというような。

――そうね。それもありますね。

竹村：でも、GoogleもPixelはやりますからね。Galaxyもやると言ってたよ。

――コパイロットPCは、全く知らなかったと。発表まで。

竹村：それはそうでしょうね。

――20万円代のものを要は売りたいので、ちょっとどうやって売ったらいいかみたいな。それ、MSのコーナーあるじゃないですか。MS担当者。

竹村：あと遠藤さんね、最近のGoogleとかの同時通訳のレベルとか結構すごいですね。

――いやあ、すごいですね。

竹村：サムスンとか見てて。僕、この間、変なの買ったんですよ。イヤフォンで普段オーディオ聞いてるんだけど、通訳にスマホをセットして相手に渡したら、それでできるんですよね。会話。そんなのが3万5000円とかであって、すごいですよね。

――あれやばいじゃないですか。ポケトークやばいじゃないですか。

竹村：そう。ポケトークは全然やばいですよ。スマホにアプリ乗ったら終わりですよ。

――今日はこの辺にしましょうかねという感じなんですが。いや、ほんとそうですよね。

竹村：後、遠藤さん、僕が最近お勧めのソフトがあって、ChaChatGPTって知ってます？

――知らない。

竹村：ほら。ChatGPTというのは、使える人なんてほんのわずかなんですよ。おまけに、有料を使っている人はほとんどいない。僕、たまたまこの間、ChaChatGPTというのがダイレクトメールできたんですよ。

――ChatGPTじゃなくて。

竹村：ChaChat。

――ChatGPTなんですよ。まあ、いいか。

竹村：何かというと、ChatGPTに投げるパラグラフがあるじゃないですか。あいつを作ってくれる質問表なんですよ。「これは何で使うんですか？」といったら、「宴会の集まりのお誘いです」と書いて。「対象者何人ですか？」とか、「どんな楽しいことがあるんですか？」といっぱい聞いてくる。全部答えるだけ。パソコンでもスマホでも。そいつを、プロンプトとして出して、ChatGPTに貼ると、向こうから答えが返ってくる。すごい便利ですよ。

武種：文章を作ってくれる。

――ChatGPTのテンプレートを作ってくれるんですか？

竹村：そうそうそう。テンプレートを作って、それを会話レベルでやるんであって。例えば、「ブログを書く」とかいうのがあるんですよ。そしたら、あなたの年齢とか聞かれて、「今回は何のブログを書きたいですか？」って、「旅行」とか言って。「過去行ったところ、どこが楽しかったですか？」と聞かれて、答えたら、バーンと作ってくれる。すげえですよ。これは、この間、Microsoftの人に見せたら、プロンプト、それを作るのに、逆にどう作っているのかよくわからないので、それがわかるから、プロにも使えますよとか言ってて、やけに気に入ってダウンロードしてました。3900円ぐらいのアプリなんですけどね。

――あ、アプリなわけ。

竹村：アプリ、アプリ。で、パソコン用、スマホ用、全部入ってるんですよ。ソースネクストが出してるんですよ。

――出た、ソース。

竹村：ソース。僕も大嫌いなソースネクスト。

――そう。ソースネクストといったら、みんな、ちょっと一瞬静かになる会社なんだよね。

竹村：そう。ソースネクスト。そこが出してる。でもね、素晴らしい。買った人、みんな、大絶賛。

――ああ、そう。

武種：ChatGPTのフロントエンドになっちゃうな。完全に。

竹村：そう。だから、僕も見たんですよ。逆に古いので。「知子の情報」（：株式会社テグレットが開発した文章データベース化ソフト）とか昔あったの知ってます？

――ああ、あった。

竹村：なんとかの情報。要するに、お見舞いの文章を書きます。

――だってあれ、AI……。

竹村：そうそう。当時からね。だから、そんなに差ないんですよ。

――「知子の情報」は、文章を作るやつじゃないですよ。

竹村：あ、違うか。何やったっけ。

――文章を作るのは、その同じシリーズであったんだけどね。

竹村：そうそうそう。何か３本ぐらいありましたよね。

――そうそうそう。

竹村：だから、それによく似てる感じで。だから、フロントエンドなんですよ。ChatGPTのフロントエンドで、作ったやつをコピペして送れば答えが返ってくるというやつで。素晴らしいところ、目をつけたなと思って。

――まだまだたくさんあるということですね。

竹村：そうそう、そうそう。

――ちょっと未来の話も聞けたところで、ここまでにしましょうか。ありがとうございます。

竹村：お疲れさまです。
――ありがとうございます。

――ありがとうございます。

竹村譲・武種敏正

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