――インタビュアーの遠藤諭です。

――大石和江です。

――本日は2024年7月29日です。これから末高弘之氏のオーラル・ヒストリーのインタビューをモステクノ社にて行います。よろしくお願いします。

末高：よろしくお願いします。

――まずはですね、末高様の人となりというか、この分野に興味を持たれたりとか。QV-10について今日は中心に伺いますけど、その前のお仕事っていうんですか。それにつながる道のりみたいなところを伺えたら嬉しいです。
末高：わかりました。私、末高博之でございます。カシオ計算機という会社に1978年に入社をいたしまして、そちらでいろいろ開発関係の仕事をずっとやらせていただきました。一番最初にやったのは、実はデジタルウォッチでございます。皆さんご存知だと思いますけど、やっぱりカシオ計算機というのは、今もうG-SHOCKをはじめとして、本当に時計メーカーじゃないかと言われるぐらいになってるんですが、当時はいろんなことを、新しいチャレンジをしてみようという意気が盛んな会社でした。開発部隊というのは百名近くいたんですけれども、そういう中に、今まで誰もやったことのないこととか、ちょっと毛色の変わったこととか、いろんなそんなことをやる人間が結構いたんですよね。で、私も時計という中に入ったんですけど、最初にいじっていたのが、そこら辺にある部品をいろいろ集めては、なんか作ってこんなのできたよみたいなことをやっていたという、まあ真面目に仕事してなかったですけど。例えば、脈拍を検出するような回路を作ってみて、で、これどうだ？みたいな話をしてみたり。
まあ、そんなことをいろいろ、時計という本来のいろいろな商品以外にチャレンジするということをやってまいりました。
で、そんな中で、カメラというものにちょっと触れる機会が実はあったんですね。これは何かと言いますと、1981年、入社して三年目ぐらいになるんですけれども、ソニーさんから、マビカという技術発表が実はあったんですよ。マビカって何かというと、どうもマグネチックビデオカメラの略らしいんですね。磁気媒体に画像を記録する、そういう装置をカメラとして仕上げたいという、こういう意図があったようでございます。
もう少しこの背景を言いますと、当時ビデオの世界では、いわゆるアナログビデオのカセットですね、こういうものの技術競争が、特にそのVHS対ベータみたいな話がいろいろありまして、そういう技術の原点がそこにあるというところから、フロッピーディスクに画像を記録したらどうなるんだろうと、カセットがフロッピーという話になっています。
まあ、今やもうフロッピーって言葉も死語に近いんですけれども、そのフロッピーディスクは磁気記録の媒体です。2インチ、ですから約5cm近くですね。こういう2インチぐらいのちっちゃなフロッピーディスクを用意して、これにその画像を記録したら面白いんじゃないかということを考えられたというのが実はありました。
で、これはまあ、まだ商品化には至らなかったようで、この時点ではまだ技術発表というものにとどまっていたんですが、当時VHS対ベータというふうな話があると、仲間を増やすというのは結構重要なポイントになります。仲間というのは何かというと、同じような規格を採用して、互換性を維持しながら、その市場を拡大する、こういう目的です。
そういうことでソニーさんの発起になりまして、電子スチールカメラ懇談会というのが、実は1984年になるんですけども設立されました。これは業界団体みたいなものですね。それで、賛同していただける会社さんにみんな集まってくださいって、こんな話をしました。
こういうお声がけがあった中で、ちょっと面白いなと思いまして、私もカシオの中にいて、こういうことをやりたいんだけれどということを、実はお話をしました。で、まずは勉強からだということで、面白いなあと思ったけども、実際に自分で作るというところにまでは、なかなか行かないです。どうやってできてるんだ？　何を勉強したらいいんだ？　その基本になる技術というのは、ちょうどそのビデオとかテレビとか、こういう技術だったんですね。となれば、その例えばテレビってなぜ映るの？というところから、実は勉強しなくちゃいけない、こんなふうな話でですね。
いろいろ勉強がてら、こういう会合がありまして、そういう会合に出ていくんですね。で、ところが、このいろんな会社さんが実はこれに興味を持たれまして、じゃあお前行ってこいやみたいな形で、本当にいろんな名だたる日本のカメラメーカー41社が、実は最終的にはエントリーされたんですね。
で、そういう中で、それこそニコンさん、キヤノンさんとか富士フイルムさんとか、そういったカメラメーカーさんその他、その東芝とか、場所も含めまして、ソニーさんをはじめとして、いろんな電子関係の会社さん、いろんなところがわっとこう横串につながっている珍しいところだったんですね。
だからそのスタンスは、会社さんによっていろいろでして、まず一つは、そのカメラメーカーさんにとって基本、カメラというのはフィルムで撮るものだと。で、それをその電子にするということが、どういうインパクトがあるんだというのは、まだその時点では全く理解されていなかったと思います。で、これはそのいわゆるその会社がビジネスを主体としているところからかなり外れた分野であるし、そこのところがもし大きく出てきたとしたら、自分たちの事業そのものが良くなるぐらいのところだという考え方もあったでしょう。
で、もう一方でその電子機器を作っているような、エレクトロニクスの会社からすれば、今まで手をつけようがなかったカメラという世界に、そのエレクトロニクスから入れるっていう、こういう意味では、面白いな、やってみたら、ダメでもともとみたいなところがあったかと思います。
こんなわけで、じゃあお前やれよと言われた人も、結構それぞれの会社にいて、で、そういう人が一度に集まっていろいろ話をするんですね。
で、基本は何かというと、メインのストーリーはその、ソニーさんが技術としてこういうものをやりますから、これをじゃあ皆さん、この共通の技術として互換性を維持しながら使いませんかというのが、スタートなんですけれども、その話が、だいたい二ヶ月か三ヶ月に1回ぐらいずつ、集まっては、勉強会とかも含めましてやってまいりました。
で、大体オフィシャルのところはそんなところですけど、大体終わった後で、みんなでこう、いろいろ飲み会するんですよね。で、その時に話をしているのがまた面白くて、何が面白かったというと、やっぱり会社の中で、その例えば、先ほど言ったそのカメラメーカーさんにしてみれば、自分のやってることっていうのはメインの仕事ではないと。要するに会社のメインストリームから外れていると。だからあんまり期待もされてないぞというふうな思いがあったり、またエレクトロニクスのメーカーからしても、必ずしもこれがそのうまくいかなくてもいいやみたいなところがあって、あまり期待する人いないぞというふうな、実は人の集まりだったんですよ。
で、これがただその中でいろいろこう、数ヶ月に1回ずつ、集まって話をしていくと、みんな共通の思いがそこにあるんですね。なあ、俺たちはこんなことやってる場合じゃないぞと。絶対そんな世の中変えてみせるぞみたいな気持ちが、自分の中でじつはこう醸しだされてきたんですよ。
何ができるか、なんか面白いことできないのかなっていう話が、非常にこれ面白かったなと思うんですけど、いろんな会社さんを横串にこう通している形で現場の人間同士が話ができるなんていうのは、そうそうあることじゃないんですね。機密事項だなんだってあるじゃないですか。で、うちの会社、こういうことやってますよなんて、そう簡単にその開発段階の話なんかできるもんじゃないですけど、それをたまたまそういう連中がみんなで集まって話をしていると、いや、こんなことできないかなと。こういうことできたら嬉しいんじゃないのみたいな話が、そのブレスト的に会社を超えて、エンジニアが集まって話ができるのって、非常に面白い場所を提供していただいたことがあります。
で、そうは言っても、なんか商品化してその世に問うということをしなくちゃねということに、だんだんなってまいりまして、84年に懇談会でスタートした後で、一年後ぐらいにその場所の中でプロジェクトを立ち上げまして、電子スチールカメラなるものを商品化してみようじゃないかということを始めました。

――それは手を挙げてできるような仕組みになっていたのですか？

末高：そうですね。さっきも申しましたけれども、カシオ計算機っていう（：会社の）中では、新しいものにチャレンジするという機運が非常に大きかったのです。まだカシオ計算機という会社が何によって立つのかというと、電卓というものがあったり、ようやく時計というものが出てきたりという程度で、まだまだ盤石ではありませんでした。いろんなことをやりたい、世界で先駆けていろいろな商品を出してみるとか、世に問うとか、そういうことをどんどんやれという機運が会社の中にありました。

――企画書を書いて、どこかに提出するということですね。

末高：そうですね。やり方としてはもちろん企画書です。モノを作って出せば、試作品があればそれに越したことはないですけど、まだそこまで行かないで、皆がやっているから、こういうのをやりませんかということもちょっと混ぜつつ、企画書を作るわけですね。こういう技術を使って、こういう商品を作ればいくらぐらいでできて、市場としてはこういうものがあってということを重ねてからやろうということになって、それをプレゼンするのです。

――上司にプレゼンする、あるいはそういう場があるのですか。

末高：そうです。上司というか、会社もそんなに大きな会社ではなかったので、まだ当時は役員会のレベルぐらいのところまでズカズカと出かけていって、「これをやりたいです」みたいな形でやらせていただいていました。そういうところで「面白いやつが何か言ってるからやらせてみるか」みたいな形になって、プロジェクトをスタートさせていただいたという。

――ちょっと一瞬戻るのですけれど、電子カメラ懇談会というのは、ソニーさんが技術、認知とかそのマビカをやっているのですけれど、主体はこれは例えばJEITA（：電子情報技術産業協会）とか、そういう何かがあるのですか？

末高：なかったです。

――いきなり声がけをバーンといろんなメーカーにして。これは任意団体みたいな、何もない感じなのですか。

末高：ええ、そうですね。当時はまだなかったです。その後なのですけれども、ある程度そういうものが出てきたところで、やっぱりそういうお墨付きみたいなものが必要だということが出てきたということがあるのですけど、最初は本当に業界の横のつながりだけでやっていったと思います。

――その後、だんだんなんとかフォーラムとか出てくるけど、80年代頭は確かに珍しい気がしますね。で、社内でその役員会議でプレゼンするみたいなところまで行ったと。

末高：ええ、それで最終的に出来上がったものがこちらにございます。このVS-101という、これはカメラというのですかね。カメラはカメラなのですけれども、実はここにフロッピーディスクをこう入れまして、こうやってこう覗いて、その写真を撮ると。こちらにビデオの出力がありまして、これをそのテレビに刺す。そうするとこの今撮った画像がテレビに映る。こういう代物だったのですね。ちょっとその一番大事なフロッピーディスクがなくなっちゃったので、ここに2インチのフロッピーを入れると。これがあったのですが、じゃあどこが面白いのかという話になるわけですね。
撮った画像がすぐ見れるというコンセプト、まずここが一点ありました。電気的に記録をするので、いわゆる銀塩フィルムとは違って、そのプロセスが必要ないのです。

――要するに写真屋さんに出して現像してもらって、翌日取りに行くとか。もっと前はもっと日にちがかかったけれど、駅のダイヤルジャンボみたいなところに、それがいらないぞと。その日のうちに見れちゃうし、撮ったその場で見れると。

末高：はい、そうですね。それこそ今の方々は「フィルムカメラって何ですか？」みたいな話があるぐらいなので、そういうところはもう当時は、撮った写真がすぐテレビで見れるというだけでも、かなり画期的な話だったと思います。
でも、それだけじゃ何か弱いなという気もしていたのですが、じゃあ当然ながら写真というと、プリントアウト、今で言うところのプリントアウトですね。そういうものが必要だということで、当時別の会社さんがそのプリンター、カラープリンターの小型化ということを考えられていて、ビデオ信号が入ってくると、それをキャプチャーして、それでこのぐらいのプリントアウトをするような、こういう大きなプリンターが実はあったのですね。
で、じゃあそういうものを横に置いておいた方が面白いねということになって、実は日立さんにお願いしたのですけれども、OEMでカシオのブランドをつけたりして、プリンターをここに用意して、こちらで撮った画像をそこにつないで、プリントアウトすると。こんなことができるようになるというのを用意したのですよ。
で、さらに電話回線を使ってモデムでデータを送ると、今でこそ当たり前の話かもしれませんけど、そんなこともできないかなということで、映像信号を、当時は一応デジタル化してはいたのですけれども、画質とか全然あまり良くないのですけども、電話線を使ってどこか遠くに送るとか、こんなこともできるねって話をしていたのですね。
当時、その技術としては、テレビ電話というのをやろうという話が、もうずいぶん昔からありまして、それこそ万博の目玉になるような、そんな時代だったわけですよ。ですから、電話回線を使って画像を遠くに送るというのも、これは技術としてあるねと。じゃあ、この三つぐらいでどうだと。
撮ったその場ですぐ見れる。それからプリントアウトもすぐできる。さらには電話回線などを使って遠くの人にその画像を送れる。ここまでできたら、何か面白いことができるのじゃないかなというところが、実はこの電子スチールカメラのコンセプトだったのですね。で、こういうものを商品化しましょうよという話をしていました。
ところが、先ほどの懇談会というのがありまして、実はそこの中でもこういう話というのはずっとあったのですね。こんなことができたらいいねという話をしていた中でのアイデアなので、すべてが私どもが考えたアイデアではなく、いろんなメーカーのいろんな技術者さんが、こんなのあったらいいな、こんなのできないかなみたいな話をしていたものを、ちょっと先取りさせていただいて、商品化してみたというところでした。これが1987年の11月に発売をすることになります。

――電子スチールカメラとしては一番最初に、他のメーカーよりも先に出たのですか？

末高：技術発表、もしくは非常に数を限定するような形で発表、もしくは限定発売みたいなことをされているところがあったと思います。だから、そういう意味ではコンシューマーの商品として出そうということでやってきたのは、カシオがかなり最初の方だったということだと思います。当時、これが12万8千円ということでしたね。先ほどのそのプリンターに至っては20万とかで、じゃあいろんなところでそのプレゼンをさせていただいて、その商売をやってみようということになったのですよ。

ところが全然売れないのですよ。全く売れない。かなり値の張る商品だし、数も結構作っちゃったし、どうしましょうというぐらいに大変なことになりましてですね。非常にアイデアはいいぞと。ただ需要がない。あっさりとそういう結論でした。

――価格も高かったんじゃないですか？

末高：もちろん、そうですね。原因はいろいろあるとは思うんですよ。価格もそうですし、品質もそうですし、それから使い勝手とかそういう問題もあって。今でこそ、スマホで撮って何かするなんていうのを、こんなに簡単に、しかも安い値段でできるのに比べれば、最初の商品を世に問うというのは、値段だって数十万円するし。できることは一応できそうなんだけれども、品質は今に比べれば全然違うと。ただ、一番最初にこういうことをやってみようよって言って、商品化して世に問うということがすごく大事だったんじゃないかなと思います。
そういう意味で、カシオ以外のいろいろな会社さんも、こういうものがあったら、我々が提案したようなコンセプトで商品化したいなと。例えばカシオがこれで、ある程度商品が売れるんであれば、二番手、三番手でも、うちはいつでも作れるぞみたいな形で、皆さん考えていらっしゃったんだと思います。ところが、そもそも全く売れないと。そういうことがあったので、実は他の会社の方も、やっぱり商品化をちょっと止めようと。我々の商品が売れたら、すぐにでもそのラインを動かそうとしていた会社さんもいくつかあったとお聞きしております。ところがみんなそういうところにストップがかかっちゃったんですね。電子スチールカメラは売れないというレッテルを貼られてしまって。それで、かなり後退していくわけであります。
じゃあその後どうしたかって言いますと、先ほどカッコよくプロジェクトを作りますよみたいな形でプロジェクトを立ち上げて、人も集めてお金をかけて、こういうものを作って世に問うてみて、問うてみたら何も売れない。当然ながら、もうお前やめろと退場ということになるわけですね。
まあ、しょうがない。その後、覚悟はするしかないんですけれども。ただ、そこでふと思ったのは、本当にこれで終わりなの？　っていうのは、ずっとやっぱり思ってましたね。コンセプトに間違いがあるというか、それが不要だというコンセプトじゃないはずだろうと。撮ったその場で見れるっていいことじゃないか。それはプリントアウトすらできるのもいいんじゃないか、何がいけないんだっていうことになって。まあ値段も高いな、確かに値段が高いな、大きい。使い勝手が良くない。何か足りない。じゃあそれを一つずつ改善していくしかないねと。狙い目はだいたい方向はここだってわかってるんだけども、それを実現するための技術手段がまだ不十分だった。こういうことだと思います。
その後カシオの中で、当然ながらプロジェクト解散ということになって、研究部門の一研究員として、私もそこでその次の開発をなんかできないかということで考えていくんですけれども、この辺で、何をやるか考えなきゃいけないということで、一番最初に考えたのは、実はデジタルということだったんですよ。
カシオって、昔からそうなんですけども、デジタルということも、すごく当たり前のように使っていた会社でございます。電卓という言葉の中にも、実はかつて、それこそ手回しの計算機から始まって、それを電子的なエレクトロニクスの力でリレー式計算機っていうのもするわけですね。その後それが半導体化されていって。この辺の過程で、デジタル的に扱う技術というのは、かなり蓄積してきたわけであります。時計というものも、実はアナログの時計だったものも、デジタルということが出てきていますことになるわけで。だったらそのデジタルという、社内にこういっぱいある、そういう技術を駆使してなんかできないかなっていうのは、まず最初に考えます。今でこそもう正解が出てるもんなんですけど、デジタルカメラというのは、デジタルという言葉は切っても切れない関係にあるわけで。
一番重要なのは、半導体の技術を使って、今まで磁気媒体だとかそういうものを使っていて、アナログ信号で扱っていたものをすべてデジタル化してみようというのがまず最初のテーマとしてありました。そういう中で、じゃあデジタルで何がどこまでできるかやってみようということで。試作品を作るわけなんですね。デジタル化ですね。画像をデジタル化するということで。基本の技術というのは、イメージセンサがあって、そのイメージセンサから出てきた信号をデジタルに変換して、それをメモリに取り込む。それを読み出してきて、例えば表示をすると、こういう一連のシステムです。
これをじゃあ試作しましょうということになって、実は試作をしました。これがカシオの中でやったのが1991年だったんですけれども、一応商品とし、商品ではないんですね。まだ試作品として、このぐらいの大きさの大きな弁当箱みたいなものを用意しました。これで、一応デジタルで取り込んでメモリに入れて、それを出力できると、こういうものを作りました。
当時2台試作品を作ったんですが、その画素数も40万画素ぐらいの画素数で。一応3倍ズームのオートフォーカスかなんかついてたりして。メモリユニットって大きなの、このくらいの弁当箱の下半分みたいな感じで取り替えられるような、こういうメモリユニットがあります。これは12メガバイトという、「SRAM」なんです。この12メガバイトをガシャンとつけると、これ取っ替えひっかえできると、こういう代物を作りました。まあ作りましたというとなんなんですけれども、実はこれが後々えらいことになりましてですね。未来文化遺産というものがあるんですけれども。これになんと登録されたんですよ、これが。未来文化遺産の話、ちょっと先へ飛んでしまいますけれども、QV-10ももちろんその中に入っているんですが、それこそ大きなものは、H2のロケットとか新幹線とか、こういうものがいわゆる未来遺産としてこうある中で。先ほど作ったデジタルカメラの試作品、DC 90って言うんですけれども、これが2台あるんですよ。それぞれうちのメンバーがいたずらでつけた名前が「熱子（あつこ）」「重子（おもこ）」っていう、そういう名前がついてるんですけど、なぜかっていうと、重いんですよ。まずやたら重い、2点何キロかあったんですね。それから、動かしていると、ものすごく発熱をするので、熱くなるんです。熱くて重いということで、2台あった名前が「アツコ」と「オモコ」っていうか、この名前でシールを貼られてやったんですけど、そのままの名前で、未来文化遺産（：重要科学技術史資料(未来技術遺産)）として登録されております。まあジョークが好きな方もいるんだなと思いますけれども。そこで言うんですけど、熱い思いっていうのはいいんじゃないですかと、熱い思いがあるんだということで、作ったんですけれども、とはいえ、まだ商品にするには程遠い。何か足りんぞ、何が足りないっていうのはいろいろ考えたんですね。
そこで出てきたのは、液晶ディスプレイなんですよ。液晶ディスプレイをこれにくっつけたらいいんじゃないか。今でこそ当たり前に液晶ディスプレイを使っていますけれども、熱子と重子というやつを作って、いろいろ、あちこち持っていくんですね。持って行った時に、モニターできないといけないので、液晶ディスプレイが必要だねって話は当然になるんですが、たまたま、カシオ計算機が液晶の事業を当時始めていたんですね。液晶ディスプレイの事業を。ハンディのテレビ、持ち運びができる小さなテレビをちょっと作っていました。そのテレビを、この作品にガチャンとくっつけて、撮った画像のほうで見て、屋外でいろいろデータ収集などをやるときに非常に便利だった。逆にこれはこれなしではいられないぐらいのものだというのがわかったわけなんですけども。そうか、液晶テレビというのをこうくっつけたらすごくいいよねということで、デジタルということで、当時液晶のディスプレイというこの二つのキーワードが試作の中で出てまいりました。ここまで来たらそろそろ面白い商品ができるんじゃないかねという話をしていたんですが。
実はその開発の段階でもう一つやっていたことがありまして、当然ながらその撮ったデータを何か別の場所に保管するという必要があるので、当時まだパソコンというのはあまり大きなものではなかったですけども、一応PCの9801とか、ああいうパソコンがあるわけです。そこのところに線でつないで、この中のデータをパソコンで読み取ろうと。読み取ったデータをきちんとデータが取れているかどうか分析するためには当然そういうことが必要なので、それをやっていました。まだ当時、ハードディスクなんてのはろくに容量がないような状態だったのでデータをたくさん画像をストックするとか、そういうことはあまりできなかったですけれども、とにかくそういうところにデータを取ってあると。その試作品から取ってきたデータをここにディスプレイに出してみて、ああだこうだと、こう研究者で言ってたわけですね。当然それを、こっちから見ていれば、これってパソコンにつないでというのは、すごいことだよね。そういう思いもありまして。
結局デジタルというところから始まって、液晶ディスプレイをつけましょう、それからパソコンにつないだらどうだという、この三つのポイントが具体化してきたんですね。でも、この時点ではすべて研究室のレベルではこうつないで動いているわけですから、あとはこの商品をもう1回やるとすればプレゼンのやり方をうまくすれば、こんなのができる。こんな小さくしたらすごいじゃないですか。大きいものを小さくするなんて、エレクトロニクスの世界でいくらでもできそうじゃないですかという話になるんですよ。そこで次のプロジェクト、またやろうと私も思いました。今言った三つのキーワードをポイントにして、またその役員会にかけてみるんですね。こういうことをやりたいんです。

――それは何年ぐらいなんですか？

末高：それが、93年ですね。先ほどの試作品をしたのも91年で、それからまあいろいろこうやってきて、実際には92年から93年にかけて、そのプロジェクトを作ろうという動きが活発化しています。

――で、またプレゼンした？

末高：そうなんです。プレゼンしました。最初に言われたのは、「またお前か」。お前ダメ。いきなり言われるんですね。お前ダメだって、この間やったあれ、いくら損したかわかってる？みたいなとこから始まりまして、プレゼンよりもお叱り。お前また会社に迷惑かけるつもりかみたいなことを言われました。言ってみれば、石橋を叩いて渡るということなのかもしれませんけれども、同じ人間が一度失敗して、またやりたいって言ってるよぐらいの感じだったんでしょうね。だからあまり会社の中では評判は良くなかったです。ただ、だからといってすぐ引っ込めるのが嫌なんで、あの手この手でいろいろ、プレゼンの場を作っていただいて、やっていくんですね。
当時液晶ビジネスを、液晶の製造を始めたりして、ビジネスにしようということで、いろんなものがあの時代、当然テレビ、液晶のポケット、液晶テレビから始まって、例えばプロジェクターとか、そういったものをいろいろプロジェクトやろうという動きがあったんですよ。
そういう中で、とはいえ、そこでこう絵を出すのに、対外的にやる時に、例えば液晶テレビのソースとして必要だということになって、かといって、そのビデオカメラが他社さんの持ってきてやるのもということになったら、じゃあここに商品ありますよっていうのが製品というか。例えば先ほどの熱子ですね、あれを持って行って、これをつないでこんなことできますっていうのは、そうです。液晶テレビ側のプレゼンのところに、こう横につなぐということで、ちょっと存在感を見せたりしてたんですよね。そうこうしてその液晶テレビのラインナップを作る会議かなんかの時に、こんなもんをちゃっかり置いて見せたりなんかして。こういうことをやってるうちに、上の方も「何だあそこにあるものは」という話になって、実はっていう話になったりなんかすると、この辺からだんだん可能性を見出してくださった人が何人かおいでになって、それでプロジェクトがスタートすることになるんです。これが1993年の4月にプロジェクトをスタートします。だいたい方向性はほぼ決まっていたので、すぐにその作品を作りました。

――何人ぐらいで？そういう時って、じゃあ開発部門の中からアサインされて？

末高：あの時、最初に集まった人間っていうのは、6人ぐらいだった。

――じゃ、その開発。百人ぐらいいらっしゃる開発の中からこう関係しそうな人を組織の中で。

末高：当然ながら、プレゼン資料の中にはこういう人間でやりたいですってのを書くんで。事前に根回しみたいな話で、いろいろ話をして、それで言うんですけれども、当然ながら、そういう人たちっていうのは、他の人の部下だったりなんかするわけで、お前、何を横取りするようなことしてんだみたいに言われて。まあ、そうはなったんですけれども、結果としてはよくわかったと。とりあえずそのままプロジェクトで試作ぐらいまでやってみるということになりました。
実はその前からいろいろ、設計は個人レベルでいろいろやったりなんかしていたので、プロジェクトがスタートすることになってから、ほぼこれと同じものを試作するんですが、それまで六ヶ月でできました。基本の設計はほとんどもう前段階で、みんな、それぞれ横の状態でやってたものですから。六ヶ月後にほぼこれと同じ大きさを。大きさ、デザイン。多少変わりましたけども。試作品――

――もう、93年のじゃあ秋にはあったと

末高：もう93年の暮れにはありました。当然ながらみんなでそのフィールドテストをいろいろやるんですが。

――試作品を1993年の秋暮れまでには、もうほぼ製品と同じものが。

末高：はい、そうでしたね。

――じゃあこの乾電池で動くような、こんな感じで。こんな感じもできた。

末高：そうなんですよ。もうこれをこうやって動いて。ただメモリ、中にですね、イメージセンサがあって、それから中にそのRISCプロセッサから。メモリがですね、当時のフラッシュROMを使っていたので、容量があんまりなかったんですね。その容量がそれこそ4メガバイトとか、そういうレベルだったと思います。実はその少し後でメモリ容量が多くなっていくんですね。いわゆるそのEEPROMから、そのエフロム的な、今のメモリのやり方に近い形で出てくるんですけど、そのメモリに乗り換える前だったので。

――EEPROMなんですか？

末高：それ、EEPROM。EEPROM最初使った時は書き込み時間かかるし、それから容量もあんまりなくて。これは20枚ぐらいしか取れないような、そんな状態だった。

――とはいえ、電池が切れても、これは画期的だったと思うんですけど。この製品に話がちょっとストップするかもしれないですけど、この製品のこのアイデアというんですかね。今のメモリの話もそうですけど、これに込めたこの工夫というか、苦労したところとか、その辺も伺えると。製品の苦労とか、多分この後になると思うんだけど。もう試作でこのスイベルがもうついてたんだとすると、どんなインスピレーションがあって、その試作になったのかみたいな。

末高：当然液晶ディスプレイで見るということで、こっち側からこう見るわけですね。で、一番よく見れる角度っていうのはやっぱりあるわけで、その角度を見た時に、このカメラで撮れるところはこっちの向きしかないので、なんとかしなくちゃと。で、最初はじゃあ。

――液晶の視野角があるってことですね。

末高：視野角もあるし、それから見る角度というのも、当然ながら一番見やすい角度っていうのがあるでしょうと。で、例えばこうやって見た時に前を撮りたい。それからこう上からこうやりたい。こんなことをしていると、そのカメラの向きがそのディスプレイに対して垂直方向だけに固定されていると撮れないよね、ということになって。これはある意味、試作をしてから。

――割と自然に出てきた。

末高：そう、自然に割と出てきた。だからなんか回らないとまずいよねと。で、それこそ、ひっくり返して自分を撮るとか、こんなこともできるようにしてみようか。最初はそれこそこう外れて、こっちだけ別にしてくれとかいう話もあったんですけど、ちょっとさすがに、無線でつなぐっていうのもなかなかまだできなかったんで。そんなことで、ここをこう回せる。

――もう、自撮りもやってた。

末高：そうですね。だからぐるっと180度があれば自撮りになって、画面がこう反転してしまう。でも、こんなところまでは考えましたね。で、当時のプロジェクトメンバーの、やっぱりメーカーの担当の人間がこうやりたいということで、じゃあやろうやろうって言ってやったところでした。で、これやっぱり良かったですよね。いろんなところに向けられるところだけでも全然違う。
今でこそ、その液晶ディスプレイを見ながら写真を撮るというのが、まあ自然な行為に見えますけれども、この当時はまったくそんなことなかったですから。カメラっていうのはこうやって撮るんですよ。こうやってもう目にペタッとくっつけて、その向きはこっちという。これで、あとはこうやって、こういうものだった。それがやっぱり液晶ディスプレイとの組み合わせで考えたらそうじゃないということが、まあ、原点にあったということだというふうにお考えいただければと思います。
で、あとはここのレンズの仕様だとか、センサーの画素数だとかっていうのをどこの辺にまとめるかという話が一つは出てまいりまして。で、これは一つはコストとの兼ね合いで、この商品いくらぐらいにするべきなんだろうなというところからだいたい決まってしまうんですけれども。もう最初から言ってたのはもう5万円以下で売ろうと。それが最初にあったんです。これ5万円以下にしようよという話で言っていって。となれば、例えば電子部品にかけられるお金はいくら、あるいはレンズはいくらぐらいで、筐体はこういうふうなことが出てくるわけですね。で、そういう中で画素数もまあせいぜいできてもまあ40万画素ぐらいかな。だからレンズも固定焦点で、まああるとすれば無限と近接の2段階切り替えぐらいかな。ズームレンズとかできないよね。で、まあ、メモリもそんなにたくさん載せられないねって、こんな話をいろいろして。それでもできるところで、やった結果がこれだったんですね。

――JPEGはもうその頃は普通に。拡張子違うけど、中身JPEGですよね。

末高：そうですね。当時、そのJPEGの懇談会ってやっぱりあったんですね。あれは電子機械振興会、どこだったかな。どこかが主催して、やっぱりやってまして。で、カシオのメンバーもそこのところに行って、JPEGの策定にちょっと協力をしていた時代でした。

――じゃあ、自然な流れでそれを売った（：使った）という。

末高：当然ながら画像をそのままRAWデータでセーブしたら、とてもじゃないけど入らないから圧縮しようよということで。じゃあそのどうやって圧縮するかっつったら、やっぱりJPEGだね。まあ当時、まあJPEGってかなり、画期的というか、新しい技術ではあったんですけども。まあそれでやろうということになって。そんなこんなをやるのに、その中身でそのどうやってやるかっていうので、アルゴリズムわかるんだけれども、そのハードウェアとしてどう作るかっていうのが。幸いにして、この中身にそのRISCのプロセッサが入っていて。で、いわゆるソフトウェアを使って、その圧縮をして書き込むということをやることができたんですよ。

――結構ほどほどのチップなんですか。

末高：そうですね。結構しっかりしたチップだったですね。日立さんの。いわゆるH8のもっと前の時代だったかな。その辺のやつを使ってました。

――H4でもっと後な気もします。

末高：それでイメージセンサに関しては、なかなか入手が困難と言いますか。イメージセンサは一般的に使われているのはもうビデオカメラなんですね。どう見てもビデオカメラで。で、ビデオカメラっていうと、もうそれこそいろいろな商材として、いろんなメーカーさんがしのぎを削ってやられているので、自分のところではないわけで。例えばソニーさんのところに行って、イメージセンサ売ってくださいっていうことになると、どのような商品をお考えなんでしょうかみたいなことを言われるわけですよね。実は…って、こんな話をすると、すいません、今ちょっと用意ができないんでって、断られて。で、イメージセンサはなかなか手に入らなかったですよ。今でこそね、それこそのデジカメとイメージセンサは切っても切れない関係なんですけれども。他のいくつかのメーカーで使っていらっしゃるそのイメージセンサにさせていただいてということで。これは確か三洋電機さんが作られたものを使っています。
この前の時代は実は日立さんが作られていたセンサー、CMOS（シーモス）センサっていう。この時代でCMOSセンサ。ここはね、まだCCDなんですよ。CMOSが入って。

――すごいですね。

末高：こっちの時代がCMOSなんですよ。びっくりすることに。まあ、CMOS、MOSセンサーと呼んでいたんですよ。日立さんが作られていた。

――ビデオカメラ用の撮像素子なんですか。

末高：そうですね。こちらはビデオカメラ用の撮像素子です。技術的にはビデオカメラ用なんですが、これまたインターライン型とかフレームトランスファー型とかあるんですけれども、これはフレームトランスファー型のイメージですが、こう使ってます。これは出力映像との都合がいいということで。
で、一般的に動画を撮影するのは、いわゆるインターライン。読み出しをやるので、グラムトランス（：？　56:20）が必要ないんですけれども、まあ、シチューター（：？）ということで、こちらを使ったというところでございます。完全に動かない絵を撮るためには、いわゆるメカシャッターで、こう閉じて真っ暗にして読み出さないといけないんですね。普通のセンサーですと。そのメカシャッターもないのでいいということで、そういう意味では、いろいろと小技や工夫を凝らして、いろんなデバイスを、この中でイメージセンサーだとか、CPUだとかメモリだとか、そういうものをこの中に閉じ込めていったということでございます。
これをさすがにここまで行けば、商品化させてくれるかなと思ったんですが、営業サイドからすると、これではまだ、なんかパンチに欠けると。言ってることはこの時代から変わってないじゃないかと。値段がちょっと安くなって半分ぐらいになったってだけだよねという状態で来ました。そこで、なんとか社内の人間を説得できないのに、世の中を説得することなんかできないということで。その例えば、じゃあこのカメラ、こういうものがあったら、何がどんなに便利になるかということを、いろいろと考えてみようということで。どんな用途に使いますか？という用途百選とか言ってですね、いろいろ書き出してみるわけですよ。

――よくやるんですか、そういうのは？

末高：あんまり普通はやらなくても、いきなり商品化してしまうんですけれども、先ほど来この失敗が尾を引いていて、なかなかすんなりOKが出なかったところがあって、かなりいろんなところを説得する必要があったんです。

――説明商品ってやつですね。いわゆる。

末高：そうです。まあ普通ですとね。今になってみればわかるんだけど、例えば十人その決裁をする人間がいて、で、そのうちの例えば3人か4人でもOKって言ったら、まあ、残りの人間が強固に反対しなければ、だいたい商品プロジェクトってスタートするんですよ。
ところが、3人4人以外の人間が「待て、待て」というか、こういうぐらいだったんで、そういう状態だったから、この人たちを説得しなければ前へ進めなかったというのがありました。カシオ計算機はそういう状態だったんですけど、実は他のメーカーさんのお話を、後からいろいろ聞いてみると、実のところ同じような状況がやっぱりあったようですね。で、その説得がうまくできなかったというか、結果としてはプロジェクトがボツになったとか、そういうことをよく聞きます。実はこの話をしている中で、先ほど来言っていた懇談会というのがありましたが、実はそのメンバーっていうのはずっと相変わらず集まってたんですよ。その中でみんな思いは同じなんですね。なんかこう、俺たちがこう考えた。こういうものって、絶対世の中を変えるはずだよね。でも、まだ決定打が出ない、そういう段階がずっと続いていて。それで実はこの試作品を、最終的にはこの94年の11月に量産することがやっと決まるんですよ。丸一年後。プロジェクトがスタートして一年半ですね。で、試作品ができてから約一年です。普通こんなにかけないんですよ。量産化の決定っていうのを試作品ができた時点で普通やるので、一年間そのブランクがあってですね、この一年間でやっていたことが、こんなことに使えないかとか、あんなことがとか、こういう話を実はしていたんですよ。
で、そんな中で、当時、他のプロジェクトがいくつかあったというふうに申し上げましたけれども、例えばプロジェクター。こういう液晶で外に出すようなプロジェクターですね。
そういったこういろんなものがあるので、先ほどのその、こういうものの、映像データのソースとして、ここからビデオ信号が出るんで。で、今度この試作品を持ってるんですよ。前はそのでかかったやつ、重子熱子だったやつが、今度このぐらいの大きさになったと。で、相変わらず向こうもプレゼンやって、いろんなところで、まあお客さんに見せたりなんかしてるんですね。それにこっそりこうやって持っていくんですね。こうやってつないで言うと、まあ目ざとい人はこの間のあれ、こんな小さくなったなみたいな感じで出てきたりなんかしまして。ようやくそのいろんなところに、なんか理解が広がっていくということをやっていたのがこの一年間だったんです。

――長いですね。

末高：実はこの一年っていうのは決して無駄ではなかったということが一つあります。それが、実は1995年なんですけれども、Windows 95っていうのがあって。で、Windows、まあウィンドウズがすごいというよりも、やっぱりパソコンがコンシューマーにある程度認知されるという、そういうきっかけになったのは、そのOSだったんだと思うんですけれども、実はこの前の94年っていうのは、カシオもいろいろ、そのMicrosoftともビジネスをやっていたりなんかして、ハンディターミナルを作っていたんですね。で、そういうことをやっていて、その1995年の1月に、毎年なんですけれども、ラスベガスでコンシューマーエレクトロニクスショーというショーがございます。まあ、この当時もやっていたんですが、だいたいカシオの新製品をここでお披露目をするというのが定番だったんですね。で、そういうので、94年の終わりになって、これに乗り遅れると、それこそまた一年もかかって。で、ようやくと94年の11月にこの商品化をやって公式発表をしていただいて。で、この95年の1月のラスベガスにこれを展示するんですよ。で、ブースも何も時間がない中で、なにしろ発表してから一ヶ月か二ヶ月しかないんで、それこそ今まであのブースのここ周りとか、そういうのもみんな決まっちゃってる中で、ちょっとちょっとこれだけ、このテーブルだけでもこれ用意してよみたいな話で、そんなとこから始まるんですよ。で、まあしょうがない、誰もそのやってくんないなら自分で行くかということで、自分でそれこそ行って、そのコーナーに出ますって言って、いろいろやってきました。
で、この95年の1月が非常に面白かったのは、パソコンもそういうわけで、かなりその当たり前になってきて。そのパソコンにこの画像をつなげて、それでその撮った映像、その場で見せられるっていうことが、思ったよりはるかにインパクトあったんですよね。

――え？94年に量産して、発売もすぐしたんですか。

末高：いや、これはまず量産を決定しただけ。要するに発売するのは実は95年、次の年の3月なんですけれども、この時点では公式発表として94年11月に「来年95年3月からQV-10という商品を発売します」と発表しました。

――発売発表だったわけですね。Windows 95はアメリカで8月、95年の8月。日本は11月23日とかでしたけど。

末高：それよりちょっと前なんです。

――ただ機運的にはあったという感じですかね。

末高：当然その、Windows 95ではないけれども、その前のOSというか。

――3.1が結構もう熟してきていて。

末高：で、それをベースにしている中で、つないで出すということをしていました。

――で、ショー会場でまあインパクトがあった。

末高：ええ、そうですね。やっぱりまだそこまで、手に持てるような形でPCにつなげるような、そういうカメラがなかったということが一番大きかったと思います。当然その見た人はびっくりするわけですし、びっくりするだけじゃなくて、特にこの液晶ディスプレイを見ながら撮影をするというこの行為が、非常に面白い、受けたということですよね。で、当然ここにも見せられるんで、「ほら」って見せたり。それからパソコンにもっと大きくバーンと出ると、それはびっくりしますよね、みんな。今でこそ当たり前なことなんですが、最初にやったという意味では面白かったと思います。

――まだネットがどうとかはないですよね。95発売後ですからね、ネットが盛り上がるのは。

末高：実はこんなことをやっていたので、Microsoftもこれ面白いって言ってくれまして。Windowsの話もあったんで、その、じゃあこれちょっとつないでこういうことができるようにしようとか、そんなこともいろいろ話させていただきました。まあ、話題の中には、それこそそのうちの役員がエレベーターでビル・ゲイツに乗り合わせて、これを見せたらしいんですね。非常に興味を持って。「これぜひくれ」って言われた。「ぜひQVくれ」って言われたんだけど、まだ発売前だったんで。で、「目録としてじゃあ、まだ発売前」って言っちゃったということで、渡したというようなことで、後から何十台とか送ったとか言ってましたね。
まあ、面白いところから始まったんですけれども、やはりその後、事業としてどう売れるかっていうのはすごく心配だったですね。ただ、こういう商品があるよということを告知した段階から、やっぱりいろんなところからお問い合わせをいただいて。それこそ雑誌の方とかそういうところが、こんな面白いもの出たというんでご紹介いただいたりして。
で、それこそいろんな方が、アーリーアダプターの方々とか、いろいろこういうものを使っていただいた。そういう中で思い出深いのは、坂本龍一さんがこれを買っていただいて。で、「これなんか、こんなふうになっちゃったんですけど」とかメールをいただいて、「すみません、こういうふうに直すんですよ」とか。そんなやりとりをさせていただいた思い出があります。それから次が、インターネットなんですよね。

――3月に発売されて、もういきなり、バーンと売れたんですか？

末高：最初は実はその、94年の段階で11月で発表した時には、月産予定台数3000台って言ってたんですよ。ところが実際は95年3月に発売するんですけれども、実は100台しか作ってないんです。いや、だから一応発表するのに100台ってわけにはいかないんで、3000台って書いたんですけど、さすがにその3月の時点でそれ以上の量産体制を作れなかったんですね。で、やっと用意できたのが100台で、それをこういろんな…

――量販とか？

末高：量販店さんとかに置くんですよね。で、100台しかないんで、当然買いに行ったら品切れなんですよ。面白いもので、品切れになると、「うちにももっとよこせ」って皆さんからおっしゃる。そうすると、営業部隊のところにものすごいたくさんの方が来るんですよ。で、それを聞いて、営業もびっくりして、もっと作れという話になって、慌てて作ったと。で、その後でようやく、それから3ヶ月くらいかかったんですよ、本当に。3000台作れるようになるのに。でも、おかげさまで、雑誌の関係の方がいろいろ宣伝していただいたり。だから、そういう量販さんからのオファーが結構あったりということになって、これはいけるぞという動きがやっと出てきたというぐらいでしたね。それが95年前半の動きでした。
で、その後がWindows 95とか言って、そのままEメールとかそのインターネットとか、そういう話が一般的になってくるんですけれども、まあそうなると当然その撮った映像を人に送るとか、そういうこともできるようになる。ここへきて、ようやくその今のデジカメの使い方に近い形が整うのが、この1995年だったというふうに思います。

――95年のまあ終わりですね。

末高：終わりですね。そういう意味では、それこそ100台しか作れなかったですが、ようやく暮れには、もうそれこそ何千台とか、そのぐらいの数量を作れるようになりましたので。でも結構数は出たんじゃないかなと思います。

――その作れないっていうのは、その工場の体制ができないからとか、そういうことなんですか？

末高：やっぱり準備期間ですね。材料いろいろ集めてきて、すぐに、昨日の今日ですぐできる問題でもないので、それで工場のそのラインの構築だとか、そういうこともあって、多少時間がかかってしまったということです。
こうやってQV-10がやっと世の中に出てまいりまして、で、まあいろいろデザインを変えたり画素数を変えたりっていうんで、商品化のラインナップというのをいろいろ考えたり、こんなことをするので、じゃあ事業としてやりましょうということで、そのQVという名前を使って、QV事業本部というのを、実はその箇所の中に作るのがその次の年になりますね。1996年5月に事業として事業本部が立ち上げられます。

――どういう時にそういう事業本部化するんですか？大型商品になったという…

末高：はい。95年の生産台数を見てみると、3月には100台だったけども、その次の年（：月？）には3000台ぐらい作ってたんですね。で、5月からは1万台、12月は月産で3万台ぐらいの数が出ていると思います。ようやくコンシューマー商品らしいものになって。で、値段が…これは実は定価というのも後であったんですけど、6万5千円。まあ、実際の販売価格というのは、いろんなお店の選択によって多少ありますけど、だいたい5万円ぐらいで。まあ、我々が意図した値段でお客様には渡せるようになったということがありましたね。ここでようやく一応ビジネスとしてもなんとかなったので、私も胸を撫で下ろすということになりました。

――買ったのはどういう人たちで、どんな市場の反応が…まあ、先ほど坂本龍一さん、かなりとんがってらっしゃるから、アーリーアダプターは買ったっていうのはわかるんだけど。どんな反響があって、予想とはどう？どのくらいやってたのか？

末高：お買いになってくださった方は、べつに特別な業種の方というわけではなくて、最初は多分「面白いな」というところから始まったと思うんですね。やはりパソコンをよく使っていらっしゃる方がお買いになるケースが多かったと思います。これは今までの、例えば家のカメラの代わりとして使うということは、まずあまりなかったと思います。これが出たからといって、銀塩のカメラがなくなるというわけではなかったですね。後にはそうなっていくんですけれども、それまではまだまだ超えなければならないハードルだったと思います。
まず最初は、今までこういった電子スチールカメラから始まったいろいろなコンセプトを、ようやく手のひらに乗るような形で具現化できたというのが一番大きかったし。それをやはり待っていてくださった方がいるんだということだと思うんですね。パソコンユーザーさんが多かったし、それから、例えば紙の資料を作る時にこの写真を入れたいとか、こういうことをやはりお考えになる方が多いんですけれども、そういう時にこれがすごく便利だということが話に出たり、そういうところから始まっていったかなと思います。
当時はワープロなんていうのもあったんですけれども、実はカシオ計算機でもワープロの専用機みたいなのを持っていたりして、そういうものにつなぐという形でプレゼンしたりもしました。そういう用途の方がやはりお買い上げになったというところから始まると思います。

――情報家電とか言われた時代の。

末高：そういう形ですね。だからビジネスとしては大変うまくいったなと思うんですが。これを見ていらしたその他のメーカーの方々は「ウチでもやればよかった」って。だってやりたかったことばかりだから。もう本当にね、この商品が出てから数ヶ月、半年以内で、他のメーカーさんから似たようなものがいっぱい出るんですよ。やはり皆さんが同じようなことを試作されていたのかなと思うんですけどね。コンセプトとして、液晶ディスプレイがあってというところが大体共通だったんですね。
画素数で言いますと、実はあまり画素数は多くなかったんですよ。数十万画素ぐらい。
――20万画素じゃないですか？

末高：20万画素からせいぜい40万画素。なぜかというと、まだイメージセンサーの主たる用途がテレビにつなぐことだったので。テレビの解像度、今で言うハイビジョン以前のアナログのテレビの画素数以上のものが必要でなかったので。それでせいぜい40万画素くらいのカメラがビデオカメラとか、そういうので使われるセンサーが主流だった。すなわち、そのデジタルカメラ専用のイメージセンサーというものは、まだ作られていなかったんです。
デジタルカメラというビジネスが成り立つと分かってから、いわゆる画素数競争というのが始まるんです。要するに、今までの用途以上に画素数は必要ないと言われていたものが、もっと綺麗で、もっと表現力がある、そういう画像が欲しいという用途が出てきたので、ここからそのデジタルカメラの画素数競争だと思うんですね。200万、1000万、5000万画素って、いくらでも多ければ多いほどいいみたいな話が出てきて。

――レンズって35mm換算だと何ミリぐらいなんですか？

末高：何ミリだったかな。

――本当ビデオカメラ的ですよね。

――カメラ的な発想っていうよりはビデオカメラですかね。

――マクロが結構特徴的ですよね。

末高：画角で言うと、いわゆる50mmぐらいなんですよ。

――広すぎず、狭すぎず

末高：普通、スチールの場合にはもっと20mmとかそのぐらいが普通なんですけれども、まだ当時はそこまでイメージセンサーの方も追いついていないし、あまりワイドにしても使い勝手は良くないだろうなということもあったし。逆に小さく作るためには画角が狭い方がいいし。そうですね、そんな形で。

――つい最近でもデジカメがいっぱい出てきた時の特集記事を読んだばかりなんですよ。それなんでかというと、昔の月刊アスキーのDTPデータを今頃読むということ。やったのは一年前なんだけど、最近記事にあげたんですけど、その時読んだ記事がデジカメがすごいみたいなね。でも、その時もうかなりのメーカーが揃ってましたね。そうなんですよね。
末高：その後の話はもう画素数競争の話だと、メモリ媒体の話。

――媒体がいろいろ。スマートメディアとかね、いろいろ出てきますけど

末高：この辺の話もね、なかなか面白い話があって。「Exif（イグジフ）」（：Exchangeable Image File Format）っていう規格を作るにあたってね。やってたメンバーはその懇談会のメンバーなんで。

――ちょっとこれ後半でちょっとちゃんと回し出してから行きましょう。

末高：してやったりなんですね。だからああいう取り組みで日本からなんか提案をするなんて、今まで一個もなかったんですよ。Exifは唯一、日本から提案ができた

――MIDIがあるんじゃないですか？　まあ、通信規格としてそんなにあれではないか。

末高：■■（：聞き取れない）まではしてない。そういう意味で面白かったですよ。ちょうど、そんなこんなで、どっか寄って立つところが必要だなってんで、JEITAですね。

――JEITAが、当時はね。まあちょっとこれ後半に。なるほど、なるほど。いいですね。

――当時のQV-10の仕様を見ると、カメラ形式がTIFFビットマップ、ピクトマップ。これ、テレビジョン学会から持ってきたんですけど。この通りってことですね。なんか当時はまだ。

末高：っていうかね、まだJPEGっていう、「.jpg」っていうファイルがまだなかった

――一般的に「.cam」っていう。

末高：そう、そのファイル形式がまだ認知されてなかった頃なんで、勝手に自分で作りました。「.cam」勝手に作りました。

――でもね、拡張子変えるとちゃんとJPEGのソフトで読める。だから実質JPEGなんです。JPEGなんですけど

――実質JPEG

――うん。だから、そのさっきのお値段の話と同じで、後から調べるとなんかそこちょっと食い違いが生じる。そうなんですね。うん。あ、これ。

――CAM形式って、書いてあるやつが、実は中身はJPEG。

末高：中身はJPEGです。

――JPEGって拡張子つけたらJPEGになる。

――ファイル名変更だけですよ。

末高：いや、それ以外にかなり色々なデータとして入れてはあったんですよ。チャンネルとか色々入っていたり。うん、そういうことができる時代

――サムネイルも入ってたんですか。

末高：ええ。ファイル形式の中にそういうデータも埋め込んであって、それこそ何のカメラで記録したとか、そういうことも全部入って。

――そうですよね。うん。

末高：で、それをまたつなぐのがね。RS 232C

――そうなんですよね。じゃあもうスタートしますか

――はい。一応回してはいるので。

――さて、じゃあQV-10がそうやって市場に受け入れられたと。当時。技術的には今のデジカメに向かうまだ最初の一歩が踏み出されたということで。解像度の話がありましたけど、今、ファイル形式の話もとか。その辺から。

末高：当然ながら、その他社さんも参入されて、デジタルカメラマーケットというのが少しずつ形成されてくるんですね。それを象徴的に表しているのが、量販店さんなんかの売り場なんです。デジタルカメラコーナーなんていうのができちゃった。各社みんなドーンと（：並んでいる）です。となれば、一般の方も目にする機会が増えるし、ビジネスとしての面白さも出てくるということがいろいろありまして。
先ほど言っている懇談会のメンバーたちも、「お前のところ、こんなの出したな」「今度うちはこういうの出すんだよ」みたいな話がいろいろ出てきたり、そんな話をしていて、懇談会というよりも飲み会に近いような、そんな状態でやっておりました。
そういう中で、「何かでもやりたいね」という話があって。何が一番困ったかというと、先ほど来話しているデジタルカメラの技術革新の一つが画素数、もう一つがその記録メディアなんですね。画素数競争というのは、各社それぞれで「うちの画素数は1000万画素だ」とかやるんですけども、記録媒体に関しては何をするかと。内蔵型で外に取り出せないタイプのものから、メモリカードを抜き差しするような、そういうものに代わっていくわけですけれども、このメモリカードに関して、実はファイルフォーマットを標準化しようよ、という話が出てくるんですよね。
こんな話が出てきた背景というのは、いろんなメーカーがみんなで集まって、ああだこうだ言ってる中で、「うちのカードをそっちに挿したら絶対読めないよね」っていう話から当然始まるわけですよね。「そりゃそうだよね。メーカー違うんだから。でもこれって、みんなでやるんだったら共通した方が絶対いいよね」、こういう話になるわけです。
じゃあどうするっていう話になったときに、「じゃあうちのやり方をみんな右にならえでやれ」とか、そういうことを言うかと思いきや、そうではなくて、「じゃあ新しく作ろうよ」っていう話になって。実はそこで出てきたのがExifっていう、そのファイル形式。ファイル形式というか、あれはファイル構造なんですけど、それに関して、じゃあみんなで作ろうということになりました。
そういうのを受け皿としてやってくださったのはJEITAですね。あの方々が、「じゃあ、うちのところで、そのカメラの懇談会を引き受けるから、同じメンバーでみんなおいでよ」ということで、JEITAの一つの部会として、そのグループがそこで落ち着くようになったんですけれども。そこで、先ほど言ったExifという・・・

――あのメモリカードの標準化とかをJEITAがやってたのも関係ありますか？

末高：そうですね。そこは外形と言いますか、そういうものの標準化というのはかなり進んではいたのですが、中身に関して、「カードは挿せても読めないじゃない」みたいなことが出てくるので、それでデジタルカメラというところから、その画像ファイルフォーマットを何か決めようという話が出てまいりました。単体の画像でいくと、例えばJPEGとか、そういうのは当然ながらあって、それはやり取りできるんだけれども、そのカメラそれぞれでいろいろな付帯する情報だとか、そういうのを記録して。

――撮影日とか。

末高：そうですね。そういうそのいろんな情報を、他のメーカーのやつを差し替えても動くっていうふうにしたらどうだっていう話がちょうど出てきて。それで「じゃあそれやろうよ」っていう話になって、やったんですね。
実はそれが、JEITAから始まって、「いや、日本だけじゃないよ。これ世界中のメーカーがあるよ」ということで。当然ながら、当時コダック（：Eastman Kodak Company）だとか、そういうのは海外のメーカーさんも当然参加されていたわけで。そういうところで、IEEE（：米国電気電子技術者協会）に標準化として出そうということになったり。なんかそんなことが出てきて。

――何年ですかね？Exif。

末高：えっとね。ここにあるのは…

――本来、僕らが調べてくるところかもしれないんですけど。98～99年ですかね。

末高：98年から2000年にかけての互換性に関する話がやっぱり一般的になってきて、標準化の活動としてはISO12234、これ2001年。最終的にISOになったんですね。

――なるほど

末高：ISOのテクニカルワーキンググループTC42というのがあって、そこでExifが出てまいります。

――それによって、各社間のそういう付帯情報ですかね、画像以外の情報が標準化されたと

末高：そうですね。まずは最初は物理的なカードのそのインターフェースとか、そういうものが最初として当然あったというのは、そのJEITAの話としてあったんですけれども、それが中身をどうしましょうという話になったのが、だいたいその2000年という話になります。

あ、ちょっと違いました。全く違います話が。ExifのVersion1というのがリリースされたのは、実は95年の10月です。

――そんなに早いんですか

末高：早いんです。ごめんなさい。内部で話をしていたタイミングとしてはですね。

――じゃあ、QV-10が出て他社はまだこれからぐらいのタイミングで、もうそのグループの中では話が。

末高：だからもう95年という年は、そういう忙しい年だったんですね、いろいろ。そこでVersion1が出たのが95年の10月。それがVersion2が97年11月で、今やってる2.1なのかな。これ。98年の6月がVersion2.1というのになりまして、この2.1になった段階でISOの規格に2001年に正式採用になると、こういうこと。
もう一つあったのが、DCF（：Design rule for Camera File system　カメラファイルシステム規格）というのがあって。Exifというものだけでは、ファイルの、中身の一つのファイルの中身がExifなんですけれども、それをどういうそのフォルダだとか、そのフォルダの形だとか、そういうふうにしていきましょうかっていうのを決めたのがDCFという規格なんです。これが98年にDCFのVersion1というのがリリースされます。この段階でJEITAが技術審査を行って、お墨付きをつけるということになりました。これもやっぱりこれはもう少し後、2007年になりますが、ISOに同じく出していきました。
そういうわけで、そのDCFとExifというのが、DCFがファイルの構造、Exifは単体のファイルの中身、そういうふうな形で、日本からISOに提案をするということがありました。

――今もね、ずっと、営々と続いている

末高：そうですね。それこそスマホの中のメモリもDCFというフォルダがあったりなんかして、これがまさにISOの規格ですね。そうですね。これは本当にデジカメから、日本が提案をしていった。確かに大きな技術だと思います。
こういった共有化と言いますか、共通化っていうのが、そのファイルフォーマットだけに限らず、例えばそのプリンターにカメラからデータを送ってプリントさせるような、そういうアルゴリズムだとか、そういうものをいろいろ提案したりですね。あとは赤外線を使ってデータをやり取りするという方法だとか、そういうのをいろいろ決めていったんですよ。実は。その辺はもう、今でこそ当たり前になっているいろいろなことの中の一番の走りだと思います。

――なるほど、面白いですね。確かにそう言われるとそうですね。

末高：この辺になってくると、事業としてもどのメーカーも軌道に乗り始めて、だんだん今度は銀塩フィルムとデジタルカメラとどちらがどうだという話が出てまいりました。最終的には2000年、2001年だったかで、ちょうどデジタルカメラとフィルムカメラの生産台数がクロスする時代が来るんですよ。

――それとあれですよね。いわゆるコンパクトカメラと一眼レフで、ちょっとストーリーが違いますよね。

末高：確かに違いますね。だからコンパクトカメラの世界ではもっと早い時期にクロスになったと思います。

――カメラ全体ではその2001年ぐらいなんですか。

末高：結局は今ではもうすべてがデジタル化されてしまいましたけれども、そういう時代が20年ぐらい前にあったということなんですよね。

――一夜にして変わったりとかしたんですか。どうなんです。

末高：デジタルカメラが出てから、QV-10が出てから5年後ですかね。5年ぐらい経って、各メーカーも揃って100万画素だ、300万画素だとどんどん増えていきますけれども。

――自然に銀塩ともう少しグッと動いていったのか。出荷ベースだと結構カタストロフィックなことが起きるじゃないですか。音楽とかって、MDプレーヤーって一夜にして売れなくなったんですよ。ストップしたんですよね。それってもうコマーシャルで、人々の意識が完全に携帯とかiPodとかによって、ある日いきなり売れなくなるんですよ。2004年の年末ぐらい商戦が終わったら。データが残ってるんですけど、そこまでドラスティックではなかったんですかね。

末高：もう一つ、実は大きな変革があったのがカメラ付き携帯なんですよ。

――そうですよね。99年ですかね。

末高：そうですね。写メールというやつが始まったんですけど。私、2000年にデジタルカメラから携帯の方に鞍替えしました。au、実はカシオはauにカメラ、筐体を供給してたんですね。それでauが初めてのカメラ付き携帯っていうのは、これは2001年になるんですけれども、A3012CAというカメラ（：携帯電話の言い間違い？）をauが出すんですけど、これは実はカシオ、というか私が実は設計したんですけども。このあたりからですね。今までデジタルカメラのビジネスをやっていた私自身は、もうその時代から携帯の方にビジネスを移しまして。

――単にカメラをやってたからとか、そういうんじゃなくて、単に会社に希望を出してとか、あるいは会社のアサインでいきなりとかあったんですか。

末高：携帯電話、当時の携帯電話のビジネスっていうのは、もう必ずキャリアさんがラインナップを決める。そうですね。キャリアさんがどういう携帯が欲しいというのを各メーカーに開示して、それでどのメーカーから何台、何を買うっていうのを決めるんですよ。そういう意味では、もうキャリア主導の開発なんですよ。

――社内的にはある日いきなりもうこっち、今携帯来てるからこっち異動だみたいな感じ？それとも希望を出してとか。

末高：もちろん希望を出してるんですけど。

――希望を出してるんだ。

末高：当時カシオ計算機はそのauに、G'zOne（：ジーズワン）っていう。

――分かります、分かります。

末高：タフネス携帯という形でやってはいたんです。ただ、あんまり数は多くなくて、そういう中で、まあ当然ながら、そのauとしても、そんなにそのカシオに王道になるカメラを期待してはいなかったようなんですよね。当時のカメラ、携帯っていうのは、まあいわゆるそのスティックのタイプから折りたたみへっていう、そういう時代だったんですが、カシオでも今まではスティックな形しか作ってないんですよ。それをその折りたたみの携帯をやりたいねって言ってたんですけども、ただの折りたたみの携帯はもう他のメーカーにもあるし、特にいらないよというふうに言われるわけですよ。じゃあその何か一つ足さないとキャリアさんが取ってくれないということで何をしようかということで出てきたのがカメラだったんですね。まあというか、カメラをつけようよっていう話をしていて、じゃあお前やれということになって、私がその開発の部門を引き継いでやったんですけども。それでauさんに言わなきゃいけないんですね。この、カメラをつけてやりましょうと。当時その写メールをやっていらした・・・

――J-PHONEです。

末高：J-PHONEがやっていて。でauもじゃあカメラ付きやりませんかっていう話をまずしたんですが、あんなの売れないよって言うわけですよ。

――出る前、出て直後とか、そういう感じ？

末高：だから1年ぐらい経ってはいたと思うんですけど。まず絵も汚いし、デジカメよりは全然品質悪いし。で、もう使わないよみたいな話だったんですね。ドコモさんもまだやってなかったんですね。

――J-PHONE、弱かったというのもあるのかな。

末高：でじゃあJ-PHONEに供給してるのは一応シャープだったんですね。シャープさんとカシオって昔から、電卓の時代から競争してまして。それこそ新製品が出ると、次の日の机の上に設計図が。こう、次のやつがこう置いてあるとか、そんなぐらいの競争をずっとやってたんですよ。それをやっていたので、今度はその携帯の世界でそのシャープさんと競争するような、そんなことになりつつありました。私としても、なぜその携帯の方に移ったのかということなんですが、一つはカメラっていうものが、やっぱりカメラメーカーさんのテリトリーに近いところがかなり多かったですね。デジタルカメラはその後どうなったかっていう話をすると、先ほど言ったように、その画素数と、それからメモリーをしてくれるものとか、そういう話が出る中で、もう一つは、やっぱりカメラとしてのレンズの性能だとか、そういうものが重視されるようになってきて、例えば一眼レフもそんなデジタル化するとか、そういう話になっていくわけですけれども。そうなってくると、やっぱりその、もう一つやらなきゃいけないよねっていう話になって、ずっと思い起こしたところが、あ、そういえば電話を使ってどこかに画像を送るっていう話があって、パソコンでもそれを送れるようになったんだけども、その後進歩してないよねっていうような思いがあって。ちょうどその携帯をやっているときに、その画像、他人とシェアするっていう文化がもっと一般的になるはずだという思いがあって、私としては、その携帯のほうが面白いなということで。あくまでもカメラという切り口で、その携帯に手を染めるといいますか。その後、やっぱり今度は携帯の方でも、同じような動きがドーンと出てきて、例えば画素数がどんどん大きくなったり、それからディスプレイが大きくなったり、その非常に表現力が豊かになったり、より小型になったりで、そういうことになっていって。なんか初めてここまで来て、やりたかった、どこでもいつでも撮れて、好きなものをその誰かとシェアして、必要になればプリントしてとかっていうことができるようになったなあと思ったのは、やっぱり携帯をやってからですよね。

――なるほど。送れるといっても、パソコンに取り込んで、まだブロードバンドも来ていないから。数十メガのデータを送るのに、そもそも画面表示にも初代iMacですら何秒もかかっていましたからね。そういう時代でした。ハードが追いついてきて、それがモバイルでもできるぞという感じでした。

末高：そこから、ほぼ十年ぐらいです。

――コンセプトが形になったと。

末高：デジカメを始めて、この時代からだったらもっと前になりますけれども、QV-10が出たのは1995年です。それからだいたい六年間かけて、世の中にデジタルカメラなるものが一般化してきました。2002年とか2001年ぐらいから、今度は携帯電話にもカメラを付けるようになった。ちょうどその時点で、私もその携帯の方に移って、それから約十年間、2010年ぐらいまでずっと携帯の仕事をやってきたんです。もうこの時代になると、皆さんもご存知の通りで、最初、カメラを撮るという時に、こうやって離れて写真を撮る、要するに昔は覗いて撮ったのが、今は逆に覗いて撮るってどうやってやるんですか？って言われるような。それからフィルムカメラっていうのは何なんですか、それ？みたいな話になったり、そのぐらいやっぱり違いが出てくると思うんですね。
じゃあそのデジカメというものと携帯というものが、どう住み分けられていくかというのは、私が話すまでもなく、皆さんよくご存知のことでもあるし。デジカメはデジカメの、例えば画質を徹底的に追求する、レンズをうーんと良いものをやろうとか、そういう世界もあるでしょうし。その中でいうと、静止画だけだったものは動画も撮れるようになったっていうのは、結構大きなポイントだと思うんですよね。静止画だけではなくて、動画まで含めて撮れるようになったものですから。いわゆるそのビデオカメラというものもいらなくなるような、そんな時代になる。だから、そういう意味で、これはこれで一つのジャンルを形成するし、携帯がスマホになってという流れの中では、やっぱりこちらでも同じようにどんどんいろんなことができるようになってきた。ほぼここまできて、ようやくと、そのやりたかったことが実現できるようになったかなというふうに。そういう思いがあります。自分の欲しいものを、こういう映像が欲しいという場合には、じゃあこのカメラ、このぐらいの手軽さでやりたいって言ったら、こっちとか、そういうものをチョイスできるようになった。

――プリントはしなくなってきちゃったんじゃないですか？その三つのやりたかったことの中では。

末高：そうなんですよ。だから、こういったドキュメントに対してはあるかもしれない。紙の文化がいつまでたってもなくならないっていうのがまた一つあって、なくなりそうでなくならないという。ここのところはちょっとありますね。プリンターも一緒ですよ。

――まあ残したい。画面の中だけだと残した感じにならないとかあるから。そこのストレスがなくなったのは、ちゃんと達成しているという感じですね。

末高：よくあるのがアルバムって、昔あったじゃないですか。あのアルバムっていうのは、今ではもうノスタルジーですけども、あれもどうなんでしょう、あれはあれでなんかこう、存在意義があるような気がするんですね。それはプリントっていうものが未だになくならない一つの理由から、存在意義と同じようなものかなと思います。

――携帯でもずっとカメラっぽいところをやられたって感じ。

末高：携帯全体の事業部の中の開発、いわゆる開発をやってたので。その後、私も後輩に道を譲ったと言いますか、そしてカメラのだんだんモジュールとかそっちの方だけをやるぐらいになって、だんだんしたんですけれども。その後はちょっと携帯のビジネス自体が、日本の携帯がほとんど、もう壊滅的になくなっていくんですね。その後、カシオの場合ですと、カシオは日立との合弁の会社、日立モバイル（：株式会社カシオ日立モバイルコミュニケーションズ）と言いますね。その先に今度NECも一緒になって、NECカシオモバイル（：NECカシオモバイルコミュニケーションズ株式会社）っていうのを作ったりして。結局それも最終的にはもうなくなってしまって。日本でその携帯をやっているメーカーが本当にどんどん減っていくという、そういう状況が後に出てくるんですけど、これはまたまあ別の話ではないんですけれども。まあそんな中で、もうこれ以上できないなっていうんで、私は2009年に。私は最終的に辞めた時はNECカシオの社員だったんですけど。

――そういうことなんだ。

末高：そこで結局はやめにして。で、今の会社を作ってそういうことやってるんですけど。

――今のお仕事もカメラ関係って感じですか。

末高：そうですね。今、イメージセンサを使って、特に最近はその医療機器を中心にいろいろビジネスをやらせてもらっています。だいたいそんな感じですかね。

――聞き漏らしてるところ？ないですかね。

――規格を、Exifがもしそのできなかったらどうなったんだろうって。

末高：メモリ媒体を交換してもできるようにしようよっていうところが最初にあったと言ったんですけども、いずれそうなったでしょうね、きっと。当時ここでやっていった会社としては、イーストマン・コダックっていうか、今もうないんですけど、実はかなり旗振ってやって、アクティブにやってらしたんで、多分日本がやらなかったら、また例によって海外からそういう仕様が押し付けられて、日本に使ってとか、そういうことになっていったんじゃないかと思います。押し付けなんて言っちゃったけど。

――市場原理だけで動く。さっきちょっとMIDIの話をしたけど。音楽CDとかビデオとか市場原理だけで決まっていく、デファクトでだけで押し切るようなジャンルもあれば、そういう共通規格化していく世界と、両方あると思うんですけれども、日本はどっちかというと、エレクトロニクス強かったから、力で争ってみたいな話が多いんですけど、伺っててやっぱり特殊かなと思いましたね。ソフト屋さんが大変だったんじゃない？バラバラだとみんな対応しなきゃいけないから。変なコンバーターとか必要になったりとか。意外にやっぱりブロードバンド以前って画像とかメールで送ってないんですね。僕、以前調べたら。オフィスのファイルとかだと結構でかくてもメールで送ったりとかしてるんだけど、画像を送る文化ってあんまりなかったんですよね。自分のメールボックスをたどってみたら。

末高：まあ、ほぼ電話回線でしたから。

――そうなんですよ、ブロードバンドが来るまでは、よっぽど切実なワードファイルを送るとかはあったけど。

末高：1メガバイトのデータを送るのって大変だったんですよ。

――そうなんですよ。

末高：海外出張とかしてる時に、1メガバイト送るのに何分かかるんだ、電話代いくらかかるんだ、ものすごいことだったんですね。まぁインターネットっていうのができたので、えらくかかりましたけども、その前は本当、そういう意味でも。あのランニングコストという意味でもなかなかできなかったと思う。

――それこそラスベガスのホテルから送るとか言うと、別途金がかかるみたいな、よくわからないことが起きていました。確かに決まっていなかったら、どうなったかは面白いところですね。

末高弘之

イントロダクション（全編再生）