――インタビュアーの井上伸一郎です。夏目房之介です。本日は2024年5月14日です。これから鈴木晴彦氏のオーラル・ヒストリーのインタビューをドワンゴ東銀座オフィスにて行います。それでは、よろしくお願いいたします。

――それでは、基本的なところからスタートなんですけれども。まず鈴木さんが大卒ですぐ『少年ジャンプ』に入ったと思うんですが、西村（：繁男）編集長の時代だと。

鈴木：はい、三代目の西村ですね。ちょうど西村さんが編集長になった直後の配属でした。

――その当時の集英社とか、あるいはそこの中にある『少年ジャンプ』のポジションというか、マンガ界全体どんな感じの時代だったかというのを思い起こしていただけますか。

鈴木：大きな話でどこから話していいのか難しいですけど。『少年ジャンプ』は僕が入ったとき、1978年ですね。『少年ジャンプ』の創刊が1968年なんで、昭和43年創刊、53年入社、ちょうど10年目でしたね。まだ『少年ジャンプ』は集英社社内で市民権を得られてなくて、本社ビルには入れずに近くの4階建ての雑居ビルに『週刊プレイボーイ』（：1968年創刊）と一緒にいました。1階がルノアールという喫茶店で、そこで盛んに皆さんマンガの打ち合わせするんですけど、2階が執筆室というマンガ家を缶詰にする部屋がありまして、そこで江口寿史さんとか『キン肉マン』のゆでたまごのマンガを描くゆでちゃん（：作画の中井義則氏のこと？）とかが缶詰になってましたね。そういう本当に黎明期のみずみずしいころの『ジャンプ』の話ですね。2019年に大英博物館で、井上さんもお手伝いしたと思うんですけど、日本のマンガの展覧会（：「The Citi exhibition Manga」）があったときに、キュレーターのニコル（：ニコル・クーリッジ・ルマニエール）さんに「なんで日本のマンガこんなに世界に冠たる存在になったのか」ということを聞かれたんですよ。それで僕はそのときはもう直感で「日本には手塚治虫先生がいたから」と、日本には多くの週刊誌、3Kという作業をいとわない週刊誌の存在が、そのとき僕、「30ぐらいあったんじゃないか」って言ったんですけど、あとで日本に戻ってきて数えたら23誌だったんですね。しかもそれ以外にも隔週誌、月2回刊誌、月刊誌、季刊誌、ものすごい数のマンガ誌があって、それぞれに全部椅子取りゲームやってるじゃないですか。だからそのマンガを、要するに台割りを獲得した作家さん以外にも、競争に参加しようとする予備マンガ軍を含めたら、ものすごいエネルギーだったと思うんですよ。その存在が一つと、あと手塚先生、手塚先生もあらゆるジャンルにチャレンジしますから、いわゆる手塚さんのそのヒューマンな部分だけじゃなくて、非常に人間を八十何カ所も切っちゃうマンガも描いたりとか、アンドロイドとはいえ女性の裸体を表現したりとか、表現の中に全く制約も感じてない巨匠だったんでね、そこから分かれた、そこから広がっていった文化というのはやっぱすごい強みがあるんじゃないかと思ったんですよ。僕は実は、亡くなる10年前から藤子不二雄Ａ先生ととても親しくさせていただいてて、月に何回も飲みに行ったりゴルフもよくしたんですけど、亡くなる2カ月ぐらい前に、うちの妻も含めて安孫子先生と成城の中華屋さんで、当時の昔の話を聞くことができて、それで『新宝島』の話が出たんですよね。これ昭和22年、たぶんこれ相当今で言うと描き下ろしの単行本で1600円ぐらいするんですかね、これが累計で40万部売れたという。戦後わずか2年、ずっと累計ってことはその年だけで売れたわけではないと思いますけど、ものすごく知的な欲求がね、民族の中にあったんじゃないかと思い、最近必ずマンガの話をするときにこの話をしてから話すようにしています。やっぱり日本が戦後のマンガでこんだけ世界に冠たる存在になった最大の理由というのは、やっぱり僕は太平洋戦争に負けたからだと思うんですよね。戦争に負けて焼け野原になったと、何もないと。それでもう瓦礫の中で紙と鉛筆だけで表現できる、みんな貧乏状態の中で、ここに当時の才能が群がったんじゃないかと思いました。
昭和22年に『新宝島』が出ます、『新宝島』の出だしというのは6ページで、ビートという少年でしたかね、鳥打帽をかぶってオープンカーであっちを見たりこっち見たりしながら、セリフなしで、要するに映画のイントロのように登場してくるわけですよね。当時の少年たちはもうみんなこれにやられて、藤子不二雄Ａ先生Ｆ先生が13歳、それで石ノ森（：章太郎）先生が石巻で11歳でしたかね、赤塚（：不二夫）先生が新潟で12歳、さいとう（：たかを）先生も11歳か12歳、大阪で。それで松本零士先生がこれを学級文庫の片隅で見つけたのが9歳、みんなこれを読んでマンガ家目指すわけですよ。とんでもない強い影響力を持った本だと思いましたね。その先生たちはみんな名を成した大家じゃないですか。ところがその時期の同時に、『マンガ少年』という雑誌と、もう一つの雑誌があったんですけど、そこの同人に、投稿欄に名前が全部残っているんですけど、横尾忠則さんとか篠山紀信さんとか。

――筒井先生。

鈴木：筒井先生、筒井康隆さん、黒田（：征太郎）イラストレーターさんとかね、小松左京さんがペンネームでは出てるんですけど、そのへん眉村卓さんとか、要するにマンガ家にならなくてもほかの分野で大成功した先生たちが、みんな実は一回はマンガ家を目指したと。マンガの優位を言ってるわけじゃないですよ、その各、皆さんの先生方の人生においていろんな岐路があったと思うし、それはそれを最大限尊重しなきゃいけないと思うんですね。少なくともマンガには、それだけのものを引き付ける要素はあったと思うんです。絵も描けて話もできるって同時にやるというダブルワーク、マルチタレントの走りだと思うんですけど。これが20年（：昭和20年）以降みんな、とてつもない大きな才能の塊がマンガを目指したというところが、後の『サンデー』（：1959年～）『マガジン』（：1959年～）から始まる週刊少年誌ブーム、そして『ジャンプ』につながるマンガの大ブームにつながると思ってるんですよ。やっぱり戦争に勝ってる国たちは、やっぱりここまで貧しくなってないんで、そのまま映画がずっと発展していくみたいに、一度資金源を断たれるみたいなことがないんでね。ところが資金面を絶たれた日本の若い才能はどこに行くかというと、紙と鉛筆を持ってマンガを描き出したということがあったんじゃないかなと僕は思ってます。それまでにね、『イガグリくん』（：1952～54・福井英一、1953～60・有川旭一）とかいろいろマンガあったと思うんですけど、ただブームといわれるほどではまだなかったんじゃないかと。手塚先生が映画の影響でストーリーマンガというのを確立して、そして戦後のそれからの週刊誌のブームにつないでいったんではないかと思うんですね。

――じゃあ、集英社に入ろうと思ったのは、もう最初からマンガをやろうと思ってですか。

鈴木：僕はもうマンガ大好きでしたね。ただね、僕は小学校のときもマンガ好きで、友達とマンガの肉筆回覧誌をやってたんですけれど、家の事情もあって法学部に行かなきゃ、家が親が裁判官だったんで、法学部に行かなきゃいけなくなって。文学部行くなら東大に行けと言われて、東大に行く頭はなかったんで仕方がなく法学部に行って、当時大学4年の11月という、本当にギリギリのところで出版社というのはみんな就職の募集かけてたんです。

――当時は結構遅かったんですか。

鈴木：遅かったです。僕は読売新聞の最終を10月に落ちて、そのあとで願書出したのが集英社でしたから。マンガも好きだったんですけど、小説も好きだったんで、いずれ物書きになれたらいいなという淡い希望を持つ少年だったわけですよ。昔、クラスで人気者がいて、スポーツの運動神経のいい人気者、これみんなジャイアンツ目指す、野球選手目指す。絵の上手な子、この子たちはやっぱりマンガ家目指すというような子どもたちの世界があったんじゃないかと今想像しますけどね。僕は物書きになれなかったんで、物書きをサポートするというか、リスペクトする職業に就こうと思って。新聞記者は、実は新聞記者も文化部に行くぐらいのつもりだったんですよ。石川啄木が好きだったんで、石川啄木も新聞記者（：釧路新聞。現在の北海道新聞社に1908年に在籍）で新聞小説とか書いてたんで、要するに動機としてはちょっと不純な動機になるのかもしれませんけど、とりあえず新聞の文化部とか出版社とか。新聞なんて文化部希望の学生なんか面接で落とされるに決まってるじゃないですか。で、見事に落ちて、ギリギリ集英社に入ったという状況です。だから、物書きになれずにその物書きをサポートする仕事に自然に就けたのかなというふうに思ってます。

――ちょうどタイミング的にアニメの話になったので、ちょっとうかがっていきたいんですが、ちょうど鈴木さんがお入りになった2年後ぐらいから、1980年からですかね、毎年のように、ほぼ毎年人気マンガをアニメ化していく、しかもコンスタントにやって80年代はアニメ化がスタートするんですね。70年代見ると70年代の前半はあるんですけども、中盤とか後半にかけては『ジャンプ』からのアニメって全然なかったんですけど。この80年代アニメ化をどんどん積極的にやり始めた、なんかこう編集部もしくは集英社の中で「こういうふうにしよう」というような意思決定ってあったんでしょうか。それとも自然的な流れだったんでしょうか。

鈴木：おそらくKADOKAWAさんとは違って会社としての意思決定というのは現場には下りてこないんですよね。だから全部『ジャンプ』はボトムアップなんです。アニメに関してはもちろんそれまでもなかったわけじゃないと思うんですよ。『荒野の少年イサム』（：原作・山川惣治、作画・川崎のぼる、1971～74）ってアニメになってなかったかな。

――なってるかもしれません。

鈴木：あとは5分間アニメというので『夕焼け番長』（：原作・梶原一騎、画・荘司としお。『冒険王』および『週刊少年チャンピオン』に1967～71年に掲載）というのはあとでやったりしてましたけれど、『スランプ』がマンガでも300万部の大ヒットだったんです。アニメになって日本中でいろんなグッズが売れてる、あれがやっぱり『ジャンプ』のメディアミックスの原点だったと思うんですよ。それまでは、実は現場にはアニメに対して全く無関心で、むしろ『ジャンプ』はアンケート主義ですから、アニメ作品が入ってくるとアニメで票数がごまかされちゃう、積み増しされて競争の不平等が起きるとアニメ反対という、今から考えると考えられないような勢力、ことを言う人間もいました。まさに僕がその急先鋒でした。だから『キャプテン翼』のアニメの話が来たときに、今せっかく素で70万部ぐらい売ってたので、素で100万部行く、もうちょっとで行くんだからアニメなんかなくてもこのマンガは強いんだ、ぐらいの気持ちでいました。これ今言うと高橋先生に「あんた何を」って言われちゃいそうでお恥ずかしくて、それほどマンガとアニメはお互いに。

――共存共栄。

鈴木：共存共栄したということを考えるとめちゃくちゃな意見なんだけど。ちょっとまた脱線しますけど、実はこのあと『ジャンプ』と『チャンピオン』で部数の差が出るんです。『チャンピオン』ってアニメ化、おそらくほとんどしてないんですよ。『ドカベン』にしろなんにしろ、だいぶあとから。

――『ドカベン』はありましたけどね。（：『ドカベン』の連載開始は1972年。アニメ版は1976～79）

鈴木：だいぶあとからですよね。

――はい、そうですね。

鈴木：連載の一番ピークのときにやってないんです。それは当時の編集長がアニメ嫌いだったんです。アニメ好きと嫌いだけでこんだけ違うのかというぐらいの部数差が出て、それと新人主義ですね。『チャンピオン』って当時ものすごい雑誌だったから、その流れの中で言えば、新人主義に行かなかった。なぜかというと、ベテランを重視して、壁村さんというストーリーの天才、この人は『ブラック・ジャック』だったり『ドカベン』を柔道マンガから野球マンガにしたりした。もう一人『マカロニ』（：『マカロニほうれん荘』。作・鴨川つばめ、1977～79）やって『ドカベン』やった、『月とスッポン』（作・柳沢きみお、1976～82）とかやった阿久津さんという人、早稲田の漫研育ちの優秀な、この二大編集者が『チャンピオン』を回すんですけど、この人たちもアニメーション好きじゃなかった。これがたぶん、その後の『ジャンプ』と『チャンピオン』の一つの差の原因だと思うし、もう一つはやっぱり新人主義ですね。ベテランに対して自分たちはちゃんと再生もできるという確信が新人を取り込むのにちょっと時間かかった。『らんぽう』とかいくつかそのあとに新人は来ましたけど、もう時すでに遅しと言ったら失礼になりますけど、『ジャンプ』では続々新しい作家さんが連載起こしているのに対して。もちろん『サンデー』も『マガジン』も『ジャンプ』に右へ倣えで新人主義にみんな傾斜していくんだけど、『チャンピオン』も遅れたというのは、ベテランのラインナップでうまくいったからだと思います。

――なるほど、成功体験が逆に足引っ張っちゃったと。

鈴木：そうそう、それとアニメーションが嫌いだったから。やっぱりアニメというのは違う絵なんですよ。
――はい、わかります。

鈴木：それを先生たちもそれに対していろいろ言う人もいたし、ただ鳥嶋さんは、『スランプ』始まりますけど、鳥山先生の絵って明らかに圧倒的じゃないですか。アニメになってもあの圧倒的なニュアンスは残るじゃないですか。やっぱり今まで見たことのないようなアニメになるわけです。だからだと思いますよね。とにかく本当に鳥嶋さんがこだわったのはビジュアルなんです。それが今度は『ジャンプ』はビジネスモデルに特化していくんですね。フジテレビで、局はフジテレビ、東映アニメ制作、バンダイ提供、『少年ジャンプ』が作品提供、順番は逆かもしれませんけど。それが『キン肉マン』だったり『北斗』だったり、局が変わるものもありますけど、『北斗の拳』も同じ座組だったと思うし、『翼』だけは当時関東ローカルだった東京12チャンネルなんですが、それでも23.8％という視聴率を上げたことがある。

――そんなに取ってたんですか、すごいですね。

鈴木：あれからは、気づけばですね、10本中9本それこそ『オレンジ☆ロード』（：『きまぐれオレンジ☆ロード』。作・まつもと泉、1984～87）とか『ハイスクール！奇面組』（：作・新沢基栄。前身の『3年奇面組』を含めると1980～87）とか『男塾』（：『魁!!男塾』。作・宮下あきら。1985～91）とか、『よろしくメカドック』（：作・次原隆二。1982～85）まで、までって言うのは失礼ですけど、わりと地味な作品だと思ったんですけど、これまでアニメになるという猛烈アニメ時代を迎えるわけですよね。そうすると、作品の部数も伸びるし、あとで同じ話になると思いますけれど、ここまではたぶん少女マンガも一緒だったんです。マンガだけじゃなくて、アニメの力を借りてマンガそのものも大きくなっていくという、両者の共存の関係というのは研ぎ澄まされていくと思うんですけど。『ジャンプ』の場合はね、さっきも言いましたけど「少年」という要素が強かった。「少年」という要素が強くて、アニメという伝播力があってマンガという大元のキャラクターがあったときに、どういう現象が起きるかというと海を渡るんです。だから『ジャンプ』のマンガが海外で強い、『翼』が、実は『翼』は国内よりもたぶん海外の海賊版かもしれませんけど、サッカーというのもあったとは思うんですよね、ベースにサッカーという素材。だけどものすごく海外では人気というか知名度が高い。海を渡るにはやっぱりね、少年性が必要。これに気づいてたかどうかは、長野さんがね、そこまでわからない。だけど「少年」という要素にこだわって、がゆえに『少年ジャンプ』は他社よりも、他社でも海を渡った作品いくらでもありますけど、渡る確率というかボリューム、圧倒的に『ジャンプ』が多いとしたときに、やっぱり少年マンガだったから。それで数あるスポーツマンガの中で、『キャプテン翼』だけがなぜ海を渡ったかと、40年前に。それは『キャプテン翼』の主人公が小学生だったから、ジュニア設定だったから。

――それは別のところで読みましたけど、最初中学生設定ぐらいでスタートしようとしたのを小学生にした、というのはやっぱり完全に意識なさったわけですか。

鈴木：いや、それは中学生設定で煮詰まって。中学生設定で熱血で描いてたんですけど、もっと少年性を前面に出して爽やかなサッカーマンにしようということで、先生が小学生にというふうに、先生からの切り出しだったんです。これは結果的に大成功でした。当時、海外でアニメーションを見るのは子どもしかいませんでした。今は『スラムダンク』も海外でものすごく強いし、『ジョジョ』も海外で見られていますけど、あれはオタク世代です。海外でオタクが育って、彼らが今アニメーションをものすごい勢いで受け入れる、その原本であるマンガも含めて受け入れるという時代です。当時、海を渡ってアニメーションが、だから『翼』が行って『ドラゴンボール』も行きますけど、その次は『ナルト』なんですよね。『ナルト』が少年マンガかどうかって、厳密にはどうかわかりませんけど、『ナルト』ってものすごい少年性がある主人公じゃないですか。それがものすごく大事だと思います、海外に行くには。だからね、スポーツマンガがね、例えば『巨人の星』とか『ドカベン』とか、『あしたのジョー』もみんな実は、子どもが大人に憧れた読み方をするんですよ。『がんばれ元気』もそうだし。青春時代の周りでやってる、要するにスポーツ選手のバックボーンもちゃんとそれなりにあるんだけど、『翼』はもうひたすら無邪気にスポーツマンガなわけ。それは海を渡らなかった、ひたすら無邪気のスポーツマンガだけは海を渡ったということがあるんじゃないかと思うんですね。少女マンガも、あれは恋愛じゃないですか。非常にだから等身大のキャラクターが散りばめられている。海を渡ったのは『セーラームーン』だけですよ。だから、結局『セーラームーン』をね、少女マンガの王道と言えるかどうかわかりませんけど、海を渡るにはそういう万国の少年少女が飛びつくようなメカニズムが必要だったということを、また自分なりに分析してみましたけど、すいません、話があちこち飛びまして。

――いえ、とんでもないとんでもない、はい。話がちょっと戻っちゃいますけど。

鈴木：戻しましょう。

――1970年代のその『少年チャンピオン』って本当にすごいラインナップでしたもんね。『ブラック・ジャック』はあるし『ドカベン』はあるし。

鈴木：だから学生時代にみんな『チャンピオン』読んだでしょ。『ジャンプ』読んでなかったんですよ。『ジャンプ』が『チャンピオン』に勝ってるなんて想像だにしなかったです。そういうときにだからなんで勝ったんだって、もう『ジャンプ』はそんなに絵の上手じゃない先生もいた。なんでかって聞いたら、ここまで来たのはやっぱ『サーキットの狼』だっていうんですよ。『サーキットの狼』全く読んでないんで、「えっ？」不思議なことがいっぱい起きた、最初『ジャンプ』の。『あらし！三匹』（：作・池沢さとし。1970～73）は読んでましたけどね。

――『サーキットの狼』確かに、そうですね、スーパーカーブームを牽引したというね、そういうの、あれは別に仕掛けみたいのはなくて。

鈴木：いや、あれは違いますね。

――自発発生的ですよね。
          
――何から聞こうかっていう感じですけど。

鈴木：勝手にバンバンしゃべってますからね。

――僕なんか外部の人間で、自伝類とかいろんなそういうところから情報収集していくと、どう考えてもこの時期80年代の『ジャンプ』って、80年代までの『ジャンプ』を作り上げた西村さん、つまり西村イズムって先ほどおっしゃいましたけど、言い換えると長野さんから継承されてる部分が大きいんですけど、それに対して鳥嶋さんがやっぱり違うことを。

鈴木：持ち込みましたね。

――持ち込んでますんで、『ドクタースランプ』と『ドラゴンボール』（：1984～95）もそうなんですが、もう一つ桂正和さん、『ウイングマン』（1983～85）。要するに西村さんが大嫌いだったラブコメを持ってきちゃうっていうことをやってて。これ意地悪な見方ではありますが、西村さんの『まんが編集術』っていうロングインタビューがあるんですね。白夜書房で出したこんな厚い、すっごいおもしろいんですけど、ずっと読んでいくとほとんどの作品が、年代ごとに作品について全部語られてるんですけど、鳥嶋さんが担当されたものはすごい冷たいんですよ。

鈴木：そうですね。

――どう考えても『ドラゴンボール』が、僕らからすれば、『ジャンプ』の黄金伝説というか、『ジャンプ』とは何かっていうイメージを作り上げた。

鈴木：完成形ですよね。

――完成形なんですよ。あそこでいろんなシステムもたぶん出来上がったし、メディアミックスもまさにそうだし、アニメ化を前提とした。おそらく『ジャンプ』はそれに対応していったので、そのあとさらに伸びていったっていうふうに見えるから、『ドラゴンボール』は黄金期の『ジャンプ』の象徴のようにしか僕には見えないんですよ。でもそれに対して、西村さんはその本の中でインタビュアーから聞かれたときに「それはもういいじゃない」って。

鈴木：らしいな。

――「売れたけど大した作品じゃないし」って、だいたいその二つで終わるんですよ。実はだから桂正和さんに対しても非常に冷たいんですよ。

鈴木：桂さんにはもう何も関心なかったでしょうね。

――なかったでしょうね。ある世代までのそのマンガ編集者の、だからマンガなんてもう気にもしてなかったのに、配属されたからしょうがなくてマンガをやってる世代の編集者のたぶん典型。

鈴木：そうですね。

――鳥嶋さんは実は鳥嶋さんの本をまめに読んでるとですね、決してあからさまには言わないんだけど。

鈴木：マンガ読んでないですよね。
――いや、あの人もともとだからマンガ好きじゃないじゃないですか。もっとおもしろいのは、鳥山明さんもマンガ好きじゃないんですよね。

鈴木：読んだことなかった。

――この取り合わせがだからすごくおもしろいんですけど。ところが鳥山さんはとにかく絵が描きたいので絵が好きだから、『ドラゴンボール』が天下一武道会で変わるときに、今のつまり小っちゃい少年のあのかわいい悟空では格闘技描けないって言い出して、等身を上げたい。

鈴木：鳥嶋さん反対したんじゃない。

――いや、もちろん。鳥嶋さん大反対ですよ、だってあれで人気が出てるのに、それはないだろうっていって大反対してガンガンやるんだけど。

鈴木：ジャキー・チェンが好きでしたからね、鳥山先生はね。

――そう、鳥山さんはだって描きたくてしょうがないから、「いや、もしそうだったら連載はできません」って言い出して煮詰まった。鳥嶋さんが西村さんに編集長におうかがいをたてたら。

鈴木：えー？そんなことあったんですか。

――そう、書いてあるんですよ。それはだから鳥嶋さんの本ですよ。鳥嶋さんはそう書いてるんですよ。ところが、そのときに西村編集長が「いいんじゃない」って言ったっていう、すごい冷たかったって書いてあるんですよ。

鈴木：冷たかったことは事実ですね。

――おそらくそうでしょう。間違いなくたぶんすごいある種の緊張関係があったのは間違いないし、それがあの時期の『ジャンプ』のおもしろさだったとすら僕は思ってるんです。そのエネルギーを生み出してたのは、実は鳥嶋さん、個人名で言い換えてしまうのはどうかとは思いますが、西村さんと鳥嶋さんの緊張関係が非常に大きかったんじゃないかと。それは長野さんが始めたものから、次の『ジャンプ』に移る生まれ変わりのエネルギーだったんじゃないかっていう仮説を外側からは立てたいわけですよ。

鈴木：おっしゃってることよくわかります。それで、西村さんの本がおもしろかったっていうのは、そこから伝わってくる著者・西村繁男がおもしろかったと思うんです。

――そうです、そうです。

鈴木：西村さんの言ってることは未熟というか、全部はもちろん当たってない。鳥嶋さんのほうが時代が下ってるだけあって、当たってる可能性は強い。最近は人間は水とタンパク質と承認欲求でできたものと思うんで、特に歳を取ったので誰にも気を使わずにインタビューに答えようと思うから、おもしろかったと思うんですよね。鳥嶋さんは実は西村さんのこと嫌いじゃなかったはずなんですよ。西村さんはチャーミングなんで、僕は西村さんにわりとかわいがられたほうではあるんだけど、なんでそんなに鳥嶋さんに冷たくするのかなってハラハラするぐらい。鳥嶋さんって優秀な編集者だし、ものはわかってるし、人間的にも結構おもしろい。このぐらいのユニークな人間は俺も大好きで、西村さんは受け入れてくれよっていうぐらいの気持ちではいましたね。

鈴木：要するに長野さんが『ジャンプ』やる前に2年間閉門蟄居してるんですよ。『りぼん』の編集長を26でやって、それで社内的になんか当時みんな集英社の社外も20代30代やってましたから、誰かとぶつかって2年間はおまえちょっとだまってろって言われたところで企画室、それが『ジャンプ』なの。

そのときに、西村さんが当てたのは『男一匹ガキ大将』。永井豪先生は違うラインだったと思う。だから永井先生のことももちろん感謝したと思いますけど、とにかく本宮を発掘した西村がかわいくてしょうがないという、黎明期の流れできましたよね。それでその後藤さんっていう、4代目の西村さんの次の人も、その次の堀江君も、その長野イムズというか硬派、『ジャンプ』硬派イムズを受け継ぐというか体現する編集者として組みというかやっていくわけじゃないですか。『ジャンプ』ってスローガンが「友情・努力・勝利」ってありますよね。あれは創刊時のスローガンにすぎないんですよ。要するにあの時代の西村さんにしろ、長野さん、中野和雄さん、中野祐介さん、西村さんにしろみんなゲバ棒の時代ですから、スローガンが大好きなの。要するにあれが造反有理なわけ。スローガンとして出したけど、実際やってるのはアンケート主義なんで、アンケート取ったほうが勝ちなわけですよ。だから有理もくそも要するに結局市場原理なんですよ。完全に市場原理をやってるのに、スローガンだけはなんか共産主義みたいなこと言って、それだけの話であって「友情・努力・勝利」なんて現場では誰も信用してない。

――現場でも。

鈴木：現場でも、現場勝ったほうが勝ちなんで、それはもう鳥嶋さんが声高々に「『友情・努力・勝利』それの全部逆でいけばいいんだよ」とか言ってましたから、要するに努力はとにかく絵にもならない、金にもならないって。だからあれはもう創刊時のスローガン、造反有理だと僕は思ってるわけ。それで、鳥嶋さんの話にもなりましたけど、鳥嶋さんもさっき言った堀江君も、実はアンケート主義が生んだ、アンケート主義というのは要するに新人マンガ家と新人編集者、これがタッグで作品を作っていって、要するに覇権を競い合うっていった。その覇権を競って勝ったほうの編集者なんですよ。勝ったものは、さっき言ったように『ジャンプ』はボトムアップなので、下から上がってきたことは西村さんじゃないけど「いいんじゃない」って言いますよ。だから、西村さん時代にさっき言った『ファミコン神拳』も『ジャンプ放送局』も『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか映画の特集も、全部西村さんは自分にはどうでも「いいんじゃない」っていった状態なんですよ。だけど、それが『ジャンプ』のそのボトムアップ、下から企画を上げたらみんなで合議制で編集会議やりますから、キャップ以上で、それでOKだったらOK出せばいい、ほかの企画が上がってこなかったら。ほかの企画はAとBが上がってきたら、西村さんはAを取ったかもしれないけど、でもなんにも上がってこないで、そのとき雑誌に対してマンガ以外の企画を上げるのは鳥嶋さんしかいなかったということがありますから。だから結局鳥嶋時代も堀江君時代も結局、アンケート主義で勝ち残ったから発言権があった、それだけのこと。実はだから、それは集英社が鳥嶋さんに「こういうもの作れ」って命令して、堀江君に「ああいうふうにやりなさい」って自然に勝ち残ったものが『ジャンプ』の中で発言権を得て、その当時の誌面に対して圧倒的な力、ポジションを持ったということだとは思うんですね。

――たぶん80年代以降に確立していった一つが、今おっしゃったような、連載会議での勝利、つまり自分が見つけた新人作家とタッグを組んで、運命共同体というふうにおっしゃってますけど。

鈴木：一対一の。

――はい、それの競争原理で作り上げられていったシステムが確立していったって言い換えてもいい。

鈴木：それは僕が入る前からもうできて、薄々できてましたね。

――おそらくそうなんでしょうけど、確立期。

鈴木：ただ確立したのは、たぶん鳥嶋さんから始まって、僕が入って堀江が入って椛島が入って、堀江と椛島君が一番意識してましたから。アンケート、コンピュータアンケート彼ら二人が主導になってやりましたし、それでその下に松井君っていうのがいて、今になっていくんですけど。

――ということは「友情・努力・勝利」っていう、僕もあれ全然信じてないんです、だってブックの時代の長野さんのアンケートが最初ですからね。そんなもんがそんなに利くわきゃないんですよね。だけど、すごいうまくできた標語なんですよ。なんかすごい通りがよくて、うっかりみんな信じちゃうので、僕は編集部も含めてあれを掲げることで、一つのイデオロギー作ってたんじゃないか。

鈴木：いやあ、普段の、僕今でも『ジャンプ』の編集者、先週も『ジャンプ』の『ワンピース』もずっと担当してて、『約束のネバーランド』を起こした編集とも飯食いましたし、『ジャンプ』の編集長の中野君とも時々意見交換というか、むしろ僕人前で話すこともあるんで、今の『ジャンプ』のことについて知っておかないと話せないこともいっぱいあるんで、今日のことについても事前に『ジャンプ＋』の副編集長にちょっとリサーチしたりしながら、フレッシュにして来てるつもりなんですけど。

――競争原理。

鈴木：そうね、「友情・努力・勝利」の話ってほとんど出ないんです。もし出たとしても、努力に関しては陰でしてるという設定だよねみたいなことにはなると。ただし、今しゃべってて、さっき自分の言ったことと偶然リンクするなってものは「友情・勝利」少年性につながるんじゃないかってことです。

――それはそうですね。

鈴木：『ジャンプ』のやっぱり「友情・努力・勝利」ということをスローガンにしたときに、少年マンガの作り方にこだわれよという、そういうことだったのかもしれないなと、あとから振り返るとね。

――アニメ化によって読者層そのものが変わってきたってことはないですか。

鈴木：アニメ化というかですね、読者層の変化で言うと、僕が入ってきたときに中心読者がやや子どもに強い作品がどんどんなくなっていって、りょうさんはありましたけど、『パイレーツ』もありましたけど、でも『パイレーツ』っておしゃれなギャグマンガだったんで、子どもはすごい好きな、今から考えるとそう大ヒットしてるのってもう本当に『リンかけ』しかなかったのね。『リンかけ』も子ども大好きでしたけど、ただその次に『キン肉マン』ですよ。『キン肉マン』が、これも社会現象になったブームを呼んだ大ヒットマンガの一つだと思うんですけど、読者アンケート2歳下げるんですよ。要するに13歳まで行きかけていた『ジャンプ』の平均読者を2歳下げる。『キン肉マン』だけじゃなくて、数カ月後に始まった『翼』も小学生の設定にしたことによって、下の読者に小学生に刺さる、それによってますます『サンデー』『マガジン』との平均読者の差が。

――大きくなる。

鈴木：大きくなっていって、読者は下からどんどん。『ジャンプ』の前に読んでるのはみんな『コロコロ』（：『コロコロコミック』。刊・小学館。1977～）なんですよ。『ビックリマン』（：ロッテのシール付きチョコウエハース。コロコロで連載された最初の漫画版は作・竹内よしひこ。1987～90）読んだあとにみんな『ジャンプ』に来るんですよ。『ビックリマン』って『コロコロ』だったっけ？

――『コロコロ』ですね、はい。

――『サンデー』も『マガジン』もできなかった、一番難しい。年齢層上げるのはできるけど、下げられないっていうものを。

鈴木：っていうのに一番貢献したのは。

――『ジャンプ』ができた。

鈴木：歴代で50年間見てきて一番やったのは『キン肉マン』プラス『翼』。

――正直、僕なんかは『キン肉マン』は読んでないんですよ。

鈴木：そうでしょ。

――仕事で読みましたけど、とてもじゃないけど最初のほうなんか読んでられないんですよ、下手で。でもあれを載せちゃうのが『ジャンプ』なんですよ。

鈴木：そうですね。しかも投稿作ですからね。
――『サンデー』絶対載せませんよね、あの絵は。だけどああいう絵が、実は『サーキットの狼』もそうですけど、我々マンガ描くような人間は見てられないんですよ。

鈴木：まあ、でしょうね。

――だから。

鈴木：ビッグ先生でギリギリですもんね。

――うん。ビッグさんは。

鈴木：あれたぶんきつかったんじゃないですか。

――我々世代的にはちょっとですね、実は大人向けの絵も描いてる人なんで知ってるんですよ。だから、この人の絵は本当は。

鈴木：劇画のね。

――それはともかくですね、うるさがたの目っていうのがあるじゃないですか。そうするとね、『ジャンプ』はね、読まなかったんですよ。それで『キン肉マン』も読まなかったんだけど、小っちゃい子どもは絶対喜ぶなというのはわかるんですよ。それをあえてこう誌面に載せていくっていうのが『ジャンプ』であって。

鈴木：でもそれは赤塚賞取ったんですよ、『キン肉マン』は、準入選だったんですよ。準入選は本誌載るんですよ。そうするとアンケート取るんですよ。わずか15ページか16ページの作品がアンケート。そしたらアンケート至上主義が発動するんです。それで『キン肉マン』のデビューにつながるんです。

――いや、だから、我々にはあれがいいとは思えないんですよ。だけど小っちゃい子どもはそれに反応するわけじゃないですか。たぶんそこなんだと思うんですよ、『ジャンプ』の強みって。

鈴木：でも『ジャンプ』も読者から教わったわけですよ、アンケート見て。読者がこれが好きなんだって。それまでは普通文芸誌と同じようにやってるんですよ。作家編集長は付き合いのある作家さんにお願いしたりとか、スタッフも付き合いのある作家さんにお願いして、それが総合的に集合的に毎号毎号の文芸誌だったりするじゃないですか。たぶん『サンデー』『マガジン』もそういう作り方したと思うんですよ。だからアンケートそんなこだわってないし、やっぱり肩入れする作品を前に持ってくるし、編集部の想い入れの強い誌面構成にして、それがやっぱりある種の文化だっていうことでやられたと思うんだけど、アンケートを優先すると、子どもが好きなものはここだ。『ジャンプ』はそんなに当時ね。今すごいんですよ、二十何歳ですよ、平均読者。でも今、最近になって下げたのは『鬼滅』なの。

――ああ、そうなんだ。

鈴木：『鬼滅』はだから、『キン肉マン』と、要するにアニメーションが変えた。たぶんアニメーションなかったら『ジャンプ』に載ったままだったらわかんなかったじゃないですか。アニメーション、もう小学生マンガ読んでなかったんですよ、2018年、2017年。クラスで誰もマンガ読まない。『ジャンプ』買ってくる子はクラスで一人か二人ぐらいの時代があって、それで『鬼滅』も最初はそんなに伸びなかったんだけど、2期目からもう大ブレークして、コロナもあったでしょうけど。それで「ああ、マンガっておもしろいんだ」と思って、『ジャンプ』に子どもが戻ってきて、平均年齢が下がったっていう現象が起きた、これがデカいですよ。だから『鬼滅』が平均年齢を下げると、他社のマンガにも、他社にもそういう可能性がおもしろければ子どもも読むという。だから実は他社の大ヒットが大事なんですよ。さっき言って、こんなのマンガ、うちでも昔あったわけ。『進撃の巨人』。『ジャンプ』のスタッフが「これじゃうちじゃ無理だ」と言って、門前払いした。『マガジン』に行って大ヒット、川窪（：慎太郎）君が当ててね、諌山（：創）先生当てて、みたいな。それで『マガジン』は青山剛昌さん、「これはうちの画風じゃない、うちの作風じゃない」といって「君には『サンデー』が向いてるよ」と言って、わざわざ『サンデー』紹介して大ヒットしたっていうね、伝説もありますし、鳥嶋さんは、ここだけはわかんないんだけど、高橋留美子さんに「『ジャンプ』じゃ通用しない」といって、高橋留美子さん断っちゃった。

――そうですか。

鈴木：でも高橋留美子さんの絵はさ、古くないじゃない。だから、いくら鳥嶋さんが感度が良くても、わかる絵とわからない絵があるんじゃないかと。

――そうなんだ。

鈴木：でも結局編集者の競争原理というか、全ての作品が編集者に紐づいて競争の中にいるわけだから、編集者のそこには限界がどうしても出るじゃない。だから、ある意味編集長はいないんですよ。西村さんも、西村さん途中までは編集長を味わったと思うけど、途中からもう下がどんどん競争してヒット作がどんどん出ていくから、僕も聞いたことあるんです、「西村さん仕事楽しいでしょ」って。「そりゃそうだよ」酒ばっか飲んだんですけど、「そりゃそうだよ、みんなが勝手にけんかして、おもしれえものどんどん上げてくるんだから」って。「俺は楽して酒だけ飲みゃあいいんだよ」って。西村さんの最後の姿はそういう姿。でも晩年になっていろいろ、西村さんがその白夜書房のインタビューに答えたときっていうのは、社内でいろいろありまして、『ジャンプ』はさっきも言ったように弱小あわせだったわけですよ。最初の10年間本社にいられなくて、雑居ビルに住まわせられてた存在だったので、なかなか今でこそね、堀内（：丸恵）会長『ジャンプ』出身ですけど、それまでなかなか『ジャンプ』出身の人間は、集英社っていう組織の中じゃポジションもらえなかった、偉くなれなかった。西村さんも非常に『ジャンプ』で一番ガンガン、最初の礎を作った大功労者なんだけど、会社の中ではどっちかっていうと、やっぱり苦虫をみたいな。要するに辛酸をなめてたんですよ。そのころのインタビューだから、ネガティブに正直に答えてるんですよ。そのおもしろさ。西村さんがどんどん伝わってくるおもしろさだと思うんですけど、『ドラゴンボール』が『ジャンプ』の中で中心的な役割を担ってないって言ったら、それは間違い。やっぱり『ドラゴンボール』がなかったら『ワンピース』もなかったですからね。

――西村さんのある場所で講演会があって、そのあとの飲み会で隣に座ってお話ししたことあるんですけど、ものすごいやっぱり魅力的な。そんなにこう口がうまいわけでもないし、なんだろう、やっぱりすんごい魅力的でした。

鈴木：そうですよね、僕も大好きでした、ゴルフも一緒に。

――だけど、鳥嶋さんとは全くその人間が違うっていうか。だから今から考えるとあの時代、西村さんの世代に対して鳥嶋さんって、ニューエイジだったんじゃないかなって。つまり、その結果が鳥嶋さんのいくつかの成功につながってる。どういうことかっていうと、結構ドライでクールな感じで、白井（：勝也）さんにインタビューしたときに、白井さんが鳥嶋さんとかなり長いトークをやってるんですね。

鈴木：一色まことさんを通じて仲良くなったんじゃないですかね、あの二人は。

――よくわかんないですけど、それ読むとね、たぶんこの二人似てるって思ったんですよ。

鈴木：でも白井さんみたいな、冠婚葬祭に全部顔出すとか、そういうマメさはないですよ。人の面倒は鳥嶋さん見てないから。

――そうなんですか。なんか雰囲気がね、僕は似てるような気がしたので。

鈴木：鳥嶋さんは、とにかく世界征服の人。要するにマンガの主人公みたいな。白井さんはやっぱり小学館の番頭じゃないですか。非常にいろいろ情報戦で情報集めて、小学館を回していく人だし、小学館だけじゃなくて出版社に、出版界全体かもしれないですけど、鳥嶋さんはもっと派手にものを売っていこうと。北米でね、『ジャンプ』作ったりとか、ノルウェーでも『ジャンプ』作ったりとか、世界侵略だということ、後輩の高橋（：俊昌）君と一緒にやってましたけどね。

――圧倒的に時代が違いますよね。だから逆に言うと、80年代でいろんなものが切り替わっていって対応していったのは鳥嶋さんでっていう感じに見えます。

鈴木：見えるでしょうけど、結局鳥嶋さんが全部やるわけではないんですよ。常に何本か人気作品があって、『ドラゴンボール』は圧倒的だったんですけど、その『ドラゴンボール』の天下一武道会のときに等身を上げると―――。天下一武道会のとき上がったんだっけ。

――ちょっとは上がってたかもしれないですね。天下一は、最初のころはまだ小っちゃかったような気がする。

鈴木：でもなんかズーンとして出てきた気が。もう結局、そのときのこともあるし、ほかの編集者も『ジョジョ』もあったしね。だから鳥嶋さんが全部の作品で。

――もちろん。ただそのシステムとしての連載会議って、その話だけだと運命共同体がみんな突き合わしてるわけですから。
鈴木：だから勝者のイニシアティブがずっと続くわけですよ。

――それってかなりギスギスした感じなんですか。

鈴木：ギスギスします、間違いなくしてますよ。

――そうなんだ。

鈴木：今でこそ僕は堀江君と仲いいし、コアミックス（堀江信彦が中心になって2000年に設立し、『週刊コミックバンチ』（～2010年）→『月刊コミックゼノン』を発行している出版社）の連中とも仲いいし、熊本にも来てよなんて言われてますけど、当時はまるっきり。ところがそれで堀内さん、三つ上はカメアリがいて、二つ上が鳥嶋さん、1個上の根岸さんが『リンかけ』も立て直してるし、『キン肉マン』のこともちゃんとしっかり面倒見ちゃうと。僕は『翼』やって、1個下の堀江君が『シティーハンター』と『北斗』やって、同期の椛島君が『ジョジョ』と『男塾』とやって、その下の松井君が『キン肉マン』と『聖闘士星矢』やって、その下の高橋君が『きまぐれオレンジ☆ロード』と『幽☆遊☆白書』と『バスタード』とかもやって。その下のイマイ君が『シェイプラップ乱』と『ろくでなしブルース』とかやって、その同期の中村君が『スラムダンク』やった。もうそのけんかしてる間に、こんだけの誰一人どの1年も不作がないぐらいに、毎年毎年入ってきた編集者がなんらかの結果を出してる時代が続くんですよ。これはちょうどアニメとはまるんですよ。それが80年代。

――それは連載会議ではもうけんか状態に近い。

鈴木：連載会議は、さすがにやっぱ。

――もうちょっと冷静。

鈴木：ところがね、一番問題だったのは『ワンピース』が連載会議3回通れなかった、2回かな、3回目でやっと終わったっていうのありますから、そうでもないんでしょう。『ジョジョ』もかなり危なかったんですよ。だけど、連載会議は集英社のあらゆる会議の中で一番富を生み出す重要な会議だと思ってますし、今でも連載会議の前夜とか前後は『ジャンプ』編集部はピリピリして、まず読んで判断しなきゃいけないというキャップ以上もそうするし、提出した人間もどういうふうに読まれてるかと。いちいち読まれると、描いてくるんですよ、数がいろいろ増えていくわけ。いざ連載会議っていうときに全員の連載会議の出席者、主任と副編集と編集長のコメントがつくんですよ。それを凝視するし、それで終わって戻ってきて「これがOK、これダメだった」っていう話をして。みんなキャップ制度になって、そのキャップというか班長ですね、班長から上に上げるんで班長を通したら、班長もその責任を一旦を担うわけ、通した以上は。だから戦ってくれたかどうかっていうのも下は突き上げるし、そういう競争原理ですよね。だからある程度システマティックな競争原理なんですけど、鳥嶋さんはバンバン売れて目立ちましたけど、実は鳥嶋さんが一人でやったかっていうとそうじゃないんですよね。そこだけはちょっと言います。西村さんももうほとんどだから現場に丸投げ。だけど西村さんは非常に魅力的な人だったんで、それこそ仕事を早くあげたら西村さんと一杯飲みたいとか、西村さんの昔話聞きたいとか、そういうやからみたいな人だったんで、そういうガード下で飲むような上司っていうのでいうと一番西村さんが可能だったですね、昭和の上司って感じしましたね。口悪かったけど。

――なんかだから、もう既にある種マンガ出版社としては大きいけど、一般的な企業体としてはそれほど大きくないじゃないですか。

鈴木：でも出版社みんなそうですね。

――うん、だからまだそこが。

鈴木：KADOKAWAが一番デカい。

――まだそういう中小企業的な雰囲気があったんだろうっていう気はします。

鈴木：今はだいぶ失われましたね。今デカくなっちゃったんで、やっぱり他社との付き合いがめちゃくちゃ多くなりましたね、ゲーム会社。だから編集長以下ほとんど、それはいろいろアニメの発表会とかセレモニーに付き合わなきゃいけなかったりとかしますからね。あとこっちで内部のそのいろんなマンガ賞があるんで、手塚賞と赤塚賞だけじゃないんで、もっと人選的な賞もあったりするんで、それの候補を読まなきゃいけないとか、本当に多忙ですよね、どこでもそうだと思いますけど。

――たぶん昔に比べて編集者の仕事の範囲が非常に増えてるんですね。

鈴木：あと監修、アニメが始まると。今度それが80年代は、でも80年代まだね、うちの集英社ってライツなくて、版権管理、編集総務部っていうところのサトウさんが一人でやってた。『スランプ』も『キン肉マン』も『翼』も『北斗』も『シティーハンター』も契約書、一人がやるんですよ。そんな古い出版社でしたね。

――アニメのその監修とかゲームの監修などは編集者は直接当時はやってなかった。

鈴木：脚本は来ますけど、僕はアフレコ1回か2回行ったけど、今みたいにやってないですね。脚本も読んでましたけど、全部読んでなかったというと、今はちゃんとやってます。

――そうですよね、今は何人か体制でちゃんと役割分担してやってらっしゃると。

鈴木：それだし、前はアニメのことを、自分のマンガがアニメになると思ってない層がアニメ化をしてたじゃないですか。マンガ家をマンガを読んでマンガを描く。ところが『ナルト』の岸本（：斉史）さんあたりから、アニメを見てマンガ描くという世代が始まりますよね。そうすると、アニメに対する注文も自然に入ってきますよね、誰がいいとかどこのスタジオがいいとか。そういうことも含めて、そのノウハウというか、先生が何を考えてるかっていうことも含めて、若い編集者の人たちもみんなアニメ見て入ってきますから、若い人のほうがよりアニメの現場の状況に詳しいっていう状況が生まれてくるんで、ますますボトムアップなんですよ。だから昔のアニメーション、それこそ西村さんの時代は全部向こうから来た話で、東映アニメの有賀（：健）さんっていう方が来て、「お願いします」って言ったら「ああ、いいよ」って、たぶんお酒とかいっぱい飲みながら「じゃあ、よろしく」って話になったと思うんですけど。途中から、鳥嶋さんがやっぱりすごいのは、『聖闘士星矢』（：原作・車田正美。テレビアニメは1986～89）のアニメーションを見て「誰だ、この人は」ってプロデューサー、森下（：孝三）さん。この人を、それまで途中かなんかどうかわかんないけど、この人を起用したいっていって、『ドラゴンボール』（：1986～1989。原作の後半部分のアニメ化『ドラゴンボールZ』まで含めると～1996）にもってきた。だから、鳥嶋さんのときに既にもうアニメーションに対する介入も始まってる。やっぱり鳥嶋さんが、夏目さんがおっしゃるように、それまでのマンガ編集者とまるっきりニュータイプというのは、ニュータイプっていうのかわかりませんけど。

――でもやっぱりちょっと視点が違ったわけですね。

鈴木：そのニュータイプ、その流れが加速していって、いまや各スタッフがそういうアニメに対する見識がある。ただし会社と会社の付き合いもあるので、アニメーションの制作、座組を全部下に任せるということはしていないですよね。下の意見も聞きつつ、総合判断は編集長がすることになっていると思うんですけど。下の意見は相当ハイレベルで反映されていると思います。

――先ほどの話に戻るんですけど、新人作家を育てていくにあたり、当時の話で結構なんですが、当時の編集者の仕事というのはやはり作家と向き合って、よく鈴木さんの発言で。

鈴木：脳みそ。

――脳みそに手を入れるというのがあったんですけど、まずどこから始まるんですかね。新人の何を考えているかとか、あるいは何が得意かというのをどんどん聞き出すという役目。

鈴木：そうですね。高橋君は、『翼』の陽一先生はスポーツが好きだったので、とにかく一緒に野球やったりボーリングしたりサッカーやったりしながら。寡黙な先生だったので、一応ネームを見ることになったんですけど。最初に僕に見せた原稿は西部劇と、（手塚風に？）描いてきた西部劇とSFでした。ところが話をしていくと、どうも南葛飾高校の軟式野球部らしいと。夏休みにそれこそ上下、野球部のジャージ姿で来たわけです。

――編集部にですか。

鈴木：そうそう。夏休みに持ち込みに来たんですよ。それで「マンガ家になりたいんですけど」って来て持ってきた。「君ちょっと」身なりもそうだけど、要するにSF描くんだったら寺沢武一みたいな雰囲気をかもしだしているとかあるじゃないですか。

――形から入るみたいな。

鈴木：西部劇描くんだったらね、川崎のぼるみたいなね、テンガロンハットでもかぶってこいやと思うんだけど、ボーッとしたなんとなく無口な青年が描いてくると、明らかにこれ運動部のジャージ着てるから「何やってんの」って「野球やってる」って言うから、「好きなマンガは」って言ったら「『ドカベン』だ」って言うから、「じゃあ、スポーツマンガに行こうよ」と。僕はサッカー部出身だったので、サッカーと野球、サッカーと野球1本ずつ描いて、そこがうまく軌道に乗った、手ごたえがつかんだところで連載に進めばいいじゃないという約束をしたんですよ。それがたまたまはまったのが『キャプテン翼』。

――そのときはやっぱりあんまりそうやって、一緒に野球やったりボーリングとか。

鈴木：そうですね。

――やらなかったらそういう発想まではたどり着かなかったですかね。

鈴木：でも彼の場合はわかりやすかった。『ドカベン』って言った瞬間にそっちに持っていく、僕も大好きでしたから。ただそれがなかなかわからない人がいて、そういう作家とも付き合っていたこともありますけど、結果うまくいかないですよね。

――やはりその相手の考えていることがあまりよくわからない人とはうまくいかない。

鈴木：要するにマンガ家になりたい、マンガ家になりたいだけじゃ絶対無理なので、どんなマンガ家になりたいまでしっかり持ってないと。それを引き出すのは、要するに頭の中、脳みその中にそれがあって、その才能の最大化をする役目だと我々思うんで。逆に僕もこういうタイプなので、わりといろんな、何も持ってない作家に、新人に、自分の好きなマンガを押し付けるんですよ。これもう『がんばれ元気』とかね、柔道さん描けとかって。何一つおもしろいの出てこない。なんなら連載中でも自分がおもしろいなと思ったアイデアを、強引に言って「こんなのどうだ、あんなのどうだ」って言ったこともあるんですけど、井上さんみたいに才能ないから、それは反映されたものはどうもちょっと違うんじゃないのといって。『翼』でもありますよ、先生が描いてきたものを強引にダメ出ししたんだけど、自分がダメ出ししたものがよりおもしろくなかったので、「ごめん、俺が悪かった」って「元に戻そう」って言って元に戻してうまくいったことがあります。

――具体的にタイトルは何。

鈴木：『翼』の4回目です。

――『翼』の。

鈴木：『翼』の4回目の、ダブルヘッダーオーバーヘッドやって、これでアンケートもバーンと上がった。だから、綱渡りとも言えるし、失敗の連続とも言えるし。だけど陽一先生にね、サッカーというかそういう「スポーツに行きなさいよ」って明確に指示したの僕なので。

――そこは素晴らしいですよね。

鈴木：これはね、秋田書店の今社長の樋口（：茂）さんに、樋口さんって僕とほぼ同い年で、それこそ車田先生のアシスタントの石山東吉さんを通じて仲良くなって、同じ世代でよくお酒も飲んだんだけど、彼が言うのは『チャンピオン』と『ジャンプ』ってさ、もともと隔週だったじゃん、月2回だった。それで『なんとかの巻』って必ず「巻」があったよねって。それを週刊誌にしてもずっとつけてたじゃない。「なんとかの巻」「なんとかの」って毎回毎回核だったりヘソ、要するに読み切り感にこだわったじゃない。あれが『サンデー』と『マガジン』に、僕ら「瞬殺で」って言うんだけど、あっという間に抜いたっていうことなんじゃないのって彼は言ってた。それね、意外と一理あるなと思って、キャラクターが立ったらあと話作りじゃない。話作りも毎号毎号の核を作るっていうことを当時の『ジャンプ』はやってたんだよね。毎号毎号どうするかっていうのを。

――毎号クライマックスでしたもんね。

鈴木：クライマックス、うん。それでそれは静かなクライマックスもあれば、ハードなクライマックスあるんだけど、やっぱりそれじゃ勝てる勝てないっていう話よくしたね。だから、たぶん『サンデー』『マガジン』はここまで描いた、じゃあ、いいか次号でっていう「どうも先生ありがとうございました」って、そういう作品作りじゃないんだよね。それも一つの大きいな理由かなと思いましたけどね。

――長編なんだけど各話で完結してるみたいなベースに。

鈴木：だから今でも『ジャンプ』は全部にボリュームなんとか「なんとかの巻」とか付けてると思うんですよ。

――確かに確かに。

鈴木：だからやっぱり五十何年間ね、56年目になるのかな、7年目かな、途中『マガジン』に抜かれるんだけど、トップでいられたのはね、それだけの理由があると。ちなみに『マガジン』に抜かれたときの抜かれ方って、前お話ししたかもしれませんけど、『マガジン』は会社全体をあげて『ジャンプ』をつぶしにきたのね。『ジャンプ』のそのころの編集部というのは、17～18人だったのかな。要するに運命共同体、一対一の、要するにずっと守っているわけだから、編集者の数ってそんなに増やせない。連載本数がちょうどいいぐらい。『マガジン』は講談社そのとき独立採算とったばかりであって、不採算、採算がとれない部署からどんどんどんどん人が集まって、『マガジン』50人ぐらいいたのかな。

――そんなにいたんですか。

鈴木：『モーニング』もいたのよ。

――じゃあもうとにかく会社全体で本当に。

鈴木：それでほかの部署にいるけど、『マガジン』に使えそうな人材を全部五十嵐（：隆夫）さんが『マガジン』に集め、１本１本の作品を合議制でやるわけ。その合議制というよりも、キャップ制というかチーフ制なんです。樹林（：伸）さんがチーフだったりノグチさんがチーフだったり。あと銀杏社の三大優秀チーフといって、樹林さんが『金田一』や『GTO』、『ドクターなんとか』（：『スーパードクターK』（作・真船一雄、1988～96）？）とか『メタルバトラーなんとか』（：『サイコメトラーEIJI』（原作・安童夕馬（樹林伸）、作画・朝基まさし、1996～2000）？）をやるわけです。それでその目の前のロイヤルホストにマンガごとにチームがあって、席があって、それをみんなブレストしているわけです。樹林さんがグルグル回って「今どんな話が出てる？」といって、「今こういうのとこういうのとこういうのやってます」「うーん、そうか、じゃあ今回はこれでいいんじゃないですか」とかって各テーブルを回っていって。それでテレビ局の集団制作体制を模したのかもしれないけど、とにかくマンパワーで。講談社としては老舗なんで、戦後まもないころは講談社と小学館の差だってものすごい差あったんですよ。とにかく出版社の一番大きいのはもう講談社。     その（小学館の）下に集英社も入って、向こうのその人だったら光文社。それから安孫子（藤子不二雄A）さんが怒ってたんだけど、『少年』を休刊しちゃったら、なんだっけなあの人、その名前をいつも聞くんだけど、呼び捨てにして「あいつのせいで『少年』が休刊になって」っていう話はしてました。

――じゃあ、次の。

鈴木：ちょっと待って今の話でちょっと追加で。

――どうぞどうぞ。

鈴木：なんの話だったっけ、直前。『マガジン』『マガジン』。

――『マガジン』はい。

鈴木：それで実際抜くわけ。

――96年ぐらいでしたっけ。

鈴木：そうですね、抜いて朝日新聞の夕刊の一面に「『ジャンプ』失速『マガジン』に首位の座明け渡す」という記事が出るわけですよ。でもこれのときに『ジャンプ』はどうだったか。『ジャンプ』の編集部がそれに対して非常に、向こうは老舗の意地でとにかく社長命令だったか、『ジャンプ』を絶対に抜くんだという号令一下でその大事業を成し遂げるわけ。大事業かどうかわかりませんけど、だけど我々はやっぱり『ドラゴンボール』は、最初終わったの『幽☆遊☆白書』『スラムダンク』『ドラゴンボール』だったかな、も終わったし、そのときは『るろうに剣心』と『封神演義』でなんとか回してたっていう時代なんで、抜かれても仕方がないというラインナップだったんです。それに対して『マガジン』に抜かれたっていうことに対する動揺は、実はなかったんですよね。そのときに、もう次の時代にスライド、弾がいるということが報告されているんです。なぜかというと、それこそ尾田栄一郎が連載会議に回してきて、もう少しここだけを直してっていって戻されるんだけど、でもああいう才能もいるしっていうことで、その３人は『ナルト』を描いた岸本さんの作品も新人として、『銀魂』の先生とか『ヒカルの碁』の先生とか、『ブリーチ』の先生とか新人予備軍がいっぱいいたんで、一度『マガジン』に抜かれて巻き返すことは十分可能じゃないかっていう雰囲気はあったと思います。それで、僕は話は変わるんですけど、『ナルト』が終わって『黒子のバスケ』が終わりました。そのとき2016、7年だったかな、危機感持つわけですよ。そのとき何をするかっていうと、当時もそうだったと思うんですけど、まず編集長に、僕そのとき取締役だったか常務だったか忘れましたけど、「『ジャンプ』今どんどんどんどん目に見えて数字が下がってる」と。『ナルト』『黒子』が終わって、読者離れが進んでると、「どうなんだ」「大丈夫です」って「次にいい作家がいます」と。そのときに見せてもらったのが、吾峠呼（：世晴）さんの。

――『鬼滅』。

鈴木：『鬼滅』と、あとは『約束のネバーランド』。しばらくしてさらになんか「どうなんだ」っていったら「いいのがいますよ」っていって、『呪術廻戦』の先生の名前をインプットしてくるわけ。結局『ジャンプ』の自信というのは、次の世代が待ち構えてるかどうかなので、そんなに他社に抜かれたから、50年間一度も首位の座を明け渡さなかったという事実にこだわりたいとは思ってなかったんですよね。常に、今でもそうですけど、常に新しい作家が背後にいるかどうかをずっとチェックして、連載会議がちゃんと形のあるものになってるかどうか、これだけをチェックするという雑誌が『少年ジャンプ』。『チャンピオン』は『ジャンプ』に肉薄したけど、結局次の世代、予備軍を育つのに手間かかったから遅れをとってしまったし、アニメーションにも乗ってこなかった。『マガジン』はチーフ、みんな実は年を取るんですよ。樹林さんが辞めちゃう（：1999年）し、それでチーフ制は維持できなくなって、今ではやっぱりどうなったかわかりませんけど、やっぱりきちっとしたそういう『ジャンプ』みたいなシステマティックにやってるのか、一部分チーフ制を残しつつも個人、一対一の部分もあったりとかやってるのか、それはもうわかりませんけど。だけど五十何年間にわたって同じシステムを守り続けて成果を出し続けるっていうのが、『ジャンプ』の強みだと思いますね。その「なんとかの巻」というのも含めて。一度「こう」と思って正しいと思ったことは、やっぱりしがみつくというんじゃないですね、そこに価値があるならそれをずっとやり続けるべきだというのは。非常にだから非常に柔軟、ある種そこも柔軟だと思いますよ。新しい世代の編集者と新人作家さんたちとどんどんアップデートして、新しい作品を作っていくっていう。その意味で鳥嶋さんもその一人にすぎなかったと思うんですけど、でも鳥嶋さんが身につけてたニュアンスは非常に影響力の強いニュアンスだったという。鳥嶋さんがやった東映アニメ、フジテレビ、バンダイというのは、今度しばらくしてから茨木（：政彦）編集長になったときには今度は、ぴえろとテレビ東京と『ジャンプ』みたいなふうにマイナーチェンジしたりとかします。今度ぴえろが今度『ナルト』やって『ブリーチ』やって『銀魂』やってとかね、そんなふうになっていく。それはだからそのときの編集長イニシアティブがあったりするんですけど、今瓶子（：吉久）君というのが10代目の編集長でしたけど、彼がやったのはさっきの話のまとめになるけど、彼は自分も非常にアニメ情報に長けてるんですけど、スタッフのアニメ情報も信用する男なのね。今とにかく『ジャンプ』描いてる先生たちもみんなアニメに対して非常に強い関心持ってるということで、要するにこの作品をどのアニメーションにしたらいいかということに対して、非常に丁寧に審査して、それで決定してるという。アニメイニシアティブはどんどんどんどん下に下りて、瓶子編集長が全部握ってるわけじゃない。むしろ下からの情報でジャッジしてるんで、下にもあるといってもおかしくない。それが今の『ジャンプ』のアニメ作りのシステムだと思いますね。『ジャンプ』に関して、だいたいこんな感じで。

――ちょっと一つだけうかがいたいんですけど、先ほど「少年」というキーワード、「少年」というキーワードが大変重要だっていうのを非常にそのとおりだと思うんですけど、一方でそれこそ『リングにかけろ』のころからというか、『ドクタースランプ』のころからというか、わりと女の子も読者になっていくじゃないですか、80年代ぐらいから。そういう現象は現場の編集者としてどんなふうにご覧になっていらっしゃいましたか。

鈴木：それは、人気の盛り上げる要素として、もう全部現場に委ねられてて、編集長が「女の子入れろ」と言ったことは一度もない。

――そうなんですね、自然に。

鈴木：僕らは昭和30年生まれ以降はみんな女の子大好きなんですよ。『ゴロ』で育った世代です、『平パン』で『週プレ』『ゴロ』『デラべっぴん』で育った世代なので、もう女の子大好きで必然的に入りますよ。マンガ家さんたちもそうだし、かわいい子大好きだもん。それでアニメーションとまたアニメ独特のかわいい絵が入ってくるじゃないですか。

――それもそうなんですけど、キャラクターもそうなんですけど、読者ですよね。女性読者が増えてきたんじゃないかな、だんだん比率は。

鈴木：ごめんなさい、勘違いしてました。入ってくるでしょうね。『リンかけ』でお伝えしたいことが二つあって、一つは要するに『リンかけ』『翼』で始まったのが『ファンロード』に出てた二次元ね。要するに女の子が少年マンガの、あれなんていうの。

――当時は「やおい」と言ってましたけど、いわゆる。

鈴木：二次元創作ね。

――そうですね、二次創作というか同人誌文化というか、そういうとこにものすごくビビットに反映していたんじゃないかなと思ってるんですけど。

鈴木：もっと言うと実は『アストロ球団』から女の子の読者いたのね。

――そうなんですか。

鈴木：『アストロ球団』って意外と、絵はね、男臭いっていう絵なんだけど、球一（：主人公格）とかなんかね、いたんですよ、女子のファンが。『ジャンプ』のあるビルに共立の高校生が帰り寄って遊んでいくんですよ。そのときに一番人気があった作家が中島徳博なんです。

――それは意外でした。

鈴木：それでその中からそのとき来たその中に、ここはここだけの話ですけど、秋本（：治）先生の奥さんと、平松伸二さんの奥さんがいると。すごく身近な話なんだけど。『リンかけ』もたぶん意識してます。『アストロ球団』も野球マンガっぽくないじゃないですか。

――そうですね。

鈴木：『リンかけ』も明らかにボクシングマンガっぽくないじゃないですか。むしろ、要するに『包丁人味平』みたいなもの。でも少年美、少年美を意識してますね。高橋君はね、そこまで意識してないと思うんだけど、自然にしょこたん（：恐らく「ショタコン」を言い損ねた）というか彼が描く小学生に落としたことによって、女の子たちがそのかわいらしさにキュンとなって描き出しただと思うんですよね。　それともう一つ『リンかけ』はトーナメント方式、これが『ジャンプ』の80年代の要するにアンケートを維持するための最大の武器になるということが浸透していって、一番それが大きな成果を得たのが天下一武道会ですよ。天下一武道会じゃなくて『男塾』もそうだし、あの当時『ついでにとんちんかん』（：作・えんどコイチ、1985～89）までね、トーナメント方式を採用してましたよ。『ターちゃん』（：『ジャングルの王者ターちゃん』。作・徳弘正也、1988～95）もやってたんじゃないかな。

――たぶんだからアニメ。

鈴木：『幽白』もやったし。

――アニメってテレビですから、男女見ちゃうんですよね。雑誌だと選びますけれども、テレビアニメは男でも女でも見ちゃうんで、そこが一つ。

鈴木：そうね。ただ『サンデー』のほうに先に女子のね、ファンが行くのかと思ったら、『ジャンプ』にも同時に来たっていうのあるのはアニメのせいかもしれないけど、その美少年っていう。

――そうです、実は意外とですね、女性の読者でマンガ好きって梶原一騎が好きなんですよ。

鈴木：かもしれないですね。

――なんかね、たぶんいろんな要素があるんですけど、ジェンダー的な。ああいう男臭い世界が意外と女性は好きだ。たぶんしかも、サッカーみたいに人数多いと自分の推し探すのが楽しいので、ある時期からとにかく、それはトーナメントであれスポーツであれ、男の子たくさん出すと絶対女性がつくっていう。

鈴木：だからその『ジャンプ』を女子が読み始めてたっていう時期にちょうど居合わせたと思うんですけど、一番端的に出たのはファンレターで。ファンレターの宛先は車田正美先生宛じゃなくて、河井武士（：『リングにかけろ』の登場人物）宛とかね、そういうことが多かった、翼君宛じゃなくて若林源三（：『キャプテン翼』の登場人物）宛とかね、そういう。それは僕入るまでわかんないんだけど、ひょっとしたら『アストロ球団』よかったのかもしれないし、とは思いますけど。

――今は本当にね、「少年」ってついてても普通に女性も読むし。

鈴木：今半分以上。

――ジェンダーレスな世界ですよね。

鈴木：半分というか単行本は半分以上っていう人もいますよ。

――逆に少女マンガもね、昔は少女しか読まなかったかもしれませんけど、今男性も普通に読めるという。

鈴木：いやあ、そこはね、遅いですよ。

――そうですか。じゃあ、少女マンガの話もちょっとおうかがいします。

鈴木：少年マンガから少女マンガということで言うと、少年マンガの盛況と少女マンガの衰退、数字上の衰退っていうのはリンクしていると思っています。読者が少年マンガに、青年誌も含めて大規模流入したということと、作家も青年誌が多いと思いますけど入ってきて、要するに本来だったら少女マンガで描くという可能性が高かった女流作家さんたちが、自分の適材適所というか一番作品を発表しやすい舞台をごく自然に選んだということがありますよね。それと同時に、少女マンガにとって、僕が入ったのは50歳のときだから今から26年前というと、何年だ。26年前というと、2000...

――98年ですかね。今2024年なんで98年じゃないですか、1998年。

鈴木：ごめんなさい、16年前です。

――16ですよね。

――ごめんなさい。

鈴木：2008年ね、2008年ごろに起きてた現象で言うと、二次元創作に女子がウワーッと行っちゃったのあって。コミケで描いてるのってほぼ女子じゃないですか。だからあそこに描き手が行き、読み手が男のマンガ誌に行き、少女マンガを支えるユーザーだったりクリエイターがどんどんどんどん減っていった、先細りしたという時代に僕は少女マンガに移りました。まず何をやったか。各雑誌、当時『マーガレット』の編集長でもいったんですけど、部長代理という立場でもいったんで、第一編集部、集英社は第一編集部は少女マンガなんですよ。『ジャンプ』は第三編集部なんです。少女マンガが当たったんで、その後にその余力で『ジャンプ』を作った。つまり『りぼん』のお金で『ジャンプ』を作ってるんですよ、スタートは。そのときに僕は、各雑誌のマンガ賞の月の応募数を聞いて回ったんですよ、担当する（：6、7人に）。それで『りぼん』が130ぐらいあったかな。『別マ』が50～60あって、『マーガレット』が20～30だったんだけど、ピークのときを聞いたんですよ。『りぼん』のピークは700、『別マ』のピークは、ちょっと忘れましたけど200、300あったと思います。『マーガレット』のピークも150ぐらいあったと思います。
『りぼん』の話に絞ると、700あったときは近くの旅館で編集部員が2泊して、それで全部読んだ、毎月ですよ。そのぐらい応募作が多かった。それが『りぼん』の黄金期。そのいわゆる東大生が、なんでしたっけ。

――右手に...

鈴木：東大生が作ったじゃないですか、少女マンガのファンクラブを。それが田渕（：由美子）さんとか太刀掛（：秀子）さんとか陸奥A子さんのところに、東大生が少女マンガを読んでるっていって話題になったころ、よりもそのあとにさらに少女マンガ、これも実はアニメーションが大きいんですよ。『りぼん』が一番、だから矢沢（：あい）先生がいて、     『天使なんかじゃない』、『りぼん』はその前に黎明期、最初のころはね、それこそ先生が知ってる新幹線の、男の先生が描いてるやつか、亡くなっちゃったけど、うちの嫁さんが大好きだった。あだ名が「超特急」という超特急の、知らないか。なんだっけな。

――超特急。

鈴木：女の子で小学校5年生の女の子でおてんばな子で、あだ名が「超特急」という。

――そうなんですか。詳しくなくて。

鈴木：そのあとに一条（：ゆかり）さんとかもりたじゅんの時代があって、その次に『ときめきトゥナイト』の時代が来て、これは長かったんですけど。それでどんどんどんどん『ときめき』を見て入ってくる、『有閑倶楽部』はもちろん長かったんで『ときめきトゥナイト』、それで『星の瞳のシルエット』という、これも売れたんですけど、その下に矢沢先生の『天使なんかじゃない』と。

――『ナナ』。

鈴木：『ナナ』じゃない、『ナナ』は雑誌が違うんです、二つ大ヒットがあって。そのときに、『ご近所物語』だ、『天使なんかじゃない』『ご近所物語』とあと『ハンサムな』...吉住渉さんの『マーマレード・ボーイ』と『ハンサムな彼女』だっけ。

――ごめんなさい。

鈴木：まあ、いいや、このへんは。あと『こどものおもちゃ』とか、あとは水沢先生のなんだっけ、1、2、ダッシュっていうやつ、水沢めぐみのなんだっけな。

――さっきのは吉住さんの『ハンサムな彼女』。

鈴木：『ハンサムな彼女』でよかった。水沢めぐみ...『姫ちゃんのリボン』だ。ちょっと整理しますと、『りぼん』ってもう実は『りぼん』という雑誌、とんでもない雑誌で『ジャンプ』は650万っていってるときに『りぼん』も255万という。

――すごいですね。

鈴木：だからあの当時、何年になるのかな、20世紀の終わりごろだと思うんですけど、マンガ雑誌、集英社だけだと思うんですけど黄金時代があって、『別マ』も195万いってるんですよ、発行部数が。当時売上げ率もたぶん90％前後、そんなに部数ってことは返品が多いと大変ですから。

そのころに『りぼん』はそれこそ、最初は『有閑倶楽部』『ときめきトゥナイト』でどんどんどんどん部数拡大していったところに、矢沢先生の『天使なんかじゃない』とか『ご近所物語』、それで吉住渉さんが『ハンサムな彼女』『マーマレード・ボーイ』ちょっと順番は逆かもしれませんけど、あと水沢めぐみ先生の『姫ちゃんのリボン』、それと小花（：美穂）先生の『こどものおもちゃ』とか、その前に『赤ずきんチャチャ』とか、あとは当然忘れちゃいけない、さくらももこ先生『ちびまる子ちゃん』、それとあとは岡田あーみんがいた。このころの『りぼん』の快進撃ぶりっていうのはまたこれすごくて、付録雑誌なんで付録作るの大変なんですよ。我々の付録っていうのは全部手作業なんです。徳島県の松下印刷っていうところが県下の、要するに内職さんっていうんだけど、内職さんを集めて6カ月前から作り出すんですよ。作っちゃ東京へ、作っちゃ東京へ送りなんだけど、こんなことを引き受けてくれたスタジオがあったから、あの255万部の『りぼん』はできたんですけど。ところがね、その当時700通月に応募があって、それだけの不動のパワーかなって思ったんですよ、少女マンガこのまま少年誌と同じようにずっと夕日を見ないでずっといくのかなと思ったんだけど、僕が行ったときは既に『りぼん』で5分の1だったと、その月の投稿数が、部数ももちろんそのぐらいになってました、それ以下かもしれない。やっぱり何が起きたかっていうと、少年誌への流出。それは読者もクリエイターも、これが一番デカい。やっぱり少女マンガってどうしても恋愛に特化したカテゴリーコミックじゃないですか。それで少年誌と青年誌と少女マンガ、どう違うんだろうねっていうことを夜中から朝の9時まで議論した作家さんが二人いて、二人の作家さんで議論して、羽海野チカさんとよしながふみさんなんだけど、それで明け方朦朧としながら出た答えが、非常にシンプルなんだけど、少年誌はヒーロー性、少女マンガは関係性、青年誌はそのときに議題になってなかったかな、非常にもう的確だと思うんですけど、あの二人の巨匠が朝までかかったって。でも逆に言うと、もう議論の余地はないぐらいに言えると思うんですけど、その関係性というところにやはり発展性があまりない分野ではあるのね。これは言い方がおもしろいんですよ。もちろんそれをどんどん変えていかなければいけない、そんだけの使命があると思うんだけど、でもやはりより少女マンガの中でのみ仕事をするのは飽き足らないと思った人たちがどんどん流出してしまうということは明確に起きたと思うんですよね。やはり少女マンガのビジネス的な弱さもあって、そのころはすごかったんです。『りぼん』黄金時代のころは、ものも売れたんですよ、キャラクター商品もいっぱい売れたんですけど、アニメにもなったんです。だけど、だんだんドラマにはなるけどアニメにはならなくなってきた。そうすると、アニメの要素が減っていくと、さっき夏目さんがおっしゃってましたけど、やはり子どもは見ない、大人は読む。単行本は売れるんですよ。だから『花より男子』も非常に単行本は売れるんですけど、では、ものは『ドラゴンボール』と同じぐらいだったかというと、比べる相手が『ドラゴンボール』だと申し訳ないけど、なかなかそうはいかない。結局海も超えないけど、国内でも、アニメでもそこまでビッグビジネスにならないという、少女マンガの弱さがあった。それはだから、少女性が足りなかったかもしれない。要するに恋愛要素が強すぎると、やはりマンガとドラマで完結した。少年誌における、比喩的に言った少年性というのは、海を超えるためのキーワードだったんだけど、海を超えた唯一の少女マンガが『セーラームーン』であるということは、やはり少女マンガの市場の狭さを、ある程度ワールドワイドに見たときには物語っているのかもしれないと思いますね。ただそれは、かといってもね、国内ではもうものすごい少女マンガ。何が少女マンガで一番すごい影響かというと、あれね、登校拒否児を救ってるんですよ。登校拒否になった女の子たち何やってるかというと家でマンガ読んでるんですよ。もちろん少年マンガ読むんだけど、少女マンガが多いんです、これ。これは登校拒否で立ち直って、うちの会社に入ってきて今少女マンガでヒット作何本も出してるんですけど、女子から聞いたんです。登校拒否児童というのは周りでつながってるらしくて、やはりみんなマンガ読んでるという話でしたね。

――いい話ですね、その登校拒否だった方が今編集やってらっしゃるんですよね。

鈴木：そうそう。ある雑誌の副編集長やってますけど、マンガの本当にね、一番社会的な使命というかあれなんだけど、地震のときに１冊の『ジャンプ』がボロボロになるまで読まれたってあったじゃないですか。

――はい、ありました。

鈴木：東北の仙台の書店の話。結局本当につらいときにでも癒しになれるというか、そのつらい時間をそれを読んでる間だけ忘れさせてくれるという、何かがマンガにはあるんです。マンガだけじゃないかもしれませんよ、いろんなものにあるんで。ただマンガはね、さっきも言ったけど、被災地って戦後みたいなもんじゃないですか。だから何もない状態でもマンガというのは。映画とか見れないじゃないですか、テレビとか。そういう意味でも非常にやはりシンプルで力強いメディアだというふうに思いますけどね、よかったなと思います。

――逆に少女マンガとか何かこう鈴木さんなりにアイデアを出されたりとか。

鈴木：いや、いろいろやったんですけどね。一番やって、一時活性化したんですよ。それはやはり現場を編集者を基本一対一の運命共同体だというところで、読者も女子だと。編集者も女子がいいんじゃないかな。女子の編集者にどんどん増やしましたね。先にそれをやってたのは小学館で、小学館に畑中（：雅美）さんという、萩原（：綾乃）さんとか何人も優秀な編集者がいたんですけど、当時『ちゃお』はもちろんトップだったですけど、『Sho-Comi』が元気でね、それで小学館にすごい元気な編集者がいっぱいいるという話を聞いてたんですけど、とにかくうちも女子の編集者を開発しなきゃなと思いましたね。ただ『ジャンプ』には10年、青年誌には14年いてそのあとジャンプコミックス出版というとこに４年いて、要するに男のマンガ系に30年いたんですけど、少女マンガには４年しかいなかったんで、大きな成果はあげることはできなかったんです。少女マンガってなんだろうということは少し感じることができて。一番僕は少女マンガに行く前に、恐れてたのは、少女マンガの先生というのは、僕はやはり『ジャンプ』育ちじゃないですか。僕が行っても言うこと聞いてくれないんじゃないか、先入観だったんですよ。でもすごく強い先入観を持って、たぶん毛嫌いされるかなとか壁があるだろうなと思って行って、『マーガレット』というのはよかったかもしれない。『マーガレット』って売れてない中でもなかなか、売れないんだけど刊行形態が月２回刊なんで、すごいハードなんです、女性にしかもページが24ページぐらいあったから。それでガッツのある先生が多いんです、月２回締め切り守る先生ですから。それで一人一人の先生にアタックというか、いろいろ意見交換してる間に先生たちにもいろいろマンガのことを話そうとすると、「いいから、鈴木さん、どうやったら私のマンガは売れるんですか、『ジャンプ』から来たなら売れる方法教えてください」と。要するに結局少女マンガ家も男性マンガ家と一緒で、書店で自分の本が一番前に面陳されたいんですよ。「あ、変わんないや」と。全然先入観で非常に難しくて、人の、編集者の話聞かないなんていうのはこっちの先入観だったというふうに気づかされて、それから先はやりやすかったですね。だからもうどんどん作家さんたちと会って、作家さんたちの、僕編集長になってたんで、編集長というのはもう完全にモチベーターなんで、現場のスタッフとそこのどこ行っても僕はそこが大事なんで、彼らのやる気、彼らの作品に対する展開力を上げるための存在が編集長だと思ってるんで、やることはモチベーション上げるだけなんで、それに徹しましたけどね、そこはちょっとうまくいったかなとは思います。本当に少女マンガもやはり自分の作品を売りたいんだな、そこは一緒だったということはすごいホッとしました。今でもそうだと思いますけどね。

――あとでは、『スーパージャンプ』（1986～2011）のお話もうかがいたいんですけど。ずっと約10年ですかね、『少年ジャンプ』をやられて、今度『スーパージャンプ』というのは読者年齢的にはどのくらい離れてるんですか。

鈴木：完全に青年誌においては集英社、超後進国なの。青年誌において先進国は小学館。実は双葉社も先進国だったんです。『少年ジャンプ』の創刊が昭和43年（1968年）って言いましたけど、同じ年に『漫画アクション』と『ビッグコミック』が創刊されてるんですよ。それで、遅れをとってた講談社が、講談社は当然もちろん『ジャンプ』に負けたくないけど、青年誌で小学館に負けたくないわけですよ。それで大号令の下に『モーニング』（：1982～）が始まるわけ。これちょっと今はヤング誌の話はあんまりあえてしてないんですけど、ヤング誌に関しては集英社の『ヤングジャンプ』（：1979～）の作り方というのは、あれはコンテンツを作る雑誌じゃなくて雑誌を売る、雑誌そのものをコンテンツとして売ってきたというコンセプトがあるんで、マンガ作りの特化した雑誌ではないというのが『ヤンジャン』のスタッフが言ってるんですよね。だからこれをそのまま引き継いで、今ちょっとこの議論に脇に置きますけど、それで集英社は非常に青年誌に遅れをとってたということがありました、今もそうかもしれない。講談社は『モーニング』。『モーニング』何やったか、週刊誌でやると。その当時の初代編集長、誰だっけ、背の高い人、怖い人。

――名前が出ないんですよね。『モーニング』の方ですが。

鈴木：酒を飲まなくて怖い人でした。亡くなった方々のことはよく覚えているんですが。『モーニング』初代編集長で、すぐ思い出せますよ。いろいろな名言を残した方で、ハーレーに乗って作家さんのところに行ってネームを直させるという。

――栗原（：良幸）さん。

鈴木：栗原さん。

――ああ、栗原さんですね、有名な方ですね。

鈴木：栗原さんは、もともと『マガジン』時代に本宮さんを担当していて、■（ショウゴロウ？2:43:44）先生とか『群竜伝』とかを手がけていたと思います。栗原さんの編集方針は「青年誌の『ジャンプ』を作る」でした。要するに小学館の真似はしない。青年誌で一番の雑誌は『ジャンプ』を真似した青年誌であるはずだと。そのため週刊で、アンケート主義を採用しました。だから『モーニング』は創刊号から後ろにアンケートハガキがついています。『ビッグ』は今でもたぶんついていないと思います。『モーニング』は様々な聞き方をしていました。好きだった絵や作品について聞いて、おもしろかったものや、うまく言えないけどよかったものを分けて聞いて、1位の作品がたくさん出るようにしたんです。それを作家のところへ持って行って「今週1位でした」と伝える。これも作家を励ますための方策だったのかもしれませんが、とにかく本宮さんの参謀みたいなことをやってるんですよ。栗原さんは小学館の真似ではない青年誌を作ろうとしましたが、当時集英社には『ヤンジャン』しかなく、ビジネス『ジャンプ』でした。『スーパージャンプ』は実は『少年ジャンプ』第三編集部でやっていました。第三編集部の作家さんたちが徐々に新しい作家に描く場所を奪われて、でも他社に出すにはもったいないという。これは非常に出版社のドグマというか。本宮さんは激しく嫌っていましたが、出版社の都合でマンガ家さんの人生を決めるべきではない。そこでダメなら、自分で描く場所を探すのがクリエイターだと思うんですが、それでも雑誌は作られました。なぜかというと、寺沢武一がいたり、『ジャンプ』では締め切りが遅くて手に負えないまつもと泉がいたり、あとは■■さんが青年誌のほうが活躍の場があるんじゃないかという作家さんたちがいたからです。要するに第三編集部における『ジャンプ』の隣にある青年誌という発想でした。これは非常に間違いでした。天下を取る雑誌にはなれなかった。僕は一生懸命やりましたよ。当時、僕は『ジャンプ』の編集長の後藤さんにあまり好かれていなかったので、『スーパージャンプ』は僕が付き合っている作家だけでやることにしました。あとは『ジャンプ』で描くチャンスがなくなった作家たち。寺沢先生の『コブラ』は掲載間隔の問題で毎号は無理だからという理由でした。西村さんが初代編集長で、寺沢を生かす雑誌を作りたいという思いもありました。平松さんが60ページ描いてくれるということで、結局『ジャンプ』育ちの作家さんと僕の付き合いのある作家さんたちで構成されました。それがうまくいくはずがありません。一編集者のキャパシティでは。電撃文庫の。

――はいはい、三木（：一馬）さんとか。

鈴木：三木さんなら違ったかもしれませんが、僕にはそこまでの能力はありませんでした。でも『狂四郎２０３０』（：作・徳弘正也。1997～2004）とか『ゼロ』（：『ゼロ THE MAN OF THE CREATION』原作・愛英史、絵・里見桂。1990～2011）をやって、『企業戦士YAMAZAKI』（作・富沢順、1992～99）も当たりを出して。『狂四郎２０３０』は徳弘正也先生と組んで、うちのスタッフがやったんですが、僕がきっかけを作って。本当にいい雑誌になりましたが、でも結局40万か50万部でした。

――いや、それだけあれば十分では。

鈴木：今とは違います。当時はもっとすごい雑誌がたくさんあったということです。その最後に『JIN-仁』（：作・村上もとか、2000～2010）が載りました。『仁』は毎号連載ではなかったんです。当時まだ『龍』（：1990～2006）があって、『ビッグコミック』の時代でした。ただ『仁』のスタートを決められました。3号続けて載って、しばらく半年休むという不定期連載でしたが、十分に下調べする時間がありました。『仁』は幕末に飛ぶという一つだけ大きな設定以外は、1ミリも嘘をつきたくないという村上先生のリアリズムに徹底した作品で、監修者集めが僕の責務でした。それはうまく集められて、いい監修陣が整いました。僕の後輩が毎号連載に持ち込むことになりますが、そのとき初めて、社長にも言ったんですが、「やっと集英社に青年誌らしいマンガができました」と。「これは大人が読んでも読むに耐えるマンガができた」と自己判断しました。それほど集英社には青年誌に対するアプローチが弱かったんです。もちろん『ヤングジャンプ』の中で青年誌志向で作ったマンガはあったと思いますが、本宮さんはどこまで行っても本宮節でした。本宮さんは少年マンガでも青年マンガでも本宮ひろ志というジャンルでした。最初は『哀愁荒野』（：原作・梶原一騎、作画・松久由宇）とか、それこそ中野祐介さんが手がけましたが、松久由宇さんが描きました。手塚さんも最初は連載しましたし、赤塚先生も描いたかな、永井先生も描いていましたね。集英社もちゃんとした青年誌を作ろうと思ってやったはずですが、途中からグラビアが目立つようになりました。広末などが出てきて、マンガは本宮ワールドになっていきました。そうすると『孔雀王』（：作・荻野真、1990～1992）とか元祖が非常にある種■だからジャンルを確立できていない、青年誌としての、という気がします。これは僕の解釈で、一般的な評価とは異なるかもしれませんが。それに比べて『ビッグコミック』は完成された陣営があって、『モーニング』は週刊誌で新しい青年誌作りに週刊態で鋭意邁進していました。集英社は青年マンガ作りが弱いと思っていたので、『仁』で追いついたときは本当に安心しました。そのあと『ヤンジャン』が、その文化を引き継いだかどうかは別として、どんどんマンガ誌に変貌していきました。『ミラクルジャンプ』という『ヤンジャン』の増刊から『テラフォーマーズ』（：原作・貴家悠、作画：橘賢一。2011～）とか、そこから『トーキョーグール』（『東京喰種トーキョーグール』。作・石田スイ。2011～2018）が出てきて、そして『キングダム』（：作・原泰久、2006～）が載るようになりました。『キングダム』も『ヤングマガジン』に担当はいたんですが、いろいろあってラッキーなことに来てもらいました。『キングダム』はすごくて、いまだに100万部に到達するまで初版部数を減らしたことがないという、とんでもない作品です。

――今も初版100万部ですね。

鈴木：とにかく一回もスランプがないと言っていいかな。ノースランプで100万部まで、ゆっくりかもしれないけどたどり着いたという意識がありました。僕は30万部のときに、これは絶対100万部にします、100万部にしないとこれはもう集英社の恥ですと言って、後輩に任せて出てきましたけど。でも本当に100万部になったんですよ。今だから『ヤングジャンプ』がかなりヤング誌と青年誌の両方をやっている。『ゴールデンカムイ』（：作・野田サトル、2014～2022）とか出てきた。『ゴールデンカムイ』というのは題材が題材じゃないですか。やはり非常にデリケートな題材で、しかも週刊単位で緻密な絵でやっている。この編集者は大変なんですよ。毎号毎号原稿が上がって1日、やはり監修時間が必要。そのためにスケジュールを1日前倒しにして回していかなければいけない。それでそこには非常にナーバスな問題も横たわっているので、時にはそれに対して対処もしなければいけないということをやってきたんじゃないかと思うんですよ。『仁』も僕は相当頑張って、僕の後輩が非常に頑張って時代考証、医学考証をやったんですけど、『ゴールデンカムイ』の考証ぶりというのは本当にすごいと思いますね。集英社にも今やっとそういう青年誌作りの文化が根付いてきた。どうしても青年誌はリアリティが必要だと思いますしね。どこもリアリティというか、少年誌がエモーショナルなリアリティ、少女マンガももちろん人間関係性における感情的なリアリティが必要でしたけど、青年誌はもうリアリティが全てなんです。要するに大人をごまかすというか、大人をその気にさせるマンガを作るということですから。だからごまかすとかだますとかということではなくて、やはりリアリティがないと大人は付き合ってくれない。という読者と非常に緊迫した関係があると思うんですよね。ということを感じながらやってきましたね、青年誌は。ただ青年誌の一番の問題点というか、それは版元の問題で、やはりビッググループというのは単行本が売れないんですよ、もう長くなってしまって。これは先生たちの生活にも関わってくるし、大変なことだと思うんですよ。だけどぼちぼちビッグを見ても新しいマンガが出始めていますから、各社やはり今までははちょっとあぐらをかいていたのかなと思うような時代にはなってきたかもしれませんけどね。それこそ青年誌、青年読者もまた今の少年誌が多いじゃないですか。青年誌と少年誌も実はライバル関係にあったりするじゃないですか。面白いところにみんな大衆は流れていくので、常にその関係性というのは、関係というかその対立構造というのは起きることだとは思いますけどね。結局マンガというのは常に競争しなければダメなんですよ。

――できる限りで結構なんですけど。

鈴木：また西村さんの話ですか、違うか。

――すごくおもしろいんですけど、結果成功物語にどうしてもなるじゃないですか。

鈴木：というか会社としてね、自分としてじゃないですよ、今。

――でも僕のような立場からすると、その間成功した人が一人出るのに、何十人何百人は。

鈴木：20人は殺しているでしょうね。

――うん。だからその、いろんな要素は当然ながらあると思いますけれども。

鈴木：今度は一編集者の話ですね。

――そうですね、はい、個人としてそういう負の部分というか。

鈴木：ありますよね、いっぱいあります、はい。

――それについてをうかがいたいんですよね、どういう。

鈴木：負の部分というのは自分で意識している負と、意識していない負があります。意識している負というのは気にかけている人間が当然いますよね。それで僕は自分の担当した作家は、新人はとりあえず全部デビューさせたんですよ。でも逆にそれがよくなかったかもしれない。要するにマンガ家になれるという夢を持ってしまった。それで20代30代ひたすらマンガを描かせてしまった。でも僕はわりと、それこそ上書きのかけ方がうまかったかどうかわかりませんけど、掲載させるのは上手だったんです。ただ、そこから先の続けるのはやはりこれ毎号毎号人気を取っていくには、どうしても作家の才能というのがベースにならざるを得ないじゃないですか。僕も本当に自分がマンガを描きたかったので、マンガを描く人をみんなマンガ家にしたいという思いがあって、つい実行してしまった。これで人生を狂わせてしまった人が何人もいると思いますよ。お金もいっぱい貸したし、もう連絡も取れなくなったし。スポーツの世界でもそうかもしれませんけど、向こうは夢を持って入ってくるわけじゃないですか。その夢を持ってきた段階で、「おまえには能力がないからやめろよ」と本当になかったら言うべきだったと思うんだけど、それは言っていないですね。それがでもまだ自覚があるほう。自覚のないのは、もうマンガを読んでなにかコメントするじゃないですか。それかアシスタントに入れるじゃないですか。まだまだ練っていけと。それっきりになって忘れてしまっている人もいるわけです。そういう人が担当を通じて「なんとか君、めちゃめちゃ鈴木さんに恨みを持っていたよ」とか、そういうことはままありますよね。でもこれは、結局業界全体の規模の話を考えると、今から思うと致し方ない。自分の能力であるレベルまで行けた人なんか、実はいないんじゃないかと思います。だって鳥嶋さんだって本当に発言力があったら、等身大のというかデカい悟空はいなかったわけですから。結局、編集者ってマンガ家が世で活躍するための装置なんで、装置以上でもないんですよ。たまーに原作型の編集者はいますよ。堀江君を僕が評価するのは彼は、先生方からも頼られるのは、やはり話を読み込む力があるのと、武論（：尊）先生が言っていましたけど、「堀江は原作を読むのは非常にうまい」と言っていましたから、そうなんだなと思うし。高橋俊昌という後輩の編集者がやはり『きまぐれオレンジ☆ロード』というね、ラブコメでもう要するに先生（：まつもと泉）が亡くなってしまったからあれですけど、非常に遅い作家がいて、なかなか仕事に持ち込めない、非常にちょっと時間にルーズな作家がいたんです。要するにもうお話を作ってあげないと、リードして先回りして用意しておかないと1週間上がらないという、そういう原作者型の編集者もいましたけど、でも基本はやはりマンガ家さんなんですよ、と思いますよ。どう？

――いや、私はあんまり原作型じゃないのでわかりませんけど、どうなんですかね。

鈴木：そんなにみんな、いや、だから編集者がクリエイティビティを発揮している分野だと思う？

――いや、人によるんじゃないですかね。それは本当にいろんな人に聞いてみたいんですよね。

鈴木：少なくとも僕はそんなにはクリエイティビティを発揮する人間でもなかったし、むしろモチベーター。やはり終わってから「鈴木さんと組んでよかった」と言われることはよくあったんで、そっちのほうが。

――やはりでも作家のいいところを見つけて引き出してあげるというのが一番の役目ですよね。

鈴木：そうだと思いますよね。一対一の付き合いなので、終わったら何しようかとか、そういう福利厚生も大事なんですよ。あと編集長としては、連載終了させたくないんですよね。直接付き合いのない先生の場合とそうでもない先生がいますけど、青年誌になればなるほど向こうの家庭の事情とか感じるし、それはちょっと重い判断になりますね。毎回毎回連載が回ってて、今回ちょっと失敗しちゃったなっていう先生を終了に持ち込むのは簡単なんですよ、またやればいいんだから。だけどやっとの思いで連載にたどり着いて、ギリギリのところで頑張ったんだけど、でもやっぱりそこまでかなと思うときに肩を叩くのは、それなりに大変ですよね。最近そういう先生たちにも会うんですけど、不思議にみんな元気なんですよ。フェイスブックで見たりして、ちょっとメッセージを送ると、「ああもう本当にお世話になりました」と。起用したほうの記憶を優先させてくれるんですね。「俺を切りやがって」とは誰も文句を言ってくれなくて。それで今デジタルで少し収入が出たりするじゃないですか。

――電子書籍で。

鈴木：電子書籍で、ずっとじゃないでしょうけど、古い電子書籍で昔の過去作の掘り起こしがあったんで、それでちょっと裕福になったりするときはすごくホッとしますよね。これ、夏目さん編集者になったことありますか？

――マンガではないんですけど。

鈴木：文芸雑誌とか。

――ただ3年ぐらい、小さな出版社で編集者をやってました。

鈴木：編集、じゃあ要するにクリエイターを切るということはあんまりやらなくて、むしろそのクリエイターと一緒になってというタイプ。

――本当にまだ大学出たばかりでやってたので、切るっていうかそれに近い経験はありますけど、やっぱりそれなりにつらいわけですよ。だけど向こうも同じぐらいの年齢なんで。

鈴木：じゃあ、ずいぶんお若いころね。

――そうですね。結果としてはほかの媒体で活躍したりしてましたから、それほどのあれはなかったですけど。『ジャンプ』のような競争原理の働いてるところって、やっぱりそういう側面もきっと大きかったろうなと。実際その元『ジャンプ』で描かれていた作家さんの恨みつらみを含んだ自伝マンガのようなものも出ていて。

鈴木：例えば。

――あるんですよ。

鈴木：お名前。

――名前なんていったっけなあ。

鈴木：ヨシザワさんじゃなくて、あのへんですか、イエモリさんとかヨシザワさんとか。

――何作かあります、ちょっと家に帰らないと、なにしろ最近もう固有名詞全然覚えられない。

鈴木：年代で言うと、僕がいた最初の10年間だったり、その次の10年。

――いつごろだろう、でもそのあたりだと思います。だから今だからあれ書けるんだと思いますけど、それはそれでおもしろいんですけどね。本当にだからどんな編集者に出会うかなんですね。

鈴木：そうですね。

――本当にその編集者がその人の書くとおりの人かどうかもわからないので、ある種の運だと思いますね。

鈴木：僕は今京都の芸術大学（：京都芸術大学）というところで講師みたいなこともやって、講師っていうか自分が教えるというよりも現役の編集者を連れてきて、今の編集者が求めるものはこういうことだよということをやってるんですけど。

――名前出てこないんですよ。

――要するに『ジャンプ』で昔活躍したけどその後切られちゃったりというか、そういう方の。

鈴木：切られちゃった人。

――何人かいます。

鈴木：必ず僕が話すのは、要するに担当者を選べということです。もしどうしても『ジャンプ』が好きだったら、どうしてもその目の前の担当者がダメだったら、それは『ジャンプ』をやめろと。結局要するにその担当者をやめる、君に全く訴えるところがないから、『ジャンプ』の副編に「担当者変えてください」って言っても取り合ってくれないから。こんだけ雑誌があっていろんな発表形態があってデジタルもあるから、それはどっかにあなたに合った担当者がいるはずだから、そっちを見つけるほうが絶対いいと。世の中には『ジャンプ』以外にもヒットした作品が死ぬほどあるから、自分の好きな雑誌だけにこだわるのは、それはもう読者の延長だから、っていう言い方はします。だからやっぱり本当に見たらわかりますよ。『ジャンプ』だってどうしようもないなって、出るやつしか出ないんです、作品って、ある程度の能力。

――わかります。新人作家の作品見たことありますけど、それはわかります。僕はそもそも売れないマンガ家だったので、売れないマンガ家でどうやって生き延びるか。僕の時代はこっちに吾妻ひでおがいて、こっちに大友克洋がいるので、戦って勝てるわけがないんですよ。

鈴木：お互い認識したんですか、漫研なんですか、みんな。

――全然そういうわけじゃなくて、時代的に吾妻ひでおという天才が、僕よりちょっと上ですけど。

鈴木：でもね、俺ね、『ふたりと５人』って全然おもしろくなかったんですよ。

――僕はもう衝撃受けました。

鈴木：ああ、そうなんだ。あれは何が衝撃だったんですか。

――僕の場合は、吾妻さんはもともと好きだったんですよね。だけど『やけくそ天使』から『不条理日記』の吾妻ひでおは天才的。

鈴木：『不条理日記』。

――はい。とても描けないようなものを描いてて、大友克洋はもちろん、あんな絵は誰も描けなかったので、マンガ界の絵の水準変えましたからね、あの人は。はっきり言って大友克洋と鳥山明なんですよ、あの時代で一番うまいのは。

鈴木：今でもね、負けてない感じですよね。

――そう。それが両脇にいるような時代に僕はマンガ家になろうとしてたんですよ。それは読むほうは読んでますから、わかるわけじゃないですか。そしたら競争する場所を変えるしかなかったんですよ。意識してそうなったんじゃないですけど、偶然なんですけど、僕は自分の名前が売れ出したのは『週刊朝日』なんですよ。つまりマンガ誌じゃないんですよ。絶対普通のマンガ誌では僕は売れなかったと思います。実際やってたけど売れなかったし。

鈴木：あんまり読者の読者受け考えてなかったでしょ。

――いや、逆に『週刊朝日』でカット描きをやってライターになって、そこからマンガ家になっていくんですけど、その過程で初めて読者っていうものが見えてきました。でも逆に『朝日』は原稿料がよかったので助かったんですけど。

鈴木：山藤（：章二）さんとか非常にあそこビジュアルで力入れてましたもんね。

――力は入れてると……。

鈴木：入れてない？

――ええ、あの人たちは基本新聞記者なので、編集者感覚ないんですよ。

鈴木：でもギャラがいいってことは力入れたってことになるじゃない、端的に。

――いやいや、もともとが高いんですよ。僕は当時たぶんマンガ家でほとんどそういう人いないと思いますけど、値上げ交渉きちんとしてましたから、結構上がりました。それでもう一つは、さっきおっしゃってたけど、マンガ家が編集者を選べないんですよ。制度的にそうなってるんですよ。

鈴木：雑誌にこだわればね。

――専属制度には賛成できませんでした。週刊漫画という特殊なジャンルを支えるために必要だったのはわかりますが、個人としてはあまり賛成できない。理由は、あの少ない原稿料で自分を売り渡したら、こちらが選べなくなるということです。僕の経験では『朝日』一つでやっていけば食べていけますが、いつ終わるかわからない。当時は結婚していたので責任がありましたから、いろんな出版社に顔を出して、いろんな出版社の仕事をしたんです。毎月の収入のグラフを描いていて、『朝日』とそれ以外との比率を、『朝日』以外を4割にするという目標を立ててやりました。それは達成して、最終的には半分くらいになりました。要するにリスク分散ですね。そういうことを、なぜか知りませんが、わりと自然に僕はやっていましたが、そんなことをやっているマンガ家はいないんですよね。

鈴木：いないと思いますね。もうだいたい終わったんでしょ？

――そうですね、ちょっと最後だけ一つ伺いたいのですが。

――はい。では、ちょっとだけ、先ほどマンガ家の方とのコミュニケーションで、作品の内容論などは伺いましたが、絵柄やキャラクター作りに関しては、鈴木さんは何かアドバイスをすることがあったのでしょうか。

鈴木：僕はありましたね。

――どんな感じだったんですか。

鈴木：『ジャンプ』のときはアドバイス……『ジャンプ』のときは構図でしたね。よりインパクトのある構図ということはやりましたが、さっきも言ったように『ジャンプ』は伸び盛りの作家さんの絢爛豪華な競争なので、あまり絵に関しては。絵が下手な人はどんどん駆逐されていくんです。鳥嶋さんが声高に「絵だ、絵だ」と言っていて、当時『北斗』で原（：哲夫）さんが入ったら、原さんがまたすごくいい影響があって、原さんのような絵柄に寄っていく作品もいくつか出るじゃないですか、タッチとか、どれとは言いませんが。

――だいたいわかります、はい。

鈴木：そういう意味で誌面がどんどんきれいになっていくというのはありましたね。ただ編集者レベルで絵のことを初めて言ったのは、僕は青年誌に行ってからですね。青年誌はやはり、『ジャンプ』で一時代を過ごした人が次に来るので、ちょっと絵が止まっちゃってる感じがあったんです。それで何回かやっているうちに作家さんは、失敗が続くとテンションが下がるじゃないですか。テンションが下がると絵の艶も下がるじゃないですか。僕は小谷憲一さんという人のマンガをやっていて、この人は『テニスボーイ』（：原作・寺島優、作画・小谷憲一、1979～82）という作品を昔描いていたんですが、僕はもうちょっとしたギリギリの、毎号描くたびにザッキョ（：雑誌協会？）からお呼び出しがかかった『DESIRE』（1997～2006）というかなりエッチなマンガをやったんです。これに関しては絵に注文していました。もともと小谷さんは絵がきれいな人だったので、担当で絵のことを言う人がいなかったんですが「鈴木さんが初めてだよ」と。単純に、作家さんはしんどいと手を抜きたがるんです。雑に描いたところを「ダメだよ、これじゃ」ということだけです。だから彼も、俺が絵にうるさいのがわかったから、わりと気にしていましたよね、「これでいい？」とか。

――キャラクターのデザインというか、絵のキャラクター作りに関しては特には。

鈴木：特にそれも作家さんに合わせるのが編集者だから、自分の中であれがあるわけじゃないから、それはアニメの世界と違うと思うんです。アニメの世界は監督が自分の好きなアニメーター探してくるじゃないですか。

――そうですね、自分の好きなデザインができるまで監督が待っているわけですけど。

鈴木：それはないですね。徹頭徹尾は相手があってこそで、夏目さんは自分の一番合った編集者は見つかったわけですか、その『朝日』の編集者がそうだったんですか。

――恩人の編集者はふたりいまして、一人が『ヤングコミック』の筧悟さんです。でも筧さんとやった仕事でヒットは生まれていないんです。

鈴木：『ヤングコミック』というのはどこだったっけ。秋田？

――少年画報社。

鈴木：画報社、はい。

――結局『朝日』のその編集者で、『デキゴトロジー』という欄を作っていた穴吹（：史士）さん。

鈴木：亡くなられた。

――作り始めた人ですね。その方に。

鈴木：若くして亡くなりましたよね。

――亡くなりました。

鈴木：あそこに、ユスラ（山桜桃）によくいらっしゃってた、松谷さんとよく飲んでました。

――そうですか。

鈴木：ユスラという店ご存じないですか。ちば（：てつや）先生の絵とか安孫子（藤子不二雄A）先生の絵がドーンとある銀座の店なんですけど。

――前行かなかったですか。

鈴木：行ったよね。行ってない？

――いや、行きましたよ。

鈴木：行ったよね。そこに穴吹さんが、そこの前のときにいつもいました。

――そうですか。

鈴木：僕も話したことある。

――彼はだから部内では「天才」と言われていて、お世話になって、彼のおかげで僕は連載を持てたので。

鈴木：単行本も結構売れたんじゃないですか。

――売れました、当時はね、はい。だけど、朝日新聞社は僕は二度とあそこで本を出すまいと思いました。

――なんでですか。

鈴木　KADOKAWAしか書かねえ。

――もう全然やる気がないんです。『週刊朝日』の編集部は、ものすごい活気があるんです。みんな立っていますし、歩き回っていますし、『週刊朝日』だけではなく『朝日グラフ』とか全部あるわけです。ところが、単行本の出版部に行くと、明らかにほかで忙しいので休みに来ましたという編集者しかいないんです。寝ているんです。そもそも単行本を売ろうという気がないので。

――そうなんですか。

鈴木：でもドラマってそういう寝てるやつがすごく大活躍して会社スッと上がっていくのがドラマあるんだけど。

――ドラマだからそうなんじゃない。

――それは『ビッグコミック』のマンガです。

――『美味しんぼ』なんかはそうですよね。

――実際にはないです。それはだって先ほどのお話もそうですけど、やる気のないのがわかりますからね。僕はだからできるだけ、例えば書店だったらどこで売れているのかとか、そういう数字が欲しいんです。あれは部外秘なので滅多に出ないんですが、そういうことも知りたいし、細かくやりたかったんです。でも全くそんなことができる編集部ではなかったので。

鈴木：出版社に勤めたことはないんですか、最初。

――出版社にいました。

鈴木：そのときも細かくやってたの？

――3年半勤めて、倒産しちゃったんです。

鈴木：倒産しちゃったんだ。

――はい。

鈴木　ずっと倒産してなかったら、夏目さんが大きくしたかもしれないね。

――いや、それないです。

鈴木：マーケティングできてるから。

――最初から僕はマンガを描きたくて、やめるつもりで、腰掛けのつもりで入ったら向こうが椅子をどかしちゃったという話ですからね。それで『週刊朝日』に最初は向こうから取材があったんですけどね。入り込んで、用もないのに行ってはウロウロして仕事をもらっていました。丁稚ですね。

鈴木：それなかなか根性いりますよね。

――いや、大学出てすぐ結婚して子どもができたんです。できちゃった婚なんで、しょうがないじゃないですか。食わなきゃどうにもならないですから。

鈴木：夏目さんって夏目漱石のお孫さんでしたっけ。

――そうです。

鈴木：ですよね。

――そうですけど、だからって食わしてくれない。
鈴木：それではあまり食えない。

――それだけじゃ食えないどころじゃなくて。

鈴木：要するに著作権は切れてる。

――著作権はとっくに切れて、戦争終わったときに切れてますから、それは関係ありません。

鈴木：人脈的にも関係ないですか、もう。

――ないです。

鈴木：夏目という、それが生きるという特別感はないんですか。

――今はまったく、ゼロです。というか邪魔になるだけです。

――邪魔になる。

鈴木：そうなんだ。

――だから、とにかく自分で頑張るしかないので、いろんな出版社を紹介してもらったり、丁稚みたいなことをしました。

鈴木：ほんと、車田先生が言ってたけど、マンガさんは歌手と一緒で、歌手は最近怪しいですけど、もう要するに閨閥門閥、一切ないと。作品勝負だと。読者が頷けたらお金になるしということはずっと言ってましたね。一切だから縁故とか関係ないって。

――関係ない。

――そうでしょうね。

鈴木：しかもスポーツ選手だったら最近多いじゃないですか、親がそうだった。

――二世とか三世とか。

鈴木：マンガ家さんの子どもって。

――確かにマンガ家二世とか三世ってあんまり聞かないですよね。あるのかな。

鈴木：マンガの、『バキ』の娘が『ビースターズ』（作・板垣巴留。2016～2020）。

――そうですか。

鈴木：板垣（：恵介と娘の巴留）さん。鳥山君のとこもそうだったけど、みんな子どもは絵描きたがらない。絵って自分のあれじゃないですか、「うまいね」とかって褒められて自己を確立していくじゃない。あの段階で自分よりうまい、親がうまいと、なんか絵を描くのをやめちゃうの。

――やる気をなくしちゃう、なるほどそれは思いつかなかったな。

鈴木：ちば（：てつや）先生の彼だって、なんとなくひろし君だって、絵を描きたいっていうほうじゃないじゃないですか。

――確かに。

――本宮さんの娘さん（：もとみやあゆみ）が。

鈴木：描いてましたね。

――一応。

鈴木：あれはもりた（：じゅん）さんに寄った感じですよ、どっちかというと。お父さん大好きですけど。

――でもあんまり成功例はないと思います。

――そういう理由なんですね。

鈴木：いや、難しいですよ。

――逆に僕は漱石の孫って言われてたので、それがイヤでしょうがなかったので、それ全く関係ない世界ですからね。もう実力勝負なのでそっちのほうがよかったです。

――じゃあ、これでそろそろよろしいでしょうか。

鈴木：はいはい。

――すいません、どうも今日はありがとうございました。

鈴木：いえいえ。

鈴木晴彦

イントロダクション（全編再生）