――インタビュアーの井上伸一郎です。

――夏目房之介です。

――遠藤諭です。

――本日は2024年７月17日です。これから、すがやみつる氏（：漫画家。1950年生まれ）のオーラル・ヒストリーのインタビューをドワンゴ東銀座オフィスにて行います。では、よろしくお願いいたします。

――すがやさんが漫画家を志したのはかなり早くて、ご著書を拝読するともう本当に子どものころ、中学生のときにはもう漫画家になると決めていたようなことだったんですけれども。当時1950年代か60年代ぐらいにかけて、漫画家を志す少年というか読者の方って結構多かったんでしょうか。それともやっぱりすがやさんが結構特殊だったんでしょうか。

すがや：最初はですね、一番最初にマンガを描きだすきっかけというのは、秋田書店（：株式会社秋田書店）から出ていた『マンガのかきかた』という本があったんです。それが1900たぶん62年ぐらいに出てるんです（：初版は1962年）、小学校６年生のときなんですけど。その本が出たことが結構大きかったんじゃないかと思うんです。それでたぶんおそらく、そのあと１９６５年に石ノ森章太郎（：漫画家。1938～1988）先生の『マンガ家入門』が出るんですけれども（：初版は1965（昭和40）年。秋田書店刊）、その前に『マンガのかきかた』があったんです。その段階で結構マンガを描く人たち増えたような感じはあるんです。ただ横のつながりはないので、ちょっとわからない感じで、いっきょにでも増えたのがたぶん『マンガ家入門』だと思います。あれによってみんなカーッと熱くなって日本中に漫画家を目指す人が増えたんじゃないかなという感覚はあります。

――それぐらい、石ノ森先生のご本には具体的なことが書かれていたと思うんですけど、やっぱりその中でも「これが書かれていたから漫画家になれるんじゃないか」とかいうポイントってどこだったんでしょうか。

すがや：『マンガ家入門』が画期的だったのは、一部と二部と分かれていて、一部が石ノ森先生の伝記、自伝なんです。後半がマンガの解説になるんですけども、そちらはそちらでおもしろいんですけども、やはり熱くなるところは伝記の部分、自伝の部分、子どものころからマンガを描いていて、中学生から投稿を始めて、高校生のときに『漫画少年』（：1947年12月から1955年10月にかけて学童社から月刊で発行されていたマンガ雑誌）に投稿していたらば、手塚（：治虫。漫画家・アニメ監督・医師。1928～1989）先生から電報が来て、それで呼ばれてアシスタントをやりに行くとかですね、そういうところはすごく熱く語られていて、しかも高校卒業後上京して、アパートにというか下宿にいたらば食中毒起こして、赤塚不二夫先生（：漫画家、タレント、俳優。1935～2008）に助けてもらってとか。それからトキワ荘に入ってみたいな、そういう青春の熱さみたいのが、そういうところで「漫画家っていいなあ」みたいなところが、非常に影響受けた部分は大きいと思います。そのマンガの技術以前に、漫画家になることのかっこよさというか、アイドルに憧れて芸能界目指すとかですね、プロスポーツ選手に憧れてスポーツやるみたいな、それと似たような感じで、たぶん漫画家という仕事にすごく憧れたんだと思うんです。

――それだけ当時としては漫画家って、ちょっと一種のスター的な存在だったんでしょうか。

すがや：そういうところもありましたけれども、もう一つはやはりすごく意識したのは、学歴がなくても漫画家になれる、若くして漫画家になれる。ちょうどそのころからマンガの新人賞などが出てきまして、特に貸本向けの単行本なんかはかなりあったんですよ。そういうところでも真崎守さん（：漫画家、アニメーション映画の演出家、脚本家、監督。1941～）のデビュー作とか、バロン吉元先生（：漫画家、画家。1940～）のデビュー作なんてパラパラ見ていて、こういうところから新人出てくるんだっていうのを見ていたりとか。あとは貸本向けの劇画本の読者コーナーにですね、似顔絵とかカットとかあるんです。そういうところでも群馬県伊勢崎市のあだち充（：漫画家。1951～）とかですね、熊本県熊本市のながやす巧（：漫画家。1949～）とかっていう、うまい人たちいるんですよ、12～13歳ぐらいで。自分と同年代の人がいて、たぶんこの人たち出てくるんだろうなとか思って見ていたらば、その後出てくるんですけども、やっぱりそういうものもあって、そういう読者欄みたいなところを通じて全国に同じようなことを考えてる人はいるんだなっていうようなことはすごく意識してました。

――結構進学校にね、高校のときは進学校に進まれて（：静岡県立富士高等学校卒業）、大学に行かないって宣言して先生とか周りが驚いたというエピソードありますけど、それだけやっぱり強い漫画家に対する思いっていうのがやっぱり中学生ぐらいからできてたっていうことなんですかね。

すがや：でも一番上が中学３年生ですね、『マンガ家入門』読んでカーッと熱くなったところはありました。

――なるほど、ありがとうございます。そうやって志して『墨汁三滴』という同人誌を作り、仲間とね、作っていくと思うんですけど、当時肉筆同人誌という描き方をされてましたけど、これ要するに印刷されないで一点ものということなんでしょうか。

すがや：そうです、これ『墨汁一滴』という石ノ森先生たちが作っていたものがあって、それを踏襲したようなものなんですけれども。すごく無茶な２カ月に１冊出してたんですよ。それで何十ページか描いては、編集担当がみんな集めてそれを表裏貼り合わせて、それでキリで穴を開けて、タコ糸で綴じて表紙を付けるという。表紙は布でいつも刺繍をした布を作ってくれるんですけど、それはそのやはり同い年で一足先にデビューした河あきら（：漫画家。1950～）という、『別冊マーガレット』でデビューして結構人気漫画家になりましたけど、彼女が全部作ってくれたんです。そういうものを２カ月に一回作っては、それを石ノ森先生とか松本零士（：1938～2023）先生とか久松文雄（：1943～2021）先生とか宮谷一彦（：1945～2022）先生とか、そういうところに持って行っては見てもらうということをしていました。

――それは一点ものだから当然回覧するわけですね、じゃあ、同じものをいろんな先生が。

すがや：はい。会員の間では送られてきて、それで48時間以内に次に送らないといけないと。一応東京の会員がマンガ家の先生のところを回って、先生たちが肉筆でなんか感想書いてくれてるんです。それが送られてきて、自分でまた読んで。ほかの仲間の感想をまたそこに各マンガの後ろに書きつけて、それをまた小包で次に送るということで、それをグルグル回してました。

――結局その会員は何人ぐらい。

すがや：最初は十数人です、15～16人でした。地方にいたのが、千葉に河あきらがいる、静岡に私がいて、あと愛知県に二人いて、それだけです。あとはみんな東京だったんですけど、同じ東京の同じ中学の出身者が集まって最初作ったグループだったんで。

――じゃあ、だいたい１カ月ぐらいかかるわけですよね、先生のとこ行ったり、いろいろ会員のところぐるぐる回って。

すがや：そうです、そう、はい。

――それでまた次の号へ進むと。

すがや：はい。私なんかも編集担当をしたんですけれども、やっぱり一人ではノウハウないので、それで東京の三鷹にあるメンバーの家に泊まらせてもらって、そこでみんなで集まって一緒に同人誌作ったりとかですね。そのまま出来上がったものを完徹の状態で寝ないで、石ノ森先生のところとかに持って行って見てもらうという感じでした。

――当時はやっぱりそういう漫画家の先生と直接のやり取りができる、今だったら結構ね、出版社のガードが堅いのでそういうことは難しいと思うんですけど、当時はやっぱりそこまで出版社とかガードはなかったということなんでしょうかね。

すがや：あの時代はみんなもう雑誌に住所が全部載ってましたから、お便りを出そうというので。あと石ノ森先生なんかは、桜台（：東京都練馬区）の新築した家に引っ越したばかりで、『マンガ家入門』を読んだ人たちが全国から来るんです。桜台の駅前に交番があるんですけれども、そこにたずねていく人たちが多くて、「すいません、石ノ森先生のお宅は」と言うと、おまわりさんが「はい、これ」と言って地図が吊るしてあるんで、石ノ森先生のとこ用意して束にしてあって、それをビリッて破って「はい、これ」って言って渡してくれる状態だったんです。

――そんなに多かったということですか。

すがや：はい。

――じゃあ、今とは結構個人情報が厳しい今とはちょっと隔世の感がありますけど。

すがや：私も最初は中学３年生のときに『マンガ家入門』を読んでカーッと熱くなって、もう高校の受験勉強もしないでマンガを描いて、「弟子にしてください」といって送ったんです。それで母親に同意書まで書いてもらってですね、送ったんですけどなんの音沙汰もないんで仕方がなく高校に行ったんですけれど。でもそのときもそんな原稿が石ノ森先生のお宅には山ほどあって天井に届くぐらいに段ボール積んであって、石ノ森先生は一つも見たことがなかったみたいですね。

――やっぱり、全国から送られてくるんですね。

すがや：はい。それで『墨汁三滴』という同人誌をやるときに、ひおあきら（：漫画家　1950年-）なんていうとかってそれが会長だったんですけど。東京の三鷹で結構近くて、中学生のころから石ノ森先生のお宅に出入りしていて、それで全国から送られてきたそのマンガの原稿を彼らが全部開いて、その中からこれはいいと思えるのを抜いて、それで『墨汁三滴』のメンバーにならないかと声をかけて。私は引っかからなかったんです、それが。河あきらという彼女はそれに引っかかって。私のほうは高校１年のときの１９６６年の『ボーイズライフ』（：小学館から1963年から1969年にかけて発行された月刊誌である。中学生以上の男子を対象とした読み物中心の総合雑誌）の読者欄で『墨汁三滴』という「ミュータントプロ」という会の名前で会誌の名前が『墨汁三滴』。名誉会長石ノ森章太郎とあったんですよ、募集しますというので、それで絵を描いて送ったのがそれが入るきっかけだったんですね。

――やっぱり採用されたというか、メンバーになれたときはうれしかったわけですか。

すがや：でも最初はダメ、落とされたんです。落とされて、したらばジュニア組織を作るから、ジュニア組織のほうに入らないかと手紙が来たんです。それでマンガを描いて送ったらば、マンガを結局長いマンガを描いて送ったの二人だけだったんですって、日本中にあちこち声かけたのに。それで二人では同人誌できないから、それで一軍のほうに上げてもらったんです。

――そういう活動をしながら、漫画家の先生ともそれぞれ親しくなったり、だと思うんですけど、ご自身的には高校卒業なさって、どういうきっかけで、まずアシスタントとかそういう形でしたよね、どういう形でアプローチしたんでしょうか。

すがや：もう高校２年３年これぐらいから、石ノ森先生とかいろんな劇画の先生とか訪ね歩いていたので、その過程で石ノ森先生のところはひおあきらというのがもう高校卒業して行くことが決まってまして、先生のところはほかになりたいアシスタントが待機してる状態だったので、石ノ森先生のところはアシスタントになりたくて待機する人は石ノ森先生が経営してるレストランで働きながら待つという状態で。
それでほかのアシスタントの口ないかなと思っていたらば、劇画を描いていた江波譲二先生（：漫画家。1938～）という先生がアシスタント探してるからということで、それでもう高校３年生の夏休みには絵を見てもらいに行ってOKもらって、そのまま泊まり込んでそこで仕事を手伝って。さらに今度冬休みも行って手伝ってみたいな感じでした。
それで卒業前の、卒業式は３月なんですけど、１月いっぱいで受験校なので授業が終わっちゃうんです。それで終わったと同時にもう２月には東京に出てきて、それでアシスタント始めました。

――そうですね、確か卒業式のためだけに一回帰郷なさったと書いてありました。

すがや：ええ、徹夜状態で新幹線で帰って、また戻ってきて、そのまままた徹夜で仕事みたいな。

――当時って今も結構漫画家の方は忙しいと思うんですけど、著作を読ませていただくと、本当にずっと徹夜してるような状態だったんですけど、やっぱりそれが当時は漫画家の方は当たり前だったんですかね、どの先生も。

すがや：はい、それで自分もこちらも本に書きましたけど、体がすごく弱かったんです。中学生のときまでは本当にもうたぶん精神的なものだったと思うんですけど、学年が変わって先生が変わる、クラスメートが変わるだけで熱出すんです。熱出して、それでもう高熱40度の熱が出て、もう吐いて下痢をして、もう寝込んじゃうという。毎年それをやったんですけど、そしたらば漫画家になるには頭は悪くても漫画家になれるけれども、体が弱くては漫画家になれないという、確か貸本の読者のページかなんかに書いてあって、そうだろうなと思って。みんな徹夜徹夜で描いてるので。それで漫画家になろうと思って、それで高校に入ってから、体鍛えるつもりで水泳部に入ったんです。それで毎日５月から10月まで毎日泳ぐという生活。それでたぶん体力ついて、今もなんとか生き延びてる感じがします。

――そうやってアシスタント生活に入られて、いろんな体験なさったと思うんですが、本当にその同人活動というのも当時として、当時っていうかね、その時代としてはまず今は同人活動本当に花盛りですけれども、当時としては先駆者のお一人であったと思うんですよね。そのトップグループだったと思うんですが、アシスタントをしながら、そのあとちょっと時代飛ぶかもしれませんけど、編集プロダクション鈴木プロでしたっけ、にお入りになったりと、いわゆるマンガの編プロというのも当時初めて生まれたっていう。

すがや：その鈴木プロというのは日本で初めてのマンガ専門編集プロダクションだったんですね。その鈴木（＊鈴木清澄）さんというのは少年画報社（：株式会社少年画報社）にいて、そのあとCOM（：1967年から1973年まで虫プロ商事から発刊された漫画雑誌）の編集部に移って、COMで長いことやっていて、そこから独立して始めたんです。たぶん珍しいということで、講談社（：株式会社講談社）、光文社（：株式会社光文社）、少年画報社、秋田書店、その他たくさんの会社の仕事をごっそり受けていて、そのあとやはりちょうどコミックスが出始めのころ、たくさん出始めのころなので、コミックスの新書版コミックス、それからあとは豪華版のカラーの『あしたのジョー』とか『巨人の星』とか、そういう単行本の編集とか。それから『少年マガジン』の『あしたのジョー（原作：高森朝雄、作画：ちばてつや）』『巨人の星（：原作：梶原一騎・作画：川崎のぼる）』『ほらふきドンドン（：ジョージ秋山作）』『キッカイくん（：永井豪 作）』そういう総集編みたいな、そういうものの編集とかですね、それもみんなまとめてやってました。

――ほぼ独占企業みたいな。

すがや：はい。

――そのお話も非常に貴重なんですけど、当時やっぱりこうそれまではマンガって雑誌に載って終わりみたいな時代から、ちょうど新書版のいわゆるコミックスが出始めたころ、そのときの流れ、業界というか、マンガ業界の流れってどんな感じだったんでしょうか。

すがや：こちらが知っているのでは、読者の段階では高校１年生のときには１９６６年ぐらいでコダマプレスっていうところからたくさん新書版が出て、特に石ノ森先生の『ミュータント・サブ』（：1961～1967にかけて、複数の出版社・雑誌をまたいで連載された読みきり連作）だとか、手塚先生の『ロック冒険記』（：『少年クラブ』1952年（昭和27年）7月号から1954年（昭和29年）4月号まで連載されたSF漫画作品）とか『罪と罰』（：ドストエフスキー原作。1953年、東光堂より刊行）とか、『罪と罰』（：未刊行）じゃなかったかな、あのへんの名作的なものが出始めて、たぶんおそらく新書版コミックスがビジネスになるというのが有名になったのは、たぶん『サイボーグ００９』（：石ノ森章太郎作。1964年以降、複数の出版社・雑誌をまたいで連載）。あれは秋田書店から『サンデーコミックス』という形で出て、当時のなんか週刊誌に載ってるんですね。ベストセラーというので石ノ森先生が本の山かなんかの上に座って乗ってる写真があって、あのとき38万部かなんかって。当時マンガでそんなに売れるというのはちょっとわからない状態で、それが一つのきっかけだったんじゃないかといわれて。それで『サンデー』もそのころ『サンデーコミックス』（：秋田書店で刊行されている漫画の単行本（新書））って秋田書店ですから、『少年サンデー』の作品もそれは『サイボーグ００９』は少年画報社ですから、他社のものもみんな秋田書店が出して、秋田書店がすごいいいビジネスにしちゃって。それでそのあといろんな後追いで小学館（：株式会社小学館）も講談社も初めてくると。小学館はなんかちょっとお上品に作りすぎちゃって、『忍者武芸帳』（：白土三平作。初版は1959年から1962年まで三洋社から刊行）とか始めたんですけども、ちょっとマニアックな高級志向だった。

――ちょっと大人向けな作りですね。

すがや：うん、あとは『００７』（：イアン・フレミング原作、さいとう・たかを作画の劇画作品。「ボーイズライフ」に1964年12月号から1967年8月号にかけて連載された。）とかですね、講談社のほうがどちらかというと、ちばてつや、里中満智子（：1948～）という、『サンデー』（：正しくは『マガジン』）『フレンド』（：『週刊少女フレンド』。1962年、『少女クラブ』の休刊にともなう後継誌として講談社より創刊。）の作品載せて新書にして、あれがすごく売れたんですね。ちょうどこちらも講談社の仕事をやったのは69年からなんですけども、鈴木プロさんで。編集部に行ったときにチラッと聞いた話では、それまで講談社のKCっていう講談社コミックスっていうんですけど、それが出るまでは講談社の印税支払額って毎年山岡荘八（：歴史小説家。1907～1978）が第１位だった。

――『徳川家康』（：1950年より北海道新聞他で連載された歴史小説。山岡荘八の代表作）。

すがや：『徳川家康』。それでマンガが始まった途端に、１位がちばてつや、２位が里中満智子、３位が山岡荘八になった。すごいビジネスになるというので、それでみんなどんどんどんどんその連載ものをコミックスにしていくという。

――じゃあ、それだけ『サンデーコミックス』が一種の発明だったわけですかね、他社のものまで出された。

すがや：そうだと思う。ただその前にコダマプレスとかはあったんですけれども、やっぱり作品の選択というか、その中でコミックスがなぜビジネスになったかといえば、やっぱりあのころ210円とか220円ぐらいなんです、雑誌のほうは50円前後で、値段が高いから小学生が読むもんじゃないんです。『サイボーグ009』って雑誌では人気なかったんです。おそらく石ノ森先生も『ミュータント・サブ』とかああいうものも、雑誌の段階ではそんな人気取れてるんじゃないと。それはやっぱりアンケートハガキ送るのは子どもだから、それがコミックスになった途端に年齢層が上の中学生とか高校生が読んでおもしろかったんだと思うんです。やっぱり読者の年齢層が上がってるところにうまくマッチしたんだと思うんですね。なおかつ、高い値段なのに売れるということで、出版社としても非常にビジネスになるということで、それからコミックスにしようというのが広まっていったんだと思います。

――そこはでもマンガ業界にとっては大きな転換。

すがや：はい。

――コメントいいですか、いくつか。まず最初のほうで、漫画家になりたいという人がたくさん出たっておっしゃってましたけど、その理由はものすごく単純で、僕すがやさんと同い年なんだけど、これ戦後ベビーブーマーなんですよ。つまり分母がデカいんですよ。この分母がデカいところに、マンガを好きなマーケットが出来上がって、読者集団ですよね。分母がデカいから、漫画家になりたいと思うやつも多いっていうのは一番基本的な構造ですよね。だから日本のマンガブームなりマンガが産業化していく前提に、あの僕らの世代って戦後のベビーブーマーがまず最初にあったっていう、その次がオタク世代っていうような形になるだろうと思います。それから、新書の話がありましたけども、すがやさんが編集プロダクションでやられたっていうのは別冊っていわれたんですね。別冊と新書は違いますので、別冊というのは本誌と同じ大きさの。

すがや：別冊って増刊の総集編なんです。それをやったうえで次にコミックスに行くんですね。

――だから、編集部が抱えきれなくなって。

――仕事がもうオーバー、パンパンになっちゃったんですね。

――そうです。それで、編プロ、鈴木プロっていうのは最初だっていうのはその鈴木プロで言われてたことですか。

すがや：当時鈴木プロしか、まだ69年ぐらいだと鈴木プロしかなかったんです。そのあとに銀杏社（：1973年設立。マンガ専門の編集プロダクション）とかですね。

――銀杏社できますね。

すがや：はい。

――銀杏社は70年？

すがや：そのくらいだと思います、70年か71年かそのぐらいだと思います。最初は講談社に入っていて、そのままどんどん新書で小学館なんかもやるようになってきますけど。

――鈴木プロはじゃあ、系列としてはどこなんですか。

すがや：系列という意味で「COM」の編集もやっていたんで、系列はだからその出版社の系列どこもやっていた、講談社がメインで秋田書店と少年画報社も同時にやってましたので。

――COMって結構大手の草刈り場になって、つまり自分のとこでなんとかする力がないので、そういう意味ではわりと全方位的にコネクションがあったっていうことでしょうかね。

すがや：というか鈴木さん自体がたぶんマンガに詳しい人とたぶん見られていたと思うんですね。少年画報社時代に例えば平田弘史先生（：漫画家。1937～2021）とかああいう劇画の人たちをいっぱい起用し始めた人でもあるし、水島新司先生（：漫画家。1939～2022）とかそのあたりをやっておいて、そのあとにCOMに行って、COMで手塚先生はたぶんやってないと思うんですけど、COMのどっちかっていうとマニア系の作者とか、坂口尚さん（：1946～1995）も漫画家にしちゃった人でもあるしみたいな。そういうところでちょっとユニークだったんだと思うんですよね。

――編集プロダクションっていう存在は一般にはあんまり知られてないわけで、たぶん会社としてもちゃんとした会社ってあったのかっていう、かなり曖昧なゆるいものだったように記憶するんですけども、どうでしたか、現場は。

すがや：でもそのころはフリーの人たちは結構いたんです、下請けをやってる人たちは。その人たちは個人でやってるだけで、それで入って編集部の中に入ってアルバイト的にというか、下請け的にやってる人はいたんですけど、それを会社としてやったのがたぶん鈴木プロが最初なんだと思うんです。 　ただし、文章とかレイアウトとかそちらのほうでの編集プロ的なものはあったと思うんですけども、マンガ専業ということを売り物にして始めた最初の編集プロだったと思うんです。

――つまり、マンガの編集というのはいわゆる文芸の編集とは実質的にかなり違うというのは間違いないと思うんですね、そこを売りにしたっていうこと。

すがや：はい、それとあとマンガの入稿ができるかどうか、入稿って文芸とまるで違うので、マンガ描いてきて版下にしなきゃいけないというので。そのあたりで、みんなあとは人手が足りなくて、いろんな少年画報社とか秋田書店を辞めたような人たちがいつも手伝いに来てたんです。

――もう一つ新書ブーム、たぶん66年が最初なんですけど、おっしゃったようにコダマプレスとかね、ああいう、僕も買ってましたけど、つまり僕が1966年だと16歳になる年なので、子どもじゃないわけですよね。たぶん僕らみたいな、つまり戦後ベビーブーマーが買い始めたからそれなりの市場になって、たぶんきっかけの一つは『009』、次に『ハリスの旋風』（：ちばてつや作。『週刊少年マガジン』1965年16号から1967年11号まで連載）が講談社では相当売れた。だけど決定的だったのが『巨人の星』という流れでいいですかね。

すがや：だいたいそんな感じだとは思います。

――僕は、新書ブームのバックの一つがテレビだったと。いわゆるメディアミックスと後にいわれるような現象の最初が60年代に『アトム』から始まって、『巨人の星』なんかは内田勝（：編集者。『週刊少年マガジン』第3代編集長）さんがそれを推し進めていって、テレビが最初のその作品との出会いになる世代って僕らよりかなり下、10歳以上下になると思うんですけど、そういった人たちがいきなりテレビで見て、そのときに話が進んでるとその前わからないわけですよね。

――途中から見始めたパターンですね。

――そう、でもそこに新書が何巻何巻ってあれば、それを見ることになるので、たぶん僕はメディアミックスの背景にはあったような気がします。どう思われますか。

すがや：そう思います。やはり『鉄腕アトム』（：手塚治虫作。マンガ版は光文社の「少年」1952年4月号から1968年3月号で連載）なんかはアニメでやってたんですけど、『鉄腕アトム』『鉄人28号』（：横山光輝作。マンガ版は同じく「少年」で1956年から1966年にかけて連載）も結局Ｂ５サイズの総集編だったのが、新書になってきたの。『巨人の星』が三十数％という国民的な番組でバケモノ番組になるんですけど、あれはやっぱり相乗効果というか、コミックスの力がなければああもならなかっただろうし、当然テレビがなければならないという。コミックスになったことによって、マンガを読む年代層がまた上がった、幅広がったと思うんですよね。こういうのはすごく典型的でおもしろいなと思ったのは、石ノ森先生の『ミュータント・サブ』っていうのがコダマプレスから出ていて、あそこのあとがきを小松左京さん（：小説家、SF作家。1931～2011）が書いてる。その中で「若衆文化」ということを言ってるんですね。その「若衆」という言い方がすごく石ノ森章太郎のマンガというのは、子どもよりももう少し背伸びをした人たちが読むというようなところを言い表してたと思うんです。青年コミックというのがなかったころなので、そういう意味で言ったらやっぱり石ノ森先生のマンガってハイティーンコミックスなんです。それで、小学生にはわからないけれども、中学生・高校生にはわかるみたいなところ、そこに『マンガ家入門』も重なって一気に石ノ森章太郎先生がある意味カリスマみたいな状態になっていくという。それがありながら、片方である意味大衆文化みたいな面ではテレビがあって、『巨人の星』それからあとは『ハリスの旋風』というよりもやっぱりそのあとには64年からは『あしたのジョー』（：『週刊少年マガジン』の1968年1号から連載。）になっていくところがある。

――『あしたのジョー』のコミックスなんかも非常に売れたと思います。

すがや：はい。ちょうど先ほどあった『巨人の星』『あしたのジョー』の増刊号っていう『増刊少年マガジン』にまとめるんですけど、その編集やるときにいつも『巨人の星』なら『巨人の星』で、みんなそのころコマノンブルってついてたんです、番号がついていて、それをまず一番最初にはがすところから始まるんです。それでやってるとすごい手間暇かかるわけじゃないですか。掛け合わせをしたペンの上に貼ってあったのをそこをまた補修しないといけない。それが大変だったのが、69年の夏ぐらいからコマノンブルが廃止になるんです。

――全社的、全誌的にですね。

すがや：はい。それはたぶん編集の手間とか考えてのことだと思うんですけど。そしておそらくそのころからコミックスにすることを前提に考え始めた、それがたぶん69年の『少年マガジン』だと夏ぐらい、そこがエポックだと思います。

――これは確かに貴重な証言ですね。

――おそらく、そこで初めて『マガジン』がもう新書が商売になるということを認識するんですよ。そのへんの話は僕、内田さんにうかがったことあるんだけど、それ以前はマンガなんて全然講談社内で評価されてないので、廊下の端を歩いてたけど、テレビが始まって新書が売れて、ものすごい莫大な収入をマガジン編集部が取れるようになったときに、廊下の真ん中を歩けたと、文芸が端を歩くようになったというふうに比喩的におっしゃってましたけど、そういう現象が起きたということですね。それを支えた最初の世代がたぶん僕らの世代で、それは単純に60年代の高度経済成長の中で子どもの可処分所得も上がっていたので、10代の子どもたちが結構使えた。 

――お金、お小遣い。

――そうですね、それは大きかったと思います、それがきっかけになった。新書のブームとかテレビとか、メディアをまたがっていくという現象がたぶんそのへんから内田さんみたいな、それを出していく側の視野に入ってきて、一つの出版戦略みたいになっていった。

――ビジネスがそこで変わったということですね。

――そういうことだと思います。

――『赤胴鈴之助』（：福井英一および武内つなよし作）はどうなんですか、赤胴ビルとか言いますよね、講談社の（正しくは『少年画報社』）。 

――だから、それを言い出すと戦前からメディアミックス的なものはあるんですよ。
 
――あることはあった。

――だから、それをたどっていってもあんまり意味がなくて、やはり戦後の爆発的に売れていくときに、そのシステムが。

――確立された。 

――確立していくということ、特にマーケティングとして意識されたというのは一つ大きいと思うんです。なぜ内田勝という人が焦点になってるかというと、彼は意識的にそれをやったんですよ。そのへんから始まるんですね。だから、産業のスタイルをつくっていったのはあの時代。 

――すがや先生の本に、マガジン編集部にたまたま行ったときに、今年の新卒の、編集者が「マガジンに入りたいというやつがいたぞ」という、当時ニュースになったと。そのへんのエピソードを聞かせていただけますか。

すがや：70年のたぶん２月か３月だと思うんですけども、その年に『少年マガジン』の編集部にいて隅のほうで、『増刊少年マガジン』の記事の編集か記事ページの担当なんかをやっていたので、レイアウトかなんかやってたんですよ。そしたらそこのシミズさんという、水島新司先生の担当する方だったんですけど、背の低いがっちりした方で、その人がエレベーターから来て「おーい大変だ、大変だ、大変だ」「なんだ、なんだ」とみんなが言ってたら、「おい、今年の新卒で『少年マガジン』が志望のやつがいるぞ」といって、それでみんな「えー！？」ってみんな「バッカじゃないの」とか「ほう」とかって、それでみんなどよめいたのを覚えてます。

――そのくらいニュースだったということですね、やっぱりそれこそ産業というか、変わった象徴的な。

すがや：そのときもさっき話があった、マンガの編集者が隅を歩いてたみたいな話で、ちょうどそのころにやっぱり恨みつらみで聞かされたのが、マガジンがこれだけ稼いでいてコミックスも稼いでいて、これだけ100万超して150万出したときだったんですけど（：『週刊少年マガジン』の発行部数。）、それなのに俺たちは銀座に行けないんだよって。文芸のやつらは銀座に行って、あいつらは俺たちの金で銀座に行ってるんだって、恨みがましくマガジンの編集者が言ってたことがありました。

―― それは忙しくていけなかったんですか。

すがや：いや、違いますよ。

―― そういうことではないんですね。

すがや：たぶんマンガの編集者はたぶん新宿どまりとかですね、そういう感じだったと。

―― なるほど、一種のその。

すがや：でもほかの出版社もほぼそうですね。文芸のほうだと文豪の先生方にお供して銀座のクラブ行くとか、それがざらにあったのが、マンガは特にまた漫画家若いということもあるし、編集者自体もまた若いしみたいなこともあって。マガジンはそのあと80年代ぐらいになってから、漫画家を銀座に連れていくようになって、そこで若い連中が文壇バーでなんかどんちゃん騒ぎをしたりして顰蹙買って、みたいなこともありました。

―― そこでやっぱりちょっとだんだんマンガの世界も変わっていくというか、編集者も変わっていくという感じですかね。 

―― 梶原一騎（：漫画原作者、小説家、映画プロデューサー。1936～1987）がね、銀座で飲むという話を書いてますけど、つまりあれはそれまであり得なかった。 

―― だからそれだけトピックになった。

――そうそうそう。

すがや：70年代からやっぱり石ノ森先生とかね、やっぱりどっちかっていうと出版社というよりもテレビとか映画会社とかそういうところのお付き合いで銀座がだんだんメインになっていくんですね。それでやはり梶原一騎先生とか、そういう一部の超トップの方しか銀座あたりは行かないという感じですね。

―― あと石ノ森さんがやっぱり、僕は作品分析的にも石ノ森さんの作品というのは思春期に刺さるんですよね。それに刺されたのが僕らの世代なんで、それによってたぶん漫画家志望者が増えたというのは間違いないとこだと。 

――どんどん児童雑誌というか、『テレビマガジン』（：1971年から講談社より発行されている主に未就学児童向けのテレビ雑誌）もでき、そのあとちょっと遅れますけど『テレビランド』（：黒崎書店および徳間書店が1973年2月1日から1997年1月1日まで刊行していた児童向けテレビ番組雑誌）なんかできてきて、いわゆる特撮番組のコミカライズが群形成されていくというのが71年以降、ちょうどそこにまた居合わせたと。

すがや：はい。

――最初のころは『ぼくらマガジン』（：「週刊ぼくらマガジン」。講談社より1969年から1971年にかけて「週刊少年マガジンの弟分」として発行されていた漫画雑誌）でしたよね、『ぼくらマガジン』で石ノ森先生の連載が載ってて、それで『週刊少年マガジン』に変わった。

すがや：『ぼくらマガジン』はさっき夏目さんがおっしゃってた、内田勝さんがある意味だから『少年マガジン』が団塊の世代とともにベビーブーマーとともに読者も上がっちゃっていて、青年誌に近い状態になっていく。さっきコマノンブルを取る話しましたけど、あれと同時にちょうどそのとき一緒に行われたのが描き文字の表記、描き文字ってあるじゃないですか。マンガで講談社はすごい統一規則が厳しくて、オノマトペを描くときに擬声語と擬態語とあって、擬声語の声の耳に聞こえるほうはカタカナ、耳に聞こえない「さっ」とか「しーん」とかいうものはひらがなというか、それちゃんと描き分けないと描き直しになったんです。時間がないときには、編集部に勤めてる人がいるんですけど、レタリングなんかやる。その人がホワイトつけて全部描き直したんです。

――そうなんですか。

すがや：そこまで徹底してた。だからそれでいつもよく言うんですけど、『巨人の星』の「がーっ」というのはあれひらがななんです。

――はい、確かそうですね。

すがや：皆さんよくカタカナで描くんですけど、ひらがな。それは講談社の統一基準。

――それは気がつかなかったです。

すがや：それを69年のそのコマノンブルのころから読者層が上がってるから、それはこだわらずに作家性を優先にして、作者のとおりにしようというふうになって、そこから解除になったはずなんです。ただ川崎先生とかちば先生なんかは講談社育ちというか、それが身にしみてるんで、たぶん結構守ってたとこあると思うんです。ちょうどそのころに、『ぼくらマガジン』が出てくるんですけど、『少年マガジン』の年齢層上がって、そのときにもう一つは『ゲゲゲの鬼太郎』（：水木しげる作。アニメ版の放送開始は1968年）とかアニメになったりとかもあって、うまくいったやつもいた。そのときにやろうとしたのが『仮面ライダー』（：石ノ森章太郎作）が初めてのテレビとマンガと同時スタート（：1971年4月～※マンガの掲載は「週刊ぼくらマガジン」16号より）。

――要するに原作の漫画家の先生、今回は石ノ森先生に頼んで、テレビの番組の企画とマンガの原作というか連載を同時に展開しろというあれですね。

すがや：はい。それまではマンガ作品が先にあって、人気あるみたいだからテレビに実写にしようとかアニメにしようだったのが、同時に展開していくという形、その第一号が『仮面ライダー』だったと思います。

――実際そこのちょうどまた大ブームになるきっかけのところに居合わせてしまったわけですか。そこでどんどんやっぱり本編のマンガ以外も子ども向け雑誌にコミカライズがどんどん必要になっていったということなんでしょうかね。

すがや：ただしそのマンガ自体は『ぼくらマガジン』は失敗しちゃうんです、売れ行き悪くて。『仮面ライダー』は始まるし、前の『月刊ぼくら』から続いてた『タイガーマスク』もあるし、例えばさいとう・たかを先生のその『仮面ライダー』と同じようにスタートした『バロム・１』（：テレビ放映時のタイトルは『超人バロム・１』）とかって、テレビのほうで当たってるものあるのに、マンガは売れなかったんですね、『ぼくらマガジン』週刊にしたらば。 　それで、２年もつかもたないか、２年かそこいらで結局休刊になっちゃうんですよね。それで『少年マガジン』のほうには『仮面ライダー』とか『タイガーマスク』（原作：梶原一騎・作画：辻なおき。1968年より「ぼくら」で連載開始。1971年より「週刊少年マガジン」に掲載）とか一時みんな『少年マガジン』に移るんですけれども、でもやっぱりちょっと合わなくて、みんな短期で終わっちゃうんですよね、『少年マガジン』。『少年マガジン』はほとんど青年誌に近い状態になっていった。 　それで、そのあとに今度講談社は『ぼくらマガジン』よりももっと下で『テレビマガジン』という雑誌で、ほとんど小学校低学年向けの幼児誌に近い感覚で作ったんですね。そこの目玉が『仮面ライダー』で、それは売れていくんですね。71年の12月号が創刊号なんで『テレビマガジン』。

――ちょうど『仮面ライダー』の視聴率が上がってきたところですね。

すがや：はい。ちょうど『仮面ライダー』をこちらが、私自体は石森プロの仕事して、トレースの仕事やったんですけど、そのあとにとにかく『仮面ライダー』が出てきて、そのあと今度10月から加藤（＊加藤昇：1938～。石森プロの設立にも深くかかわる）さんというマネージャーがいて、石森の番組が３本か４本始まるんでということで、それでちょうど『仮面ライダー』は続いていて、『変身忍者嵐』（：1972年4月から1973年2月にかけてNETテレビ系列で放送）と『好き!すき?魔女先生』（：1971年10月から1972年3月にかけてTBS系列で放送）と『さるとびエッちゃん』（：1971年10月1972年3月にかけて NETテレビ系列で放送）アニメがあって、『原始少年リュウ』（：1971年10月から1972年3月にかけてTBS系列で放送）というのが始まる、これがほとんど同時ぐらいに始まってるんです。それでその商品の仕事を茶碗の絵とかですね、一番最初にやったのリュックサックにつけるワッペンの絵描きましたけど、私は『さるとびエッちゃん』の担当だったんです、絵が悪いからといって。 　それでやっていたらば、『テレビマガジン』がスタートするから誰かマンガを、石ノ森先生はちょっと描いてるゆとりがない、そのころ５００枚６００枚（：1ヶ月に）描いてるころなので、それで誰か若いのをって言われて、それで石森プロで３～４人同じような商品の絵を描いていた中で、『仮面ライダー』の絵を描いて絵を先生に見てもらってオーディションやるからと。

――全員がじゃあ、同じテーマで。

すがや：それでいろいろ『仮面ライダー』がアクションしてるような怪人と戦うような絵を見せて、それでその中で一人だけね、皆さん２～３枚見せたんですけど、一人だけスケッチブック１冊表裏に描いて、それ出して。絵は一番下手だったけど、一番やる気があるっていうので。

――それはもう意識してやる気をアピールした。

すがや：いや、そういうつもりでもなくて、やったら勝てるかなと見よう見まねで真似ながら描いていって。一番下手っぴだったんですけど、なんとか採用になって、それがきっかけですね。

――マーチャンダイジング、そのときに参加してたわけですね。

すがや：そうです、ほかの仕事は全部マーチャンダイジングで、『テレビマガジン』のそのころ18ページぐらいのマンガを連載になるんですけど、でもそれ以外はもうずっと商品の仕事。あとはせいぜいひかりのくにの絵本とかですね、『さるとびエッちゃん』の絵本とか『仮面ライダーえかきうた』とかですね、ソノシートとかついて、その歌の作詞までやる。

――そうですか。

 ――作詞までやった。

すがや：「丸描いて丸描いて角をつければ仮面ライダー」みたいな感じで。

――結構だからそれだけ商品化のニーズが注文もたくさんあったということですよね。

すがや：すごかったです、はい。ハンカチとかですね、もう色鉛筆の箱とかそういうものも含めて。

――今だったらなんかわりとそのキャラクターの写真でやれると思うんだけど、当時はやっぱりデジタル技術があんまりなかったから、やっぱり。

すがや：そうかもしれないですね。

――絵にしてやるということだったんですかね。 ――ライダースナック（： 1971年から1973年までカルビーが「仮面ライダースナック」は、として発売したスナック菓子）じゃないですか。 ――ライダースナックね。

すがや：はい。あれもだから先生の、あれはオリジナルの絵がたぶん使われたと思うんですけど、あれがパッケージには使われていて、みんな買ってきて踏み潰してました。

――そうそう、食べない。

すがや：はい、シール欲しさに。社会問題になってました。

―― はい。じゃあ、よろしくお願いします。石森プロに入られて、そうやってコミカライズや商品のイラストいっぱい描かれたと思うんですけど、石ノ森先生からご指導というか受けた思い出とかはどんなところがありますでしょうか。

すがや：もう山ほどあります。一番最初、やはり『仮面ライダー』を『テレビマガジン』で描いたときには、まず絵が全然かっこいい絵が描けなくて、直しに直しで、まずネームの段階で直しがあって、下絵を入れたらそのポーズがおかしいって直しが出て、ペン入れしてからもまた直しが出て。18ページを描くのに21日かかったんです。最後終わったときには、もう40度の熱が出ていて、それで先生のところへ最後の監修と思って見に行ったら、アシスタントがまだ寝ていて先生だけいたんですよ。すると、こちらの顔を見て、「俺があとは全部仕上げやるからおまえは帰って寝ろ」って言われたんです。
ただこちらが色が、みんな緑とか黄緑とかそういう原色ピカピカ使う色だったんですね。その色がまぶしすぎるといって、先生がアシスタントのところからパレット持ってきて自分で茶色の色をその上に塗ってくれて、「これはうちに編集者取りに来てもらうから、おまえは帰って寝ろ」って「顔が赤いぞ」って言われて。それで帰ってアパートの前に診療所があったので、そこに行ったら「熱が40度あります」って言われて、「でも仕事があるので寝てられないんで」という話をしたら、「じゃあ、眠くならない薬を打ってあげる」といって注射されたら、それから21時間寝たという。

―― 実は眠くなる薬だったという。

すがや：だったと思うんですね。その間にまだ電話がなくて、誰かにゆすって起こされたんですね。起こされたのがヘルメットかぶったお兄さんがいて、電報配達の人。ドアを鍵あけずに寝ていて、のぞいたら「あ、生きてた」という感じで、死んでると思われたらしくて目を開けて。「電報です」って言われて、電報が石森プロからの電報で「至急おいで請う」という電報で。「はい」って言ったんだけどまた寝ちゃった。それでまた次に起こされたんです。そしたら今度石森プロの仕事を手伝っていたヤマヒラさんという方で、そのあと『テレビランド』の編集長とかになる人なんですけど、その人が「ああ、生きてた」って言って、「もう仕事たまってるから行こう」って言われて、それでタクシーで連行されて石森プロに行って、商品の仕事たくさんあるから、その仕事をやらされたという、そんな状態で仕事してました。

―― 商品も並行してやりながら、マンガも描かれていたわけですね。

すがや：はい。そのマンガが遅れちゃったので、商品の仕事たまっちゃったんですよね。

―― 石森先生というのはやっぱりコマ割りにすごい特徴があって、1ページを12コマですかね。

すがや：はい、4段と3段じゃなくて3行、はい。

―― やっぱりそういう技術的なところも教えを受けたりしたんでしょうか。

すがや：教えをこうというより、こちらが描いたものを見てからそれに直すみたいな感じで。ただネームは一応石ノ森先生自体は、ネーム用紙というのに別の紙にコマ割りをしてセリフをとって、それを原稿用紙に写すということはしなくて、本番用の原稿にいきなりコマ割りしていくんです。それで1枚できては待ってる編集者に「はい」って渡して、編集者がそのトレペをかけて、ネームを写しとっていく。そういうスタイル見てたから、それが当たり前だと思って、ほかの先生は結構ネームとる人たちいたんですけど、ジョージ秋山先生も原稿用紙一発だったですね。さっきお話あったように、石ノ森先生もそうだしで、それでいいのかなと思って、自分も結局原稿用紙いきなり入れていって、原稿用紙入れてるのに先生から直しが出るので、また原稿用紙また新しいのに描き直していかないといけない、それが重なりましたけど。ただ一応おもしろかったというのは、そのころコミカライズの作品が『仮面ライダー』が走りなんですけども、それが当たったからというんで『冒険王』とか『テレビマガジン』とかコミカライズがいっぱい始まるんです、ほかのテレビ番組。それでほかの漫画家さんたちもやるんですけど、皆さんテレビのシナリオを渡されて、そのシナリオどおりに描かないといけない。そうするとテレビのダイジェストにしかならないんですね。

―― それいけないっていうのはなんか縛りが、そういうふうにしてくれって発注があったんですか。

すがや：たぶんだから編集部のほうに対して、テレビ局なり映画会社なりから、そういう注文があったんだと思うんです。こちらは石森プロという原作者のところにいたので、石ノ森先生が「テレビのシナリオそのまま書いたって勉強にならないだろう」と言われて、「自分で考えろ」と言われて、キャラクターだけ使えばいいから。それが『仮面ライダー』で、怪人もシナリオできる前に「次はこれ」といってデザインができた段階で石ノ森先生のラフデザインなんです、その段階で渡されちゃう。それで何か作れという。だから怪人の名前とデザインしかわからない状態で設定勝手に作って、オリジナルでストーリー作っていく。それは逆に本当にすごい勉強になりました。それで『テレビマガジン』を最初に71年12月号から始めて、翌年の春からは『冒険王』が始まって、『冒険王』のほうはもう45ページとか50ページなんていう長編になるんですけど、そちらのほうもオリジナルのストーリーを作っていったんですけども、（：石ノ森先生から）「おまえのはおもしろいよ」って言われて「下手だけど」って、「本当におまえは下手だから人の3倍描け」って何度言われたことか。でもおもしろいという、必ずなんかストーリーにアイデアを入れたりとか、トリックみたいなもの入れたりしようとして。あるとき72年になってから、とうとうテレビのスケジュールが遅れて、制作間に合わなくなって怪人のデザインが間に合わなくなったことがあって、仕方がないから一回だけ自分でオリジナルの怪人作れと言われて、それマネージャーから言われて加藤さん、「わかりました」と言ってクラゲウルフという怪人を作って、それがショッカーの科学者が自分の息子を改造するという、涙なくしては読めないという。それはあと超音波を使った攻撃をするんです。それをお寺で戦って、釣鐘でそれはライダーがうまく釣鐘を使って、それで反響させて敵が自滅するというような、そういうようなアイデアみたいなことやるんですけど、そういうのを石ノ森先生がおもしろがってくれて、「おまえのは」、その回を見て「もう監修しなくていいから」って。そのときに「絵は描いてればうまくなるから」と、「でもおまえはおもしろいストーリーを作ろうとしてこういうトリックとかアイデアとか考えて入れてあって、これをやってやればおまえ漫画家になれる」って言われて。

―― 一種免許皆伝だったわけですね。

すがや：はい、そのときはもう本当にふわふわしてものすごいうれしかったですよね。石ノ森先生はやっぱりオリジナルで作るということをすごくこだわっていたんで、こちらがそれを自分なりのものを作っていくというか、そういうものをすごく認めてくれたんで、それはすごくうれしかったですね。

―― ちょっと今加藤さんの名前も出たんですけど、やっぱりあのころの人気漫画家に結構マネージャーの方が付いてて、その方が仕事取り仕切るみたいなのがあったと思うんですけど、今あんまり聞かないような気がするんですけど。あのころそのマネージャーシステムってちょっと興味があって、やっぱり仕事が多すぎたんですかね。

すがや：だと思いますね、やっぱり週刊誌5本6本やっていて、ジョージ（：秋山）先生は秘書がいたけど、たぶん（：マネージャーは）いなかったと思うんですけど、永井（：豪？）さんとかだったらばダイナミックプロで兄弟の方が何人かいたりとか、ちば先生のところもケンサクさんっていう弟さんがマネージャーで、手塚先生は松谷（＊松谷孝征）さんがいて、石森プロは加藤さんがいてっていう。やっぱり名漫画家に名マネージャーありって言われてた、藤子プロもそうなんですけど、松野（＊松野喜多枝）さんっていう方がいて、結局漫画家の先生はその原稿料のやりとりとかそういう雑用とか一切やらなくていいようになって、作品に専念できたんですよね。藤子先生なんか原稿料知らなかったんじゃないかって。

―― そうですか。

すがや：藤本先生とか、はい。それは石ノ森先生なんかもたぶんそのあたりのこと全部お任せっていうか、「俺いくら稼いでる」とかそういうことはよく知らないみたいな感じで、とにかく奥さんが財布にいつも10万円入れてくれてあるっていう、それしか知らないっていう。

―― 確かにお付き合いもね、出版社だけじゃなくテレビ局とかね、映画会社とかいろいろとあったでしょうから、そういうところもじゃあ、マネージャーの仕事なんですかね。

すがや：だからやっぱり、石ノ森先生の場合はでもそれ対外的なテレビ局の平山（＊平山亨）プロデューサーとかあのへんの人たちとしょっちゅう一緒になって打ち合わせやってましたけれども、そういう意味ではすごくやっぱりその交渉ができた先生だと思うんですね、やっぱりコミュニケーション力あるというかなんというか。藤子スタジオなんか見てると、当時の藤子先生二人だったときには、たぶん安孫子（＊安孫子素雄）先生、Ａ先生がマネージャー役だったと思うんですね。それを頼ってたぶん二人できたと思うんです。そうじゃない場合は、どこも本当にだから皆さんマネージャーいましたよ、川崎（：のぼる）先生のとこなんかもそうですし。

―― そうですね。

すがや：はい。それをやらないとでも、たぶん専属制度とかああいうもの『ジャンプ』なんかでき始めてから、やっぱりそのプロダクションにしたりとかそういうことしなくなってきたので、それでマネージャーの名前とか聞かなくなってきたのかなという感じが。

―― 逆に今ちょっと編集者がそれに近い。

すがや：そうですね、はい、それやっぱり専属制度のせいだと思いますよね。

――今日はマンガの話なんで、『こんにちはマイコン』までというお話でしたけど、その『こんにちはマイコン』やったことでその後につながった部分があれば、そこまではちょっとうかがえると。

すがや：それで話題になって、結局大人がそれを読んでくれてる。一応子ども向けだったんですけど、やっぱり読者層が子ども半分ぐらいで、残り半分大人っていう感じ。やっぱり電車の中で自分の、一番理想的な姿というのはその『こんにちはマイコン』って子ども向けの本なので、それを大人が読むの恥ずかしいじゃないですか。だからカバーをかけてこっそり読むだろうなという感じ。中央線で2回そういうのを見て、自分の本がこうやって狭めて読んでる人がいて、一応作者だからチラッと見たらば「あ、『こんにちはマイコン』だ」ってわかるんです。それを2回見ました、2回とも紀伊國屋（：書店）のカバーでした。

――当時としては、今だったらそんなに恥ずかしいという思いはないと思うんですけど、当時ってなんかやっぱり。

すがや：やっぱりでも、たぶん恥ずかしい状況、マンガでなんか学ぶっていうのは。特に大人向けの入門書みたいなものってあまりなかったんです。そのときは子ども向けだったんですけど、ただそれを気をよくして、そのあとに大人向けの学習マンガってできるんだと思って、それで一番最初に手掛けたのが『QCサークル』（：正確には「こんにちはQCサークル」。プレジデント社より1985年3月刊行）っていう、クオリティ・コントロールってわかります？

――はい、産業系の品質管理。

すがや：品質管理。これもだから、82年にル・マン24時間レースに行ったときに、マツダのRX-7が日本車で初めて完走して、そこで当時東洋工業だったんですけど、そこの人たちがもう涙、涙で。そこでそこのマツダの人と仲良くなったらば、「漫画家さんなんですか」って「良ければ工場見学にきなさいよ」って言われて。それで『モーニング』、『コミックモーニング』が82年に創刊（：講談社より）ですけど、その創刊号から描いてるんですITマンガを。それは『こんにちはマイコン』の延長上のシャープが提携していて、そのマンガをつけることによってシャープの広告が裏表紙に載るっていう。

――ITってどういうマンガでしょうか。

すがや：『オフコンカンパニー』（：講談社「モーニング」掲載）っていうのが、サラリーマンがITめいたことをやっていくみたいな話だったんです。でもその取材の一環でやっぱり工場のオートメーションとかそういうものを見たかったので、それでマツダの工場に見学に行ったんです。それもやっぱりマイコンっていうかコンピューターコントロールで、一つのラインにRX-7もファミリアもカペラ（：いずれも自動車メーカーマツダが製造・販売した車）も流れてくるみたいな、そういうミックスしたものがあって、それをやっぱりコンピューター使ってやるような時代になったんです。それをおもしろく見せてもらったんですけど、その横にポスターとかチラシとか貼ってあって、そこになんかグラフがあったりとか魚の骨みたいなものがあったりとか、「これなんですか」って言ったらば「これQC」って言われて、「QCってなんですか」って。みんなそこに働いてる人たちがグループつくって、どうしたらば品質管理というかエラーができないとか不良品が出ないようになるかって、現場の人たちが考えて提案したりするんだよ、みたいな話を聞いて、よくわからなくて。そのまま広島から新幹線に乗って東京駅に着いて、東京駅に行くとあのころ八重洲ブックセンターがあった。東京駅に行くと必ず寄ってたんですけど、八重洲ブックセンターのビジネス書に行ったら、QCのコーナーって本が山ほどあるんです。「えー、こんなにみんな有名なんだ」と思ってページ開いていったらば、みんな教科書みたいな本ばっかり。たまに『マンガでわかる』とかってあると、昔の大人漫画の古臭いマンガでカットがついてるみたいなものしかなくて。でもそれをやるのは現場の若い人たちなんですよ。やっぱり工業高校出てきたようなお兄ちゃんたちとか、そういう人たちがやるようなもので、こんな古臭いものとか堅いもので読む気起きないよなと思って。それでそんなもので授業やったら寝ちゃうよなみたいな。これ、でも読んでみるとこれもマンガになるじゃんみたいな感じで、マンガにしたらばこれ大人読むんじゃないかなと思って。それも、それでそのときはすぐ企画書書くんじゃなくて、ツテからツテをたどってQCやってるところを訪ねて歩いて、現場見せてもらった。それで企画書を書いて、マンガのQCの入門書って。それを持って最初小学館に行ったらば「結構です」、講談社「結構です」って。それで紹介を知り合いのツテをたどって、プレジデント社（：株式会社プレジデント社）に行ったんです。プレジデント社を紹介してくれるといって、プレジデント社の校閲をやってる、外部で入ってる校正やってる人がいて、それで紹介されて。そのときビジネス書の出版社だからと思って髪の毛切ってですね、ネクタイ締めて。

――なんか就職行くみたいな。

すがや：企画書をアタッシェケースに入れて緊張しながら行って。ハッと見せたら、いきなりテーブルにその企画書叩きつけて、「なんか怒られるのかな」と思ったら「売れます！」って言われて。「これは売れます！」っていきなり言われて。それで、すがやさんは子どもマンガの世界では漫画賞もらったりとか知られてるかもしれないですけど、大人の世界では誰も知らないし、そういうキャリアもないから、監修者をつけるから、この世界の第一人者の方をつけてくれるって。そこにまず通って勉強してくださいといって、そのパナソニックの（：技術）顧問やってた唐津一先生（：日本の評論家、システム工学者。1919～2018。）という方、統計学の第一人者なんですけど、その人の大門かどっかあのへんにある松下の東京本社に何度も通って教えをこうて、「こういうところに行くといい」という取材先を教えてもらって、日本中取材して歩いて、それで最初に初めて書いたんです。一人で書いてると時間かかるので、ネームを全部私が書いて、絵は別の何人かのマンガ家で分担して描くという方式で、オムニバス形式みたいな本出して。そういう本で１万部売れたらもうベストセラーといわれてる世界で、７～８万ぐらいまで増刷して。それでもう一つは、海外で東南アジアとかでやたら海賊版が出たりとか、それは日本に追いつけ追いこせみたいな時代で。

――日本もQC運動で実は産業界伸びた。

すがや：はい。マレーシアだけがマレーシア政府が、マレーシアの通産省みたいなところだけが正式に「使いたい」と言ってきて、向こうで連載、マレーシアの通産省の雑誌に連載してくれました。

――翻訳版ということですね。

すがや：翻訳版で、そこはギャラはというから「いえ、ノーギャラでいいです」って「もう名誉だけで結構です」。それがきっかけでバタバタと大人向けのものが始まって。それでそのときに今度『モーニング』で『コミックモーニング』で今度株のマンガ描いたんです。『饅頭こわい』（：安田二郎原作）というのが83年4年ぐらいかな、『コロコロ』でもう終わり始めたときで、それが兜町で話題になって、その毎回８ページで今回はこの銘柄取り上げて、この銘柄がなぜこれから上がるかということを、アナリストの方がいるんですよ、それをマンガで絵解きして。したらそれが必ず出るとその株が値上がりするんで話題になって、当時のラジオ短波の今ラジオNIKKEI（：株式会社日経ラジオ社の通称）の株価取引のときに、「今週の『モーニング』の銘柄は」みたいな感じになって、それで話題になるんですけど。連載してるうちに今度、もうこちらも勉強のために株の取引きしていて、証券会社の窓口に行くと、一昨日『モーニング』に納めた原稿の今度のネタが、次の『モーニング』のネタまで証券会社の黒板に書いてあるんですよ。したらそれはみんなその情報漏れ。

――ヤバいじゃないですか。

すがや：はい、みんなよくあるのをやっぱり。

――インサイダーじゃないですか。

すがや：それはよくあるのは印刷会社とか製本所のそういうところからゲラが抜かれるんで、それをやっぱり講談社でも追跡して。あともう一つはバイトしていた『モーニング』の編集部にいた女子大生のバイトがその前に証券会社でバイトしていたことがあって、そのツテでなんか電話かかってきて気楽に教えていたっていうのが。それをもとにして今度、話題にはなるけども、普通の人たちは株の買い方・売り方わからないからというので『一番わかりやすい株入門』（：講談社より安田二郎＆すがやみつる名義で刊行）というので、描き下ろしで出したんです。証券アナリストの方は、基本のことだけで原稿用紙で10枚ぐらいのやつがきて、それを１９２ページかなんかにこちらが膨らませて描いて、それがずっともう講談社で『モーニング』の編集部なんだけれども、コミック扱いじゃなくて、コミックって雑誌扱いじゃないですか、流通が。ではなくてビジネス書扱いにしてくれて。一般書扱いになると、紙から何からみんな違うんですね。コミックだとコミック用紙使うんだけど、もっと薄手の強い紙で、あとそのときに言われたのは、こういう本長持ちするから、コミックスだと当時１万単位じゃないと増刷しなかったんです。そこで普通の本だと１０００とか少ない場合は５００でも増刷できるから、そういうふうにしてくれたんですけど、でも毎月２～３万ずつ増刷。最終的には60万部ぐらい。単著では一番売れた本ですね。それもずっと、あとビジネス書扱いなので、新宿の紀伊國屋でいつもベストテンに毎週入ってるんですよ、８位とか９位とか。一応そのころニフティサーブ（：1987年から2006年までニフティ株式会社が運営していたパソコン通信サービス）が87年ぐらいから始まって、それでフォーラムのシスオペ（：システムオペレーター。フォーラムを運営・管理する担当者）っていうのをやってたんですけど、とりあえずニフティで繋いで、紀伊國屋のベストセラーの情報見て、その『一番わかりやすい株入門』がリストに残ってると、まだ大丈夫だと思って、仕事はしないでニフティのほうに。

――そのあとね、やっぱりニフティでフォーラム、FMOTOR（：「モータースポーツ・フォーラム」の略称）とかコンピュサーブアクセスされて海外のレース情報、向こうの人たちともコミュニケーション取ったりとか、ITのほうをずっとやっていかれるわけですけれども、コミックの絡みでというか今のマンガの絡みでいくと、その株のその後もね、『こんにちはPython』（：プログラミング言語「Python」）とかも最近書かれてるぐらいなんでいろいろあるかと思うんですけど、でもそれが一番大きな山って感じですよね。

すがや：そのあとでも、学研からずっと『すがやみつるのハイテクコミックシリーズ』のほうで、最初は『パソコン入門』『ワープロ入門』から始まって『一太郎入門』『MS-DOS入門』、『MS-DOS入門』が一番売れました。ウィンドウズの本も出してるんですけど、ウィンドウズの時代になってからもまだ売れてましたよね。

――僕がイメージしてたよりもずっとそこのボリュームあるわけですね。

すがや：はい、90年代の半ばまで。そこから、その学研のコンピューターのシリーズだけで、たぶん10冊ぐらいなんですよ、トータルで１００万以上は楽にいってるんです。そのへんはだから地道な増刷がどんどん重なって。すごい仕事やってないじゃんって言われて、本当にあんまりやってなくて、それもあったから小説の持ち込みできたんです。

――そういうこともあるんだ、なるほどね。わかりました。

――『ゲームセンターあらし』に話を戻しますけど、最初描いたキャラクター、いくつかキャラクターの絵描いて、一番泥臭いキャラを選ばれたということなんですけど、これは編集者とどんなやり取りがあったんでしょうか。

すがや：でも直前にSFマンガを3本ぐらい描いているんです。石ノ森先生タッチの髪の毛の長いようなもので、宇宙人がマヤの文明とかイースター島の文明を作ったみたいな感じのUFOが出てくるみたいな。UFOが出てくるマンガは本当はアダムスキーのUFOを描いていたんですけど、そしたらちょっと石森プロのマネージャーがマーベルのジャパン法人（：詳細不明）かなんかができたから、「うちでパーティーやるからおいでよ」って言われて、東映の平山さん（：平山亨。プロデューサー。）とかも来て、紹介されたんです。それで『スパイダーマン』を東映が作っていて、そしたらマーベルジャパンのその社長が「明日映画の試写があるんだけど見に行かない？」と言って紹介してくれて行ったんです。それが『未知との遭遇』だった。『未知との遭遇』っていきなりUFOがシャンデリアみたいなUFOが出てきて、それを見てすぐに仕事場に飛んで帰って、アダムスキー（：1891年生まれのUFO研究家）のUFOを切り抜いて、シャンデリアに変えたんです。

――最新の。

すがや：そういうマンガを描いていたらば、それは全然人気がなくて、それでもう一回『コロコロ』でお払い箱状態になった。

――ちょっと『コロコロ』では大人っぽすぎたというか、そんな感じなんですかね。

すがや：それで、そしたらば、テレビゲームというのが流行りだしたので、編集部でテレビゲームのマンガやろうということになった。タイトルも編集会議で『ゲームセンターあらし』って決まって、それで誰に描かせようかということになったときに、やっぱり学年誌の編集者の、電気ものというかエレクトロニクスだったらすがやがいいんじゃないかと。その小学館の学年誌なんか、打ち合わせに行くときに講談社の仕事は講談社のところに地下鉄の丸の内線の東高円寺まで来ていただいたんですけど、小学館は「行きます、行きます」ってこちらから行ってた。秋葉原に行くついでに寄れるんで。

――どっちかっていうと秋葉原行きたい。

すがや：それでその77～78年でそのマイコンが出始めたころで、マイコン雑誌が『アスキー』なんかの同人誌だったみたいな、『アスキー』持ったりとかいろんなLSI（：Large Scale Integration（大規模集積回路）の略）とかトランジスタのパーツ持って行くと「何、宇宙人」とかって言われて。「宇宙人」って言われてたんです、小学館の人に。そんな状態だったんで、たぶんエレクトロニクスといったらすがやがいいんじゃないかということで声かけてくれて。それで最初はでも電話だけだったんです、電話かかって「『コロコロ』でゲームマンガをやりたいんだけど描いてくれる？」って「いいですよ」って。そのときに言われたのが、すがやさんが描くキャラクターは石ノ森章太郎みたいな感じできれいなキャラクターで、それは子どもに受けないから、ちょっと汚いキャラにしてほしいって言われて、それで「わかりました」ってそれでとりあえず、今日が表紙の校了日だって。

――そんなときに、そんなタイミング。

すがや：それで、ストーリーはだからあとで決めればいいから、とりあえず表紙にカットを載せたい、キャラクターの顔だけなんか四つか五つ描いてくれって言われて。それで自分がいいと思ったものに色を付けてくれって言われて、それで描くことにしたんですね。でもその泥臭いなんかいたずらっ子みたいなやつにしてくれ、今まできれいきれいな顔だから、さてそれでどうしようかなと思って、どうせ一回こっきりだからいいやと思ってパッと見たときに、『釘師サブやん』と『包丁人味平』（：どちらもビッグ錠原作、牛次郎漫画）があったんです。それでああいう感じのぶっといタッチにして、そばかすつけて、出っ歯とかいろんなタイプの作って。自分では一番気に入ったやつに絵の具で色をつけて、それで渡したんです、アルバイトの人が1時半ぐらいに取りに来て渡して。次の日になったらば、平山（＊平山隆）さんっていう編集者が来て、そのころまだトレペのレイアウト用紙なんですけどコピー持ってきて、「これにしたから」といってそのキャラクターが自分でいいなと思ったものとは違った、「もうこれに決まったから、これでいって」と言われて。色は絵の具で塗ってあったのを見ながらデザイナーさんが色指定して。それでとりあえずなんか1万円札1枚持ってきて、これ今から歌舞伎町に行こうといって、これで100円玉に替えるから、この100円玉100個なくなるまでゲームをやるって。ゲームセンターに行って、アシスタントも連れて行って、そういうときに限って長続きするんですよね。最後にコイン落としやったりとかスマートボールやったりとか、まだスマートボールがあった時代で、ピンボールまでやって無理矢理使って。アシスタントを帰して打ち合わせしたんです。 すがやさんはやっぱりいい子ちゃんマンガになるから、そればっかり言われて。ストーリーが一応じゃあ、その場でストーリーとりあえず考えたのを、ストーリーをじゃあ、そんな感じでいいけれども、一つだけ注文がある。最後のとどめの一発のときに主人公に逆立ちさせてくれって言われた、空中回転の逆立ち。「えー！？」ってなって。みんなそのころまだ椅子に座ってテーブルでやるタイプだったんで、そんなリアルじゃありませんって。空中回転とかそんな逆立ちするの変ですよって言ったら、すがやさんは『仮面ライダー』や『キカイダー』（：『人造人間キカイダー』）で散々逆立ちさせてるって言われて、そう言われてみればそうだなって。 その前に『小学一年生』で72年に『キカイダ―』を初めて描いたんです、小学館で。そのときに。

――学年誌ですね。

すがや：8ページだったんですけど、デンジパンチ（：電子戦隊デンジマンが使用する武器の1つ）とかデンジエンド（：キカイダーの必殺技）という。

――デンジエンド。

すがや：あれでサイキング（：キカイダーに登場する「グレイサイキング」？）ってやってボーンってやって、敵がバラバラになるんです。そういうシーンを描いて、そのころはまだ石ノ森先生の監修があったんで見てもらって、「おお、いいよ、これ」みたいな、OKもらって池袋の駅前にあった耕路っていう喫茶店があったんですけど、そこに行って編集者と待ち合わせて小学館の担当者のタカハシさんという方に渡したらばパッと見て、「えっ、こんな残虐なのはうちは困ります」って学年誌なんですって。
それでとりあえず持って帰りますけども、おそらくこういう残酷なものは親の目もあるからたぶん描き直しになると思いますので、一応待っててくださいって言われて。しょうがない、アパートに戻ってきたらば、電話かかってきて、「ちょっと電話上司に変わりますから」って言われて。それでチバさんというデスクをやっているチバさんという人に変わって、「こういうものを待ってました」と言われて「この調子で描いてください、このまま受け取りますのでこれでやってください」と言われて。
そうしたらそのチバさんは、その描いたものを『ウルトラマン』とかほかのマンガを描いてる人に「こういう感じで描いてほしい」って見せたらしいんです。

――ほかの人にもちゃんと。

すがや：そのころただアクションが描けなくて石ノ森先生の、『仮面ライダー』もやってたんですけど、『仮面ライダー』ってやっぱり先生はマンガ風だから横に飛ぶ、『サイボーグ００９』の延長みたいなので、筋肉つくようになってきたんですけど、劇画とはまた違うじゃないですか。そのあとに特にそうだったんだけど、『仮面ライダーV3』になったときに、先生はもう『V3』描いてないんです。それでこちらも困っちゃって、それで神保町に行ってブックブラザーズという源喜堂（：源喜堂書店）というところに行くと、洋書の専門店でそこにアメコミ山ほど積んであって、そこで『スパイダーマン』とか『キャプテン・アメリカ』買ってきて、それ見ながらアクションシーン描いたんですね。『キカイダ―』なんかもそういう影響を受け始めたときで、それがよかった。
それで『ゲームセンターあらし』もそんな感じでやればいいのかと思って。

――『仮面ライダー』の延長というか進化版でっていう。

すがや：だから、宇宙描いたりしたりとか、すがやさんでも『仮面ライダー』とか『キカイダ―』のときいつも逆立ちしていたって言われて、ゲラひっくり返してみたら本当にいつも逆立ちしてるんです、下からジャンプしたりとか「ああ、そうだったんだ」と思って。それでオリジナルになるといいものを描こうとして、それでばかばかしいものとかそういうんじゃなくて。

――感動系のものを描こうという。

すがや：はい。だからじゃあ、いいやと思って、これどうせ一回こっきりだからと思って、それで最後に空中回転させたんですよ。でもそのときは人気出なかったんです。

――そうなんですか。

すがや：でも人気出なくて、それでやっぱ票が取れないからなんか別のものやる？って。それで『F・1キッド』（：コロコロコミック1979年3月号から同9月号で連載※単行本未刊行）という自動車レースものを描いて。そんなに人気あるようなないような、フォーミュラカーでやったら人気取れないんで、途中から童夢-零というスーパーカー（：日本の自動車会社童夢が試作したミッドシップスポーツカー）に変えてみて、したら人気ちょっと出てきたねっていう感じ。その翌年で79年の春になったときに、『コロコロコミック』の増刊号、これ『ウルトラマン』の総集編だったんです。学年誌なんかに載っていたものを集めて、そこでおまけに２本だけオリジナルやるんだけど、ちょうどスペースインベーダーが出たときで、スペースインベーダーとか流行ってるから、それをネタにもう一回だけやってみるっていうことになって描いたんです。そうしたらば、それがアンケートで８割ぐらいアンケートで１位取っちゃって、もう『F・１キッド』と入れ替えで、『F・1キッド』の２回連載重なったかな、それで『ゲームセンターあらし』の連載になったんです。さっきの『ラジコン探偵団』（：『テレビマガジン』1978年9月増刊号に掲載）のときもそうだった、増刊号で『テレビマガジン』の増刊号で『仮面ライダー』特集号だった。そこでオリジナル2本だけやるんだけど、担当者がその前にスーパーカーマンガをやっていて、「すがやさんアマチュア無線もやってるし、ラジコンが流行ってきたからやらない？」って言われて。もうラジコンもやってたんです。でも趣味は大事にしたいから仕事にはしたくないといって断って、そんなこと言ったらイワタさんという編集者だったんですけど、「じゃあ、ほかの人に頼むけど、たぶんすがやさんほかの人が描いたラジコンマンガ見て、俺だったらこうしたのにときっと思うと思うよ」って言われて「じゃあ、わかりました」って描いた。

――いい殺し文句ですね。

すがや：はい。そうしたらば、そのときもなんか70％以上１位を取って、『仮面ライダー』をさておいて。それで本誌連載になって、本誌で１位続けちゃったらば、『テレビマガジン』がテレビ雑誌じゃないですか。もう裏表紙とかみんなおもちゃ屋さんとかみんな入ってるじゃないですか。ポピーと今のバンダイとか。それなのに、オリジナルマンガが１位っていうのはマズいという政治的な事情で連載が終わることになったんです。

――逆に人気が出すぎたゆえに終わっちゃったと。

すがや：そのときに、その担当者はそのあと『少年マガジン』に行っちゃってコミックスも一回出て売れて増刷続いて、また原稿残ってたんですけども、いきなり連載終わりになって。そうしたらその『少年マガジン』でいた担当者（：イワタさん）が憤慨して、「２巻目もったいないから描き下ろしで継ぎ足して本出そう」といって、『少年マガジン』にいたままテレマガの本作っていくという、描き下ろしで出して、それで増刷続いたんです。その人が今度『モーニング』に行ったときにまた「『モーニング』やれよ」といって引っ張ってくれて、そんなほとんど人のつながりです。

――でもそれは重要ですね、要するにすがやさんの特性をわかってる編集者がちゃんと各社にいたっていうのはやっぱり大きなポイントだったということですね。

すがや：そのときに、『ラジコン探偵団』っていうマンガをやったときも、「こんなのやりたい、あんなのやりたい」とか、あとこちらが小説好きで『中間小説』全部読んでいて、『野生時代』も全部読むみたいな感じで。それでいつも読んだ本の話ばっかりして、それですがやさんは、その人は『少年マガジン』行ったんだけれども、すがやさんの絵だと『マガジン』で使えない。かわいい女の子描けないし、すがやさん女の子興味ないでしょって言われて「はい」って。ちょうどラブコメが流行り、柳沢きみおさん（：漫画家。1948年～）とかああいう人たち全盛のころで、それででもストーリーは作れるからというんで「原作やらない？」といって。それで『マガジン』の増刊号で原作やらせてもらったんです。そうしたら当時の編集デスクやってた五十嵐さん（：五十嵐隆夫。）。

――五十嵐さん。

すがや：はい、すごい気に入ってくれて。それでその前には『別冊マガジン』で五十嵐さん担当で、牛次郎先生原作で私のマンガでやったんですけど、人気出なくてすぐパッて終わっちゃったんですね。あんまりいい印象持たれてなかったんです。そのことをイワタさんっていう人が知っていて、原作のときには鶴見史郎という仮の別名にして、それがすがやみつるだっていうことは五十嵐さんには一切言わずにずっとやってくれたんです。ネガティブなイメージ持たないように。

――でもそこでそこまで気使ってくれる編集者がまたいたっていうのもね、大きいですね。

すがや：はい、それでそのあとに『シェリフ』（：鶴見史郎名義で原作者としてクレジット）というダイナミックの真樹村（：真樹村正）さんという人が連載やろうとしたときに、林律雄さんという『おやこ刑事』（：原作林律雄、作画大島やすいちによる漫画作品、およびそれを原作とするテレビドラマ。原作漫画は、『週刊少年サンデー』で1977年21号から1981年12号まで連載）の原作を書いた人がついてたんですけど、たぶん大人の事情というか小学館との関係で、原作がつかないことになっちゃって。オリジナルで読み切り連載大変だからということで、こちらが声かけてくれて、それでプロットを何か出さないと言われて出したらば、OKもらっちゃって。 　それでそのときに、ちょうど『ゲームセンターあらし』がちょうど忙しくなってるときに、週刊の読み切り連載の原作も始まって。それを並行して、自分のマンガを月200～300枚描いて、それで週刊の原作もやってみたいな。

――そのへんが結構本当に枚数的にはピークという感じが。

すがや：はい。

―― ご著書読むと本当にね、本当に細部までいろいろと覚えてらっしゃるから。

すがや：最近でもちょっとそれが怪しくてですね、やっぱ細かいとこって裏をとらないと怖いのがいっぱいあります。

―― そうですか。

すがや：はい。

―― いや、でもこっちだけ、ごめんなさい、女性の前だけど、なんか鈴木プロの時代でしたっけ、トルコ風呂の女の人が来て、原稿見てたっていうのをね。

すがや：原稿っていうかマンガを読みにきた。

―― マンガを読んでいたんでしたっけ。

すがや：お茶をひくとなんかドコドコ非常階段上がってきて、職業スタイルでブラとパンツだけでその上に袢纏をお店の袢纏着て、石鹸の匂いさせながら、漢字が読めないって言うんです。赤塚不二夫が好きなのは漢字が少ないからって。漢字が出てくると「これなんて読むの」といって来るんですよ、顔つけて。石鹸の匂いプンプンしながら。

―― それちょっと困った。

すがや：でもその女性がある日また、鈴木プロにトルコ風呂から電話かかってくるんですよ、お客さん来たからって。それで非常階段降りていったときに、その階段とその行ったとこの間に隙間があったんですよ。そこから落っこっちゃって下に。そしたらば、裸に近い格好じゃないですか。それで下に空き瓶とかそういうの割れたら全部あって、その上に落っこっちゃって、それで救急車で運ばれたらしいんです。それでしばらくあって、やっと店に戻ってきたと思ったら、背中の傷見せてこれ、なんかおもしろい体験でした。鈴木プロにいたころに、子どもマンガの雑誌を全部職場で読めるんですよ、原稿とかあるから。それで自分で買ってた雑誌が『漫画サンデー』だけだったんです。『漫画サンデー』大好きで、東海林さん（：東海林さだお、漫画家、エッセイスト。1937～）とか黒鉄さん（：黒鉄ヒロシ、漫画家、コメンテーター。1945～）とかちょうど出てるときの、漫画集団の方々よりももっと若手世代っていう、秋竜山さん（：漫画家。1942～2023）とか谷岡ヤスジさん（：漫画家。1942～1999）とか、あれがなぜか大好きで、自分では子どもマンガを目指して、少年マンガ目指すつもりだったのに、なんかあのへんのナンセンスなギャグマンガというか、大人向けのマンガ大好きで。今も東海林さだお先生とか文章まで。

―― いや、この世代はそうなのね、知ってるんですよ。知ってるし、僕も東海林さんもそうだし、あと加藤芳郎（：漫画家、放送タレント。1925～2006）は天才だと思う。知ってるけど、世代集団としてはどっちかいうと、漫画集団が仮想敵になってて、近藤日出造（：漫画家。1908~1979）は主に悪いんですけど。つまり手塚さんをいじめる人みたいなね。

すがや：加藤芳郎さんはおもしろいんだけども、でもほかの加藤泰三さん（：正しくは横山泰三。漫画家。代表作『プーサン』。1917～2007）とかああいう世代になっちゃうと、もうなんか古いみたいな感じの、あと政治系でなんか俺たち偉いんだぜみたいな感じの権威を感じてしまってという。

―― すごくそのへんはちょっと話しだすといろいろ複雑なので、大人漫画ってカッコがついてるときは、だいたい漫画集団系のことを指すんですが、一般の用語では大人漫画っていうのは別に今ではほら青年マンガの、昔青年マンガだったものを大人マンガって呼んでたりするので、すごくややこしい。

すがや：その区別するとき大人漫画って漫画も漢字まで入れたのが、そういう『漫画サンデー』とか『漫画讀本』タイプのマンガ。

―― なるほど。

――ということになります、だからそれは。

すがや：前ね、本、ゴチエイさんというか呉智英さん（：評論家、漫画評論家。1946～）にすごい、あれはすごいいい本（：呉智英・夏目房之介選、『夏目&呉の復活！大人まんが』）でした。

―― というかあれしかないですよ、大人漫画を復刻した本。

すがや：はいはいはい、そう思います。

―― あれ以前は、ちくまの全集とかしかないんです。

すがや：最近またⅩってツイッターで話題になっていて。

――そうなんですか。

すがや：はい。

――どんなふうな話題になってるんですか。

すがや：その大人漫画の、昔の大人漫画風のタッチでアニメを作ってる人（：かねひさ和哉。アニメーター。）がいるんです。それが今の人たちにわからないから、これは『サザエさん』（：長谷川町子作）のパクリだとか植田まさし（：漫画家。1947～）のパクリだとか。その人は昔の60年代までの大人漫画の雰囲気で作ってるんだけど、大人漫画ってジャンルをみんな知らないんですね、それで叩かれたんです。それで「そうじゃない」っていうのをみんな漫画家、我々も含めて「昔はこういうのがあったんだ」と言って、それでなんかみんなでいい思いしてて。

――ちょっとやっぱりマンガのファンの間でも世代的な断絶が。

すがや：はい。

――だから、本当は僕らの世代はもうちょっと売れていないといけないんですが、そういう機会自体がもうなくなっちゃって。

すがや：とり・みきさん（：漫画家。1958～）なんか、ちくまでいっぱい全集の写真出して「こういうのがあった時代がある」って。私なんか秋竜山先生のパクリをやったやつも、こんな描き方してますっていって。

――砂川しげひささん（：漫画家、エッセイスト。1941～2019）とかね、あの人も天才で素晴らしい絵描くんですよ。（：すがや氏の脚を突き出すジェスチャーは、砂川しげひさ氏作『ドタコン』の主人公が得意にしていたポーズの真似。本人談。）本当にうまくないと描けないんですけど、当時僕はすっごい腹が立ったのは、70年代にある編集者が「あいつは絵が下手だから」。おまえは絵がなんたるかも全くわかっとらんって心の中ですごく怒ってましたけど。

――ちょっとごめんなさい、もう話も最後なんですが、いわゆる今のコミックマーケットですよね、そういうのができていく過程の方たちともなんかお付き合いがあったみたいなことが書かれていたんですが、ご著書に。そういうのってどんな感じだったんでしょうか、そのころのムーブというか。

すがや：もともとあれ漫画大会というのがあって、コミケの歴史とかで出てくるんですけど、ウィキペディアあたり引いていただければ。それは石森章太郎ファンクラブの会長が始めたんですね。同い年、高校生のときに石森章太郎ファンクラブというのを作って、そういう活動をしながら石森プロでも仕事していて、それでやっぱりSFの、もともとがSFのファンだったんで、SFのファンジンって。SF大会っていうの今もやってるんですけども、それを真似て漫画大会っていうのを始めようということにして、四谷公会堂だったかどこか第1回大会って始めるんです（：1972年7月、東京都新宿区の四谷公会堂で実施）。そこで初めて同人誌即売会みたいなことも並行して始めて。それがコミケの。

――じゃあ、付随したものだったわけですね。

すがや：そのときになんか内紛というかけんかが起こって、コミケが分かれて蒲田かどっかのほうに行って独自に始めるっていう、それがコミケになっていった。

――ということはじゃあ、最初はちょっとSF系というか、それと付随した即売会がきっかけ。

すがや：それやっぱり同人誌っていうのを「ファンジン」っていうSFなんかあるじゃないですか。

――そういう言い方をして。

すがや：ああいうものを意識したような感じだったので、同人誌っていうのは本来は漫画家になりたい人とか作家になりたい人たちが集まって作るものだったじゃないですか。それがいつの間にか個人出版誌にどんどんどんどん変わって、自費出版誌になっちゃった。あのあたりから名前が変わっていったんですね。 あともう一つは、みんな我々の同人誌というのは漫画家になりたいからオリジナルを描いていたのが、みんな二次創作、今で言う二次創作、それ借り物のね、誰かが『００９』のキャラクターで自分でストーリー作るみたいな感じのものができてきた。初期のころはその名前がなくてみんなパロディ、パロディって。

――そのころはそうでしたね。

すがや：でもあれはパロディじゃないよと思って、すごく違和感があって。それがようやく二次創作という名前でなんか落ち着いてくれて、「ああ、よかったな」っていう。

――そもそもSFのファン、読者層とマンガのファンの読者層って重なってるんですよね。

――そうですね、私も子どものころそうでしたからね。

――日本の戦後でSF作家ってほぼ手塚治虫の影響なので、もともとが重なってるんですよ。だからそういう現象、SFのほうが先にわりとSF大会とかやってて、ファンジンもできていて、マンガのほうはそれを後追いしてる感じ。

――それが80年代ぐらいになるとコミックマーケットがどんどん大きくなっていって、あとはいわゆるヤオイみたいなのも出てき、それがまたボーイズラブへ独自に発展していくわけなんですけど、そういう発展の歴史とかも追いかけていくとおもしろいですよね。

すがや：そのあとでやっぱそういうのありながら、例えば一方でちばてつや先生とかっていうのは、またそういうのとは違うんですね、やっぱり下町人情系みたいな感じで、それはやっぱり梶原一騎系とかちばてつや系とか、ちょっとまた貝塚ひろし（：漫画家。1938～2023）とか一峰大二とか、そういう人たちの読者ってまた違うんです。これ望月三起也先生のトークイベントが亡くなる２年ぐらい前に阿佐ヶ谷であったときに、やっぱり好きで『ワイルド７』とか見てたし行ったらば、司会者が全然望月先生の、山田ゴロ（：石森プロ出身の漫画家。1952～）っていうのがやったんですけど、望月先生の本読んでないし、作品知らないからうまく仕切れなくて、こちらがなんか変な、「質問がある人」っていうから「はい」って言って「すいません、『ムサシ』（：「少年画報」で1962年より連載）を、『ムサシ』ってわかります、長編デビュー作（：望月氏のデビュー作は1960年『特だねを追え』）、少年画報の。「『ムサシ』はどうして南部二十六年式という拳銃をやってたんでしょう」とか。そういうようなことを言ったりとか、「先生のメカはベタが多くて、戦争ものでもボーンと車が吹っ飛ぶと裏がベタなんですけどどうしてですか」とか。なんか資料がなくてベタにしたらしいんです。 　そんな話をしたんですけども、そのときにすごくおもしろかったのが、望月三起也先生ってああいう横浜生まれで、ああいうアクションもの好きじゃないですか。やっぱり洋画の影響なんですよね、アメリカ映画の。そういうのですごいおしゃれになるんですよ、そうやると。それを少年画報社でそれをものすごく厳しく言われたんです。すごくかっこよくなっておしゃれになっちゃって、でもうちの読者は山向こうにいるって。それは田舎の子たちなので、うちの読者は山の向こうにいるからって、それを意識して描いてくれって。

――あんまり洗練させすぎないでくれ。

すがや：はい、だから東京とか横浜の子じゃないからって。それっていうのはすごいだから、それはある意味マンガの読者ってそうなんですよ、結局。少年画報とか秋田書店の雑誌とかって結局田舎の雑誌じゃないですか。そこをやっぱり支えてる部分があって、でもそこのマンガが今見えなくなってるところが逆にまたあるんで。ちばてつや先生ぐらいじゃないかって。本宮さん（：本宮ひろ志。漫画家。1947～）ってある意味そういうヤンキーマンガというか、本宮さんは集英社の雑誌に載ると必ず人気トップ取ったりもするっていう、原稿料だからすごく高いんですけども、でもマンガ研究とかね、評論とかそういうとこには全然引っかかってこない。でも支えてるのがヤンキーのお兄ちゃんお姉ちゃんたち、夜中にコンビニに集まってコンビニの前たむろして、弁当食ったりしながらマンガ読んでるとか、そういうお兄ちゃんお姉ちゃんたち。そういう層もあるんですよね。でもそういうそのマーケットも確かにあるのに、それはだから研究とかそういう部分では引っかかってこないところが。

――それはでもちょっと重要なテーマ。

すがや：はい。

――そもそもマンガの批評とか研究とかに走る人間っていうのは、もうちょっとハイブロウな感じの作品に引き寄せられて文章書いたりするんですよ。だからどうしても必然的に落ちるんですよ。そもそも横山光輝も落ちちゃうんで、本宮ひろ志も落ちちゃうし、望月三起也さんなんかはね、ちょっとボーダーなんですよ。だからね、そのへんはでも言い出したらですね、なんせ量が多いので、全部カバーするのはなかなか難しい。

――本当にそうですよね。

――でもああいった本当はだからおそらく、読者層として違う人たちっていうのは誰かが言っておかないといけないんですね。彼らは発言しないから。

――でも結局徐々にでもそうですよね。

――かなり大きな市場だと思います。

すがや：マンガ史とかいろいろ出てきてトキワ荘ぐらいまで来てるんですけども、でもトキワ荘は出てくるけれども、『赤胴鈴之助』とか『ビリー・パック』（：1954年～1961年に『少年画報』に連載された河島光広の漫画作品。）とか出てこないんですよね。ある意味そういう意味では『巨人の星』とか『あしたのジョー』みたいな感じで、さっき言ったメディアミックスのころの『まぼろし探偵』（：1957年に『少年画報』に連載された桑田次郎（桑田二郎）原作の漫画作品、およびそれを元としたラジオドラマ、特撮テレビ番組など）だとかっていうのは走りどころ、ラジオとか映画とかでのメディアミックスの走りの作品でもあったはずなんですけども、そういうところっていうのは全然出てこない。

すがやみつる

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