――インタビュアーの井上伸一郎です。

――中野晴行です。

――夏目房之介です。

――本日は2025年1月30日です。これからビッグ錠氏のオーラル・ヒストリーのインタビューを、ドワンゴ東銀座オフィスにて行います。よろしくお願いします。

――ビッグ錠先生は大阪の、とにかく貸本文化時代をご存知という、本当に貴重なご経験を今日伺いたいと思っておりますし、その後、『釘師サブやん』ですとか『包丁人味平』ですとか、いわゆる漫画の中でもパイオニア的な作品を手掛けていらっしゃるので、そういう話もぜひ伺えたらと思っております。先生がお生まれになったのは、戦争のご記憶が少しあるということですが。

ビッグ錠：大阪って終戦8月15日の前日まで空襲があったんです。僕はそれに遭ったと思ったんだけど、僕は大宮町という大阪の一番京都寄りの方のところだったんですけども、真ん中じゃなかったんで。多分僕が空襲に遭ったのは8月16日かな、6月何日かですね（：8月16日には空襲がなく、6月には1・7・15・26日の4度行われている）。それが一番大きな空襲だったんで、その時の経験だったと思うんですけども。うちは、家が戦前、洋裁店やったんですよ。で、商店街で育ってるもんだから、親父お袋っていうのは、いわゆる大正モボモガで青春過ごしてるもんだから、若い時の写真なんかオシャレなんだけど、それがいきなり戦争で贅沢はできなくなったんで、もう商売も成り行かなくなって。それから家は焼けなかったんだけど、二、三軒隣でまで（：で火が？）止まったのかな。その時金回りが良かったからなのか、家の店の下に防空壕を作ったんですよ。伏見からすごい分厚い石を運んできて、それを天井に敷いたとか、表には分厚い鉄板を、入口には店の外から出られるようにしてたんですけどもね。結局それはあんまり役に立たなかったんだけども。もう熱気で大変だから、その空襲が来た時は。前が電車道ですからね。みんなこう行列でゾロゾロ逃げていくのに一緒に入って、北の方へ守口の方に逃げていった、そのシーンだけ覚えてるんですよ。あとは焼け跡で遊び回ってたら楽しさの方が多かったんですけどね。

――戦後だと資料を読ませていただくと『ブロンディ』というアメリカの漫画なんかも入ってきて読まれてたんですか。

ビッグ錠：そうですよね。ブロンディとか、あの自分はもうメンコが、ミッキーマウスとかあんなもん、版権なしですから、日本のそんなの向こうは相手にしてなかったんでしょうね。ベティ・ブープとかみんなそういうの、好きだから集めてましたよ、メンコで。

――駄菓子屋さんとかで売ってましたね。そういう子供時代をお過ごしになって。近所のお金持ちのお屋敷のお兄さんから、『のらくろ』とか、これ戦前の漫画ですかね。こういうのを読まれたりとか。

ビッグ錠：そう、もう戦後だからもう本も何もない時代だったんだけども、近所にお屋敷のある蔵のあるお家の大学生のお兄さんが、蔵は焼けてないからね、残ってたんですね。『のらくろ』とか、『冒険ダン吉』とか、あと『蛸の八ちゃん』とかね、それだけ覚えてました。

――じゃあちっちゃい頃からその漫画文化には親しんでいた。

ビッグ錠：でも、漫画として読んだのは、やっぱり中野さんご存知の『ヤネウラ3ちゃん』です。新聞の4コマの。南部正太郎、いまだに好きなんですけどね。

――新聞に載ってる4コマですね。大阪新聞の。

――好きだった人多いですよね。野坂昭如さんは、あれを読むために駅まで買いに行っていたらしいです。

――で、その後小学校3年生なんですけど、お家の前が本屋さんなんですか。

ビッグ錠：そうですね。電車を挟んで向かい側にも商店があって、こっちも商店があって、向かいが本屋さんだったんですけど。まあ、うちのお袋はそこで本屋さんと結構仲が良かったんで、平気で立ち読みさせてもらってました。

――なるほど。

ビッグ錠：そういう時に、小学校2年生か3年生ぐらいだったと思うんですけど、そこのお兄ちゃんがこれ面白いと言って、小説の中、『姿三四郎』とか大人の小説の間からパッと取り出した本が、『新宝島』だったんですよ。これにはびっくりして、こんな世界があるのかと。それまで『のらくろ』とか、あれはみんな全身で横に動く、目線が横に動く、だったでしょ。それがもういきなりこんな車がバーッとアップに出たりとか、映画みたいな構図にも、子供ながらにびっくりしました。

――先生は本当に初期の、佃さんのお名前ですよね、佃竜二名義で、高校生ぐらいの時からデビューなさったということらしいんですが、やっぱり手塚治虫の影響は受けていらっしゃったんですか。

ビッグ錠：いや、もうべったり手塚治虫でしたよ。真似して。だから、トキワ荘で、バッジを作るので、何か手塚治虫のキャラクターを描いた時も、描けるかなと思ってたのですが、やっぱりヒゲオヤジ描けましたよ。

――なるほど。当時、大阪において貸本屋文化というのがありまして、やっぱりそれを貴重な体験をなさっていると思うんですけど、そもそも学生の段階で、貸本の漫画を描こうと思ったのは、どういうきっかけだったんでしょうか。

ビッグ錠：これはね、貸本屋に初めて入ったのが、中学校1年の時で、その中学校も焼け跡に建った新制の中学なんですよ。で、裏門たって鉄条網なんですよ。で、裏門出たところにね、新しい本屋さんができたんですよ。もうピカピカの。こんなところに本屋さんができるんだと思ったらね。で、その中学校で、ノートに漫画描いたりして見せ合ってた漫画好きなやつが、そこへ入った経験があるんだけど、おもろいから行こう行こうって行ったら、上はこうずらーっと大人の小説があって、この平積みにしてあるのは「平凡」とか「明星」とか大人の雑誌で、この真ん中の下が、ぜーんぶ日の丸文庫の赤い文字のけばけばしいタイトルがずらっと並んでいるのを見たら漫画なんですよね。その漫画が、うち、貧乏なんだけど、本は月刊誌は一冊だけ買ってくれてたんですよ。で、それまで月刊誌でしょ。『少年』とか『少年クラブ』とか『冒険王』とか、その類いは友達に、お前は『冒険王』買う、俺はこれ買うからって言って、後で回し読みするみたいなことをやったんですけども。

それで貸本屋に入った時に、その店に入ったら、みんな、パラフィン紙、ハトロン紙とも言ったかな、でカバーしてある。半透明のセロファンみたいな。

――そのカバーというのは汚れないように。

ビッグ錠：そうそう。一応消毒はしている。それで会員にならないといけない。会員になるときの証明書が、アイデンティティカードがないじゃないですか。それが米穀通帳。だから、あの自分まではまだ通用していたんですね。保険証なんかもなかった。唯一のIDカードが保険証（：正しくは米穀通帳）だった。だから医者に行くのも米穀通帳でした。それを出せば会員になれて、こういう漫画の本が5円ぐらいだったんじゃないかなと。そうですよね、中野さん。

――後ろを見るとね、10円になってるんですけど、1泊10円、延泊5円になってるんです。

ビッグ錠：それで借りれるもんだから。それでもう、こんなことできるんだと思って、それからもう貸本浸りになったんですけども、もうそのうち、それがあちこちにできるんですよ、貸本屋さんは。3、4軒あったんじゃないか、うちの町だけでも。

――じゃあ新刊書店より多い。新刊の書店ですよね。今のある本屋さんよりも方が多かった。

ビッグ錠：そうそう、それがね、当時新聞ダネになったんですけど、書店（：正しくは貸本屋）の方が多かったんですよ。主婦の副業に持ってこいの商売だったんですよ。普通の家を玄関改造してできるもんだから、棚が。だから主婦のやってるところっていうのが多かったんですよ。それまで貸本屋さんっていうのは戦前からもあったんですよ。僕の家の何軒か隣にもあったんですけど、それはね、古い本屋さんでね、本も古いし、保証金取られたんですよ。ところが米穀通帳だけで借りれるもんだからね、大流行りしてベンチャービジネスですよ。

――なるほど。当時として新しい。

ビッグ錠：それは大人になってから知ったことなんですけどね。それで結構、まぁ、3、4軒あったって、店もそれぞれ個性を出してたんですよ。だから、この本はあっちならあるな、とか。だいたい二、三軒回ってましたけどね、ちょっとたまり場みたいな雰囲気もありましたね。

――昔の子供がよく駄菓子屋で遊んでたって言うんですけど、それと同じような感じですか。社交場でもあったわけですね。

ビッグ錠：そうですよね。で、あとから知ったんですけど、そのシステムを考えたのが、なんか神戸の人なんだってね。スーパー・ダイエーといい、神戸ってなんかそういうのに長けてる人が多いのかなと思って。

――ネオ書房ですね。

ビッグ錠：ネオ書房。

――青地にペンキで赤字にネオ書房って書いてあるんですよね。

ビッグ錠：今から考えたらね、すごいもうチェーン展開してるっていう、すごいですよね。

――確かにベンチャービジネスっぽいですね、今の話を聞くと。

――作った人は洗濯屋さんなんですよ。

ビッグ錠：あ、そうですか。そういう人、それもそうだね。

――洗濯屋のチェーンの展開で合わせてやってて、よくこっち側で洗濯の受付やってて、こっち側で貸本貸してくれるとこあったり、近所に銭湯があって、ほぼワンセットなんですよ。

ビッグ錠：そうそうそうそう、確かね。それができたのは、中学校1年に入った時にできたんですけど、小学校4、5年の時にね、近所にやっぱりね、貸本屋さんができたんですよ。それはね、そこの家の元食堂かな、広いところにね、そこへだーっと漫画の本だけ集めて、1時間いくらじゃないけど、入ったらそこで見れるという貸本スタイルのが一軒あったんだけど、それがね、すぐなくなったんですよ。だからあんまり商売にはならなかった。それで、今度のNHKの大河ドラマを見たら、吉原にも貸本屋が入ってた。考えたら同じぐらいだった。あんなね、キリボン（：？）（黄表紙のことか？）とか何とか、あれは漫画みたいなもんだから。だから、全盛期はね、あれですよ。東京も大阪もそうだけど、金の卵たちが。集団就職。集団就職できた連中が、だいたい、当時またそんな寮とかに風呂ないから、銭湯へ行くじゃないですか。銭湯の向かいにだいたい貸本屋があって、そこへ行って帰った。

――なるほど、じゃあ銭湯帰りに借りて。

ビッグ錠：そう、銭湯で借りて、帰って読んだ。それがライフスタイルだったの。なんか、ファンレター読んでたらね、当時大阪なんか、繊維産業が盛んだったから、なんか、今日は天気がいいので、洗濯して気持ちいい、とか、なんか、少女漫画のファンがそういうのを書いてるのを見ると、俺なんか、こんな好きなことやっていていいのかなと思ってた。一生懸命働いて、家族に仕送りしてる同じ年代の奴がいるのに、と思ったもんですよ。

――なるほど。まあ、そういう環境でお育ちになって、高校2年で『爆弾くん』って漫画を描かれて、漫画家としてデビューなさるんですよね。

ビッグ錠：考えられない。それでね、高校へ、中学3年間、一緒に3人ぐらい、（：漫画の好きな）仲間がいまして。まあ、仲間ったって、好きな絵描いて、見せあう程度のあれだったんだけども、一人、高校1年の時に、夏休みの時だったかな、その漫画仲間の友達が訪ねてきて、「これ見てくれや」って言って、持ってきたのが、その日の丸文庫の本だったんです。それ見たら、作者がそいつの名前になってるんですよ。それでびっくりしてね、「そんな、大阪でこんなことできるって考えられへん」。それまでも、漫画少年のファンでしたから、そういう出版社はみんな東京にあるもんだって。だからそいつが、「いや、あるんだ」って言ってね。それでそいつが、「お前も描けよ」みたいなこと言われて、「じゃあ描こうか」みたいなことで、でもなかなか描けなかったんです。2年生の夏休み、いっぱいかかって描いたのが。手塚治虫オンリーで描いてたのに、いざ描くとなったら全然違う。柔道もののばくだんくん。それがね、貸本屋に行くとね、手塚治虫の新刊も含めて、借りるのは勉強用なんですよ。で、娯楽に、もう一冊ね、自分の楽しみに借りるのがあるんですよ。それが日の丸文庫が多かったんですよ。辰巳ヨシヒロとか松本正彦なんかを、気楽に読む。

――手塚先生のは、逆に言うと勉強用。

ビッグ錠：勉強用ですよ。『ロボット三等兵』とかが結構好きだったんですよ。

――スポーツものにしようと思われたのは、きっかけは。いわゆる柔道ものですよね、これ。

ビッグ錠：それは中学校の時に、警察で柔道を習っていたんですよ。それで『イガグリくん』のファンになってしまった。福井英一という人が、手塚治虫とは違う絵のうまさがあるんですよね。日本的というか、それが好きでね。それがあって、もう一つ柔道もので田中正雄の『ダルマくん』というのがあったんですよ。この人の絵も好きだったんです。どちらにしようかなと思っている時に、当時は映画も柔道ものが流行っていたんです。菅原謙次とかね。で、うちの家の裏の大阪工業大学、そこの高校ちゅうのが柔道強かったんですよ。ラグビーで有名なんだけど、柔道の道場なんかにしょっちゅう見に行っていたものだから。あの時分って柔道ブームみたいなのがあったんじゃないかなぁ。で、結局そちらの方を描くことになっちゃった。だからデビューはそうだったけど、２、３作目はもうモロ手塚調の絵で探偵ものみたいなのを描きましたけどね。

――ちょっと、佃竜二時代の作品の絵柄を見ると、もう毎回変わっているというか。

ビッグ錠：毎回変わるんですよ。

――これがすごいなと思ったんですけど、これはやっぱりその時の流行りというか。

ビッグ錠：そうですね。もう好きになったら真似してしまうという。

――真似してこんなにすぐ絵柄が変わるってすごいなって。

ビッグ錠：影響されてしまうんです。

――松坂さん（：松坂邦義）からこういう風にしなさいとかいうのがあったんですか。

ビッグ錠：松坂さんは（：関係）ないですよ、全然。ただ好みが結構一緒だから、もうSF好きだったし、松坂さんは手塚先生と結構親しかったみたいだから、そんな話も聞いたんで。

――発注があって、こんなものを書いてほしいみたいな発注は特になくて、じゃあ先生がご自分で考えて。

ビッグ錠：だけど、さいとうさん（：さいとう・たかを）とかタツミさん（：辰巳ヨシヒロ）の日の丸文庫というのはアクションもの。で、この研文社とかわかば書房というのは少女漫画と時代ものが売り物なんです。

――確かに時代ものも書いてますね。

ビッグ錠：僕なんかは特別扱いしてくれたんでしょうね。探偵ものなんか書いたりしましたから。

――割とその辺は自由だったんですか。

ビッグ錠：そうですね。楳図さん（：楳図かずお）とかね、佐藤まさあきとか。それも結構、僕もわかば書房でやってましたけどね。

――交流はどういう形で。

ビッグ錠：交流はなかったですね。だから、向こうの人がね、こちらのわかばで描きたいって言って来て、短編なんか書いたり、そういうのはあったんですけど、個人的な交流というのは全然なかったですね。だから、ありかわ（：ありかわ栄一）なんかも、彼はもともとアニメーターだったんですよ。その大阪にあるスタジオがね、チーフをやってた木下連三さんというのは、アニメの世界では有名な人なんですよ。外国の賞を取ったり。その影響も彼はあったんじゃないかな。だから、よく勉強していた、だから当時から結構非常にシャープなところがありまして、感覚が。それはアニメーターの連中の影響があったんじゃないかと思うんですけどね。

――この頃ありかわ栄一さん、後の園田さん（：園田光慶）になっていかれる方なんですけど、あと川崎のぼるさんともこの辺りでお出会いしましたか。

ビッグ錠：そうそうそう、わかば書房で。僕を誘ってくれた奴が、日の丸もわかば書房も両方やっている奴で、それでありかわが日の丸文庫でやろうと思っていたんだけど、こちらに引っ張ってきたんですよ。彼もこちらの方が水が合うもので、わかば書房で。そういうふうに一緒にやるようになったんですけどね。

――版元ごとのカラーの違いというのは？

ビッグ錠：全然違いますね。だからやっぱり日の丸文庫は劇画の、何て言うか、辰巳さんが言う少年から青年までのこの年代の層を狙った感覚があったですし、社長がもうモロ大阪商人みたいな人だからさ、それだけ現実的だから。だから、あんな短編集にしたんだって、あそこが最初ですからね。

――それまでは読み切り、一冊読み切りだったんですよね。

ビッグ錠：そう、みんな単行本だったんです。単行本一冊描くったら、僕らみたいな素人には大変ですよ、一年がかりで。でも24ページぐらいなら書けるわけですよ。それを集めたんですよ。そういうアイデアだったと思うんですね。それであちこちでやりだすようになった。

――あ、じゃあパイオニアだったんですね。

ビッグ錠：そうですね。でも結局それは、もうテレビが普及したために貸本屋さんがどんどんダメになっていく。そういう中に対する抵抗みたいなところはありましたね。

――なるほど。テレビの普及でやっぱり貸本の時間がそちらに取られてしまって、貸本が傾いた場合なんですかね。

ビッグ錠：だって僕、初めて我が家へテレビが来たっていうのはずいぶん後だったですからね。もうそれまで大体、力道山とかあの辺を見ていたのは、東京は東芝が街頭テレビを公園とかどこかに提供していたけど、大阪はないから食堂とかで。

――そっか、大阪は街頭テレビってあんまりなかったわけですね。

ビッグ錠：なかったです。だから、あんまり仲良くないお金持ちの息子でも仲良くしていた。

――お金持ちの家で見ていた？

ビッグ錠：そうそうそうそう。だって、そういうところに行ったら、じいちゃんばあちゃんと家族全員で見ているとか、後ろの方から見せてもらうというさ。そういうのを経て、だから、その自分はあれだったんだけど、今の引退した天皇陛下、美智子さん、ミッチーブームの時にテレビが普及してしまうんですよね。大体の家庭に。で、そこからが、貸本屋がなくなっていくのが始まるんですよ。

――なるほど。それとシンクロしてる。

ビッグ錠：そうそうそう。映画界がダメになっていくのもその辺からですよね。

――逆に「少年サンデー」と「少年マガジン」も同時期で、それも競合ともあったんですね。

ビッグ錠：あれが昭和34年でしょ、サンデー・マガジンは確か。

――59年ですから。昭和34年か。

ビッグ錠：昭和34年か。だって僕も学校をサボって一日中見たいと思って、一日中テレビを見ているからね。ほら、だってラジオで育っているからさ、美空ひばりだのなんだの、本人が出てくるのが見れるしさ。

――やっぱりラジオで聞いていた人がテレビで顔が見えるって、結構それだけでインパクトが。

ビッグ錠：そう、本人が見れるっていう。それから、相撲中継、野球ね。みんな、もう行かなくてもタダで見れるわけでしょ。で、アメリカのテレビドラマが来るし、アニメもあるわけで、こんなのがあったら一日中見ていられる。漫画なんか見ている暇ないよなと思って、かなり悲観的になりましたよ。

――悲観的になったということは、それだけ漫画がお好きだったということなんですね。

ビッグ錠：そうそう、まあそうだね。

――まだそんなに番組数が多くないですよね。

ビッグ錠：そうです。だから昼は3時頃で終わりましたよね、一回は。で、5時からその辺で始まって、11時ぐらいに終わるんですよ。

――ご成婚の時もテレビを見ましたけど、やっぱり一番伸びたのは東京オリンピックの頃ですね。

ビッグ錠：そうです。東京オリンピックはカラーテレビなんですよ。あれでカラーテレビが普及したんですよ。

――「おはなはん」の最終回かなんかで、みんなでカラーテレビを見るシーンがあるんですよ。だけどその頃、うちはモノクロテレビだから。

ビッグ錠：モノクロテレビがカラーに見えるフィルターみたいなのがあったでしょ。そういうのがあったでしょ。カラーに見えるというね。なんか、ガラス板みたいな水が入ってるだけなんですよ。それがレンズみたいな効果で、なんかキラッと光の現象（：屈折？）みたいなのがあると思ってた。詐欺みたいな商品だよ。

――うちの親父も買ってきましたよ。

ビッグ錠：でしょ。結構売れたんだもん。

――子供がカラーテレビ欲しいってうるさいもん。「今日買うてきた」って。テレビにポッとつけて、「これでカラーになる。カラーに見えるやろ」。情けない。貧乏人はそんなもんなんですよ。

――そんな環境で漫画を描かれていて、さっきの川崎さんとかありかわさんとか、まあ友人というか、増えていったわけですよね。みんなで一緒にもうちょっと大きくなろうぜみたいな話とか、なさってたんでしょうか。大阪で、みんなでもっとメジャーになろうみたいな話はなさってたんですか。

ビッグ錠：別にそういう感じではない。でも、遊んでましたよ。行ったらだいたいもう、出版社がミナミの繁華街の近くにあるもんだから、帰りはお茶して、なんだかんだ食べて、映画の話とか、いろいろそんなのがありました。キャンプに行ったことがあったな。蚊帳を持ってね、テントがないからな。

――日の丸は、まあさいとうさんがいたり、辰巳さんがいたり。それで一応集団を作るじゃないですか。すぐ終わるけど、だけど言ってみれば上昇志向になって、それに比べると次の世代というか、川崎さんにしろ、川崎さんかなり若いですね。

ビッグ錠：そうですね。まだ10代ですから。

――川崎さんにしろ、漫画を趣味として選んでいる感じがする。さいとうさんはもう完全に商売で考えているじゃないですか。だから観点が人とまるで違う。

ビッグ錠：そうですね。

――その辺の違いみたいなのはあったんですか。感じられた。

ビッグ錠：いや、でも僕だって趣味みたいなものだったんですよ。うん。でも言えるのは、川崎のぼるは中学出て1年間ぐらいどっか勤めたのかな。それからさいとうさんのところでちょっと手伝って、もうそれもすぐ辞めて、そのわかば書房で描き出したんですけども。それでもそうだよな、食っていけるような。

――でも川崎さんは月刊誌、つまりメジャーな東京の出版社の月刊誌に連載を始めるの、彼は早かった。

ビッグ錠：そうですよね。彼は早かったですよね。

――川崎さんがご自分で売り込みに行ったのか、それとも発注ですかね。

ビッグ錠：いや、そうじゃなくて、さっきお話ししたわかば書房の編集、松坂っていう人が知り合いだったのかな。なんで知り合いだったのかわからないけど、集英社（：株式会社集英社）の少女漫画をやってたんだけど、時々本屋巡りに大阪へ来るんですよ。その時に貸本漫画の連中をスカウトしてたんですよ。

――やっぱりそういう方がいらっしゃった。

ビッグ錠：そうそうそう。その人に引き抜かれたというか、目をつけられて、一応僕らもテストされたんだけど、いやー、あいつにはかなわないなと思って。

――楳図さんもそれで少女ブックで描いてますよね。少女ブックで引っ張られて、一時期少女ブックで描いてます。

ビッグ錠：ああ、そうですよね。

――だから、月刊誌の編集者で貸本を見てる人も結構いて。目ぼしいところをそこから。

ビッグ錠：ああ、そうですよね。

――うまいよね。後でひばりの話が出てくると思いますけど、ひばり（：書房）のユキモリさん（：？）という方が来てたでしょ。あの方はずいぶん連れて行っちゃったんです。だから、山田（：秀三）社長にインタビューした時に、ちょっとユキモリさんの名前出したらすごい怒りだし、その名前は聞きたくないって。

――まだ根に持ってる。

――次々と連れて帰っちゃったんです。それだけ逆に東京の出版社は需要があったというか。

――貸本の3倍出すんです。

――原稿料が違うんだ。東京はね。

ビッグ錠：僕はその経験はあんまりないんだけど。だから、大阪でもみんな出版社が、原稿料がでなくなって、特に日の丸文庫の方は、辰巳さんとかみんな、さいとうさんも東京の方に行ったけども、白井さん（：白井豊）も東京に行ったんですけどね。それでも、あとで南波健二に聞いたら、東京はまだ貸本漫画が全盛だったって言ってたでしょ。それは原因がね、やっぱり白土三平だったんですけど、東京ももう落ち目になってたんだけど、あれがバーッと売れたもんだから、大阪よりはもったんですよ。

――60年前後に、あの『忍者武芸帳』が。

ビッグ錠：あれがいきなり、貸本で6冊か何かぐらい、バーッと出たもんだから。それでまあもう。ひばり書房もそれでもったんじゃないか。

――今これ拝見すると、奥付がむちゃくちゃしっかりしてるんですよ。日の丸とかってこうちゃんとね。

――日の丸は奥付はあるんだけど、もっとむちゃくちゃな気がする。

――だからなんかやっぱり社風が違うっていう。これ、漫画家の名前が並んで、扉、目次、カットが佃竜二で、編集、松坂邦義、誰某、全部書いてあるんですよ。そんなの僕、貸本では見たことがなくて。

――松坂さんの影響だと思う。すごくしっかりした。東京でも活躍されてますね。

ビッグ錠：松坂さんっていうのは、結構編集好きというか、編集が好きなんですよ。だからエラリー・クイーンとか、あの辺に影響されたり、いろいろ。で、僕らが、僕と川崎のぼるがもう、たむろしてたアパートがあったんですよ。そこでもうカット描かされたり、それでちょっと小遣いぐらいもらってやってた時があったんで、そういうのの影響もあると思うんですよ。当時、我々は結構、そういうのは若いから憧れてた部分があるもんで、いわゆるグラフィックデザインの基礎みたいなもの。小さいカットを入れるとか、なんとかそういうレイアウトのセンスとか、その辺は結構日の丸とは違ってきたところがあると思うんですよね。

――カットのお仕事も結構あったんですね。

ビッグ錠：そうです。だから、もう合宿みたいな。川崎くんの西宮のアパートを合宿所みたいにして、食うものがなくなったらカットをみんなで描いて（笑）。そしたら松原さんが、後でぼやいてるんです。もうカットだらけで、引き出しにいっぱいあった。使い切れなくて。それとか、ああいう小さい出版社だから、当時の定番の付録なんかに付いてた歌本ってあるんですよ。歌の歌詞だけが入ってる分厚い本があるんです。それに絵を入れるのを、もう一晩中みんなで担当して、「演歌なら俺に任せとけ」って、「シャンソンは俺だ」とか言ってね。そういうのが楽しくてしょうがなかった。そこである種のセンスみたいなのが磨かれていったところはあるんじゃないかな。だから、いろんな画材も、紙もペンもいろんなペンを使ったり、そんな遊びみたいなことはしょっちゅうやってましたね。

――とはいえ、だいたい1950年代ぐらいで、その貸本は絶対やられてたと思うんですけど、60年代以降は、やっぱり貸本ブーム自体が下火になっていくわけですよね。テレビの普及とか。

ビッグ錠：はいはいはい。

――で、その後は、先生はどうなされてたんですか。

ビッグ錠：僕はね、最後、東京で、いわゆるひばり書房のを描きながら、さっき言ったように、漫画はもうダメになるだろうと思って。それでも食っていかなきゃならないから、考えておかなきゃいけない、というので、川崎のぼると、自転車で。あちこちで話している話なんですけど、大阪まで帰った。ヘミングウェイ追悼のために、亡くなった年だったので、その時に箱根で別れ別れになるんですよ。結局、一人ひとりで帰ることになる。今なら携帯があるから、すぐ巡り会えるんだけどね。箱根の手前のところに、こう、だーっと下がって、車で行ったら分かるところがあるんですよ。で、この向こうのてっぺん、芦ノ湖はそこを下りなきゃならないんですけど、一号線をまっすぐ行くんですね。で、あいつが途中でバテてきたし、一服していて、「もうすぐそこ芦ノ湖に行って、じゃあ俺先に行って、芦ノ湖で待ってるな」って言って、芦ノ湖でいくら待っても2時間ぐらい来ないんですよ。まあ結果的に彼はすぐ追いかけて行ったんだけども、そこをまっすぐ行っちゃったんですよね。それで大阪に着いた時にはもう1日ぐらいの差があったんですけど、大笑いしたんですよ。

――川崎先生の方が先についたんですか。どちらが先についたんですか。

ビッグ錠：いや、向こうの方が先についたんです。

――あ、そっか。まっすぐ行っちゃった。

ビッグ錠：彼は途中でどっかで、田舎のおじさんの、百姓のおじさんに拾われて、車に乗って、そしたらその家まで連れて行かれて、農業を手伝わされたとか言ってた。

――あ、そもそもごめんなさい。ちょっと前段を飛ばしちゃった。川崎のぼる先生と一時期、東京で共同生活をしていましたが、先に川崎先生が行っていらっしゃって、後から行っていらっしゃったんですか。

ビッグ錠：そうそう。それで半年ぐらい、はじめは駒込にいて、その時は有川が近くに住んでいて、もうしょっちゅう（：遊びに来ていて）。またこういう連中が集まると仕事にならないんですよ。そこの家主がちょっとうるさくて、ワイワイやってるもんだから。もう居づらくなって、引っ越して江古田へ行ったんです。江古田へ行ってすぐに、もう夏のシーズンだったんですけど、大阪へ自転車で帰って。その別れたために、もう別れたのがちょうど富士川の。別れたというか、箱根で待っても来ないけども、まだ寝てんじゃないかな、というのと、先に行ってるんじゃないか、どっちもがあるもんだからね。急いで追いかけようか、待とうか。それでどんどん差がついていくんですよ。決心がついたらもう追っかけんのは諦めようって決心というのは富士川だったんですけどね。そっから名古屋まで1日行って、恐らく名古屋から大阪まで1日で帰ってくるんですよ。でも一昼夜それは走りっぱなしだから。朝早くから家に着いたのは夜中の2時から3時頃だったから、走りっぱなしだから行けたんだけども。

――車も少ないですしね。

ビッグ錠：そうそうそう。その間はね、もうずーっと自転車を漕ぎながら、昼も暑いから夜走るのが多いからね。月と自分との対話の連続ですよ。いろんなことを考え出してね。それでも、ちょうどね。僕は一応高校が大阪のデザイン科を出てるんですよ。当時まだデザイン科なんてなかったんですけど、そこでデザインのことをちょっと学んでたもんで、漫画を描きながらもそういうのは気になってたんですよ。ちょうど雑誌がね、それまで週刊朝日とかサンデー毎日、新聞社系だけだったのが、週刊新潮って出版社系の方が出た時に、週刊現代、平凡パンチとか出版社系の方が出てきたのと同時に、当時「ビジュアル」っていう言葉が出てきてね、「ビジュアル化」っていう言葉が。グラビアが増えたり、広告なんかも。それがちょうどオリンピックの前の日本の、宣伝と広告の世界をものすごく進歩させるわけですよ。もうオリンピックのポスターなんてね、素晴らしいのができて。ああいうのはね、東京オリンピックなかったら、ああいうことはできなかったんじゃないかなと思うんですが、あのピクトグラムなんて、いまだに使ってるじゃないですかね。万博もそうなんだけど。その時に、それまで雑誌の小説の挿絵を、「絵だれだれ」、「挿絵だれだれ」って書いてあるのが、「イラストレーション」っていう言葉を使い出したんだね。

――名前が変わったんですね。

ビッグ錠：そうそうそう。で、まあ、漫画もそうなんですけど、僕らもちろん漫画の勉強してるけど、まあそのために仲間が集まっているのは、そのことがあったんですけども、他のものもいろいろ見てるわけですよ。ゴッホ展に行ったり。その時に、僕の場合は大塚清六っていうね、挿絵、アンネの女の人の横顔かな、あれもかっこいいんだけど、大藪春彦の挿絵をやってたのがかっこいい。それまでの日本の挿絵画家と違うタッチで、コンテで描いた。それがね、さすがやっぱりね、有川も目を付けてるし、それで意見があったもんだから、早速彼は真似して描いてくるわけですよ、そういうのを。そういうことがね、ものすごい影響された部分がありますよね。それは川崎のぼるも一緒で、だから、もう映画のポスターを描いてみたりね。で、当時、モダンジャズがそろそろ全盛になってきたら、ジャケットを描いたりしたのも。彼はハリー・ベラフォンテの大ファンでさ、日本に来た時に、ちょうど彼の原稿料が入った時に「行こう」ってことになってね、行ったんですよ、川崎のぼると。毎日ホールへ。こちとらはそんなコンサートなんて行ったことないからさ、切符が予約で売れ切れるってことは経験ないから行ったら、1時間遅れで、1時間早かったら手に入ったって。結局見れなかったんですよ。

――あ、そうなんですか。

ビッグ錠：いまだに会ったら言うんですけど、そのあと何回も来たからね、見に行きましたけどね。まあそういうことが。大阪のね、今は中座になってるのがね、松竹座って、日比谷にもとあった映画館みたいな立派な昔からあった映画館の看板がね、看板の映画館。まああれは、絵描きさんが描いてるんだろうね、いつもいい看板を描くんですよ。そういうのを真似したりとか、そういうことがやっぱりあったんですよね。

――大阪に帰られてからあれなんですね、一回ちょっと漫画を中断してデザイン事務所に行って。

ビッグ錠：とりあえずね。漫画を描きながらも、まず平凡パンチが出てくるでしょう。

――1964年でしたから。

ビッグ錠：昭和で言ったら。

――39年。昭和39年。東京オリンピックの年。

ビッグ錠：東京オリンピックと平凡パンチが同じ。そうですか。

――しかもガロも一緒です。

ビッグ錠：ああ、そうか。大橋歩っていうのは、パステル画で。平凡パンチがまた、そういう若いイラストレーターを養成して使い出してね。長沢節グループみたいなのがあって、まあ夏目さんはその辺はよくご存じだと思うんですけども、そういう雑誌もいろんなのが出ましたからね、創刊号が。だいたい2、3号で終わる。

――だけどまあ、そういう多様化の時代がもうある。

ビッグ錠：だから「話の特集」ってあの辺はよく載ったけど、それから「ヒッチコックマガジン」の小林康彦さん、あのイラストなんかかっこいいから、結構そっちの方に釣られて、そういうことをやりたいなと思って大阪に行って（：デザインの仕事をやっていた磯田和一の紹介で）。こいつも後ほど絵本作家になる     。デザイン事務所に入ったんだけど、そこはデザインの仕事なんかやってなくて、テレビのテロップばっかりの仕事をしてたとこだったんです。時々営業のやつがデザイン系のを持ってきたのをやらされたりしたんですけど、でもそれで大阪中のテレビ局に回るのが結構面白かったのを覚えてますけどね。

――テロップって手描きで書くんですか？

ビッグ錠：そう、当時ね。今みたいに写植でコンピューターで入れられない。みんな黒いこれぐらいの紙に、広告の文字は全部そこに書くんですよ。それが商売になったんですよ。

――そうですか。

ビッグ錠：そんなんで、貸本漫画、ストーリー漫画を描きながらも、高校生の頃から一方で文芸春秋漫画読本っていうのをやたら読んでたもんでね。あれで外国のカートゥーン系の作家をいろいろ紹介してたので、結構そういう本を丸善で買ったりなんかしてみたもんです。それが結局広告業界につながっていくんですけど、最終的に。それで、友達のテロップ書いてる会社にいた時に、たまたま梅田の地下道を歩いてたら、前から同級生が来てね。「おい、久しぶりだ」って、「お前何してんねん」って。「いや、もう漫画ダメだから、もうちょっとじっくり考えて」って。でも、大阪でみんな「イラストなんて商売にならない」みたいなこと言ってる時に、ちょうど東京オリンピック寸前で、そいつは化粧品会社で勤めてたんだけど、電通（：株式会社電通。なお、ビッグ錠氏がアルバイトをしていたのは電通西日本）でグラフィックデザイナーが足らなかったんですよ。アルバイトをそいつがやってて、「お前もちょっと手伝いに来いよ」って。デザイナーのことは全然してないのに、いきなり電通に行って、電通の名刺持ってデザイナーとして営業に行くんだけども、いきなりパンフレット制作とか任されて、どうしようかなと思って。

――営業に行くってことは、先生が営業を回ったってことですか？

ビッグ錠：いや、電通の営業マンに付いて、デザイナーとして行くわけですよ、電通の名刺持って。これ結構面白くて、俺、三和銀行担当だったんだけども、もう頭のいい人ばっかりじゃないですか。だからプレゼンテーションって電通はもう、下請けじゃなくて、すごい立派なプレゼンテーションの材料を持って行ってみるんだけどね、なかなか通らないんですよ。それで僕の仲のいい営業の人、部長がね、「佃はお前、これね、もう通らなかったら、その場で破いてこい」って。「分かりました」って言って。喋ってるうちに、通っちゃったんですよ。こっちはアルバイトだから、好きなこと言えるもんだからね。こんな東大や京大で頭のいい人が理論的に反対するけど、絵のことも知らないし、デザインのこともわかってない。こっちはプロなんだから、俺のこと絶対正しいから。「じゃあこれが絶対いいです」って言ったら、スーッと通っちゃったんですよ。そういうことで、結構やってたんですけども、何年かやってるうちに飽きて。それで、かといってもサラリーマンの仕事だから、定時には帰れるんですよ。それが結構、もう、漫画描いてる時はそんな時間なかったですからね。徹夜徹夜でやって、してたんだけど、その定時に終わるっていうのが嬉しくて。それでもうその間に映画を見まくったんですよ。二流三流の三本立てぐらいでやってますから、だから当時の日本映画も洋画も名画はだいたい見てます。

――要するに名画座みたいなところですね。

ビッグ錠：名画座みたいなところです。東京だとね、日活名画座なんかありましたけど。

――大毎地下（：聞き取りづらい。大毎地下劇場のこと？）とかですか。

ビッグ錠：そうそう。だから東京へ来た時も、新宿名画座の有名な和田誠のポスターを、「あ、本物だ」と思って壁に貼ったのを見ましたけど。だから、もう亡くなったけど、和田誠さんが何年か前に漫画協会賞を取った時に来た時に、その話をしようと思ったんだけど、知らん間に亡くなったんですけども。日宣美（：日本宣伝美術会）というね。日宣美ってこれがもうデザイナーとイラストレーターの登竜門。僕も出したけど、通らなかった。でもそういうのを見て、そうしたら日宣美行くと、漫画少年に応募してた、あれ名前忘れたけどね、やつが通ってるんですよ。やっぱりそっち。まあ黒田征太郎さんなんかもそうだよね。会うと、「いや、僕漫画少年出してたよ」って言ったからさ。

――じゃあ皆さん本当に漫画少年で頑張る。

ビッグ錠：そうそう。

――でもあれですよね、お話聞いてると、なんて言うんだろうな、あの、苦労話じゃないっていうのがある。

ビッグ錠：あんまり苦労に思ってない。

――思ってないですね。しかも器用ですよね。いろんな絵柄をできちゃう。

ビッグ錠：そうですね。

――それはなぜなんですか。

ビッグ錠：やっぱり好きなんですよね。

――好きになった絵があると、そこに寄せる。

ビッグ錠：そうそう。なんかね、だから、別にそっくりに描こう、似せようと言うんじゃなくて、その好きな人の、なんかセンスが好きなんですよね。

――漫画読本では、外国のものだと何を覚えていらっしゃいます？

ビッグ錠：フランソワ（：アンドレ・フランソワ）とかね。フランソワっていうのは、絵本の中にも書いてあるんだけども、その前にサヴィニャック（：レイモン・サヴィニャック）っていう、フランスのポスターの、この人のはほとんど一コマ漫画なんですよ、その絵が。豚の胴体半分切って切れ目を見せてたハムの有名なポスターで、有名な。で、こういうことがあるんだっていうことで。だから今に、日本でもこういうのが出てくるんじゃないかなと。それでそっちの方へ行く勉強をしたもん、それがあるんですよ。どんどん、世の中はなんかマスコミもビジュアルビジュアル言ってきてるしね。

――サントリー（：サントリー株式会社。現・サントリーホールディングス）とか資生堂（：株式会社資生堂。デザイン部は現・株式会社資生堂クリエイティブ）がデザインとか、そっちの方面で、特にテレビで出てくる。アンクルトリスのキャラクターとそのデザインが一体化したみたいな感じでした。

――まあ高度成長期でもあるし、そこで今で言うカートゥーンとか一コマ漫画とか、あるいはナンセンスなもので、あまり背景を描き込まなくてもよいような。僕は佃竜二っていう名前を、ビッグコミックで描かれていたカートゥーンで知っていて、好きだったんですよ。まさかそれがパチンコ漫画の作家だとは思ってなくて、全然違いますよね。

ビッグ錠：そうなんですよ。だからサブやんをやった時に、ちょうどサブやんがヒットしたものだから、そういう読者のハガキが来ましたよ。裏切ったみたいな感じで。

――でも分かった人がいるんですよね。

ビッグ錠：いる、いる、いる。でも、赤塚不二夫さんがギャグの雑誌を出したじゃないですか。

――「まんがNo.1」ですね。

ビッグ錠：あれでパロディのページがあってね。あれ多分、長谷さん（：長谷邦夫）が書いた。あれを自分なりに見て笑ってたけど、毎週漫画の評論が出るんですよ。それで、ビッグ錠って書いて、下に「佃竜二の真似をするな」って書いてあって、思わず笑っちゃった。これもパロディだと思って。なるほどね。

――それは誰が書いたんですか。

ビッグ錠：たぶん長谷さんあたりじゃない？赤塚さんのブレーンみたいな人が。

――長谷さんは、たぶん分かって書いてますね。

――なるほど。長谷さんは、日本のストーリー漫画系のパロディ、政治とか風刺ではなくて、ストーリー漫画のキャラクターを使ったパロディの元祖みたいな人。僕らはそれにすごく影響を受けました。

ビッグ錠：でも、カートゥーン系の方は、いまだにやってます。だからカマキリさん（：？？）なんかと、グループ展みたいなことを。

――カマキリさんは確か、（：平凡）パンチですよね。パンチのイラスト塾みたいなところで優勝して、それでプロになった方。

――パンチの仕事が一番多いです。

ビッグ錠：多いですね。僕もパンチでやってたから。

――でも電通の仕事もたくさんされてた。話を聞いてると、■■（：声が重なって聞き取れない）経歴ですね。

――だから、普通の漫画家じゃないですよね。

――昔はそれが普通です。

――ストーリー漫画とはちょっと違いますね。

――まだ漫画集団系というか、絵画コンプレックスのかなり強い、いわゆる後に大人漫画と呼ばれるものと両方できたわけじゃないですか。

ビッグ錠：そうですね。

――そういう人も珍しいんじゃないですか。

ビッグ錠：でも、まあ両方好きなんですけどね。アメリカの漫画家でセリフだけでやってるジュールズ・ファイファーっているんですよ。彼が若い頃スーパーマンみたいなコミックを書いてたっていうのを、どこかで読んでね、やっぱりそうなんだと思って。やっぱり一コマでストーリーを見せる魅力っていうのが、ストーリー漫画と違う魅力があるものだからね。

――実を言うと、僕自身は、プロになる遥か前に、10代の頃に両方やってるんですよ。

ビッグ錠：そうですよね、「パロディーギャング」でやられてたんでしょ。

――だから、たぶんそういう二重性みたいなのがずっとあったんです。そうです。自分であまり矛盾は感じなかったんですよ。

ビッグ錠：だから、どこかにやっぱり、例えば『釘師サブやん』だって、天下の大日本雄弁会、講談社（：株式会社講談社）ですよ。あんな固いところで、しかも少年誌でギャンブルものって。

――あれは衝撃でしたよ。パチンコですからね。

ビッグ錠：そうそう。こんなので持つのかって思ったんだけども、これは話が飛ぶんですけど、もう一本漫画をやろうって出てきたんじゃなくって、そういう今言ってた広告の世界を東京オリンピックまでやって、一応もう広告のことは全部だいたい理解したし、しかもあの時代は、一本一本漫画と広告の理論っていうのが一番出た時期で。

――マクルーハン（マーシャル・マクルーハン）とかいろんなメディア論があったような。

ビッグ錠：もうこれはこれでいいやと思ってね。で、その時に僕ら、電通でアルバイトしてる仲間とデザイン、電通の下請けのデザイン事務所みたいなのを作ったんですよ。その時に憧れたのが、フォルクスワーゲンの広告をやってたアメリカのドイル・デーン・バーンバック、DDBだったんですよ。ここの広告が、もろ一コマ漫画みたいな、キャッチフレーズが笑わせるね。ワーゲンに人をいっぱい詰め込んで、コマーシャルだし、何人も出てくるっていう、ああいうのもできればなと思うところが、どこかにあったんですよね。でも結局、そういうのを日本の、しかももう泥臭い商売をやってるところじゃ、これは無理だろうな。中小企業の社長相手にそんな説得はできないだろうなと思って。それで、ちょうどパンチが出て、集英社から「プレイボーイ」が出て、いわゆる青年誌が出てき始めたんですよ。ひょっとしたらこっちの方で、僕のやりたいことができるんじゃないか。それから「COM」ができたでしょ。それから「ガロ」ももちろんそうだし、今までと違う、少年誌から出てきた漫画家じゃない人たちが出てきたんで、これはちょっとまた面白くなってきたなと思って。それも含めてもう一度出てこようと思って、一人でデザイン事務所を構えてうまくいきかけてた時に、今行っとかないとダメだと思って。

――いや、でもそこの思い切りの良さってすごいですね。

ビッグ錠：それが、ちょうど浅間山荘とか、東大紛争とか、三島由紀夫割腹事件の真っ最中だったの。いろんなことが重なってね、もうこのチャンス、これで子供ができたりしたら、もう絶対出ていかないだろうと思うし、行くなら今だと思って。もう結婚もしてたんですよ。

――もう結婚してたんですか。

ビッグ錠：そうです。女房が来ないと言ったら、もう別れるしかしょうがないなと思って、そしたら行く、一緒に行くと言い出したから、また慌ててね、どうしようかって。それで必死になって、ビッグコミックの仕事を探したんです。当時まだ青年誌が余裕があってね、前の二色かカラーぐらいを、そういうのに使ってくれてたんです、ヤンコミ（：ヤングコミック）とか、そういうのでパロディーができたんですよ。

――風刺漫画みたいですね。

ビッグ錠：でも、だんだんそういうのがなくなってきて、できなくなってきたというね。

――若い頃の先生というか師匠にあたるのが、しとうきねおという漫画家だったんですよ。

ビッグ錠：ああ、そうなんですか。しとうきねお。

――水野良太郎、それからビリー片岡と言ってました片岡義男、それからもう一人ミステリーの翻訳家がいて、これでパロディーギャングという集団を作っていたやつの、僕それのデッチで、大学生で手伝ったりしてたんで、結局だから後にパロディー漫画を描くのもそれなんですよね。

ビッグ錠：ですよね。でもあれはすごいメンバーだった。

――後々考えるとすごかった。当時だから旅館で缶詰になってやったりするんですよ。そうすると片岡さんは本当に無口な方で、別室で考えて「できた」って持ってくる。他はワイワイワイワイやってる。雰囲気が近い感じがしますね。

ビッグ錠：なるほどね。

――そういう小さな集団がゴロゴロゴロゴロ動いて、トキワ荘もひょっとしたら近いことだったかもしれないけど。そうですね。トキワ荘の場合は割といいところのお坊ちゃんが多くて、いざとなれば帰りゃあいいので、あんまり苦労という感じじゃないですよね。好きなことやってる。似たようなタイプではないかなと。川崎さんはそれにしてはちょっと真面目ですよね。

ビッグ錠：真面目ですよ。

――友達とあんまり遊んじゃうと漫画を描けないから、編集者に言われたので、一生懸命描く。あの方も早く結婚されて。二人で一生懸命描いていた話をされていて、真面目だなと思って。

ビッグ錠：でも彼は、ちょうど自転車で大阪へ帰ったその後だったかな、結核にかかるんですよ。それがね、自転車で大阪へ帰って、僕はそのまま大阪に行って、彼は東京へ戻って、そこへ他の仲間が、手伝う仲間がいるから、もうその方が安心になる。僕はもうこっちで、もう一回ちょっと一からデザインの方へ行こうと思ってやってた時に、その話をしに東京へ行って、帰る時には、あ、俺も大阪帰るわって言ってた。一緒に乗って大阪へ帰ってきて、大阪へ着いたとこで、喀血しちゃったんですよ。

――駅で？

ビッグ錠：百貨店のトイレに入って。うん、トイレに入って出て。なんかむせってたんだろうな。そこで、洗面所にバーっと、ちょっとびっくりしましたよ。

――じゃあ、それで入院なさったりしたんですね。

ビッグ錠：それで、もうすぐ家まで着いて行って、病院行って、あくる日来たら、いや、実は入院しなきゃならない。まあ、結局、軽くて、若かったから済んだんですけどね。

――でも、そのすぐ後にあれですね、巨人の星を描かれる川崎さんですよね、今の話。

――川崎さん。川崎のぼるさんが血を吐いたんですよね。で、その後に巨人の星ですか。ちょっと。

ビッグ錠：ああ、もっと後です。もっと後。それはあの、巨人の星じゃなくて、集英社のその副編集長に引っ張られて東京へ来て、その編集長がね、非常に厳しいというか、大事にして、苦労人なのでね。まあ、いろんな漫画家知ってるから、漫画家なんてろくなもんじゃないと。もうすぐね、東京へ来たら、もうそういう仲間になって、もう崩れていくのが多くなっちゃうんで、ともかく今は付き合うなと、みたいなことを言われたらしいです。それで、中野さんっていう、副編集長。それで、少年ジャンプの前身の少年ブックをずっとやってたんですよ。その中で、SFみたいなのがあって。やってたんですよ。それで、もうそこからもう、いろんな注文が来るようになって、集英社で何かやって、巨人の星が講談社から話が来た時にその話したら、もういい、やれってあれが出たらしいんですよ。もう、要するに、集英社に義理立てすることはないと、ジャンプに。その時にちょうど巨人の星の話が来たんですよ。その時、大阪に帰ってきてね、今、ちょうど梶原一騎ってこういう人が書くもんって原作で、それまで原作者なんていなかったから、まあ、いてもね、ゴーストライターではやってたんだろうけど、堂々とそういうのがなかったから、いや、それがすごい人で、ものすごく本人も張り切ってましたね、その時は。

――なんか、梶原さんの原稿はすごい刺激されたと仰ってましたはい。どんどん湧いてくる。面白い原稿なんですね。

――文字だけで面白い。

――あのね、鉛筆の芯がすごい長くてね、それでガーッと書いてあるんですけど、完全小説なんですよ。だから読んでると面白い、ワクワクしてる。で、川崎さんそれが好きだったみたいですね。

ビッグ錠：ということは小池一夫とは全然対照的ですね。

――そうですね。小池さんは映画のシナリオ…。

ビッグ錠：スクリーントーンまで指定するちゅう話、評判では聞いてるけど。

――なかなか進まないですね、前に。

――いやいや、大丈夫ですよ。ゆっくりお話を伺えます。

ビッグ錠：でもね、この本読んでてさ、中野さんのね、その戦前（：世代）ちゅうか、僕らの上の世代のあれと、僕らが東京に出てきて漫画書いてるときに、ちょうどオリンピックで、僕が大阪でデザインやってる時の、世界に行ってる時に、プガジャが出たんですよ。

――何ですか。

――「プレイガイドジャーナル」。

ビッグ錠：いしいひさいちが出てきてね、これすごいなと思ってね。

――そう思われました。

ビッグ錠：うん、プガジャに出てた時に、こんな奴、大阪にいたんか。「タブチ君」か。

――いや「バイト君」じゃない？

ビッグ錠：最初は「バイト君」か。当時似たように、おっと思ったのはね、あれですよ、東京では、東海林さだお。週刊漫画で日本文学全集っちゅう。あのパロディもね、すごいじゃないですか。

――大好きです。

ビッグ錠：あれはあれでね、僕らみたいなアメリカの、外国のパロディ、真似してるんじゃない。日本の本当にパロディだなと思って。

――あの人確かロシア文学科ですよね。

ビッグ錠：だから文章が上手いんだ。

――上手いです、上手い。

ビッグ錠：夏目さんは何科なんですか？

――僕は史学科です。

ビッグ錠：いや、また渋いじゃないですか。

――そうなんです。

ビッグ錠：そうですか。だからあの、そこでね、それ（：プガジャを指している）のおかげでね、大阪にいない時の東京オリンピック以後、こっちに来たもんだから、大阪で花咲いた、あのミニコミの世界、面白い。

――そうですよね。

ビッグ錠：東京ではない、大阪でこういう連中がいたんだと思って。

――この間亡くなった村上知彦さんがね、

ビッグ錠：ああ、そうですよね。

――やっぱり新幹線で東京と大阪が近くなってしまったので、大阪独自文化がなくなってしまったんですよ。ですから私の計画としては、新幹線を破壊してですね。

――新幹線大爆破って映画、今度リメイクされます。

――東京と大阪を遠くして、大阪を■■（：声が重なって聞き取れない）にしようというのが私の計画。

――リニアとかでしたか？リニアでした。

――いや、リニアは多分うまくいかない予定だった。

――予定、予定だろうな。

ビッグ錠：でもね、昔、鶴瓶の師匠鶴光（：鶴光は鶴瓶の兄弟子。鶴瓶の師匠は笑福亭松鶴）さんか、あの人がテレビに出た時に、休みの時に言ったけど、それでも20年くらい前、もっと前だな。その当時、鶴光さんがね、大阪の落語家で箱根を超えたのはワシだけや、ワシと三枝だけやって。確かに箱根を越えるというのは大変なことなのですが、同じ落語家でも大阪落語の巨匠としては仁鶴さんが大阪にデーンといるわけです。これは越えられないわけです。この両方があるというのは面白いなと思います。

――米朝師匠がいる。

ビッグ錠：米朝さんは両方で。

――両方で、しかも国宝ですからね。

――米朝さんは特殊ですよね。

――あの人の落語は説教を聞いているみたいですね。

――説教ではなくて、あの人は神学をやっているので、神主さんの学校で大東学園。大東文化大学の大東学園で。大東学園でお勉強されているので。神職。姫路の大きな神社の跡取りだったんですよ。それが正岡容に騙されてですね。私が大好きな正岡容先生が米朝をたぶらかすわけですよ。

――何かって言うとね、芸術意識があるよね。僕は仁鶴の方が好きだった。

――松鶴、松鶴ファンっぽいから。私は素人名人会っていう番組に出た時に、米朝師匠から仁鶴師匠の「青菜」を勉強してそこでやったんですけど、終わってから米朝師匠が、あんたな、これ誰ので勉強しはった？ああ、仁鶴。仁鶴も真似してもあきまへんで。

ビッグ錠：あれ、びっくりしたけど、宮武外骨って大阪なのね。

――一時逃げてったんですよ。

ビッグ錠：そうなの？大阪の人じゃないの。大阪を歩いててパッと見たら、ここが宮武外骨か何かした発祥の地っていうのがあったからね。え、そうなんだと思って。

――東京で風刺をやりすぎて東京にいられなくなってしまって逃げて。大阪だったらいくらでもできるだろうと思ったら、大阪って政治家がほとんどいないんですよ。商売人をパロディしてたので困ったみたいな。

ビッグ錠：でもね、地下鉄のドアのところに“指詰めに注意”というのは長いこともってたけどな。なんだかんだ言われながら、やっと変えたけどね。

――あれでも本来はドアのここの巻き込みのところに指を詰めないで、指詰めに注意って書いてあったんですよ。だけど大阪の人たちはこんなこと言ってもいいよいいよって。

ビッグ錠：ヤクザが言うのかなと思うんだよね。

――それは面白い。でも描くなら、ここをこうってね。

――結構ね、面白いのありますよね。

ビッグ錠：だから何て言うのか、これを見てて、古いのがあって、その真ん中に僕がいて、それ以後の村上智彦さんだっけ、あの人が描いてるのが面白いなと思う。僕は知らなかったから、その世界を。ブカジャのその後は。

――ブカジャも大変だったんですよね。

ビッグ錠：でもあれで、大阪の河内なんとか劇団とか、ああいう連中が東京に来て、成功したわけね。

――最後の方、本当にもう借金の塊みたいになって。印刷会社に借金の方に買われちゃったようなものなんですよね。

――リクルートなんかの走りみたいなもんだよ。

――だからもう一個先にできてたものがあったらしいんですよ。その後に今度大阪でプレイガイドジャーナルの前身になるものができて、プレイガイドジャーナルが何ヶ月か東京の方が早かったらしいです。でも「ぴあ」よりは絶対早いんだけど。東京の人にはシティロードの方が老舗であると言うんだけど。

――記憶では「ぴあ」の後ですけどね。

――なんかシティロードの人が威張ってる。仲俣さん（：仲俣暁生）とかみんなシティロードの人じゃないですか、大正大学の。シティロードの方が老舗ってよく言う。なんでだろう。

――なんかちょっとこう、シティロードの方がスタイルとしては古いですよ。「ぴあ」は完全に情報だけだから。

――また東京に戻られて、あれですかね、風刺漫画のところをやられて、また東京に戻ろうという感じですね。

ビッグ錠：それでね、結局来て、僕もパロディやったり、カートゥーン系のいろんなところやってたんですけど、結局、食えなくなっていっちゃった。

――そうですか。あんまり仕事がなくなって。

ビッグ錠：だって、ページ数ないんだもん、そんなの。カートゥーン系はね、ページがない。ページがないからね。もう貯金通帳あと2000円しかないみたいな。もう帰ろうかなと思った時に、画報社（：少年画報社）の、画報社ヤンコミでもパロディやってて、それも結構評判良かったんですよ。
で、その編集長、桑村さん（：桑村誠次郎）だったかな、編集長は、「ビッグさん、貸本漫画描いてたのなら、ストーリー漫画描けるでしょう」って言うからさ、描けって言われて、「描けますけど」、「じゃあ描いてよ」って言ってね、大藪春彦の原作を渡されたんですよ。で、まあ、ストーリー漫画だとページ数がね、30ページから何かあるから、もう生活が。でも大藪春彦も好きだし、それとやっぱり映画好きだったからね、やっぱりその部分もあるんですよ、ストーリー漫画の魅力っていうのは。あの、ゴダール（：ジャン＝リュック・ゴダール）とかああいうのが出てきてね、いろんな。だから、宮谷一彦とかがさ、そういうことを実験的なことをやりだしてるとさ、ストーリー漫画の方を描きたいなっていうのが出てくるんで、それで引き受けたんですよ。で、そうやってるところに、牛次郎という原作者がマガジンで何回かやってたんだけど上手くいかなくて、それで、編集長がパーティーで紹介された時に、その編集長からその牛さんのパチンコ、釘師サブやんのが来て、その時に、改めて僕は東京に出てきて、もう一度ストーリー漫画を描こうと思った時にね、だいたい少年誌はね、学園もの、スポコンものしかない、ギャグは別としてね、受け付けなかった。暗黙の中、それはあったんですよ。学園ものも、スポコンものも、水島さん（：水島新司）は敵わないし、川崎のぼるにも敵わないし、ちばさん（：ちばてつや）も学園ものじゃ敵わない。しかもね、ブランクが5年ぐらいあったのか、5、6年あったんですよ。漫画描いてない。で、5、6年あって、もう30近い、28か9になってたけど、川崎は「竜やん、30近こうなってデビューして成功してるの水木さん（：水木しげる）しかおらんでえ」って言ってたわけでさ。いや、でもそういうことじゃなくて、その、なんていうの、僕はスポンサーだけを相手にしてる仕事にもう飽きちゃってね。やっぱり貸本屋の経験があるもんだから、ファンレターが来て、それで感動したりという、あれ、直接のあの、あれが忘れられないということで、また、やりだしたんだけど、だからパロディを描いているときに原稿料が少ないけど、この1枚で20人ぐらいの人の目に入って、心を打つ何かができないかなと、そのことばっかり考えているわけですよ。

――ちなみに、ちょっと興味あるところですけど、このカートゥーンの1枚というか1作、これいくらぐらいの原稿料なんですか。

ビッグ錠：いくらぐらいだったんだろうなぁ。今はもう年で忘れちゃったけど。

――結構まちまちですか？　だいたい相場があるんですか。

ビッグ錠：まあまあ、新人のストーリー漫画の1ページ分と一緒なんだよ。なるほど、じゃあやっぱり原稿を1ページ…ページ数でしか勘定できないんだよ。だから、そりゃあ向こうのニューヨーカーとかあんなところにじゃ（：一枚）何十万の原稿料になるとかいうことが日本じゃ絶対無理だもんね。

――それは確かに。経済的には大変ですね。

ビッグ錠：これはもうね、カートゥーンは生活をちゃんとして、それでやっていかなきゃいけない。

――で『野獣死すべし』を描かれて、パーティーでお会いになったとおっしゃっていたんですけど、これはたまたま、ごめんなさい、マガジンの編集者が牛次郎さんの原作のアイデアがあって、漫画を描く人を探していたんですか。

ビッグ錠：そうそう、それで僕のことを思い出してくれた。まあね、そういうふうに思ったときに、僕が描くのは絶対他の連中が描いてないものをやろうと思ったんですよ。そこへパチンコが来たからね。これはもうパチンコは俺が子供の頃、商店街、前パチンコ屋だったし、知ってるし。ちょうど、僕も川崎も西部劇のファンだったからさ。西部劇のパターンは使えるなって言うので、対決ものに決めた。釘師とこれの勝負ものっていう構図で、それでいけるんじゃないかなと思って。だから最初はもうイマイチだったんだけど、そういうふうになりだしてから人気は（：出てきた）。そしたらなんかそれを見てた集英社の編集長と副編が、釘師が漫画になるなら料理もなるだろうって、どっかの料亭で相談してて出てきた話だし。

――それで包丁人…。

ビッグ錠：だから（：当時）職業漫画、職業をネタにした、職業そのものをネタにした漫画っていうのはなかったの。

――そうなんですよね。だから今日素晴らしいのは、先生はパチンコと料理という2つのパイオニアを持ってるっていうのはなかなかいらっしゃらない。

ビッグ錠：それでもね、パチンコでね。あの忙しい時、売れてる時に好きなものは絶対売れてる時しか描かせてくれないと思ってさ、その間に読み切りでいろんなものをやってるんですよ。ヘアスタイリストとか、ストリッパーとかね、漫才師もやった。いろんな、もう誰もやってないことをやった中で当たったのが料理とパチンコだったっていうだけで。

――それもすごいですね。

ビッグ錠：商社の話もやったしね。まあそういうのもね。車のセールスもやったし。だからそういうのは、それが僕は多分、電通にいた時に身につけた、あれが自信持って描けるからね、広告の仕事してたって。

――ご自分の体験がそのまま作品に活かせたと。直接には出ないけど、何かの形で。

――取材はされるんですか。例えば今まで描いたことのないセールスマンの話とか、取材とかはされるんですか。

ビッグ錠：しましたよ。自動車のセールスマンとかね、生命保険とか。それがさっき言った電通にいたときに、アンネの宣伝部長というのがね、すごいんだよね。アンネを売り出すための話が、秘密で女子トイレに入ったりとかね、そういうことをしてるんだよ。調べたりして。本を出したから堂々と言ってるんだよね。いや、すげえなと思ってさ。それを青年誌、そういうジャンルが出てきたときに、そういう話もできないものかなと思ってね。

――まあ商売というかビジネスの裏側のことですね。

ビッグ錠：そう、仕事っていうものの楽しさとかさ。

――やっぱアイデアですね。

――青年誌って、多様性を求めますね。だから、少年誌、少女誌は、何かヒットすると全部それをやれっていうラインで、ずっとそれまでやってきたけど、あの時代に、まさにその、青年誌が出てくるのと同時に、少年誌、少女誌も、新しいジャンルに挑戦していくようになりますよね。で、それの走りをやられる。

ビッグ錠：もうそれしかないと思うんだからね。しかも、大阪育ちの大阪人の特色をね。

――子供の頃からパチンコを見てたとか。

ビッグ錠：そうそう。実質主義というかな。

――逆に私も本当に子供の頃「釘師サブやん」を読ませていただいて、あ、釘師ってそんな仕事あるの？みたいなね。まずそれが驚きだったし。

ビッグ錠：でも調べると面白くてね、毎朝パチンコ屋が開店する前に近くの喫茶店に集まってるんですよ。だいたいそういう喫茶店、決まってるからそういうところに行ってたらね、ちゃんと朝出勤してくるんだもんね、ミーティングに。それであの店がどうのこうのやってさ、昼飯時はちゃんとピースの箱置いて飯食いに行くしさ、規則正しい生活してるから、俺らより真面目な生活してるなと思ってさ。そういう感動が結構ありました。ラブホテルもやれんやったな。でも、まあ、とはいえね、ストリップものがあった時に、ちょうど一条さゆりとかね、あの辺が問題になっていった時に、大阪の温泉劇場って有名なところがあるんだけど、そこのね、ストリップの業界紙みたいなのを出してる編集長がそこに会いに行ったりとかね。

――で、取材をなさったわけです。

ビッグ錠：サーカスとかね。

――ちょっと、釘師サブやんの話に戻りますけど、牛次郎さんの原作が最初にあったということですが。それは、まあ、連載開始前だから、そんなに多くはなかったっていうことなんですかね、分量としては。アイデアだったっていうことになる感じなんですかね。

ビッグ錠：あの、牛次郎？

――はい。

ビッグ錠：いや、原作ですよ。一回ずつ。

――じゃあ、もうすでに書かれていたわけですね。

ビッグ錠：そうそう。企画の段階じゃなくて、実はこういうのができているんだということを、それを誰にしようかと思っていた時に、何か思い出したんですよ。パーティーの時にしゃべって、牛さんはもう江戸っ子だからさ、「釘師サブちゃん」になっているからね。これちょっと大阪はだいたい「～やん」つけるんだよって言ってさ、いや、そんなんは別にいいですよって言って、もう二人で話して、もうとりあえずキャッチボールで行こうって言ってさ、あの人ももう。こっちはちょっと遊びで、別の、こっちも仕組んでいるんですけどね、キャラクターを作ってちょっと登場させておくと、それを使って次もやってくれるから、だからいつもどうやってびっくりさせてやろうかみたいなことばっかり考えてたんです。

――でもいい感じですね。お互い競ってアイデアを出す。

――よく会って一緒に話されるんですか。

ビッグ錠：いや、でもね、彼は結構忙しいからね。もう売れだしたらもうね、テレビの方ばっかり行っちゃって、忙しくてなかなか受けてもらえなかったです。まあ電話ではしょっちゅうしてましたけど。電話なんですね。

――釘師サブやんの時は会ってお話を最初されましたか。

ビッグ錠：最初は時々会う、会うんですよ。

――だいたい会わないこと多いですけどね、意外と原作者というのは。

ビッグ錠：いやいや、一緒に、家族一緒にスキー行ったりとか。

――そうなんですね。パチンコという発想は、牛次郎さんからされた？

ビッグ錠：パチンコって、あの人はね、メーカーに勤めたことがあるんですよ。だからメカのことは、彼に任せといて、こっちは何するかって言うと、いかに釘師サブやんをね、見開きで、こんな大きいパチンコ玉がバーンと飛んでるって描いた時に、赤塚さんが感動してた（笑）。そういう、ビジュアルであのパチンコ玉をどういう風に画面上でね。そしたら、何年か経ってサブやんも終わったんだけど、もう10年以上経ってたんですよ。読者から手紙来てね。「小学校の時にパチンコがサブやん面白くて読んでてね。あんな面白いもの、早くやりたいと思ってね。成人して結婚してすぐ行ったら全然面白くなかった」って。そりゃそうだよって。

――漫画としてデフォルメして描いてるからですね。

――今の台が面白くなくなったんですよね。

――電動になっちゃって。

――いや、その前でしょ。

――サブやんの時代はこうだったから、これが面白いと思っている人は、大人になって行ってみると思ってたのと違うんでしょうね。

――あれ、何やってんだかわからない。

――まだ漫画で、こんなことをしてる時代は楽しかった。

ビッグ錠：昔の方がね、あれですよね。10発ぐらい溜めて打てる。全部打てたんだよね。

――ありました。

ビッグ錠：バラバラと割に確率よく入ってたと思うんですよね。

――東銀座のね、角にあったんですよ。それで、その裏に、通ってる歯医者があって、その歯医者のおやじがね、僕がまだ大学生になってたから大丈夫だったんですけど、初体験はそこのパチンコ屋に連れてかれて教えてもらったんですけど、なんか、なんだろう、だから大人になってやるものの一つだったんです。

――でも、子供の頃お祭りとかでやりませんでした？

――ああ、おもちゃのやつね。

――おもちゃのやつは何かありましたよね、確かに。

――あれもでも、かつてはお店にあったものを、お祭りに回してるんですよ。古いんですよ。そうなんですね。ちょっと緩いけど、緩いんですよ、釘が。

ビッグ錠：まあ、そんなんで、やっと青年誌で食っていけるようになった。

――「味平」は、でも、牛先生は特にコックの経験があるとかじゃないですよね。

ビッグ錠：いや、それも経験あるんですよ。味平という食堂をやってたんだよ。まあ、すぐ潰れたけどって言ってました。何でもやってた人なんです。

――白糸バラシができたのではなく、白糸バラシは練習したけどダメでしたね。

――子供の頃。

――だからお肉買ってきてあれはできないので、似たようなものを作って、あれと同じことができるかというのをやったけどダメでした。

ビッグ錠：だってまだ、味平始めた頃、まだ「男子厨房に入らず」の雰囲気がありましたよね。そうですね。だって料理学校が、大阪では土井さん（：土井勝料理学校）と辻さん（：辻調理師学校）、あそこしかなかったもんね。

――ちょっともう一回最初に戻りますけど、そうですね。味平の企画はそうやって、あっちがパチンコのいわゆる職業もので受けているから、こっちはじゃあコックの話をしようという、割とそんな話で決まったんですか。話はどうやって持ち込まれたんですか。

ビッグ錠：いや、味平の方は、それはジャンプの編集部の方から言ってきたんですよ。料理でやってくれと。

――指名で来たんですね。

ビッグ錠：パチンコ、釘師が話になるなら、料理もなるだろうと。向こうも（：思ったんでしょうね）。

ビッグ錠：とりあえずやってみますと言って。

――でも、数々の傑作の対決があるけれども、要するに料理は料理なんだけど、そこを漫画的な対決というか、割と突飛な料理とか、そういうふうにしたじゃないですか。料理なんだけど生きるか死ぬかみたいな。

――毒物を作るんじゃないかというくらい。

――その辺の突飛なアイデア、みんなで編集者と会議とかするんですか？それとも先生たちでやってるんですか。

ビッグ錠：いや、例えば。

――いや、ストーリーで、例えばブラックカレーとかそういうのをやるときですね。ラーメンに汗がぽとっと落ちて、塩加減を調節するとか。

ビッグ錠：あれはもう原作通りやったんですけどね。だから、牛さんの原作でも使えるところは使うんだけど、全然面白くないところも、他のことでこのまま聞き流したりとか、それを臨機応変に、作画の特権を生かしてやってますけどね。

――じゃあ臨機応変に。結構、絵の方でさじ加減を。

ビッグ錠：そうそうそう。だから最初の、鯛が骨で泳ぐやつ、あれも原作では半身だったんですよ。その半身で泳がせるっていう、牛さんの話だと、焼津のどっかのホテルで、実際にやってたらしいんですよ。でも、半身で泳いでるって、なんか絵にならねえし、汚ねえなあと思ってね。これ骨だけで面白いだろうなって、漫画的発想で。ともかく嘘をつくには、ちゃんと裏取りをしないといけないと思ったのね。図書館に行って調べたら、なんか魚の脳のところを残しておくと、まあ死後硬直みたいなもんでね。なんかの刺激でピッピッと動くだろうっていう、これだと思った。これさえありゃ、これだけのものをこれぐらいに描く、春画の技法を。

――一応調べるんですね。

ビッグ錠：調べる、でないとリアリティが出てこない。だからそのまま身にとって（：水に）入れたら泳ぐんじゃだめで。リアリティがないから、こうバーっと骨だけで沈んでいったところへ酒を一滴落としたらピピッと、そしたらちょっとリアリティが出るじゃないですか。その辺がこっちのフィールドだから。

――じゃあ、描いてても結構楽しい？

ビッグ錠：そういうのは結構ね、あの、映画とか広告の世界ではコマーシャルのフィルムの企画なんかのときのことが結構役に立ってるんじゃないかなと。

――なるほど。じゃあその電通時代も反映されたわけですね。

ビッグ錠：いかにビジュアルでびっくりさせるか、みたいな。

――確かアイスクリームの天ぷらを作る話もありましたけどね。あれで爆発して死んでしまうみたいな。でも今は普通にありますよね。いやだからあの頃はそういう風に信じてたんだけど、普通に食べられるんだって思って、死なないんだって思いました。

――そんなにおいしいかって言われたら、あれですよね。

――でも、あれは逆に『味平』に影響されて誰かが試したんじゃないかと勝手に想像しているので。

――確かに時代的には先ですよね。

――やっぱりその現実に影響を与えているんですね。やってみた人がいるんですね。

――そうしたら爆発しなかったってことですね。結構いけたって。いや、面白いですね。

――じゃあ、描きながらも結構楽しんで書いてたんですか。

ビッグ錠：だって、山田邦子が全盛の時には結構テレビに出されたんだけども、漫才師の雅（：トミーズ雅？）が必ずからかうんです。「爆竹で魚ばらして、あれは臭くて食べられへんやろ」って言って。寅さんじゃないけど、とりあえず、なんとか最後まで読ませようっていうのがありました。

――ちょっと、肝心なことを伺ってなかったんですけども、佃竜二さんって本名でやられてて、なぜビッグ錠さんになったんでしたっけ。

ビッグ錠：カートゥーン系をやってて、ヤンコミの桑村さんにストーリー漫画を書かないかって言われたときに、「ペンネームにしたらどう？」って言うからさ。僕もあんまりそういうのはこだわってなかったんだけど、それも面白いなと思ってね。いっぺんやってみようかと思ったら、結構良かったんですね、それに、ある意味で結構無責任になれる。どうしても本名で書いてると、どこか「あいつ見てたらどうかな」とかいう意識が働いてしまう。

――なるほど。じゃあ完全にちょっと一種別人になって書いてるってことですね。ビッグはどこから？

ビッグ錠：あのね、本当は僕『コンバット！』のファンでね、リトルジョンっていうのが出てくるんですよね。

――でかい。

ビッグ錠：で、ジョンっていうのは漢字にならないじゃないですか。ちょうど俺、日活映画の渡り鳥シリーズが好きだったから、あのエースのジョー、宍戸錠の錠。ジョンは錠でいけるけど、じゃあリトル錠でいこうって言ったら、編集長が「いや、リトルよりビッグの方がいいよ」って言って。さすが商売人。

――なるほど、宍戸錠とリトルジョンがくっついたと。

ビッグ錠：でも、よくファンなんかに聞かれたら、（：冗談で）「いや、うちには先祖伝来の大きい錠前があるんだよ」って言ったら信用されちゃって（笑）。

――その話、ちょっといい漫画家らしい感じですね。そういう由来があったんですね。でも、すごいインパクトのある名前で絶対覚えますもんね。

ビッグ錠：名前なんてつけたら、なんとかなるもんだなと思って。

――絵柄もあの時からガラッとまた変えてらっしゃいますよね。

ビッグ錠：『サブやん』から？ああ、そうかな。どんどん変わっていってますよ。顔なんかもうむちゃくちゃ変わるからね。もう1巻目と6巻目で全然違う顔になったりするからさ。

――あんまりその意識はないですね。

ビッグ錠：ないですよ。川崎のぼるなんかそっくりずーっと同じ顔を描けるのは不思議でしょ。やっぱり感情移入して変わっていくんですけどね。

――読者からすると、我々からすると川崎さんでもかなり変わっている。プロレスじゃない、レスリングの『アニマル1』とか、あの頃の絵ってものすごいシャープで、だから齋藤さんの下だったのよくわかる。シャープなんですよ。かっこいい、クールな感じだったんです。

――『田舎っぺ大将』。

――それが『田舎っぺ大将』だとまるで違うじゃないですか。『巨人の星』も連載途中にどんどん変わっていくんです。筋肉がゴリゴリになっていくんですよ。

――あと陰も結構つけますよね。

――『新巨人の星』なんか背が伸びてる（：？）。

――それを川崎さんに話しても、本人は全然意識していない。

ビッグ錠：それは分かる。

――先生は『サブやん』の時は劇画っぽくしようとか、そういう風に考えたというわけではないんですか？劇画っぽい絵にしようとか。

ビッグ錠：全然意識はしていないですね。

――このキャラクターは自然にこんな感じかなって。

ビッグ錠：でも、なんとなく変わっていく部分はあるよ。

――大阪の舞台というのも決まってたんですか？

ビッグ錠：それはもう原作ができてたんで。ところが牛さんが大阪を舞台に、江戸っ子のくせに…。

ビッグ錠：ネームがね、変な大阪弁がいっぱい入ってるから、「こっちで直すからいい」っと了解を取って。

――東京の人の書く大阪弁って気持ち悪いですからね。

――大阪の人は必ずそう言うんだね。

――気持ち悪いったらありゃしないですからね。

――じゃあビッグ錠先生がこのネームの大阪弁は直して。じゃあネイティブなんですね。

――戎橋のシーンでしたっけ、頭のところの。戎橋でしたよね、出だしが。あれがものすごくリアルでですね、私たち大阪の人たちから見るとね。

ビッグ錠：グリコの？

――そう、だからもうそこで引き込まれるんです、私たちがね。心がこう。大阪だから何やってもいいってのもあるし。

――割と自由だってことですね。

――だから弾を入れるところから変なものを突っ込むような。大阪やからええわと思えば。

――なるほど。自由度が高い。

――自由度が高いですよ。

――その辺は何か貸本屋時代の経験とかとリンクしたりはしないですかね？あんまりそれも関係ないんですかね。

ビッグ錠：あんまり…。でもパチンコ、『サブやん』やってる時は、パチンコで稼げたなあ。一応、取材で行ってやるんだけど、やっぱり自分のこれは技術が通用するんですよ。必ず、今のコンピューターじゃないから、必ずあの通り天を狙って打ったら、だいたい確率が強く入るようになってるし。

――ちゃんとうまい人はちゃんとうまい。

ビッグ錠：だから釘師がね、見たらやっぱりそれできるんだけど。

――天釘のここに当てて落として、そこのところ、閉めてくるんですよ。

――開くところを。ここを押してくるから、ここをクッと締める。釘を締める。

――弾弾いちゃうからね。

――ここは緩いのを探す。

――みんなだから最初はパチンコ屋とか見て、その天の釘が開いてるかどうかってずっとみんな。

――でもそれみんな、『サブやん』を読んで勉強してきてるからね。

――でもね、当たらないね。

――敵もさる者でね、技をいっぱい使って。敵も多分だから、『サブやん』を読んで勉強して。

――あれを弾道計算してやる奴はいないと思う。

――今はコンピューターだから、あまり玉の出る勢いって全部同じなんですかね。

――確率だけですよ。面白くないですよ。ちょっと加減はあるけど。

ビッグ錠：やたらリーチがかかるからさ、あれにみんな釣られちゃう。

――読者の反響は子供から多かったんですか。

ビッグ錠：ああ、ありましたよ、結構それは。

――それは小中学生がサブやんのファンですって言ってコメントしたりする？

ビッグ錠：だけど、まあこれ、なんだ、片手に朝日ジャーナル、片手に少年マガジンっていう時代だから、学生が結構読んでたんじゃないかな。

――いや結構今でも、サブやんはともかく、料理の話はね記憶してて、同世代と盛り上がる時に使う。確率かなり高い。

ビッグ錠：そうですか。

――みんなブラックカレー作ってましたからね。私も作ろうと思いました。

ビッグ錠：いっぱいあるでしょ、ブラックカレー。そうですね、いろんな会社から。

――漫画の通りのレシピで作ろうとするのに、店で売ってるブラックカレーはいらないわけですよ。

――だってね、「巨人の星」の消える魔球を投げようとした奴もいるんですからね。わざわざ穴掘って煙が出る。出ないって。

――先生が少年漫画を描かれている時、アシスタントというか、プロダクション化にはなっていないんですか。どういうスタイルで、アシスタントさんとかはどのくらいですか。

ビッグ錠：いましたよ、5人くらい。でも役に立つのは2、3人。あと仕上げの時に予備に置いとかないとね。最後の仕上げの段階があると、もう人数作戦に行かないと。時間の問題だから。

――プロダクション化にはしなかった？ 会社化にはしなかったんですか。

ビッグ錠：プロダクションになってます。もう今は僕一人でやってます。

――やっぱりそのくらい、少年誌の週刊でやるにはそのくらいの体制がやっぱり必要ですよね。

ビッグ錠：そうですね。もう週刊誌なんて、もう一人じゃとても無理ですから。

――平行して2誌ということですか。相当な作業量ですよね。

ビッグ錠：2誌はでも僕は結構、結構怠け者だから、重なってたのはそんなになかったと思います。

――プロダクションを作るというのは、編集側がそうしてくれって言ったんですか？

ビッグ錠：いいや、もう僕の方で。とてもいないと体を壊しちゃうから。

――法人にして。それはその前の劇画の人たちがそうしていたからですか。

ビッグ錠：いや、どうしても締め切りに間に合わなくなるし、ベタまで塗ってたらとてもね。

――なんか、かなり描き込みが多いですもんね。

ビッグ錠：そうそうそう。パチンコ玉と料理はアシスタントに任せなかったんですよ。それはもう主役みたいな扱いだから。

――パチンコ玉も？

ビッグ錠：パチンコ玉も。あれはね、パチンコ玉を描くっていうのは、やっぱりデザインをやってきた時の経験が役に立ってるんですよ。そういう機械のメタルの質感を出す描き方の経験があるもんだからね。だから、これはもうパチンコ玉が主役だと思ってるんですよ。だから1ページでバーンと打ったところで始まって、24ページの終わりまで、終わりでトントンと落ちる回がありました。

――やっぱりそうか、そこがポイントなんですね。ただ描きゃいいってもんじゃないってことですね。

――技は先生が考えたんですか？

ビッグ錠：技は牛さんですけども、それをいかにリアリティを持たせるかっていうのが重要で。そのまま描いちゃうと、ものすごく嘘っぽくなる。

――技自体は原作ではつまり言葉で書いてある。

ビッグ錠：言葉で書いてある。

――それをビジュアルにするわけですからね。

ビッグ錠：だから2本の釘を打って入ったのがね、ストンと入るのか、一回釘が上がってチョンチョンチョンって、あれがなかなか入らない時があるんですよね。そういうのを入れたりとか、玉の演出をしなきゃいけない。

――あの時代に本当にそういう風に、例えば飛雄馬にしても一球投げてから向こうに着くまですごい時間がかかる。その間に解説が入ってますからね。そんな遅い球じゃないのに。そういう時代になりましたよね。

ビッグ錠：それが不思議じゃなかった。

――入団テストで早見に対して思わず魔送球を投げてしまうという話があったじゃないですか。2週かかってます。1週で送球する。

――だから結局、週刊の場合は特にそうだけど、引きという次に繋げる技術が、あの時代に発達するんですね。

――早見が靴の紐を入れる（：結ぶ？）と3週なんですよ。すごいですよね。それを凌駕したのが『アストロ球団』です。

――その前に『あしたのジョー』が、最後のホセ・メンドーサ戦を一巻丸ごと描いたんです。あれ当時、僕はもうすごい衝撃で。一試合一巻っていうのはね、本当にすごかったですね。

ビッグ錠：漫画の時間は別なんです。

――そうなんですよね。だからその感覚がありましたね。葉子も途中で逃げ出すっていうサイドストーリーがあるんですけど。

――大谷（：翔平？）の記者会見の漫画仕立て（：？）。

――いやでも今だったらもっと増えてるんじゃないですかね。1試合がね、何冊分かになって。

――大谷の記者会見を漫画にしたら4巻ぐらい。途中で誰も読まない（笑）。

――先生があの、ごめんなさい、大阪に帰らないで、今藤沢でしたっけ？ 藤沢にずっと、なんていうんですかね、お住まいを構えられた理由ってなんかあるんですか。

ビッグ錠：いや本当は、海の近くに住みたかったんですよ。それで初めは本鵠沼、海岸に近いところだったんですけども。まあちょっと離れた方が土地代が安かったかな。

――でも今でもやっぱり、大阪に時々は帰られてるっていう。

ビッグ錠：大阪？ 大阪、でもあの、コロナ以降はあまり。まあ兄弟もそれから知り合いも亡くなっていくもんだから。大阪はどんどん変わっていくし。でもやっぱり帰るとね、昔の大阪の感覚が戻る。

――貸本の話とかを今できる人もだんだん少なくなってしまって、今日はね本当に貴重な話を聞かせていただいているんですけど、まだもうちょっと大阪の話をもう一回聞いておきたいというのはありますか。

――社領系明さん、研文社に社領系明さんっておられました。あの方にインタビューした時に、若い人たちにもう大阪じゃダメだから東京へ出て行きなさいと言った。自分は出て行ってないんですけども。

ビッグ錠：そうなんです。

――ユキモリさんから聞いたのは、社領さんがずいぶん若い人たちの面倒を見てたって言うんですけど、そうでもないんですか？

ビッグ錠：そうでもない。僕らは全然そうではない。

――じゃあもうちょっと上の世代ですか？

ビッグ錠：僕らはそうですね、研文社でやった時は、社領さんとか吉田松美さんとか、大人の人たちばっかりだったから。川崎のぼるは中学出たところばっかりで、僕は高校生。酒も飲めないし、やっぱり僕らだけで、よく溜まってましたけどね。

――研文社とわかばの関係ってどうなんですか。

――研文社は、もともと研文社の社長さんがいたんですよね。それからどうなったのか分からないけど。

――その後、文洋社というのに名前を変えているんですけど、文という字と山水編の洋。

ビッグ錠：ああ、そう、文洋社。それは知らないね。

――入江先生がメインでいろいろ出していらっしゃる。ところが若葉というのができていて、松坂さんがいらっしゃるから、もともと研文社ですよね。どういう流れなのかなと。

ビッグ錠：その辺までは知らないな。三島さんという人が社長だったんで、研文社の。研文社の時は西村さんという人が社長で、もともと本の問屋さんだった。そこに三島さんは他から来たのかな。

――三島書房から来ています。純恵町の。

ビッグ錠：そうなんですか。三島さんと松坂さんが一緒になって、わかば書房にしたんですよ。飛び出して二人で。

――三島さんのお父さんがやってた三島書房というのが、不渡りを出した時に計画倒産されて、ナガオカさん（：？）が偉い目にあわれて。

ビッグ錠：ああ、ナガオカさん。

――面白いでしょ、大阪って。ナガオカさんというのは金龍（：金龍出版社）なんですよね。

ビッグ錠：金龍、金龍ですよね。

――そこが花村（：えい子）先生とか、いかに素晴らしいところであったかというのを、いつも言い続けてるんですけど、誰も言うこと聞いてない。

――結構女性漫画家の方も多いね、花村先生もそうですし。

――池田理代子先生も最初は大阪の貸本ですよ。

――そうか。やっぱりそういうニーズとして、女性向け漫画のニーズも結構あったんですかね。楳図さんもね、女性向けのを描かれていた。さっきおっしゃったけど、集団就職で出てきた人たちが、わりと読者層だったとか、あるいは学生が読んでたとか、どういう感じだったんですかね。

ビッグ錠：いや、どうなんだろうな。

――貸本漫画研究の本がありまして、それによると少女漫画を専門に担当してる人がいて、その人によれば貸本漫画全体の半分ぐらいは女性向けだったって書いてましたから。

ビッグ錠：そうかもわからないね。

――我々男だから、あんまり見てないんですけど。

――大阪はさっき先生が言ったみたいに、繊維の問屋さんが多くて、そこに女の子がたくさん就職してきてるので。で、みんな住み込みなんです。寮に住み込みになってて。大阪は南京虫がひどいところなんですけども、そこでみんな住み込みでやってて、お風呂は外に行かないといけないんですよ、銭湯にね。だから、そういうのであったというのが一つと、それと、前に函館の貸本屋の方が、バクさんが預かって、川崎に木を入れてもらったら水に浸かっちゃった事件（：ネットではこの事件の件を確認できませんでした）があったじゃないですか。あの本屋のあったところは、飲み屋街の外れなんですよ。だから、夜の仕事をしている女性方が、仕事の後でそこで借りて帰るという。

――女性読者は実際、かなりいたはずなんですよ。で、欧米でも、女性の漫画を読む人たちはかつていたんですよね。ところが、ファッション誌とか、そういうのが盛んになると、全部そっちに取られちゃう。

――他の娯楽に行ったような感じですね。

――で、大体壊滅していくんですよ。日本だけなんですよ、それがずっと続いて。これが、不思議と言えば不思議。

――少女漫画を描けって言われた時は、描きにくくはなかったんですか。

ビッグ錠：言っても、例えば、男の漫画はさ、アクションとか、そんなんでごまかせるけど、少女漫画っていうのは、ストーリーがないとダメなんです。物語っていうのを考えなきゃいけない。それの勉強になるところがあるし、僕なんか、少女漫画を描く時に、例えば当時、よく参考にしたのは石坂洋次郎とか。僕が好きだったのはO・ヘンリーの話とか、あれは少女漫画でないと描けないじゃないですか、そういう文学的なものを描くときは少女漫画で勉強できるから。そういうつもりで描いてましたからね。

――絵柄も本当に全然違う絵柄を描かれているし。

――絵はやっぱり少女漫画を描いている人の絵で学ぶんですか。絵は？例えばこういう少女漫画系の。絵は高橋さんとかの絵を真似てとか。

ビッグ錠：そう、なんとなくいろんなところを取って。

――高橋真琴さんとか。

――絵は高橋真琴さんとかね。

ビッグ錠：じゃあ、これを。もうちょっと少女雑誌より上のね、「少女の友」とかね、ちょっと上の。しかも、もう名前忘れてたけど、いろんなタイプの顔を描く女性の挿絵画家がいたんですよ。まあまあ、高橋真琴なんかはもう、基本的に中原淳一じゃないですか、昔にやっぱりあそこから取ってるわけだから。それとまた違う人のも盗みながら描きましたけどね。

――宝塚歌劇を見に行くことはなかったんですか？

ビッグ錠：僕はなかった。お袋は大正モガだから、ヅカファンでしたけどね。よく歌歌ってたけどね。しかも宝塚はね、よく行ってたんです。遊園地が有名な遊園地だったからね。

――でもご両親が、モボモガだってことは、一応都市の中産階級に。そもそもあの時代に、月刊誌買えたんですから。

ビッグ錠：家は借金だらけだったと思うけど、一応それはあった。しかも洋装店もね。

――洋装店だからね、多分スタイル画が家に転がってるわけですよ。

ビッグ錠：今だに覚えてます。あれ、なんだっけ、アメリカの有名な百貨店。毎年暮れになったら売り出す。メイシーズ。あれの通信販売のカタログって、こういう分厚いやつがあるんですよ。これね、進駐軍がジープに彼女を乗せてうちへ服の注文に来た時に多分持ってきたんだと思う。そこにそういう女性服の色んなのがあって、これがね、もう拳銃からおもちゃまで全部載ってんの。これは結構モノを描く時のサンプルになって、資料になって、アメリカってすげえなって、こんなおもちゃがあるんだみたいなのがさ、それがもう夢だったんですよね。

――今でもおしゃれなのは、やっぱりそういう下地があったんですか。

ビッグ錠：そうですね。やっぱりそういうところは色とか、興味があるのは、家に服地がいっぱいあったからです。

――なるほど。

――大阪の話はもう少しでいいでしょうか。

――言い出すとキリがない。

――大体、こちらでお話の用意を伺っております。

――始まる前に、大野清さんのお話をしちゃったので、私は満足しちゃったのです。大重鎮で大野清さんという方がいらしたのですが、その人の話をしてしまいました。

――その方はどのくらいのポジション？

――戦前からずっと大阪で漫画を描いていらして、鶴書房の前身だった田中ブンガンドウ（：田中元文社の間違い？）というところがあって。

ビッグ錠：あの絵はどこから来たのかなと思って、外国ぽいでしょ、映画。

――途中からすごい外国ぽいですよね。

ビッグ錠：ね、あの馬なんて。

――だからあれですよね、鉄仮面の出てくるマシュマロの、あれは本当に不思議な。多分ディズニーとか見てたんでしょうね。

ビッグ錠：ディズニー、ああいうのも。

――あの頃は皆さんすごく西洋的な絵ですよね。サカイ先生は特にそうだったけど。

――皆さんの絵が、本当におしゃれな絵が多いですよね。おしゃれな絵って別に雑な言い方ですけど。

――ですから、コウノヤユキコ（：？）さんの絵はすごいんですよ。

ビッグ錠：うん。これを、なんか、この花を撮ってる。うん。それに描いてないかな、あれは。この田中美智子っていう子が、これ。下手な絵なのに、読むたびに俺には少女漫画は描けないというリアリティがある。セリフといい、心を打つものがある。貧しい時代だったんでしょうけど。

――絵はやっぱり下手だったんですけど、でも必ず立派になる（：？）んですよ、この人の作品は。

――そういう問題じゃないんだよね。

ビッグ錠：そういう問題じゃないんだよな、読む方は。

――ひばり（：ひばり書房）とかつばめ（：つばめ出版）でも描いてらっしゃるし、貸本の少女漫画ではトップクラス。どっかの学校にまだ通ってるって書いてましたよね。まだ女学生だったりとか、この時代だったり。

――そうなんだ、面白いねこれ。構図とか。

――絵は本当に下手ですよね。構図もむちゃくちゃだし。松坂さんはすごく評価してたみたい。そういうセリフ回しとか、お話づくりは買って（：？）たんだと思う。

ビッグ錠：独特の雰囲気が。

――先生もそうですけど、本当にデビューが若いですよね、みなさん。

ビッグ錠：そうですね。

――10代で学生だったり。

――桑田二郎13歳ですよ。

――ええ、13歳。

――一番若いって言われてますけど。

――昔はそういうあんまり障壁が少なかった、障壁って言い方おかしいけど。

――敷居は低かったんだね、きっと。

――作品も募集ページがありますね。

――先生持っていかれたんですか、できたやつ。最初持っていかれたんですか、ケンブンシャには。こんなの描いた、使ってくださいみたいな、持ち込みみたいな感じ。

ビッグ錠：あれは、研文社は僕のここに書いているシロタケシというのがいるんですけど、彼が紹介してくれたんです。松坂さんがうちに来たんです。

――割と持ち込みでスタートする方が多かったんですね。

ビッグ錠：そうでしょうね。

――ありかわ栄一、もっとアニメーターっていうのはこの映画はなるほどねとしていますね。

――目は変だけどね。

――女の子の顔を描くのは難しいですよね。

――難しい、難しい。だいたい一種類の顔しか漫画家は描けないから。

――では、そろそろ終わりにします。すみません、今日はどうもありがとうございました。

ビッグ錠

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