――　インタビュアーの井上伸一郎です。

――　研究員の氷川竜介です。

――　本日は、2024年3月22日です。これから、辻真先氏のオーラル・ヒストリーを、辻氏のご自宅にて行います。本日はよろしくお願いいたします。

――　まずですね、大きなテーマとして「草創期のテレビからアニメへとつながる放送文化の連続性とその発展」という大きなテーマがございまして。そういうテーマで聞いていきたいと思います。まず先生が、テレビ、とくに初期のNHKに入られた、そのへんのきっかけから、お教えいただけますでしょうか？

辻　映像が好きだったんで、漫画もそうですけど。本来だったら映画をやりたかったんですが、僕は出身地が名古屋なもんですから、名古屋には映画の撮影所がありませんので。どうしようかな、ラジオドラマでもと思って勉強してたんです。
たまたま、僕が大学を出るときに、大阪と名古屋でテレビの放送が始まりました。昭和29年の4月です。テレビ自体は、東京で28年に始まっております。1年間は実験放送とか、そういった人のメンバーで、あるいは芝居や映画からのかき集めで、スタッフだったんですが。名古屋でも大阪でもやるということになると、もう、とても無理だから、NHKの自前の職員を入れようということになって。
最初、昭和26年に初めて、テレビ職員をNHKが募集したんですよね。募集というか、全体にNHK職員ということで、その中で希望するやつがいたらテレビへという、その程度だったんですが。名古屋のへんで2000人ほど応募者がいまして。その中でテレビやりたいって言ったのは、僕しかいなかったから。だって、誰も見てないんですもん。
それじゃあというんで、たまたま審査の、選考のNHKの人たちよりは、僕のほうがずっとテレビに詳しかったもんですから。シナリオなんかは、ずっと中学のころからやってたんで。戦力になるだろうというので、すぐ東京へ回されたと。名古屋にスタジオあると思ったら、そんなのないんですよ。大阪にできたときかな、だから大阪には和田勉さん（：演出家・映画監督・タレント）が行った年です。そういうわけで、きっかけもクソもないんで。1人分のポストしかなかったから、そこへスポンとはまったと、そういう感じでした。

――　タイミングも大変よかったということなんでしょうか？

辻　ええ、運がいいと、ずいぶんのちにカミさんなんかに言われました。1年あとでも、前でもダメでした。

――　ちょっと話は遡りますけど、中学のころからシナリオを研究してたということなんですけど。そもそも、そういうシナリオとか、映画とかっていうものに興味を持ったきっかけって、どういうことからでしょうか？

辻　シナリオ自体に、これはすごいもんだなと思ったのは、黒澤明の「雪」という、情報局総裁賞（：情報局国民映画脚本募集で情報局賞？）というのを黒澤明は、もちろん助監のころですが、もらって。それが■■の雑誌に出まして読んだんですね。なるほど、これはおもしろいもんだと。それまで、小説はずいぶん読みましたけど、シナリオを読んだのは最初なんで。その前後に、ずいぶんそういう黒澤の「静かなり」とか、「達磨寺のドイツ人」とか、そういったのはみんな、そのころ読みましたし。
同じように、やっぱりラジオドラマも、実験的なラジオドラマもずいぶん読みまして。「みんな見えなくなる峠」とか「指笛」とか、それ、いまでも覚えておりますけど、あれは勉強になりました。勉強が先なのか、好きになったのが先なのか、よくわかりません。

――　最初から、学生のころから、そっちの道に行こうと決めて、イメージをなさっていたわけですね。

辻　中学2年の夏に戦争が終わりまして。それまでどうせ空襲のたびに、きょう死ぬか、あす死ぬかでしたから。だから、中学3年ごろになって、ようやく落ち着いて。中学4年のときに、たしかシナリオの研究会が、伊丹万作さんとか、北川冬彦さんとか、飯島正さんとか、そういった方たちが「シナリオ10人会（シナリオ研究十人會）」というのをつくって。
それで、その下部組織として、若い人にシナリオを勉強してもらうために、それをたまたま雑誌のあれで見て、広告を見て、こっちは応募して入ったと。ですから中学、たぶん4年生だったと思いますね、最初は。

――　NHKだと、ちょっとご著書の『馬鹿みたいな話！』（：『馬鹿みたいな話! 昭和36年のミステリ』）で、当時の、こちらのご著書にも、小説形式で書かれておりますが。当時は、テレビドラマが生放送の時代で。それはもう、とにかくプロデューサーというか、ディレクターというか、シナリオライターとか全部こなして、辻先生もそういう時代にやってらっしゃったということでしょうか？

辻　1人で何でもやらなきゃ、しょうがないんですよね。本当にカッコよくも悪くも、「自分の前に道はない、自分のあとに道はある」という、そういう感じだったですから。わけわからずにとにかく、本当にわけわからずに、でも、おもしろかったです。

――　当時、印象的だったエピソードとかありますかしら？

辻　毎日一つや二つは、印象的な、だいたいしくじりのほうですけどね、ありましたけどね。まあ、僕の知る限り一番大きな、これはご本人のしくじりではないんですが。水の江瀧子さんという、のちに石原裕次郎とか浅丘ルリ子を育てたプロデューサーですが、日活（：日活株式会社）のね。その方、もともとは松竹少女歌劇団（：東京松竹楽劇部）にいたから、タレントとしても優秀だったんで、テレビ始まったときから、ずっと出てもらっていたんですが。
その方がドラマに出て、ごめんくださいっていうんで、障子を開けて座敷に入ったら、途端に鴨居が落ちてきたんですよね。もちろん、両方に柱を建てるわけじゃないんで、片っ方だけ柱を建てて。鴨居の、もう片一方というのは、上から綱で吊るしてあった。その綱がボロボロになっていまして。開けたら、障子を開けたら支えがなくなったんで、鴨居がドーンと落ちてきたわけですね。
そのときに、残したターキーさん（：水の江瀧子さんの愛称）のセリフというかアドリブが、「この家は建てつけが悪いわね」っていうんでね。あのときは皆さん、声は出せないけど、拍手喝采しました。残念ながら、そのころはテレビドラマなんか見てる人、1000人、2000人ぐらいしかいなかったですから、歴史には残っていませんが。僕の知る限りであれは、建てつけが悪くて鴨居が落ちたら家は崩壊しますけどね。

――　そういうアクシデントもね、毎日のように乗り越えてやっていたら、相当やっぱり鍛えられますよね。

辻　NHKは当時田村町、内幸町（：所在地は内幸町。都電の田村町一丁目停留所から近く、当時は「田村町」と呼ばれることも多かった）だったので、自分で何かつくらなきゃいけなかったんです。新橋の駅から下りてNHKまで少し距離があるんですが、その間に文房具屋とか、電気屋さんとか、ガラス屋さんとか、いろんなものが出ていまして。これを片っ端から仕事に使いました。ちょうど文房具のほうですと、マジックインキ（：1953年4月発売商品名）とか、ボールペン（：最初のボールペンは1884年アメリカで発明）とか、そういうものができたころなんですよね。次から次へと新しいものができまして、おもしろかったです。
ガラスのほうは、かなり皆さんやるものですから、こっちはガラス専門でやろうと思って。ガラスの見本みたいな、ガラスの問屋があるものですから、そこへ次から次へといろんなガラスが来るんですよ。波板ガラス（：ガラスの表面に波模様が入った波ガラス）って、ペコペコした。これの見本の細長い、小さなものです。これを買って来て、何かに使えるだろうと思って。それで、場面と場面の切り替わりのところですね。黒澤明が大好きで、ワイプってやってますね。「生きる」なんかで盛んに、黒澤のワイプはみんな縦に筋があって、ずっとこう行くだけなんですが。
こっちはそうじゃなくて、もう少し気分を出そうというので、AカメラからBカメラへオーバーラップするときに（：2つの映像を切替える際に、一方をフェードアウトするのと同時に他方をフェードインすることで画面を切り替える方法）、予めBカメラの前に、その硬いガラスを肘に乗っけて、前でこうやって待ってました。カメラのタリーランプが点くと、ゆっくり引くんですよね。その間にオーバーラップしてもらう。AからBへ、まるで波がざわめくように。ゆっくりと、これラブシーンへの導入にはとてもよかったです。
というような感じで、いろいろと自分で工夫しました。バカげた話ですが、ガラス問屋で鏡ができて、それがトリックになりました。マジックなんか出ますと、どこかで何かに使おうというようなことを考えましたから。そういう点では、おもしろかったですね。

――　逆にいまの話で新鮮だったのは、たとえば、マジックペンとかボールペンとか、いまは当たり前にあるものが、当時生まれてきたという、世に出てきた感じだったんですね。

辻　ええ。ボールペンで覚えているのは、菊田一夫さんがNHKでテレビミュージカル、最初にNHKのテレビでミュージカルとして芸術祭に参加した、それを菊田さんに書いてもらったんですが。そうしましたら、台本ができてこない。何のことはない、熱海である女性と菊田さんしけこんじゃって、NHKに来ないんですよ。ラジオドラマでは「鐘の鳴る丘」や、「君の名は」で有名ですけれども。テレビドラマは書いたことないから、知らなかったんだろうと思いますね。
できたのが放送当日の午前1時だったんですよ。これは参りました。セットもクソもないですよ。役者だけは決めていたんです。森繁さんと、越路吹雪さんと、それから三木のり平さんと、草笛光子さんと、この4人は決まってたんですよね。台本を待っても、待っても、できないんです。
森繁さんが局長と喧嘩して下りちゃったし、三木のり平さんと草笛光子さんはいつの間にかいなくなっているんですよ。これは困るんですよね。怒っていなくなったんだったら、すぐ代役を変えればいいので、探せばいいんだけれども。いつの間にやらいなくなっているので、代役を探そうか、探すまいか、わからないんですね。
東京放送管弦楽団（：NHKの放送用専属オーケストラ（放送管弦楽団））の人が24時間、舞台で待ったまま。ミュージカルですから、音楽がないとダメですから、その音楽は台本がないとどうしようもないんです。ですから、菊田一夫さんが1ページ原稿を書くと、その隣に責任者が張りついて、なんだかわからないけど、音楽を書くわけです。書いても今度、これをオーケストラ用に分けないといけないわけです。
だから、それを写譜という、譜面を写す作業が夜中にできないので。結局あのときは、たしか松竹大船（：松竹大船撮影所）にハイヤー飛ばして、万城目正（：作曲家）さんに頼んで、腕っこきの写譜屋さんを何人か連れて来たんですよね。台本がまずないんですよね。できあがっても印刷できないんです、コピーがない時代ですから。だからガリ版（：謄写版）でしょう。結局、放送が始まるときに、台本が間に合ったのがプロデューサーとディレクターの2冊だけなんですよ。
役者たちはわからない。でも、自分のセリフだけはとにかく、みんな教えてもらって、切り貼りして。これをセットの裏に、ベニヤ板ですから、ここでボールペンが使えるわけです。ボールペンで自分のセリフだけ、ベニヤ板の裏に、小道具やなんかに書くわけですね。
でも、いつ、どこへ、どう出るのかわからないから、フロアディレクター、そのとき井上（：井上博）さんという、のち「花の生涯」や「赤穂浪士」をやった人ですね。この人がポケットにチョークを入れていて、投げるわけです。当たった人が出るんです。いったい、これがどういうものになったのか、われわれやっている最中は知りませんでしょう。
僕はその前、音楽科にいたものだから、バレエが強いだろうということで、小牧バレエ団の進行役を頼まれていて。第一ソリスト（：舞踊手）の関直人さんに、振り付けを頼んでいたんですが、待っても来ない。今日放送なんだけど、どうするのよということでね。だから、とうとう最後に、「ごめん、関さん、すみませんけど、音楽ないけど、なんか振り付けて」って言ったら、「バカ野郎」って言われた。ずっと後に聞いたんですけど、覚えているそうです、関さん。そりゃそうだよな、でも、しょうがないんですもん。
これが一番、ボールペンもマジックも何でもかんでも、みんな活躍しましたけど。有島一郎さんが、森繁さんの代わりに出てもらって。それまでは、有ちゃんのなんとか侍（：『ありちゃんのおかっぱ侍』）みたいな、本当にまだ端役程度（：『ありちゃんのおかっぱ侍』では主役）だったんですけど、これでバッと出ましたね。越路さんだけ気の毒に、東宝のロケで厚木に行ってたんで、そういう大騒ぎ全然知らずにね。もう全部できあがって、リハーサルと思ってのこのこ来たら、とんでもないこれから。越路さん、大奮闘でした。

――　でも、いま聞いても、皆さん、演者の方がビッグネームばかりなので、それがすごい話だと思います。

辻　そういう話ばかりしていますと、キリがないですから。

――　それでは先生が、NHKから、いわゆるテレビアニメのシナリオライターとして専門というか、子ども番組のシナリオライターとして専門になっていくわけなんですけど。そのきっかけというか、どういう流れでそうなったか、教えていただけますでしょうか？

辻　そうですね。結局、大本は『ふしぎな少年』になるんですけれども。これを、『S-Fマガジン』に、ちょっと思い出を書いて、それで平井さんからお話があって。僕のほうはやっぱりSFという、僕の場合だと、空想科学冒険国際軍事小説っていうことになりますけど。それをいまはSFっていうんだっていうことがわかったんですけど。
とにかく、きのう、きょうではなくて、戦争前から好きなんだっていうことがわかって。それじゃ一度、われわれの集まりにも来なさいよというんで、それで連れて行かれたのが、小隅黎さん、大岡山だったかな。そのときにいろんな古い方たちにもお目にかかりまして。
そのあと、しばらくしましたら、平井さんが、僕が書いた芝居を見に来た、そのついでではなくて、それが本件だったらしいんですが。僕に、今度『エイトマン』を始めるので、漫画をいま『マガジン』（：『週刊少年マガジン』講談社）で連載してるけど、それがアニメになるんで、その脚本を書いてくれないという話だった。えって、ビックリしたんです。
その前に、『鉄腕アトム』も、もちろん知っておりましたし。『鉄腕アトム』の試写が日比谷の公会堂であると。ヤマハホールだとか、いろんなホールがない時代で、何でもかんでも日比谷公会堂だったんですよね。電報をもらって、電話もないから、電報をもらって、それで飛んで行って。だから『鉄腕アトム』の第1話は、テレビではなくて、ブラウン管ではなくて、スクリーンで見てるんですよね。
あのとき、とにかく、ずっと止まっていたアトムが、こう動くのかというのをね、あの感動、感懐、何だろうな。感懐というのは感動の「感」に、それから懐かしい。つまり、いま動いてるアトムを見るの初めてなんですよ。でも、アトムそのものはずっと前から見てるからね、懐かしくて感動するって。こうなるんだっていう、そういう感懐ですね。それを抱いたのを、ハッキリ覚えてます。
でも、それをまさか自分が書くように、脚本を書くようになるとは思わなかったというのが、あの時点で10年の雑誌歴があったわけですよ。当然、2年や3年はね、続くと思っていたら。そしたら、手塚先生のほうでは、みるみるうちにそれがなくなって、大変だったらしいんですが。
それより早く『エイトマン』となると、そもそもないんですよ。連載が始まったと思ったらもうアニメ化でしょう。ですから、あのとき、豊田有恒（とよたありつね）さんに最初声がかかって。それから僕のほうへということで。飛んで行って、そのときはまだ辻真先じゃなくて、ペンネーム、べつの名前で（：桂真佐喜？）。NHKのドラマのときに使った名前でやっておりましたけれども。
そのあと、今度、手塚先生から連絡があって。『鉄腕アトム』の脚本が、原作が心細くなったんで頼みたいというので、豊田さんにも頼んだんで、あんたにもどうですかっていうんで。これは、しめたですよね、大喜びで飛んで行きまして。ハッと思ったのが、すでに平井さんのほうに仕事やってるわけですよね。ちょっとそれは、仁義としていかなるものかという気もしたもんですから。
それで、原宿の駅前のマンション、まだマンションという言葉もなかった。マンションという言葉はありましたね。僕はブロードウェイの第1号の住人ですから。ブロードウェイができたときには、まだマンションという名前がなくて。あそこは広告やってるのがハウスなんですよ。そのあと、しばらくあとにマンションやったから、そのもうちょっとあとですから。だから原宿の駅前の、そこの2階の平井さんのところまで行って。そしたら、たまたまお留守だったんで、その経緯を手紙に書いて、突っ込んで戻ったんですよね、家のほうに。
そのしばらくあとに、平井さんから手紙をもらって。いやぁ、僕は実に愉快ですよ。天下の手塚治虫に先んじて、豊田有恒、辻真先の2人を、アニメのシナリオに引っ張り込んだというのは、とても嬉しいっていうんで、とても。だから、こちらは恐る恐るだったんですが、すごく喜んでくれてね。それで大っぴらに、アニメのシナリオをバンバン書けるようになりました。
手塚先生、僕を辻真先としか知らないわけですよ。内職でいろいろと、ほかのドラマやミュージカルのシナリオを書いてるって知らないから。だから手塚先生、僕は知ってると思ったんで。手塚先生知らなかったもんだから、ほっといたらアトムのシナリオ、辻真先になってたんです、脚本ね。あれっと思ったんですけど、まあ、いいやっていうんで、それは自分の名前に違いないから。その後、次第、次第にスライドしていって、いまはみんな辻真先ばかりになっております。ということで、アニメのシナリオに。
あのころ、アニメのシナリオを書く人っていうのが、みんなSFでしたでしょう。宇宙ものだったわけですよね。それで、それのうちはSF作家の人たちに頼めばいいんだけど。そうでなくて、『オバQ』（：オバケのQ太郎）や、『巨人の星』なんかになると、ちょっとそういうわけにいかないんで。皆さん、アニメのシナリオを書くつもりでアトムやなんかやってるわけじゃなくて。小説を書きたくて、ただ、それは銭にならないから、だからアニメのシナリオを書いていたというのが実情ですから。
だから、シナリオの書き方を知ってるのは、僕だけだった、考えてみたらね。あのころにね、小学館のプロダクションか、赤座さんがいらして、SF作家の連中、小松（：小松左京）さんや、星（：星新一）さんもいましたし。平井さんとか豊田さん、森村（：森村誠一）さん、みんないて。その連中で、みんなでアニメの原作をこしらえて、みんな原作ばっかり書いて、脚本誰が書くんだって、おまえじゃねぇかって。僕しかいないんだ、考えてみたら。あれ、潰れてよかった。冗談じゃないよっていうんでね、星新一さんのシナリオなんて、どう文句来るかわからない。
でも、そういう時代だったから、逆にいうと、アニメのシナリオ、最初のSF関係は、僕スーッと入れましたし。それから『オバQ』とか何かになったときに、『オバQ』のシナリオを初めて書いたときは、いまのトムス（：トムス・エンタテインメント）ですね。だから藤岡（：藤岡豊）さんが社長でね。書いてた、「意地悪なんとかの巻」っていうのを書いてたんですよね。そしたら、うしろでワッハッハって笑うやつがいてね。なんだこれはと思ったら、藤岡社長でした。そうだよ、そういうふうに書いてくれよっていうんでね。だから、ギャグを文章に書くっていう人は、あまりいなかったんでしょうね。これをドラマのほうだってないと思いますよ。僕は、そういうの好きですから、よく書いて。
筒井（：筒井康隆）さんだけはべつで、筒井さんはギャグのところは、『スーパージェッター』（：『未来からきた少年 スーパージェッター』）でも、漫画で描いてましたよね。青山にずいぶん、そのころのアニメのシナリオがたまって。ファンの人たちが大勢来て、整理してくれる代わりに好きなものを持って行っていいよって言ったとき、一番最初になくなったのは筒井さんの、その漫画入りのシナリオです。ネタを考え。それをちゃんと絵で描いてね。ただ、ガリ版でしょう。あれ、言ってみれば手塚漫画も最初、カキハンになるわけですよ。せっかく筒井さんがおもしろく描いてるのに、ガリ版になると、なんだかよくわかんない。こっちは元ネタ知ってるからわかるけど。そういう、絵でギャグを描く人と、僕は文章でギャグを書いてました。というようなことで、『オバQ』は僕は、スッと入れまして。
そのころに、東映さんのほうが、東映本社のほうですけど、アニメじゃなくて、実写でそういう子ども番組をやるようになりました。たとえば、水木（：水木しげる）さんの『悪魔くん』とか、それから、『河童の三平』とか、それからアニメじゃない『忍者ハットリくん』とか、これは藤子不二雄（：藤子不二雄A）さんですね。こういうのを、東映の本社でやってもらう。このころにやっぱり、シナリオを頼まれて。それで『忍者ハットリくん』、いつも行くと、僕より大抵先に書いてらっしゃるのが井上ひさし君。
それから、ハットリくんの、井上さんも少しあとに書いたと思いますけどね。同じなんですよ。また、これもね、僕が書いてたらね、失敬千万、僕の肩越しに読んで笑ってるのがいるんで、誰だと思ったら渡邊亮徳さん。でも、逆にいうと、肩越しに書いてるところを覗かれるぐらいで、書くのが嫌になるやつなんていうのは、テレビのほうにはいませんから。そんなことやったら間に合いませんもん。
でも、映画のほうはそうじゃないでしょう。1週間ぐらい、どこそこの旅館に缶詰になって書くと。最初の4日か5日は飲むだけで、最後の1日か2日で慌てて書くというのが、だいたいそうだったわけですよね。東映の人たちは、みんなそうだったんでしょうけど。私は東映からじゃなくて、テレビから来ているから、覗かれようと何だろうと一向かまわないんです。周りがいくら賑やかでも書く人ですから。そういう点では、最初からテレビ向きだったし、藤岡さんや亮徳さん向きだったんでしょうね、僕は。

――　当時は、ご自宅ではなくて、トムス、当時は東京ムービーですけど、そちらに行ったり、東映の本社の中で書かれていたということなんですか？

辻　あれは東映の本社で書かされたな。たぶんね、試験採用だったと思いますね。知らないから、映画のほうからすれば、3級、NHKですから、3級職の僕はタイトルに出せませんから。2級職に出世しないと名前は出ないんです。だから『お笑い三人組』でも何でも、撮影とか技術の音楽はタイトル出るけど、演出はないんですよ。今はどうだか知りません。あの頃はそうでした。
だから『ふしぎな少年』はボツボツ、たぶんプロデューサー、ディレクターやらされたんだから、『ふしぎな少年』は僕の名前、辻真先は最後に出たんじゃないかなと思いますけどね。『バス通り裏』はひょっとしたら、僕の名前、とうとう一度も出ないかもしれません。

――　なるほど。そもそも亮徳さんから、お声がかかってきたということなんですか？

辻　亮徳さんじゃなくて、きっと平山（：平山亨）さんだったと思いますけどね。

――　そちらのほうですか、なるほど。

辻　コンビでやってましたからね。平山さんのほうの番組は、やっぱりドタバタの実写のほうで僕やってますから。たぶん、そうだろうと思います。東映さんは、東宝さんやなんか出れなくたって全然、松竹なんかもっと行かせてくれませんけど、東映さんは場所もよかったですからね。あそこの本社へひょこひょこ、しょっちゅう上がって行った覚えがあります。

――　60年代から70年代にかけて、私がたぶんシナリオライターの方の名前を最初に覚えたのは辻真先先生だったと思うんですが。あらゆる番組について、お名前が出てて、なんかすごいなと思った記憶がありますが。当時、氷川さんもご指摘になっているように、第1話をよくお書きになって。要するに、パイロットですよね、テレビシリーズの第1話って。辻さんがわりと1話をお書きになるパターンが多かったと思うんですが、それはどういうきっかけなんでしょうか？

辻　漫画読んでるからです。プロデューサーよりこっちのほうが知ってるもん。だから説明しなくていい、先まで読んでるから。この設定はこういう話で、それは僕のほうがよく知ってるから。それで慣れちゃったのは、その前がソノラマさんの仕事をしてて、『サンコミックス』という朝日ソノラマから出した新書の漫画本ですね。あの帯のところにコピーを書かなきゃならなかった。コピー僕、100冊は書いてます。

――　帯も書かれてたんですか？

辻　はい。だから、どの漫画もみんな読んでますから。それから、少しあとに出てきてるけども、■■さんやなんかになると、『少女コミック』ができたころに、ヤマモト編集長に言われて、お付き合いしてましたから。あのころは、『少女コミック』の場合、少女漫画家をスターにしなきゃいけないからというんで、原作者がいても、僕の場合なんか全部名前伏せてましたから。

――　そうですか。少女漫画の原作もやられて。

辻　僕は原作でデビューしたの、『少女フレンド』からです。

――　なるほど。

辻　だから、竹宮惠子さんを『少女コミック』に、ヤマモトさんのところへ連れて行ったの僕です。その前に、『鉄腕アトムクラブ』というファン雑誌がありましてね。ヤマザキ編集長に言われて、辻さん、徳島の大学生にかわいい女の子がいるけれども、漫画の原作書かない？って言われて。私そのころ、宝塚の仕事、アルバイトでやってましたので、宝塚のリハーサルに行くために大阪へ行って。それが済むと、夜中に夜行の船があったんですよ、徳島へ向かう。夜行の船に乗りまして、夜明けに徳島港へ着いて。
竹宮さんのほうも、親に内緒でしょう、漫画描いてるのは。だから、内緒で朝早い徳島駅で出会って、打ち合わせして。それから私は大急ぎで大阪へ帰って、本番に間に合うように。彼女は大学に行ったんだと思いますよ。そんなことやってましたよ。

――　超人的な時間の使い方です。そのうえ、シナリオも書かれてらっしゃるんですね、当然。

辻　だって、僕は旅好きですから。

――　鉄道ミステリーも書かれるわけですけど。その時間の使い方、当時どんな振り分けだったんですか？ シナリオを書きながら、旅行しながらシナリオを書くというか、電車の中で書かれたりもしてたんですか？

辻　ありましたね。打ち合わせをラッシュアワーでやったことあります。『ジャズ娘誕生』という、チエミと裕次郎（：石原裕次郎）の。あのころは、江利チエミのほうが、裕次郎より偉かったから。チエミ、裕次郎の『ジャズ娘誕生』って、これは合作だったんで。金がないから、10円玉で山手線回ればいいわけです。ラッシュになったり、だんだん人が減ってきたり、また増えてきたりするわけで。これはだから、たしか徳間のトラベルミステリーの最初にやった、謎解きの場面でそのまま使ってます。

――　あらゆることをネタにした。

辻　そう、もったいないから。だから、漫画はみんな、とにかく好きで読んでましたからね。幼年漫画だろうと、少女漫画だろうと、少年漫画だろうと、エロ漫画だろうと、全部読んでましたから。だから割合、エロ漫画って、要するに戦争前に、たとえば講談社の円本が、昭和7～8年から出ました。教養全集なんていうのがあったんですよ。こういうのはちゃんとね、人生学、要するに、いろんなことわざやなんかを全部漫画にして、そういうのが円本で出てたんです。こういうの全部読んでますからね。ボロボロになるまで読んで、円本ですからね、こんな分厚いんですよ。一見、外から見ると皮で貼ってあるみたいに、実は中がいい加減な装丁なんで。10年か20年読むと、もうだいたいバラバラ事件ですね。そういうのを読んで。だから、結構この年にしては、戦前の、今で言ったら漫画とは言えないでしょうけど。たとえば池部良のお父さん、池部良はわかります？

――　俳優の池部良さんですね？

辻　俳優の。池部良のお父さんは、戦前の漫画家、池部鈞さんなんですが。細木原青起とか、谷脇素文とかね、そういった、小野寺秋風なんていうのは結構、漫画っぽい絵を描いてました。そういうのを一通りみんな読んでますから。要するに、『キング』とか『講談倶楽部』とか、そういうのもみんな読んでましたから。これは乱歩さんのおかげでもありますね。『婦人倶楽部』や『主婦の友』なんかも、これは『婦人倶楽部』の付録っていうと、『凸凹黒兵衛』だったんで。だから、親が『婦人倶楽部』とってて、とらせて、『凸凹黒兵衛』を読んでて。
そのおかげで、だから、『婦人倶楽部』の中の広告やなんか読んだんで、のちに、『たかが殺人』なんかに書いたかどうか忘れましたけど、共学のときに女の子がしゃがんじゃって。どうしたんだって、あっちへ行けって、なんだかわかんないんで。お腹痛いんだろうと思って、薬屋へ飛んで行ったら、月のものですかね。そんなもの、聞いたことも、見たこともないですよね。生まれて初めて男女共学やってるのにね。月経なんて知るわけない。
けども、そのときハッと思いついたのは、『婦人倶楽部』の付録にそういえば、月経バンドっていうのがあったなって。それでようやく、なんとか話が通じて。僕みたいに何でも読んでたやつでも、その程度に男女共学っていうのは、どうしようもなかったんで。『たかが殺人じゃないか』、あのころ覚えたネタをみんなぶち込みましたから、かなり実話です。
速筆の話でしたっけ？

――　いや、アニメ。

辻　速筆。

――　速や書きの速筆の話ですね。

辻　速く読むのは慣れてました。立ち読みの王子様ですから。だから、とにかく、ハタキをかけられたらアウトですからね。だから、あっちこっち隠れながら読むわけでしょう。でも、うちと軒を接していた古本屋のトビキドウ、新刊のチュウキョウドウと、この2軒は、ハタキかけられませんでした、親同士知ってるから。電車通りを渡ったタケナカ書店はダメだったんで。これは、だから、それでも野村胡堂の『轟半平』全6巻、全部読み切って、犯人は当たったおぼえあります。オオタグロだったかな、犯人の名前忘れましたけどね。
速く読むことは、やっぱり速く読めれば、速く書けますよ。ワープロができて、一番やっぱり、手の指がまだちゃんと動いたころ、50、60ぐらいのころですと、だいたい自分のしゃべるスピードで。要するに、シナリオっていうのはセリフが多いですから。セリフをいちいち文字を検索なんかしたら死んじゃいますよ。セリフはやっぱりしゃべりながらがセリフですから。ト書きじゃないんだから。だから、セリフの速さで打てるっていうのは、すごく楽でした。
だから、やっぱり、速読という術はべつにありますよね。ページの真ん中をじーっと見ると、周りまでだんだん見えてくるというような、そうだそうです。そんなことしたら目が悪くなる。僕はだから、とにかく、そういうことで、速読だもんですから、結局、書いていくうちに、書く次の行が、今度これはどういうふうに始まったらいいかなって、片一方で考えながら書いているんで。だから、そのあとを追っかけていくだけですからね。だから、割合速く書けたと思いますね。

――　脳内で最初からもう、できてるっていう感じなんですかね？

辻　そうですね。残念ながらいま、本当に指が動きませんでしょう。目が痛くて、1時間やってると、もう目がシワシワで、何も見えなくなっちゃうんですよね。指が動きませんし、真上から下ろせないから、一時に三つ打つんですよね、大変です。だから本当に、あのころ、もっと書いときゃよかったと思いますよね。
でも、そんなに速く書かなきゃいけないんで、苦労はしなかったです。僕より速い人は、花登筐さんが、僕より速かった。

――　そうなんですか。

辻　ええ。僕とちょうどいい勝負だなと思ったのは、佐々木守さんですよ。『柔道一直線』の台本がないからというので、あの人は東京から新幹線に乗って大阪へ行って。大阪でプロデューサーたちが、来た、来たと思ったら、台本もうすでにできあがってて。渡して、すぐ折り返して帰ったという逸話を聞いてます。ご本人には、これ、聞いてません。

――　新幹線の中で書かれた。

辻　そうですね。新幹線ができる前の、「こだま」というのがありますが。ビジネス特急「こだま」というのがありました。あれ、一隅に机があったんですよ。だから、あそこで書けました。あのころは6時間（：東京-大阪6時間50分。のちに6時間30分）かかりましたからね。だから6時間ありゃ、だいぶ、第2稿まで書けたんじゃないかと。
佐々木さんと僕は、30分もの1本は、3時間で書いてましたけれども。花登筐さんは1時間半で書きます。それはただ、僕自分で見てませんけれども。関西テレビの偉いさんで、花登さんと麻雀やって、5人麻雀だったんで、1人ずつ抜けるわけですよね。一荘詰むと、順番回ってきてという。花登さんが、自分の番が抜けたときに書きだして、一荘終わって、花登さんが、さぁ、やろうということになったときは、もう台本できあがってる。これ1時間半で。
だから、僕の目で見たわけではありませんけれども、それぐらいの方だから、早く死にますよね。あの方はそうでしょう、梶山季之さん。あの方はすごいたくさん書いて、速く書いて。ちょうど青山、僕のいた南青山、あそこから、ほんの100メートル、200メートルぐらい違ったところのマンションにいらしたんですよ。早く亡くなりましたよね。だから、あまり、昔の人でいえば、林不忘ですか、『丹下左膳』のね。あまり速く書くと死にますよね。と、僕が言っても説得力ないですけど。

――　昔、先生にインタビューさせていただいたときに、ちょうど喫茶店でシナリオを書かれていて。私がインタビューをしてる間もシナリオを書かれて。要するに、受け答えしながらシナリオを書かれていたのを、ものすごく印象に残ってるんですが。そのときにうかがったのが、なんでこういうワサワサしたところで書かれるんですかっていうと、テレビを見てる人って集中して見てるわけじゃなくて。家の中でワサワサした環境で見てるんで、こういうワサワサした中でシナリオを書くのがちょうどいいんだっておっしゃっていたのと。あと、テレビのシナリオには、やっぱり車のハンドルみたいに遊びがなきゃダメなんだって、そのときおっしゃっていたのが、すごく印象に残っているんですけど。そういうことを、わりと意識なさっていたんですかね。

辻　ああ、そうですかね。それはスタニスラフスキー・システム（：俳優の身体的な訓練と舞台での役づくりという肉体・精神両面の関係を認識把握させることを通して、役と同一化、内面からの表現を目ざしたもの）というのがありまして、演劇のあれですね。その中に正当化の論理というのがあるんですよ。役者にこんな格好させて、あんたどうしてそういう格好してるの、逆に、答えから問いを引っ張り出すような、そういうトレーニングの方法があるんで。
だから、いまのあれなんかでも、聞かれたもんだから、なんかこれ理屈つけにゃいかんなって、慌てて理屈つけたんじゃねぇかなと思います。でも、それはやっぱりミステリーがすごく役に立ってます。そんなつもりじゃないけど、つい、書いちゃったっていうこと、あとでなんか理屈つけにゃいかんという。要するに、ミステリーなんて屁理屈ですよ。あれで実際に殺せるわけじゃないんだから。やってみたら殺せませんでしたって、文句言ってくる人もいませんからね。安心して、いい加減なことが言えます。
芝居の、ドラマの演出はそうです。カメラの都合で、どうしてもレンズが間に合わないから、役者がこっちへ来てほしいんですよね。それでも、理屈つけなきゃいかん。森繁さんなんか怖いですよ。そこへすみません、森繁さん立ってくださいって私言いますでしょう。うん、いいよって立って。俺、どうして立ったのって、聞くわけ。こういうときに、パッパっと返事してあげられなければ、役者は演出を信用しませんよ。そういう、問題と答えを逆にする、テレコにするって、そういう訓練、ずいぶんやらされましたから。だから自ずと、舞台では多いですね。テレビでは、本当に役に立ちました。

――ちょっといま、ここから深掘りしたいのはですね、手塚治虫先生とのご関係というかね、お仕事をして具体的なお話とかですね。あとは虫プロダクション、当時、中はどんな様子だったかとか、あと、どんな方がいて、たとえばご交流があったのかどうかとか。

辻　そう。次から次へね。でも、とにかく寄ると触ると漫画の話になる。もう少し映画のほうになるかと思ったけど、映画は結構金がかかりますからね。たとえば、『白雪姫』を見たのは80回ぐらいかな。手塚先生が見ていたのは『バンビ』で、僕は『白雪姫』のほうでした。手塚さんは『バンビ』を80回、大阪から有楽町、東京まで出てきて、有楽町のスバル座の近くの木賃宿に泊まって、朝昼晩見たそうです。
僕は『白雪姫』を30回見ただけなんです。セシル・ブラント・デミル監督の『大平原』も30回見て、マルクスブラザーズの『マルクスの二挺拳銃』も30回見ています。だから、僕のほうが幅が広いわけですね。そのかわり、深みが足りないということは、よくわかるんですが。
手塚先生は、豊田さんと僕を虫プロに呼んだ理由をハッキリ言われました。みんな絵はうまい、漫画はすごい。だけど、SF的な、要するにセンス・オブ・ワンダー（：一定の対象（SF作品、自然等）に触れることで受ける、ある種の不思議な感動、または不思議な心理的感覚を表現する概念であり、それを言い表すための言葉）が、もっとほしいと。それをお2人には、みんなにいろいろと教えてやってくださいと、直に言われました。

――　実際、文芸の方たちとか、現場の方たちですね、虫プロの、たとえば漫画家の卵みたいな方も多かったと思うんですけど。そういう方には、具体的には何を教えたというか、どんなお話をなさったんですか？

辻　それは雑談でいいわけです。そのかわり僕は、豊田さんもそうでしたが、若い人とつき合えるんです。豊田さんは音楽など幅広く。僕は全然そういうのダメなんだけど、おでん屋で生まれてる（：父寛一が栄で「辻かん」というおでん屋を営んでいた）から、酒だけはもう強いんですね。いまだに飲んでいて、1日2合では足りないんです。
酒を飲んでああだこうだ言うのは慣れたものです。そうなるとみんな、割合気楽になる。北野（：北野英明）氏と飲んで、一晩でひと月分のギャラがなくなったときは困りましたね。北野氏は『麻雀劇画』であんなに売れたんですが、ワタキさんの話では、沖縄のほうでタクシーの運転手をやったとか、いう噂を聞きました。でも、北野さんは本当に絵がうまかったし、手塚漫画がうまかった。手塚先生より上手いんじゃないかという人が、北野さんともう1人いましたが、普段しゃべってない人だから名前が出てきません。その人はアニメのほうに来ずに、雑誌漫画のほうへ行きました。

――　たとえば当時だと、村野守美さんとか？

辻　村野さんは最初から一流です。こちらは長くつき合って、いまだに奥さんから手紙がきたりします。あとは永島慎二ですね。ダンさん（：永島慎二）の場合は、漫画好きなハラダさんという、のちに『漫画少年』の編集長になった人が、『漫画家残酷物語』（：1961年から1964年にかけて貸本劇画誌「刑事」（東京トップ社）に連載）を描いた人を紹介してくれないかと言うので、連れて行ったことがあります。ダンさんの場合も、手塚先生とは全然違う絵柄でしたが、本当にこだわる人でした。こだわるということでは、みんな同じようにこだわりましたね。
演出でもうるさい人がいましたよ。僕と合えばいいんですが、合わなくてうるさい人が1人、2人いて、山本暎一さんが間に入って困っていました。割合うるさいけれども、合ったと思うのは富野由悠季です。
『リボンの騎士』のときにハッキリ覚えています。あのドラマの構築力は、テレビドラマなら、ある程度ドラマを積んでOKが出るはずなのに、あの人はそこから始まる。非常に感動というか感心しました。こういう人がアニメでよくならなければと思ったんですが、残念なことに、虫プロの場合、彼は絵がだめでした。そのため、イマイチ伸びていかないと思ったんですが、サンライズ（：当時の名称　（有）サンライズスタジオまたは（株）日本サンライズ？）でうまくいきましたね。
テレビアニメでビックリしたのは『トリトン』（：『海のトリトン』）です。僕は1話やりました。松岡（：松岡清治）さんという『巨人の星』などをやった人がいて、僕が途中から入って、ラスト前は僕でしたが、ラストは彼がやりました。そのほうがわかってもらえるだろうという気持ちがあったようです。

――　なるほどね。

辻　僕は『トリトン』の途中、設定がだいぶできあがったところで入ったんですが、手塚治虫の『トリトン』をやるつもりでいたんです。全然違いましたね。

――　逆に途中から入られて、原作とは全然違う『トリトン』なんで、それはなんか説明とかあったんですか？

辻　ないですよ。自然にわかっていくんです。いやぁ、驚きました。第1話は、ごく初期の場合は、だいたい僕みんな読んでいますから。あとのほうになるとわからない。たとえば、『アンデス少年ペペロの冒険』というのがありましたが、あれはどこが企画（：放映は日本教育テレビ（現 テレビ朝日）系列、制作は和光プロダクション（現 ワコープロ））したんですかね。だいたい、なんでアンデス山脈が出てくるのか説明もなく、とにかくやらされました。
あのとき、NETのミヤザキシンイチプロデューサー（：宮崎慎一？）が、プロダクションの名前は忘れましたが、監督の前で「この人の脚本は変えないように」と言うんです。この人は偉いんだからと。この人の原稿用紙をもらっておいたほうがいい、いまのうちに、あとで値が出るよと言うんです。
でも、自分が書いた本を見ていると、最後に洞窟の中に水がだんだんたまってきて、それでアウトになるというところで話は終わっているんです。当然そのあと、空気を圧搾して、それ以上水は上がらなくなるわけです。だから、冒頭のパターンとして必ず助かる場面がないんです。これはどうしたんですかと監督に聞いたら、直しちゃいけないそうだから直しませんでしたと。最後の2分が入りませんと。それじゃ何もならないですよね。『アンデス少年ペペロの冒険』は、そんな変なことで覚えています。

――　ちょっと話戻りますけど。60年代の話、ちょっと氷川さんからも。

――　豊田さんと分担みたいなのはあったんですか？　シナリオのオリジナルが足りなくなって、豊田さん、ずいぶんアトムで書いたっていうふうに。

辻　いやいやいや。ちゃんと60枚書いてあるんですけど、その中の急勾配で、クライマックスで駆け上がるところですね。こちらとしては、この程度に息切らして駆け上がったんだから十分クライマックスだろうと思うと、富野さんはその上をいく。これ、まだやるのかと思うほど粘る。演出で感心したのは、芹川有吾さんですね。

――　あっ、芹川有吾さん（：演出家。メロドラマ的に引いて引いて、たっぷり音楽を聴かせて泣かせる演出で有名）。東映のほうですね？

辻　そうです。芹さん（：芹川有吾。アニメーション演出家）も凄いんですが、富野さんが増やすのに対して、芹さんは切るほうなんです。「これ長い、消せ」と言って、僕の30分のテレビアニメを55枚にしてと。普通は60枚か70枚書くんです。それは『サイボーグ』（：『サイボーグ００９』）の『怪獣戦争』（：『サイボーグ００９怪獣戦争』）劇場アニメ、市原悦子さんがやったころの話です。

――　ヘレナのやつです？

辻　そうです。あそこの壁に沿ってスイッチにたどり着くまでの、延々たる演出が印象的でした。1を書いて5分もたすなということをよく覚えました。富野さんの場合は、シナリオの中での内包するドラマ性を重視します。でも、芹さんの場合は、シナリオができあがった後の外側の饅頭の皮のところをガリガリに掘るんです。あんこをたっぷり入れすぎると、饅頭が包めなくなってしまうという、そういう違いがありました。どちらも、やっぱりおもしろかったですね。

――　芹川さん、実写の監督（：正確には助監督）だったからじゃないですかね、新東宝で。

辻　そうです。でも、あの人は最初からアニメを希望したという話を東映で聞きました。そうそう、タツノコ（：タツノコプロ）へ行った鳥海（：鳥海尽三）さんの話もあります。あの方は最初松竹のシナリオライターで、『ジャングル大帝』（：1965年10月6日から）が始まる前に、虫プロに履歴書を持ってきたと思います。イワモトエイイチさんがプロデューサーで、本当に喜んで、「とうとう松竹やなんかで映画の本を書いている人が、本気でアニメをやるようになった」と喜んでいました。
そのとき鳥海さんはいなかったので、知らないかもしれませんが、イワモトさんはずいぶん喜んでいました。ただ、結局タツノコに行ってしまいました。どういう経緯でタツノコに行ったかは知りません。

――　鳥海尽三さんのほうですか？

辻　尽三さん、そうですね。

――　りんたろうさんなんかも、いらっしゃった。

辻　りんちゃんは、僕が最初にアトムを書いたときに、演出したのがりんちゃんだったんですね。アニメのギャグ演出っていうのはこうするのかって、宇宙船をシェーカーみたいに振りましたからね。ここまでやっていいんだって。やっぱりちょっと、こっちは臆病なんで、手を出しては熱いもんだから手を引っ込めるみたいなところがあったんだけど。りんちゃんのあのおかげで、だいぶ手が出せるようになりましたよね。
だから、コバルトの巻（：第93話「コバルトの巻」）、こっちが本を書いて。あのときに手塚先生に、「これ演出は誰がいいと思う？」って、「りんちゃんどうですか」って言ったら、「じゃあ、そうしよう」っていうんで。コバルトの巻はりんちゃんに演出してもらったと思う。それから、東映、グランプリが高いですから。あのときにやはり、東映さんのほうから、東映でずっと演出してる人じゃなくて、これはむしろ違う水を飲んだ人にしたいんで、どうだろうって。そのときにりんちゃんなら東映にもしばらくいましたから。これなら、りんちゃんなら大丈夫だろうっていうんで。僕が言ったからかどうか知らないけど、りんたろう監督になりましたね。僕が画力全然ダメですよ。『サイボーグ００９』の2期も連載から始まってますからね。
免許は一応とりましたけどね。NHKに入って、荻久保に下宿があったときに、あのころだと国分寺まで行かないと自動車学校なかったという時代でした。ひどいんですよね、だいたいこれで通るだろうっていうところまでいったところで、「あなたのその目では試験通りませんよ」って。今ごろ言うなってんでね。二度目に、『鉄腕アトム』のアニメをやり出すころに、もう一度やって。
今度は少し頭良くなったもんですから、視力検査のとき、「目は最初から悪いです」って言うと、だいたい0.7のへんをさしてくれるんです。そのへんだけを全部覚えて、これで通りました。1日だけで通りました。でも、その次の年は機械になって、もうダメです。だから私は、シナリオに書く程度の自動車の免許は、それから運転の内容は書けますけど、それ以上書けないです。

――　ちょっとまた、話を修正しまして。TBSの平井和正さんは、TBSですよね。

辻　はい、そうですね。

――　もう、そのときはTBSの、通称漫画ルームというのはあったんですか？　あれは、いつぐらいにできたのか。

辻　漫画ルームは、部外秘みたいになってきたところ、TBSの秘境になったのは、あそこでブルーフィルムなんかやったからでしょう。だから、それは少しあとですね。ヤマムラさん（：山村浩二？）たちが入って来てから、本当になったと思いますけど。最初の平井さんやなんかのところは、だいたいあそこはあまり、そのころは赤坂の旅館でした。そこへ旅館で、こたつで入って、4人か5人で、それで一番最初にこの話を言い出したやつが言い出しっぺでシナリオを書くということにして。ほかの連中はみんな帰る。それで、演出のカワシマちゃんだけは、そこで寝てる。かわいそうな言い出しっぺが書くという。
半村良が、「暗黒男爵」のときは、逃げちゃったんですね。最初に1枚だけ書いて、タイトルだけ書いて、「暗黒男爵」って、中ないの。あと、どうしようもないから、平井さんが書きました。だから、局舎だと、そうむちゃくちゃできませんので。少し近くのべつのところへ行くと、羽目を外しますから。そういう意味では、羽目を外すというのは、たぶん、あの旅館の名前は忘れましたけど、TBSからほんの歩いて2～300メートルのところでした。だから、そのあたりから、だいたいできあがってたんじゃないかと思いますね。
そういう無法状態というのは、映画のシナリオのほうから来てます。さっきも言いましたけど、「ウルトラシリーズ」を書いた山田正弘さんが笑ってましたけれども、「俺、1週間粘って書かなかったよ」って。こういう人たちがいるんじゃ、映画は潰れるわな。

――　カワシマさんについても、ちょっとおうかがいしたいんですけど。演出をやられたカワシマさん。

辻　いや、美術ですね。

――　美術の方。

辻　絵を描く人で、美術で。

――　TBSの美術部。

辻　はい、そっちから来た人です。それで絵が本職です。だから、東京新聞やなんかの裁判のあれなんかも、みんな彼が描いてましたよ。ですが、あのころだから考えてみると、演出というハッキリしたパートがないみたいな。要するに、カット割りをもうカワシマちゃんがやって。

――　そうみたいですね。絵コンテ、下書きができるたびにカワシマさんがコンテにして。

辻　そういうことです。なので、みんなどっちみち、一晩勝負ですよ。一晩かかって、運の悪い脚本家が書いて。夜の白々明けに、それができあがると。カワシマちゃんがパッと起きて、コンテ切り出すわけです。それで1日、日のあるうちに、ラフだったらできますよ。僕だって、1時間も、ホウジョウヒデキ大先生の『飛ぶ雪』は一晩でした、コンテ切るのに。切らなきゃ間に合わない。最速の場合は、15分を15分で書きました。

――　書きあがったコンテを、TCJの人がとりに来て、作画するみたいな、そういう段取りなんですか？

辻　脚本のほうは、おそらく書きあがって、これは脚本で。それをガリで印刷してる間に、もうすでにコンテのほうは、コンテらしいもの、ただし、非常にラフですからね。それを今度、ちゃんと作監やなんかと相談して、これはTCJですよね。カワシマちゃんが自分でやってましたね。だから、カワシマちゃんがおそらく、コンティニュイティも、作監も、ほぼ彼が最終調整をやってたと思いますね。

――　だから、とくに『エイトマン』に関しては、テレビ局が演出してるみたいなところが、すごい、そののちのアニメと全然違う感じがしたんですよね。

辻　プロデューサーはうるさかったですね。

――　ミワさんですか？

辻　ミワさん。TBSの場合は、絵はまったくダメ、できないから。さっきNHKで言ったように、プロデューサー、ディレクターでも、まったくプロデューサーオンリーなわけですよね。SFもわからない。これはよく豊田さんが書いてたけど。『サイボーグ』をね。

――　あれ、誰の話ですか、『サイボーグ』って、細胞のグって書いたの。

辻　あれ、ミワさん。

――　ミワさんの話なんですか、あれ。

辻　みんな知りませんでした、あまりSFのことをね。僕だって知らないんで、平井さんに尻を押されて、やっといろいろと読んだわけですから。ずいぶん泥縄でした。そのプロデューサーのミワさんっていうのは、だから、アニメとしてではなくて、シナリオ、ドラマとしての注文は来るわけですね。それと別個に、ほとんど並行して、平井さんのほうからは、SFとしての注文が来るわけですよ。だから、これは大変でしたよね。ものによって、あるいは書く人によって、両方の、これは違う。これはあくまでSF勝負というような場合と、それから、これはドラマ勝負という場合と、いろいろとありますから。そのへんは、阿吽の呼吸で。どちらを演出というような感じはないですね。強いていえば、金出してるんだからTBSは制作、平井さんのほうは企画って、中ではそういう感じだったですね。
あのころみんな、アトムの場合は、やっぱり皆さん絵の達者な人たちばっかりですから、これはだから、演出というのはハッキリしてましたね。

――　絵のうまい人のほうが、意見が通りやすいとか。

辻　どうしても絵で説明しちゃうでしょう。絵でわかる人のほうが多いわけですよ。文章でわかる人よりも、絵でわかる人のほうが、やっぱりそれは、作家、プロの場合は。だから、たぶん、タツノコの場合は鳥海さんの力が大きかったと思いますよね。最初から鳥海さん、タツノコから始まってますでしょう。鳥海さんは絵ではなくて、文章のほうからだから、これはだから、うまく両輪いったと思いますね。
虫プロの場合は、これやっぱり手塚先生ですからね。手塚先生、たしかに文章もうまいけれども、アイデアもうまいけれども、やっぱり絵の人ですよ。だから、その下に集まって来るのは、みんな絵の人たちですよね。これは、仕方がないと思いますね。TCJは、そういう点では、割合、ビジネス的な。あれは、CMのほうから始まったわけですよね。

――　コマーシャルの会社ですもんね。外車を売るための会社だから。

辻　そういうことですね。だから、ギャラもいろいろと、無理難題はあそこが一番ひき受けてくれましたけどね。でも、『デビルマン』のころかな、ストライキやなんかありますでしょう。

――　ロックアウトですね。

辻　ええ。そうそうそう。あれが入ったときなんか、やっぱり、やりにくかったというか。こっちは、そうでもなかったけど。べつに立ってだってやれるから、いいけれども。立って打ち合わせなんて、歩きながら打ち合わせ、青山通りを歩きながら、4丁目から3丁目まで歩いて、どれぐらい打ち合わせしたか、そういう感じだったですね。

――　70年代になって、たとえば永井豪さん（：『デビルマン』の原作者）のように、漫画家の方に原作がついています。テレビとほぼ同時に企画が始まって、かたや、永井豪さんが雑誌で漫画を描き、原作とキャラクターデザインをしていき、ほぼ同時にテレビアニメが出てくるわけですよね。とくに『デビルマン』なんかは顕著なんですけど、原作の漫画の絵と、アニメの絵が全然違いますし、キャラクターデザインも違います。

辻　間に合わなかったんです。

――　そうですね。どういうタイムスケジュールというか、バランスでやっていたのか。どのへんまで打ち合わせができて、ここまではやって、あとはアニメに自由にやってくれみたいな話があったのか。それとも最初から、アニメはこんな感じでやっていくけど、原作はもうちょっとハードにやりましょうみたいな、そういう打ち合わせって実際どの程度まであったんでしょうか？

辻　ケース・バイ・ケースだと思いますけど、『デビルマン』の場合だと、最初からこっちはOKしてましたし。それから、プロデューサーが、ハタノさん（：旗野義文氏？）が一番最初に僕に東映で声をかけてくれた人でした。そのときは、横山光輝さんの『グランプリ野郎』だったんですが、これがポシャったんで、『魔法使いサリー』のほうへ僕が横流れしたんです。そういうことで、ハタノさんとは一番最初からおつき合いしているんで。とにかく何もないんです。永井豪に頼んだということしか、何もなかったです。
それで打ち合わせに行って、本当に何もないっていうことがわかりました。こりゃ、どうしようと。ただ、元ネタというか、『ダンテ』でした。

――　『魔王ダンテ』ですね。

辻　そのようなということはわかりましたので、じゃあ、それに類するものだろうということで、雰囲気はだいたいわかりました。それから、豪ちゃんだから、この方向へ行くなということはわかりました。だいたいわかったんですが、あとわからないのは、どういうキャラクターを使うのかということでした。ただ、キャラクターは目の前で描くでしょう。

――　それは永井先生が、打ち合わせの目の前で描かれる？

辻　はい。以後ずっとでしたよ。あれは、大変だったと思いますね。だから最初に行ったときは、『デビルマン』らしきデッサンはありましたし。その後、実際に動き出しちゃうと、こんなのどう、こんなのどう？って。だいたい3通りか4通りは、描いてくれました。中にはシレーヌみたいに、こちらのほうで、豪ちゃんが、女の子がほしいと、こっちが頼んだり。でも、シレーヌだから、自分で頼むんだから一生懸命書いたんですよ。そしたら、豪ちゃん、この野郎ってばかりに、あれは負けた、本当に負けた。

――　原作のシレーヌは結構すごいエピソードで。

辻　武蔵坊弁慶の立ち往生ですよね。こういうところに、こういうものを使うのかってね。あれはやっぱり、そこで一つ、頭を柔らかくしてもらいました。

――　キャラクターは原作のほうだと、ちょっと獣じみたというか、本物の獣を乗せたようなキャラクターで、アニメのほうだと、緑のからだで出てくるようなキャラクターで、結構違うんですけど。これは、どういうきっかけで、そういうふうに分かれたんですか？

辻　あちらは魔獣的なものですよね。こちらは、妖獣的なモンスターって、強くされると、それで終わっちゃうわけですよね。最初から一番強いの出してしまったらおしまいだから。こっちは妖獣にして、中には三枚目があってもいいし、それから、すごいド真面目なやつがいてもいいし、田舎っぽいやつがいてもいいし。田舎っぽい魔獣なんて困るんで、やっぱり妖獣でないとダメだという。そういう、妖獣のほうは僕向きという、そういうあれにしてもらったんですよね。

――　でも、あれの内容は、結構自由にやってくださいみたいな流れですかね。

辻　ええ。これはひとことも、何も言われなかったですね。ただの一度も言われなかった。豪ちゃんはだいたい言わないし、ハタノさんからも言わなかったね。どこかで食い止めてくれたのかもしれませんけどね。非常に助かりました。ほかのシリーズでまったくない、最終回（：38話のあとに39話アリ）を2回書かされるという、あれは腰抜けました。

――　どうしてそうなったんでしたっけ？

辻　地方と中央で、本数違ったんですよ。地方のほうは全部終わったんだけども、中央でもう1本あったんです。あのときはやっぱりハタノさんも慌ててたな。先に書いたあれは、何を書いたんだっけな。もうこれで終わりだからっていうんで、こちらも気楽に、宇宙へ行ったんじゃなかったな、月は地獄だから。

――　ドリムーン（：妖獣ドリムーン）ですか？

辻　あっ、ドリムーンだ。あれは完全にスペーススペースオペラですね。ここまで宇宙へ行っちゃったから、もういいだろうと思ったら、最終回もう1本あって。

――　美樹の目の前で変身させられるエピソードですよね？

辻　はい？

――　美樹の目の前で、明がデビルマンにならなきゃいけない。

辻　そうですね。

――　あのへんで、私はもう、子どものころ見て泣きましたからね、素晴らしいアイデアだと思いました。

辻　あれもね、ああいう屁理屈ですけどね、しょうがない、あれしかないやってね。最初はゴッドマンだったんです。デビルマンだからゴッドマン。調べたら、円谷プロが登録してたんですよ。

――　東宝ですね。特撮の。

辻　ああ、そうか。そうでしたか。そっか、そっか。

――　なるほど、そういう形で、当時は、とにかくほぼ同時にスタートするから、原作は原作で、アニメはアニメでみたいな、一種の役割分担があったという解釈でよろしいんですね。

辻　こちらはそれこそ、『ふしぎな少年』で慣れてますから。最初から無理ですもんね。だから最初からね、そう言ってもらったほうが楽ですもんね。

――　逆にそういう、困ったときのエピソードとか、そういうのはあったんですか？実際にそういう、何とかしますからって言って大変だった作品っていうのはあったんでしょうか？

辻　ちょっと意味は違うんだけど、やっぱり辛かったのが『コンV（超電磁ロボ　コン・バトラーV）』ですね。『コンV』はだから、東映動画で、マーチャンばかりやられたら損だっていうので、東映本社が亮徳さん（：渡邊亮徳、名前の読みは「よしのり」だが「りょうとく」と呼ばれていた）じゃないですか。本社のほうでもやろうと言い出して。引き抜いたのがイイジマさん（：飯島敬？）だけでしょう。1人だけでできないですよ。イイジマさんに僕は引き抜かれたようなもんですけど。2人で考えて、どうしようもないんで。
だから、結局、最終的に煮詰まってきたのは、もう仕方がないから東映エージエンシーへ行った及部さんに万一のときに頼もうというんで、彼にコンテ切り出したときに、『ライディーン』（：『勇者ライディーン』）のほうが空くよっていうことで。そういうふうに行ったり来たり、そのたびにキャラクターの名前が変わったもんですから、自分で誰を何にしたのかわかってない。
東京、名古屋、大阪、京都、福岡で、各都市にちなんだ名前ということで。それで始めて。だから、名古屋はとうとう最後、三枚目、ナゴヤマルハチという名古屋の市のマークがマルハチですよね。京都のほうは、キョウノミヤミヤコという名前だったですね。これは、ナンジョウなんとかにありましたね。そうだ、あれは麻雀になってて。

――　最後、トンナンシャーペイ（東西南北）、ハツですよね。

辻　そうですね。北小介と南は何でしたっけ？

――　南原ちずる。

辻　南原ちずるになって。東京と大阪が残ったんだな。豹馬はどこから出てきたのかな。

――　葵だから。

辻　葵は徳川の。

――　葵のご紋か。

辻　豹馬はどこから……。大阪のほうは、浪花十三と、これはこっちがつけたから、名前にちょうど浪があったんで、十三にしたんですけどね。とにかく、そういうふうに、書くたびに名前が変わったもんですから、わけわからないで。

――　四ツ谷博士はあれですね。

辻　御茶ノ水の……。

――　あれが最初ですよ、あのあと、いろんな水道橋博士とか亜流増えちゃったんですよ。

辻　急行にとまるやつって、各停はやめ、とか。四ツ谷が一番名前らしいから。やっぱりあのあたりは、最初に企画書に出ますからね。ここで最初からあまり、水道橋や飯田橋じゃないほうが、たぶん通りやすいかなという感じで。

――　ほかの漫画家さんがいっぱい増やしますよね。そうやって、設定を決めるのが大変だったっていう感じですか？

辻　決めるのは割合、壊すのは辛い。これは、あっちとかぶるから、くどいから、つまんないからって、切るのは辛いですよ。せっかく考えたのにね、広げていくのは好きなんですけどね。

――　『コン・バトラー』の第1話って、本当に辻さんのすごい傑作というか。あらゆる設定を1話で、あんなふうに凝縮したロボットアニメ、ほかにないですよ。全部で5人いるのに、5人紹介して。

辻　機械も五つですから。それ、全部してやらなきゃいけない。

――　危機を脱して、発進して、合体してやって。

辻　敵はやらなきゃいかんですしね。

――　敵側もガルーダ、全部紹介してる。

辻　早口言葉みたいな話になりました。

――　何度見てもすごいと思いますね。だいたい普通、ロボットアニメになると、ロボット走らさせて終わっちゃったりするんですけど、設定が多いから。

辻　一番制作が大変だったのは『ジャングル大帝』ですね。原作の4カ月分では、2回目でアフリカのシーンがあって、その次はアフリカじゃないんです。一言も断っていませんが、全然別のところに行っていると考えていただいてもいいわけです。原作を読んだ人なら、あそこですぐアフリカに着いてしまうのはおかしいとわかりますから。読んでない人なら、アフリカだと思ってくれればいいし。どちらにも解釈できるようになっているんです。今ノベライズを書いているんですが、これがやはり大変です。自分で自分の尻ぬぐいはしょうがないですけど、文句も言えませんけどね。

――　『ジャングル』は、手塚先生の原作はあるけれども、アメリカ放送のために1話完結にしてくれと言われたというエピソードが。

辻　そうです。みんな本当に、あれを聞いた時点で天地がひっくり返ったというか、尻餅をついたというか。

――　話の途中から、企画の途中からそう言われたということですか？

辻　最初にシナリオを書く前です。

――　前。

辻　だから、第1話もその覚悟ですよね。とにかく、第3話と第32話を順序逆に入れてもわかるようにしてくれと。手品をやっているのかと思いましたよ。

――　実際アメリカで暮らしていると、そういうふうに放送するんですよ。めちゃめちゃになっているんです。

辻　地方局がめちゃくちゃあるものだから、バラバラで。だから、あっちこっち旅行している人だったら、どういう順番で見るかわかりませんしね。それから、これは『オバQ』のときにわかったんですけど、1本売りを結構しますでしょう？ だから、その1本売りだけである程度客がつかなければいけないし。『オバQ』が一番エネルギーを使いましたね。
でも、こっちはやっぱり嫌だった。企画が決まって、モリちゃんがチーフの演出だったんですよね。あのとき感動していましてね。俺はまだ、あのラスト、コンテ全部あのまま描けるぞと言っていましたね。

――　チョウ（？）を追っかけていくやつですね。

辻　最終話です。原作でいうと、ヒゲオヤジが、レオの顔があって河をおりてくる。あのあたりのいろんなコマですね。あのあたり全部覚えているって。しかし、相当程度りんちゃん頑張りましたよ。理屈がつく範囲で、あのカットを全部入れていますから。1話でお客がつかなかったら、もうアウトですもんね。初めてのカラー（：『ジャングル大帝』が日本ではじめてのテレビ用カラーアニメーションシリーズ）でしょう。サンヨー（：提供スポンサー、三洋電機？）が初めての大きな会社で、『サザエさん』もまだやっていないから、やっていませんよね？

――　『ジャングル』が65年で、『サザエさん』は69年ですね。

辻　ですよね。だから、とにかく何とかしなければいけないなと。しかし、こちらとしてはテーマは何が何でも通したいですからね。ただ、おもしろおかしいだけなら、ドタバタ騒ぎならいくらでも書きますけど。だけど、そうじゃなくて、少なくとも原作を読んで期待している人には、それができるんだと思わせなければいけないですから。放送が終わった後に、朝日新聞か毎日新聞で、名将が最初の一石を打ったと書いてもらって。嬉しいけど、名前がわかっているんですが、そこへ行って土下座したいですよね。本当にそういう気持ちです。
あれしか方法はなかった。今でもやっぱり、ほかに方法はないんじゃないかな。あの24分の中で。あれでも、まだ1分長かったですよね。長かったものだから、エンディングのタイトルが出ないんです、放送のときには。だから、梓みちよも小池朝雄も名前が出ましたよ。僕の名前は出ませんでした。でも、それでもとにかくギリギリまで詰めたんですが、もう勘弁してと。あれ以上は。ナベプロ（：株式会社渡辺プロダクション）に文句を言ってもしょうがないというつもりでしたけどね。そのかわり、こちらは名前も、モリちゃんの名前も出なかったかな。たくさんの名前をカットするからと、そういう感じで。

――　相当虫プロも意気込みがすごかったんですね。

辻　そりゃすごかったですよね。すごかったです。あれで今度（：主題歌「ジャングル大帝のうた」1966年10月5日から1967年3月29日）、サンヨーさんのほうで、音楽を勝手に三木鶏郎さんで、お子様ソングでつくってしまったでしょう。これがまた大変でしたよ。こっちは（：主題歌「ジャングル大帝のテーマ」196510月6日から1966年9月28日、主題歌「レオのうた」1966年10月から）、冨田勲さんでしょう。冨田勲さんで、まだ冨田さんはそんなに大河ドラマをガンガンやっているわけじゃないから（：大河音楽を担当した年は1963年、1969年、1972年、1974年、1983年）。それが電機会社のボスからすれば、三木鶏郎さんのほうが音楽をよく知っているから。
フィルムを隠したことがありましたよね、確かパイロットをどこかに。とにかく、その問題が解決しないことには放送されては、われわれどうしても納得がいかないと、そういう感じでね。だから、その問題が解決する……。結局だから、三木さんと冨田さんが、頂上対談か何かで手を打ったと聞いています。何かお聞きになっていますか？

――　いや。

辻　そうですか。だから、第2期のほうの音楽は、冨田さんが三木鶏郎さんのテーマをアレンジしているから、編曲か何か。それで、そのへんで手を打った。作品的には手を打っていますね。あれは本当に……。しかし、だからといって、あれを好きなようにやらせてもらっても、今の時点だったら、その後の谷口（谷口悟朗）（：『ジャングル大帝 ―勇気が未来をかえる―2009年9月5日』）さんがやっていますね、『ジャングル大帝』ね。谷口さん、よくまとめてあるし、うまいなと思うんだけど。
何となく考えていると、『ジャングル大帝』というのは、テレビアニメには向かないような気もするんですね。30分で切って見せるものではないので。それこそ『ガメラ』みたいに、ああいう見せ方はあり得ると思いますよ。

――　今すぐならね、ああいうフォーマットもあるけど、当時はないですもんね。

辻　あのころには無理ですよね。今だったら、ああいうネトフリ（：Netflix）的にやっていただければ、あれなら相当いい線にいくだろうと思いますね。

――　手塚さん絡みだと、最近だと『PLUTO』とか。

辻　ああ、『PLUTO』はそうですよね。

――　ああいう形の、頭があって終わりがあるみたいな。

辻　そうそうそう。『PLUTO』は丸さん（：丸山正雄）だな、頑張ったな。あれもよかったですね。あの本を書いた人は、あちらのマッドハウス（：日本のアニメ制作会社）のほうの人ですか？

――　どうなんですかね。

辻　僕はあまり聞いたことのない名前の人でした。

――　今、ちょっと調べています（：浦沢直樹？）。

辻　どこかの秘蔵っ子で、隠しているのかなと思って。

――　そんなことないと思います。

――　『ノース2号』の話に思い入れがあって。そこをやりたかったみたいですけど。始まるなり、ロボットが2人しか出てこない……。

辻　もっとも、思い入れといえば、いろんな思い入れがあるだろうな、あれは。あれはやっぱり、手塚先生の一つのピークだったとは思いますね。

――　そうか、『009』の話を聞くと。『サイボーグ009』の「太平洋の亡霊」が、漫画でリメイク。

辻　ええ。

――　われわれ大変驚いたんですが。どうですか。脚本家の辻さんとして。

辻　あれ、何ですか？ 何ですかって、いやぁ、早瀬（：早瀬マサト）さんがね、任せてくださいということで。

――　いきなり電話がかかってきたみたいな感じですか。電話かメールで？

辻　そうですね。電話、メールかな……。これはどうなのかな、これはひょっとしたら、オフレコなのかもしれませんけど。

――　たぶん大丈夫です。発表済です（：小説の刊行予定情報HPでの公開日は2024年6月19日とあり。インタビュー日2024年3月時点では発表前の可能性あり）。

辻　『009』の小説、あれは誰が書いているのか、僕は100枚ぐらい書いているんだけども。あと、どなたが何を書いているのか、全然何も情報がないんですよね。ちゃんとつながるのかしらと思って心配しているのですが、ほとんど3分の2書いてしまっているんですけどね。早くやらないと、自分の『少年明智小五郎』（：『命みじかし恋せよ乙女: 少年明智小五郎』）の第2稿が間に合わなくなってしまうので。ちょっと心配なんですけれども。

――　小説版も出るということですか？

辻　小説版のほう、僕は「平和の戦士は死なず」、最終回ですね。それはいいんだけれども、現代の話ではないですからね。

――　過去の話で。

辻　ベトナムのころって、あのころの話ですから。だから、それを皆さんどういうふうに扱っているのか。1人で書くんだったら、何とかしてしまいますけど。何人かで書くんだから、ずいぶんそれバラバラ……。ただ、以前『鉄人』（：『鉄人２８号』）を小説化、ノベライズしたとき、あのときはやっぱり打ち合わせ全然なしでも、そういう企画で、読んでおかしくはなかったですから。だから、あのときはセナさん（：瀬名秀明）やなんかもね、『鉄人』を書いていましたね。今度もだから、そういうクラスの人たちに頼むのであれば、それなりの解釈の『サイボーグ009』ということでいいんだろうと思いますけど。

――　今回、漫画の話はどこから？　チャンピオンREDの編集部から企画があがったんですか？　誰が企画したんでしょうか？

辻　もうずいぶん前に、石森プロと早瀬さんがここへいらして。2～3年前だと思いますけど。そのときに、やりたいとおっしゃって。やってもらえる分には全然かまわないけれども、あれをどういうふうにアレンジするのか。だいたい、戦士8人だって、ろくに出てないんですよ。2人か3人しか出てませんからね（：「009、003、ギルモア博士の3人」が登場し、「9人のサイボーグ戦士たち」が集結する。漫画の内容については、上記のようにHPに記載あり）。それから、たとえば憲法の扱いであるとか、そういった…。何よりかにより、僕いま自分で一つ心配なのは、昭和のヒーローを令和の読者がどう読むのか、まったく読めないんですよ。『009』女体化しちゃえっていうわけにもいきませんよね。ほっといたら、私それをやりますよ、きっと。

――　サイボーグ戦士全員、女性ユニットにしちゃうとか。

辻　この前、豪ちゃんがやりましたよね。ダイナミックプロ（：企画？）、全員女性化（：公式の表現ではガールズまたは擬人美少女キャラ）。それで思い出したんですが、こちらのほうでお聞きしたいのは、いま、いろんな女体化、僕が最初知ったのは、ハーレンあたりからなんですが。でも、あれっと思ったのは、『三国志』で関羽やなんかが女体化して、いいのかね？　ヒゲのない関羽は、関羽といえるのかと（：「関羽は美しいヒゲの持ち主」と辞書にあり）。そのあたりの根本的なところ、よくわからんのですが。

――　『三国志』の女体化は、すごい前からありますね。20年ぐらい前から。

辻　樊噲も女体化してます。でも、関羽は僕、まずいんじゃないかと。『三国志』だとだいたい、あの人も、池上遼一さんなんかでも、趙雲から始めますよね、女体。それはいいですよ。彼の場合は、子どもを抱いているイメージがありますからね。でも、関羽を女体化して、何かメリットがあるのかしらと。

――　一つのジャンルみたいな、異世界転生と同じで、そういう様式になってるんで。

辻　様式ね。

――　やっちゃったあとから考えると、それこそ、さっきの話じゃないですけど、結果からまた考えるという楽しさじゃないですかね。

辻　もう一つやっぱり、これはたぶん僕の世代っていうか、僕は『ウマ娘（：ウマ娘 プリティーダービー）』がわかんない。

――　馬耳が。

辻　毛の耳があります。

――　あと尻尾。

辻　そうだ、そうだ。あれはゲームからきてるわけですか、やっぱり。

――　スマホゲームですね。

辻　ああ、そうですか。

――　スマホゲームを賑やかすためにアニメをつくったら、その相乗効果でどっちもブレイクしてるという状態です。自分もちょっと、設定がよくわからないです。

――　これはこれで、「ケモナー」というジャンルがあって、獣好き。

――　だって、街を普通に尻尾つけてまま歩いてて。この世界はどうなってるんだろうっていう。

――　それは、よくわかりませんね。よくわからないけど、獣好きの人がいるんじゃないですか。
辻　まあ、理屈言っちゃおしまいよっていうことは、それはよくわかるんで。理屈じゃなくて、感覚的に、『ウマ娘』の顔が丸いのが許せんですよ。そんなの、馬じゃねぇじゃねぇかって。そういう気がしてしょうがないんですよね。

――　その手前に、AKB48から始まる、女性アイドルユニットっていうジャンルっていうか、馬好き乗っかってそれをどういうふうに転がすかっていう中に、馬化した■■のがあったんじゃないですか。

辻　丙午の人が喜ぶような、われわれ世代本当に…。

――　でも、そろそろ時間ですね。

――　ちゃんと最新のものも語っていただいて、記録が残るな。

――　とにかく、先生いま、たぶんわれわれよりもアニメを見てらっしゃるんじゃないかと思うんですけれども。

――　私の3倍ぐらい、新番組見てると思うので。

辻　でも、まだ『フリーレン（：葬送のフリーレン）』最終回見てないんですよ。あとで、来るやつでしょう。直に見てないもんですからね。だから、そういう点では、1週遅れか、2週遅れになっちゃうんですけどね。

――　それでも、見てらっしゃる。

辻　だから、『ダンジョン（：ダンジョンの中のひと）』なんかも最終回、原作で読んでますからね（：Webアクションでは連載中となっている）。『フリーレン』は第1巻から、版で並行して読んでますから。『怪獣8号』をやっと、ずっと前に買って置いといたのに、中に埋もれていまして。ようやく、昨日か一昨日、『怪獣8号』の第1巻を読みました。

――　ちょうどアニメが始まるタイミングで（：公式HPに1期2024年4月13日放送開始とあり）。

辻　そうみたい。

――　戦前から2024年まで、シームレスにつながっているところが、本当に…。結構おもしろいですか、最新のものも、そういう『怪獣8号』なり『フリーレン』は。

辻　『怪獣8号』はなりやすいと思います。あれはだから、誰がやっても、ある程度いくなという気がしますけど。『フリーレン』は、僕がやるより、ずっと…。鈴木（：鈴木智尋）さんって方が最初に、シナリオライターの方が、原作通り忠実にやるのがモットーでっておっしゃってるから。ちょっと舐めてかかってたら、たしかに原作通りにやってらっしゃるけど、原作より深いというか。濃いことをやってますね。

――　そうですね。

辻　あれは参った。こないだ、こうの（：こうの史代）さん、『この世界の片隅に』のこうのさんと、それから、怪獣の絵を描く…。

――　開田裕治さん？

辻　開田さん。…と3人で飲んだときに、その話が出たんですよ。開田さんも僕も、ものすごく推しですって言ったね。だから、あれだけ推されたから、こうのさんも、私も見ますって言ってました。その『ダンジョン』は、僕少し違うなと思ったんだけども。でも、僕と違う線だけど、十分おもしろいと思いますし。
『薬屋のひとりごと』は、あれは小学館より、原作二つあるでしょ。もう小学館じゃないほう（：スクウェア・エニックスのコミカライズまたは小説？）、メジャーじゃないほうの原作のほうがおもしろいですね。アニメも十分おもしろいし、それから、テレビアニメの演出の感覚を、視聴者がパッと受け止めるようになったっていうのは、そんなに昔じゃないですよね。だから、『薬屋のひとりごと』は、僕は遅れた。あれ、三頭身の演出家なんですよね、パッとギャグはね。あれはだから、余分じゃないかと、ツイッターでも同じような意見があったんですが。ここまで見ていると、これはこれでいいです。あそこまで、先まで見通したなっていうことで負けました。
本当に…、『僕ヤバ（：僕の心のヤバイやつ）』もうまいな。さり気なくうまいから、癪ですね。これが普通になってるんだろうなと思うんですよね。こっちがヒーヒー言って考えて、考えた末、散々削って、削って、それでできるあがるものが普通になってるっていう感じです。時代が変わったというか、要するに、年をとりました。本当に。まあ、とって当たり前ですもんね。
ありがたいことに、『フリーレン』の人間に対する気持ち、名前なんだっけ、耳の長いの？

――　エルフ。
辻　ああ、エルフ。エルフ族から見て、寿命の短い人間のことをいろいろと言いますよね。僕いくらか、その気持ちわかってきました。

――　アニメのエルフっていう感じの。

辻　僕みたいに、これは見てるの大抵若いだろうなと思うと。まず、80年（：辻真先氏1932年生まれ92歳）ぐらいの違いがありますからね。そうすると『フリーレン』なんかにね、50年前っていうと、フーンってさすがに考える、感心するような、そういうセリフが結構あるんですけど。ここだって、もう50年経ってるんだから。かなり『フリーレン』化してます。

――　インタビュアーの井上伸一郎です。

――　氷川竜介です。

――　本日は、2024年5月28日です。これから、辻真先氏のオーラル・ヒストリーのインタビューをご自宅にて行います。

――　前回は、テレビの草創期から、テレビアニメのお話など、いろいろとうかがってまいりましたが。今回は、1970年代以降を中心にお話をうかがっていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

辻　こちらこそ、よろしく。

――　70年代というとですね、スポ根の時代が終わって、のちに第二次怪獣ブームっていわれるような、変身特撮ブームがありました。71年の1月に、トップバッターは『宇宙猿人ゴリ』（：原作うしおそうじ。フジテレビにて放映）、辻先生の作品が実はトップバッターなので。その作家の経緯とか、実写っていうことで、これまでと違ったことがあったのかみたいなお話から入って行きたいと思うんですが。

辻　僕の場合、実写の特撮も大好きなんですが、円谷プロ（：株式会社円谷プロダクション）のほうでは、僕は高いからとギャラが。そういう話をしたかもしれませんが。いずれにしても、虫プロ（：株式会社虫プロダクション）、手塚（治虫）先生は非常に値を高くつけてくださった、それはとてもありがたいんですけれども。そういう点で、円谷プロがまず、うちじゃ使えないというんで、下りちゃって。
ですが、特撮がだんだんと進んでいきまして、アニメよりもやっぱり特撮のほうが便利というか。あのころは、コンピュータグラフィック（：コンピューター・グラフィックス）もないから、みんなぬいぐるみですから、ぬいぐるみとミニチュアの世界でした。上手につくればアニメよりはラクに安くつくれるということで、結局僕のほうにお鉢が回ってきたのかな。
最初に声をかけてくださったのは、ピープロ、うしおそうじ（：1921～2004。本名は鷺巣富雄）さんですね。漫画家として、もちろん知っておりましたし。世田谷若林の家へもうかがって、とにかく円谷プロでやれないような、ほかでやらないような特撮、非常に時事トピックやなんかを入れてやってみたいというような、それはちょっとおもしろいというか。特撮でそんなものができるのと思ったんですけれども、断るのも失礼というか、言われたら何でもやるというライターだったもんですから。じゃあ、やってみましょうということで、結局、一般的には公害怪獣ものということになっちゃった。
これはなるほど、そういうことでしたら、たとえば自動車事故のあれだったら「クルマニクラス」というような、大変妙ちくりんな名前をいっぱいつけまして。とにかく時事トピック、大変アップツーデートな怪獣ということであれば、ある意味クラシックな、『キングコング』（：1933年）以来の特撮とは違う線でできるんじゃないかということで、やってみたわけです。はたして、それがうまくいったかどうかというのは、やってるこちらは、それまでもそうですし、そのあとも同じなんですが、自分じゃわからないんですよね。
それからテレビ局のプロデューサーや、プロダクションの社長やなんかの顔は変わらないんだけれども、金を出している先が実は時々刻々と変わってるということが、なかなかわかりませんで。べつに聖徳太子の顔が（諸葛亮）孔明になったりするわけじゃありませんので。お金は同じだもんですから、わからなかったんですけれども。
全体に、いま思いますと、最初はプロダクション、たとえば虫プロ、あるいは、ピープロもそうですが、それからタツノコプロ（：株式会社タツノコプロ）といった、つくっている、これは何といえばいいんでしょう、もともと皆さん職業漫画家だったんだけれども、そういう方たちが絵を動かしたいということで、アニメのほうにいらっしゃった。
そのころですと、僕たちはしょっちゅう、いろんな西武線（：西武池袋線？）やなんかの駅、中村橋とか富士見台とか、大泉学園とか、そういうところへしょっちゅう行ってましたですが。だんだんと、そうではなくて、いろいろとスポンサーの問題、あるいは、それと調整するために、広告代理店が大きく絡んでくるということになりますと、次第に仕事場が、そういう郊外ではなくて、街のほうへ。はじめはまだ、たとえば新宿の電話喫茶みたいなところで打ち合わせをしていたんですが、それがもっと銀座のほうへ、場所が変わってきた。
そうなりますと、やっぱり、こちらもよくわかるんですが、勢力範囲というか、スポンサーは次第に郊外から東京のど真ん中のほうに来たんだなと。だから、カッコよくいえば、あれっ、アニメが産業になってきたぞというのが、僕としては、そういう、打ち合わせする場所が変わってきたということで、身に染みてきたということがありますね。
『サザエさん』（：原作長谷川町子。1969年10月よりフジテレビにて放映）なんかは最初から、広告代理店がかなり一生懸命やってましたので、これは最初から銀座。あれは、『サザエさん』のプロダクション、エイケン（：株式会社エイケン）は、エイケンの社長（：村田英憲を指す？※梁瀬との血縁はないと思われます）のお父さん（：エイケンの設立は梁瀬次郎の発案による）は、ヤナセ自動車（：梁瀬自動車1945～※1969年よりカタカナ社名に）じゃなかったかな。ですから最初から、ヤナセのショールーム、西銀座に立派なのがありましたけど、そういうところでやっていたんですが。
それ以外は、原則僕は、銀座並木通りに「ウッド」という喫茶店がありまして、そこでずっと書いておりました。いままで名前が、タイトルにいろいろと出たのは、だいたいみんなそうなんですが。ということは、すでにそのころ、そこで一番最初に書いたの何だろうな。もう『デビルマン』（：原作永井豪。1972年7月～1973年3月。NET（現テレビ朝日）系列にて放映）やなんかは、もう少しあとだと思いますけれども。そのあたりで書いたときには、すでにアニメというのは産業化して、これは隅に置けないなと。いままでは、テレビ番組の本当に端っこ、あるいは、お子様ランチでしかなかったものが、だんだんと真ん中に、銀座通りに出てきたなというのが、こちらとしては、それはわかったんですが。
それ以前に、ロボットやなんかは、いままでですと、お菓子屋さんやなんかがあれで、ロボットは出てきたんですけれども、『鉄人』（：鉄人28号？原作横山光輝。1963年10月20日～1966年5月25日、フジテレビ系列で放送）やなんかは出てきましたけれども。次第に、ロボットをつくる、こちらがハッキリ覚えておりますのはバンダイ（：株式会社バンダイ）さんですね。東映さんとバンダイさんが組んで、雑誌のほうの、マスコミのほうは徳間書店で、『テレビランド』（：1973年2月1日から1997年1月1日まで徳間書店が刊行していた児童向けテレビ番組雑誌）というのは講談社だったかな？
――　いや、『テレビランド』は徳間で大丈夫です。

辻　徳間でしたか。

――　最初、黒崎出版で、すぐ徳間になって。

辻　そうでしたか。あれはだから、ずいぶんいろいろと書きました。何を書いたか、おう忘れちゃってるんですけれども、ずっと書いてまして。それの終わりごろになると、『テレビランド』で、こういうものをやろうという企画をもらって。そのときにはバンダイさんのほうからも何人かいらっしゃって。月世界に基地ができると。その基地をおもちゃでつくっておこうということで、あれはかなり早く、当然、実際の現実にも、アポロ（：11号。1969年7月に月面着陸に成功）やなんかみんなそうだったんで、その後追いというか、この線はきっと。あのころの調子っていうのは、みるみるうちになんか人類が月世界を征服するような、そんな勢いでしたから。それに遅れまいというような形で。だから、ずいぶんこちらも月世界に、基地をつくるんだったら、それがおもちゃになるんだったら、そのおもちゃはだんだんと、お金のある子どもはだんだんと買い増ししてくれるといいだろうというような、そういう大変逆の発想ではあるんですよね。
作品を、良い悪いというんじゃなくて、まず、そういう設定ですね。スポンサーとして売れる品物の設定を考えて、それをアニメ、あるいは特撮のドラマに落とし込んでいくという、ちょっと順序逆だなとは思うんですが。しかし、突然、天から降ってくる設定よりは、こちらが最初から加わったほうが、ホン（：脚本）にするとき楽ですから。だから、それは『テレビランド』のときにずいぶん、バンダイさんと一生懸命やりました。当然やるんだったら、東映さんがやるんだろうなと思いつつやっていたんですが。結局、月の話はうんでもなければ、すんでもないので。そのうち、『テレビランド』はアニメ誌に発展したぐらいじゃないですか。だから、そのあたりのところは、よく覚えています。
僕は実は、『アニメージュ』（：徳間書店から1978年5月26日に創刊された月刊アニメ雑誌）、徳間の尾形（英夫）さん（：『アニメージュ』初代編集長）なんかに言われたとき、まだ早いんじゃないって言ったんですけどね。僕はどうも、そういう点は大変保守的だったもんですから。だから、テレビアニメの専門の雑誌っていうのは、本当に無理だろうと思っていたんですけどね。ところが、『ヤマト』（：宇宙戦艦ヤマト。1974年に読売テレビの制作により日本テレビ系列で放送開始）がめちゃくちゃ当たったもんですから。だから、それ行けっていうんで、実際それで、徳間の尾形さんは、あれは成功したと思いますね。うまくいきましたですね。ほかにずいぶん、秋田書店（：株式会社秋田書店）でもなんでも、あちこち、いろんなアニメの雑誌がずいぶん出ましたですね。だから、ずいぶんあちこちで書かせてもらった記憶はあります。
ですけども、こちらはやっぱりそういう情報のあれは、わかりません。どうしてもやっぱり、自分がつくっている制作プロダクションの関係はわかりますけれども。よその、たとえばタツノコさんなんかの場合だと、全然僕わからないわけですよ。ですからやはり、いま、思い出してこういうところでしゃべるっていうことになりますと、自分がつくった番組、ロボットものというんだったら、じゃあ、たとえば、苦労したっていうことでも覚えているんですが、『コン・バトラーV』（：超電磁ロボ コン・バトラーV。原作八手三郎。1976年4月17日から1977年5月28日まで、テレビ朝日系列で放送）みたいな、あれがたぶん、実寸にすると一番大きいんじゃないですか、50何メートルですよね。

――　身長57メートル。

辻　そうですね。これは大変でかいので、残念ながら、横浜や品川あたりでも実物大というのはつくれませんよね。そういうことを考えずに、『コンV』の第1話が、ずいぶん苦労したというか。そのあたりのお話は、どうでしょう？　したんでしたっけ？

――　それはまだ、うかがってないですね。

辻　なかったですか。

――　東映のたぶん飯島正（：アニメプロデューサーの飯島敬を指す？）さんと。

辻　はい。飯島正さんが、東映さんのほうで、あれはどうせ渡邊亮徳さんだろうと思うけども。東映動画は、いま東映アニメーション（：東映アニメーション株式会社。1956年8月に東映動画株式会社として発足。1998年より現在の社名）ですが。商品化で儲けさせるんじゃなくて、うちでも直にやろうという、そういうことを言いだしたのは、たぶん渡邊さんだろうと思うんだけれども。飯島さん、抜かれたんですよね。抜かれたのはいいんだけど、飯島さん、プロデューサー1人でできるわけがないんだから、だから飯島さんは僕に声をかけて。声をかけてもらって、そうですか、とうとう東映本社（：東映株式会社）が乗り出しましたか。じゃあ、東映動画よりも、もっとでかい、人数も多くて、制作費もなんて思ってましたら、飯島さん曰く、あんたと僕だけしかいないっていうんで。これは困りました。
それで、とにかく企画はもうバンダイさんのほうで、五つに分かれて、そうすると、五つに分かれれば、五つ売れるわけだし。それが合体したところを売れば、六つできるし。それの■■つければ、もっと売れるしという、とにかく数で、それを何とか、そういう設定が最初にありきですけれども。それをやろうというんで、そういう仕事はずいぶんやってますから、いいですよっていうんで、飯島さん相手だからね、気楽に。
でも、監督は誰って言ったら、決まってない。プロダクションどこ、決まってない。何も決まってないんで、ちょっとあれは驚きました。驚いたんですが、驚いてる暇がないから、とにかく書きました。5人なんだからというので、一番最初、5人のその名前をつけるのに、アズマキョウイチとか、浪花十三（：コン・バトラーVの登場人物の名称）はあのときつけたんだな、大阪。名古屋がいつもそういうとき、こぼされるので、名古屋も入れようというんで、ナゴヤマルハチという、マルハチというのは名古屋市の市の紋様からとったんですけど。それで、キョウノミヤミヤコっていうのもつくりましたね。あと、九州のほうもつくったと思いますけども、そういう具合につくりましたけれども、結局それはものにならなくて、ダメだと。プロダクション何も全部ご破算になりまして。
じゃあっていうんで、とにかくプロダクションができるたびに、役の名前を変えてたんですよね。でないと、やっぱり仕事をもらうプロのほうだって嫌ですよね、お下がりだっていうのがみえみえじゃね。だから、せめて名前だけでも変えようというので、何とかプロに話が行くたびに、名前を変えてたんですけど。そのうち、こちらもいい加減、めんどくさくなりまして、いつまで経っても決まらないもんですからね。麻雀でやったときもありましたね。トンナンシャーペイだから、西とか、それから北小介（：コン・バトラーVの登場人物の名称）っていうのは、そのときつくったわけです。最終的に『コン・バトラーV』でゴーっていうことになったときには、その名前のつけ方が混ざっちゃって、何が原則だかわからないという。

――　最初、「マグネスファイブ」とかっていう仮の題名だったと思うんですけど。

辻　いろんな題名つけましたね。

――　それも、いっぱい変わっていったんですね？

辻　ええ。題名そのものも変わってました。

――　超電磁で合体するっていうのは、もう、当時ポピー（：株式会社ポピー）だと思うんですけど、バンダイから持ち込まれたアイデアなんですか？

辻　そうでした。飯島さん、何も言ってくんねぇわな、そんな暇もなかったです。とにかく書かなきゃいけないから、なんべん書いた、書いた、あれは。たぶん、最終的には第7稿までいきました。とにかく、細かいところが変わっていっちゃうんですよね。仕方がないんで。でも、大本の根拠になる、要するにバックアップする博士のほうは、自分でつくっといて変えなくていいだろうというんで。それで、お茶ノ水の隣だから、急行だったら四ッ谷博士（：コン・バトラーVの登場人物の名称）っていうのができたわけです。水道橋博士（：日本のお笑いタレント）なんか、みんなパクられました。
味方の連中は、これはスポンサーによるもんですから、こちらのほうで勝手につくれませんが。敵役のほうは大丈夫だというんで、SF作家を片っ端から使って、たしかキャンベル星ですよね。ガルーダは、あれはシャム（タイ）かなんか、あっちのほう（：ガルーダは、バリ島を中心とするヒンドゥ神話で重要な役割をはたす神獣）の神話に出てくる神様ですが。だから、これを、あのへんが、スーッと顔が変わって、人間だったのがスーッとガルーダの顔になる、あれは大変、理屈が合わない話で。
そんなガルーダなのに、ご本人、自分がロボットだっていうことに気がつかないっていうのは、少しおかしいんじゃないかと、僕なら僕で、僕が自身にツッコミますけれども。第1話書くときは、そこまでできてませんからね。いくつかつくっていくうちに、だんだんと敵役のほうは自由につくらせてくれるんだったら、じゃあ、ロボットの悲哀というか、そういうことでやろう。
それから、あの外形は、あれは安彦（：安彦良和）さんですけれども。『勇者ライディーン』（：1975年4月4日から1976年3月26日までNETテレビ系列で放送）のときに、美形の敵役というのが非常に当たったもんだから、それで通そうという。こっちはひねくれているので、美形のままじゃつまんないからというんで、ガルーダにしたり、それからそれはロボットで、自分がロボットということを知らずに操られたということで、大将軍ガルーダの悲劇という題になったわけですが。
ところが、こちらの敵役のほうの話のときには、まだ、サンライズ（：1972年9月、有限会社サンライズスタジオとして設立）ってなかったんですよね。サンライズだったときもあるんですが、そのときにはまだ、富やん（：富野喜幸（富野由悠季））だったんですよ。具体化したときには、またサンライズに戻ったんだけれども。『勇者ライディーン』がロングランになるという話を聞いて、飯島さんが諦めて、ほかを当たったんですが、結局それが潰れてしまって。ただ監督は長浜（：長浜忠夫）さんに代わっていたんで。その時点で『コンV』は、長浜さんの、サンライズのロボットアニメということで、ようやく確定したんですが。
今度はだから、長浜さんのほうが、ガルーダのほうは気に入らないというか。敵役のほうに、こんなにドラマがあったんでは、ちょっと主役がかすんでしまうだろうというので。こちらはすぐ、まるまるガルーダのつもりだったんですが、長浜さんが来て、結局、ガルーダは1クールで切るということになって。割合そのあと、ごく普通の、いかにもな、敵の強そうな、悪そうな3人組ということになったんですが。
ただ、これは幸か不幸か、実際に蓋を開けてみると、視聴者がガルーダの悲劇のほうについて来たもんだから、このへんは長浜さんすごいなと思ったんですが、パッと切り替えて、今度は尻尾のあるエイリアンですか、という美形は美形なんだけど……。
――　角ですね。

辻　あっ、角だ。尻尾はいつでしたっけ？

――　尻尾はまたべつの作品で。ガルーダ2クールですよね。

辻　角でしたね。

――　ガルーダは2クールで、当時4クールだったんで。

辻　そうでした、そうでしたね。

――　後半の2クールが、ワルキメデスとなんとか、ジャネラ（：女帝ジャネラ。コン・バトラーVの登場人物）とワルキメデス（：総統ワルキメデス。コン・バトラーVの登場人物）と、ちょっと『タイムボカン』（：1975年10月から1976年12月までフジテレビ系列で放映）っぽい。あの太ったのと痩せたのと。

辻　ああ、そうでした、そうでした。あのあたりは、こっちは少しシラケちゃって書いてないもんですから。そのあとの角のほう、角、あれは何でしたっけ？

――　『ボルテスV』（：超電磁マシーン ボルテスV。1977年6月4日から1978年3月25日まで、テレビ朝日系列で放映）ですね。作品名が『ボルテスV』で。美人キャラはプリンス・ハイネル。

辻　『ボルテス』、『ボルテス』まではお手伝いしたんだけど、だんだんとこちらは……。というのは、こちらはSFをやるつもりだったんですけれども、それがメロドラマになっちゃったから、どうしてもうまくいかないので。長浜さんが連れて来たライターの人たちがそういうタイプの方なんです。それはそれで大変わかりやすくて、ある点ウケるだろうけど、こちらがやりたかったもう少しSFライズされたものができないんで、次第に僕はフェードアウトしていったと思います。
『ダルタニアス』（：1979年3月21日から1980年3月5日まで、東京12チャンネル（現・テレビ東京）で放送）のところで、1本か2本やって、それで僕は消えたと思います。始めがよかったけど、終わりは脱兎のごとしになっちゃいましたけども。でも、『コンV』のあのあたりはロボットアニメとしては、私としてはかなり一生懸命というか、7回書いたんですからね、いくら何でも覚えてますよね。
このあたりで変身、これはまあ、みんなロボットなんですが、片一方にライダー的な、等身大というとおかしいんですが、人間の大きさで、ぬいぐるみの怪獣ではない、普通の人間のライダーサイズの変身ヒーローというのが、ずいぶん一方で流行りましたね。あれは、局のほうにずいぶん文句が来ましてね。うちの子どもが真似してケガしたという類ですよね。それは、あんたの子どもが悪いだろうと言いたいんだけど、そんなこと言っちゃいけませんからね
だから、あのあたりから次第に……。それまでは、『アトム』（：鉄腕アトム）とか、『鉄人』のころ、『ジェッター』（：スーパージェッター。1965年1月7日から1966年1月20日までTBS系列局で放送。正式名称を「未来から来た少年 スーパージェッター」とする説あり）のころもそうですけども、割合、子どもたちはちゃんと見てくれて、その子どもの親たちは全然関心がなくてほったらかしになってたんで、割合楽だったんです。あのころですと、平井さんたちの、かなりSF寄りのものを、子どもたちはついて行くわけですよ。もし、あれを親が後ろで見てたら、よくわからんということがきっと出てきたと思うんですけど、幸いそれはなくて、子どもはみんな喜んでくれましたから。
『ジャングル大帝』（：原作手塚治虫。虫プロ制作。1965年10月6日～1966年9月28日フジテレビ系列で放送）の第1話のときも、試写で、大人はサンヨー（：三洋電機株式会社を指す？）の方たちはわからなくても、子どものほうから文句が来たことは一度もありませんから。そういう点では、こっちは安心してたんですが、次第に親が口を出すようになってきました。NHK（：日本放送協会）のころは、最初からNHKだもんですから、親は安心してというか、私にもわかると思って見てくれるでしょうから。『ふしぎな少年』（：1961年4月3日から1962年3月31日までNHKで放送）というNHKの特撮を僕がやったときは、ずいぶん来ました。うるせえのがいっぱい来ました、困っちゃったんですけど。

――　具体的にはどんな声が？

辻　血友病という病気がありますけど、あれは女の子には症状は発現しないんですよ。男の子にだけ出るんですよね。もちろん、原作は医学博士手塚治虫だから、わかり切ってますよね。でも、あの中に出てくる男の子だと思わせておいて、実はそれは女の子が男装してたんですよね。それがわかったときに、しかし、話としては、血友病が怖いという話が続いているわけですよ。
そしたら四国のお医者さんからNHKに電話がかかってきまして。それはおかしいと。血友病は女性には発現しないんだから、これは間違っていると。それはこっちはわかってて、それがオチなんですよと。この子は男装してたんで、実は女性だもんだから、その病気は出てこないんだから、めでたしになるはずなんですけどね。そこへ行く前に、サスペンスとして、当然しばらくは続くじゃないですか。そこが、いかんらしいです。もう黙っていられないみたいな。長距離電話、NHK田村町までかけてきまして。田村町の上の主調整室の偉いさんは、めんどくせぇから、いま番組やってる辻に回しちゃえっていうんで、放送中にその電話が、四国からかかってきちゃったんですよね。あれは困りました。私、口一つしかないんですよね。
デスクに座ってたんじゃ、その電話に出られませんからね。こないだ僕が書いた『馬鹿みたいな話！』（：『馬鹿みたいな話！ 昭和36年のミステリ』）っていうのは、それ出してたんですが、電話が後ろの壁にあるんですよ。だから、その間、誰もキューを出せないんですよね。でも、とにかく、どんどん放送が続いているから、適当にやるよりしょうがないですよね。だから、こういうわけなんだからと申し上げるんですけど、ダメです、いますぐやめなさいって言って。
結局、僕はそのあと放送が終わるまで出られませんでした。だから、どういう番組になったか知りません。わかるわけねぇよね。……というようなのが、この少し、時間的にあとですけれども『Dr.スランプ』（：Dr.スランプ アラレちゃん。鳥山明原作。1981年4月8日～1986年2月19日フジテレビ系列で放送）で、これはお話しましたっけ？　まだ時代が？

――　それいかないと思います。

辻　あれでは、うんちくんが出てくるでしょう、つんつくつんでね。これは絶対文句来るだろうって、フジテレビで謝罪かなんか話しててね。その前にとにかく、似たようなので少しクッションつくろうってね、ヘビがとぐろ巻いてたヘビ、つんつくつん、これをしばらくやって。もういい加減、慣れたろうというころに、うんちくんつんつくつんをやったんです。1日100本ぐらい来たんですね。それで、意外なことに、文句言って来るのは、今度男が多かった。
つまり、アラレちゃんが割合ドタバタなんで、オッサンたちも、これだったら見れるんじゃないかと。子どもと一緒に笑えるんではないかというんで見たらしいんですよね。だから自分の子どもを膝の上に乗せてね、さぁ、きょうはお父さんと一緒に見ような。そしたら、うんこくんつんつくつんやって。それでもう、怒り心頭に発して100本かかってきた、そういう状況に。次第にだから、ある意味、はじめは誰が見ても、そんなものあるかとも思わない、そういうテレビアニメが次第に市民権を、嬉しくないけれども、とにかくお年寄りも見るようになってきたかなっていうことが、わかるようになってきました。

辻　残念ながら僕は、スポンサーとのカイエン（：宴会の隠語？）ありませんから、だから『バカボン』（：天才バカボン。赤塚不二夫原作。1971年9月より日本テレビ系列にて放送）やなんかは、ちょっとありましたけど。東京ムービーさん（：現・株式会社トムス・エンタテインメント）の場合には、スポンサーとのやり取りやなんかは銀座のほうへ行きまして、あったんですけれども。それでも、あのへんのあれで、どうしても僕がしゃべると、おもしろおかしい話になってしまいまして。

――　かまいません、ぜひお願いします。

辻　誠に申し訳ないんですけれども、たとえば、スポンサーをいかに騙すかというのですと、これは僕じゃないです、東京ムービーの藤岡（：豊。1964年に東京ムービーを設立）さんがやった手ですけどね。なるべくおとなしい、およそ赤塚（赤塚不二夫）さんらしくないものを最初にパイロットでつくって。それを大塚製薬（：大塚製薬株式会社）の、そこを通さないと東京ムービーの『バカボン』やなんか通らないんで。だから、そのときに、いまから考えると全然『バカボン』らしくない『バカボン』を見せて。あれ、だからあとで騙されたと言って怒ってたらしいですけどね。
そういう、あの手この手をやりませんと通らないんです。通してしまえば、しめたものという気持ちも、こちらにいくらかありましたけどね。だから、『鬼太郎（ゲゲゲの鬼太郎）』（：水木しげる原作。1968年1月よりフジテレビ系列で放送）なんかでもそうですよね。大変健康な話でしたよ。健康でもないけど、墓場でナイターですからね。とにかく子どもたちが野球やるんだと。相手は妖怪なんだけど、とにかく子どもたちとやるんだから、健康な話でしょということでやっちゃったわけですけどね。とにかく辛いですけどね、わかってるのに騙さなきゃいけないっていうのはね、本当に申し訳……。
しかし、そういうことがだんだん、その必要がなくなってきました。ロボットものやなんかで、ロボットはしかし、あまりに立派になって、高くなっちゃうもんだから、そっちのほうから文句来ないかなと思ったけど。これは親御さん、あんな高いものは出されちゃ困りますっていうんじゃ、いかにうちが貧乏かっていうことになるから、どうもそういう文句は僕は聞いたことありませんね。かなり、でも、あのときは心配だったですよね。『コンV』のときみたいに、これ、一つ買うと、もう使わなきゃいけないよという、かなりあれは悪だくみというかね、悪徳ライターですけどね。
でも、作品自体としては、あれよりしょうがなかったです。とにかく、主役が5人いるんだから。それが合体したところが一ついるんですよ。それから、敵、敵役がいるんだし。こちらのほうの、味方の科学者、お茶の水的な人（：お茶の水博士。鉄腕アトムに登場するキャラクター）がいるんだしっていうことで、いっぱい並べなきゃいけないんで、箇条書きにすると、それだけでいっぱいになっちゃうんで。それをドラマにしろって、アクションにしろってね。
あのときは、ミヤザキ（：NET~テレビ朝日のプロデューサー宮崎慎一を指す？）さんだったんで、NET（：現テレビ朝日）は。ミヤザキさんがおっしゃるには、一つのパターンをつくってくれと言うんですよね。前半で負ける。後半でそれを逆転して勝つ。これがカッコいいんだから、このパターンをやってくれというんで、それで。なお、季節感も出してくれって、あんた、しょうがないから、だから、私はお正月のあれは、これは『コンV』じゃない、『ライディーン』です。

――　『ライディーン』ですね。

辻　『ライディーン』のほうです。正月に回ってきてしまって、ミヤザキさんはそのお話をされるので困りました。前半で敵のためにライディーンが飛べなくなってしまい、後半は空を飛ぶ敵をやっつけなければいけないというときに、工事場に山のように積んであったトタン板をカルタみたいに見立てて、百人一首のようにパッパッパと飛ばして敵を撃墜するという。これだったら季節感があるでしょうと。これは文句が来なかったですね。
とにかく、非常に難しいこと、針の穴を通るようなことを……。もっともそれをやってみるのも、こちらはおもしろいんですよ。『ジャングル大帝』のときにクジラを出してくれという注文がありましたからね。なんでジャングルにクジラを出すんだよと思いましたが、出しましたよ、しょうがない。どうやって出したか忘れてしまいましたけどね。
ジャングルのときは、さっき言いましたように、まだ親からは文句が来なかった。大人が文句をいうのは第1回の試写会のときだけで、助かったんですけれども。子どもからちゃんと投書が来まして、レオは何を食べているんですかという、非常にストレートな質問で、みんなガーンでしたね。すぐそばでコジカやなんかが遊んでいますけど、レオは腹が減ったときどうするんですかというお手紙をいただきまして。ウーンと唸って、どうしようと。
これは確か山本暎一（：日本の映画監督、アニメ監督、演出家、脚本家、アニメーター、プロデューサー、小説家）さんとこちらで唸ったんですよね。唸って、なるほど、あれだけ動き回るためには動物性たんぱく質は絶対必要だと。そういう意味で、今度は若い人たち、アニメーターの人たちに聞いたんです。どのあたりを肉食獣が食べると、ちょっと嫌な気がするかと。そのとき結局、脊椎動物はダメだということになってしまったんですね。『蛸の八ちゃん』（：田河水泡作）は平気で魚を獲って焼いて食べているんですよね。タコが魚を食べるかと思いますが、それはあの当時ですから、そういう文句はないんでしょうけど。
魚ぐらいならいいんじゃないかというつもりだったんですが、それにクレームが来てしまって。ウーンと考えて、私は戦争中とくに美濃のほうではイナゴが常食でしたから、信州の名産ですからね。だから昆虫を食べさせようと。そのときに思い出したのはパール・バックの『大地』（：1931年）です。映画で猛然とイナゴの大群が襲ってくるのが映画のほうのクライマックスでしたね。あれも特撮をやったんだろうな。覚えていませんけれども。
それだったら虫なら、虫けらだったらおそらくそんなのを食べてはいけないとは言わないだろうということで。それで、サブタイトル「きちがい雲」という、アフリカの大陸にイナゴ（：バッタ？）の大群が発生して、それをレオたちが苦労して穴に閉じ込めて、これをずっと蓄えて。ああいうのは、だいたい1回ルールが、野球でも何でもそうです。一番最初に1回とにかく覚えてもらえば、あとは文句が来ないんですよ。ただ全然ガン無視してしまったら、これはダメですし。それはこちらもしたくないので、1回だけその「きちがい雲」の話で、こういうので虫をみんな食べて、ご馳走を食べているという描写をやっておけば、もう大丈夫だろうということで、その後はそういう始末に困る文句は来ませんでした。
だから、ロボットものやなんかでも、それから、さっき言いました公害怪獣ですね。そういうのは、とくに困ったなということはありませんでしたね。ずっと長く、つんつくつんまで、僕はそういう対応に困るということはなかったと思いますね。何かあったかな……。やっぱり、どうしてもこういう話というのは、困ったこととか、それから、金が足りないこととか、こういうのは大学などでしゃべるのは、そういうのばかりウケるんですよね。しくじってばかりいるような気がしますけど。でもまあ、そうですから。
少しまじめに、まじめっていうとおかしいんですが。本（：脚本？）を書いているときにはやはり、まじめに考えなければいけないなと思ったのは、やはり『デビルマン』で怪獣が次から次へと。これは大きくても、小さくても、非常に自由だったんですけれども。これは永井豪ちゃんの発想で、みるみるうちに、本当にみるみるうちに目の前で描いてくれますでしょう。3枚ぐらい、すぐ描いてくれるんです。その中のどれかを使おうということで、話になりそうなものを使うということをやっていたんですけど。
その中で、豪ちゃんは気に入っていたらしいんですけど。カメの甲羅みたいな、でっかい怪物で。

――　「ジンメン」ですね？

辻　ええ。顔がみんな甲羅にくっついたやつです。これはちょっと、どういう話にしたらいいかわからなくてね。あれは僕、失礼したんですが。豪ちゃんはじれったかったんでしょうね、自分であれは『デビルマン』の話の中に使っていますよね。だからああ、なるほどなと。あの中ではやはり、合体するのがありましたね。シレーヌはこちらが言い出したんですけれども。豪ちゃんなんだから、女性の怪物を、妖獣、きれいで怖いというようなのをぜひということで、これはお願いしたんですけどね。それなりに使ったと思うんですけれども。
豪ちゃんはそれを、あのシレーヌに惚れていたオスの怪獣ですか、それと合体して、逆光かなんか、シルエットかなんかで、最後立ち往生させるんです。あれは参りました。ああ、なるほど、こういうのがやはりオリジナリティ、こちらはやはり脚色したシナリオばかりこしらえてしまって。やはり大本が、勉強が足りないなということは非常によくわかりました。
でも、脚本を書いているほうとしては、先ほどのそういうロボット怪獣、あるいは、公害怪獣も、ある意味勉強にはなりましたけれども。それは一般的な漠然とした勉強であって。書いていて1本ごとに、これは自分の栄養になっているなと思ったのは、やはり豪ちゃんとの『デビルマン』のときですね。あれは、やはり真剣勝負という、あちらも真剣になって、とにかく妖獣をつくるわけですよね。その顔を目の前で見ているんですからね。こちらもいい加減にはつくれないですよね。
昨日やった手を、今度またちょっと変えて使うのは失敬だし。それではやはり完全にこちらが負けてしまうことになりますから、それは悔しいですよ。だからね、違う手を、あれこれ、あれこれ考えましたね。だから、あれはとても勉強になりました。しかし、あの中で一番ある意味、逆の意味で勉強になってしまったのは、最終回が二度出てきたやつ（：テレビ朝日及び系列局では38話「妖獣ドリムーン 月は地獄だ」が最終回として放映されたが、それ以外の地方局では39話「妖獣ゴッド 神の奇跡」がラスト放送になった）ですね。
あれは、二度出るなんて、本当に思わないですからね。だから、デビルマンを宇宙まで飛ばしてしまったですね。月まで飛ばしたんでしたっけ。

――　ドリムーンですね。

辻　ドリムーンでしたよね。

――　ドリムーンです。

辻　月は地獄で。ここまでやったんだから、もういいだろうと思ったら、そしたら、旗野（義文）さん、プロデューサー（：企画？）が飛んで来て、ごめん、もう1本あるんだと。えーって、あれはちょっと腰が抜けました。あれを豪ちゃんに頼むわけにもいかないしね。結局、地方局と中央局では本数が1本ずれたということに気がつかなかったわけですから。やらなければならないんで、でも、最終回なんだからやはり、それなりの重みのある話でなければいけないからということで、それでゴッドマン（：「行け!ゴッドマン」1972年10月5日から1973年9月28日まで、日本テレビ系の子供番組『おはよう!こどもショー』内で放送）。ゴッドマンは円谷プロにあるものですから。円谷さんひどいよな、ゴッドマン全然知らなかった。結局、あれ、ゴッドマンって円谷プロで出たんですかね？

――　東宝ですね。

辻　あっ、そうですか。

――　一応テレビで。

――　特撮あります、あれで。

辻　特撮、そうですか。

――　あの回の、ミキの前でね、不動アキラが変身させられるというのは、あれはもう素晴らしい、私的には最終回でしたけどね。

辻　とにかく、二度とやれないことばかりやりましたね。

――　東京では放送されなかったんで、再放送見て、みんなびっくりしたって。

――　さっき、『コン バトラー』のときのお話をうかがったんですけど。結構第1話とか、第2話って、とくにオリジナル、原作ものでも、当時とくに録画機がないので、1話だけでつかまなきゃいけないとか。あるいは、シリーズ全体を回すための設定みたいなの、突っ込まなきゃいけないじゃないですか。そういうときのなんていうんですかね、辻さんなりの工夫とかノウハウ。

辻　『ジャングル大帝』のときは、一番そうだったわけですけどね。『ジャングル大帝』のときは、第1話、とにかく原作4カ月分を第1話24分に入れないと、第2話が書けないという。アメリカからの注文で、要するに、2話が35話になっても、話がわかるようにしろという。

――　入れ替え可能とかっていう、無茶なことがあったみたいですね。

辻　そうですね。アメリカは広いので、放送局があちこちにあって、バラ売りするんです。『オバQ』のときにも聞いていましたが、1本1万円でバラ売りすると。そういうことなんだなと思いましたけど、やはり4カ月分を24分に入れるのはきついですよ。あれ、この話も、ついこの間しませんでした？

――　その話もチラッとうかがいましたね。

――　とくに70年代ぐらいに、第1話をお書きになったのがものすごく多いという話をどこかで読んだんですけど。

辻　つかみでとにかく、設定は全部入れなければいけない。でも、シリーズ構成させてくれれば、おもしろい部分を後ろのほうで出せるから回すということができるんです。シリーズ構成でない第1話だと、とにかく責任を持って全部入れなければならない。それは、一番しんどかったのは『ジャングル大帝』で、それ以後はないと思います。『ジャングル大帝』のことを思えば、4カ月分のことを思えば。
はてな、文春から注文だったのかな、この間……。

――　同じような話を？

辻　うん、文春さんが、この間、手塚治虫と鳥山明の話をしてくれと、文春の方が2人いらしたんです。なんだか不思議な気がして。文春は昔、デラックス漫画のとき、コンパルさんがまだ上司だった頃ですが、編集を手伝わされて。こちらはそれ2冊目でしたが、1冊目がひどくて。放送局と制作プロだけしか聞いていないから、みんな間違っているわけです。たとえば、さっきの『パーマン』が、僕が第1話ということになってしまう。それでは困るので、そんなのよりも、ファンの皆さん方がやらなければダメだと。文春のアニメ特報、『勇者ライディーン』が確か表紙だったと思います。
そしたら、電話がかかってきて、文春の人が「私の言うことは聞いてくれません。こんなくだらないもの、なんで俺たちがやらなければいけないんだと怒っていますが、なんとかなりませんか」と。仕方がないから文春へ行き、そのアニメのムックの編集長さんにお目にかかって。そういうときはいつでもこちら、嫌がる大人には必ず、「あのアルタミラの洞窟（：アルタミラ洞窟。スペインにある世界遺産）をご承知でしょうか？」と始めるわけです。あの何万年前かの、あの原始（：旧石器）人の洞窟には、脚が6本もある牛の絵があると。
これはいま、赤塚不二夫の「ハタ坊」の足と同じですと。これぐらいアニメというのは古いんだというところから始めると、大変偉いおじさんたちは感心してくれます。そのときは文春の方をねじ伏せて。でも、失敗だったと思いました。雑誌が出て売れなかったらみっともないと思ったのですが、98％か何か売れたという完売でした。やれやれでした。そんなことがあった文春さんが、鳥山明の話を聞かせてくれと来るなんてびっくりしました。『週刊文春』（：株式会社文藝春秋発行。1959年4月創刊）ではなくて、普通の『文藝春秋』（：株式会社文藝春秋が発行する月刊誌。1923年1月創刊）ですからね。これはびっくりしましたが、そういう時代になったということですね。
『小説現代』（：講談社発行の月刊小説誌。1963年創刊）の……、これも話していませんよね？　僕は（日本）推理作家協会の賞を獲ったときに、SFの光瀬龍さんは、お祝いにお祝いで一杯飲ませてくれたんです。そのときに、「辻さんね、『小説現代』だけは書かないほうがいいよ」と。なんだろうと思ったら、『小説現代』から書いてくれと言われて書いたら、原稿があって、「これはいただきます、ギャラ払います、出しません」と言われたそうです。SFが何だかが全然わからないらしい。
でも、その後の光瀬龍さんといったら、みんなネームバリューがあるから、よそへ持って行かれたら損だから自分のところで収めてしまう。あれはちょっと、聞いていて辛かったです。でも、『小説現代』は一方では、皆川博子さんなどを出しているわけです。ですから、わからない人にはわからないんだな、SFはね。そりゃそうでしょう。豊田さんがよく書いている、『8（エイト）マン』（：1963年11月～1964年12月、TBS系列で放送）の打ち合わせ、サイボーグの被写体、■■。そりゃそうですよ、みんなサイバネティクス（：サイバネティックス）を応援するなんて、誰もTBSの人たち知りませんもんね。
でも、あの頃に『宇宙少年ソラン』（：1965年5月から1967年3月までTBS系列局で放送）で、TBSに言われて、山手のあたりのかなり高級な小学校へ行くんです。そこへフィルムごと、われわれ行きまして、その子どもたちに『宇宙少年ソラン』を見せて、どういう評判が出るか、それを聞いてくれということで行ったんです。そしたら、子どもたちは『オバQ』の話しかしていなくて、TBSの人たちが気の毒で見ていられませんでした。そういうものなんですよね。子どものほうが先を行っていますよね。
なるべくこちらは、大人の……、いまはそんな偉そうなことは言えませんけど。あの頃はだから、大人の言うことは「はい、はい」と右から左へ聞いて逃がして、できるだけ子どもたちの話をと思っていましたけどね。
これだけしゃべって、どうやっていくの。あかん、ごめんなさい。きっと、こういう調子で、ほかの人とこういうような取材話をするとき、そのとき出てくるんだと思うんですよね。

――　先ほど、金春（：智子。脚本家、小説家）さんのお名前も出たんですが。70年代の中盤をすぎると、かつての辻先生のテレビマンガを見た世代がもう大人になりかかってきてという時代が来ると思うんですけど。そのへんで何か、印象的なこととか？

辻　いまは（日本）脚本家連盟ですが、あの頃は（日本）放送作家協会。そこで、アニメやなんかのシナリオ、あるいは漫画の原作、そういう教室をやれと言うんです。仕方がないからやったんですけれども。そのときに、金春さんが最初に受験に来てくれました。あのとき、パンフレットは今持っていない、なくなってしまったんですが。さっき言ったような、梶原さんたちもそうですけど、あと、いろんな人、手塚治虫とか、実際に教室に来てくれたのは、手塚治虫も来たし、萩尾望都も来たし、竹宮惠子も来たし、いろんな、とてもよかったんですけれども。
でも、あの中で小池一夫さんもパンフレットに書いてくれたんです。でも、小池さんは一度も来なくて、「（小池一夫）劇画村塾」をこしらえて、高橋留美子さんがそちらから出ましたよね。あっ、ずるいと思った。でも、僕のほうは、漫画のほうは、フェニックスだったか何だったか、そういうゲーム雑誌、アニメ雑誌、漫画雑誌の類の社長になった人が、確か、いました。
小説のほうでは、コバルト（：コバルト文庫。集英社の文庫レーベル）で大賞を獲って、そのあと、いまでも続いているんじゃないかな、女性で作家でという方がいます。ただ、この方は、賞を獲れた、その知らせが来たとき、ちょうど子どもが生まれる日だったので、それどころじゃないと怒鳴り返したそうです。でも、たぶんあの人はいまでも、やっているんじゃないかな、いいところに行ったと思いますけどね。
金春さんがそのとき言っていたのですが、辻真先というのはいないんだと思ったそうです。『八手三郎』と一緒でね、大勢の人が辻真先という名前を使って、いろいろと書いているんだろうと思っていたそうです。

――　そうじゃないと、あんな量産ができるとは……。

辻　そうらしいですね。当時、脚本家連盟、放送作家協会で漫画とアニメの教室が頓挫したのは、教室を一番最初に提案した放送作家が生徒の作品をパクってしまったからなんです。これは聞いて悲しくなりました。年を取ると皆書けなくなるものですが、一応脚本放送作家なのに、生徒が書いてきた漫画の原作をパクるなんて。もうその人は亡くなりましたから言えますが、その人が言い出した教室だったんです。
その人は講師を1人も連れてこられず、私が講師を手配しました。一番きちんと来てくださったのは、藤子・F・不二雄さんと、さいとう・たかをさんです。お二人は早めに来てくださるので、こちらもおしゃべりできました。藤子さんは当時、『ドラえもん』の長編を20本描きたいとおっしゃっていましたが、17本で終わってしまい、お亡くなりになりました。
さいとうさんとはSFの話をして、非常に勉強になりました。先生がパクったということで、私はとてもやっていられないので、教室全部潰そうと言いましたが、4～5年ぐらいは続きました。その間でも、いろんな人の話を聞けて勉強になりました。手塚先生の回は、来られないかもしれない、来ても1時間遅れるだろうと思って、虫プロ（：虫プロ商事）で出していた漫画雑誌『COM』（：1967年から1973年まで虫プロ商事から発刊された漫画雑誌）の編集長のイシイさんに来てもらいました。
案の定、手塚先生は30分遅れていらっしゃいました。でも、入って来てイシイちゃんがいるのを見て「私いいんですね」と帰ろうとされたので、待っていただきました。イシイちゃんがいなかったら、30分から1時間、私が持たせなければならなかったところでした。当時のパンフレットが今でもあればいいのですが。漫画家の皆さんは真面目で、全力を尽くして話してくださいました。ただ、確か永井豪さんは「ここまでしか考えなかった」と1時間半で話が尽きてしまい、その後は私たち2人で漫才のように話をして場を持たせました。
古谷三敏さん、『ダメおやじ』（：古谷三敏原作。1974年4月から10月まで東京12チャンネル（現・テレビ東京）で放送）の作者ですが、二度来ていただいて、三度目には「もう話すことがなくなった」と断られました。正直な人だなと思いました。正面からお断りされたのは、ちばてつやさんです。教室の講師を依頼したら「そういう教室やるんですか、いいですね、私生徒になります」とおっしゃって。皆さんそれぞれらしい断り方で、おもしろかったですね。

――　いやいや、ありがとうございます。

辻　何か話さなきゃいけないこと……。

――　あとは、アニメ雑誌以降ですかね。アニメ雑誌の『アニメージュ』ができたのは、1978年なんですけど。辻先生がわりと最初のころ、連載持っていたり。

辻　連載を持っていましたし、『アニメージュ』が始めた「アニメグランプリ」では、5年連続で脚本賞（：1979～1982）をもらいました。5年最長不倒は、作家の安彦さんと、脚本の私だけですね。月世界の話などは、そのあたりの時期です。当時、鈴木敏夫さんはまだデスクでしたが、もう互いにハッキリ忘れてしまいましたし、鈴木さんは社長になられましたしね。
徳間さんは出版社としてはかなり雑駁なほうで、割と外からでも入りやすかったです。ソノラマのよかったのは、あのぐちゃぐちゃの、混沌としたところだから入りやすかったのでしょう。テレビの初期がそうだし、虫プロの初期もそうでした。ああいうごちゃごちゃしたところから、いろんなものが生まれてくるんだなという気がします。
でも、出版は本職ですから、次第に整っていってしまったと思います。整っていくと、だんだんとこちらの出る幕はなくなっていく。『アニメージュ』のグランプリで5年間賞をもらっていたということは、私がまだテレビアニメをやっていた証拠としてわかりますね。

――　82年か3年までということですね？

辻　そうですね。『Dr.スランプアラレちゃん』が最後のヒット作品でした。でも、この前誰かに、第1話の最後は『さすがの猿飛』（細野不二彦原作。1982年10月17日から1984年3月11日まで、フジテレビ系列にて放送）だと言われました。

――　82年かな。

辻　調べてくれた方がいて、『さすがの猿飛』の第1話が私で、それが最後だったそうです。ツイッターでは別の作品という意見もありましたが、『さすがの猿飛』が正しかったようです。自分が第1話を書いたことも忘れていますが、忘れなければやっていられないですからね。

――　そういうものですかね、やっぱり。役者さんとかも全部そういうふうにおっしゃるんでね。

辻　はい？

――　忘れることによって、次の……。

辻　そうですよね。記憶の放出が難しくなりますと、小説では辛いですが。10年ぐらい前までは、普通の人がセリフを言うぐらいのスピードで、タッチタイピングできました。頭の中で字の語彙もだいたいわかっていました。今は、まったくそれができません。指が、特に小指がよくない。一度にキーを三つぐらい押してしまいますし、「ウン」と後退キーが並んでいるので、両方一緒に押してしまい、いつまでも前に進まない。
随分書いたと思って見ると、全然進んでいない。「ウン」と後退を押していただけなんです。小説は以前は早く書けて、登場人物の名前も覚えていました。今は新しいキャラクターが出るたびに考えて、最初に出てきた箇所を何百枚もの原稿から探すことになります。小説を書くのに年を取るのはよくないですね。キャラクター表を前に貼っておけばいいのですが。

――　一覧表とか。

辻　かなり作っていますが、一覧表がだんだん増えてきて、どこに貼ったか忘れてしまう。そのうち天井に貼ることになるかもしれません。テレビの役者さんで、初期には一番大事なセリフを天井に貼る人もいました。紙芝居式にロールでセリフを回していくのは、上田吉二郎さんでしたね。吉二郎さんのお弟子さんは、それが上手にならないとダメだったんです。

――　専任の人がいるわけですね。

辻　そうですね。

――　あと先生がシナリオライターでありながらミステリー作家になっていくんですけど。その作家活動にシフトが移って行くきっかけみたいなのは、どういうことなんですか？

辻　両方ともやりたかったんです。漫画のほうが先だったんですけどね。漫画が数えで五つだから、本当は四つですね。『タンクタンクロー』（：阪本牙城著の漫画作品。主に大日本雄弁会講談社の雑誌『幼年倶楽部』1934年1月号から1936年12月号にかけて連載）からですけども。探偵小説のほうだと、一番最初は江戸川乱歩『少年探偵団』（：1936年『少年倶楽部』に掲載された小説『怪人二十面相』を指す？）ですから、これは昭和11年ですからね。だから、ちょっと探偵小説のほうがあとなんですけど。どちらも好きでしたから、やっていきたかったんです。ただ、僕が小説を書くと、非常に頭でっかちというか、子どもの頭でっかちだから始末が悪いんです。大人の人が読んでも、よくわからないというような。
『仮題・中学』（：1972年 朝日ソノラマ サンヤングシリーズ）では、犯人が読者だという、あれは大人向けの『宝石』（：1946年創刊、1964年まで発行推理小説雑誌ではなく、光文社が版権を買い取った後の1965年から1999年にかけて発行された男性総合誌を指す）のほうの懸賞募集に出したんですけど、筆がすべりすぎちゃって怒られました。まだ、メタミステリなんていう言葉もありませんから。しばらくあとで、『宝石』によく書いている方たちと集まったときにしゃべったら、やっぱりわからないんですね。どうやったら、そんなバカなことができるんだって。あの時点ではやっぱり、僕は出られなかったと思いますので。本的なものでもポプラ社から、もうずいぶん昔ですが、絵話になるおもしろい話を書いてくれというので。
それで、ゴジラが出てきてしばらくあとだったので、怪獣絵やなんか。それから電器屋へ行くと、14インチだと小さな『ゴジラ』が出てきて、大きいあれだと、でっかい怪獣が出てきて、そういう話。それで子どもたちと仲良くするという、そういう話。これがポプラ社では怒られたらしいです。くだらんって。
それからさっきのSF、小説現代って、ダメだったでしょう。小説新潮の編集長さんにも、マルクス兄弟のスラップスティック（：タイトル不明）の試写のときに、ばったり会ったら、これ、どこがおもしろいのか教えてって。小説新潮の名物編集長、長い人ですね。同じようにやっぱり、ギャグはNHKのときにかなり偉い巨匠クラスのプロデューサーがダメなんですよと。

――　ちょっと外の放送が……。広域放送。

辻　ごめんなさいね、スタジオじゃなくて。

――　大丈夫です。

辻　だから、僕のあれだと、小説務まらんなと。漫画やアニメで時間少しずらして、あの年になったから。あれでも、あの『仮題・中学』のネタでも、だから『宝石』程度だったです。ソノラマだから通ったわけですよ。ソノラマの子どもものだから通ったわけですね。
『Dr.スランプ』のときに、局のプロデューサーが代わって、『スランプ』のアラレちゃんのスラップスティックのギャグですね。こちらが、こういうギャグどう？ ああいうギャグどう？って、いろいろ思いつくままにしゃべったら、東映から新しく来たプロデューサー、ワッハッハ、そんなバカなって、全然冗談だと思って。子どもにはそれは冗談って、子どもには新鮮なギャグだと思うんだけど、大人には悪い冗談にしか聞こえなかったらしいです。感覚的にまだダメだなと。そう思ってるうちに、こっちが自分がズレちゃったんだから、ナンセンスですけどね。
おかげさまで、そういう感覚のズレは、自分で多少わかってると思います。本当にはわかってないですけどね。

――　あの『中学殺人事件』のときなんか、最初に犯人は読者ですって一番最初に宣言してるのが、あれが逆にすごいと思いましたけどね。

辻　とにかく、ミステリに出る限りは、みんないろんなことをやってるから、とにかく読者に覚えてもらうためには、人がやってないことをやろうということで、あれをやったんですけどね。そしたら、そもそも活字の世界では、それは通らなかったです。

――　当時の活字の世界では、まだちょっと、そこまでの理解度がなかったと。

辻　そういうことですよね。あまり早すぎてもいけませんし。僕はありがたいことに漫画やアニメでね。漫画のセンスは早いですからね。でも、たとえば永井豪ちゃんの教育軍団が『ハレンチ』（ハレンチ学園）（：週刊少年ジャンプでの連載は1968年8月1日創刊号 - 1972年9月25日）でね、あの話で、あの中のギャグ自体は忘れちゃった、ルネ・クレール（：フランスの映画監督。1898～1981）っていいますよね、『巴里祭』（：1933年）とか、『自由を我等に』（：1931年）、『巴里の屋根の下』（：1930年）の監督。あの人はまだ、実験映画つくってるところなの。もちろんサイレントですけどね。それ、名古屋で、フィルムのコレクターに見せてもらったことがあるんですよね。そのギャグと同じでした。だから、ああ、なるほど、ルネ・クレールとなるとね、永井豪並みなんだなと、サイレント。だから、うん十年前にね、そういう感覚をちゃんと先取りしてるっていうのがわかりましたよ。いま見たら、もうわかんないな。
いま、僕はマルクス兄弟も、『マルクス一番乗り』（：1937年）ぐらいまではわかるけれども、おそらく、『吾輩はカモである』（：1933年。時系列的には古すぎてわからない、という意味？）は、もうわからないと思いますよ。あのギャグ、頭の中でもう一度繰り返してもね、いまじゃ、もう僕笑えないと思いますね。笑いは本当にズレますもんね。どんどん変わってきますよね。
『（週刊少年）ジャンプ』の『高校生家族』（：2020年9月7日～2023年2月20日まで連載）ですか、仲間りょうさんの。あれはギャグ漫画で始まったわけですよ。

――　そうなんですかね。

辻　第1回、あれギャグ漫画ですよ。仲間りょうは元々ギャグものをやった人なんだから。いつの間にかそうじゃなくなっちゃってた。だから、そうなっちゃうんですよね。そうならないと、もう、ある程度の年齢の人はもたなくなっちゃうんですよね。『マカロニほうれん荘』（：鴨川つばめによるギャグ漫画作品。『週刊少年チャンピオン』（秋田書店）で1977年から1979年まで連載）だって、あれだけ続けてしまったら、もう完全に出がらしになってるんですよね。エビスさん（：蛭子能収を指す？）なんて、だから懸命でしたよね。

――　また70年代の話なんですけれども。1970年代ぐらい、だんだん漫画のほうの表現もわりと変わっていって、高度になってくる。とくに少女漫画のほうで、心理描写とかですね、すごく変わってくるんですけれども。そういうものをアニメ化されるときの、何か思い出とかありましたら。

辻　そうですよね。まあ、少女漫画はあのころ、「花の24年組」、竹宮さんは商業誌、連載デビューから僕が原作書いてましたから。だから、よくご承知なんです。そういう点では、それまでやらなかったような分野の、ハッキリ、ベッドシーンがあるとか。美少年もの、少年愛の話ですね。そういうのなんかで、僕の場合だと、あれ、タイトル出て来なくなった……。竹宮さんの、あれなんだ……。

――　『風と木の詩』。

辻　いや、アニメ。僕がアニメにしたやつです。マッドハウスでやった（：製作協力）やつです。

――　真崎守（：漫画家、アニメーション映画の演出家、脚本家、監督。「夏への扉」の監督）さんの。

辻　そうです、そうです。守ちゃんの演出で、丸（：丸山正雄）さんが（：設定）。

――　単純にど忘れというか、記憶のブロックが……。『悪魔と姫ぎみ』（：吉田秋生原作。1981年03月公開）と同時上映の、なんで同時上映が思い出せるんだろう？

辻　外堀を埋めて内堀にいって、なかなか本丸に行かないんですよね。自分の部屋へ戻ればありますけど、わかりますけど。まあ、あれがアニメでは……。

――　『夏への扉』（：竹宮惠子原作。1981年3月公開）。

辻　ああ、そう。

――　出ました。

辻　SFのほうとして覚えちゃったんだよな、『夏への扉』。でも、あんなに長編で、あんなに楽に書けたアニメの脚本はないみたいに。本当に、ほとんどいっぺん書いただけで、それで終わっちゃったんですよね。竹宮さんもよかったと言ってくれるし。守ちゃんが演出のときに、いろいろと工夫したんだとは思いますけれども。原作は微に入り細にわたって、そういう心理描写が書いてあると。
書いてはないけれども、こういうふうなセリフで、こういうふうに人物を出し入れすると、自ずとそのときの気持ちは言わなくてもわかるはずだという、そういう漫画としては非常にオーソドックスな描写で進んでいるものですから。こちらもそれを丁寧に、ただ、あのままだとつかみとか、いわゆるお客さん向けのサービスがちょっとないというところはあったので、そこは変えましたけれども。あとは、もう本当に原作を、それこそ原作に忠実な形でやったと思うんですよね。苦労してないものですから、そのとき書いてるときに、どういうふうにして、どう工夫してというのは出てこないですね。
ただ最近、丸山（正雄）さんが「お蔵出し」ということで、一橋講堂で『夏への扉』やってくれたので。そのときに、あのときの声優さんたち、井上真樹夫さんはナレーションはできませんでしたが、あとの方はみんな、ハンさん（？）まで含めて集まったものですから、いまの僕からすると、あのアニメは作ったときは大変楽しい思い出ということで大事にしております。
ほかに少女ものは、もう一つ、それは『夏への扉』が評判よかったからだろうと思いますけどね。同じ竹宮さんで、今度は光瀬さんの原作の方で・・。

――　『アンドロメダ・ストーリーズ』（：アニメは1982年8月22日放映『24時間テレビ 愛は地球を救う5』（日本テレビ）の枠内で放送）ですか？

辻　いえ、いえ、いえ……。まあ、いいや。すみません。それが同じようなスタッフでやろうということになりましたら、残念ながら、これがさっきの日本テレビの、ちょっと恨みつらみ……、二度にわたって番組の枠が縮まっちゃったんですよね。1時間半が1時間になったのかな。いや、1時間20分ぐらいが1時間ぐらいになって。ここまでは何とかしたんですけど、それをもう一度縮めるというときになって、かなりキレた覚えがあります。二度縮められると、こういう単発の……、シリーズだったら何とか、どこかで埋め合わせがつきますけど、その1本こっきりの、後にも先にもその1本というので、二度にわたって番組の枠を詰められると、いいものにならないですよ。……とは言わずに、やりましたけどね。
やったけれども、あとで、あのころ「鉄腕アトム賞」（：手塚治虫文化賞の正賞。日本のマンガ文化の発展に貢献した人物をたたえる賞で、朝日新聞社が手塚プロダクションの協力を得て1997年に創設）というのがべつにありました、アニメでね。そちらのときに、アニメの票の多かった、アニメプロダクションだったかな、駆け足だったって。当たり前ですよ、そりゃ駆け足になりますね。二度ちょん切られましたからね。駆け足でも筋は通したと思うけれども、僕の物書きとしては、筋が通らなくてもおもしろいほうがいいですよ。あっちこっちちょん切れてても、そのほうがいいという。
戦前の映画なんて、戦後でも、チャンバラ映画なんていうのは、進駐軍の命によって、あっちこっち、ハサミで切られちゃって。戦前の『無法松の一生』（：1943年の映画？）の場合は、一番いい無法松が、奥さん、俺は汚いやつだっていうところが、あれは軍の指令でちょん切られてるんですよ。それでもしかし、名作として残ってるんですよね。
だから、筋がよくわからないけれどもおもしろいものというのはあるんだと。もちろん、筋がわかっておもしろいのが一番いいんですけど。筋にこだわるために、おもしろさをカットするんだったら、それはちょっと順序が違うんじゃないかなという人間なものですから。あまり、こういうのはテレビ向きとは言えないんですけどね。でも、本音だものですから。
そういう点では、『夏への扉』は、まあ、なんとかいったけれども。その次にもう一度、竹宮さんのは、残念ながら惨敗でした。誰が悪いというよりも、僕も悪いけれども、竹宮さんは全然悪くないから、ちょっと申し訳なかったですね。
少女ものでは、あとはだから、心理ものをいろいろと。たとえば僕は、『ベルばら（ベルサイユのばら）』（：池田理代子作。アニメは1979年10月10日から1980年9月3日まで日本テレビ列局で放送）はやってないんだな、『ベルばら』はやってない。『ベルばら』はやってなくて、水野（英子）さんの『ハニーハニーのすてきな冒険』（：水野英子原作。1981年10月～1982年5月、フジテレビ系列で放送）、あれはやってるんですよね。つまり、向き不向きとしては、僕はコミカルなアニメであれば、少女アニメでも全然かまわないんです。でも、メロドラマが正面にきてしまうと、ちょっと女の人のメロでは、僕の感性では無理だろうなという気がしますので、たぶん書いてないんではないかと思いますね。
残念ながら、竹宮さんのはコミカルで、『私を月まで連れてって！』（：1977年から1986年まで掲載誌を変えて連載）という原作があるんですが。これはTCJ（：制作当時は「エイケン」）、『サザエさん』系ですね。そちらでアニメにしようということで、竹宮さんのところまで行って、みんなで打ち合わせしたことあるんですが、どういう都合か、あれはだから、われわれスタッフのほうではなく、おそらくスポンサーか局のほうの都合だろうと思いますけど、潰れました。
少女アニメで、少し……、『アタックNo.1』が、少女アニメというんだったら、それですけれども。あれはスポーツアニメというべきでしょうからね。あと何か、僕何かやってますか？ すみません、そんなものしか思い出せません。

――　本当にうかがいたかったのは、実は漫画ってどんどん、5年、10年単位でどんどん変わっていくじゃないですか。そういうものを、どういうふうに捉えていたのかなというのが、より本当に聞きたいことで。

辻　ああ、それは僕は、僕個人の問題ですけれども。漫画と二人三脚で歩いてましたから。だから漫画が変わっているんだったら、僕も変わってるんです。両方、一緒に変わっているから、変わってるということがわからないんですよね。

――　原作までお書きになってるから。

辻　「花の24年組」以前の、あれで変わったことはわかりました。僕は『少女フレンド』（：1962年から1996年にかけて発行された講談社の少女漫画雑誌）の初期に原作を書いてますから、わかってます。「24年組」そのあたりからは、大島（弓子）さんのなどでも、みんな出ると読んでました。だから、それを昔の少女漫画と比べるということはしませんでした。ただ、大島さんので消化不良なのは『綿の国星』（：大島弓子による日本の漫画作品。1978年から1987年にかけて『LaLa』（白泉社）に不定期連載。アニメ（映画。虫プロ企画・制作）は1984年2月11日劇場公開）です。あれはアニメにしたんですけれど、赤川次郎さんも買ってくれてたんですよ。申し訳ないんだけれども、あれは大島さんと揉めたというか、会わせてくれないんですよ、プロデューサーのほうが。会わせると喧嘩になると思ったんでしょうね。だから、あれは連名になってます、脚本は。辻、大島の連名になってますけれど。
僕の記憶では、あの大島さんの『綿の国星』の、いままで出てきた連載のあの構成だと、最後にこれを持ってくるんじゃなくて、これは前に持って来たほうがいいということを言ったはずです。それが、大島さんは納得いかなくて、また元へ戻した。それが原作通りですから、大島さんとしては自分の土俵に戻したんだと思いますけど。ただ、終わったあと、それは直に聞いてません。でも、本当か嘘かわかりませんが、やっぱり辻さんが言ったとおり、この話は前へ持って来たほうがよかったと、大島さんが言ったとか、言わなかったとか。
もう、そのあたりになるとね、困りますね。そのへんで多少変わってきた。漫画の情勢が変わってきたというより、僕がアニメの中で、そういう言い方は嫌なんだけど、偉くなったんでしょうね。だから、皆さんが文句言って来てくれなくなっちゃったですよ。守ちゃんみたいな、最初から昔から知ってる人はね。それでいつかカドカワ（：現KADOKAWA）で僕が申しましたように、押井（押井守）さん。押井さんがまだ出たばかりで、僕はどうも偉くなっとったらしいです。
『うる星やつら』（：高橋留美子原作。旧版は1981年10月14日～1986年3月19日、フジテレビ系列で放送）のときに、プロデューサーが、だから僕が切ったキャラクターを、押井さんが「このキャラクターほしいから入れてくれと辻さんに言ってくれ」と言ったと思うんですよ。それを押井さんが頼んでたというのを聞いて、ドキッとしたのは、私は本当にあのときは、これはおもしろいんだけれども、これを入れるとほかのところを、いろいろとつまんで構成し直さなきゃならないから、めんどくさいなという気持ちが絶対前に出てました。
それだから知らん顔して出しちゃった。そしたら、押井さんがそこを突いた。こっちはそう思ったんですよ。事実かどうか……。でも、あれは押井さんの言うほうが正しかったです。こっちはズルして、新しい方が出てきてるな。それで、そういう人たちが僕に言うのが、だんだん言いにくくなってるのかなというね。あのときのプロデューサーは、局の人ではなくて、漫画の原作やなんかも一方でやってた人なんですよ。
ちょっとやっぱり、線が細いというか、プロデューサーとしてはね、だったろうと思いますけどね。ちょっと僕に言いにくかったらしいんですよ。うちの若い監督がそういう言い方してましたから。だから、それじゃ困る。
もう一つやっぱり、あのころだと思いますけれども。『アンデス少年ペペロ（アンデス少年ペペロの冒険）』（：1975年10月6日から1976年3月29日まで、NET系列で放送）というのが、これはNETのミヤザキさんが僕の前で、あんなこと言っちゃいかんですよね。「この人は偉いから、この人が書いた通りにカット割りしなさい」って言うんですよね。
それはNETに金もらってるプロダクションとしては、嫌だとは言えんわね。それで、その通りやったわけですよ。私は、『ペペロの冒険』ラストは洞窟の中で、水攻めにあって、次第に水がせり上がってきて、天井にもうつっかえる。さあ、どうなるかという、そういう話なんですよね。どうなるかもクソもない、空気はそれ以上詰まらないんだから、頭にぶつかることはないんですよね。
少しでも穴が開いていたらね、空気吸おうっていうんで、中の人はみんな、全部丹那トンネル、鼻をすりむいちゃったそうですけどね。あれの場合は、空気穴はないっていう設定にしてありますからね、だから大丈夫なんだけど。そこの説明のところがスポーンとないんですよ。そこまでは全部、ちゃんと脚本通りにやりましたと。最後の1～2分だけ、やむなく、入らないから切りましたと。困るんですよね、そういう切り方はね。だから、これは私は無駄に偉くなっちゃったですよ。
ということもあって、好きだけど、つくる側としては早退しようと、早引けさせてもらおうという気持ちが一方でありました。だから、片一方で、ソノラマさんやなんかは、小説書かせてくれるわ、まだミステリはちっとも……。ソノラマ（：ソノラマ文庫。株式会社朝日ソノラマの文庫レーベル）の人たちは、あのSFの人たちは、SFは強いけれども、ミステリのほうが純然たる強いっていう人は、あまりいなかったみたいですね。やっぱり漫画のほうから来てる方たちだもんですから。『仮題・中学』をソノラマで出しても、べつに、ソノラマの中で評判になるわけじゃないし。
編集の人やなんか、あの中に時刻表が出てくるんですけど、時刻表なんて子どもがわからんだろうからってね、わざわざ僕がトリックに使ったところを、時刻表のところを赤丸つけちゃったんですよ。私は、あれは時刻表の中の時刻がネタじゃなくて、時刻表の欄外に出ている駅弁がネタなんですよね。そこをつけられちゃったら……。

――　それはショックですね。

辻　ショックでしたね。でも、あのころの大人はそうだったです。子どもは時刻表なんて難しいものは読まないと思ってるんですよね。子どものほうがよっぽど、よく知ってますよ、テッチャンの連中。……ということがあったんで、ソノラマの場合には、小説は書けるから、アクションとか冒険ものとか、伝奇小説は大丈夫だけど。本格ミステリはちょっと書いてもダメだなと思って、それで、それ1冊だけで。あの文庫になってからですよね。文庫になってから、バッと売れたもんだから、その文庫の続きを書いてくれということになったから。1冊だけ、新書版で出てる。新書版じゃない、もっと……。

――　ハードカバーですね。

辻　ハードカバー。ハードカバーですもんね。

――　あとはですね、ちょっとさっきの金春さんの話にもなるんですけど。先生のところに、ファンとかが結構、ファンレターが来るだけじゃなくて、ファンクラブとかが来るようになったりした時期があると思うんですが。

辻　青山の終わりごろは、小学生や中学生だけでなく、そのころに卒業した連中が、たとえば『幻魔大戦』（平井和正と石森章太郎の共作による漫画および小説を原作とする1983年公開のアニメ映画）の試写の切符などをくれました。カドカワさんのPR広報の仕事を手伝っていたらしい男からもらいました。そういったことで、次第にじわじわと、ちょうど潮が満ちてくるみたいに入って来ました。でも、いまは初めて会った若い方だと、アニメなんて見てないような錯覚を起こしてしまいますが、みんな年代的に当然見ているわけですよね。
昭和41年にブロードウェイに引っ越しました。その前の藤岡さんなんかは、ブロードウェイに引っ越しても、まだ飛んで来ましたよ。
昭和50年になったか、ならないかぐらいに、青山へ行きました。青山で台本などが収拾がつかなくなってしまったので、青山の倉庫にファンの人たちに来てもらって整理してくれました。そのときまでで台本が1500冊。ただし、『サザエさん』などは勘定に入れていないから、1500冊プラスアルファだということがわかりました。倉庫2本買っても、まだいっぱいになってしまったので、気に入ったものは持って行っていいよと言いました。
そしたら、一番最初に持って行かれたのが、筒井康隆さんの『スーパージェッター』の台本「笑うロボットの巻」でした。その次にミステリの人たちが来たときには、江戸川乱歩、国枝史郎、長谷川伸という不思議な組み合わせの合作推理小説『空中紳士』（：土師清二、長谷川伸、國枝史郎、小酒井不木、江戸川乱歩、岩田準一によって結成された耽綺社による連作ミステリ）が次になくなりました。あのあたりで、もう、こちらの珍しい蔵書はみんななくなりました。どうせ、子どもたちもカミさんたちも、特に興味や関心がないから。僕がいなくなってしまったら二束三文で、どこかへ行ってしまうのだから、それぐらいなら、いまのうちに好きな人のところへ行ったほうが幸せです。
あのときに、だいぶ来られたと思いますね。その『幻魔』などの試写をくれたヒロセ君というのも、そのころ結構出入りが多かった。うちのカミさんは口うるさいから、「辻さんいますか」と来るので、「あの男、『先生』って言わない、『さん』って言うよね」と。
僕も、「さん」で結構で、「先生」なんて言われるほど偉くないので。「先生」って威張るのは「先生」で、そういうふうに習ったので、「さん」で通してもらいました。その後、大学などで「先生」と言われるようになって、カミさんによく叱られました。「あんた『先生』って言われるようになったじゃないか」と。そういうことがあるので、まだ青山だったころの最後のころに近いなと。困ったことに、西暦の年号で出ないんですよ。昭和でないと出てこないんですよね。

――　『幻魔大戦』は83年なので、1983年。昭和でいうと58年。

辻　ということですね。そのころはまだ、僕は青山にいて。昭和60年代になると、まだまだ青山にいて。僕自身が仕事部屋を転々とするようになって、浅間温泉へ行ったり。それからいまは熱海で。そのころ僕がいた、住んでいたところは、もうカミさんが死んでしまったし、娘にとられてしまったし。いま、仕事部屋が自分の居住区になっておりますけれども。昭和って何年まで続きました？

――　64年が7日間だけあって。
――　事実上、63年です。『AKIRA』が公開された年が終わりです。大友克洋さんの『AKIRA』の映画が公開された年が、昭和最後の年です。

辻　ああ、そうですか。

――　本当はその翌年、7日間になってしまいましたけど。事実上、昭和最後の大作ですね。

辻　そうか、そういう覚え方もある。

――　そうですね。

――　5年ずらすとね、昭和と西暦が。

――　わりとカウントしやすい。

辻　そううまくいかないですけど。

――　平成元年が『魔女の宅急便』です。

辻　あっ、なるほど。そうですか、『宅急便』が平成元年ですか。

――　そうです。『パトレイバー（機動警察パトレイバー）』の映画と。

辻　ああ、そうか。『パトレイバー』は、僕はあのころちゃんと見なかったんですよ。

――　それこそ、押井さんの出世作で。

辻　逆にあのころ、ジブリなどはきちんと見られました。いまはもう、映画館へ行けません。映画館へ行っても、トイレのことがあるし、無理なんですよね。最初に壊れてしまったのは、ハルヒのあれですね。あれは何年ごろだったですか。

――　結構前ですね。

――　もう10年ぐらい、映画のほうですよね？　10年以上は経ってますね。
辻　2時間以上あったのにな。何かに引っ掛けて覚えないと、無理になってきましたね。

――　当時、中野ブロードウェイに住んでいらっしゃったころって、中野ブロードウェイってものすごく高級マンションの走りみたいな。

辻　中野と言わずに、コープオペラハウス・ブロードウェイ（コープ・ブロードウェイ・センター）と言っていました。

――　レジデンスのほうですね。

辻　マンションという言葉はまだないですから。高級といっても、結局あそこの、原宿駅前のミヤタさんというお医者さんですけど。そこの方が、自分のところの筋向いにコープオリンピア原宿（：コープオリンピア）をつくって。あれが大変、京マチ子さんとか、中村錦之助さんなどが入居して、非常に評判になって。コープ系はそういう、いろんなスターなどを入れるのが使命でした。
もう一つ、あれは最初の億ションですよね。もう一つの億ションというのは、シャトー系です。それは、僕が青山で入ったところがシャトー系なんです。こちらのほうは非常に地味で、そういう人たちは人気があるうちはちゃんと払うけど、人気がなくなってしまうと、いつまでも居座ってしまって困るからというので、そういう人たちはシャトー系は入れなかったという、その二つの系列が当時の億ションだったわけですよね。
三井さんなどは少しあとで、三菱のダイヤモンド系は、もっとずっとあとなんです。要するに、ああいうのはベンチャービジネスです、まだ、マンションというのは。こちらはそういうのが好きなものだから入ったんですけど。ですから、ミヤタさんがコープオリンピアで、慶應へ行っていた息子さんたちがブロードウェイをつくったわけです。
ブロードウェイのほうは、原宿のほうは成功したので、とても高級だといわれました。ですが、もちろんローンなんてないですよ。そんなものはまったく考えておりませんという意識で。現ナマでないと入れてくれない。あそこのパンフレットというのが、2000円しました。ただじゃないですから。当時の2000円ですから、分厚いですよ、立派ですよ。折に触れては、コープブロードウェイ新聞というのをくれるんです、送ってくるんです。ここまで鉄骨が組み上がりましたと。

――　『（週刊）少年マガジン』が50円のころの2000円ですからね。

辻　でも、その2000円のパンフレットは、東京ムービーの藤岡さんと、タシロさんにあげたんです。だから僕は持ってないんです。しまったと思って。入らないということで薦めたんですけど、結局タシロさんは土地を買っちゃった。あのころは、そこのブロードウェイへ行っても、中の内装のときに大工さんが言うんですよね。「あんたまだ若いのに、こんな地面に足のつかない建物買うもんじゃねぇよ」って。私はマンションとか建物が好きですからね。
日吉に初めて自分の家を買ったときは、ポリバス（：繊維強化プラスチック(アクリル)で成型した浴槽）を選びました。まだポリバスは東洋陶器のショッピングセンターにしかなかったころです。今後はポリバスになるに決まってるから、ポリエステルにしてくれと。大工の棟梁と揉めました。当然タイル風呂にしたかったんでしょう。タイルの職人やなんかも、全部まとめて雇ってるわけですから。そちらのほうに仕事を回せないから困るんです。だから、あのころはマンションがいつごろにできたかというのは、外から見てだいたいわかりました。
エアコンもまだろくなのができてない時代でした。コープブロードウェイは、ルームエアコンではなく、全部ホテル形式でした。ファン口、つまり吹き出し口が各部屋についていて、地下に大きなボイラーとか、クーリングタワーは屋上にありました。ホテルやビルと同じやり方なんですよね。今では贅沢といえば贅沢ですけど、非効率的なマンションは、どんな高級なものでもないですよ。
僕がそのブロードウェイを出たのは、中で故障した場合、住人が1人でも反対すると直せないからです。法律がまだ古かった。今はいいですよ。今は3分の2ぐらい賛成すれば、ほかの3分の1が文句を言ってもできますけどね。あのころは非常にうるさかった。冷暖房が壊れて直そうとしたら何億円かかると。これは大変だということで、青山のほうへマンションを買って逃げ出しました。
あのころは、ずいぶん一生懸命、いろいろと調べました。あそこはナベプロ（：渡辺プロダクション）が買って、ジュリー（：沢田研二）がよく来たので、ファンの人が来て、守衛とガードマンと揉めてましたね。こちらも、ガードマンがいて、ガードマンとインターホンと両方あるんです。テレビはあのころないから、オーディオだけのインターホンでしたけどね。
できたばかりのとき、こちらがのこのこ行くと、「ちょっと待て」と言われます。そのころのガードマンは、だいたい警察上がりですから、怖いんです。「あんた、どこだ」って。「テレビ屋ですけど」というと、「テレビって、電器屋はあっちから」と。虫プロの月さん、月岡貞夫もいました。月さんが、うちへ仕事で打ち合わせに来たとき、下から「おーい、辻さん、迎えに来てよ。俺、入れてもらえねぇんだよ」って。ひどい格好で来るもので、草履履きかなんかでね。しょうがないから迎えに行って。送って行ったら、駐車場に彼の車があるんです。そこまで行ったら、さっき怒ってたガードマンがなでたり、さすったりして。ものすごく高級なものですからね、あのへん。赤塚さんがベンツを買いましたよね。ジョージ秋山さんも、なんか高いの買ってます。だから、その時期だから、高級な車を草履履きで運転しないでよって。
あのあたりは結構、床屋さんが、散髪してもらうほうが動くんじゃなくて、前の床屋さんが動かすと、栓が出てきて、お湯が出てくるという、あれを初めて見ました。すげぇなと思ったんですがね。そういうのがいっぱいで。だいたい、ああいうところへ行くと本当に、田舎育ちだということがよくわかりますよね。NHKに入るまで、水洗を知りませんでしたからね。
マカロニグラタンは、NHKの隣の三井物産館で初めて食べて、世の中にこんなおいしいものがあるかと思いました。ティッシュペーパーも、一応使って、どうしたらいいかわからない。あれは丸の内ホテルで、番組の終わったあとの打ち上げだったんですが。しょうがないから、そーっと前のように畳んで、同じところに置いておきました。まさか捨てるなんてもったいない、とんでもないという時代でしたからね。
名古屋の遠いところから来て、NHKへ入って、ブロードウェイなんかに行くと、もうどんどん、みるみるうちに違うんですね。今また、ブロードウェイは大変僕向きになりましたけどね。
――　「まんだらけ」が支配してしまったんで。

辻　あんなに「まんだらけ」になるんだったら、僕ずっとあそこに居たな。

――　確かに、下へ行くと、戦前の漫画から全部ありますからね。

辻　そうですよね。あのころはやっぱり、ちゃんと名店街になって、最初。

――　そうですよね。

辻　文明堂とかなんか並んでましたよ。あそこの屋上は、それはミヤタさんの息子の趣味なんでしょうね。日比谷公園的な部分があったり。長い池があって、噴水があって。それで、一方で、小さいけどゴルフの練習場があって。それから、小さな動物園がありました。一方で、プールが、20メートルプールが屋上にありました。

――　今でもアニメをご覧になって楽しまれている、漫画もアニメもご覧になって楽しまれているじゃないですか。

辻　ええ。

――　ずっとある意味、ずっとファン的な目線も持ちながら、作家もやられてということでは、大変珍しいと思うんですが。そこらへんを、なんか……。

辻　もう残念ながら、ギリギリまでトムスさんのおかげで、『コナン』と『ルパン三世』をやれたんですけども。もう、打ち合わせに行かなければならない長期番組ですと、どうしても文芸担当の方が目の前にいてくれないと、「それ15年前にやったよ」とか、「それ3年4カ月前にやった」と言われたら、考えてもどうしようもないですから。だから、つまり1人ではできない仕事についに……。いや、前からそうですけどね。本来そうなんですが。
前は、自分の歩いてきた道が獣道でしたから、そういうことはなかった。今はもう、振り向けば高速道路みたいになってますから。だから、そこの高速道路がどういうふうに凸凹だったかということが、わからないと、次を書けません。残念ながら、もうアニメの場合、見るのは好きですし、これは五つ、六つのときに、別にそれが仕事になるとは夢にも思わなかったけれども、ちゃんと見てたわけです。同じことで、結局だから、繰り返しなんだなという、そういうつもりで見ております。
それから、見てないと、感覚的にどんどん摩滅しますから。それこそ、思い込んだらってど根性をやるんじゃなくて、根性全然なくても、気楽にヘラヘラと見てられます。小説、本と違って、ページめくらなくてもいいし。それから、目が痛いといっても、なんとか30分ぐらいまでは我慢できますので。ですから、ちょうどテレビアニメだったら、残念ながら、そういう意味で、劇場アニメは、もうちょっと無理なんですけど。テレビアニメでしたら、今の一番の旬のところに、まだ食いついていけるだろうなと思うので、食いついております。そのうち、歯がダメになって、しゃぶるだけになるだろうと思いますけどね。

――　どうもありがとうございました。最後のセリフが、また見事にセリフになっているような、見事でございます。

辻真先

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