――インタビュアーの井上伸一郎です。

――氷川竜介です。

――本日は、2024年４月２日です。これから高橋望氏のオーラル・ヒストリーのインタビューをドワンゴ東銀座オフィスにて行います。じゃあ、よろしくお願いします。

高橋：お願いします。

――では、高橋さんのキャリアから伺っていきたいんですが。まず、徳間書店（：株式会社徳間書店）に1983年に入社するということで、出版社である徳間書店に入社を希望した、そのきっかけから伺いたいんですが。

高橋：そうですね。元々、大学時代から、自主映画を作ったりしていたんですけれども、それを直接仕事にしようとは思ってなかったんです。普通のサラリーマンにはなりたくないと思っていて、ちょっと変わった面白いことしたいなと思うと、それはやっぱりマスコミかなと思ってですね。出版社と決めていたわけじゃないですけど、マスコミにどこか入れたらいいなと思って、何社か受けたところで、みんな落ちちゃったりしてですね。たまたま、徳間書店が一番試験が遅かったんです。だから、試しに受けてみようかと思って受けたら、気を抜けて受けたのが良かったのかわかんないですけど、社風が合ったのかもしれませんけど、トントン拍子に内定が出て合格したという形です。徳間書店が『アニメージュ』（：徳間書店から1978年5月に創刊された月刊アニメ雑誌）とか『テレビランド』（：徳間書店（1973年11月までは黒崎出版）が1973年2月から1997年1月まで刊行していた児童向けテレビ番組雑誌）を作っているということはもちろん知ってたんですけど、別に、だから受けたというほどのものではなかったです。もうちょっと漠然と、マスコミならいいかなぐらいの感じで入ったという感じです。

――最初に、配属は『アニメージュ』だったんですか？

高橋：最初は『テレビランド』だったんです。

――『テレビランド』だったんですか。

高橋：ええ。僕は、中学生、高校生ぐらいのときに、実は『テレビランド』を、幼年向けのテレビ雑誌ですよね、それを実は愛読していて。そういう人、多かったと思うんですけど。ほかに雑誌がないので。『アニメージュ』というのはないですからね。だから、そこで、『テレビランド』と『テレビマガジン』（：講談社から1971年11月に創刊された無臭学事向け月刊テレビ番組雑誌）、講談社（：株式会社講談社）の『テレビマガジン』というのを毎号買って、恥ずかしいけど買って、そこで「グレンタイザー」（：「UFOロボ グレンダイザー」永井豪作・原作の漫画、および1975年10月から1977年2月までフジテレビ系列で放送）とか「コン・バトラーV」（：「超電磁ロボ コン・バトラーV」1976年4月から1977年5月まで、テレビ朝日系列で放送）とか、「宇宙鉄人キョーダイン」（：1976年4月から1977年3月まで、TBS系列で放送）とか、そういう当時のテレビ漫画の情報を熱心に入手していたんです。
そういうのがあったので、『テレビランド』に関して、すごくイメージがあったんです。ただ、『アニメージュ』に関しては、読んでましたけど、そんなに熱心な読者ということじゃなくて。僕はアニメ誌に関しては、むしろ、『アニメック』（：ラポートが1978年から1987年にかけて発行していたアニメ雑誌）とか『OUT』（：『月刊OUT』みのり書房が1977年から1995年にかけて発行していたアニメ雑誌）を読んでたので、そんなに強く、好きというほどじゃなかったんです。オリエンテーションみたいなのがあったときに、どちらかというと、『テレビランド』のことをいろいろしゃべったんですよね。そしたら、会社の上層部が面白がって、じゃあ、入れてみるかということで、『テレビランド』に最初は配属されたんですけど、半年しかいなかったです。
半年たったときに、局内異動なんですけどね。当時、第２編集局というのがあって、そこが『アニメージュ』『テレビランド』『リュウ』（：徳間書店から1979年5月から1986年5月にかけて刊行された漫画雑誌）というのを作ってたんですけど、それで『テレビランド』から『アニメージュ』に局内で異動があって、半年たって『アニメージュ』に移ったという、そういう流れです。

――異動のきっかけとか。例えば、半年、研修期間的にやられたとか、そういう感じなんですか？どういうきっかけで異動なさった。

高橋：そうですね。一応、理由として挙げられたのは、当時、『アニメージュ』の編集部というのが、今もご健在ですけど、ユカリ（：田居因。たいゆかり、現ジブリ出版部）さんとか、後は、小林智子さんとか三ツ木早苗（：日本のアニメプロデューサー、編集者）さんとか、女性主流だったんですね。トップの編集者の尾形（：英夫。アニメージュ初代編集長）さん、副編集長の鈴木（：敏夫）さん、後、亀山（：修）さんというのはいたんですが、後は女性が多かったんです。だから、女の子ばっかりだと雑誌が偏るから若い男を入れようみたいな、そういうわりとくだらない理由で決まったみたいなんです。ただ、それは表向きの理由だったかもしれません。鈴木さんはかなり早い段階から僕のことは知ってて、変なやつがいるということは意識してて、局内ですが異動が決まったときには、もう、最初からそういう感じだったので。そもそも、『テレビランド』にいるときから、ほぼほぼ部下のように扱ってましたけど、正式に異動になって、鈴木組に入ったみたいな感じでしたね。

――『アニメージュ』編集部では、どんな記事を担当なさってたんですかね？

高橋：僕は、いろいろやったんですけど、大きく分けて二つあって、一つはサンライズ（：1972年設立のアニメ制作スタジオ。現在は株式会社バンダイナムコフィルムワークスはブランド）ものですよね。サンライズものは、僕が『テレビランド』に入ったころ、「ダンバイン」（：「聖戦士ダンバイン」1983年2月から1984年1月までテレビ朝日系列で放送）が終わって「エルガイム」（：「重戦機エルガイム」1984年2月から1985年2月までテレビ朝日系列で放送）が始まるころだったと思うんですけど、サンライズものは一通りずっとやっていた。それは、わりと自分が好きでやってましたね。特に一番力を入れたのが、「レイズナー」（：「蒼き流星SPTレイズナー」1985年10月から1986年6月まで日本テレビ系列で放送）ですね。髙橋良輔監督の「レイズナー」はすごく力を入れてやっていたんです。
後は、当時、副編集長、鈴木さんからいろいろと特命が飛ぶんですね。これやれ、あれやれってね。それはわりと……。まあ、これを言うと、鈴木さんは違うと言うんですけど、誰でもよかったんだと言うんだけど、それなりに買われてたと思います。だから何かこう、鈴木さんのところに新しいオーダーとかオファーみたいなのがくると、大体、僕のところに、お前やれよという形でやらされることが多かったです。
それで、鈴木さんから言われてやったもので、わりと印象に残っているのは、例えば、後にアニメにもなった、『デジタル・デビル・ストーリー』（：OVA『デジタル・デビル物語 女神転生』は1987年3月、徳間書店より発売）とかね。西谷史（：小説家）さんという方の小説で、持ち込まれた企画だったんですが、鈴木さんがお前やってみろと言って振られてアニメージュ文庫という文庫で出しました。（：『Ｚガンダム』などで活躍した北爪宏幸さんがイラストを描いてくれたこともあり人気シリーズになりましたね。）

――では、印象に残っている特命とか、『デジタル・デビル（・ストーリー）』以外はどんなものがありましたでしょうか？

高橋：アニメグランプリ（：アニメ雑誌『アニメージュ』が主催する日本のアニメーション作品を対象とした賞。読者の人気投票によって各部門の受賞が決定される）とかですね。アニメグランプリの記事です。グランプリそのもの（：当時武道館で実施していたイベントのこと）は小林智子さんという女性の編集者がやっていたんですけど、（：肝心の雑誌の記事のほうが）マンネリ化しているということで、これを立て直してくれと言われました。やったことは、今読むとよくみんな怒らなかったと思うんですけど、作品ベスト10やキャラクターベスト10、当時は演出やアニメーターなどの作り手のベスト10もあって、その結果に対して、それまではただ載せていて、せいぜい読者のコメントをつける程度でした。そのとき、鈴木さんと相談して、編集部からできるだけ忌憚のないことを書こうと言って、各部門に関して（：自分が）どう思ったかをストレートに書きました。例えば歴代ベスト10で「宇宙戦艦ヤマト」（：1974年に日本テレビ系列で放送。映画版は1977年に公開）は常に上位だったんですけど、僕が担当した年からすごく下になったんです。そのときに、「さらば、宇宙戦艦ヤマト」というタイトル（：アニメージュ1984年6月号の第6回アニメグランプリ特集の総論コラム。タイトルは「平均16.2歳のアニメファンたち　「ヤマト」は遠くになりにけり……」で、総論の締めくくりが「さらば、宇宙戦艦ヤマト」）をつけました。長い間アニメブームを牽引してきたヤマトが、今の中高生ぐらいのファンの読者からちょっと抜けてきた、これは一つの時代の変わりだということを書きました。また、「クラッシャージョウ」（：高千穂遙原作、安彦良和監督。アニメ映画は1983年3月12日に松竹富士系にて公開）が当時人気でグランプリをとったんですけど、当時の編集部ではなぜそれがグランプリだったかわからなかったんです。「クラッシャージョウ」は確かにいい作品ではあるものの、そんなにすごい人気作や名作というわけではありませんでした（：それまでは、人気テレビアニメやその劇場版がグランプリを受賞していた。テレビシリーズや人気原作マンガが元にあったわけではない劇場用オリジナルのアニメ映画が一位というのはそれまでの常識とは外れていたというようなこと）。それで僕が書いたのは、今のアニメファン、読者にとっては安彦良和がもはや伝説の人になっているのではないか、ということでした。「ガンダム」（：「機動戦士ガンダム」テレビアニメの放送開始は1979年。安彦がキャラクターデザイン＆アニメーションディレクターとして中心となって支えた）がヒットしてからだいぶ経っているので、（：今の若いファンは、安彦のことを）自分より前の世代が熱狂していた伝説的アニメーター、作家だと思っていたところ、その人が久しぶりに作った（：監督）作品ということで、今のファンが（：伝説的な作家が自分たちに向けて新しい作品を作ってくれたということで）応援したのではないかということを書きました。これは普通の編集者だったら書けなかったと思います。当時の『アニメージュ』は、アニメに詳しい人が編集部にいたわけではありません。編集部の周りには若い学生アルバイトの人たちはたくさんいましたが、編集者自体は徳間の社員なのでそんなに詳しくありませんでした。編集部を代表してある種のコメントができるというのは、ちょっと特殊なパターンだったと思います。それをやっていて面白かったですし、鈴木さんの期待もあったと思います。よく通したなと思います。それは思い出に残っています（：多少行き過ぎがあったとしても若い者に自由にやらせる、何かあったとしても責任は上が取る、編集部にはそういう空気があったというような意味）。

――当時の正社員の方々と、２階の住人（：大塚英志「二階の住人とその時代 転形期のサブカルチャー私史 」　2016年、星海社新書。徳間書店編集部を語った書籍）といわれた『アニメージュ』のライターの方とかフリー編集者の方、混在していらっしゃったと思います。大体、どんなムードだったんですかね？当時の編集部って。

高橋：完全に二分化していて、編集会議は基本的に社員プラス常勤のスタッフ2人ぐらいのメンバーでやるんです。ただ、これも面白い話なんですが、当時の『アニメージュ』、僕が入ったころは、いわゆる2階の住人的なフリーランス、ほとんどが学生でした。池田憲章さん、徳木吉春さんを筆頭にしたフリーランスの学生アルバイトで、ライターのような編集者のような、単なる居候のような人たちが十何人かいて、隣の小部屋にいつもこもっていました。原稿を書いたり、アニメを見たりしていました。編集会議が近づくと、僕は主に自分で考えたんですが、例えば大先輩の亀山さんのような編集者は、編集会議の前日に池田憲章さんをソファとか喫茶店とかに連れ込んで、来月何をやったらいいのかを池田さんに聞くんです。池田さんが話したことを亀山さんが全部メモをとって、編集会議で言うんです。そういう二重構造だったんです。当時の『アニメージュ』は、僕が入った頃、全体の大きな方針は尾形さんを編集長とし、鈴木敏夫さんを副編集長、デスクの亀山さんの3人がトップでした。尾形さんは自分から雑誌の企画をやりたがる人ではありませんでした。編集会議は出るものの。鈴木敏夫という人は面白い人で、この人も自分からやりたいことを言わない人でした。どちらかというと、人に言わせて、その中から選んでいくというタイプでした。亀山さんは池田さんから聞いたことをそのまま言うような感じで。他の編集者は、例えば小林智子さんの場合、自分の配下から聞いたことを話したりしていました。
この二重構造によって、当時の『アニメージュ』は20代の、やや専門的なアニメファンの気持ちが濃厚に反映されていたと思います。もし編集者側に主導権があったら、逆にそうはならなかったでしょう。編集者側がその調子だったからこそ、逆にダイレクトに気持ちが伝わったんです。その仕組みをつくったのは、結果的には鈴木さんでした。鈴木さんは2階の住人と後に呼ばれるフリーランスの人たちを大事にし、そういう人たちが巣くっているのをよしとしたから、それが逆流していったんです。その仕組みを考えてやったかは怪しいですが、この二重構造によって『アニメージュ』は非常に活気があり、変に啓蒙的にならずに済みました。
編集者側が強い意志と知識を持っていたら、それで方向性を決めていったと思うので、そうはならなかった。むしろ、ファンに近い意見を取り入れ、それをどう形にするかということで本を作っていったので、ある時期は二重構造が非常にうまく働いたと思います。
ただ、これは僕が入って84年、85年ぐらいまでが、ある種の黄金期でした。(：以後は)アニメ自体もヒット作が出なくなったりして、下降気味になったこともありますし、肝心のトップの3人、尾形、鈴木、亀山は、雑誌作りよりも宮﨑監督らのアニメーション映画を作るほうへ力を注いでいきました。『風の谷のナウシカ』（：原作は1982年から『アニメージュ』誌上にて発表。アニメーション映画は東映配給で1984年3月11日に公開）を作って大成功し、『ラピュタ』（：「天空の城ラピュタ」東映配給で1986年8月2日に公開※スタジオジブリ制作映画の1作品目）、『トトロ』（：「となりのトトロ」東宝配給で1988年4月16日に公開）、『火垂る』（：「火垂るの墓」高畑勲監督。東宝配給で1988年4月16日に公開）を作っていきました。
そうなると、雑誌のほうはお留守になるところがありました。その辺で『アニメージュ』は、迷走というほどではないですが、僕が入ったときのようなわかりやすい活気は薄れていきました。僕はどちらかというと不満で、なぜ鈴木さんはもっと真面目に雑誌をやらないのかと思っていました。僕は編集部を背負っているつもりでいたから、もっとファンの気持ちに沿った雑誌を作るべきだし、もっといろいろできることがあるんじゃないかと思って、実際そうしましたが、時代もあり、だんだん収束気味になっていったという流れでしょうか。

――85、86年ぐらいから、いわゆるジャンプアニメが強くなってきて、他社の版権ものを表紙に出せなくなったりするので、アニメ業界全体が活性化していないわけではないけれど、オリジナルが減っていくということと、ちょうど合っている。
高橋：ちょうど合っていますね。氷川さんがいつもおっしゃっていることと関係ありますが、一つだけ見ているとわからなくなって、『アニメージュ』の立場で言うと、アニメ界は衰退気味だったと思います。84年、85年、86年あたり。ただ全体で見れば、むしろ活況を呈していたのかもしれません。これはよく言われることですが、今の人はピンとこないかもしれません。当時のアニメ雑誌は何で持っていたかというと、オリジナルのテレビアニメでした。いろんな理由がありますが、最たるものは当時、（：出版社同士の）ページ規制があって、他社作品、ジャンプや小学館の原作作品は、アニメ雑誌では扱いづらかったんです。「うる星やつら」（：初代テレビアニメシリーズは1981年10月から1986年3月にかけてフジテレビ系列で放送）なんか大人気でしたが、アニメ雑誌ではあまり扱えませんでした（：映画版の公開時などに制作のキティフィルムと交渉して例外的に表紙を含めて大きく扱えることはあった）。（：原作を掲載している）小学館（：株式会社小学館）から見ると基本的にはアニメ雑誌側は同じ出版社ということで競合他社にも見える。なので他社に対して、もちろんアニメのPRになるから協力はしてくれますが、制約がありました。表紙はできないとか。そういう状況がずっと続いていて、『アニメージュ』に代表されるアニメ雑誌は何を求めていたかというと、制約なしに自由に扱える、表紙もできる作品が欲しかったんです。それは原作を持たないテレビオリジナルのアニメ、シリーズアニメでした。シリーズである必要があったのは、雑誌は年間を通じて出すものなので、単発の作品だけではもたないんです。1年、2年とずっともつような、人気が継続する作品が欲しかったわけです。それの代表作がもちろん、「機動戦士ガンダム」でした。「ガンダム」に代表される、雑誌原作を持たないオリジナルのシリーズで、しかも当時のアニメ雑誌は中高生中心ですから、思春期の少年少女が自分の作品として受け止められるようなタイプの作品が一番よかったんです。このフィルターにかかる作品、しかもいいものでなければならないから、そんなに多くはありません。簡単に言うと、「ガンダム」ですね。「機動戦士ガンダム」（：1979年4月から1980年1月にかけて名古屋テレビ・テレビ朝日系列で放送）です。その後が「マクロス」、「超時空要塞マクロス」（：1982年10月3月から1983年6月にかけてMBS・TBS系列で放送）です。「ガンダム」「マクロス」がそれに完全にはまった作品で、ロボットアニメはよかったですね。これはいろいろ理由がありますが、ロボットアニメはよかった。後、少し小粒なものとしては、「ゴーショーグン」（：「戦国魔神ゴーショーグン」1981年7月から同年12月にかけて東京12チャンネルで放送）などもありました。そういったものによって、アニメ雑誌は支えられていたんですけど、アニメ雑誌が扱いやすくて、思春期の子どもたちの気持ちに沿っていて、なおかつ質の高いアニメがやはり減っていったんです。それ以外のものは確かに減ってはいなかったと思います。ただ、それはアニメ雑誌としては、変な言い方すると、ないのと同然なので。例えば、「聖闘士星矢」（：車田正美原作。アニメは1986年10月から1989年4月にかけてテレビ朝日系列で放送）などはすごい人気があったけれども、扱いづらいんですよね、アニメ雑誌では。その意味で言うと、アニメ雑誌の上昇と下降みたいな問題とアニメブームそのものとは完全には一致してないので、確かにそうすると、丁寧に分析する必要があると思います。ただ、僕個人は、「ガンダム」の続編である「Zガンダム」（：「機動戦士Ζガンダム」1985年3月から1986年2月にかけて名古屋テレビ・テレビ朝日系列で放送）は僕が居るときに出てきたんですけど、いまいち人気が出なかったし、後になって「Zガンダム」の価値はずっと高まっていくんですけど、僕が実際やっていたときは、思ったほど人気が出なかったというイメージでした。僕がというよりは、業界としてね。それで、ほかに続くものもあまり出てこないし。『アニメージュ』と僕個人と、それから池田さんが応援したのが、『オネアミスの翼』（：「王立宇宙軍 オネアミスの翼」東宝東和配給で1987年に公開。ガイナックス制作）ですね。これはさっき言った、テレビシリーズではなく劇場映画ですけど、山賀（：博之）さんという監督でガイナックス（：1984年12月、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の制作を目的として設立されたアニメーション制作スタジオ）が作るということで。これは、いろんな意味で『アニメージュ』の考え方に沿った作品だったので、テレビシリーズではなかったけれど非常に力を入れて応援しました。大変いい作品だったし人気もあったと思いますけど、劇場作品なので、それをベースにブームが起こるということにはならなかったですね。そんなこんなで、僕の在籍している間は、（：アニメ雑誌的なブームは）少しずつ緩やかに沈静化していく歴史という感じでした。その中で、上層部の人たちは自分たちのアニメを作るほうに突っ走っていって、僕個人は鬱々とした気持ちで、何かもうちょっとあるんじゃないかみたいな気持ちでずっとこうやっていったという、そういう歴史でした。

――非常に今の話で象徴的だったのは、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』が公開される直前だと思うんですけど、『劇場版 エースをねらえ！』（：東宝配給で1979年9月8日に公開）が表紙（：1987年1月号）になったじゃないですか。

高橋：はい、はい。

――当時からしてもう既に8年ぐらいたってたのかな。

高橋：そうですよね。

――そういう、旧作を発掘するというのを始めたので、えっと思いながら、個人的にはうれしいけど。

高橋：そうですね。
――そういう状況なんだと思ったり。

高橋：僕が入ったころ、もう既に、うる星やつらブームですら終わりかけてたんですよ。それで、もちろん、マクロスブームも、その（：僕がアニメージュに加わった）直後に劇場版（：「超時空要塞マクロス　愛・おぼえていますか」東宝配給。1984年7月21日公開）ができるし、「うる星やつら」は『うる星やつら２ ビューティフル・ドリーマー』（：東宝配給。1984年2月11日に公開）ができるんですけど、結局、それは終わりの始まりだったんですよね。それ以降は、それほどの作品は出なかったと思うんです。結果的に言ってね。ずっと、僕は、そういう中にあっても、いろいろ扱える作品はあるという派だったから、いろいろと言い続けたけれども、なかなかうまくいかないときに、あの「エースをねらえ！」の特集は僕が言い出したということよりは、それこそ、鈴木、亀山ラインから出てきた特命事項なんです。編集会議の前か後かには、徳間書店のビルの2階に『アニメージュ』の編集部があるんですけど、その上か下かが広告部か何か。深夜だともちろん誰もいないんです。誰もいないんですが、鈴木さん、亀山さんが別の階でこもって、2人で密談をしているんです。密談をしていて、僕は編集部で深夜も当然原稿とか書いていると、突然、「高橋、来い」と呼ばれて、「来月だけどさ」と。企画会議ではおそらくもうちょっと普通の企画も出ていたと思うんですけど、それは鈴木、亀山はよしとしなかった。これをやってもしょうがないと思うから、旧作特集がいいんじゃないか、「エースをねらえ！」がいいんじゃないかということを、その2人から出たんです。僕が言ったのは、それはすごくいいと。今、これといっていい作品がないんだから、旧作を今の若いファンに知らしめるというのはすごくいいと思うと、そういう話をして。でも、「エースをねらえ！」と言ったって、いろいろあるけどもどうするんだみたいなことを言われたので、僕が劇場版エースがいいんじゃないかと。そこは僕が言ったんです。それは作画もいいし、扱いやすいしね。劇場版エースを中心に扱ったらどうかという意見を言って。
僕のやった特集、表紙の中では一番印象深いです。表紙は当然、杉野（：昭夫）さんに書いていただいて、しかもあれは色を塗ったのが、後のジブリの色指定をやる保田道世さんが色を塗ってくれて。それで、原作者のところにも取材に行って、いろんな、旧エース、新エースの話もちょっといろいろ聞いたりとか。全部自分でやったので（：記事そのものの執筆はライターの中島伸介さん）、非常に印象に残っています。表紙も自分でやりましたからね。（：まとめ的な）文章も書いて、今のアニメ界は良くないと。当時はチルドアニメ（：子ども向けアニメ、現在の「キッズアニメ」）と言ってたんですけど、チルドアニメだらけになっていて良くないと。そうじゃなくて、こういう青春、今の我々が相手にしている、雑誌が相手にしているような若者たちの気持ち、青春を扱ったアニメがもっと生まれるべきだと思うと。そういう呼び水になってほしいから、『アニメージュ』としては劇場版エースをこの時期にもう1回特集するんだということを、一応、そういう意図を書きました。それが『アニメージュ』の強いところでね。普通、そうやって書かないですよね、雑誌って。わりと平気で書いちゃうんです。そういう気持ちとか、裏事情とか。僕はそれをよく書いたんです。「レイズナー」が打ち切りになったときも、それに抗議する文章とか書きましたしね。そういうのを『アニメージュ』は許してくれたので、ほんとに面白い雑誌でしたよね。とにかく、劇場エースはそういうつもりでやりました。だから、あれは非常に印象的で、『オネアミスの翼』みたいなものも胎動はあったけれども、アニメ界全体が、チルドアニメといわれる子ども向けの、あるいは、ファミリー向けのアニメみたいなものにちょっとシフトしていて、何か、『アニメージュ』が扱うべき作品がないよなという時期の象徴みたいなことですね。愛着もありますけども。あれ、ちょっと調べればすぐわかるんですけど、あの時期、監督の……。

――出﨑さん。

高橋：出﨑さん。

――出﨑統。はい。

高橋：日本にいなかったんですよね、あの時期ね。

――合作ブーム。

高橋：合作ブーム。そう。

――合作ブームがあった。

高橋：あれも非常に象徴的で、出﨑さんが日本にいて、出﨑さんがいたからどうかってわかりませんけど、日本にいれば何かもうちょっと違った作品が生まれたかもしれませんよね。でも、そういう出﨑さんみたいな、アニメファンが熱狂できるようなアニメを作る作り手が、テレビアニメの第一線から抜けて海外に行ってしまう。これも象徴的な事件なんですよね。そういう意味で、氷川さんがおっしゃる、あの時期のアニメ状況というのは、ちょっと難しい時期にあったという気はします。

――入社されたのが83年で、「風の谷のナウシカ」の漫画の連載が『アニメージュ』で始まったのが82年ですよね（：連載は1982年2月号から1994年3月号まで）。

高橋：そうですね。

――84年にはもう、すぐ、アニメ映画になって。

高橋：そうですね。
――結構なスピード感なんですが、逆に、今の話で、例えば、小学館や集英社の原作アニメだと２ページ制限というのがあって、あるいは、書き下ろしもとりにくいというような状況で、じゃあ、ナウシカを『アニメージュ』の顔のアニメとして、あるいは、宮﨑駿さんとか高畑さんを顔として、雑誌を支えてくれる存在にしていこうみたいな編集方針はあったんでしょうか？

高橋：これは面白いところなんですけど、なかったと思います。全部、後付けだと思います。ここはまた、当時の徳間書店の人たち、尾形、鈴木、亀山なんですけど、この3人の面白いところというのは、あんまりそういうのを考えてないんですよね。尾形さんは全く考えてないです。鈴木さんは、ちょっとは考えてたかもしれないです。ただ、3人に共通するのは、単に作りたいから作ったんですよ。別に、それが雑誌のためになるとか考えてないんですよね。3人とも、映画青年だったんです。ここは、僕と違うところ。僕はテレビっ子だった。テレビっ子と映画青年、大きな違いなんですね。彼らは映画青年だったので、映画を作りたかったんですね。目の前に宮﨑駿のような才能を発見したときに、この人に頼めば映画作れるぞと思って、尾形さんは尾形さんなりの野望、鈴木さんは鈴木さんなりの野望、亀山さんは亀山さんの野望で、それぞれちょっと微妙に違ったと思うんですけど、それが合致して作るほうに突っ走っちゃった。そしたら、たまたまうまくいっちゃったみたいなことで。メディアミックス的なことは、もちろん企画書ベースで書いたと思いますけど、そんなに深く考えてなかったと思います。成功した後に、徐々に出てきたんだと思います。
考えてたら、もうちょっとやり方も違ったと思うんですよね。漫画だって、別に映画化を前提にしないという約束で宮﨑さん描いてますからね。宮﨑さんは、漫画を描くんだったら、漫画をちゃんと描かないと失礼だと。こっち側は違うんですよ。描かせる側は、隙あらば映画にしようと思って描かせたわけだけど。宮﨑さんはちゃんと真面目に考えて、自分はアニメーターだけど、漫画を描くにあたっては漫画に失礼ないようにちゃんと描かなきゃいけない。だから、アニメにするための素材みたいな形で描くのは良くないということをおっしゃって、全力で描いたわけですよね。そういう意味では、後年はやるような、今いわれているようなメディアミックス的な、最初から漫画、アニメ、雑誌みたいなものを連動させて商売につなげるみたいな意識はなかったと思いますね。ただ、『ナウシカ』が成功したので、会社側はやっぱり思ったと思います。この作戦、いいなというふうに思ったと思うんですよね。当時はメディアミックスブームだったので。特に、角川が先行してうまくいってたのでね。実写のほうとか、アニメもそうですけど。これはうちもできるなという感じで、『ナウシカ』の成功から変わりましたよね。それで、一番印象的なのは、『アリオン』（：東宝配給で1986年3月15日公開）ですね。安彦良和監督の『アリオン』。そして、宮﨑さんの第2弾の『ラピュタ』。この辺が相次いで作られるんですけど、この辺は明らかに、雑誌との連動もあったと思うけど、ビジネスとして、出版社が映画を作るというビジネス、これはいけるぞという感じが始まったと思います。映画というか、映像ですね。いっぱい作った。当時。劇場映画としては『アリオン』とか『ラピュタ』とかなんですけど、それ以外、いっぱい作ってるんですよ。一番典型的なのは、押井守監督の『天使のたまご』（：徳間書店から1985年12月15日に発売）。オリジナルビデオですね。後、首藤剛志さん原作の『戦国魔神ゴーショーグン 時の異邦人（エトランゼ）』（：徳間書店から1985年5月10日に発売）というのがあって。その辺が続けざまに出るんですね。出版社でありながら映像を作って、その映像でビジネスしていくということが、『ナウシカ』の成功でグッと始まったという、そういう流れかなと思います。

――今、お話に出た、『リュウ』は漫画雑誌ですけど、同じ編集局にあり、じゃあ、今度は『リュウ』から『アリオン』をアニメ映画にしようみたいな、どっちから出た話なんですかね？

高橋：それは、尾形さんから出た。

――尾形さんが全部統括して。

高橋：（：「リュウ」に載っていたマンガをアニメ映画にしてしまおうという発想自体は、映画「ナウシカ」の成功を受けて）尾形さんが思い付いた。尾形さん、やっぱり、映画、どんどん作りたい人だったから。尾形さん、見境がない人で、あの見境のなさはすごいんだけど、僕なんかは絶対できないと思うんですけど。その見境のなさがいろんな面白い、ユニークな企画に出ていたと思いますね。例えば、脚本家に小説を書かせるというのも当時の『アニメージュ』の特徴で、脚本家は文字が書けるんだから、文章が書けるんだから小説が書けるだろうみたいな、そういう雑ぱくな考え方でどんどん書いてもらったりしたわけですよ。藤川桂介さん（：脚本家、小説家、放送作家）なんかに「ゴッドマーズ」（：「六神合体ゴッドマーズ」）を書いてもらったり、そういうことをいっぱいやったわけですよ。そういうのも当たったんですよね。
それを推進したのが鈴木さんだったのか、尾形さんだったのか、亀山さんだったのか、全員だったのかというのは、僕もはっきりしないですけど、当時、『アニメージュ』はそういう感じで、映画を作りたいという思いと、本来アニメを作っている人であっても作品を作ってもらって自分たちの作っている本に載せちゃおうという、その辺の感覚がない交ぜになって、今から見ると非常にシステマチックなメディアミックス戦略をとられたかのようにも見えるという、そういう感じだと思います。

――今、作家の話が出ましたけれど、『アニメージュ』編集部時代、特にこのアニメ作家と濃密に付き合ったという方は、例えば、押井さんとか首藤さんとか、いろいろといらっしゃると思いますけれど、どういう感じだったんですか、当時。

高橋：『アニメージュ』は非常に現場との距離が近かったんですね。さっき言った、情報誌として距離をおいて作るというよりは、ファンとも近かったし、現場とも近かったんです。僕の前任というわけじゃないんですけど、僕より前にいた、ナベちゃん、渡辺隆史（：徳間書店からKADOKAWAに移籍した編集者・プロデューサー）なんかは、「マクロス」の現場にすごく入り込んで、美樹本（：晴彦）さんと河森（：正治）さんと、ほとんど友達付き合いをしてました。僕はそういう同世代のアニメ関係者と深く付き合ったという感じじゃないんですけど、何人かお付き合いさせてもらった人がいて、その人はやっぱり首藤剛志ですね。首藤剛志というのは、「魔法のプリンセス ミンキーモモ」（：1982年と1991年にテレビ東京系列で放送された魔法少女アニメ）という作品を当時、それの脚本、原作を書かれて大人気だった人なんですけど、その人に、その前作である「戦国魔神ゴーショーグン」というロボットアニメのスピンオフ小説みたいなのを書かせるという企画があって、それは僕が入る前からあったんですけど、それを僕が引き継いでやったので、その後、オリジナルの小説を書いてもらったりとか、ずいぶんやってもらって、かなり深く付き合いました。それはだから、取材という関係ではなくて、『アニメージュ』にはいくつかの要素がない交ぜになっているんですけど、取材して原稿を書くというのとは全然別で、依頼して原稿を書いてもらうというのが別途あるわけですよね。アニメージュ文庫という別のオリジナル文庫シリーズもあったので、そちらのほうで、首藤さんには、何カ月かに１回、必ず小説を書いてもらうということをやってて、彼とは深くお付き合いさせてもらいました。これは、いろんなところで言ってるんですけど、僕は当時の『アニメージュ』とアニメ界に流れていた気分としては、一つ下ぐらいの世代からスターをつくりたいという意識があったと思います。我々よりちょっと前に大活躍した人というのは、高畑さん、宮﨑さん、富野由悠季さんあたりですね。三大監督みたいな感じ。後は、絵描きとしては、もちろん、安彦良和さんとかいらっしゃったわけですけど。ちょっとそれよりもう一段若い世代から次のアニメ界を引っ張っていくようなスターをつくりたいという気持ちはあったと思うんですね。それが２人いたと思っていて。１人が首藤さん。もう１人は押井守さんですよね。首藤さんはさっき言ったように、「ミンキーモモ」「ゴーショーグン」という人気作があった。押井さんは当然、「うる星やつら」を作られていたという。僕も、鈴木さんに連れられてですけど、押井さんともすごくお付き合いをさせてもらって。押井さんとは仕事あんまりしなかったんですけど、一緒にスキー行ったりとかね。押井さんは話が面白いんで。『アニメージュ』にいたときは、あんまり直接仕事はしなかったんですけど、わりと仲良くさせてもらって。
だから、その上の世代である、富野さん、宮﨑さん、高畑さんとは、僕はちょっと残念ながら、あんまり『アニメージュ』時代はお付き合いはなかったんですね。富野さんは取材はしましたけど、お付き合いという感じではなかったです。

――やっぱり、編集者の本能として、もう既に完成された作家の方よりは、自分と一緒に歩んでくださる作家を自分で見つけていきたいという思いがある。

高橋：それはありましたね。それは、そんな強くはなかったですけど、あったです。さっきちょっと言った、『デジタル・デビル・ストーリー』の西谷（：史）先生なんかそうですね。西谷さんもすごく懇意にさせてもらったし。後は、髙田明美（：キャラクターデザイナー、イラストレーター、宝飾デザイナー）さんとかね。そういう人たちですかね。そういう人たちは今も付き合いはあるし。そんな感じですかね。僕は、高畑さん、宮﨑さんとお付き合いするようになるのは、ジブリへ行ってからです。

――その『アニメージュ』編集部にいらっしゃり、なおかつそこで、ジブリに出向なさったのは何年でしたっけ？

高橋：87年まで『アニメージュ』にいて、その２年後なので、89年じゃないですかね。

――その出向のきっかけというのは、どういうきっかけだったんですか？

高橋：『アニメージュ』は、さっきちょっとお話をした、ちょうどその『オネアミスの翼』ができた後ぐらいで、『アニメージュ』から『4WD FREAK』（：徳間書店から刊行されていたクルマ雑誌）という雑誌に異動になったんですね。そこでアニメ界とは、１回ちょっと縁が切れたというか、切れたんです。それは異動だったんでね。で、２年間、そのクルマ雑誌をやっていて。ちょっと一番最初に話したように、別にアニメをやりたいから徳間書店に入ったというわけではないので、編集者という仕事はやってみて面白かったし、編集者をやること自体は別に嫌いじゃなかったんですね。そのクルマ雑誌の編集をやってて、別に嫌ではなかったんですけど、編集長が非常に個性的な人で、人間関係に、ちょっと煮詰まったような時期に、２年間で、そういう時期になっちゃってですね。
そういうのを見透かしたかのように、鈴木敏夫氏が、これは完全にもうスカウトされました。会社に鈴木さんは自分で言いに行って。当時もジブリはあった、活動してましたからね。ジブリはもう既に、そのときに『魔女の宅急便』（：東映配給。1989年7月29日に公開）まで作ってたので。『魔女の宅急便』完成直後の時期ですから。『魔女の宅急便』完成直後に、これはこのことをいろいろ鈴木さん自身が語ってますけれども、鈴木さんが『アニメージュ』を辞めてスタジオジブリの専任としてやることになったんですね。そのときに、これは鈴木さんらしいんですけど、１人で行くと、そういうある種のアウェーな環境で１人では活動できないだろうと。だから、気心の知れた、何でも言うことを聞くやつを連れていこうと思ったんですね。それで、僕のことを、これは明確に指名して、会社に話を通して、連れていかれたということです。そのときは、ジブリの状況というのは、1作作ったらスタッフ解散するというやり方で作っていたんです。スタジオは固定費がかかるので、テレビシリーズをやっていれば別ですが、劇場専門のアニメスタジオというのは継続的に維持するのが非常に難しい。今も難しいですけど、昔はもっと難しかった。高畑さんの考えとも聞いていますが、1作品作ったら解散してしまう。本当に少数の管理者だけ残して、解散してしまうというやり方でずっと作っていたんです。ただ、『魔女の宅急便』の後に、このままではスタジオとしての継続性が取れないという話になって、社員化もしたほうがいいし、新人を採って教育もしようということを宮﨑さんがおっしゃって、鈴木さんがそれに賛同しました。それで、鈴木さん、来てくださいという話になったんです。ジブリをある種の継続的に活動できる会社にするための、最初の始まりがそこだったんです。そこで一番中心で活躍されることを期待されたのが鈴木敏夫さんで、その手下として呼ばれたのが僕だということです。

――どちらかというと、ジブリが変わるタイミングですよね。
高橋：はい、そうです。

――その社員化とか結構勇気がいるというか。もちろん、そういうことは固定費がどんどんかかっていって、それを賄うために、定期的に何年に1回、劇場映画を作りましょうとか、そういうふうになっていくんですか。そういう話し合いもされたわけですかね？

高橋：僕が入った直後にそういう話があったわけではないです。僕が入ったときは既に、次の作品が決まっていて、それが高畑勲監督の『おもひでぽろぽろ』（：東宝配給。1991年7月20日に公開）だったんです。基本的には社員化をする。それから、研修生という名前で新人を大量に採用する。場所も固定的な場所。場所は、一応、前作から引き続きの場所があったんです。会社自体は、既に、株式会社スタジオジブリというのが徳間書店の子会社として存在していました。あとは、体制を整えることと、第一義的には高畑監督の『おもひでぽろぽろ』をどうやって作り上げるか、ヒットさせるかということに集中していました。ただ、宮﨑さんはその次まで考えていましたね。その次は自分がやるんだろうという形で、結果的には『紅の豚』（：東宝配給。1992年7月18日に公開）を作るんです。宮﨑さんは、ああ見えて、先を考える人なんです。だから、僕が入ったときに先が決まっていたわけではないんですけど、ある程度時間がたったときには、宮﨑さんのほうから、定期的に作品を作っていく必要があるだろうという話はありました。それで、事業計画というほどではないけど、作品計画みたいなものが、折に触れて、宮﨑さんも含めて、いろいろ検討が続くことになります。

――それは、定期的に企画会議みたいなことですか？

高橋：いや、世間話的に。鈴木さんはそういうのをよく言いますけど、会議とか、かしこまってやっちゃダメなんだという感じで、本当に立ち話的に、ぶらっと宮﨑さんが来て、「鈴木さん、次、どうするのよ」みたいなことを言って、ぐちゃぐちゃしゃべっているのを聞いているみたいな、そういう感じです。

――日本テレビとの関係というのは、そのジブリの固定化というか、継続化に、結構……。『魔女の宅急便』から日本テレビが入ってくるので、やはり関係があるんですか？

高橋：関係あると思いますね。その辺はちょっと、非常に複雑な話で、長くなってしまうんですけど。いくつかの話をしますけど。まず一つは、そもそも、劇場用の長編アニメーション映画だけでスタジオを運営するのは極めて難しいし、劇場用のアニメーション映画を作ること自体がそもそも難しい。リスクも高いです。そういう状況の中で、『魔女の宅急便』より前は、結局のところ、母体は徳間書店だったわけです。出版社が映画を作っていたんです。ちなみに、『となりのトトロ』の併映である『火垂るの墓』、これは新潮社が作っていますので（：野坂昭如の原作小説は新潮社（新潮文庫）より刊行、新潮社出資で製作したという意味）。だから、これも出版社なんです。出版社というビジネスの範疇で映画を作る時期が結構続いたんです。『魔女の宅急便』の特徴は、おっしゃる通りで、これはもちろん徳間書店は入っているんだけど、日本テレビが参加したことです。ここから僕は、フェーズが変わったと思います。この言葉はあまり好きではないんですけど、よく言うパトロンみたいな言い方がありますよね。徳間書店の持っているリソースがある。雑誌というリソースがある。それから、資本がある。よく徳間社長は、「金ならいくらでも銀行にある」とか言ったという話がありますけど、いくらでもはないんです。そうは言ったって、出せるお金というのはもちろん限界があります。そういうところで、出版社が1社でリスクの高いアニメーション映画だけを作り続けていくビジネスを続けることは限界があったと思うんです。その限界に対して、これも結果論ですけど、日本テレビというもっと大きいメディア企業が参加したというのは極めて大きかったと思います。
今の結果を見てしまうと、最初から決まっていたかのように見えるんですけど、そうではなくて、あくまで、日本テレビの参加というのは偶然です。偶然というか、そんな別に大きな意味があったりしなくて、単純に、『魔女の宅急便』をヒットさせないと次は作れないと思った鈴木さんが、主に宣伝の面で大きなメディアの力を借りようと思った。そしたら、「水曜ロードショー」（：日本テレビで放送していた映画番組。もともと水曜日に放送していたが、この時期には金曜日に放送日が変わり『金曜ロードショー』と名称は変わっていた。）でお付き合いがあった日本テレビの力を借りるのが一番いいだろうと思って、日本テレビに声を掛けて、『魔女の宅急便』を成功させたいから協力してほしいと。ついては出資もしてくれということで。それより前からあったんですけど、今で言う製作委員会ですよね。『ナウシカ』は博報堂が入っていますし、あったんですけど、割と明確な形で、メディア企業が複数で関わって、おのおのの媒体力を使いながら映画を成功に導くみたいな、今風の製作委員会のスタートというのは、『魔女の宅急便』からだと思うんです。『魔女の宅急便』で日本テレビに入ってもらったことによって、宣伝力は格段に強化されました。それで大ヒットした。その大ヒットしたことによって、もちろん、日本テレビももうかったけど、徳間書店もジブリももうかったわけです。もちろん、金銭的にはです。それがあったから、ジブリがそういう固定的な体制になったというのは間違いなくあります。それから、もう一つ。これはもうちょっと、それこそ、氷川先生に調べてほしいぐらいなんですけど、ビデオグラム（：映画やテレビ番組などの映像作品を記録した電気的録音録画物で、一般的にはビデオソフトや映像ソフトと呼ばれる。ビデオ・プログラムを略した和製英語。業界用語に近い）がかなり売れるようになったというのが大きいと思いますね。継続的にアニメーション映画を作っていくのは難しかったんだけど、『トトロ』のビデオとかすごい売れたんです（：VHSの累計販売本数は約48万本と、歴代5番目のセールスを記録）。そういうことはやはり関係あったと思いますね。そういう形で、アニメーション映画のビジネスが、製作委員会方式の確立があったし、ビデオという新しい収益源が生まれてきたということで、ビジネスの基盤としても拡大していい時期にきたんだと思います。『魔女の宅急便』のころというのは。そこと、宮﨑さんの理想主義。スタッフをちゃんと固定化して安定した生活を与えてあげたいとか、給料もいっぱい払いたいとか、新人も育てていきたいとか、そういう理想主義的な考え方がうまく合致したんだと思いますね。そこで、普通だとテレビシリーズをやろうという話になるんだけど、それはやらないで、リスクは高いけれども、ある程度拡大して、『魔女の宅急便』が大ヒットしたんで、こういう大ヒットもあるんだから、ビデオが売れるということがあれば、難しいといわれていた長編アニメーション映画だけを作るアニメーションスタジオを継続的に運営していくことも可能なんじゃないかという見立てが、いくつかの要因で生まれた時期だったと思います。

――日本テレビさんが入ったことで、これも後半よくいわれるんですけど、地上波でスタジオジブリのアニメ映画を定期的に放送することによって、ジブリを知らなかった、あるいはアニメ映画を普段見ないような人に広がっていったというのがあると思う。それ、実感ってございますか？

高橋：そうですね。あったと思います。すごくあったと思いますね。アニメ好きな人はやっぱり劇場に行くので、ちゃんと見ますけどね。当時は、ビデオグラム、要するにセルビデオみたいなものはそんなに（：誰もが買える）わけじゃなかったから、当時のアニメファンというのは、地上波で放送されたものを録画して、何度も何度も見るみたいな、そういう機能もあったんですよね。「金曜ロードショー」で放送されたジブリ作品を録画して、何度も何度も見ることによって、より深く知るとか、勉強するとかということも当然行われたので、それもあったと思うし、純粋にパイが広がったという面もあると思います。

――そうですね。それで、スタジオジブリに入られて、1993年に高橋さんがプロデュース、最初のプロデュース作品、「海がきこえる」（：1993年5月5日、日本テレビ系列で日本テレビ開局40周年記念番組として放送）があるんですが、これはどういうきっかけで、この企画が生まれたんでしょうか？
高橋：「海がきこえる」は、『紅の豚』が完成する直前ぐらいのときに、宮﨑さんと鈴木さんが相談をしたときに出た企画なんですね。そのときは、ちょうど、当時のジブリというのは、『おもひでぽろぽろ』を作る前に、アニメーターと演出の研修生を採って、『おもひでぽろぽろ』を作りながら、『紅の豚』をやりながら、育ってきた時期だったんです。そういう人たちを中心とした新しい作品を作るべきじゃないかという考え方があったんですね。それまでも、実は、企画自体はいろいろと、生まれては消え、生まれては消え、いくつもあったんです。実は、宮﨑さんご自身が発案して、こんなのを作ったらどうかみたいなことを言ったりとか、実際に、演出候補みたいなのを立ててやったりした企画もいくつもあったんですね。でも、それは全部、失敗に終わったんです。失敗に終わった理由というのははっきりしていて、これは当時も今も鈴木さんは言ってますけど、それは宮﨑さんのせいだと。宮﨑さんがいて、宮﨑さんがああだこうだ口出したら、（：若いやつの）作品なんか生まれるわけがないんだと。だから、『紅の豚』が終わりかけたときに、これからどうするんだよという話を宮﨑さんがしたときに、鈴木さんはそれに対して、「そういう新しい若手中心の作品を作りたいって宮﨑さんが思うんだったら、条件は一つだけですよ」と。「あなたが一切口を出さないことだ」って、鈴木さんが言ったんですよ。そしたら、宮﨑さんはしぶしぶ「わかりました」みたいな感じで、「じゃあ、僕は一切、口出しません」みたいなことを言って。「それじゃあ、何作るんですか？」みたいなことを言って、鈴木さんがそのときに出したのが、「海がきこえる」だったんです。これもだから、全部、すごくつながってるんですけど、「海がきこえる」というのは、元々、『アニメージュ』に連載（：1990年2月号 ～1992年1月号）されていた小説だったんですね。

――氷室冴子。

高橋：氷室冴子さんの小説でした。これは『アニメージュ』の作品主義、作家主義という、情報誌ではなく作品そのものを載せるという一環で、『ナウシカ』などに続くものでした。将来アニメになるかもしれないという期待を持てる、その時代の若いアニメファンにとって自分たちの物語だと思えるようなものを載せようと思って掲載したのが、「海がきこえる」という小説だったんです。当然、それを仕掛けた三ツ木早苗さんという編集者はアニメ化（：実際は、実写ドラマ化）を考えていましたが、それは（：すぐには）実現しませんでした。ただ、鈴木さんは自分の編集長時代の話ですから、それをちゃんと覚えていて、あれをやったらいいんじゃないかと考えました。鈴木さんは、どんな企画も半径5メートルで決めるんです。どこかで原作をたくさん読んで決めたりはしないんです。知っている範囲で決めるんです。そしたら、この範囲だったら「海がきこえる」だと。宮﨑さんに対しても、「『海がきこえる』みたいなのがいいんですよ」と言って。「あ、そうなんですか。どこがいいんだ」「これは青春だから」という話になり、「じゃあ、それでいいんじゃないですか」となりました。「じゃあ、監督どうするんだ」という話になって、それも鈴木さんが決めたんです。鈴木さんは「これ、望月くんがいいんじゃないか」と言い、「望月くん、誰ですか？」というような感じでした。望月くんというのは「魔法の天使クリィミーマミ」の演出をした人で、当時の若手演出家ナンバーワンだったと言っていいと思います。鈴木さんは個人的にも付き合いがあったんです。望月智充は、日本のアニメ史上、最初期に生まれた「ファン監督」なんです。元々、早稲田のアニメ研（：正しくは「早稲田アニメーション同好会」←そうだと思います）に所属していて、そこで同人誌を作ったり、『アニメージュ』にも出入りしていたんです。「宇宙戦艦ヤマト」の付録を作ったりもしていました。そういう人が長じて演出家になって、人気作品の演出をやっていたわけです。鈴木さんは、学生時代の望月さんのことも知っていたし、もちろん、演出になってからの望月さんのことも、よくということはないですが知っていたんです。だから、こういう青春ものだったら彼がいいんじゃないかとその場で言ったんです。宮﨑さんは望月智充が何者か知らないから、それでいいですという話になりました。そのときに宮﨑さんが出した条件が一つだけあって、近藤勝也を使ってくれということを言ったんです。これはややこしい話なんですが、近藤勝也というのは『天空の城ラピュタ』以来の、ジブリ作品、ほぼ全てに参加しているエースアニメーターです。ただ、『紅の豚』の（：完成の）ころはジブリを離れていたんです。離れていた理由は、これも『アニメージュ』と絡んでいるんですが、漫画を描くという話があって、（：後に）実際に描いていたんです。『墨攻』（：新潮社より1991年刊行）という小説を書いた酒見賢一という作家の原作で描こうとしていたんです。宮﨑さんは、自分が（：マンガを）やっていたにもかかわらず、勝也は早くちゃんとアニメに戻ったほうがいいと思っていたんですが、面と向かっては言わなかったんです。漫画を描くなら描けばいいじゃないかという感じでした。でも本当はアニメに戻ってきてほしかったんじゃないかな。しかも、「海がきこえる」は、そもそも『アニメージュ』で連載されていたときに挿絵がついていて、その挿絵を描いていたのが近藤勝也だったんです。だからもう本当に全部、半径5メートルなんです。それで僕は鈴木さんに呼ばれて、「こういうことになって、『海がきこえる』をやることになったから、お前はまず、望月智充と近藤勝也を口説きに行け」と言われて、「はい」と答えました。望月さんは二つ返事で、氷室冴子のファンだったから、すぐOKでした。ただ、そのときにやっていた仕事があったりといろいろありましたが、とりあえずOKでした。近藤勝也はちょっと抵抗しましたが、一応OKしたので、それでスタートしました。
そのときに鈴木さんが出した案というのが、今も鈴木さんがよく使う理屈ですが、劇場用の長編は若手スタッフには重いんじゃないかと考えたんです。劇場作品というのはコストもかかるし、興行もリスクがあるので、そういうものじゃないほうがいいだろうと。これもまた、すぐ近くにいた日本テレビがいいんじゃないかと。日本テレビのテレビスペシャル作品を作ったらいいんじゃないかと。当時、テレビスペシャルアニメは流行っていて、たくさん作られていました。ああいうのがいいんじゃないかということで、日本テレビの当時の奥田（：誠治）さん（：「海が～」のチーフプロデューサー）とか堀越（：徹）さん（：「海が～」のプロデューサー）とかを呼びつけて、これを日本テレビでやってくれと言いました。
「海がきこえる」は、いくつかの点で他のジブリ作品とは違います。一つは、日本テレビ色が強い作品というところです。当たり前ですが、テレビで放送するために作ったので。だから、プロデューサーも日本テレビが出していますからね。堀越さんと、もう1人、当時のアニメを作っていたようなプロデューサーを出してきて、それとジブリというか、徳間というかの合作みたいな形で作った作品なんです。ほとんどテレビオリジナル、テレビ用の作品だったということもそうだし、基本は劇場作品ではないということもあります。そういう非常に特殊な形で作られた作品です。予算も1桁少ないとまでは言いませんが、予算も少なかったし、制作期間も短かったです。

――構造としては、日本テレビから番組を受注したという。

高橋：いや、そうではないです。

――ではないですか。

高橋：ではないです。『魔女の宅急便』以来の、いわゆる製作委員会方式でやりました。つまり、出資者、製作者としての日本テレビと、同じ立場の徳間書店と、当時はスタジオジブリの3社の共同製作です。放送権を、もう一つの人格である日本テレビに、大した金額じゃないですが、放送権を売ったという形です。製作委員会としては、当時は3社で、3社製作です。

――ビスタサイズで作られている。テレビ、結構、やってるわりには。

高橋：あれがね……。

――劇場にかける予定だったとか。

高橋：つい先週も望月監督とその話をしたんですが、これは理由が定かじゃないんです。テレビでやること前提なので、（：本来でいうなら）普通のテレビサイズで、4：3でいいんです。
――はい。

高橋： 4:3のテレビサイズで作ったってよかったようなものですよね。テレビ作品なんだから。だけど、望月さんに聞いたら、もうビスタで作る前提だったって言ってて。やっぱりジブリでやるんだから、映画で作るという気持ちは自分もあったし、あなたがたもそうでしょ、みたいなことを言ってて。そんな明確に指示した記憶はないんだけど。ただ、宮﨑さんもおそらく映画という意識はあっただろうし、テレビだから4:3で作ろうという発想は全くなかったし。当たり前のように、35mmで撮っていますしね。ただ、通常のジブリ作品の動画用紙のサイズよりは一回り小さいサイズで作っています。スタンダードのテレビアニメの動画用紙を上下を切ったものを、宮﨑さんは貧乏ビスタと呼ぶんですけど、その貧乏ビスタではないんです。もう一回り大きくて、通常の4:3の動画用紙と同じぐらいの面積を持つ、面積を同じにしてちょっと横に伸ばしたようなサイズです。最近、よく使われているらしいんですけど、そういうサイズの動画用紙を作って。それは、通常ジブリで使っている劇場用の動画用紙よりは一回り小さいんですよ。そういうところもちょっと、予算削減はしているんですけど。
そうは言っても、あくまでも製作委員会方式で、映画のようなものとして作るという考え方は、誰が言い出したというのは僕も覚えていないんですけど、わりと前提でしたね。4:3のテレビサイズで、例えば16mmで作るみたいな発想は全くなくて。もうジブリで作るんだから、普通に35mmでビスタで作るよという感じで。日本テレビ側も、当時「金曜ロードショー」で、ジブリ作品は上下に黒帯を入れて放送するのが普通でしたので、ジブリの新作に対して4:3を強制はしませんでした。映画サイズ、横長のビスタサイズの画面で作ったものを、上下に黒帯を入れて放送することに関して、日本テレビには全く異存はなかったですね。議論にも出ませんでした。

――ジブリは映画を作り続けるという、貫かれているということですかね。

高橋：そうですね。劇場上映が決まっていたわけではないです。せいぜい、試写会とかその程度でした。

――日本テレビの開局40周年記念番組というふうに。

高橋：はい。

――この冠がつく。

高橋：それはもう、後付けです。

――後付けなんですか。

高橋：別に、もちろん、そんなことは。だから作ったわけでは全くない。ただ、日本テレビ側の言い訳にはなったと思いますけどね。通常の日本テレビが作っているアニメとは作り方も違うし、予算のかけ方も違うわけで、そのときに40周年みたいなやり方は、何十周年という言い方はいいと思いますね。よかったと思います。彼らにとっても。

――で、実際、作品ができて、手応え的にはどうだったんですか？

高橋：これは、二つあるんですけど、「海がきこえる」に関しては、僕は出来上がったとき、ダビングが終わったときに、ああ、すごいいい作品になったなと思ったんですよ。当時、作画監督、キャラクターデザイナーの近藤勝也も現場に来ていて、望月智充監督（：モッチと呼ばれてたんですけど）近藤くんもそれを喜んでいてですね。近藤くんは「モッチ、いいのできたね」とか言って、「これ、傑作になったよな」とか言って、すごい喜んでいてですね。僕もそう思っていたんですけど、そのことよりは、作品を作ることってすごく楽しいなと思ったんですね。それで、みんなずるいと思ったんです。テレビアニメを作っている人たちって、こういうの毎週やっているんだと思って。特に、ジブリで劇場作品をやっていると、1本作るのに3年、5年もかかるわけですよ。それで、嫌な思いをいっぱいして、やっとできたときには疲労困憊みたいなことだけど、テレビでこうやってパッとできて、打ち上げとかやって、できたできたとか言って。こんな楽しいことを毎週やっているのはほんとずるいなと思って。特に、局プロっていいなと思ったんですね。そのとき初めて堀越さんと真面目に付き合ったんですけど、『アニメージュ』時代からお付き合いあったんですけど、ちゃんと付き合ったのは、その「海がきこえる」のときです。堀越さんとかやっぱり尊敬していたわけです。（：ただこの時は）ずるいなと思って。堀越さん、こういう楽しいこと毎回やっているんだなと思って。現場はこっちが作るわけじゃないですか。局プロって、単に企画だけ関わって、ダビングとか来て、差し入れとかして、それで声優とかから尊敬されたりして。堀越さん、すごくいい人だから、現場からの評判もすごくいいんですよね。髙田明美さんなんかもすごく堀越さんのこと好きでね。そういうのを見ていると、局プロって、ほんとにいい仕事だなと思って。アニメ作りの嫌な部分にはあまり関わらないで、いいところだけとれる仕事だと思って、将来、局プロ目指したいなと思ったんですね。それから、それはダビングのときで、完成しました。当時のジブリは、バーと呼ばれる共用スペースがあるんですけど、そこで制作途中のものなんかは、映写機で上映して、みんなで見ながらチェックしたりするのが普通だったんですね。なんでそうしたかというと、いまひとつ覚えていないんですけれども、別に試写会とかに来てもらってもよかったと思うんだけど、まあ、来なかったかもしれませんね。とにかく、ジブリの社内のバーと呼ばれる場所で、16㎜の縮小プリント（：正しくは、特別に35ミリ）をとったので、上映をしたんです。「海がきこえる」を。
そしたら、宮﨑さんも見に来ていて、ずっと見ていて、一言も言わないんです。何も口きかないんですよね。じっと見ていて。そして、望月監督がこちらにいて、僕の隣にいて。宮﨑さんはずっと見ていて、うんとか言って見ていて、最後に謎の発言をして帰っていって。謎の発言というのは「効果音が良くない」と言って、それで去っていったんですよね。それでもう、何だかさっぱりわからなくて。効果音、そんな入っていないじゃないかと思って。効果音、何の意味なんだろうと思っていたら、監督もそれを不審がっていてですね。一体、どこがどうだったんだろうという感じだったんですけど。
後で思うと、簡単に言えば。こういう内容は、宮﨑さんはやっぱり嫌だったんだろうと。「海がきこえる」という作品は、簡単に言えば、青春みたいなものを、わりと等身大で描いている作品ですよね。特に飛躍もないし、これといった冒険もないし、活劇もないし、大きな成長があるわけじゃないし。普通に、3人の若者の高3から大学にかけての時期を切り取って、丁寧に映像化した作品じゃないですか。
宮﨑さんがあるところでおっしゃっていたんですけど、これは「海がきこえる」というよりは、宮﨑さんの考え方を表している言葉なんですけど、アニメーションというものは、俺たちはこうですを描くものじゃないんだと。こうあるべきだを描くものだとおっしゃったんですね。それを聞いて、ああ、宮﨑さん、やっぱりそうだよなと思って。ジブリに来るときも、全く同じことを言われたし。ある種、理想を描くものだと。アニメーションというのは。子どもたちに向けて理想を提示するのがアニメーションなんだということは、宮﨑さんの持論だと思うんですよね。そういうものに照らし合わせると、「海がきこえる」は宮﨑さんの目から見ると理想が足りないと。僕たち若者が平熱感覚で日々を過ごしていて、青春期の楽しみや苦しみを含めてそれが青春だと描いたつもりでしたが、宮﨑さんにとってはそれでは足りなかった。あるべき姿を描いて、それに向けて努力するという教養主義的な考え方、それがアニメーションだという考えだったようです。後から振り返ると、当初はあまり発言してくれなかったので、望月さんと、宮﨑さんがどう思っているのか頭をひねっていましたが、どうもそういうことだったようです。それで、あまりに頭にきたことが、次に宮﨑さんが企画した『耳をすませば』（：東宝配給で1995年7月15日に公開）につながるといわれています。僕もそれが本当かどうか明確には言えませんが、そういうこと（：企画面の関係性）はあったと思います。というのも、みんな忘れていることですが、「海がきこえる」は「スタジオジブリ若手制作集団」という謎のクレジットがついているんです。誰が言い出したか覚えていませんが、通常のジブリ作品ではなく若手で作っているということを最初から言っていて、それは言い訳に聞こえるなどいろんな意見もありますが、そういうクレジットがついています。そうやって「海がきこえる」を作り、そしてなぜか、次のジブリ作品である『耳をすませば』、近藤喜文さんの監督作品にも「スタジオジブリ若手制作者集団」と書かれています。これは宮﨑さんが入れたんですよね。宮﨑さんとしては、アンサーのつもりで企画したんです。確かに同じように、『耳をすませば』は青春ではなく思春期を描いていて、素晴らしい作品だと思いますが、やはり理想を描いています。最後に自分の道を切り開いていく若者の前向きな気持ちを描いていますよね。それは明らかに対になっているので面白いと思います。近藤さん自身も、宮﨑さんのそういう教養主義的な考え方には共鳴していたと思います。「海がきこえる」と『耳をすませば』は同時期の作品ですが、大きく分かれます。両方とも好きですが、「海がきこえる」はそういう位置付けの作品で、宮﨑さんは自分より下の人間が何かを作ると、それに反発してその気持ちをバネに次の企画を作るのが常なんです。だから「海がきこえる」は作品自体は僕はすごく良かったと思うし意義があったと思いますが、宮﨑さん個人やジブリにとってみると、次に向けての一つのステップ的な位置付けにもされるような、ちょっと特殊な作品かなという気がします。

――ありがとうございます。

――じゃあ、ちょっと話を進めますけれども、その後に1995年から98年に、株式会社サイビズにコンピューター雑誌の編集に行かれていますが、これはどういう？

高橋：深い意味はないんですが、僕の知り合いで亀山さんの知り合いでもあった人から、今度コンピューターの雑誌を作るから手伝ってくれと言われて。当時、僕自身も行き詰まっていた感じがあって、『耳をすませば』の後ですが、ジブリにいても何か…。「海がきこえる」は楽しかったんですが、なかなか「海がきこえる」みたいなものはできないし、望月さんに次の作品を作ってほしいと思っていましたがそれもうまく実現しなかったし、何か苦しいなという行き詰まりがありました。そういうときに手伝ってくれないかという話があったので、鈴木さんにはすごく怒られましたが、とにかくそちらへ。完全に転職です。2年ちょっとぐらいやっていました。当時はコンピューターブームだったので、それをやっていたんです。ただ雑誌自体はあまりうまくいかなくなったときに、時を狙い澄ましたかのように鈴木さんが出現したんです。僕ではなく社長の丸山（：淳）に「高橋を返してもらうから」と。僕に対しては「お前がいるからあの雑誌はうまくいってないんだ」「お前が抜けたほうがうまくいく」と言われて。実際そうだったんですが、「社長だって人件費削りたいと思っているんだし、お前がいたら迷惑なんだよ」というよくわからない説得をされて、ああ、そういうこともあるのかなと思って。短いチャレンジでしたが、また戻ったという感じです。

――戻ったときに、明確にこんなのがやりたいとか、ジブリで…。

高橋：それはあったんです。二つありました。一つは前回ジブリにいたときに成し遂げられなかったこと、意識的にはできなかったこととして、高畑さん、宮﨑さん以外の若手の作品をジブリでは作れるんじゃないかと。それを実現したいということが一つと、もう一つはデジタルです。当時、アニメ界全体が急速にデジタル化に向かっていたので、これは何か変わるんじゃないかと思いました。自分もそんなに詳しくなかったので。コンピューター雑誌はやっていましたが、デジタル映像について全然詳しいわけではなかったので、デジタル映像的なものの革命の中でアニメはどうなっていくのかということに関して勉強したいと思いました。その新企画とデジタル化への対応・勉強という二つのテーマを掲げて復帰したという感じでした。

――ちょうど98年ぐらいだと、セルがなくなっていく時代ですよね。

高橋：そうです。ちょうどその時期でした。僕がジブリに戻って最初にやった仕事が、デジタル化をやるということでした。最初に関わった作品が『となりの山田くん』（：「ホーホケキョ となりの山田くん」松竹配給。1999年7月17日に公開）です。スタジオジブリ作品の中で、フルデジタルで作ったのは『となりの山田くん』が最初だと思います。
その前の『もののけ姫』（：東宝配給。1997年7月12日に公開）は一部デジタルペイントというセルを使わない彩色をやっていましたが（：CGも一部で活用）、それは部分的でした。ただ、それをやった時点で、ジブリの中で色指定、色彩部門を統括していた保田道世さんというベテランの方も、そろそろセルと絵の具で塗るアニメーションというものに限界を感じていて、デジタル化からは逃げられないんじゃないかと思ったんだと思います。
僕が戻ったときには既に、『もののけ姫』は一部デジタルペイントでしたが、次の作品『となりの山田くん』に関してはフルデジタルペイントでいこうという方針でした。それから、CGも『もののけ姫』以上に使っていこうという機運でした。
また面白い話ですが、僕が最初にジブリにいたときの作品は『おもひでぽろぽろ』で、2回目にジブリに関わったときの作品が『となりの山田くん』です。ともに高畑作品で、僕は高畑作品とすごく縁が深いんです。宮﨑さんの作品は『紅の豚』と、その後の『千と千尋の神隠し』（：東宝配給。2001年7月20日公開）の2本しかやっていませんが、高畑作品は3本やっています。これは非常に印象的です。と同時に、宮﨑さんらしいなと思うのは、『おもひでぽろぽろ』のときが、ジブリの変革の時期だったんです。

――例えば、どういうふうに。

高橋：要するに、社員化するためにです。

――ああ、なるほど。

高橋：社員化するとか、新しいスタッフを雇うとか、会社をつくっていくという、すごい新しい時期だったんです。そういうときには、自分の作品というよりは、高畑さんの作品にそういうことがめぐってくるわけです。今回も『もののけ姫』に部分的にやったとはいえ、ジブリ全体がフルデジタルという形で完全に制作システムを変更する作品は、自分の作品ではなくて、高畑さんの作品『となりの山田くん』なんです。
これは図ってやったんではないとは思いますが、結果的に、ちょっと因縁を感じます。言葉は悪いですが、高畑さんの作品で新しいことを試しているみたいな、そんな感じすら受けます。

――高畑監督は、どっちかというと、そういうデジタルは面白いと思って。

高橋：そうです。高畑さんは新しいことに関しては積極的なので、ジブリ作品初のフルデジタル制作が高畑作品だったというのは非常に印象的だし、ある種、理にかなっていると思います。高畑さんはそういう好奇心もあるし、宮﨑さんは自分のやってきたことに対して自信もあるから、ご自分のやり方でやりたいと思うんですけど、高畑さんはわりとフリーに新しいことに取り組む人だったので。そういう意味でも、『山田くん』でフルデジタル制作に突入していったのは良かったです。そこから僕が入っていって、『山田くん』を作りながら、フルデジタル制作に取り組み、その過程で次のジブリについても考えていきました。一方で、宮﨑さんは次のジブリ、自分がもう1本作るとしたらその次をどうするのかということも考えていました。若い人を集めて、企画検討会というのをやられて、次はどういうのをやったらいいかなということをいろいろと議論したりしていましたね。宮﨑さんはそういう理想を掲げる方なので。そういうふうに、2000年ごろのジブリは変革の時期だったと同時に、非常に活気に満ちた時期でした。そういう中で『となりの山田くん』は完成するんですが、その直後に面白いことが起きます。例えば、一番大きなこととして、実写映画を作ったことです。実写映画は巡り巡って、出来上がったのが庵野秀明監督の『式日』（：製作クレジットはスタジオジブリの第2レーベルとして設立されたスタジオカジノ名義。徳間書店配給で2000年7月に公開）という、ちょっとプライベートな印象のある長編映画でした。これはジブリ制作で、ジブリが実写映画を作るというのは、本当にユニークだと思います。
2000年ごろのジブリは、その後どうしていくかにもかなり揺らぎのあった時期でした。面白いことをいろいろやってみようという感じで、実写の話は外部から持ち込まれた話ですが、鈴木さんはちょっとやってみようという感じで動いてみたり、（：本業のアニメーション映画のほうでも）若手の起用を考えたりしていました。「海がきこえる」のときとはちょっと意味が違いますが、もうちょっと直接的に次のジブリ作品を、高畑さん、宮﨑さん以外で作るべきじゃないかということは、社として、宮﨑さんも鈴木さんも思っていたと思います。そういう動きが2000年前後の『となりの山田くん』が完成する前後にはいろいろとあった時期でした。僕はそこで渦中にいたので、非常に面白くもあり、いろいろと困難な時期でもありました。

――後は、美術館（：三鷹の森ジブリ美術館（正式名称は三鷹市立アニメーション美術館）。2001年10月1日開館）じゃないですか。その時期だと。

高橋：そうです。言い忘れましたが、僕がサイビズというパソコン雑誌をやっているとき、鈴木さんが帰ってこいと言ったときの言い訳は、最初それでした。美術館も造るからと言われて。昔、『アニメージュ』のときに、次の宮﨑作品は、トップクラフト（：後にジブリで制作を担当する原徹氏のアニメ制作会社）みたいな既成のスタジオで作るんじゃなくて、新しいスタジオを作って作るんだと言われたときと同じぐらいの衝撃でした。あのときも新しいスタジオを作ることにほんとにびっくりしましたが、99年ごろも、美術館も造るから大変なんだ、やることいっぱいあるんだみたいなことを言われて、えーそうなんだという感じでした。

――何か、建造物を造るときに呼ばれて。

高橋：そういう感じですね。

――なぜか高畑作品を専門にやって。

高橋：そうですね。『紅の豚』のころには新スタジオ建設というのもありましたし、ジブリはそういうふうな、建物を造るのと映画を作るのを並行するという、面白いところがありますね。

――今はね、名古屋のほうでやってますよね。

高橋：そうです。ジブリパーク（：愛知県長久手市の愛・地球博記念公園内に2022年11月1日に開設）も造ってるしね。宮﨑さんって面白い人で、映画作りながら別のことをするのが得意なんですよね。一つじゃ、きっとあの人の膨大なエネルギーは収まらないです。だから、新スタジオ作ったり、美術館造ったりしながら、『紅の豚』作ったり、『千と千尋』作ったりという。それは宮﨑さんのエネルギーに合うんじゃないですかね。美術館もちょうどその（：『千尋』の制作）時期にやってました。もう二正面作戦どころか、三正面作戦ぐらいの感じで、（：宮﨑さんや鈴木さんは）超多忙でしたね。

――美術館のほうには、何か具体的に。

高橋：僕は直接関わってませんでした。

――そうですか。

高橋：一時期、美術館の運営会社の社長とか名前だけやってましたけど、それは名前だけでした。美術館は、あれも鈴木さんのすごいところだけど、軌道に乗せる時点で（：宮﨑）吾朗ちゃんを、宮﨑監督の子どもを連れてきたのは鈴木さんですしね。それで美術館のクリエイティブ的な部分は彼にやらせるという、鈴木さんの判断であれで回っていったんですよね。

――それじゃなかったら、あんまりうまく回らなかった感じ。

高橋：うまくいかなかったと思います。やっぱり宮﨑監督との関係もすごく大事だし、外部から美術館運営にふさわしい人を呼んできたとしても、おそらくうまく回らなかったと思うんですね。ああいうところは鈴木さんの現実主義で、あれも半径5メートルですよね。半径5メートルで、この人連れてくればうまくいくだろうみたいな。自分の子どもだったら（：宮﨑さんも）文句言わないだろうみたいな、そういう形で連れてきたのはさすがだなと思いますね。あれでうまくいったと。もちろん実作業は大変でしたけどね。

――確かに、外部のデザイナーとか建築家とやり取りすると、ものすごいストレスがかかりそうですもんね。

高橋：そうですね。傍らでは美術館を忙しく造ってて、それはそれで大騒ぎ。それから、『山田くん』の後は、ジブリ作品で大きなものといったら『千尋』になるわけですけど、『千尋』に向かっていく中で、実写作ったり、美術館造ったりでまた大騒ぎしてるんですけど、もう一つあったのが細田監督ですよね。

――じゃあ、いよいよ、日テレ。先ほど、テレビプロデューサーに憧れているという話があったんですけれども、ちょうどそれにつながるようなお話になっていくと思うんですが。ジブリを……。

高橋：そうですね。

――ジブリから、最初は出向という形で。

高橋：最初、出向で、途中から転籍して。だから、結果的に、日テレには都合15年いたので。

――一番長い。

高橋：一番長いんですよ。自分の中には、もちろんジブリのイメージも強い、徳間出身というイメージも強いですけど、日テレも同じかそれ以上に大きいものになっちゃいました。結果的には。最初の出向のころは、おそらく緊急避難的なところがあって、ちょっと腐ってたんですよね。『ハウル』がうまくいかなくて、細田くんも去っちゃったし。残されている状態で、当然新しい企画をやろうと思ってたんですけど、なかなかそれも、これは僕の性格のせいもあると思うけど、うまく進まなくて。おそらくこれは鈴木さんと、日本テレビの奥田さんが話をして、このままジブリにいても高橋はあまり活躍の場がもうないだろうと思ったんでしょうね。
それで、最初は気分転換ぐらいの感じで日テレに行くことになったんです。当時の日本テレビの映画事業部長だった奥田誠治さんという人は、『魔女の宅急便』のときから日本テレビとジブリとの関係をつなぐキーマンみたいな人でした。その人が「映画事業部に高橋さんも来れば、うちは作品いっぱいやってるから、5年に1本、3年に1本のことじゃなくて、何本も何本もできるから、おそらく在籍中に」と。出向なので2年か3年かという話だったので、「その間に何本もできるから、そこでいい経験が積めると思うよ」と言って呼んでくれたんです。最初は、奥田さんのイメージの中では実写1本、アニメ1本という意識があって、それを局プロみたいな立場で1本ずつやれば、すごくいい経験になるから、ジブリ戻ってからもプラスになるだろうという形で、「2本やったらどうですか」という提案があって行ったんですが、結果的には15年いることになっちゃって、もっとやたらめったら（：本数を）やりましたけど。それで、日本テレビに行って最初にやった映画が実写です。今をときめく山崎貴監督の『ALWAYS 三丁目の夕日』（：東宝配給。2005年11月5日公開）を、奥田さんとコンビでやったんですね。これが最初の仕事で、これはやってよかったです。さっき局プロみたいな話をしたんですけど、まさしく局プロですよね。いわゆる現場はロボット（：株式会社ロボット）というプロダクションが担っていたので、現場には直接は関わらない、ほぼ関わらなくて、企画と製作委員会周りとかビジネス周りを統括するということで。奥田さんはすごくいい人で馬力はあるんだけど、細かいことはできない人なので、それは全部僕がやって、二人三脚でやったという、非常に思い出深いですね。これは当時の日本アカデミー賞も総なめにしたし、いい映画だったしね。ジブリにいたらほんとにできなかった仕事でしたね。

――それはかなり初期から関わられたんですか？

高橋：そうですね。あれは2005年公開だと思うんですけど、僕が日本テレビに行ったのは2004年で、行ったときには企画は、日本テレビの企画会議が一応通ってたのかな。奥田さんが提案して通ってて、やることだけは決まってたという感じでしたけど、具体化は全然してなくて、それはずっと一緒にやっていったという感じでしたね。

――当時、よく聞いたのは、誰も当たるとは思ってなかったという。

高橋：もうこれはね、誰も、かけらも思ってなかったですね。奥田さんって、ほんとに不思議な人で、鈴木さんとは違う意味でものを見る目がないというかね。僕はやっぱり、自分で言うのは何ですけど、常識的な人間なんですよ。だから常に常識で考えるんですね。それで『三丁目の夕日』、当然（：西岸良平の原作漫画を）知ってたわけです。読んでたしね。これ映画にするってどういうことなのかなと思ったら、そのこと自体だって不思議じゃないですか。これ映画になるのかなって普通思いますよね。短編（：の集まり）だしね。これどうするんだろうと思って。それを奥田さんが来て、「CGとか使ってさ」って言うんですよ。「CGとか使って、すごい映画を作るんだ」って。「え、CGですか？これどこにCG使うんですか？」みたいな。昭和の、よくわかんないけど人情話みたいなの、どうするんですかという感じだったんだけど、奥田さんはでも勝算があったみたいで。でも後で聞いてみたら、特になかったんですよね。要は、奥田さんは人で決める人なので。亡くなりましたけど、ロボットの当時社長だった阿部秀司さんというプロデューサーと監督の山崎貴、その2人のことを奥田さんはすごく気に入っていて、その2人に作らせたいと思ったんです。それで阿部さんが『三丁目の夕日』というのを出して、山崎に作らせるといったときに、奥田さんは勝算があったわけじゃないけど乗ったんですよね。そういう人なんですよ、奥田さんという人は。でも何か知らないけど自分で自分に魔法かけちゃって、山崎さんが作るんだから、CGとか使ってすごいものになるんだよって、よくわかんないそういうことを言いまくって通しちゃったんですけど。それはでも日本テレビの中ではかなり問題企画で。日本テレビはやっぱり常識人が多いから、これどうなのというのがあってね。日本テレビって現場を大事にする会社なので、現場から上がってきた企画というのは、決める会議みたいな偉い人の会議では、まずダメ出しはしないんですよ。文句は言うけども通すんだけど、『三丁目の夕日』というのは1回その会議でバツつけられちゃって、戻されて、もう1回出し直して通したという企画で。そのぐらいいわく付きの企画だったんですね。でも結果的には、僕が自分で関わった作品で、完成してビジネス的に成功して心の底からうれしいと思った映画って2本しかなくて、1本が『三丁目の夕日』で、もう1本は『サマーウォーズ』（：ワーナー・ブラザース映画配給。2009年8月1日公開）なんですね。この2本はほんとに、そんなに成功するとは誰も思ってなかったと思うんですけど、非常に思った以上に大成功した。この2本ともね。ジブリのときというのは、映画というのは作ってなんぼだと思ってたんですよ。出来上がったらうれしい。例えば、高畑さんの作品というのは完成するかどうかさえ怪しいんですよ。それは『おもひでぽろぽろ』にしても、『平成狸合戦ぽんぽこ』（：東宝配給。1994年7月16日公開）にしても、『となりの山田くん』にしたってね。ほんとに完成するんだろうかということが最大問題なわけで、僕はずっとそれと戦ってきたので。『ハウル』だってそうですよね。完成しなかったんだから、実際。だから作ることが僕の中で目的だったんです。だけど日本テレビみたいな一段上の立場になったら、それがちょっと、変な話できるのは当たり前なんですよ。局プロの立場からすると。局プロって今言いませんけどね。局プロというのは僕の用語ですけど。テレビ局のプロデューサー、製作委員会プロデューサーとしては、結局現場は別にあるわけだから、よっぽどのことがない限りできるんですよ。それがちゃんと世に出て受け入れられるところまでいって、初めてそれが完成というか、プロジェクトとしての完成みたいな。
鈴木さんはそういうのを見てたと思うけど、僕がジブリにいたころはそれは見てなかった。そういうところには視線が行かなかった。ジブリを辞めるというか出て、日本テレビで一段上の立場で映画に関わるようになって、そういう立場で関わったので、やっぱり心の底から『三丁目の夕日』は成功させたい、成功というのは商業的にですよ、商業的に成功させたいと思ったし、それが成功したときには、もうほんとにうれしかったですよね。ちなみに『三丁目の夕日』というのは特殊な映画で、1週目はさして入っていませんでした。それなりには入っていたのですが、そんなに入っていなかったんですね。2週目で1週目よりもお客さんが増えました。極めて珍しいケースで、尻上がりに興行収入が上がっていきました。ビデオもすごくよく売れましたし、ビジネス的には本当に大成功でした。なぜかと言われたら難しいのですが、映画って成功するときはそういうものかもしれません。誰もが成功するのは難しいんじゃないかと思ったものに限って成功したりするし、絶対うまくいくと思ったものに限って失敗したりしますね。映画は水物とよく言いますが。日本の映画というのは、ジブリもそうですが、多くのものは製作委員会方式という、複数の映画会社ではない会社が集まって作るものが主流になっています。『ALWAYS 三丁目の夕日』は、まさしく日本テレビを中心とした典型的な製作委員会方式で作っているんですね。原作出版の小学館（：株式会社小学館）であるとか、ビデオ会社のバップ（：株式会社バップ）とか、もちろん東宝も入っています。東宝みたいな映画会社も出資者の立場で入るんです。そういう形で複数のメンバーで作っているのですが、これは数ある製作委員会システムで作った映画の中では、おそらくトップクラスで製作委員会が仲良かったというか、うまくいったと言えます。それぞれ自分たちのミッションを持っているメンバーが集まっていて、製作委員会というのはよく迷走することが多いと思うのですが、『ALWAYS 三丁目の夕日』の製作委員会は本当に団結力が強かったし、誰もが成功するとは思えない企画を阿部さんと山崎さんが作っているのだから、これは何としても成功させようという勢いみたいなものがありました。これはよかったと思います。製作委員会というのは本当に難しい仕組みで、決して全てがうまくいっているわけではないと思うのですが、『三丁目』に関しては極めてうまくいきました。それが一つ、成功の原因かなと思います。みんな同じ方向を向いて頑張ってくれたということですね。

――結局、山崎さんの人生というか運命も変えたし。

高橋：大きく変わりましたね。あれが成功してなかったら、今の『ゴジラ −1.0』（：東宝配給。2023年11月3日公開）もなかったと思うし。『ゴジラ −1.0』って、いろんなものの影響を受けているけど、『三丁目』の子ども、孫ぐらいの感じはありますね。

――それ以降、戦中、終戦直後の専門監督みたいになっちゃって。
高橋：あれは山崎さんにはなかったものでは。阿部さんが昭和好きだったので、昭和の映画を作りたいと言っていて（：それが大きかった）。『三丁目』が成功したその後、『続・三丁目』ともう後１本作ることになるのですが、そのときに阿部さんに僕が言ったのは、「昭和の映画作るのって、最後のチャンスですね」と。映画って、ある種、アーカイブだという話をしたんです。映画を作ることによって、ある時代というものを封じ込められると。阿部さんが今、昭和の映画を作ることによって、阿部さんが好きだった昭和30年代みたいな、もうこれは誰も覚えていない。その時代というものを、もちろん阿部さん、山崎さんのフィルターは入っているけれども、あの時代の感覚とか時代そのものというのをフィルムに焼き付けて残せますよと。それは阿部さんは生きているし、風景もまだ昭和っぽい風景が残っているから、ロケもできる。昭和っぽい映画を作るのも最後のチャンスだから、これは本当にやってよかったですねという話をしたら、阿部さんはすごく、その通りだと言ってくれて、本当にやってよかったと言って。それは『三丁目』の、映画として面白かったということ以上に、『三丁目の夕日』を映画化したということは、時代を封じ込めて後世に残したという意味でも、すごく価値があったなと思います。

――また、アニメとは違う手応えでもあったということですか？

高橋：そうですね。これも全部つながっているのですが、結果的に日テレに来て最初にやった作品が実写だったわけじゃないですか。それは考えてみたら、ジブリにいたころ、2000年前後にジブリはちょっと混迷というか、いろんなことをやったときに、庵野監督の『式日』という実写映画を作っていたんです。そのときに僕はずっとそのときは現場に、山口県の宇部という現場にいて、庵野さんの撮るのを、やることないからずっと見ていたのですが、そしたら苦しんでいましたね、庵野さんは。どう苦しんでいたかというと、思い通りに画が撮れないという。スケジュールが決まっているし、ロケは決まっているわけじゃないですか。アニメだったら描けばいいけど、そういうわけにいかない。それで、スケジュールも自分で決められないから、助監督は毎朝決めてくるわけです。その日に決めたのはその日に撮らなければいけない。撮れても撮れなくても撮らなければいけないわけ。そういう意味で、ある種、ルールにのっとってやらなければいけないし。ただ、やはりそれ、粘ったから。スタッフは大変だったと思いますが、庵野さんはやはり粘ったので、結果的には、面白いか面白くないかっていう観点とはちょっと違いますが、庵野さんらしい映画ができたと思うんです。『式日』に関してはね。ただ、アニメにおいて、その作家性みたいなものを十全に発揮するという話と実写映画で発揮するって、やはり違うと思うんです。実写のほうが、俳優がいるし、セットもあるし、風景もあるし。後、そういう、さっき言った、天気もある。さまざまな自分ではコントロールできないものと戦わなければいけないから、やはりそれは実写とアニメというのは違うんだよなというのはそのときすごく思ったんです。その感覚はちょっと持ちながら、『三丁目の夕日』の現場とかは見たりしたのですが、やはり山崎さんはそういう感じは全くしなかったですね。非常に生き生きとやっていたし、そういうことも含めて映画だと思って作っているんだと思います。僕はだから、当たり前ですが、アニメ派なんです。アニメのほうが好きだし、実写とアニメどっちかと言ったら、もちろんアニメ派なんだけど、『三丁目の夕日』に関してはやはり、実写映画というのはアニメを作るのとは違うライブ感があるし、生まれてくるものも、当時予想もしていなかったことが映画の表現を広げたりすることもある。コントロールされた中で100％のものを作り出すアニメとは違う、ちょっと間接的なところは多いし、監督の意思みたいなものを100％伝えきれない部分もあるかもしれないけど、逆に言えば、監督が当初思っていたものを超えるものが生まれてくることも実写はあるんだなということは思いました。だから、どっちがいいというよりは、実写は実写、特に『三丁目の夕日』は、ある種、特撮映画でもあるので、特撮も含めて、『三丁目の夕日』みたいな映画はすごく面白いなと思いましたね。

――とはいえ、今、お話を伺った範囲では、わりとこう、重大な転換点に必ずいるみたいな印象も受けるんですけど。さっき、乗り遅れだという話の一方で、何かが変わるときにちゃんとその場にいて。もちろん、ご自身で流れをもっと、回転数を上げるとか、回転半径上げるとかって、そういうのに貢献している感じはすごくしますけどね。ジブリ時代も、日テレ時代も。

高橋：そうですね。変わらないものがあって、オーラルヒストリーということで言うならば、僕個人が大事にしている変わらないものは、SFとアニメですよね。SF愛とアニメ愛。これはやっぱり変わってないですよね。『アニメージュ』の在籍中、4年間しかいなかったけど、その中でほんとにアニメ愛は常に意識していました。『アニメージュ』の編集部にいるということが、自分のアニメ愛を実現するというか、こんなに好きなアニメがもうちょっとなんとかなってほしいという気持ちでした。当時は雑誌にまだ力があったので、『アニメージュ』という雑誌から発信することによって、ある程度アニメの在り方にコミットできる時代だったんですね。それで、尾形さんとか鈴木さんとか亀山さんとか、ほんとにアニメ愛あるのかなという。ないんじゃないかなと。自分たちのやりたいことやってるだけだろう。僕はあなた方と違ってアニメ愛があるんだよ、という変な自負心がありました。彼らだってアニメ愛あったと思うんですけど、僕のほうがアニメ愛あるんだと。だから、最年少であったけれども、当時の『アニメージュ』編集部では、俺がそのアニメ愛を発信しないで誰が発信するんだという思いでした。
いまだに覚えていますが、「レイズナー」打ち切りのときには、打ち切りに対して抗議する檄文を書きました。ああいう情報誌で檄文が載るのもすごいと思うんですけど。そこで、子どもたちの購買力に支えられたアニメを見なきゃいけないなんて、お前たち恥ずかしくないのかと。違うだろうと。もっと、俺たちの見たいアニメを見る時代がくるべきじゃないかということを書いて載せたりしました。あれを読んだ人はどう思ったのかと思って。そういうアニメ愛は変わらないですね。ジブリにおいても、やはりアニメ愛ですね。宮﨑さんや高畑さんのアニメがすごいというのはもうわかっています。僕だって好きです。だけど、それだけがアニメじゃないでしょうと。そうじゃないアニメだって大事だし、ジブリがもしこの後もやっていくというなら、もうちょっと幅を広げて、いろんなアニメを作ってほしい。ほかに作れる場所ないんだから、ジブリが作るべきでしょうということをずっと思っていましたね。それのために、いろんな仕組みとかビジネスとかがあると思いましたし。鈴木さんも宮﨑さんもそうは思っていたと思うんですけど、鈴木さん、宮﨑さんは僕のようなアニメ愛とは違うところで動いていたと思うので。僕はもっとこう、あまねくアニメというものを大事にしたいというか、広げたいと。そういう意味では、若手育成ももっとやるべきだと思っていました。それはやはり、ジブリに2回まで在籍したけど、一定の成果はあったと思います。でも、ちゃんと実現できたかというと、それはちょっと悔いは残りますね。特に後半は。近藤喜文さんと一緒に『耳をすませば』を作ったのもすごくいい思い出ですが、近藤喜文さんにはもっといろんな映画を作ってほしかった。僕も辞めてしまったし、その後に近藤さんが亡くなられたのはすごくショックでした。そういう意味で言うと、いろんな転換点があって、それは、うまくいったかというと、なかなか難しいところもあったなということで、反省も多々あるという感じですね。日本テレビに関しては、ちょっと立場が変わったので、煮詰まった気分をリセットできました。リセットしたところで、違う立場で自分のSF愛、アニメ愛を、与えられた範疇で実現しようと思いました。その過程で庵野さんとか押井さんとか、もちろん細田くんとか、そういう人たちとの関係を少し違う形で、うまく回せたかなという気はするので、それは良かったかなと思います。後は個人的にもうちょっと……。日本テレビって、お金はあるんです。大きい会社だから。日本テレビの先輩たちは、奥田さんもそうですが、会社のお金を使って自分のやりたいことをやる——悪い意味ではないですよ——ということを、わりとてらいなくやる人たちが多いんです。そういうことによって変な作品が突然生まれたりするんですけど、大きい会社なのでなんとなくごまかせちゃう。奥田さんもそういうのに乗っかって、2本ぐらい好きな映画を作ったりしています。もし自分のライフヒストリーに関して、いわゆる深刻な後悔とは別のところで反省点があるとすれば、日本テレビに15年もいたんだから、もうちょっと自分の趣味を利用したSFアニメとか、そういうものを作っちゃうとか、そういうのはやってもよかったし、やれただろうなと思います。これはジブリの後半に対する反省とかそういうことではなくて、もうちょっと軽い感じでの反省点というか、悔いが残っていることですね。それはだから、なんとか残りの人生で少し取り戻したいなと思っています。ちっちゃいものでもいいから、SFアニメを作ったりとか、そういうのはしたいなという気持ちはありますね。そんな感じです。

――とてもいい話で、湿っぽい感じで。ありがとうございます。

――そもそも、徳間書店の出発点のところで、雑誌の編集部に入ったのに、上の人たちは映画を作るほうに行ったわけじゃない。

高橋：はいはい。

――当時の徳間会長もそうですけど、当時、映画会社を子会社に持って、映画を作っていくという機運が会長以下にもあったんじゃないかと思うんですけど、その辺って、最初の入ったころの雰囲気ってどんな感じ。

高橋：（：このブロックでは、当時は新入社員だったので、徳間グループ全体について直に知っていたわけでない。あくまで自分の見聞きした範囲を想像を交えて話していると理解してください。本人談。）それは、物事は複合的なものです。当時の『アニメージュ』が雑誌でありながら『ナウシカ』を作ったというのはとんでもない話で、なぜこれが実現したのか。宮﨑さんの力はもちろんありますが、それを推進した尾形さんや鈴木さん、亀山さんたちの力もすごかった。でも、やはり別の理由もあります。それは、ある種のブームです。角川映画がすごくヒットしていて、当時はクロスメディアと言っていましたが、徳間社長もそういったものをやろうと思っていたと思います。大映については、永田雅一さん、永田ラッパという人が経営していた会社が倒産したものを引き取りました。そういった経緯の中で、徳間グループとして映画制作を行っていく。東京タイムズという新聞も買った（：1973年）ので、新聞も発行し、映画も作り、出版もやっていくという、このようなクロスメディア展開を徳間社長は目指していたんです。実は、僕が入社したときには既に『ナウシカ』をやるという話は決まっていましたが、元々、徳間グループ全体で映像会議？　というものがあったときいています。大映の人や徳間書店の人が集まって企画を考える会議で、鈴木さんがそこで宮﨑駿の映画を作りたいと具体的な企画を出したんです。でもそれが否定されました。原作もないものはいきなり映画にはできないと言われたそうです。それが鈴木さんの中に残っていて、では原作を作ろうという形で、『アニメージュ』での連載につながっていったということです。もう機運はあったんです。その機運に乗れば映画を作れるんじゃないかと、尾形さんも鈴木さんも思っていたと思います。大映をベースにという考え方はあったと思いますし、大映の人とも相談はしていたでしょう。実際、ジブリ作品は一時期、大映が二次配給として、東宝、東映の配給後に配給するということもやっていました。ただ、大映でアニメを作るという考え方はなかったんじゃないでしょうか。実写の会社ですし。ここはちょっとわかりませんね。映画会社なのだから大映で作ったほうがいいような気もしますが、自分たちで作るという選択をして、『ナウシカ』はトップクラフトで制作し、配給は東映に頼むことになりました。

――大映自体が本当に底の時期だったので、特撮はともかくとして、アニメという発想にはならなかったのかなという気は当然しますけど。

高橋：そうですね。鈴木さんは大映の人たちとは仲が良くて、いろいろと意見交換もしていたので、関係が悪かったわけではないと思います。ただ、鈴木さんは半径5メートルで作る人なので、どこかの会社に頼むというよりは、自分たちで作るという方向に進んだんでしょうね。すみません、そこら辺はちょっとね。

――いえ。面白いなって。

高橋：そんな詳しくはちょっと見ていないのでわかりませんけどね。

――クロスメディアの中には、当時だと、レコード会社の徳間音工があって、レンタルレコードブームの時期だから、実際、その時代の、高橋さん入社したころの、例えば、ぴえろの魔法少女ものとか「クリィミーマミ」（：「魔法の天使クリィミーマミ」1983年7月から1984年6月にかけて日本テレビ系列で放送）を筆頭に、後は全部徳間で出したりしたので。

高橋：それはもう、おっしゃる通りです。そのことは絶対外してはいけませんね。当時はビデオがない時代だから、クロスメディアと言ったら音楽なんです。

――そうですよね。

高橋：それで、尾形さんは当時の徳間音工、その後改組されて徳間ジャパンになるんですが、音工時代というか、徳間ジャパンの取締役を兼ねていたんです。これはちょっと真相はわからなくて、これは削除してもいいんですけど、ナベちゃんの説によると、「クリィミーマミ」のときに太田貴子（：当時15歳。本作の主題歌（デビュー曲）と主人公の声を担当）を選んだのは尾形さんじゃないかという話もあります。太田貴子が、この間も言っていましたが、番組の中で偉い人に呼ばれて、「今度、こういう企画があるんだけど、歌と出演と両方やる？」と聞かれて、「はい、やります」と答えたことで決まったとなっているんです。そのときの偉い人が尾形さんだったんじゃないかと気がすごくします。ほかに該当する人がいないんです。堀越さんでもないし、ぴえろの人でもないんです。その偉い人は、おそらくレコード会社の人のはずなんです。当時の担当のディレクター……。ディレクターじゃないと思うんですよね。

――ディレクターじゃないですね。偉い人と言わないですからね。

高橋：そしたら、尾形さんじゃないかという気がして。尾形さんだったら言いそうですから。それは置いておいて、アニメ関係のレコードがすごく売れたというのが、当時のクロスメディアに、徳間グループが形成していくことに、極めて大きな材料でした。

――そうですね。

高橋：おっしゃる通りです。音楽込みで売っていくということです。

――自分は83年ぐらいまでキングレコードで勤務してたんですけど、キングレコードって講談社の系列なんだけど、ほとんど結び付きがないというかですね。

高橋：そうですよね。

――全然ないわけじゃなくて、講談社は講談社で、「ガンダム」のムックなどを出してたんですけど。それよりもっと強固な結び付きが徳間グループにはあるような。

高橋：あります、あります。大きいところではやらないんですけど、細かいところではすごくあってね。よく言われますが、初期のジブリ作品は、歌は全部徳間音工、徳間ジャパンですよね。

――サントラ盤もそうですね。

高橋：そうです。サントラ盤はまあいいとして、問題になるのは歌手です。すぐ問題になりますよね。安田成美問題とかね。でもやはり、例えば『天空の城ラピュタ』は、イメージテーマソング「もしも空を飛べたら」（：1986年5月25日に徳間ジャパンから発売）があります。これは小幡洋子です。小幡洋子というのは、魔法少女シリーズの第３弾である「マジカルエミ」（：「魔法のスターマジカルエミ」1985年6月から1986年2月まで日本テレビ系列で放送）の主題歌と主演をやった人です。徳間ジャパンの太田貴子の直系者、次の売り出し要員みたいな位置づけで、その小幡洋子に何か知らないけどイメージテーマソングを歌わせていたんです。

――飲料水のコマーシャルに使われたやつですね。

高橋：そうです。味の素のコマーシャルに使われたときは…。

――「すごいぞ、ラピュタは本当にあったんだ」というやつ。

高橋：そうそう。だけど、本編では使われないというかわいそうな話で。結局、徳間ジャパンとか尾形さんたちはそういうことをたくらむんだけど、なかなか高畑さんとか宮﨑さんとかの壁を崩せなくて、きっとおそらくそのとき議論があって、そういうのを作ったら本編では使わないから、勝手にどこかで使ったらいいじゃないかみたいなことを言われたんですよ。しょうがないからイメージテーマソングということにして、CMだけに使うとか。後は、『ナウシカ』のときの安田成美の主題歌も、結局、本編では使われないということがあったりとかね。そういうのが延々続くんですよね。それがようやくうまくいったのが、『ラピュタ』のときの主題歌。誰だっけ。

――井上あずみ。

高橋：井上あずみ。井上あずみはかっこよくはまったんですよね。それがはまったので、『トトロ』のときはそのまま引き続き歌ってもらって、うまくいった。

――今に至る、幼稚園ソングに使われる。

高橋：そうですね。ただ、氷川さん、おっしゃる通りで、音楽は極めて大きくて、ビデオが出て売れるようになるまでは、やっぱりクロスメディア、今で言うマルチメディアみたいなこと、マルチメディア展開みたいなことの柱は音楽ですよね。当時の徳間が徳間音工、徳間ジャパンを持っていたというのはすごく大きかったし、社長からの指令も、基本的には徳間ジャパンの歌手を使えだと思うんですよ。それはでも、高畑さん、宮﨑さんは、それはちょっとうまくかわしながらやっていって、それで『トトロ』とかでは大成功したわけだし。レコードのミックスは、当時のアニメではすごく大きかったですよね。

――定番ですよね。

高橋：定番ですよね。それもやっぱり徳間は、それももちろんやってたし、結構大きい部分だと思います。徳間が映画、アニメ映画に乗り出したときに、ついでに音楽もこれで一緒に売ろうというのは結構大きい動機だったような気がしますね。だって、後のアニメを中心を支えるのって、レコード会社が多いですよね。

――まあ、そうですね。

高橋：キングとかね。

――はいはい。

高橋：だから、レコードからビデオへ。それで、アニメへみたいなのがある。わりとこう、つながってますよね。

――うん。まさにパッケージビジネスだからという説明してますよね。

高橋：そうですね。パッケージビジネス、そうですね。映画とかテレビというのは消えていくものだけど、パッケージというのは残っていくものだから、出版社からしてみると、そういうものとうまく連動をとりながらやっていくというのは、やっぱり大きかったと思うんですよね。

――まあ、消えものに対する残りものということのレコードと出版の相性はありますね。

高橋：だから、レコードと出版みたいなものが、ビジネスとしてアニメの周辺で盛り上がってきたというのも、80年代の中盤ぐらいの、頭から中盤ぐらいのアニメシーンの特徴かもしれないですね。それに徳間も乗っかったんです。きっとね。さっきの大映の話もそうだし、徳間音工、徳間ジャパンの話もそうですね。後で見ると、全部鈴木さんがたくらんだように見えるんだけど、実はそうでもなくて、そういう…。

――機運ですかね。

高橋：機運みたいなものがね。

――時代の流れみたいな。

高橋：時代の流れみたいなものがあったと思います。そこでうまく乗って、ジブリもいいスタートがきれたんだと思いますね。それより前だったら、おそらく、できなかったですよ。きっと。

――うん。そうなんですか。うん。

高橋：後、よくいわれることですけど、付け加えておくと、出版社が映画を作るということはすごく大きくて、出版社というのは、さっきちょっと言いましたけど、作家を大事にするので。作家が食いぶちになるので。だから、高畑さんや宮﨑さんがそれまで付き合ってきたテレビ局とか映画会社の人と徳間書店の人とはやっぱり質が違ったんだと思います。だから、それは尾形さんにしても、鈴木さんにしても、亀山さんにしても、高畑さん、宮﨑さんをちゃんと作家として扱ったし、徳間書店という会社全体が、ちゃんと高畑さん、宮﨑さんを作家として扱ったので。それは、どんなに無名だろうと、作家は作家なんですよね。出版社にとっては。だとしたら、大事にするしね。それは僕は、何度もそういうのを目の当たりにしたので。テレビ局ではそういう文化はあまりないんですよね。それは出版社ならではのものだと思うので。だから、そういうところをベースに、高畑さん、宮﨑さんが、アニメの、ほんとの彼らが作りたいアニメーション映画を作るという道に入るときに、その出会いが大きかったと思うんですよね。

――そうですね。

高橋：東映とかにいたら、やっぱり難しかったと思うし。それができた。あの時代にそれができたということは、今につながる、日本のアニメの歴史にとってはすごく大きかったんじゃないかなという。出版社だったからというのはやっぱり大きかったと思う。

――うん。テレビ局だと、出入りの業者ですよね。

高橋：出入りの業者ですよ。ほんとにそうです。付け加えると、そういう文化を目の当たりに見てきた奥田さんみたいな人は、テレビ局の人であるにもかかわらず、出版社っぽいんですよ。だから。

――頭の中がね。

高橋：頭の中が。ちょっと作家主義というか、作家はやっぱり大事にしなきゃいけないという気持ちがあるから、奥田さんは外部のそういう人とも、うまく付き合えたんですよね。

――なるほど。

高橋：大きく言えば、そういう流れなんですね。

――はい。

高橋：はい。

――どうもありがとうございました。すごい長時間、ありがとうございました。

高橋望

イントロダクション