――インタビュアーの井上伸一郎です。
――氷川竜介です。
――本日は、2024年7月12日です。これから丸山正雄氏のオーラル・ヒストリーのインタビューを、ドワンゴ東銀座オフィスにて行います。では、お願いします。
丸山：はい、よろしくお願いします。

――まず、丸山さんは1941年生まれで、1965年に虫プロダクション入社ということなんですが。法政大学の文学部から虫プロに入られる、記述によりますとですね、入られるとき、虫プロがどんな会社がご存知なかったという。
丸山：まったくわからなかったですね。
――まったくわからなかったのにどうして虫プロに、じゃあ入ろうと？
丸山：僕がわかんなかっただけじゃなくて、アニメってわかってる人が本当に、日本のほんの一部。東映が立ち上がって、東映動画っていうのができまして、かなり大学出の人とか、すごい美術学校出の人とか、そういう人が集まったところがあって。
――日本全国で。
丸山：日本全体でもそんなもの。昔からやってた年寄りの人が少しと、それから東映動画で新しくアニメを始めた人たちで、せいぜい業界そのものが2～300人の時代。アニメっていう言葉もなかった、動画映画って言ってましたかね。
――漫画映画じゃないですか？
丸山：漫画映画ですかね。まあ、アニメなんていう言葉はずっと、本当に10年後ぐらいでそういう言葉が出てきたのは、アニメーションから省略したアニメっていうことだと思うんだけれども。その言葉そのものがない時代ですね。だから、アニメのことを知ってる人っていうのは、本当にほんのわずかだったわけですね。だから当然僕も、アニメーションなんてまったく知らないし。大学出てフラフラ、いまでいうフリーターですね。どうもまともな仕事には自分は就けないと思って、やることが何もなくて、ふらふらフリーターをやってたころに、現代子どもセンターっていうのがあって、阿部進さんとか、佐野美津男さんとか。それまで僕らの学生時代っていうのは、優等生っていうのがいて、あとは落ちこぼれの人間は、子どもたちは、ほとんど「ダメ」の烙印をつけられてみたいな時代だったんで。そのとき、現代っ子っていう、子どものエネルギー、乱暴でいいんじゃないかと。なんかやる気が、おもしろい子が評価しようぜってムーブメントがあったんですね。そこに手塚さんも当時いらして、そういうグループのところに時折アルバイトで、その現代子どもセンターでありながら、市場調査研究所っていうのを同時にやって。メーカーの試食品とかを調査して、子どもに何がウケるかとか、そういう調査研究所ってあったんです。そこのアルバイト。すると、そこへ行くと、たとえばアイスクリームなんかいっぱい調査するんで、おいしいアイスクリームいろいろ食べられる、これは俺向きだとかいって、この仕事おもしれぇみたいな。でも、もちろん正社員なんてないから、単にアルバイトでそういうことをやってたときに、その手塚さんがどうも会社をつくったらしいと。子どものエネルギーを何とかしようみたいな、現代子どもセンターの一応旗印があって。現実はそんなものではないんですけど。ともかく旗印の下、そこの高山秀男さんっていう所長さんが、手塚さんが困っているらしいと、人がいなくて。誰でもいいと、何でもいいからそこへ行って、一応言われたことをやる人が必要であると。「手塚さんが困ってるから、おまえ行って来い」っていわれて、「えっ、手塚さんの会社って何ですか？」って、「漫画描くんですか？」とか、「漫画描けませんよ」とかいいながら。そしたら、漫画じゃないと、動画映画をつくるんだと。「なお、できないよ」とかいいながらも行って。その日、富士見台の虫プロに行って、「あしたから来なさい」っていわれて。何もないんです、高山さんの紹介状も。「あっ、子どもセンターの人ね」みたいな、「いや、子どもセンターの人じゃなくてアルバイトです」とか、全然話は何をやるのかもわからなく行って。行った日から、これやれ、あれやれっていわれて。いわれたことをやればいいことだから、誰でもできるんですよ、いってしまったら。
――具体的にはどんなお仕事を？
丸山：右のものを左に移せぐらいのことですよ。具体的に何か描いたり、何かつくったりっていうことは関係なく、どこどこに何を持って、誰にどう伝えろとか、そういうことで。その日から徹夜を始めて、行った日に。約1週間近くずっと家に帰らずに。すると、なぜか根性あるといわれるんですね、こいつは根性あるぞと、使い勝手があるという感じで、それから60年ですかね、そのままっていう感じで。なんか、おもしろいとか、おもしろくないとか、そういうことはあまり関係なかったですね。
――何かを持って行けっていうことは、いまでいうと制作進行に近いような。
丸山：制作進行ですね。ただ、制作進行だけど、まだ未分化なんで、何でもやらなくちゃならないんですよ。まだ、業務が制作進行とか演出とか分かれてない時代ですから、何でもやらなくちゃならないと。だから手塚さんにいわれたこと、だいたい書くことが多かったんですけど。そのうち慣れてきて、手塚さんが急いで書くとまったく読めないんです、誰も。なぜか僕が読めるっていう特技がちょっとありまして、それで重宝がられたのかな。いついた理由の中にはいろいろあるんだけれども。やっぱり手塚さんのいうことが、なかなかわかりづらいことがいっぱいあったし。とくに毎日いうことが違うし混乱するわけですね。それをさばいていくという、そのことは、僕はとってもおもしろかったですね。もちろん、きのういったこと、きょう違うと、殺してやろうかと思ったぐらいの、まだそのころ若くてすごいじゃないですか、ちゃんとやりたいみたいな気持ちがあるじゃないですか。ちゃんとやったはずなものが、「僕はこんなこと言ってません」とかっていわれると、なんだこのオヤジと思ったもんだけれども。いま考えてみると、それはでかかったかな。結構いま、まったく同じことをしてるわけですよ、僕は。きのう言ったことと、翌日違うことを言うわけですよ。「だって違うんだもん」みたいなことで済ませちゃう。そういうことをちゃんと、違うんで平気じゃないっていう、モノづくりってそういうもんだよって、手塚さんのあとが、どうもDNAとして、いまだに残っていると思うんですよ。仕事はそのように、もともと虫プロが始まったのがもうめちゃくちゃだと思うんですよ、僕。手塚さんしかあり得ないこと。あの人が存在しなかったら、日本のアニメーションそのものが変わってたと思うんですよ。まったく東映動画で手塚さん選ばれて、「西遊記」かなんかをプランニングする係のときに、東映動画っていうのはもともとは実写の人がメインで。それから、フィルムをつくるときに実写を撮ってから、フィルムにするとか、当時のディズニー方式をちゃんと踏襲して、なおかつ、そこにすごく優れた優秀な人たちが集まってやってるときに。手塚さんの描いた……、映画の脚本家、植草圭之助さんとかも脚本書いてたし。全部そういう人たちの、映画をつくろうという、アニメーション、画でつくるんだけども、ちゃんとした映画をつくるっていうのが「白蛇伝」からの伝統で。2～3本続いているときに「西遊記」で手塚さんが行って。手塚さんがイメージボードを描いたり、ストーリーテリングすると。漫画っていうのは格下に、実写映画に関してくると、手塚さんっていうのは漫画家としては当時すでにすごい人だったんですけど、やっぱり映画界からいわせると、なんだ漫画家かみたいな。とくに発想が漫画的だから素晴らしいんじゃなくて、漫画的でおもしろくない、支離滅裂とか、泣かせを平気でやるとか、もっと上品なものをつくろうとしてるときに、手塚さんのおもしろい映画をつくろうという発想と、絶対折り合いがつかなかったんですね。手塚さんが一念発起してっていうか、東映で自分がつくろうとしたディズニーみたいなアニメーションとは自分は違うと思ったときに、漫画を動かすんでいいんじゃないかと、虫プロをつくっちゃうんですね。当然人がいない、ほとんど東映近辺に2～300人いる程度で、人がいない、お金はない、スポンサーとかついてませんから。あとで「アトム」につきますけれども、当初虫プロを始めたころ、そういうのないですから、全部自費で自分の漫画で稼いだお金でアニメーションをつくるんですね。それがいろんな意味で、大変なことになるわけですけれども。アニメやりたいけど、やっぱり稼がないと人は雇えないし、金を払えないっていうことだと、本職の漫画をちゃんと描かなくちゃならない。でもアニメはやりたい、そこの中で虫プロがいろいろ分裂っていうか、難しいことになるわけですけれども。人がいない、お金がない、時間はない。フィルムをつくると、だいたい予算を決めて、日程決めてつくるんだけれども、人がいないからどんどん延びるわけですね。そういう形で、全部ない中で、いよいよ本当なら絶対無理な状況にあって、でも、やりたくてやっちゃった。それだけならまだしも、突然「鉄腕アトム」を1週間に1本30分ものをつくる。東映で、3年で1時間ものしかつくれない日本のアニメーション業界ですね、当時のアニメ業界の中で。30分ものを1週間1本つくるっていうのは、誰が考えても考えられない、ただのキチガイ沙汰ですよね。これは明らかにあり得ない話だと思うんですよ。それを平気でやっちゃった。お金は自分でなんとか稼ぎます、人がいなかったから誰でもいいと、呼ばれただけでつくるんだと。「画描けない？ お話ぐらいつくれるだろう？」とか、もうめちゃくちゃなんです、それは。たぶん人間の能力を、自分と大差ないと考えてるんじゃないかなと。あの人、特別だっていうことを、たぶんご存知ないんじゃないかと思いますよ。お話つくりなさい、描きなさいみたいな。最後、それで成り立って、髙橋良輔なんかも制作進行で入っていながら「リョウちゃん、絵コンテ描きなさい」みたいなこと、演出になっていくわけですね。誰でも描けると、どうも思ってた節があるんだけど。でも、やっぱりできたものが気に入らないと文句は言うわ。やっぱり手塚さんがすごいなと思うのは、時間が決まってるわけですね。そこであがったものが気に入らない、可能な限り直そうと思うんですよ、でも、直す時間はまったくない。そのとき、いろいろ言って部分的に直して、本人に直させたりするんだけど。それすらあまり時間的にできなくなると、「いや、これでいいです」って。約束は守らなくちゃならないから、内容に関してはいろいろあるけれども、これでやっちゃうしかないよねみたいな、その責任は僕にありますみたいな。描いたあなたではないです、発注した僕です、みたいな人なんですよ。だから、相当乱暴にものをつくらせちゃう。もちろん、大きな方法論として、たとえば東映動画のようにフルアニメーションできないから顔の目だけ動くとか、からだはこのままだけど肩だけ動くとか、そういうアニメーション、「アトム」っていうのはそういうものですね。でも、オンエアされたら、絵が動くっていうことのおもしろさ、テレビ時代、テレビがちょうどブームに乗ったこともあったんで、その時代にマッチしたっていうこともあるんだとは思うんですけれども。やっぱり動く漫画のおもしろさ、漫画を読んでるだけじゃなくて、それが動いちゃうっていうのは、それが技術的に拙いと、いまの人だから言えるけど、当時は動いたら、おお、動いた、動いたみたいなもんですよ。そこで手塚さんのやりたいことっていうか、こうしたいんだみたいなのがものすごく強くて。お金もないし、人もいないし、時間もないけど、それでもやるんだっていう、あの乱暴な、どう考えても無茶苦茶な無茶ぶりがない限り、ここまで発展していかなかったんじゃないかな。やっぱり、よく頑張って、いい形でつくりましたっていうとき、やっぱり人数的にもエリートだけがつくっていくものであって。それが正しいといえば正しいんだけれども。ある種、この乱暴なもののつくり方、それから人をまったく、アニメがわかっている人ほとんどいない虫プロダクションで。でも、ギサブロー（：杉井ギサブロー）なんかは、東映動画で少しはちゃんとアニメをやって来て。手塚先生がやっぱり、目玉だけ動かす、電気紙芝居って本人が思ったって。こんなアニメーションやりたくないと思ったんだけれども、やっている間に、これはアリだなとか、ただおもしろいなとか。りんたろうのように、むしろ東映のつくり方、最初から何となく自分は違うかなと思ってた人がピッタリはまっちゃった人とか、いろいろいて。ほとんどアニメを知らない、知っていてもその程度の人が、山本暎一さん、あの当時でトップの人が1人か2人は、10人いないんじゃないですかね、ちゃんとアニメーションが、いま思うにできる人。僕は無能で、みんなすごいと思ってましたけど。1カ月先輩っていうのは、もう3年先輩ぐらいの感じなんですよ。だから、僕なんか入ったらもう1カ月のときには、もう大ベテランになってるんですよ、人がいないし。それから、言ってやれる人いねぇから、僕は言ってやれないんだけど、人にやってもらうのがすごく得意なんですよ。自分でやるより、この人がやったほうがうまいと思ったら、絶対その人に頼んじゃう。この人に言うと何とかなる人にすぐ頼んじゃう。外目で見ると、すごくよくできるやつに見えるんですね、実は何もしてない。もともと、そういう制作畑の才覚だったのかな、自分でやらない。
――大事なことです。
丸山：大勢の人間で、何もしないところでやるときにそれが一番いい方法なんですね。それから、しょっちゅう方針が変わる手塚さんのものをやるについては、言ったことをただやるだけじゃなくて、自分で考えちゃう。だから、僕なんか、僕がマッドハウス時代に手塚さんと同じこと、毎回違うことを言うのが、もう癖になってるんで。当時の人間は、川尻（：川尻善昭）なんかは、丸さんが言ったのはね、2回までは聞かないほうがいい、また違うことを言うから。3回同じことをいったら3回目にやればいいんだっていう言い方をしたぐらいで。そういう訓練というか、そういう意味で仕事そのものがね、大変は大変だったと、ものすごく大変だったんだけど、時間を間に合わせなくちゃならない。時間に間に合わせるための知識がない、それから体制がない、すべて「ない、ない」の中で、それでもなおかつスケジュールは来るわけで。そのとき何がなんでもやる、話がつながらなくてもやっちゃう、そういうあの乱暴さがね、いまとなっては懐かしいというよりは、あれがあったからできたんだと思うんですよ。あれがなければ、たぶんできなかったと思う。手塚さんが、いつまでもダメ出したら、絶対できないわけですから。どこかで諦めてくれる、おまえができるのはそんなもんだろうみたいな。でも、僕だったらもっとできるから、君だってできるはずだとか、もうめちゃくちゃです、言うことは。でも、それはそういう時代、本当にお金がなく、人がなく、時間がない中で、何ができるかっていうことに挑戦していく手塚治虫の存在がない限り、虫プロっていうのがない限り、いまのアニメはないと思うんです。その乱暴さと、ある種違う部分っていうかな、それは伝統的にずっとアニメ業界が引き継いでることはあるんだと思う。もう60年も経っていろいろ変わってきて、ずいぶんそういう部分は変わってきたけど。むしろ、変わらなくてもよかった部分もあると思うんですよ。全部変わってしまったらいいのかどうかっていうのは、いまになってみれば、思いますけれども。ただ、そのエネルギーですね。何よりもそのエネルギーがここまでやってこれたのかなと思いますね。

――その中で、丸山さんは「あしたのジョー」をね、テレビアニメを企画なさって。いわゆるちばてつやさんの原作で。当時、虫プロの中で手塚先生以外の作家のテレビシリーズでつくるっていうのは、なかなか勇気のいることだったと思うんですけど。
丸山：いや、そうでもないんですよ。
――そうでもないんですか？
丸山：虫プロっていうのは、手塚さんのものをやり始めて、途中からやっぱり「アニマル1」だとか、川崎のぼるさんとか、結構いまでいう週刊誌のトップを飾ってるやつが、やっぱり企画として成立するんですね。手塚さんのものっていうのは同時進行のものって、どうしても反応が遅いんで、昔のものを引っ張り出して「リボンの騎士」とかやるしかないわけですよ。「いま」にこだわったときに、アニメっていうのはそういう「いま」を担っていかなくちゃならないっていう運命的なものが、僕はあると思うんですよ、テレビとの連動とか。
――「わんぱく探偵団」なんかもそうですね。
丸山：そうですね。オリジナルでそこはすごいのは、りんたろう、もり・まさきとかっていうのは、江戸川乱歩をやりたいとかって勝手にやっちゃうんですよ。あんなの原作何もないですから。いまだったら絶対無理だと思うんだけども、いまこそあるのかな？ そういうオリジナルをつくったり。手塚ものじゃないものを何とかしていこうと。虫プロそのものがね、虫プロっていうのはだから、手塚さんがつくった会社ではあるけれども。手塚さんのもとにある企画ものと、ある程度手塚さんなしでいろいろ考えるとか。そのときのリーダーが基本的にいなかったことが、虫プロの崩壊だと僕は思うんですけれども。手塚さん並みの、そんな人いるわけないわけで、僕にいわせると。もしくは団体で固めて、それに対抗するなり、企画を立てるなり。だから、それぞれおもしろいんだけど、「わんぱく探偵団」も「アニマル1」だって、べつに悪いわけでも何でもないんですけど。一つのムーブメントをつくっていくみたいなのを、何かはなかったんですね。その中で何をやってもよかったんです、企画。僕はもともと、ちばてつやファンで。虫プロに入ったときも、「漫画読んでますか？ 手塚さんの読んでますか？」って、試験官はべつの人だった。「いま勉強中です」とか言いながら全然読んだことはなかったんだけれども。「誰か好きな人はいますか？」っていうから、ちばてつやと馬場のぼるとか。要するに、やわら（か）っこい画が好きだったんです。手塚さんのはきっちり描いてあるから、なんか自分にはそぐわないなと。いま、全然そんなこと思ってないんですけど、当時はそう思ってたんですね。ちばてつやはもともとファンで、僕が虫プロで企画室っていうところに、なぜか呼ばれて、そこにいたんですね。そのときに、「悟空の大冒険」のときにずっと一緒だったんで、虫プロの第5スタジオっていうのがあるんですよ。一番端にファンタジアって波多正美のプロダクションがあって。もう一つ、いま報告しておかなくちゃならないのは、そういう外注スタイルが日本で初めてできたのは、人がいないから、虫プロには誰もいないから、どこかの小さなプロダクションを使って、その人にお金を出して頑張ってもらう。そんな外注スタイルっていうのが、初めてできた、「W3」でできたんですね。オチアイプロとか、何々プロ。2～3人のプロダクションで、それにもうちょっと少し投入して、人を入れて1班つくるみたいな。本社班っていうのは1班しかない、月4本じゃすまない、月6本ぐらいつくらなくちゃならないときに、「W3」つくれるのは1班しかないんです、虫プロの中で。あとの5班は、よそから連れて来てやるしかないと。当時、東映は東映しかない、外注班が出てきたのはずいぶんあとなわけで。当然一つの会社に一つしかない。後発の会社、東京ムービー含めて、結構外注班をうまく使ってるわけですけど。その走りはやっぱり虫プロ。明らかに、その体制じゃできないところで企画が成立して、ほかにも出ちゃって、なんとかしなくちゃならないからみたいな。もう本当に、なんとかしなくちゃならないだけの話でやってるみたいな。「W3」で外注班ができて、結構虫プロ本体と傍系のプロダクションで、傍系のプロダクションがまた大きくなったり独立したり、独特の色、そこのチーフによってスタイルが決まってくるみたいな。「あしたのジョー」も、パイロットを最初つくったのは、お金がないんでパイロットをつくるなんていうのはそもそもないんで、当時の発想としてもないので。ところが、出てきたものが原作の画を切って拡大したりして、編集して絵コンテにして、そのまま通っちゃったみたいなやつなんですよ。原作の画で、そのときね、一つだけ歴史的に僕があるのは、出崎統がそれを見て、丸さん、動かさなくても見れるよ「あしたのジョー」、パイロット、動いてないわけですね、原作つなげた。原作の画1枚で全然大丈夫だよ。そこへ風が入ったり、音が入ったりすれば、それで十分アニメとして成立する。その後三回PANとか、いろいろのアニメの技術が展開していくんですけど。止まった画でも、なんかできるぞと。何が何でも動かなくちゃならないっていう24コマの世界と違ったのが、その後の出崎を決定づけているのは、あのパイロットのトメだけのパイロットっていうのは大きかったかなと。それを見たフジテレビの「鉄腕アトム」からずっとやっている別所孝治さんっていうプロデューサー、「これ、おもしろいね」とか言って。じゃあ、虫プロに声掛けて、フジテレビが金出すからパイロットつくろうっていうことになって。さすがにトメだけではダメっていうことで、2回目のパイロットをつくったんですよ。それがひどくて、僕と出崎が、こんなのはジョーじゃないって。具体的に名前言えない人がやったんだけど。手塚さんの画を描いてた人がつくってるから、等身が短い、目玉が大きいとか。ちばさんの画はこうじゃないのよねっていうのが通用しないパイロットになってしまって。このままじゃいけないから、何とかしなくちゃならないっていうときに、当時もう「巨人の星」っていうのがあったんですよ。要するに、劇画っていうのはこうじゃないといけない。当時、筆で線をなぞっていたのが、トレスマシンっていうのが出て、鉛筆のタッチが、かすれとか太いとか、そういうことが成立するように、アニメの手法が一つ変わった。デジタルでまた変わるわけですけど。明らかにトレス線で、動画を丁寧に描いた画をそのまま再現する方法から、逆にトレスマシンをどう効果的に使うかっていうところでうまくやったのが「巨人の星」だと思うんです。それを踏襲して「あしたのジョー」とか、タツノコあたりで出た、窪さん（：窪詔之／くぼ つぐゆき）の描いた。
――「紅三四郎」？（：正しくはタイガーマスク）
丸山：なんか、あのへんのところでシャープなキャラクターっていうか、丸っこいんじゃなくてカッコいい。そのへんがマシンをうまく使って、画のスタイルが変わったっていうのがある。それだよねっていうことになって、どうしようかと。ちょうどジャガードっていうのが、グループがあって。そこが、平田さん（：平田敏夫）がコマーシャルなんかやってたりして、僕がしょっちゅう遊びに行くと、ジャガードで「巨人の星」を描いてる斎藤博さんと、荒木伸吾がいたグループなんですけど。お友だちになって、「統ちゃん、あそこへ頼みに行こうよ」って、「あそこでやってもらおうよ、パイロットをもう1回つくり直そう」と。虫プロの当時の一番若手で画の描けると出崎が思った、杉野（：杉野昭夫）をそのジャガードに連れて行って、そこのグループでやってもらった、パイロットを。それが1話なんかでも、ところどころ入ってる。それがパイロットとして成立して、撮影スタジオで決まった。その斎藤さんに借りがあって、僕はなぜか日本アニメ（：日本アニメーション）で斎藤さんが監督をやるときに、その設定をやりに出向して（：1976年のテレビアニメ『ピコリーノの冒険』丸山正雄は「シリーズ構成」でクレジット）。また、これはこれでつながりが出てくるんだけど。ジャガードの、やっぱり荒木さんと斎藤さんの力っていうのは、「ジョー」を立ち上げるときにね、虫プロくささをどうやって……、手塚さんの画のスタイルをどうやって違った画に持って行けるかっていうときに、やっぱりかなりその時代、一つはトレスマシンっていうのと、「巨人の星」とかでやり始めた劇画のスタイルみたいなのを、どうやって虫プロの中に入れるかっていうことが、「あしたのジョー」で一番難しかったし、一番おもしろかったかなと思います。だから1位は「あしたのジョー」っていうのを、出崎と僕とでまったく勝手に、虫プロのほかの人の意見は聞かない、勝手なやり方をした。それが結果、虫プロがなくなったときにマッドハウスをつくるきっかけになるし、そうできているわけですけど。
――「あしたのジョー」は虫プロ社内じゃなくて、外で？（：外に現場をつくった？）
丸山：そうですね。社内班から、1班は社内の次の中心の若手を、まだ名前もまったくない、そこの中に川尻も入って来るんですけど、若手の子を集めてジョー班っていうのをつくって。あとは外注で。作品は浦沢さんがその子らを見てて。今回はこの人だから、どうのこうの、この回はこの人だって、ローテーションでわかるんで。荒木さんの回はおもしろかったとか、そういう見方が出てくる、アニメの見方が少しずつ変わってくる。前はみんな同じ画じゃないといけないっていうことが、結構人がいないから、しょうがないけどその人に任せるしかないときに、画のスタイルが変わっても、もちろん演出さえきちんとしてると、原作の持ってる原作のパワーっていうのがあるから。画が多少下手でも何とかなるみたいなことがあったんで。それも、もちろんいろんな意味で撮影とか、いろんな方法でカバーしていくわけですけれども。体制がなくてもやっちゃうっていうのが、たぶん伝統的だったかもしれない。
――そういう意味で、日本のテレビアニメの流れを変えた作品ですね。
丸山：そういうことですね。そういうことになると思いますね。

――ちょっと第2部は、虫プロがじゃあ解散というか、なくなるあたりの話ぐらいから、スタートしたいと思いますが。では、その中に「あしたのジョー」もあり、そのあとですね、虫プロが1970年代に入ってなくなっていくというか、解散というか、そういう形になっていくんですが。そのきっかけというか、そういうのってどういうところから？
丸山：やっぱり経営ですよね。経営者がいなかったわけで、それはもしかすると、次に僕がつくった会社（：マッドハウス）も同じような破目になっていくということを含めて、やっぱり経営者としての才覚が手塚治虫にはまったくないわけで。それをサポートする力が、やっぱり穴見（：穴見薫）さんが亡くなった時点で、基本的に虫プロっていうのは消滅する運命にあったのかなっていう気はしますね。かろうじて、「あしたのジョー」を含めて、いろいろやれることはやったみたいだけれども。やっぱり一番は、経営ですね。管理がちゃんとできてない。スケジュール調整含めて、それはまったく僕は混然と受け継いで、いまだに頑張ってますけど。
――70年前後で、日本映画界が崩壊して、結構テレビ局も外注主体に変わっていくみたいな大転換があって、それの影響もあるんじゃないですかね。
丸山：ですね。やっぱりスタジオそのものの維持っていうのは、いかに難しいかっていうことですね。
――やっぱりそこですか。固定費の問題。
丸山：どういう体制でやっていくかっていうこと。僕なんかは完全に仲間と仕事をやりたいだけでやってるわけで、経営したいとは全然思ってないわけで。それはやっぱり会社としてはダメなわけで。違う考え方で、違うことをやらないと、それはもう痛感してますけれども。いまさら変えられないから、いいんですけれども。僕個人はいいんだけれど、これからやっていく人たちがどうするかっていうのは、やっぱり考えないといけない。そういう意味で、虫プロがダメになって、マッドハウスっていうのが、これは本当にものをつくりたいだけで、出崎に、ものをつくりたいという発想で、■■いたんで。仲間内のものをつくる会社。会社っていう名前をつけたくなかったんですね。「丸山組」ってするとか、会社名を、グループ名をどうしようかっていうとき、それじゃヤクザだろうと。カタカナにすれば何とかごまけるかなって、ハウスがいいねって、マッドハウスになっていくわけですけれども。それがたぶん、日本で大手の会社じゃなくて、個人のプロダクション、個人の、画描きじゃない、制作の個人でものをつくる体制をつくる。いま、めちゃくちゃいっぱいありますし、そのあと、たぶんタツノコから分かれてアイジーをつくったとか、サンライズから分かれてボンズをつくったとか。個人のプロデューサーの会社ができていく、仲間とつくりたいものをつくろうと。会社の企画が自動的におりてくるんじゃなくて、自分らの企画を立ちあげてっていう、マッドハウスをきっかけとして、そういうものができてくると思うんですよ。そういう意味で、虫プロはなくなったけれども、むしろ全部をべつの人が誰がやるのはべつだけど、僕には無理なんで。「あしたのジョー」のスタッフだけ、出崎に会社を……。彼の作品ができる体制にしましょうと。当時、なぜか僕も出崎も、藤岡（：藤岡豊）さんのところによく出入りしてたんで、藤岡さんの地下室にプライベートルームがあって、そこへ行くと、キティの多賀英典とか、山本又一郎とかいろんな人がいて、バカな話をするグループがあって。そういうところに僕と出崎は出入りしてたんで、藤岡さんが、阿佐ヶ谷に来たら、要するに東京ムービーの近くに来たら面倒見るよって嘘つかれて。丸々一班、「あしたのジョー」班が、そのまま作品つくれるわけだから。東京ムービーに来たら、おまえら仕事あるからって言われて。最初はＡプロ（：Ａプロダクション）の下請けで「ジャングル黒べえ」とか、そういうものをいっぱいやって。なおかつ、僕と出崎はサンライズの1発目が「ハゼドン」という、ちょっと、いまのようにロボットになる前、以前だから、「ハゼドン」の企画が決まったんで、それをやることに、スタッフ誰もいないから集めなくちゃならない。ギャグものというか、ユーモアものというか、明るいそういうものはおまえやれ、おまえが得意なはずだから、おまえがやれって言われて、はい、はいって言って僕が……。だから、サンライズの第1作は、僕と出崎が担当してるという。マッドハウスから出向してるっていうか。当時マッドハウス、僕は東京ムービーのその下請けをやってたから、僕自身は東京ムービーの企画部で、しょっちゅういろんなことをやってたんですけど。マッドハウスそのものは、金が必要なんで、場代を含めて、いままでの虫プロが用意してくれたところじゃないんで、阿佐ヶ谷の場所、藤岡さん……。仕事は用意するって言ったけど、場所代はおまえらでやれとか言われたんで。僕が当時、日本アニメの「ピコリーノの冒険」、斎藤さんがいるんで、その設定制作とか。「ライオン丸（：怪傑ライオン丸）」の制作、別所さんがちょうどその「ライオン丸」をやってて。
――ピー・プロの？
丸山：ピー・プロに行って、話をまとめるプロデューサーがいるから、そいつのアシスタントが1人必要だから、おまえ行けとかって言われて。僕、ピー・プロに行ったりとか。
――そうなんですか？
丸山：サンリオに平田（：平田敏夫）さんと一緒に行ったりとか。いろいろそういう出向で、会社に金を入れるための仕事をしてたんです。グループは、Ａプロの下請けを始めて。そのうちＡプロの若手が、どうもＡプロの仕事よりも、マッドハウスの仕事、出崎さんの仕事がおもしろいんでやりたいって、芝山（：芝山努）さん含めて。それがガンバ（：『ガンバの冒険』）につながったりするんだけど。Ａプロの若手が、ちょっと造反を起こしたんですね、僕らが行ったことで。ちょっと変な効果が表れてしまって。（：Ａプロダクションは東映動画から独立してできた会社なので）昔の東映から伝統の、古いスタイルの、ちょっと芋っぽい感じよりも、何となくシャープで、マッドハウススタイルがいいなっていう連中が現れて、椛島（：椛島洋介）さんとか、北島（：北島信幸）さんとか、そういう連中と。Ａプロとしては、逆に言うと彼らを引き留めるためには、彼らをマッドハウスに出向させるっていう方法を考えて。同時に、「エースをねらえ」までやって、「ガンバ（：ガンバの冒険）」とかそういうもの……。Ａプロの色をうまく入れつつも、いままでのマッドハウス、虫プロ時代とは違う、東京ムービーと一緒に組む出崎のスタイルなんですね。
――そこは本当に歴史的に大変な、二つの血が混ざるみたいな。
丸山：それが頂点まできて、出崎が「あしたのジョー2」をやるということがあって。僕はやりたくないって言って。「2」（：あしたのジョー2）は、最後に死ぬところだけでいいんだと、途中の闘いがいまいちが全部おもしろくないと言って、ちばさんがどんな苦労をしたことか。やっぱり講談社と梶原（：梶原一騎／原作者）さんが、この人気作品を、力石（：力石徹）よりもっといいキャラクターを出すからと、ちばさんを説得して連載（：再連載）が始まったんだけど。やっぱりカーロスも誰も、力石を超えることはなくなってしまったんで、それをわざわざアニメでやらなくてもいいと、僕としては。「あしたのジョー2」は降りちゃう。やっぱり杉野と出崎は、ほかの人に「ジョー」はやらせたくないと、おやりなさいと。当時のマッドハウスの好きにすれといいよと、残りで俺がやるからって言って、マッドハウスとあんなぷるで分かれたんですね。そこへつながっていくわけ。
――激動の数年間ですね、本当に。
丸山：それでね、今度は川尻を中心にマッドハウスが新しく力をつけていくわけですけれども。そういうことがなかったら、たぶん川尻ももともと力があるから、統ちゃんとは別ラインでやれたかもしれないけども、やっぱり最終的には誰もいないから、俺がやるしかないところまでいっちゃったんで。それが逆によかったのかもしれないしね。
――70年代の中盤で、マッドハウスと東映と仕事を始めるじゃないですか、「ガイキング」とか「ジェッターマルス」だとか。
丸山：それは東映のプロデューサーさんが、田宮（：田宮武）さんが話をいろいろつないでくれて。基本的にはマッドハウス何でもやる会社っていうか、僕がっていうか、何でもやる人なんですよ。それはたぶん手塚さんの、やっぱりこれもDNAだと思うんですよ。手塚さん、何でも仕事を受けちゃう人なんです、どんな仕事だって。仕事である以上はおもしろいっていうか、おもしろくない仕事も自分がやればおもしろくなる、だから本当に嫌わないんですね。よっぽど編集担当の人が気に入らない限りは、だいたい普通から、ましてや誰でも好きになる人で、ダメなところがおもしろいとか平気で言う人ですから。仕事が、これが嫌とかあれが嫌とかってないんですね。マッドハウス時代に、やたら仕事が増えたのは二つの理由ですね。一つは常に赤字なんで、お金を注ぎ込まないと前のものがあがらない、だからどんどん先取りしていってるうちに、典型的な自転車操業ですね。どこかで赤字を解消すればいいんだけど、それが全然なくて雪だるま式に大きくなるから、結局全部使っちゃうっていう。これも手塚治虫のDNAがちゃんと生きてるかなと思うんですけど。あとは虫プロっていうか手塚さんの一番悪いところだけ、全部ちゃんともらってる。もちろんそれで平気だっていうか、それがおもしろいと思っちゃうっていう病気ですね、ある種。
――ちょっと具体的なお話を聞きたいんですけど、「大空魔竜ガイキング」の話自体は、マッドハウスに持ち込まれたのは、どういうタイミングで、どういうきっかけで。
丸山：こういうとき、いつも困るんですけど。細かいこと、僕まるで覚えてないんですよ、どんどん忘れていくっていうか、気にしないでやってるから。重なってくれば重なってくるほど忘れてて。たぶんね、あれはたぶん、当時つき合ってた（：MKの）金子さん、金子満さん。金子さんの持ってくる仕事は、まあ金子さん以外の人でもなんだけど。おもしろがってくれる人、金子さんが来て、これやりたいと、これやってとか言うと、はい、はい、みたいなことだし。結構そういう時期があるんですね。「ラ・セーヌの星」なんてキャラクターを描いたり、なんだこれ「ベルばら」のパクリじゃんと思うんだけど。
――「リボンの騎士」と。
丸山：いいよ、いいよってやっちゃう。あまり、ものを嫌わないでなんでもやったときに、田宮さんがいろんなそういう話を持ってくれたときに、とくに自分としてもどうしてもやりたくないなと思ったけど、そのときどうしてもお金が必要なんで、しょうがなくやった「ジェッターマルス」とかね。これは本当はやるべきじゃないと思ってたんだけど、やっぱりやってしまうとか。
――やるべきじゃないっていうのは、理由は何ですか？
丸山：マッドハウス時代はそういうものいっぱいやりました、ハッキリ言って。「お金いつもらえます？」みたいな話、「前段階で半分くれればやりますよ」みたいな、わりとそういう典型的に自転車操業だったんで。中身はあとで何とかするから、とりあえず仕事として受けちゃおうっていう受け方をして。そのとき、やっぱり手塚さんと同じで、人がいないから、おまえやっちゃえよっていう人が、結構力をつけて頑張ったりするっていうのは、手塚さんの人の使い方ってこれがあったんだと。
――自分がやり始めてわかる。
丸山：確信持てるわけでもない。しょうがないから、人がいないんだし、おまえやれやみたいな。
――田宮武さんとは、どういうところでつながりが？
丸山：田宮さんはね、これもあまり言えないことが、やたら僕は多い人なんで。要するに、東映時代の監督と結構アルバイトいっぱいやってるんですよ。東映以外の仕事をやってるわけですよ。
――そんなつながりが、なるほど、なるほど。
丸山：そんなつながりですね。勝間田（：勝間田具治）さんとか、全員東映時代のそういう人は、要するにサラリーマンだから、時間内はちゃんと仕事をやって、それ以外の余裕のある人は、ものをやりたいですから、結構いろいろアルバイト、それも重宝にやってくれる。当時、田宮さんも一時演出だったから、絵コンテやってって言うとやってくれる。
――ペンネームで。
丸山：それがプロデューサーになって、仕事を自分でコントロールするってなったときに、昔のよしみで、おまえ仕事やれとか、やれるかい？とかって相談してくれる。いくつか「ガイキング」、「ジェッターマルス」、東映と絡んだ企画を僕はやってるはずです。
――（：鉄腕アトムの弟分の企画）「ジェッターマルス」のきっかけは、どうして東映に……。
丸山：東映自体じゃやれない、外側の連中の企画みたいなのが、たとえば「夏への扉」とか、「浮浪雲」っていうのは、興行形態の問題で東映では仕切るんだけれども、違うところみたいなのがあって。そういうのは、喜んでみたいな。むしろ「ジェッターマルス」や「ガイキング」より、こっちのほうが僕向きですとかって言ってやった。
――「夏への扉」って田宮さんの企画ですね。
丸山：そうですね。
――OVA（：オリジナルビデオアニメ）の先祖みたいな。
丸山：その二つがやっぱり、マッドハウスの方向を決めたんじゃないかなっていう気はしますね。
――「夏への扉」っていうのは、当時としては画期的な、いま氷川さんおっしゃったように。
――オフシアター方式って言ってましたね。
――これはなんで、オフシアター方式になったんですか、普通の興行ではない。
丸山：これはまったく東映さんの事情ですよね、オフシアター。東映グループは確実に（：安定経営）しながら、結構そういうことをやりますよね、広げていきますよね。ああいうとき、東映本体はやらないけど、どこかがやってたりするわけですよ。
――じゃあ、ちょっと実験的な興行形態。
丸山：ですね。
――いまだと逆に、ODS（：Other Digital Stuff 非映画コンテンツを映画館にかける形式）とかね、いろんなのがあるんですけど。それの30年前はそういう……、もっと前か、40年前はそういうことだった。
丸山：やったときはかなり、やっていいのかみたいな、そういうことも相当大きかったみたいですね。
――そういう企画はどんどん受けますよみたいな。
丸山：そういうはどんどんいらっしゃいで。
――「夏への扉」は、自分の中では「（：哀しみの）ベラドンナ」と血がつながっている感じがしてですね、どことなく。川尻さんがやっているせいもあるんですけど。やっぱり虫プロのDNA……。
丸山：やっぱり、いま思うに、やっぱり若いエネルギーっていうのも虫プロ含めて、マッドハウス初期がやれたのは、それは絶対あると思うんですよ、何でもやれたし。もちろん、そういう人がいた、スタッフがいた。まだ若くて、海のものとも山のものともつかないけれども、やりゃできるじゃんみたいな、ヤンチャなことができた時代。いま、そのヤンチャな部分がね、どうしてもね、なかなか難しいから。

――それでは、続きまして細田守監督にお会いして、まずは「時をかける少女」をおつくりになると思うんですけど。そのきっかけというか、エピソードをうかがえますでしょうか？
丸山：僕は人の作品はあまり見ないんですね。もっとも、自分のも見ないんだけど。見ると嫌になっちゃうんですよ。だいたいフィルム1本つくるのに、100回ぐらい見るじゃないですか、進行表から考えたら、ずっと見るんですよ。すると、嫌なところしか見えなくなって、ここ直したいあれしたいってなるから、なるべく見ないようにしないとっていうか、見たくないので、あまり見ないんですけど。たまに、なぜか勝手に見ることがあるんです。なんでも自分の興味があることっていうのは勝手に飛び込んでくるじゃないですか。街歩いていて、全部話聞こうと思ったら、脳みそパンクしちゃうから、自分の気になることだけ入って来るわけですよ。音楽なんかでも、好きな曲だけ聞こえてきて、聞きたくない声っていうのはなるべく聞かないようにするじゃないですか。テレビもだいたい、あまり……、とくにアニメはあまり見ないんだけど。あるときに偶然見た、とくに絶対見ない「おジャ魔女どれみ」（：「おジャ魔女どれみドッカ～ン！」第40話「どれみと魔女をやめた魔女」、細田守演出回）なんて、僕、見るわけがないんです、あんなの。あんなのって言ったら怒られる。それを見たときに、ちょっとビックリしちゃって。あれ、テレビでこんなことやっていいのと。これだけのクオリティで、こんなおもしろいことやっていいのって。だいたい、「おジャ魔女どれみ」でありながら、「おジャ魔女どれみ」の話じゃないじゃないですか。要するに、どれみを卒業した女の子の話。それを原田知世がやってるんですよ。それも含めて、これ、すげぇなと思って。「時をかける少女」じゃん、「おジャ魔女どれみ」がと思って、ずっと頭にそれが残ってて。もちろんその間、細田君には連絡をとって、何かあったらやろうねみたいな話をやったり。いろんなことをやっているんですね。そんなことをやって、つき合いはあったんだけれども…今くんで「パプリカ」を、今くんがやるって言い出して。今くんと一緒に原作者（：筒井康隆）のところへ、お会いしに行ったときに、いま「時をかける少女」って、一番原作者にとっては有名っていうか、ウリの、知名度の点で「時をかける少女」っていうのは一緒に映像化、アニメ化させてもらっていいですかって、OKが即出たんです。これがもう、併映でやるというふうに思って。
――併映のつもりだったんですか。
丸山：そういう企画だった、売れない「パプリカ」と、知名度の高い「時をかける少女」と2本立てにして、なんとか定着させるという計算で。じゃあ、どうやるかって、今くん、両方やってって俺言ったんだけど、さすがにそれはできねぇよって、でも、やろうかなとか言ってたから、やってねって言ってたんだけど。「パプリカ」の状況を見たら、これ、どうやっても、併映なんていうのは、どうやっても無理で。そのときすでに、「おジャ魔女どれみ」だよと思って。ちょうどそれをやってる最中に、細田くんが東映は絶対出ない（：退社しない）、最初声をかけたら、東映を出ることはないって言われて。そのあと、なぜかジブリでちょっと行って、また東映に戻ったんで。なんだ、おまえ、東映出ないって言ったじゃないかって。ジブリ行って、やっぱり戻ってるのかと。じゃあ、いつでも出れるんじゃんって、じゃあ1回、出向でいいから、「時をかける少女」、まるで「おジャ魔女どれみ」でいいよと、あのまんまでいいからと。ただ、お客（：の年齢層）がもっと高いと思ってくれと。要するに少女層に、下は全部捨てて、そういうふうにやってって言って口説いて、なんとか形になっていったっていうことなんです。結構ね、片渕（：片渕須直）に至ってはもう、ずいぶん昔、30年以上前、虫プロで見た、虫プロ制作の戦争ものがあったんです、タイトルなんでしたっけ（：「うしろの正面だあれ」）？ 東京大震災（：正しくは東京大空襲）の三平（：初代林家三平）さんの奥様（：海老名香葉子）が書いた原作のやつがあったんですよ。それを見て、ちょっとビックリして、虫プロっていったって、僕らが出たあとの、組合があった虫プロなんで、ちょっと左翼系の、頑張ってるものはつくってたんですけど。アニメーションとしては中の下っていう感じのものを、ずっとつくっているときに。なぜか突然、素晴らしいアニメーションを見せられて。タイトルを見たら、相変わらずのメンバーがあって、1人だけ片渕須直という、見たこともないタイトルを見て、あっ、こいつのせいだと、この作品がこうなったのは、きっとこいつ。ちょっと宮崎（：宮崎駿）さんっぽい画になってて、キャラクターが。レイアウトも全部素晴らしくて。そのトップシーンの東京の下町を都電が走るシーンがあって。「この世界」とまったく同じですよ。だから当時からそのぐらい優秀だった、あいつは。……と思って、ずっとラブコールやって、忙しい、忙しいっていうんで、やってくれなくて。ちょうど空き間ができたよって、「あずきちゃん」だったかな、そのあと「さくら（：カードキャプターさくら）」かなんかで、テレビシリーズでちょこちょことつき合ってくれたんだけど。4℃（：株式会社スタジオよんどしい）で、大友くんの助監督なんかやってるのを見て……。
――「大砲の街」（：1995年の映画「MEMORIES」の一編、片渕須直は技術設計）ですね。
丸山：君、それはないだろうと、君がたしかに大友くんのサポートしてくれるのはありがたいけれども。君が助監督をやってちゃいけないって、マッドハウスで監督やれって言ってやってもらい始めたみたいな。だから、最初に声をかけたのは30年以上前、40年前か。やっと、「この世界（：この世界の片隅に）」につながってくるみたいな。
――その前に、「マイマイ新子（：マイマイ新子と千年の魔法）」があって。
丸山：「マイマイ新子」はもちろん、監督をやれって言ったのが、そのへんからですね。
――そうですよね。
丸山：「マイマイ新子」を見たときに、一番だったのは、その「マイマイ新子」ファン、片渕ファンって言っていいと思うけど、それが尋常じゃないんですね。自分でみんなワッペンつくったり何して宣伝材料をつくって、それを全部配布したりして。そういうコアな客がものすごく確実に。こいつらにいいって言わせたいっていうのが、片渕君と僕のところがあって。じゃあ、ネタ何にしようかっていうときに、そういう連中から来たのが、「この世界」だったんですね。片渕君が原作者に会って、原作を読んで、これだっていうことになって、準備に入って行くみたいな。

――先ほどちょっと、聞きそびれた部分があって。岸本さんとね、虫プロから分かれたあと、（：サンライズの）お手伝いはなさっていたと思うんですけど、結果的にマッドハウスと、それから（：東北新社の資本から）サンライズになっていく流れがあるんですけど。この二つが一瞬は交わったんだけど、結局それぞれがまた独立していくっていうのは、ちょっと考え方が違ったんでしょうか？

丸山：全然違うと思うんですよ。それこそサンライズとマッドハウスの立ち位置の違いっていうのは、やっぱり一つは（：サンライズは）スタッフを用意しない。いまは、もう、そんなことを言ってられないから。それから、スタッフだけで会社を立ち上げたところ（：マッドハウス）の違いっていうのが、あると思うんですよ。それからもう一つは、当然、一番いいことなんだけど、サンライズの。作品に権利を発生させる。ものをつくるだけじゃダメっていうところと。いや、ものをつくるだけでいいですと。この違いはでかい。
――なるほど。
丸山：これは会社の運命を決めることだから、だから僕について来た人は、みんなまずいぞと、勝手に会社つくれと。僕はどんどん会社をつくって、自分で権利主張して、自分でやるべきだと。いまのMAPPAの大塚を含めて、全部そうなっていくべき。何もなくてもよかったのは、手塚と僕だけでいいというふうに思ってます。何かほしいってあまりない。それでも手塚さん、キャラクター持ってるから、まだマシだ。僕なんかキャラクターすら持ってないから、全然それでいい。十分楽しかったと思っているし。十分……。だから2年前に、もうすでに生前葬をやってるんで、いつ死んでもいいと言っていながら、来年会社つくると。この矛盾をしてるのは、それが僕だと思ってもらうしかないという。
――丸山さんのエネルギーには、いつも感動すら覚えるんですけど。ちょうど2カ月ぐらい前でしたっけ、2～3カ月前にUAEにイベントでご一緒させていただいた。そのとき、お話いただいた……、トークショーでお話していたのは、あと4作品は考えるっておっしゃって、すごいなと思ったんですけど。やっぱり次々とやりたいことが生まれちゃうんですかね？
丸山：もう、これは、もちろんそうなんだけど、本当にやりたいかっていうと、自分がやりたいかっていうと、これは微妙かな。誰かがやってくれればいいとも思うし、その人に興味を持たせるためにいろいろやるっていうのはアリで。自分でやりたいっていうのは、本当のことを言って「PLUTO」が最後かもしれないとは思ってる。こういうのをこいつにやってほしいとか、こいつっていうのはいろいろ人なんだ、声優さんだったり、制作だったり、絵描きだったり、誰でもいいんだけど。誰かが興味を持ってくれたら、それでいいや。自分が最後まで完成させて、絵コンテ、企画を見て、シナリオを見て、絵コンテ見て、フィルムを見てっていうのは、もう、さすがに卒業したかもしれないとは思います。やっぱり若いエネルギーが必要。でも、これでもしかすると、若いエネルギーで、嘘の上手なのがいて、あなたがいれば僕はちゃんとできますよっていうのが現れて、すごいいい企画を持って来て、もしくは、すごいいい監督が現れて、それで嘘でもいいから、そう言ってくれたら、即騙されてやると。そうか、俺がいたほうがいいのか頑張ろうと思うと思うけど。でも、そういう人はちゃんとやれると思うから、全然いいんじゃないかな。彼が興味を持ちそうなものをいろいろ考えて、これやれとか、あれやれとか、これやってとか、言いたいっていう気持ちはすごくあります。あまり、どこどこの会社のどこの人っていうのは、あまり思わない。昔からそれは、マッドハウスをやめたときに、やりながら、いつやめてもいいと思ってるところがある、マッドハウスをね。マッドハウスをやめたら、べつにMAPPAつくればいいだけの話だから。その会社の維持とか、そういうのはあまり考えないかな。この作品のためにこの人ととか、この人にために何かとかっていうのは、それはすごく……。アニメーションはそうじゃないとできないから、自分1人の企画がうまくいけばっていうのは、それはお金儲けの人が考えることで、俺の考えることではないというふうには思うけど。いずれにしろ、おもしろい、それから仕事は頑張ればいくらでもやれる。80すぎてもやれるぞというのは、具体的に誰かがやってないといけない。いま、やれるところにあるから、ギリギリまで頑張りたいなと思うけど。それを見たら誰かがね、ああ、なんだ80でもまだアニメはやれるんだと思う人が出てくると、ゼロから始まった僕らとしては、頑張った甲斐があるかなっていう気はちょっとしますね。手塚さんが本当にゼロから、虫プロをつくったことを考えると、なんも怖いことねぇんじゃねぇかなと思います。
――ありがとうございます。

丸山正雄

イントロダクション