――インタビュアーの遠藤諭です。

――大石和江です。

――本日は2024年7月24日です。これから八谷和彦氏へのオーラル・ヒストリーのインタビューを東京藝術大学にて行ないます。よろしくお願いいたします。

八谷　よろしくお願いします。

――事前に内容もお送りしてあるのですが、主に「PostPet」（：ポストペット：ソニーコミュニケーションネットワーク株式会社（：So-net）が1997年1月にサービスを開始した電子メールクライアントソフトおよびそのキャラクター群）のお話になります。まずはその前段階として、八谷さんご自身の、お話しできる範囲で、どのような経緯でこの世界に入ってきたのか、それが「PostPet」につながるところまでお聞かせください。
「PostPet」に関しては、当時の市場環境やユーザーの状況、特に一般の人たちがインターネットに馴染む大きなきっかけにもなったと思いますので、そういった周辺環境についても。それからご自身のこととの関係、So-net（：ソニーコミュニケーションネットワーク株式会社）との関係、海外展開の話など。So-net端末も拝見したことがありますが、日本のインターネットが広がる一番勢いのあったタイミングだったと思います。まずは大分巻き戻って、今回のお話に関係しそうな背景から入っていただき、そこにつながるスタートまでをお願いします。

八谷：なるほど。では、かいつまんでお話しします。自分の大学のころの話から戻りますが。
自分は1985年に九州芸術工科大学に入学しました。九州芸工大は当時、ほとんど唯一の国立の理系の芸術系の大学でした。今は九大に合併されて一学部になりましたが、当時は独立した大学として福岡市の大橋にありました。そこで自分はグラフィックデザインをやる画像設計学科に入学していました
4年生になって研究室に配属され、何をやろうかと考えていました。先生がエディトリアル、編集のほうの先生だったので、DTP（：Desktop Publishing）が出る前夜のような状況でした。ただ、大学には全然機材がなく、Mac Plus（Macintosh Plus（：マックプラス）：Apple（：アップル）社が1986年1月に発売したパーソナルコンピュータ「Macintosh」シリーズの3番目のモデル）の512キロバイトの初代のものが1台あるだけで、全然製作できる環境ではありませんでした。そこで大学の先輩の会社にアルバイトに行き、機材を使わせてもらうことになりました。そこがペーパームーン（：株式会社ペーパー・ムーン）という会社で、Adobe Illustrator（：Adobe Inc.（アドビ社）が1987年に発売した代表的なドロー系グラフィックデザインソフトウェア）やAdobe Photoshop（：Adobe Inc.（アドビ社）が1990年に発売した代表的な画像編集およびフォトレタッチソフトウェア）、QuarkXPress（：米Quark, Inc.（クォーク社）が1987年に発売したDTP用レイアウトソフトウェア）などのサンプルをつくる仕事をしていました。システムソフト（：1979年設立、1980年代から1990年代にかけてゲームソフトなどを開発）という会社が当時、福岡にあって。

――有名な。

八谷：はい。今もあるのではないでしょうか。システムソフトという会社がその辺のAdobe系のソフトのローカライズの仕事をしていました。日本語版をつくって売るという。まだAdobeの日本法人ができる前だと思います。Illustrator 88と言われているバージョンを使って、システムソフトに委託されて作例として、いろんなものをつくっていました。DTPを使うとこんなものができますよ、という感じで作例用の素材をつくる仕事をアルバイトでやっていました。卒業制作はDTPで本を1冊つくることをやりました。
当時、まだカラーのMacはなかった（：研究室には）のですが、Illustratorはパントーン（：米パントン社が1963年に販売を開始し国際的に使用されている色見本帳「Pantone Matching System」）で色指定ができたので、パントーンの色見本を見ながら指定していました。画面上ではモノクロなのに、出力するまで最後の色がわからないという形で製作していました。でも、そういうDTPを大学のときにやっていたのはすごく良かったです。今のAIに近いと実は思っているのですが、DTPで、そのあと10年ぐらいご飯が食べられました。みんながDTPを導入する前だったので。
卒業制作を終えたあと、就職で東京に来て、スパチオ研究所（：株式会社スパチオ研究所）というCIコンサルティングの会社に行きました。そこは日本オリベッティ（：イタリアのオリベッティ社の日本法人で、オフィス機器などを取り扱っていた）の副社長だった人が始めた会社です。新卒で入社し、プランナー兼インフラ周りの整備を担当しました。CIコンサルティングの会社だったので、デザイナーがたくさんいました。それまでは版下や写植を切り張りするようなつくり方をしていましたが、これからコンピュータにどんどんなっていくだろうということで、（：デザイナー用に）Macを導入し、レーザープリンターも導入するような仕事を。

――入社したのは何年ですか？

八谷：入社したのは89年です。昭和から平成になる年だったと思います。

当時、バブルは終わりかけてはいましたが、まだ名残りがあるぐらいでした。そのCIコンサルティングの会社はそんな大きな会社ではなく、社員十数名ぐらいの会社でしたが、そこでデザイナーと一緒に仕事をしていました。実はアスキー（：株式会社アスキー：1977年設立、日本のパソコン雑誌・書籍出版社。現在は株式会社角川アスキー総合研究所の事業ブランド）にも行ったことがあります。

――そのCIをやっているのですか？

八谷：CIをやろうとしていた時期でした。西さん（：西和彦。株式会社アスキー創業者の一人。MSX規格の提唱などでも知られる。）にもそのときにお会いして、「あ！ この人が西さんなんだ」という感じでした。ただ、その話は途中で頓挫しました。でも、ここがアスキーかと思って。

――南青山の。

八谷：南青山だったときにお伺いしました。

そういうDTP周りやCI系の仕事をしていましたが、そのときに商品開発に近いような仕事もしていました。その会社は結局、95年に辞めたので、6年ぐらい勤めていましたが、サラリーマンをやりながら、アート活動も始めていました。
当時、現代美術も盛り上がっていました。今活躍している方が結構、90年代に作家として活躍し始めた時期で、レントゲン藝術研究所（：1991年から1995年の約5年間、東京都大田区大森東に存在したオルタナティブギャラリー）が梅屋敷（：京浜急行電鉄（：京急）本線の駅）にあったり、東京都現代美術館は95年でしたが、その前に水戸芸術館（：茨城県水戸市）などが現代美術を扱いだすようになる時期でした。村上隆さんもデビュー（：1991年に個展『TAKASHI, TAMIYA』を開催してデビュー）するような時期で、「美術、おもしろいな」と思い始めました。福岡でデザインの勉強をしているころは、そんなに美術に興味はなかったのですが、東京に来ると、同世代からちょっと上の人たちがものすごくおもしろい作品をつくっていて、自分もやりたいと思い、メディアアートだったらやれるかもと思って、作家活動を始めました。
それで95年にスパイラル（：東京都港区南青山5丁目に所在する複合文化施設。1985年オープン）でやっていたジャパン・アート・スカラシップでグランプリをいただいて、賞金1000万でした。

――主催はどこなんですか？

八谷：主催はスパイラルだったかと思います。

――若いですね（笑）。さすが、スパイラルですね。

八谷：ジャパン・アート・スカラシップという、シャチハタ（：シャチハタ株式会社）がスポンサードしてくれていたんです。

――シャチハタ？

八谷：これは当時の自分と自分の作品なんですけど、「視聴覚交換マシン」という、VRゴーグルをハンドメイドでつくって、視覚を入れ替える作品なんです。これがレントゲンでやったデビュー作です。これが93年で、その2年後にスパイラルで「ワールドシステム」。

――あのスロープのあるところですか？

八谷　：そうです。「ワールドシステム」という作品をつくって、これでグランプリを貰ったんですけど、賞金1000万なんです。もちろんそれには制作費が入っていて、アルバイト代とか払えるんですけど、自分のギャラがない（：使えない）みたいな（笑）。

――えー！

八谷：結構「えー！」とか思ったんですけど。「自分にはギャラ、払えないんだ」みたいな（笑）「アーティスト・フィーないんだ」とか思いながらも、賞を取ったし、制作費1000万だったら、それは1000万分働かなければいけないんです。1000万円に……。

――見合う？

八谷：（：金額に）見合う作品をつくらなければいけないということで。それまで二足の草鞋で、アーティスト業と言いつつ、収入はほとんどサラリーマン、オフィスワーカーとして得ていたんですけど、（：この期間中に完成させるのであれば）もうそれはやってられないと思って、死んじゃうと思って、二足の草鞋をやめて、この作品に専念するということで会社を辞めました。貯金が何カ月かは暮らせるし、失業保険も貰えるだろうということで辞めてやりました。
これはその翌年の広島市現代美術館で個展をやったときのものなんですけど、ちょっとすみません、話が長くなっていますけど、説明させてください。

――いや、全然大丈夫。ええ。

八谷：ここで会社を辞めて（：1995年）、このころに、僕、ニフティサーブ（：1987年から2006年までニフティ株式会社が運営していたパソコン通信サービス）でパソコン通信を始めているんです。
先ほど言った水戸芸術館とかの（：展示）プロジェクトの1個で、「メガ日記」というのを始めて。日記というコンテンツが、今でもそうですけど、すごくおもしろいなと思ったんです。
インターネットが始まる前まで、そんなにみんな日常生活を公開してなかったじゃないですか。日常生活が見れるのは新聞の投書ぐらいしかないみたいな感じだったんですけど、みんなホームページとかつくり始めて、あるいはニフティとかでパソコン通信でやっていて、日記を書いている人がすごく多くて。その日記がおもしろいんだなと思い始めたんです。
100人で100日間、みんなで一つの掲示板に日記を書く「メガ日記」というプロジェクトを95年ぐらいに始めたんです。その「メガ日記」を表示するための赤外線の電光掲示板をつくって。赤外線だから肉眼で見えないんですけど、デバイスを通すと、その文字が可視化されるみたいな作品をつくったりしていたんです。それを広島市現代美術館に展示（：1996年）したんですけど、その日記のプロジェクトとかやって、パソコン通信系のおもしろい人たちと、テキストサイトとかが出るちょっと前で、ネット上におもしろい文章を書く人たちがたくさんいることに気づいて、そういう人たちとネット上で交流したり、実際にオフ会をやったりみたいなことをやり始めるんです。
それの前後で、自分でもニフティサーブの中に「パティオ」（：PATIO。フォーラムの会議室機能を転用したもので、高い管理機能が特徴）というのをつくって、自分で掲示板を立ち上げられたんです。その中でバカ話をしているときに、メールとかインターネットが、Windows 95とかが出た直後（：日本語版の発売は1995年11月23日）ぐらいなんですけど、パソコン通信のメールとか、あるいはファーストクラス（：カナダのOpenText社（：旧SoftArc社）の製品で当時はメールクライアントとして人気があった）と言われていたものが当時あって、遠藤さん、もちろん覚えていらっしゃると思いますけど、グラフィカルなパソ通みたいなやつなんですけど、そういうので日記とかを読む分にはおもしろいんだけど、「インターネットであんまりおもしろいの、まだないね」みたいなふうに会話していて。
メールで、おそらくたぶん95年の年末、クリスマス前後ぐらいに年賀状を書こうとして、「年賀状書かなきゃな、用意しなきゃな」と思っていて。「でも、年賀状をつくるの、めんどくせえな」とか思っていて、「メールで送れればいいのに」と思っていたころに、夢の中で、自分の女の子の友だちからテディベアがメール、手紙を持って、やってきて、持ち帰るみたいなことを夢で見たんです。で、夢で見て、「こんな夢を見た」みたいな話をしていて、「それ、おもしろいね」って話になって、「ほんとにつくってみる？」みたいな話になりました。
割と僕、自分のことを寝ているときは天才だと思っていて。起きているときは凡人だけど、寝ているときは天才だと思っているところがあって。だからこれはちょっとなんかおもしろいことになるんじゃないかと思って。「これ、ほんとにやってみない？」ということで、何人かを誘ったんです。
そのうちの一人が、さっきの九州芸工大の同級生で、真鍋奈見江さんという人がいて、彼女は大学のときから友だちだったんですけど、当時、セガ（：株式会社セガ）にいて、その前は西武百貨店（：株式会社西武百貨店）だったと思います。西武百貨店でグラフィックデザインの勉強していたんですけど、セガで「クロックワークナイト」（：セガから発売されたセガサターン用アクションゲーム。第1作目の『クロックワークナイト 〜ペパルーチョの大冒険・上巻〜』は1994年12月9日に発売）とかの製作をしていたのかな。サターンのゲームですね。「真鍋さん、グラフィックできるからやらない？」みたいな形で誘って、「プログラマーがいるねぇ」っていうことになって。
そのころ、浅野耕一郎さんという、そのあと「クーロンズ・ゲート」（：『KOWLOON'S GATE クーロンズ・ゲート-九龍風水傳-』1997年2月28日にソニー・ミュージックエンタテインメント (SME)が発売したアドベンチャーゲーム）とかの製作にかかわるんですけど、彼もその「パティオ」にいて、「ちょっといいプログラマー、知りませんか？」って言って、相談して、幸喜さんを紹介してもらったのかな。幸喜俊（：こうきたかし）さんという人なんですけど。ほぼ同世代なんですけど、この3人で、「じゃあ、（：このソフトの）ちょっと企画をつくろう」みたいな形でやったのが、「PostPet」でした。という。（笑）

――なるほど。

八谷：これは「PostPet」のプレスキットで、これ、手づくり……。

――発表会で配ったんですか？

八谷：発表会で配ったものですね。「PostPet」なので、ポストカード型のプレスキットがいいだろうと思って、このグラフィックと、裏面に説明を全部入れたものですね。

――ちょっと僕が不勉強であれなんですけど、確かにパソ通上は「Habitat」（富士通Habitat：ルーカスフィルムが開発した画像ベースのパソコン通信サービスの日本版）とか、いろんなものがありましたが、インターネットは仕事用のメールという感じでしたよね。こういうものをつくりたいと思ったのはすごいことですが、これを始めるにあたって、サーバーとか必要ですよね。

八谷：そうです。

――So-netとの関係とか、その辺はどうだったんですか？いきなりこれをやりたいと言って、自分たちだけで自力でつくった時期なんですか？

八谷：そうですね。このあと、まずデモというか、プロトタイプが必要だねということで…。

――ああ、わかりました。じゃあ、ここで切れるのは正しい切れ方で、そのあとこの説明があるという感じですか？

八谷：そうですね。だから最初からSo-netというわけじゃなくて、それまで…。

――単体であった？

八谷：（：会議は）ニフティとかでやっていたから、So-netがダメだったら、ニフティに行こうとか、そのあと、ダメだったらIIJ（：株式会社インターネットイニシアティブ（Internet Initiative Japan Inc.、IIJ）1992年設立、日本のインターネットサービスプロバイダ）に行こうみたいな考え方でした。

――そういうことだったんだ。なるほどな。わかりました。3人、桃太郎じゃないけど、集まったと。

八谷：そうですね。「この人たちでつくる」というのが先だったんですね。

――その段階で、このプレスキットがもうあるんですか？

八谷：いえ、すみません。これはSo-netで出すとなって。

――サービスインのときですね。

八谷：So-netでやるときに。

――やるときだけれども…はい、はい。とはいえ、その3人で、じゃあ、つくろうというところまで行った。で、じゃあ、一区切りという感じで。

八谷：そうですね。

――そこからどうなっていくんですか？

八谷：そうですね。95年、さっきの夢で見てという話で、それがたぶん95年年末だったので、96年ぐらいから「こういうのをつくれないかね」みたいな話をしだして、3人で会ったりしていました。
最初は、みんなそれぞれ自分の家で作業をしていて、最初からプログラムを書いたわけじゃなくて、ビジュアルデモというか、ラピッドプロトタイピングというか、Macの画面上で動くマクロマインド・ディレクター（：米Macromind社（後のMacromedia、現Adobe）が1987年に発売したマルチメディアオーサリングソフト）でたぶんつくったんだと思うんですけど、ここを押すと、こういう画面が開くみたいなのを先につくったんです。あと、アイコン（：UI）が必要だろうということで、（：画面や）アイコンをつくり始めて。
テイストを決めるのが一番最初で、キャラクターはこの4体（：テディベアのモモ、ミニウサギのミッピ、オカガメのスミコ、ネコのフロ）＋ポストマンと決めて。こんなものをつくるという企画を全部つくってから、各社に持っていこうと判断していました。

――ソフトは書いてなくて、そういう紙の状態というか。

八谷：そうですね。紙の状態ですね。

――その企画書があったら、すごいですね。

八谷：企画書はあったと思ったんですけど、この中（：この日持ち込んだ資料）に入ってなかったですね。研究室のどこかにはあると思うんですけど。

――要するにコンセプトとか、内容とか、グラフィックがもう全部出来上がって、開発とかサービスはそのあとだという、そういうことなんですね。

八谷：そうですね。ただ、これ（：資料）を見ると、「Softimage」（：カナダのSoftimage社が開発した3Dコンピュータグラフィックス制作ソフト。1986年リリース）でたぶんやっているから、ひょっとしたら真鍋さんがセガでこっそりやって（笑）。

――ちゃんと動かしていたかもしれない。

八谷：実は最初に持っていったのは、セガでした。

――つながりもあるし。

八谷：そう。「セガで出しませんか？みたいな話を、私、してみる」みたいな話をして（：真鍋さん）。96年だから、ドリームキャスト（Dreamcast：1998年11月27日、セガが発売した家庭用ゲーム機）が98年なので、企画とかひょっとしたら動いていたかもしれないけど、あと1年…。

――通信をしかもやりたいという。

八谷：1年遅かったら、たぶんドリームキャストで出ていたんじゃないかという気がするんですけど、まだセガはそういうネットワークゲームとか手を出していないころだったので、「うちは（：メール）アプリケーションはちょっと」みたいな形だったんだと思います。それでダメで「じゃあ、辞めるわ」みたいな形で、真鍋さんが会社を辞めて。それでSo-netに持っていきました。そのときにはたぶんある程度グラフィックがあった気がします。

――So-netは立ち上げのタイミングですね（：1995年11月設立。翌年1月にサービスを開始）。

八谷：そうです。So-net立ち上げで、So-netもまだ…。あ！そう。So-netに行ったときに、先ほどの「クーロンズ・ゲート」をやっていた浅野さんにも、ソニー・ミュージックエンタテインメントがプレイステーションのソフトをつくっていた時期だったので、「ソニーが今度、プロバイダーをやる」ということで、紹介してもらって行ったんです。そのときはまだSo-netもマンションの一室に準備室みたいな形であるだけでした。そこに持っていったら、社長の秘書的な、広報と社長の秘書みたいなことをやっていらした小出さんという方がいらして、その人がムチャクチャ気にいってくれて、「私、これだったら5万円出してでもやる」とおっしゃってくれて。

――5万！

八谷：すごい具体的な数字でおっしゃってくれて、それで社長の方が…。ちょっと今、So-netの初代の社長（：山本泉二氏。）を調べようとしていて、「え！そう？」という感じで、「じゃあ、やるか」みたいな形になって。すみません、ちゃんと動くデモを持っていったのはそのあとだったかもしれません。その前は紙だけでした。（：プレゼンで）最初につくったのは紙の企画書です。

ただ、グラフィック的にはある程度もうできていて、このキャラクターで、仕様もほぼ固まっていて。今度は決定のための動作デモをつくったのかな。動作デモは、もちろんプログラム上でというよりもグラフィックだけですけど。

そのときに、このメンバーでやることと、だいたいの予算が3000万ぐらいで、6カ月ぐらいでという形で固めて持っていきました。承認が下りて、製作開始という形です。

そのあと、しばらく経って、ある程度目途が立ってからできたのがこれ（：プレスキット）だと思うんですけど、これは実は（：デザインは）最終版じゃないんです。デザインがちょっと違っているんですね。これ（：CD-ROM）が「PostPet」の一番最初に出たもので、So-netユーザーにのみ無料で配られたMac版の「PostPet」です。

――いいですね。

八谷：これが一番最初なんですが（：プレスキットでは）、ネコのこのハチワレの形が違っていたりしています（笑）。

――ああ、確かに。

八谷：プレスキットのときには、まだその辺が違っていたりしていました。
そう。この辺のグラフィックも自分たちで、模型をつくれるクリエイターの人にお願いしてつくってもらったりしていました。
でも、プロバイダーと組んでやろうというのは、プログラマーの幸喜さんとかと話していても最初から決まっていて。つまりWin-Winというか、パソコンのソフトってそんなたくさん売れないというのが当時あったんですよね。今、ほとんどのソフトが無料でダウンロードですが、当時はソフトの値段が高くて、数万が普通でした。しかも、それをたくさんは売れないという形になっていたので、コンシューマ向けのものだから、普通の人が買える値段にしないといけないということで、2枚組にしたんです。

その前提があったので、プロバイダーだったらメールとブラウザーがインターネットの主なコンテンツだと思っていたので。プロバイダーは値段勝負になりがちなビジネスだというのは、もう皆さんどこもつくる前からある程度わかっていました。コンテンツで差別化できるものがあったら、プロバイダーもお金を出してくれるはずと思って、プロバイダーにまずは話を持っていこうと。普通、ソフトをつくるときにソフトのパブリッシャーに話を持っていったりすると思うんですが、このケースではプロバイダーがパブリッシャーになる形でつくったらいいんじゃないかと考えて、So-netに話を持っていったというのがありました。

――そのころ、それは96年に何してて、リリースはいつなんでしたっけ？ 98年ぐらいですかね。

八谷：98年の1月だった気がしますね（：正しくは97年1月）。

――そんな感じ。ということは、そのころはもう普通の、何つうのか、ユーザーというか、八谷さんからご覧になって、こんなユーザーがいるだろうみたいなこと、誰に使ってほしいかと思われたかってあたりの感触もお聞きしたいのと、もう1個はやっぱり「PostPet」って、自分が相手の部屋に行くんじゃなくて、ペットが行って、自分は単に頭を撫でられて帰ってくるとか、あのもどかしさというか、要するに便利さのコミュニケーションじゃないじゃないですか。

八谷：はい、そうですね。

――便利さのコミュニケーションだったら、チャットみたいなのもあるし、もし仮に部屋をつくるんだったら、自分の部屋を人に見せる。そういうサービスも海外とかはありますけど、でもそれができないところ。それを日記とか、すごくあいだにストレートな、それ、コミュニケーションじゃない。かなりひねくれたコミュニケーション。

八谷：アバターがいてとかじゃないですからね。

――そこはなんでそうなったのかとか、どういうふうに考えて、当時のユーザーはこうだから、こう考えたとか、そうじゃなくて、コンテンツとして、これがおもしろいから、こう考えた。あの当時のユーザーはどんな人たちで、なおかつ誰がターゲットで、なおかつ、それだからこそ、こんなふうに考えて、この仕様になりました。たぶんこのビデオを見ている人も「PostPet」、その中身を知らないとですね、あのなんとも不思議な関係性ってわからないと思うんですけど、そのあたりの、何ていうんですかね？ そういうソフトウェア的なところというか、メンタルなところというか、その辺を。

八谷：自分のコンピュータとか持ってきてもいいですか？ スライドが若干入ってい。

――いいですよ。ああ、そうですか。98年だと、普通のOLさんというか、10円メール（：株式会社NTTドコモが携帯電話用に開発し、GMOインターネットが運営するZERO（：当初マスターネット）が運営を行っていたEメールサービス。サービス開始は1997年5月）を使って、ケータイで彼氏に会社からメールを送るとかは始まっていたとは思うんだけど、パソコンだと、どうだったのかなっていうのが。

八谷：パソコン？ そうですね。

――もう僕の記憶だと、周りがマニアばっかりで、全然、わからないんですよ。

八谷：そうですね。でも、これ（：スライド）で見ると、97年って書いてあって（笑）、ちょっと自分ももう30年近く前だから、記憶が曖昧になっているんですけど、これ、Mac版が、たぶん97年（：初頭）にこれを出しているんです。で、そのあと、ブーブー言われて、Windows版も一緒にハイブリッド版をつくって、（：パッケージ版）リリースしたのが98年だった。

――結構あいだが空いていたような印象もあるんだけど。

八谷：そうですね。ちょっとそこはほんとは年表とか見ないとわからなかったですね（笑）。ちょっと取りあえず自分のスライド。

――95年にWindows 95が11月に出て、かなり一般ユーザー広がったんだけど、Macユーザーはもちろんインターネット、ちょっと先行しているんだけど、でも、まだ、そんなにいけてなくて。でも、Macの世界はまだiMacが出てきてないから（：発売は1998年8月15日）。

八谷：そうなんですよ。iMac以前で。

――なんともニッチなところに入っていった印象が（笑）。

八谷：ちなみに「PostPet」はiMacにバンドルしてもらったんですよね。

――そうか、そうか。

八谷：だからジョブズは見て、知っているという説がありますけど、ほんとかどうか（笑）。

――いや、それは見ているんじゃないですか。そうか、バンドルしてましたか。全然忘れちゃったな。

八谷：そう。iMac、スケルトンiMacの前ですよね。

――いや、iMacはボンダイブルー、スケルトンまで行かないけど、ちょっと透けている。

――やっぱりビジネスで（：当時のインターネット）、家族の中でも、お父さんもやっているけど、仕事用のパソコンがあって、お父さんはメールをやっているけれども、ほかは誰もあんまりやっていなかったから。

八谷：そうですね。

――ケータイ以降だよね。

――「PostPet」が出て、私の友だちはすごくかわいいと言って、やらないって言っていた友だちが始めたというのを……。

八谷：インターネットとかやらない人たち。どっちかっていうと……。

――すごい。すごい。

八谷：あ！ そうですね。ですので、ちょっとユーザーの話を、ちょっと探しながらするとですね、（：自分のホームページで）日記を書いている人たち、おもしろい人たち、結構多かったんです。そのメールのやり取りとかするのに、すごく自分が感じていたのは「男にしかかからない電話みたいだな」とか思っていたんですね。つまりユーザーが男性しかいないというか、女性ユーザーがメールの受け取り手にいないから、「これでラブレター、送れないじゃん」みたいな気持ちになっていて、ラブレターを送れるメールソフトが必要なんじゃないかと思って、つくったというのはありました。

――なるほど。

八谷：クラウドに上がっているので、ちょっとダウンロードに時間がかかります。
そう。夢でテディベアが郵便を運んできて、女の子の友だちから来たというのがあったので、女の子がやりたくなるようにつくろうというのが前提としてありました。だから真鍋さんに最初から入ってもらったということがありましたね。

――中学生とか、家にパソコンがあって、中学生とか高校生とか、すごく使ったりとか。あと、お母さんたちというか（笑）、主婦とかが多いとか。

八谷：そうですね。

――でも、たぶんその「ほかの人」「マニアじゃない人」っていう言い方とかも、今の人たちには想像がつかないんじゃないですかね。

八谷：そうですね。だからほんとにエンジニアとか、

――今は普通にやっているから。

――そう（笑）。

八谷：でも、当時、エンジニアしか使ってないツールという印象が当時のインターネットには少しあったんですね、個人的には。遠藤さんは、周り、みんな使っていたと思いますけど。

――僕は、周り、使っているんだけど。

八谷：普通の人からすると、そうじゃなかったと思いますよ。

――そうですよね。

――ビジネスメールとマニアというような。

八谷：そうですね。だから仕事のメールを送るんじゃないメーラーみたいなのは、すごくありますね。
これは「PostPet VR」（：2017年「PostPet20周年」を記念して、ペットワークスが自主的に作ったVRアプリケーション）というのをつくったときに、（：体験する）部屋の入り口に貼っていたポスターなんです。

＜So-netの当時の広告動画を流しながら＞

八谷：「2001」だ。

――いいね。いいですね。

八谷：はい。これ、デモとしてつくったのはこういう感じのムービーです（：PostPetの説明動画を見せながら）。たぶんほんとの実際のソフトじゃなくて、画面サイズもこのぐらいだったんですね、昔のMacの（笑）。「PostPet」がどんなものか見れたほうがいいと思うので、これを今流しています。実物そのものではないんですけど、こんな感じです。
今だと常時接続だから、みんな忘れていますけど、当時は、なぜ「PostPet」をつくったかというと、メールを受信するためのバリアがムチャクチャあったんですよね。つまりパソコンを起動する、モデムの電源を入れる、通信アプリを起動してインターネットに接続する、メーラーを起動する、メールのチェックボックスを押す、と初めてメールがやってくるという形で、自動で受け取ったりできなかったので、障害があるなと思って、それをかわいさで乗り越えようと思ったのでした。

――なるほど。

八谷：要するにかわいいとか、「人んちのペットが来てる」みたいなプレッシャーがあって、初めて人はメーラーを開くだろうと。郵便受けとかもずっとほっといちゃう人とかいるじゃないですか。でも、例えば毎朝新聞が来るとか、そういう何かルーチンにしないと、人はこのめんどくさいことをやってくれないなと思って、それをかわいくすることで乗り越えさせようと思ったんでした。
まあ、こうなって、「ひみつ日記」というので、相手先のところで、どんなことをされたかを（：ペットが）レポートするんです。

――メールの返事はくれないんだけど、日記は（笑）……。

八谷：そう。要するに受信確認をするメーラーでもあるんですよね。撫でられたとか、殴られたとか書いてくるから、メールを見てくれたんだ、受信はしたんだなとわかります。
こんな感じで人んちのペットがやってきて、このペットを自分のペットと同様に撫でたり、殴ったり、あるいはおやつをあげたりすることができるというのが「PostPet」でした。知らない人向けの説明を今やっています。

――相手の部屋は見れないわけですよね。

八谷：相手の部屋は見えないですね。

――そこの節度がすごいなと。

八谷：はい。というのが「PostPet」です。

――ロゴはどなたがつくったんですか？

八谷：ロゴは真鍋さんがつくりましたね。
でも、名前とかはみんなで話したんですけど、僕が出した案だった気がします。これ以外ないと思って（笑）。「これ以上の名前はないでしょ」みたいな。郵便に関連する、メールだってわかるし。いや、ほんとの意味のpost petというのもちょっと思っていたので。
つまり本当にペットを飼っている気持ちにさせたかったんですよね、すごく。だからペットがいなくなったら泣くようにつくりたいと思っていたんでした。ペットロスになるようなレベルでつくろうと。
だから実を言うと、このペットの初期バージョン、このカメのスミコは実際、真鍋さんちのペットの名前だったりしました。フロもそうです、ネコのフロもそうです。テディベアのモモは別にピンク色だからモモにしたんです。

――そうなんだ（笑）。

八谷：あと、もう一つは、ミヒャエル・エンデの『モモ』（：原著は1973年刊）ですね。要するに通常のメールがどちらかというと時間泥棒サイドなのに対して、どちらかというとアンチ時間泥棒サイドというか、（：ひとどうしが）仲良くなるためのツールというふうに思って、モモという名前にしたんです。
で、その3つ、目指したみたいなのがあって、さっきの相手のところで撫でられるという仕様、どうやってしたんですかという遠藤さんのお話に関して言うと、あれは「スタンド」なんですよね。

――スタンドというのは？

八谷：「スタンド」というのはですね、『ジョジョの奇妙な冒険』（：荒木飛呂彦による日本の漫画作品）の、これですね。

――ジョジョ立ちですか？

八谷：そうです。特にハーヴェスト（：『ジョジョ～』第四部『ダイヤモンドは砕けない』に登場）が近いんです。
あ！ つまり自分のエージェントなんだけど、それが人んちに行って、撫でられたり、殴られたりもするということは、要するに相手のところに行って、ペットがダメージを負うと、自分も精神的なダメージを負うようにつくろうと思って、殴れるようにしたんですね。
だから「ペットを殴れる、相手先が殴られるようにするなんてひどいです！」みたいな意見がユーザーから来たときもあったんですけど、「いや、それは仕様なので」というので。仕様というか、「スタンドなので」というのと、あと、もう一つはやっぱり「自分のペットをちゃんと信頼している人のとこ以外には送らないでね」みたいな、そういうのもあって。要するに自分ちにほんとにペットがいたとして、ペットが例えばここ（：首）に、首に買い物かごを付けて、お金を持たせて「お肉屋さんまで行ってきて」とかって、お使いに出すとして。「それはやっぱりちゃんとわかっている人のところに送りますよね」みたいな。「知らない人のところに出しませんよね」みたいなのがあったので、それでそういう殴れるという仕様は残したんです。もともとは『ジョジョの奇妙な冒険』を本当に現実にしたいみたいなのもあったので、やりました。

八谷：あと、やらなくていいゲームというのは、『ファミ通』（：1986年アスキーのゲーム雑誌『ログイン』から独立する形で創刊。現在はKADOKAWA Game Linkageが発行する日本の家庭用ゲーム雑誌。旧誌名「ファミコン通信」）というゲーム雑誌の中の吉田戦車さんの『はまり道』（：1980年代末～90年代前半にかけて『週刊ファミ通』で連載されていた4コママンガ）という漫画があってですね、その中で「やらなくていいゲームはないかな」みたいな話があって、これにムチャクチャ共感していたんです。ゲームなんだけど、買っても、やらなくてもいいソフトだみたいな。
当時、ロールプレイングゲームが既にクリアするまでに50時間みたいになっていて、「いや、やりたいんだけど、50時間はちょっと」と自分では思っていたので、「たまごっち」（：バンダイが1996年11月23日に販売を発売したキーチェーン型の電子ゲームシリーズ）とか、ポケモン（：株式会社ポケモン（発売当初は任天堂）から発売されているゲームソフトシリーズ。ゲーム1作目の発売は1996年2月）が出たころ「PostPet」をつくりました。
例えばポケモンもやっぱりやらなきゃいけないし、「たまごっち」もいろいろ世話しろって要請してくるじゃないですか。育成系と比べると、どちらかというとそうじゃないというか、世話はしなくてもいいという方向にしようと。その代わりツールの部分を入れて、自然とメーラーという機能もあるから、受信して、ちゃんと人のペットを受け入れるとか、あるいは自分から送るように設計しようと思って。そのためにゲームの要素を入れようと。ゲームとアプリケーションソフトの中間みたいなものを目指そうというのが、まずありました。
そのときにやらなくても勝手に進むゲームみたいなのを設計しようとして。だからゲームデザインは実はこの『はまり道』の「やらなくてもいいゲーム」みたいなことはすごく意識して、つくっていましたけど、よく考えたら、人のペットが来るというプレッシャーでやるって、実はソシャゲと一緒なのではと、あとで思ったりしました。

――どうソシャゲなんだっけ？ 人の……。ああ、まあ、つながっているという意味でということですか？

八谷：コミュニケーションゲームと言ってもいいんですけど、SNSと言ってもいいんです。

――なんか農園系のゲームで、害虫を撒いてやるとか、人の畑に。そういうところにちょっと似ているところもありますね。

八谷：そうですね。結局、これをつくるときに、人間ってコミュニケーションを一番大事にするというか、ツイッターとかでも、リプライが付いていないか見ちゃったりするし、人の反応というのはすごく気になるし、そのコミュニケーションから離れられないし、コミュニケーションこそが一番おもしろいと思っちゃうんだなと思っていたので。そのコミュニケーションの要素を入れるのにメーラーという、メーラーのプロトコルを使ってやるみたいな考え方だったんです。
もともとあったので、吉田戦車さんに会って、雑誌（：1998年出版『ムック』、「ポップンポストペット」）をつくるときに。これをつくるときに、初めてお会いしたりしました。これを見ると、98年2月って書いてあるから、たぶん97年の夏ぐらいにMac版をつくって、98年にWindows版とMac版のハイブリッドの「PostPet」の最初のバージョンを出したという、たぶんタイムスケジュールですね。
さっきのジョジョを再現するものをつくりましたというのと、痛みが伝わるということなんですけど、あとは切手がすごく良いなと思っていて。当時、ネットユーザーがメールをバカにしているな、みたいな気持ちが若干あって。つまり、eメールのユーザーは郵便のことをスネイルメールと呼んでいたんですね。

――していましたね。

八谷：いや、普通の人は知らない話なんですけど、遠藤さんはわかると思いますけど、かたつむりメールって呼んでいて、バカにしているみたいなところがあったんです。

――UNIX系の、もうかなり古い言葉ですよね。

八谷：スネイルメール。はい。それはなんか僕としては「え！ そんな。ちゃんと郵便には敬意を払おうよ」みたいな気持ちがありました。「だって、メールにない、いいとこ、いっぱいありますよ」みたいな。例えばラブレターを送ったときとか、封筒とか切手で、これが大事かどうかわかるじゃないですか、郵便って。あとはやっぱり郵便で送られてくる、今だったらなおさらメールよりも郵便でもらうほうが、しかも手書きで住所を書いてあったりすると、これはなんか大事なもののはず、みたいなのがわかったりする。
切手の精霊としてペットを設定しようみたいなのがあったんです。だから「PostPet」のペットって、寿命概念があるんですけど、寿命は通数なんです。1通も送らないと、ずっといるんですけど、たくさん送って、人と仲良くなると、切手の精霊なので、どんどん減っていくんです、寿命が。だからそこはわざと相反するようにつくってあって。すごく大事で、活躍してくれたんだけど、いつか亡くなってしまうものとして。
ミッフィーの切手とか、そういうものだと思うんですけど、やっぱりすごいかわいいんだけど、かわいいからこそ使うと、なくなっていくのはよくわかるので、大事な友だちにしか送りたくなくなるじゃないですか。だからそういうふうなのはゲームデザインというか、そのツールをデザインするうえで、すごく大事にして、設計しました。なくなるからこそ価値があるというふうに思っていて。
あ！ 年表を載せていた。

――ありました。

八谷：良かった。これがないと、もう自分も記憶があやふや。で、このベータと言っているのがこれですね。これがSo-netユーザーにだけ配布したものです、一番最初のバージョンで。「漢字Talk 7.5.1」以上。

――出た。ありがちな。

八谷：すごい！ Mac版から先につくったのは、もちろんWindows版のほうが人数が多いのはわかっていたんですけど、これも戦略的なところで、まず自分たちがMacを使っていたというのが一番大きいんです。次に当時、Macがたぶん暗黒時代で、たぶん株価とかも一番下がっていたころだと思うんですけど、まったく売れてないころで、ソフトも全然供給されてなかった時期だったんです。だからMac版のおもしろいソフトというのに、Macユーザーはすごい飢えていたんです、自分もそうだけど。
Mac版から先に出して、数は少ないとはいえ、やっぱりMac版のユーザーは、しかもある程度、何ていうんでしょうかね、レベルが揃っていると言ったらあれですけど（笑）、別にWindowsをバカにしてないんですけど、Windowsって、本当に初心者の人から本当にハッカーみたいな人まで幅があり過ぎるので、どこをつくっても、なんか苦情が来たりする。だからまずMac版のこの辺をターゲットにしてつくって、ユーザー同士である程度サポートできる環境を先につくろうみたいなのがあって、Mac版から先に出したんです。
もちろんWindows版も同時にリリースするつもりでした。97年にベータ版をつくって、Version 1.0をダウンロード版として出しています。そのあと、パッケージ版も97年に出しました。98年は「2001」でしたね。

――パッケージ版は既にWindowsも対応しているんですか？

八谷：そうですね。

――なんか感覚とちょっとあれだな。

八谷：Mac版だけだったのは、ほんとにベータのこれですね。

――最初だけですか。

八谷：はい。

――ああ、そうですか。

八谷：パッケージ版の97年に出した「PostPet DX」（：PostPet初のパッケージ版。1997年11月発売）というのがあるんですけど、最初の1.0はたぶんSo-netユーザーだけに先行でリリースしたと思います。そのあと、「So-netに入ってないけど、使いたいんですけど」という人が好評で増えたので、パッケージ版をつくりました。これが「PostPet DX」というやつです。あれ？ これ（：スライド）、98年になっているな。

――なんか前のページと年が違う。

八谷：年が違う（笑）。ちょっとそこは要確認ですね。このパッケージ版（：「PostPet DX」）からディスク2枚組にして、4980円で、ディスクが2枚入っていて、1枚は友だちのところにプレゼントできるようにつくりました。

――いいですね。

八谷：これは「2001」というバージョンにも引き継いでいるんですけど、これは1年後ぐらいにつくったものですね。「2001」は98年ですよね。やっぱり、だからこっち（：年表）が合っている気がします。97年に「DX」で、「2001」がVersion 2なので。これでキャラクターを増やしてという形ですね。これ、フィギュア付きの特製版みたいなものです。これがたぶん「PostPet」で一番売れたバージョンですね。

――そうか、そうか。

八谷：2枚組にしたのは、やっぱり相手がいないと使えないものなので、トランシーバーみたいなものなので。パッケージには封筒もセットにして、郵便で送れるようにつくってあって、メールソフトを郵便で送るというのが（笑）、マニュアルも2セット入れて、マニュアルと封筒とCDで送れるようにしました。

――いいですね。

八谷：ちゃんとキッカケになるようなものを狙ってつくったみたいなのがありました。

――これ、発売はどこになるんですか？

八谷：これはSo-netからです。

――So-netはそういった企画に関しては何も口を出さずに、全部、OKだったんですか？

八谷：そうですね。全部、OKでしたし、むしろノリノリで、いろいろ手伝っていただきました。3人でつくったとは言っていますけど、「PostPet」のもう一つ良いところは、結局、ペットをメーラーで送って、サーバーに集積させて、そこでいろんなイベントができるということなんですよね。だからペットの運動会とかやっていたんです、「Shockwave」（：インターネット上でアニメーションや音声を利用してコンテンツを作成する技術）とか使って。
ペットメールをイベントのアドレスに送って、そこで見ると、要するに幼稚園とか、保育園で子どもの運動会を見ているようなものというのがコンセプトなんです。ペットそれぞれにパラメーターをちゃんと持っていて、体力だったり、頭の良さだったり、幸福度だったり、満腹度だったり、40個ぐらいのパラメーターを持っているので、それをピックアップして、順位を最終的に決めるみたいなことをやったりしていました。
だからSo-netは別に全部お任せじゃなくて、「これを使って、こんな企画しましょう」みたいな、PostPetパーク（：会員制のホームページ）というところの中でのイベントとかは、開発の企画案は出していたんですけど、全部を自分たちでやれないので、そういうところを調整したり、グッズ企画とかもやりました。そのあとに出る「ポケットPostPet」（：NTTドコモとSo-netが共同開発したメール端末。1997年に発売された「ポケットボード」と、So-netの愛玩電子メールソフト「PostPet」を組み合わせ。2000年4月発売）の話とかを進めていただいたりもしました。
ケン・イシイさんが曲を付けてもらった、モモの着ぐるみのモモ兄というのがいるんですけど、この子にDJイベントをさせたりとか、ちゃんとしたグラフィックを。これ、ケン・イシイですね。

――すごいです。怖い。

八谷：VHSが入っていると思うんですけどね。

――へぇ～！

八谷：こういうおもしろいグッズをつくるのに対して、やっぱりすごく、ナカムラさんという人が（：グッズ関係の）担当だったんですけど、協力していただいて。

――ソニーらしい。

八谷：そうですね。プロレスのマスクとかもつくりました。パンクラスの人（：モモマスク１号。中はパンクラスのKEI山宮選手と言われている）。当時、So-netがパンクラスのファンサイトとかもやっていて、割といろいろやりたい放題のことを（：みんなで）おもしろがってやるみたいなのがありました。

――ビジネス的にSo-net的にはかなり儲かった感じなんですかね？

八谷：儲かったのはあると思います。PostPetパークはSo-net会員は無料で使えるんだけど、それ以外の人は月額300円ぐらいだったと思うんですけど、両方合わせると60万人ぐらいいたんです。結構、会員が（：多い）。無料で使っているSo-netユーザーの人が30万か40万人ぐらいで、有料ユーザーも普通に20万人ぐらいいて。So-netのユーザーはもちろんプロバイダーとして課金もされているので、結構ビジネスとしては儲かっていたと思います。儲かっていたからこそ、いろいろこういう周辺の企画ができたと思いますね。
ですので、この辺は結構自分たちもソフトウェアでかかわったりはしているんですけど、それ以外にもゲームが出たり、ウェブ版を出したり、ウェブメール版を出したり、いろいろ手伝ったり、グッズ関係とか、イベント関係や出版とかはSo-netのほうでいろいろ企画していただいて、やっていったみたいな感じですね。

――「ポケットPostPet」はどこから話が湧いて出たんですか？

八谷：あれはNTTドコモだったと思います。ポケットボードをつくられていた方、名前をド忘れしちゃったんですけど、女性の方（：増田智子氏）がいらして、ポケットボードの企画者の人だったんです。

――いらっしゃいました。若い人でね。

八谷：はい。彼女が「PostPet」のこと、すごく評価していただいて、「やりたい！」と言っていただいたので、僕らも「それ、いいですね。やりましょう！」みたいな形で、やりました。結構がんばって、いろいろやっていたので、ちょっとほんとにこれは、ケータイ（：スマホ）に移植したいぐらいなんです。これは製品のやつかな。ここが着せ替えられるようになっていたりとか。あ！

――手紙が出てきちゃった。

八谷：小出さんだ。

――さっきの？

八谷：はい。

――「シグマリオン」（：NECが開発/製造し、NTTドコモから2000年9月に販売したWindows CE搭載ハンドヘルドPC）とかと関係あるんですか？

八谷：それはたぶん関係ない気がします。

――ドコモのWindows CE端末というか。

八谷：それはあんまり関係してないと思いますね。

――関係ない。

八谷：これ、「ほぼ日」の糸井さんにここの文章をつくってもらったりとか、いろいろがんばってやりました。これについては。これ、（：製造は）カシオでやっていたんですけど。

――カシオなのか。

八谷：はい、カシオ製なんですよね。マニュアルとかは自分たちでデザインしたりとかやっていましたね。あ！でも、今見ても、ちゃんとかわいく、いい感じにつくっているみたいな。結構、お絵かきメールが書けるとか。

――実はほかの機能もいろいろあるんだ。

八谷：そうなんです。Windows CE（：米マイクロソフト(Microsoft)社のモバイル機器や組み込み機器向けOS。1996年から2007まで展開）マシーンとしても格安だったりとかはよくありますけど。
あと、これ、赤外線通信で、ペット同士で、さっきのその（：Webの）イベントみたいなところをやれるようにして。ダンスバトルさせたりとか、自分のほうがかわいがられているという自慢大会をやったりとか。

――ひどいじゃん（笑）。

八谷：いや、ひどくないですよ（笑）。というか、あと、頭の良さのパラメーターを使って、このすごい簡単な、どっちが正解するかみたいなクイズをやったりとかしていました。

――ドコモ絶好調だな、実は。

八谷：でも、この辺は自分、ペットワークス（：1998年設立。八谷氏は当時代表取締役）で企画してやったんですけど。たぶんそれに載っていると思うんですけど。

――これを出そうというだけですごいですよね。

八谷：で、僕、カシオでやれるって知ったので、これ、ゲーム電卓機能（：ゲーム電卓：1980年代に発売されていた電卓の液晶とボタンを使って簡単なゲームができる電卓）が付いているんです、実を言うと。
だから遠藤さんは反応してくれると思って。ほかの人たちは「え？」という感じで。

――数字でインベーダーやりますみたいなね、ゲーム電卓。

八谷：そうです。それが載っているんです、実はこの端末には。

――へぇ～！

八谷：それで（：ゲーム電卓機能を）載せたいって僕が言ったら、「え！何？」。

――何のことか。

八谷：カシオの人も「え！それ、何ですか？」みたいな感じだったんですけど、「いや、これです」みたいな形で。
で、これは復刻版のやつで、僕が買って持っているんですけど、電卓でゲームができるというやつをカシオが出したんですね。で、これをもうすごいやりたいですって主張して。

――じゃあ、それ、いきなりそういう画面になるんだ。

八谷：いきなりそういう画面になるんです。たぶんそれに載っているんじゃないですかね。あ！画面はですね、ちょっとデザインはちゃんと変えていて。

――そういうことですね。

八谷：はい。「PostPet」のゲーム電卓、付いているという。これは強調しておきたい（笑）。

――なるほどね。

八谷：そう。カシオさんとも割と。

――「カシオペア」（：カシオ計算機のWindows CEを搭載したPDA）の流れだ、だから。なるほど。

八谷：というようなことをやりました。これは、だからそのころ、試作のチェックで何回かチェックしたり。手書きで書かれているキーボード。

――これ、おいくらでしたか？結構、値段は……。

八谷：値段は当時、そこそこしたと思うんですけど。

――ですよね。

――何万かしていると思うよ（：3万5800円）。

八谷：割と最後のほうはちょっと投げ売りされていたので。

――えー！そうですか。

八谷：でも、それを「え！これ、Windows CEマシーンになるじゃん」って気づいた人たちが買っていたりとかして。

――なんか欲しかったけど、なんか高かったようなイメージが。

――結構したかもしれない。

八谷：ゲーム電卓の画面、載ってないな。これには……。

――後ろのほうですか？違う？

八谷：あ！ここ、これですね。ゲーム電卓。

――狂ってますね（笑）。

八谷：そう。お部屋の中にゲーム電卓があって、それをタップすると、このゲームができるという、なんか「龍が如く」みたいなことを、当時、やっていたみたいな。

――なるほど、なるほど。いいですね。

八谷：これ。

――誰もわかりませんよ。

八谷：いや、でも、遠藤さんみたいな人がわかる。というか（笑）、わかる人はちゃんと気づいて。

――（：ゲーム電卓の説明ページを見て）1980年発売（：のゲーム電卓）を再現（：1980年8月発売のディジタルインベーダー（MG-880）を指す？）してみました。

――えー！すごい。

八谷：80年なんですね。この、そう、だから、これ、2000年とかだから、このときにはもう20年前みたいな。

――へぇ～！

――なるほど。

八谷：これは『気まぐれコンセプト』（：ホイチョイ・プロダクションズによる日本の4コマ漫画。『ビッグコミックスピリッツ』小学館にて1981年から連載開始）に「PostPet」が載って。「こち亀」（：「こちら葛飾区亀有公園前派出所」）と『気まぐれコンセプト』に載ることが目標だったので。

――ああ、いいじゃないですか。

八谷：「こち亀」にも載っているんですけど（：コミック120巻に掲載）、それはちょっとコピーがなかったんですけど、そういうふうになりました。

という形で、いや、やっぱり普通の人がメールを使うのに貢献はできたかなとは思っていますし。

――そうですね。

八谷：なんか今、学生の父兄の方と会うと、「PostPet」をつくっていたっていうのが、なんか「『PostPet』とかつくっていたんですよね」とかって言われたりするから。多分今の学生の、親御さんたちの世代。

――まあ、やっぱりね、一番メインだから。

八谷：はい。「です。です」みたいな話をして。

――リリース後にこんな……。今もちょっと伺ったんですけど、こんなエピソードがあったとか、こんなユーザーがいたぞとか、こんなタイアップ案件があったぞとか、リリース後で、この当時の時代を象徴するようなことって、もっとあるんじゃないですか？

八谷：そうですね。やっぱり……。

――子どもは使っていたんですか？

八谷：子ども、結構使っていましたね。おうちのパソコンで使っていたというパターンはすごくあって。ですので、マイ・ファースト・メールソフトとして使ってもらうというのもあったので、すごくその面ではありがたかったし、嬉しかったんですけど。でも、パッと見、子ども用に見えて、実はあんまり子ども向けじゃないんですよね、ペットが書くメールが。

――ビール飲んじゃうし。

八谷：ビールも飲みますし。あるペットの、いや、このペットメールの原案って、実は何ていうか、「テキストサイト」（：1990年代後半から2002年頃までの日本語コミュニティで流行したウェブサービス）系でおもしろいメールを書く人に依頼していたりとかしていたので、結構、実はSMの女王様だったりとかする人が書いたりとか（笑）、していたりとかしているので。

――えー！

八谷：もちろんそういう、あんまエロティックなものは含まれていないんですけど、子ども向けじゃないんだけどなと思いつつ、なんかこう、そういうメール。メールの原作者はちょっとそういう人が書いたりとかしているという。「テキストサイト」でおもしろいものを書いている人に声を掛けて、つくるみたいなのをやっていました。
すみません。さっきの（：初期）試作バージョン、キャプチャーだけ残っていました。こんな感じの試作をつくって、プレゼンテーションしたんですね。96年につくって、出したやつ。はい。Mac。
で、これがさっきの。98（：年）になっていますけど、97（：年）ですね。2枚組にしていたやつですね。はい。

――いいですね。

八谷：「ポケットPostPet」。はい。

これ、美術雑誌に（：イギリスのアート・カルチャー専門誌『frieze（フリーズ）』）載ったときのやつですね。パッケージの。これは……。

――なんかそのアートの話が先ほどありましたけど、アートとデジタルと、それのコモディティ化みたいなことがやんわりとあった時代というのを、象徴するような気もしますね。コミュニケーションそのものがそういう表現になってくるみたいな。

八谷：たぶんこの（：スライドの）最後のほうに、ユーザーさんがつくったやつがあった気がします。

――Modですか？

八谷：ああ、Modというか、おやつとかをすごくたくさんの人がつくってくれたりしましたよね。お部屋とかも、おやつとお部屋は結構カスタマイズ可能にしていたので、公式でいろいろ有名クリエイターのものをつくって出したりもしましたけど、同時にユーザーが勝手につくったやつも流れていました。
ただ、それが致命的な問題は引き起こさないように設計してつくっていたので、さっきも言いましたけど、ハッカブルと言っていた話をしましたけど、要するに軽いハッキングが可能なようにつくっておくみたいなものをちょっと考えて、やっていました。
あと、「PostPet」が一番画期的だったのって、たぶんベータテストをこんだけ大掛かりにやったところって、パソコンソフトであんまりない感じが正直しているんですよ。今は普通にゲームでも、PCアプリでも、ユーザーを入れたベータテストってしますけど、この当時、オープンソースとかそういうのを別にすると、一般に発売されるやつでここまで（：大規模なβテストを）やったやつはあんまなかった気がするんですよね。
グッズがいっぱい出たりしているのは、やっぱりお客さんがたくさんついていたからだと思うんですけど、そのときに製作チーム自体はすごい小さいチームでつくっていたので、テスト人員はあまり確保していなかったんです。予算もあって。だからユーザーにユーザーサポートしてもらおうみたいなことをやっていて、掲示板で、一応、ドクターとか、ナースと呼んでいる人たちがいて、この人たちはセミプロユーザーというか、そういう人を設定して、その人たちに簡単なサポートはしてもらう。「こういう手順でやったらいい」とか、「設定はここはこういうのを入れるんですよ」みたいなことをやってもらったりしていましたね。

――なるほどね、そういうことですね。96年ぐらいは実はおもしろいんですよね。

八谷：そうですね。インターネットが盛り上がり始めるころで。

――なんかパソコンを買うときとかに、パソコンにも「PostPet」が入って。

――バンドル。バンドル。

八谷：あ！ バンドルしていましたね。

――それで、それを買ったということが結構あったような。

――なるほどね。そうですね。恋人間で使われるのが一番多かったんじゃないですか？

八谷：そうですね。恋人だったり、遠距離恋愛している人だったり、あと、単身赴任で行っていたりとか。

――でも、なんか友だちとかが「モモが来てるかもしれないから、早く帰らないと」とか言って（笑）。それで「最近、モモが来ないの」とか言っていて。

――寂しい。

――「モモが最近、来ないの」と（笑）。

――それはモモがじゃなくて、相手が出してないだけ（笑）。

八谷：でも、友だちをつくるソフトであり、友だちを選別するソフトでありみたいなところがあり。

――「PostPet」でやり取りしようよというところには、結構、ハードルがありましたよね、僕みたいなオヤジからすると。やっぱりかなり、特に相手が女の子とかだと、かなり親しい関係じゃないと、そうは言えないみたいな。そこにふるいが掛かっている。

八谷：そういうものとしてつくったので。

――だって、名刺交換したさ、メーカーの人にいきなり「ポスペで送っていいですか」って言えないですよね（笑）。

――そういうところだったんですね。

八谷：仕事じゃないとこで使ってもらうメールソフトなので。

――仕事じゃないところで、そうですね。

八谷：（：インタビューの合間で）ちょっと軽い休憩な感じですけど、ちょっと売上のこれ（：データ）が出ていたので、話すと。だいたい最初の「PostPet DX」が年度末で出荷本数が13万本ぐらいですね。で、「PostPet 2001」は99年に出して、出荷本数は87万5000本です。

――すごいな。へぇ～！

八谷：で、「PostPet V3」は、ちょっとやっぱり（：動作）環境が、もうちょっと3Dなので、今だったら楽々動くんですけど、ちょっとやっぱり環境が厳しかったので、10万7000本。

――それでも10万は行ったんだ。

八谷：10万、行っていますね。そうですね。そのぐらいですね。で、やっぱり「2001」が一番売れていて、87万本。あと、これ、バンドルを含めてないので、バンドルとかを入れると、もっともちろん多い。さっきのはお金を出して買っていただいた人の数みたいな感じです。
あとは実際に、これはパッケージ版の売上ですけど、So-netの売上として、公開してないと思いますけど、一番多かったのはやっぱり（：ポストペットパークの）会員で、毎月いくらというような形で買っている。

――海外はどうなんですか？

八谷：海外はですね、海外版もつくったんですけど、そこまでは売れなかったんじゃないかな。ただ、台湾では結構キャラクター人気があって、So-netの、台湾の（：クレジット）カードとかになっていましたね。

――さすが、台湾。So-net、香港もありましたよね。

八谷：香港もありましたね。

――受けなかったんだ、香港では。台湾はやっぱり日本にきわめて嗜好が近いんですかね。

八谷：そうですね。台湾。あと、台湾So-netもあったのもあって、やっぱりモノって売れるときにはちゃんと営業の人がいるというのが大事で。

――そうか、そうか。

八谷：営業というか、「これはいいから、皆さん、ぜひ買ってください」みたいなのを強く言ってくれる人がいて、初めて成立するとか。
ちょっとその、さっき言う積極的ベータテストと呼んでいるやつなんですけど、「談話室北村」というのをつくって、これが要するにユーザーサポートとか、雑談する部屋とか、「ペットを送ってください」みたいなのを言ってくれる部屋が要るだろうということ。北村（：道雄）さんというSo-net側の総合プロデューサーだった方なんですけど、こういう談話室をつくったり、イベントをやっていたので、そのイベントの「こういう場所でやっているんですよ」みたいなイメージの。
これは、あ！ ごめんなさい、オンラインイベントをやっていたんですけど、実際のリアルイベントもやって。リアル、これ、パルコとかでやったやつなんですけど、「そういうところで、こんな形のところにペットがいて、やっているんですよ」みたいな。
ジオラマをつくったり、あと、これ、銅像なんですけど、これは何かっていうと、この4ペットいるベータ版の前に、本当の最初のベータ版みたいなのをつくって、モモしかいないというバージョンがあるんですけど、それはほんとにテスト用のやつで。終わったら、要するにペットはみんな、死んじゃうじゃないですけど、（：アプリから）いなくなるんですけど、いなくなるときに、一応、「最後、ここに帰っておいで」みたいな、つくっていたんですよ。ムーンって呼んでいたんですけど、月に帰るということにしていたんです。ペットは別に寿命はあるけど、寿命で死ぬわけじゃなくて、どっか別のところに行くという設定にしていて。そこのムーンに来たペットの名前だけは、ペット名だけがずっと表示されているみたいなところを（：パーク内に）つくっていたんですね。それはすごく初期のユーザーの人はなんか「自分ちのペットはあそこにいる」みたいに思ってもらっていたので、そのベータ版ペット、ベータ版モモの銅像みたいなのをつくったりしていました。
これ、実際、こういうやつ（：おやつや部屋）を配布している人がいたりとか。このおやつは、そのおやつのデータなんですけど、その下にテキストデータも組み込めるようにしていたんですね。これがなんかWeb 1.0っぽい、それぞれのユーザーサイトというイメージですけど、「これを食べると、こういうテキストのメッセージを持ち帰るよ」みたいなことも併せて改変して。

――JPEGの中に埋め込むという感じなのかな。

八谷：ペットデータ（：構成）が、JPEGというか、ビットマップデータと（：日記の）テキストとパラメーターを上げる・下げるみたいなのを。

――そういうフォーマットだったんですか。

八谷：はい。フォーマットが決まっていて。それを解析する人は出るだろうと思ったんだけど、Windows版が出たら自作おやつメーカーみたいなのも普通につくっている人が出てきた。それは割と「よし！計画どおり」というところはあって、ユーザーが楽しんでいる状況が他のユーザーに見えるのは大事だなと思っていたんです。それは今、ゲーム配信をしてみんながゲームを欲しくなるという、構造的にすごく似ているなと思ったりしています。
だから「おやつ、配布します」とか「このペットはこういうメールを返します」みたいなのとか、ユーザーさんが自分のコンテンツとしていろいろ作っていったのが面白かったですね。お部屋を自分で作ったりとか。「V3」になるとさすがにポリゴンなのでそれはできなかったんですけど、（：初期のPostPetは）2Dのグラフィックの上にプリレンダー（：CGを事前にレンダリング（計算して生成）したもの）したキャラクターが動いている形だったので、お部屋を自分で作っている人が出たりとか。

＜動画を流しながら＞

八谷：これはユーザーさんがまとめたイベント動画です。例えばこんな感じで、ペットがスノーボード大会をやったり、合コンとか、こういう丸太（：川下り）に。これは我々が用意していたんですけど、たぶん参加した思い出を動画にまとめていただいたので。僕らの中にはこういうデータはなかったので、助かると思って。これは5対5のカップリングするんです（：ゲーム）。PK大会。
ソシャゲっぽいと言ったのは、こういうところも含めてやっていたからですね。1対1だけじゃなくて、ペットを送り込んでアクションがあるというか、同時にいろいろイベントをやって、ユーザーに直接のメリットがあるわけではないけど、うちの子はこれが上手いという形で楽しくなるようなのをたくさん作っていました。
これは出なかったやつですね（：Twitter版のPostPetのデモ動画を見せながら）。その後も「PostPet」に関していろいろやろうとしていて、ツイッターがまだユーザーが少なかったころに「PostPet」のツイッタークライアントを作ろうとして、実際に作ったんです。ツイッターで動くものを作ったんですけど、ツイッターが比較的API（：Application Programming Interface）を勝手に（：頻繁に）変えるので、たぶん今はもう動かない。変更されるとまったく動かなくなるというのがあったので、ツイッターでやるのは厳しいねという形でやめたものです。

――ケータイ版って、どういう感じで出てきたんですか？

八谷：あ！ケータイ版。

――SO501（：携帯電話の機種を指す？）とか、そういう感じの。

八谷：この辺のケータイ。

――あれでやった人も結構いるんじゃないかと思いますけど。

八谷：はい。これは僕らはあまりタッチしていなくて。

――実はかかわってない。

八谷：自社でソフトまで書いたかどうか、ちょっとよく覚えてないです。

――知らないってわけにいかないけれども、インプリメントは、ドコモさんなり何なりがやったという感じですかね。

八谷：そうですね、確か。ケータイについては（：実装をどこの会社に依頼していたかは）よく覚えてないです。ただ、こういう企画という点では関わりました。

――iモードの、結構初期の実は隠れたヒットコンテンツじゃないかと、私は思うんですけど。ソニーのこういった引っくり返る液晶が、端末。

八谷：これ（：iモード版ポストペット）は割とゲームチックに作り直したところで、コミュニケーションソフトというよりも、ペットがいろんなところを旅して行くみたいな形です。企画に関しては自分は結構関わって出していて、デザインも一部書いているんですけど、プログラムとデザインと企画全部というのではなかった気がしますね。

――なるほど、なるほど。そういうことか。開発もちょっとね、特殊ではあるから。

八谷：スマホ版とかも（：ペットワークスで）作ったりしていたんですけど、これもあまり（：公開していない）。ある程度動くものは研究としては結構自分たちでやったりはするんですけど、これもやっぱりサーバーをどうするかとかもあるので、リリースせずに寝かせてあるものですね。でも、3Dで普通に動くというテストはしていたり。

――（：試作のデモで、モモが飛び跳ねるのを見て）あんまりな、また。

八谷：これはちょっとやり取りができるかどうか、チェックだけなので（笑）。

――ペットワークスでいいんですよね。

八谷：はい。

――ペットワークスさん的には、今、どういうあれなんですか？

八谷：ん？どういうあれなんですかって。

――商売の構成、構造というか。

八谷：ペットワークスは今はお人形の会社になっているんです。

――お人形の会社。

八谷：ドールのところになって、あまりソフトウェアをちょっと。

――もはや。

八谷：やってないのが正直言うとあるんですけど。人形（：の動画）もあるから見せましょうか。でも「PostPet」をまったくやらないというわけではなくて、「PostPetVR」とか、VRゴーグルでやるものもちゃんとあります。ただ、これを世の中にいっぱい普及させようとはあまり思ってなくて、という感じです。

＜動画を流しながら＞

八谷：これ、VRで部屋に入れるものとか、こういうのを作っています。

――いいじゃないですか。

八谷：いますね。これは実際やるとすごく楽しいんですけど。冷蔵庫も開くとか。これはクラファンでお金を集めて作ったので、クラウドファンディングの支援者の方たちの名前が壁に、ドアを出ると貼ってあったりします。
イベントではこういうのを見せたりもしているんですけど、これをたくさん売ろうとはあまり考えてなくて、ちゃんとソフトウェアとしてやるんだったらスマホだろうなとは思っています。ただビジネススキームもちゃんと全部作ってからやらないとというのがあって。さっきのツイッター（：ツイッター版ポストペット）と一緒で、試作で作るところまでは難しくないんですけど、リリースしたあと1カ月とかでサービス終了とか、そういうのは避けたいですから。だからその辺をどうしようかというのも含めて。
これ（：PostPetVR）はお風呂に一緒に入れたりもできるんです。お庭に（：温泉があって）。

――なかなかね、良くないですか？

八谷：やると、かなり楽しいんです。

――今、PCゲーム、結構、女性が買っているそうで。

八谷：はい、はい。

――また変わってきそうな気はします。

八谷：そうですね。研究開発的にいろいろやったりはしております。

――とはいえ、「PostPet」的にはここまでという感じですかね。

八谷：そうですね。お金の段取りがついたらいつかやるかもしれません。

――ぜひ！ ぜひ！

八谷：お人形はこんな感じで、ずっとつくっていて。

――へぇ～！

八谷：これは主にさっきのデザイナーの真鍋さんがやっているやつですね。
やっぱりペットワークスって、今、人数7人ぐらいで、年商1億5000万から2億ぐらいの会社なので。ソフトウェアは当たり外れが実はムチャクチャありますし。昔に比べると、ビジネスにするのは、ちゃんと考えておかないと危険です。特に受託じゃなくて、自社開発の場合は簡単にもう開発費が、へたすると億とかに行っちゃうし。かといって、売上を上げるためには工夫をかなりしないと難しいので、そこをちゃんとできる自信がついてからという感じです。
でも、開発、研究的なところ、さっきの「PostPetVR」とかも、スマホである程度動かしたりはしています。現在のスマホだったら、全然ここまでできるというのはわかっていますが、「PostPet」としてやるんだったら、So-netと一緒にかなり協議して、やる必要もあると思います。
でも、これ（：人形）もおかげさまで結構世界中にいろんなお客さんがいて。この辺は真鍋さんが、デザイナーの真鍋さんが基本的に全部、自分の「こういうのをつくりたい！」っていうのでやって。もうこれも20周年ぐらいになっているはずですね。

――学生たちへの……。

――刺激にメチャメチャ。

――メッセージ。メッセージを。

八谷：学生たちへのメッセージ。はい。
やっぱり大事なのは、どっかで自分一人でつくるんじゃない世界に、みんな、行くと思うんですよね。それ、社会人になってからもそうかもしれないし、自分の企画とか、自分たちでなんか計画してつくるというときもあると思うんですけど、やっぱりそれはそのときにほんとにやりたい人たちと一緒にやるのが大事で、かつ、すごいエンジニアを捕まえとくとって変ですけど、すごいエンジニアと組めると、ほんとにすごいことができたりするので。

――どうやったら組めるんですか？

八谷：探すというのと（笑）、あとはなるべく自分もいい人でいるというのが大事かなという気がしますけど。はい。

――「いい人でいる」だって（笑）。

八谷：いい人でいることは、いや、大事ですよ。なんかすぐ、みんな、尖ったこととかを求めがちなんだけど、凡庸ですけど、いい人でいるというのは割と大事かなという気がしますけどね。

――なるほど。

八谷：あとはやっぱり思ったのは、会社員だった時代もあるんですけど、「PostPet」をつくったりとか、あと、OpenSkyをやるようになって、やっぱりすごくいいのは、「やる気のない人がいない職場、大事だな」みたいなのがあって。
やっぱり「本当にこれを、みんなやりたい」かどうかで言うと、割と社会の多くの仕事って、ほんとにやりたい人は10人のうち3人ぐらいしかいないってパターンが起きがちなんですけど、ベンチャーだったりとか、あるいは新規事業に燃えている場合、10人のうち8人ぐらいが、もう真剣に「なんとかこれやりたい」と思っているとか、「これで世界を変える」とかって思ったりとかすると、やっぱり成功率が上がるので。もちろん大きい会社に行って、なんかそういう堅実な仕事をするのもいいんですけど、人生のうち、1回か、2回ぐらい、そういう少人数で、やりたい人たちだけで、「これをちゃんとビジネスとして成立させよう」みたいな形の仕事にかかわると楽しくていいですよ。

――なるほど。

八谷：これに、「PostPet」に関しては、So-netの方たちもそうでしたし、すごく楽しくて、いい職場、仕事環境で良かった。いい30代を過ごしたと思っていますけどね。
こっち（：OpenSky）も、いい環境ですけど、やっぱりこっちは逆にものすごい時間が掛かっているので、お金がなくなったりすると休むみたいな形でやっているので。まあ、でも、こっちは商売じゃなく長く続けるのが大事かなと思っているから、それはそれでいいんですけど。

――わかりました。なんか言い漏らしていることないですか？ 大丈夫ですか？

八谷：大丈夫だと思います。

――だいぶじっくりお聞きしたとは思いますけど。

八谷：そうですね。「PostPet」の最終的な本数とかは、So-netに聞いて。

――なるほど。

八谷：でも、売上はさっきぐらいで、たぶん実際の総ユーザー数はその倍ぐらいあったと思いますけど。

――さっきのバンドルとか何とかでね。

八谷：はい。300万ぐらいは普通に使って。

――すごいですね。

八谷：そういう割とたくさんの人が知っているのができて良かったなとはすごく思っていますね。はい。それがないとこれ（：OpenSky）もできなかったしという。

――わかりました。ありがとうございます。

八谷：はい、ありがとうございました。

――ありがとうございました。

八谷和彦

イントロダクション